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へんな子たち  作者: 楠羽毛
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穴(5月27日 真鍋孝則) ②

 たいした理由があったわけではない。

 ただ、

 ちょっとした一言と、それから、……たまたま、そこにスコップがあって。


 ……土が、とても、柔らかかったから。



 雨が降ってきた。

 ボツボツと、肩に水滴があたる。靴底と、制服の尻が、じんわり濡れていく。カッターシャツはもうべとべとに湿って、肌着といっしょに背中に貼りついている。

 頭はまだぼんやりとして、何も考えられなかった。


 ──眠いような、だるいような。


 落ちつく。……せみになったようだ。


 かすかな……、足音。

 身じろぎする。まったく、……放っておいてくれないものか。

「……ね、雨、降ってきたよ!」

 声。見上げることはせず、下をむいたまま。

 誰だかは、判っている。……名前は、思い出せないが。

「めっちゃ降るらしいよ、今日。風もすごいし」

 傘が、さしかけられる。赤地に、黒のチェックが入った、ちいさな傘。

「……べつに、」

「水、たまるよ。とりあえず、穴から出たら?」

「……べつ、に。」

 ため息が降ってくる。

「その、……ため息。」

「なに?」

「いや、……べつに。」

「ふーん」


 言いたくなかった。

 ため息が、……自分の母親に似ていて嫌だった、だなんて。


「……傘、いる?」

「いらない。」

「雨、ひどくなってきたよ」

「うん。」

「……そういうの、あぶないよ」

「え?」

「あぶない。……ね」


 ふと、孝則たかのりは顔をあげて、少女と目をあわせた。

 それから、少し吐き気をおぼえて、また目を伏せる。

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