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へんな子たち  作者: 楠羽毛
12/103

穴(5月27日 真鍋孝則) ①

挿絵(By みてみん)

「ねえ、」

 やせた、小柄なクラスメイトが、穴の中を覗き込んでくる。

 釣り目ぎみの細い目、くせっ毛をむりやり押さえるように赤いヘアクリップで留めて、きれいな爪をした手を穴のふちにかけて、心配そうに、見下ろして。

「……何してんの?」

 と、ちょっと跳ねたような、それでもしずかな声で。

「べつ、に。」

 ただ、そう答える。説明するのも面倒だった。

「なあにが、べつに。」

 少女は、目をまん丸くして、ぎゅっとこちらを睨む。誰だっただろうか。たしかに、見覚えがあるのだが。

 頭がボンヤリしている。

「いいけど。……あぶないよ。」

「……いいだろ、べつに。」

 ぶっきらぼうに、言い返す。

 孝則たかのりは、穴の中に、膝をかかえて座っている。

 北校舎の裏の奥、ちょっとした林のようになった小山。穴のそばには大きなくすのき。根本に小さな看板、かすかに黒い文字が残るが、ほとんど読めない。

 その脇に、積み上げられた土の山。

 孝則たかのりが、自分で掘った穴だ。誰かが置きっぱなしにしたものか、柄がぼろぼろになった農業用のスコップで、40分かけて。

 どうしてかは、自分でもよくわからない。

「雨、降るよ?」

 空は曇っている。いまにも、大粒の雨が落ちてきそうだ。

「いいよ……べつに!」

 叫び返しながら、女の子の名前を思い出そうとする。たしか、同じクラスなのだが、どうしても名前がわからない。

 とにかく、少女は制服のスカートの裾を右手でおさえ、左手で穴のはしに手をかけて、ぎゅっと眉をひそめている。

 土のかけらが、ぼろぼろと落ちて来る。孝則たかのりはかるく首を振って、額の砂くずを払いおとした。穴は、体育座りをしてもぎりぎりの大きさしかない。壁がくずれたら、すぐ埋まってしまいそうだ。

「登れないんなら、手、貸すよお」

 かがんで、右手をさしのべてくる。もっとも、そんなに深い穴ではない。孝則たかのりが立ち上がって手をかければ、なんなく登れるだろう。

「いいって言ってるだろ」

 少女はちょっと首をかしげて、……それから、立ちあがった。

「……じゃ、あたし帰るけど」

「うん、」

 そうして、孝則たかのりは、……また、一人になった。

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