私の娘(3月19日 ) ④
「ほかへ行く、って?」
愛梨がききかえすと、少女は、くるくると指をまわして、首をふった。
「いやあ、……なんて言ったらいいかな。その、」
「引っ越すんだよね?」
「まあ、そう」
「ふうん……、どこに?」
「知らない! きめてない」
まるで面白い冗談みたいに、くつくつとまた笑って。
「そんなことあるの?」
「いいの、わたしは。」
すたすたと、歩みをとめずに。
愛梨は、ついに我慢できなくなって、少女の前にたちふさがるようにぐいと足をだして、進路をふさいだ。
「……あなた、どこから来たの?」
「覚えてない」
「冗談じゃなくて」
「ほんとうに!」
赤い髪留めをした少女は、きょとんと首をかしげて、
真剣な目をして、またわらった。
「わたし、覚えてないの。なんにも」
*
また、べつの日。
わたしは、スマートフォンに保存された写真を整理していた。
……どうしてか、子供の写真が多い。
赤ちゃんの写真も、ある。親戚の子だろうか。よく思い出せない。
……以前は、もっと沢山あったような、気もする。ごみ箱フォルダをあさってみる。ない。当たり前だ。保存期間は一ヶ月。
何年も前に消した画像なんか、残っているわけがない。
……いや、何年も前にもなにも、撮った覚えも、消した覚えもないのだが。
わたしは、なにを探しているんだろう?




