プロローグ
「何があっても、貴女だけは…」
そよりそより。
心地よい風が頬を撫でる。
ぼんやりと明るい太陽の光が感じられる。
パチリ。瞼が上がると、ボヤッと前が見える。
いや、この場合は天井だろうか。
「くぁ…ふぅ。」
欠伸を噛み殺すと涙で目が潤う。
しばらくポーッとしていると目のピントが合ってくる。
何か懐かしい夢を見た気がする。
そのおかげだろうか。
(とても気分が良い…)
「おはよう!ノア。」
横から聞こえてきた自分の名前と朝の挨拶。声の主を探すとすぐ見つかった。
「おはよう。ミーシャ。」
ミーシャ。僕と同期である天使だ。
彼女はとても良い親友だ。
彼女に挨拶した後、周りを見渡す。
大きな部屋にベッドが左右にずらり。窓からはベールの様な光が降り注ぐ。
「ノア、はやく行かないと、食堂、混んじゃうかも。」
「そうだね。はやく行こう。」
素早くベッドメイキングし、“みだしなみルーム”へ行く。
今いる“おやすみルーム”を出て廊下を早歩きで歩く。
「おやまぁ。ノアとミーシャじゃ無いかい。おはよう。」
「「おはよう、清掃員さん」」
清掃員さんと言う愛称で呼ばれる彼女達は育成施設公共課に勤めて居る方だ。
詳しく説明すると時間が掛るからまた今度…って僕は何を誰にいっているんだ…?まぁ良いか。
しばらく歩くと沢山の天使が出入りしている部屋に辿り着く。
此処もまた、沢山の少し大きめの個室がずらり。
「じゃあまた後で、ノア。」
「うん。」
ミーシャと別れて“ノア”とデカデカと書かれた個室に入る。
真ん前には鏡、左に棚、右にクローゼット。
そして鏡の下に洗面台。洗面台の右側には…画面。
洗面台で顔を綺麗に洗い、保湿する。
毛皮なのかと疑うくらいのふかふかタオルに顔を埋める。
そして洗面台横の画面をタップし、ブィン…と機械的な音が鳴った後、網膜投影でメニューが開く。
まるでRPGゲームの様な画面だ。真ん中には自分がデフォルメされている。
そして背景は今自分の居る個室。
右側の茶色…もとい、クローゼットらしき絵をタップすると、僕の所有して居る服や、制服がずらりと名称とその写真が表になって出てくる。
そこから“制服”をタップし、クローゼットを見ると見事に写真通りの制服が掛けてあった。
そんな要領で“仕事着”に着替え、個室を出た。
「えへへ、丁度ピッタリね!」
出てきたタイミングが全く一緒。
「そうだね。」
こくり、と頷き一緒に仕事場へ向かう。
僕たちがいる場所を“園”と言う名称で呼ばれている。
そして生活している施設を“教会”と呼んでいる。見目は全く教会らしく無いのだけれど。
そこでは、朝食や夕食を食べたり、昼食を作って行ったり。
昼寝や就寝、休日などを過ごす事が出来る、言わば寮の様な場所だ。
そして、教会から空中にあるガラス張りの渡り廊下で繋がれた施設ーいや、“職場”である建物へ移動する。
目線を上に動かすと、デカデカと“世界管理組織AVA本拠点”と記されてあった。