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丁度気持ちいい時に充電が0になるようなイラつき、の大体60倍ぐらいのイラつきの感覚

「で、出たな妖怪ちゅーデブ女!!」



 翌日、厳かなやらかしの覚えを頼りに異形化している恐れがあったケイ・リルガンズに会いに来たわけだが、人間の形を留めた彼に開口一番言われたのは許容しがたい蔑称だった。


 妖怪ちゅーデブ女。初めてのキスをディープキスにて奪ったデブの女、とんでもない批判蔑称である。怒りに我を忘れた事にし、チョークスリーパーを決め込むと開始早々ケイはタップをし敗北宣言をする。



 しかしおかしい。

 確かに復活した私のあの日の記憶の中で、私はケイとキスをしながら1度小指ほどの刹那、中指ほどの中指と薬指程ある薬指を陰部に突っ込んだ後にケイの口の中にも突っ込んだ気がするのだが、記憶違いだったのだろうか?


 エリザベータは、サキュバスの愛液を魔力が少ない人間が摂取したら人の形を保てないと言われた。

 どう考えたってあの行為を通して、その人間にとっての毒液を指に付着させない事なんて出来ない筈だ。


 じゃあなんでケイは無事なんだろう? 唾液で濃度が薄まった? 耐性があった? 実は私と同じような境遇の転生者で、魔力がめちゃくちゃ多いとか?



「考えても何も分からんし、なんでもいいか〜」

「なんでもいいか〜じゃなくて! は、な、せ〜!! じぬ〜〜!!!」



 いけね。考えてる最中延々と首を絞められていたケイが顔の色を赤から青くし痙攣しているのを見て開放してやると、彼は地面に手を着いてゼーゼーと肩で息をした。



「殺す気か!?」

「そんなまさか。この手で直接殺すわけないじゃないですか〜」

「ちょ、直接じゃなかったら殺すのかぁ!? この人殺しぃ!!」

「殺さね〜わ。まあいいや、おじゃましま〜す」

「なっ、なんでだよ!? 帰れよ!」

「それこそなんでだよ。私客だぞ」

「あっ、客として来たのか……」

「そりゃそうだ、それ以外に理由あるかいや。はい、おじゃましま〜す」



 店の敷居を跨ぐ。まだ開店直後の様子なのに客はそこそこ居て、私とケイの会話を聞いてたであろうご婦人方が「あら」と微笑んでいた。金に悩んだら金策としてこの店の看板娘でもしよーかな。



「おっ、早速来たのか嬢ちゃん」

「こんにちは〜おじさん。レクトーラは勉強熱心で今日は引きこもってていないんですけど、またそのうち連れてきます」

「ははっ、まあ気が向いたら来てくれって伝えといてな。ほら、土産にこれサービスしとくぜ」

「やったー!」

「はははっ、可愛いなぁお前さんは」



 店の店主であるハグおじさんが袋にパンを詰めたものをタダでくれた。いい人だなあと喜んでいたら髪をぐしゃぐしゃと撫でられる、髪セットするような年齢じゃなくて良かった〜。



「じゃあこれとこれと、これもください!」



 私は受け取った袋とは別にピザトーストとスパイシーパン(カレーパン的なやつ?)って名前のやつ、粉糖が鬼のようにかかったパンを盆に乗せておじさんに差し出した。

 こちらは完全プライベートな買い物なので、何故かそれすらサービス割引してくれそうな流れで話すおじさんに断りを入れ、ちゃんと元の値段を払う。


 ここまで気軽に割引や無料で商品を渡せるなんて、街の中では相当な儲けが出てるのだろうか? そうだとしてもパンを焼き上げるのに手間も時間もかかるんだし、安売りはしない方がいいと思うんだが。



「あ、あとケイって何時くらいに休憩入ります? 休憩中ちょっと借りたいんですけど」

「えっ」

「ん? ケイに用があったのか、それなら今からでも貸すぞ」

「まじすか! ありがとございます!」



 おじさんに頭を下げるとケイの手を掴む。



「何をするか分からんが、2階なら人が居ないから使ってもいいぞ」

「じゃあ2階借ります!」

「えっ、え? 親父、ちょっ」





 2階に上がり、ケイの私室と思しき部屋に入ると私は強引に彼をベッドの上に放る。



「な、何すんだよ!?」

「まあまあ」



 隣に座ったら思いっきり距離を取られた。顔も見ずに逸らされる。悲しい。



「あの後、何かなかった?」

「何の話だよ?」

「いや〜……ほら、その、さ。私ら、キスしたじゃん?」

「っ!? し、知らない! 忘れた!」

「痴呆かな」



 1日前の出来事を忘れるとか健忘症を疑った方がいい。それが9歳の子供ともなればもう重い病気を疑った方がいいレベルだろ。


 ケイの部屋は多分この世界の年相応の男の子の子供部屋だ。

 本棚には漫画本がいくつもあったしどこぞの木彫りの人形が床にゴロゴロと落ちている。ヒーロー物っぽい奴から怪獣っぽいものまであって、その近くには使う機会もなさそうな小綺麗な木剣の装飾された玩具もあった。


 ヴァルリの部屋も殺風景にするんじゃなくこうあるべきなんだよな。レクトーラはぬいぐるみに塗れたメンヘラみたいな部屋してるけど、年相応かと言われると度合いがやりすぎなレベルだし。


 この丁度いい散らかりと整理のバランスと玩具のジャンルの不均一さ、これこそ子供部屋だよな〜。子供には子供の基準の綺麗があって、それが見て取れて良い部屋だ。



「僕の部屋なんか見て楽しいのか?」

「楽しいよ。これがケイの部屋か〜って」

「なんだよそれ……何しに来たんだよお前」

「お話しにきたんだよ。昨日はあんなことしちゃったしさ」

「〜〜!!」



 ケイがいきなり私に向かって枕を投げてきた。照れ隠しにしても痛いからやめて欲しい、普通にむかつくから。



「ねぇ。ケイさ、昨日私とキスした後体が変になったりしなかった?」

「はあ!? 変になったに決まってるだろ! お前のせいでちんこが変になったんだ、治るまでずっと痛かったんだぞ!!」

「わあ。お下劣」

「意味が分からないし、親父も笑うだけで治し方教えてくれなかったし、何したんだよお前!」

「それに関しては私のせいじゃねーよ。……いや、私のせいか?」



 エリザベータが言ってたな、私が盛ってる時って私の顔面と体臭が猛毒になるんだっけか? それに充てられたら頭狂ってバチ勃起するみたいな話よな。子供なのにそんなのに充てられちゃうなんてご愁傷さまですね。



「そーゆーのじゃなくて。体がムズムズするとかそういうさ」

「ムズムズ? だからそれは」「そこ以外の話な」

「ここ以外? うーん……何も無いぞ?」

「ほんと?」

「ほんと」

「ふむ」



 ふむふむ、ふーむ。やはりあれは記憶違いか、なら別にいいんだけども。



「なら今は良いけど、今後なんか体がおかしいなって事が起きたら教えてくれよ」

「はあ? 何でそんな事お前に教えないといけないんだよ」

「いいから教えろ。極刑は嫌なの、私はばばあになるまで生きてえんだ」



 私きっかけでこいつが肉風船になって破裂したりして死んだら執行猶予なく屠殺だろ? 冗談じゃねえや、この世界の処刑ってば首切りが主流だぜ? しかもアホみたいに切れ味終わってる斧を何度も何度も振り下ろしてパワーで切るんだ、地獄落ちる前から地獄の体験入学ですよ。たまらんわ。



「お前さ、もしかして僕のこと好きなのか?」

「なわけねぇだろ自惚れんな」

「なんでだよ! 昨日とか今日のお前見てたら絶対そうだろ!」

「疑えよ、自分の直感を。本人が否定してんだから」

「……何言ってるのか全然分からないけど、僕の事好きだからあんなちゅーしてきたりその後も付きまとったりするんだ! そうなんだろ!」

「まず最初に、私の事名前じゃなくお前って呼ぶような奴を私は好きにならない(そもそも中身の大元が男なんだから男を好きになるわけが無いが。)で、もう9歳にもなってキスをちゅーって言うのも正直キツいから無い。顔も平凡なモブ顔、今の所お前の良いところなんて美味しいパン屋さんの息子って事ぐらい。どこを好きになれって言うんだよ」



 コテンパンに言ってやったらケイは黙りこくってしまった。言いすぎたかもしれないが、いきなりこんなこと言われるのとも思ってなかったし中途半端にはぐらかしたら誤解は解けなさそうだしこれは必要なオーバーキルだ。私は悪くない。



「うっ……なんだよぉ、お前ぇ」

「? どうした、酔ってんの?」

「うぅぅぅ!」



 いきなりケイの声がしゃくり上がったから酔っぱらいのしゃっくりかと思って背中をさすったら大声を上げて泣き出した。どうやらちゃんと心をへし折りすぎてしまったらしい、男の子が女の子を前に毛布に顔を埋めて大号泣している。


 居たよな〜。小学生の頃、教室で机に突っ伏して泣いてた奴。ああいう奴も、今の私みたいに背中さすったりしたら号泣カマしてたんだろうか、優しくされた方が堪えるって言うもんな。


 しばらく部屋にケイの泣き声が響く。話しかけると「お前もう帰れよ! どっかに行け!」と言われてちょっと哀れな気持ちになるので、無言なまま座って泣き止むのを待った。



「……」

「……っ、うぅ」

「……」

「ひっく……く……バカにしやがって……」

「してないしてない」

「黙れよぉ……」

「えぇ……」

「……っ」

「……」



 そんな泣く程の事だろうか、勝手に勘違いして訂正されただけだろ。子供ってよく分からないところにプライド持ってるから分からねーわ、いい加減泣きやめよ。



「……なら、なんで僕に付きまとうんだよ」

「うん? なに?」

「なんで僕に付きまとうんだよ、僕の事嫌いなんだろ!」

「一言も言ってない新設定持ち出されたな……」



 好きとも嫌いとも言ってないだろ。私がケイに向けてる感情で1番適切なのは無関心じゃ。



「たった一日で付きまとうって言わねえだろ。一々自意識過剰なんだよお前」

「じ、じいし? なんだよそれ」

「自意識過剰、な。思い込み激しすぎ、お前身の回りで起きる事象全部が自分に紐付けられてるって思うクチだろ」

「? わ、わからない、どういう意味だよ」

「ナルシストってこと! お前の事なんかお前が思ってるより周りはどうでもいいの! 少なくとも私はそう! お前なんかどーーーでもいいの!!」

「うっ、うわああぁぁんっ!!」

「すぐ泣くし! あーくそっ、だからいじめっ子は嫌いなんだよ! 群れてなきゃちょっとした事でビビりやがって!! 男ならちょっとした事で泣くんじゃねええぇ!!」



 いつの間にか私に背を向けて泣いているケイの服の後ろ襟を掴み上げていた。

 レクトーラをいじめていた時と今、その2つの光景が無性に私の癇に障る。何にここまで苛立っているのかは分からないが、相手が子供じゃなかったらボコボコにしてやりたかった。



「おら、こっち向けや雑魚!」

「や、やめてよぉ……っ!」



 おいおい、セリフだけ聞いたらこいつ女々しすぎだろ。まるで襲われてる女の子じゃん、情けなさすぎる。呆れてため息が溢れた。


 泣いているケイを無理やり引っ張って私の方を向かせる。とりあえず泣き止ませて、改めてちゃんと何かあった時に私に報告するよう義務付けさせる為だ。

 脅しでも力ずくでも、とにかく私のせいで体に変調を来たした時水面下で処理出来るようにしておかなくては。



 ドキッ。



 土器? 違う。怒気? これも違う。どちらかと言うと真逆の、有り得ない意味合いを持つ胸の高鳴りが1度私の内面に波紋を立てた。



「うっ……ぐすん」

「っ、はぁ……はぁっ……!?」



 何だ……? 私は変態か? なんで今、泣いて顔面ぐしゃぐしゃにしてる子供の男に"可愛い"って思った? キモすぎるだろ。


 やばい、なんで? ありえない、絶対ない。ないない、相手にしても、シチュエーションにしても、文脈にしても、そういうフラグすら立ってなかったはずだ。なんで、なんで今また"再発"した!?


 サキュバスってやつはここまで見境ないのか!? にしてもいきなりすぎる、今までこんなこと無かった! 1度発情した相手には弱くなるのか!? 聞いてないぞこんなの!!



「ひっく……なん、だよ。デブ女、どうした……?」

「っ、はぁ……んっ、話し、かけんなっ」



 しまった! 自分でこっちを向かせておいてなんだが、顔を隠さなきゃ!


 私はケイがしたように毛布に顔を埋めて顔を見えないように隠す。


 ……ーー〜〜〜っ!?


 だめっ、だ!? 匂いが、ケイの匂いがする! くそっ、キモい! キモいきもいやばいってまじで!!




 *****



 えーと?


 オッレリアが急に変になった。

 僕を無理やりひっくり返したと思ったら、いきなり顔を赤くしてベッドの毛布に顔を埋めて。そしたらいきなり変な高い声を上げながらモジモジ体を動かし始めた。


 どうなってるんだろう……? さっきまで勘違いした恥ずかしさとオッレリアの悪口のせいで泣いてしまっていたが、その悔しさもすっかり引いてしまって心配が勝ってしまう。



「お、い? デブ女?」

「〜〜っ! そ、そのっ……呼び方、やめてっ……!」

「わ、分かった。ごめん。大丈夫?」

「あんっ!?」



 肩を叩いたらそれだけでオッレリアは大きな高い声を出して体を仰け反らせた。もしかして、本当に何かやばい病気に掛かってるとか? オヤジを呼んだ方が良さそうだな……。



「ちょっと待ってろ、今親父呼んでくる」

「!? だめっ!!」



 ベッドから降りようとしたらオッレリアが僕に飛びついてきた。

 仰向けに倒れる僕の上にまた昨日のように乗っかる。そして、オッレリアの顔はやっぱり赤くなってて、目は潤んでいて、まるで昨日のように可愛くて危ない顔をしていた。



「あっ! やばっ」

「ぐふっ!?」



 僕と目が合ったオッレリアはなにかに驚いた様子で突然僕の胸に顔を勢いよくぶつけてきた。

 心臓の上に石が落ちてきたような衝撃に噎せるが、オッレリアもなんか僕に力強くしがみつきながらまた甲高い音を鳴らしてクネクネしている。


 猫みたいだ。いつもは冷たいのに、時々何をしてても体を擦り付けてくる猫みたいだった。



「で、デブ? おい」

「んっ、あぁっ……! ケイ、のっ……匂いがっ……ゃだ……匂いがぁっ!」

「じゃあ離してよ……」



 嫌だ、嫌だって何度も小声で呟いてるくせにどんどん力強くなっていく。引き剥がそうとしても無理なくらい強く密着してきて、胸から下がオッレリアの体温でどんどん熱くなっていく。


 ……ん? そうだ、なんか熱いと思ったら、オッレリアのやつ今とんでもない高熱を出してるぞ!?



「お、おい! お前、すごく熱いぞ! 大丈夫か!?」

「んへぇへへっ」

「うっ!? なんっ」



 肩を押してオッレリアを退かそうとしたらベロォンって腕を舐められた。

 汚っ!? っと思って反射的に手を引いたら、その引いた手にオッレリアの手が重なっていつの間にか彼女は顔を上げて僕を見下していた。



「お、おい?」

「おっけぇ、冷静だ。私は冷静だ、良かった〜。危うくビッチだった」



 笑顔のオッレリアが言う。でも、様子は明らかにおかしかった。

 顔はほんのりピンク色になってて、僕の事をまるで美味しそうな食べ物を見てるかのような目でジットリと見ていて。口は半開きで、ヨダレすら垂れているけど本人は気にする素振りもなかった。

 笑い方も、なんかこう。にへらというか、ヘラヘラというか。正気な人間がしないような形だけ取り繕ったようなぎこちない笑顔で、気を抜けば崩れてしまいそうだった。


 ……それから、すごく強くグリグリとオッレリアの腰が、股が僕の腹に押し付けられてうねるように動いていた。

 時々ピクピクっと体全体が揺れる瞬間があって、これで冷静と言うのは無理があるだろって状態でオッレリアは僕に話しかけてくる。



「私さぁ、思うんだけどさァ。何事も勢いだよなァ」

「へっ? な、なに?」

「なんだろ。あれじゃね? ほら、私のせいで死んじゃってもさ、私って可愛いじゃん? だからさ、男の気持ちわかるんだよ私? 嬉しくね? 私と出来るって考えたらさ、だから幸せじゃんって」

「待て、落ち着いて! あの、何言ってるんだお前?」

「えぇ〜? ぇへへっ、分かんない? 頭わるぅ」



 オッレリアは頭に人差し指を置いて、頭をグルングルン回してジェスチャーを取った。意味が分からない、オッレリアの言ってる事は全部がヘンテコだ。


 これは、伝え方が変とかそういうのじゃなくて。もう僕に向けて言葉を発してないんだと思った。だってそうだ、僕が聞いてるか、反応してるかに関係なくずっと何かを呟き続けているんだから。


 オッレリアは頭がおかしくなったんだ。熱のせいだろう。



 ヒタ、と冷たい感触が頬に乗った。オッレリアの半開きになった口から垂れた唾液が僕の頬に落ちてきたんだ。


 き、気持ち悪い。拭きたい、けど僕の右手はオッレリアに掴まれていてビクともしないし左手は足の下だ。



「ぇへへ〜へへぁ」

「えっ、やめろっ!? うわあぁあ!!?」



 頭を振りかぶったオッレリアが思い切り顔を落としてきてすぐ目の前で制止した。茎の折れた花の蕾が落ちてくるような挙動でオッレリアは僕と顔を近付けると、そのまま唾液が落ちた位置にあった僕の頬をまたべろぉんと舐めた。


 しかしそれは頬で止まらず、そのまま上に上がっていって僕は慌てて瞼を閉じる。その閉じた瞼の上を舌が移動し、デコの位置で止まった。



「んん〜ふふっ、おいひぃ」

「う、わぁっ、ああっ!? 退けぇ!!?」



 この時、僕の心が抱え切れる量の恐怖を大きく上回ったんだと思う。僕は目の前にいたオッレリアが人じゃなくて化け物に見えていた、僕を食べようとしていた化け物だ。

 昨日抱いた"毒"なんて表現なんて生易しい、もっとおぞましい異形の人型。それが今まさに僕をガリガリと、ムシャムシャと食べようとしているんだと理解した。



「嫌がるなよォ」

「嫌だっ、嫌だ嫌だ嫌だぁ!! 親父っ」

「だめぇ」「んむぅっ!?」



 オッレリアの舌が口の中に入ってきた。その瞬間、昨日とは比べ物にならないほどの、電気をそのまま流されているかのような衝撃が手足に流れでバチンッ! と弾かれるように痙攣した後一切動かなくなる。



「うっ!? ごほっ! ゴボッ、ぐぅッ!?」



 口の中に直接流し込まれたおびただしい量のオッレリアの唾液が喉から変な所に入って噎せる。ヒューヒューと、毒による麻痺で正常な動き方を忘れた喉の奥の器官が音を立てて、口から息を吸い辛くなったせいで鼻からの呼吸が激しくなる。


 すると今度はオッレリアのあの甘い匂いが鼻から入ってきて、鼻の中から頭にまでこびりついて離れなくなる。

 果実にも似てるけど違って、やっぱりそれは毒としか例えようのない甘すぎる匂い。嗅ぎすぎて頭が痛くなるのに、それ以上に全身が熱くなって、また股間が痛くなって、目眩と怠さに襲われる。



「あひひっ、ぎひひぇ」

「うわっ、ひやあ!? オッレリア! やめっ、痛いっ!?」



 オッレリアは僕の耳に指を入れてきてそれを抜き差ししながら僕の首元をぺろぺろと舐め、肩に歯を立てて噛み付いてきた。



「ぐすっ、やめっ」

「んぇ? なんれぇ?」

「こわい、から」

「しられぇよォ〜」



 オッレリアに服を捲り上げられて、上半身を裸にさせられた後に色んな所を彼女の指と舌になぞられる。



「っ……んぁっ、ひひっ……ぇあげる」

「ふっ、くぅ! はぁ、はぁ……こ、れ……!?」



 オッレリアが僕の顔の上に自分のパンツを乗せてきた。どこの部分か分からないけどじっとりヌルヌルしていて、僕の鼻の上からデコにかけて濡れてしまった。



「もぅ、いいや」

「っ!? オッレリア!? ちょっと!!」



 不意にオッレリアが僕の上で着ていた服を脱いで裸になった。そして、僕の方に尻を向けて僕のズボンに手をかける。


 やばい気がした。絶対それを許してならない、そう考える理性がまだあった。そして、さっきの痺れも少し緩くなってなんとか片手だけは動かすことが出来た。


 必死に手でズボンを下げるオッレリアに抵抗する。



「んぁー? ええっと、ええっと。あは、そーだ」



 僕の抵抗に首を傾げたオッレリアは僕の腹に尻を乗せ、そのまま僕の方に倒れ込む。そして何をするかと思えば、オッレリアは自分の髪を手で纏めるとそれを僕の顔に押し付けてきた。



「んあっ!? な、なにっ!?」



 元より強く感じていたオッレリアの甘い匂いが、もう脳みそがぐちゃぐちゃに混ぜ返されるかと思うくらいの強烈すぎる量叩き込まれる。

 目がチカチカする。匂いだけで視界が目が時々見えなくなるなんて異常だ。勝手に腰が動いて、背中がゾワゾワして、息が止まる。


 苦しい、痛い、苦しい、苦しい、誰か助けて、助けて……!



「ひひっ、失神したァ」

「あぅっ……ガッ……」

「最初からこれすりゃ良かったァ。きひひっ、ほら。もっと頑張れ」



 動けない僕の顔の上でオッレリアが、これは何をやっているんだろう。自分のに指を突っ込んで、ぐちゃぐちゃにそれをいじっていた。それで垂れた液が僕に掛かってる、汚されている?


 頭が動かない。普段なら嫌がるべきだし絶対気持ち悪がるのに、そんなの全く考えられない。


 オッレリアが気持ちよさそうな声を出して力が抜けたように僕の顔の上に1度乗ると、すぐに動き出して今度は僕のズボンを降ろすのを再会し始めた。



「これでぇ、私とシたらお前終わっちゃうんだってぇ。へへぇ、怖いねぇ。でもいいよ、子供産んでやるからァ。だからさ、許してなァ」



 恐ろしい事を言っているオッレリアにもう抵抗する力なんて何一つ残っていなかった。ただ涙が目から流れ落ちる。


 ズボンもパンツも下ろされて、僕の身体から女の子一人分の重みが一瞬消える。そして、何もかもが終わるその瞬間(とき)が僕に迫った時。



 バキャァアァンッ!!



 そんな轟音が響いて、窓が着いていた壁ごと吹き飛んで何かが部屋の外から僕の部屋へと侵入してきた。



「グギャギャァァァッ!!」

「あァ? なんだお前」



 オッレリアが裸のまま立ち上がり、それを睨む。僕もほぼ動かない身体を無理やり首だけ動かし、何が部屋に入ってきたのか確認するとそこには魔獣がいた。


 ……魔獣?


 そんなわけないとは思ったけど、人間よりも遥か大きくて、頭から背中、そして尻尾に至るまでの広い範囲に大量の目玉が付いていて、人の腕のような形状をしたくちばしを持った鳥が普通の生物なわけが無い。



 よく耳を研ぎ澄ませると、外では沢山の人々の騒ぐ声がした。そして他の猛獣の鳴き声も。外でも何かが起きているようだった。



「ギャギャギャァァッ!!」



 やばい、体が動けないこんな時に魔獣に襲われるなんて! こんな体じゃ逃げられない、オッレリアも僕を背負って逃げるのはさすがに無理だろうし動けばすぐに食べられちゃう!!



「ぁ……お、や……じ」



 必死に声を出そうとするも、声帯も麻痺していてマトモに助けを呼べなかった。


 こんな所で、意味の分からない死に方をするなんて嫌だ。なんで、こんな目に遭わなきゃ、なんで!


 悲しみに涙を流すことしか出来ない僕なんて魔獣には関係がない。ただの食べ物だ、その証拠に魔獣は動けるオッレリアよりただ何もせず仰向けのまま寝ている僕の方に近付いていた。



「邪魔してんじゃねぇよダボ鳥畜生がァ」

「ギギッ!?」



 しかし、魔獣が僕の元まで到達する事は無かった。

 魔獣の頭に、僕が7歳の頃に買ってもらった剣聖様の剣を模した木剣の玩具が刺さっていた。



「おい、タイミングってのがあんだろ」

「ギ、ギギギギィキキキッ……!?」



 横から頭を貫通されたまま、ゆっくりとオッレリアによって剣を滑らされ、魔獣の後頭部から背中にかけての眼球が密集している部位の肉が切り落とされた。



「人生は有限で人は簡単に死ぬんだ。快楽は道楽で邪魔されちゃならねえ。なァ? どうすんだよ、白けたらてめぇのせいだろうが」


 魔獣が泡を吹いて倒れる。ビクビクと、まだ死にきれておらず痙攣している魔獣にオッレリアは何度も何度も「責任取れ」と繰り返しながら剣を落とした。


 あれは、玩具だ。真剣じゃない、なのに力ずくでオッレリアは魔獣の肉体を切断してしまったらしい。



「ひへへっ、おまたせェ。じゃあ続きをっ」



 バカァァンッ! と、また先程の場所に巨大な生物の着地音が鳴った。



「あー?」

「グギャァァッ!!」

「あー。こいつ仲間かあ。ムカデだっけなァ、ゴキブリだっけなァ。死んだら仲間が集まってくるんだよなァ、血の匂いでさァ」

「ギャアアアカッ」



 今度はほぼ一瞬だった。木剣の玩具を魔獣の顎下から脳天を貫くように突き刺し、くちばしに膝蹴りを入れてへし折ってそれで横から頭を貫通させその2本をぐるりと回し切る事で魔獣の頭が短冊切りにされたのだ。


 力なく倒れる魔獣の死骸を放置し、またオッレリアがこちらに向く。魔獣の返り血で血塗れになったオッレリアの裸は、怖いけどやっぱり綺麗で興奮を掻き立てるものがあった。



「おまたせぇ、今度こそ」



 バカァァンッ!



「ギャギャギャァァッ!!」

「……あー。あーー、あーーー〜〜〜、あーーーーー〜〜〜〜〜っははっ、ぎゃははははははははははっ!!!」



 表情が抜け落ち、長い声出しをした後に魔獣のような笑い声を上げたオッレリアが玩具でまた魔獣を殺す。するとまた魔獣が来る。殺す。来る、殺す、来る、殺す。



「ぎゃははっ、そうか分かったァ!! じゃあてめぇらの死骸グチャ混ぜのミンチにして壁にしちまおう!! ぎゃっははは頭良すぎてびびる〜おら来いよォ!!! もっともっと来い全員来い!! ハンバーグにしてやってもいいぜェ!? てめぇらのグズ肉で太陽の塔建てて火ぃ付けてキャンプファイヤーにでもしてやるよォ!!!?」



 そう言いながら服を着て次々来る魔獣を玩具を殺していったオッレリアは、玩具が折れると今度は自前の? なんで携帯してるか分からなかった木剣を使ってバッタバッタと魔獣を斬り殺していった。


 何かしらの剣術の技を使っているのは分かるが、オッレリアは子供だ。剣が上手いだけじゃ説明がつかない怪力、体力、技術、それか執念で簡単そうに魔獣の死体野山を築き上げていく彼女は……やっぱり怖い。


 怖いけど、格好良かった。笑いながら戦える余裕、手段を選ばない、迷わない、躊躇のない彼女に、恐怖に優る感情を抱いた。


 それは、オッレリアに抱いたものの中で初めてのものだった。

 後にそれが憧れだと気付いた頃、僕はなんでこんな奴に憧れを抱いてこんな風になりたいと思ったのかと後悔する事になるのだが。

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