自律神経崩壊ロリ、起床
何も覚えていない。それでいいんだ。
「よし」
意識を取り戻した私は、まず最初に周りのギャラリーを無視し自分の顔面に拳をぶつけた。
私の目覚めを見守ってくれていたレクトーラとエリザベータが「えぇ……?」と困惑した顔でこちらを見ていたが、そんなのどうでもいい。今の拳の衝撃、これに私はつい数時間前の痴態を忘れられたのだからチャラなのだ。お釣りが出るのだ。たまらんね。
「お、起きたのか愚妹よ。聞いたぞ、男に無理やりキスを迫ったんだって? お前な、いい加減その」
「おらぁ!!」
「ぶへぁ!?」
忘れたのだ、ケイという少年にキスをカマした事は。ヴァルリの言っていることは記憶していないし、発言する前に腹を殴って黙らせたのでこれで私は白。潔白です。
「リアちゃん、まだ調子悪い? 大丈夫?」
「なにが? 別にいつも通りだけど? あはは、母上は心配性だなあ」
「あー、こりゃ完全に現実逃避してるね……」
「そうだねー。あんなに熱烈なのをしてたのに、そんな簡単に忘れられるわけないし」
「おらぁ!!」
「あぶなーい!」
私の唸る拳がレクトーラにブローをカマす。躱された、おのれ先読み能力か!
「な、なんなんだよ一体……レクトーラがお前が大変なことになってるって言ってたから、わざわざ買い物から走って帰ってきたんだぞ……」
「知らない! 覚えてない! 分からない!」
「知らないってお前、だからケイって子に」
「おらぁあああ!!」
「うわっ!? いい加減にしろバカ!」
「ううぅぅう忘れた忘れた忘れたああぁ!!!」
繰り出す拳、徒手空拳が尽く受け止められ、いなされ、躱される。やがて隙をつかれて頭にチョップされると、私は床にへたりこみ頭を抱えて蹲った。
「忘れろおおぉぉぉ!!」
「あーらら、精神崩壊しちゃった」
「レリア……お前から迫ったんだろ。なんでお前が絶望してるんだよ」
「迫ってねえから! どういうメンタリティ? お兄ちゃんは私の事ビッチとでも思ってんの!?」
「大分前からそう思ってるよ」
「違うから! 大体、元はと言えばあいつがっ」
「襲われたのか?」「無理やりされたの?」
「えっ、いや。そういう訳じゃないけど……」
なんか急にヴァルリとレクトーラの声が冷たくなるから何かと思って顔を上げたら、彼らは「なぁんだ」と笑っていた。目以外。目はパキッパキだった、怖い。
エリザベータの方は……別にいつもと変わりない笑顔で笑っている。おかしいな、どちらかと言うと母親の方がそういうの気にしてアレコレ言う印象あるんだが。
「あれ、てかあいつは?」
「もう夜だよ? 帰ったに決まってるじゃん」
「ああ、そっか。……ん? なんで私いつの間にか気絶してたんだろ」
「それは」「あはは。トーラちゃん、世の中には知らなくても良いことだってあるんだよ」
「らしいです。ぴやには分からないや」
「うーん。嘘八百の八百万の神」
エリザベータに肩をポンっとされ急激に話の内容が軌道修正されるレクトーラ。明らかにエリザベータが私になにかして気絶させたのは明白だった。まあいいや、それさえ知れれば。
「所でリアちゃん」
「なに?」
「さっきも聞いたけど、もう体調は大丈夫? 何ともない?」
「体調って、別になんともないと思うけど……」
「本当? 体が火照ってたり、息苦しさやボーッとする感じもない?」
「ないよ。意識はハッキリしてるし体も多分熱くはなってない。てか、何の話をしてるのさ母上は」
「疼きが残ってたらどんどん際限なくアレが復活してくる可能性があるからね。そしたらまた」
エリザベータは腕を捲りあげて、角のない平坦な力こぶをペチンと叩いた。片目ウィンクした状態で。私、知らぬ間に鉄拳制裁されてたのか?
「アレってなに? 疼きとか、話が全然見えないんだけど」
「なにって、そりゃ性欲に決まってるじゃない。ねえ、2人とも」
「性欲!? 2人ともって……」
エリザベータに話を振られたヴァルリとレクトーラは、急に顔を赤くすると私から揃って目を逸らした。
「あ、あ! お前らまさか、ヤッたのか!? ふざけんな!! レクトーラの処女はどうでもいいけど、お兄ちゃんとヤッたとしたら流石に私ブチ切れちゃうけど!?」
「は、はぁ!? なんでぴやがヴァルリとっ……!?」
「ヤるってなんだよ」
おろ?
レクトーラは顔は真っ赤にし、羞恥と怒りで私に詰め寄ってきた。
ヴァルリは私の言った"ヤる"が理解出来ておらず、不思議そうに首を傾げている。
2人の反応、対応には大きな齟齬があった。ということは白? 致していないということ? じゃあなにに赤くなってたんだ??
「なあレリア、ヤるってなんだよ。俺とレクトーラが何だってんだ?」
「えっとねー」「ばか! レリア馬鹿すぎるよ! やめてよ本当に!!」
「えー? 1人だけ無知蒙昧なのは可哀想だろ。なあ? お兄ちゃん」
「蒙昧とまで言うなよ。無知だけでいいだろうが」
「そこにぴやを絡めなかったらいいよ!! 例え話でもぴやを巻き込むな!」
「分かった分かった」
蒸気機関みたいな鼻息を鳴らし憤慨するレクトーラを宥め、肩をトントンと叩きエリザベータの方へ運ぶ。エリザベータは「ん? なぁに?」と私の意図を汲んでは居なかったが、レクトーラを押し付けると都合よく手を体にまわしホールドしてくれたので私はヴァルリの方へと向き直った。
「お兄ちゃん、レクトーラとエッチしたんじゃないの? 詳しく言うと、お兄ちゃんのちんちんとレクトーラの」「バカ!! バカレリアーー!! 死ねー!!!」
呆気なく手を離すエリザベータ。私は勢いの乗ったレクトーラの拳を受け、床にワンバウンドしそうな勢いで倒れた。乳歯で良かった〜奥歯。一生アイスが食えなくなる所だったぜ。
「してないわそんな事! 第1なんで俺がレクトーラと」
「ヴァルリは黙ってて!」
「なんで俺が怒鳴られてるの!?」
マウントポジションを取って拳をチラつかせるレクトーラは、そのままの状態でヴァルリにもガンを飛ばしていた。
エヴァンレイズ兄妹、レクトーラに敗れる。いやはや居候から上り詰めたものだ、お姉ちゃん鼻が高いよ。だから鼻は殴らないでね、折れるから。
「まあまあまあ3人とも。冗談は置いといて。リアちゃんもこの前初潮きたし、て事はそろそろかなと思ってたから丁度いい。リアちゃんとヴァルちゃんには説明するよ、ママ達のこと」
「説明?」
「俺たちに? 何の話ですか、母さん」
「んー、ちょっと待ってね。トーラちゃん」
エリザベータは私にマウントポジションを取るレクトーラに声を掛けた。彼女に声をかけられた時、少しだけ寂しそうな顔をしていたレクトーラがハッとしてエリザベータの方を向いた。私に乗ったまま。
「はい?」
「トーラちゃんも、話聞く? トーラちゃんにとって、直接は関係ない話だし退屈なものかもしれないけど」
「……ぴやには、関係の無い話」
「うん」
目に見えて、レクトーラの肩が下がる。ここからじゃ表情は見えなくてどんな顔してるか検討もつかないけど、私はレクトーラを押し退けて胡座になってエリザベータと正面から見つめあった。
「その話、私は聞かないでおくよ」
「あら? どうして、大切なお話なんだけどな……」
「レクトーラと関係ないなら大切な話じゃない」
レクトーラの事は一切、視界の隅にも入れていないから隣で息遣いがしてもどんな顔してるかは分からない。けど、この屋敷で一緒に住んでるのに仲間外れするだなんて胸糞悪い話嫌だから、私は実の親相手に全力で睨みを効かせて牽制した。
エリザベータの性格だ、どうせ笑ってはぐらかす。そんなの分かってる、その上で徹底抗戦の威嚇をしてやる。
「お、おいレリア」
「なにお兄ちゃん。母上の味方するなら死ぬまでビンタするよ」
「あれ? 俺には厳しいんだ、睨むだけにしろよそこは」
ふざけた事を。この家で1番レクトーラと関係値を良い意味にも悪い意味にも深められそうな要素を持つのは我が兄なんだ。レクトーラのナイトであるべきヴァルリが敵側に着くなら、それはもう死罪判決を下しても良いって事だろうが。
「ふふっ、確かに。トーラちゃんに関係ない話なんて大した話じゃないね。家族なんだから、格差を付けるべきじゃなかった。ごめんね、トーラちゃん」
そう言ってエリザベータはレクトーラの頭を撫でた。レクトーラは小恥ずかそうな反応をして小さく「いえ」と言うが、その手を振りほどこうとはしなかった。
「まあでも、体質的な話だからね。聞くにしても聞かないにしてもそこはトーラちゃんの自由。家族の理解を深めるために聞くっていうなら、ママ的には大歓迎だよ」
「あ、そういう話?」
「そういう話。ヴァルちゃんもリアちゃんも私の血が入ってるからさ。どうする?」
「……聞きたいです、ぴやも」
「んー〜!! 分かったわよ〜可愛いなあもう!!」
控えめにレクトーラが自分の意思を主張すると、彼女の明るい頭髪にエリザベータが顔を突っ込み思い切り深呼吸を始める。
混乱し嫌がるレクトーラを力強く抱きしめているエリザベータの赤い頭髪が、レクトーラの頭髪と絡み顔に垂れることで頭から出血してるみたいになっていた。南無。
「まず最初に告げる衝撃的な真実なんだけど、ママは吸精鬼です」
「知ってる」
「さっき聞いた」
「サキュバス???」
なんだそりゃ、ゲームとかに出てくる雑魚いエロ悪魔じゃん。なんで不意にそんな単語が出てくる? この世界にコンピューターゲームとかないはずだろ。
「はい、意味が分からないという顔をしているリアちゃんに説明します。吸精鬼っていうのはー」
「エロいやつだろ?」
「とんでもなくざっくりしてるけど印象としては間違っていないっ」
ハイテンションなエリザベータが私に親指を立てて言う。実の娘にエロいやつ扱いされて親指を立てる親がこの世のどこにいるんだ。
「でもそれじゃ的確な概要とは言えないかな。要は鬼、デーモンの一種だよ」
「いっちょうわからん……」
オーガ。鬼ってのは分かるが、エリザベータには角なんて無いし髪色も別に特に異形という程でもないし、容姿はほぼ人間だ。どこに鬼要素があるのだろう。
「デーモン、魔族の一種だよ。吸血鬼、吸精鬼、食屍鬼、有角鬼とかがそう呼ばれてる」
「わー、ヴァルちゃんその通り! よく知ってるね〜パチパチパチ〜」
「「ぱちぱち〜」」
「や、やめてくれ。てかレリアも習っただろ!」
「覚えてない……ってか、そんなの教わったっけ?」
「リーク先生は亜種生物学も教えてたろ」
「特に興味無かったから社会学しか習ってなかったや」
「お前、勉強出来るんだから手抜くなよ」
「勉強が得意じゃないから最低限の学を頭に詰めてんだろ。自分の物差しで語んなよ」
「なっ! お前のそういう素直じゃなくてすぐ言い返そうとする所、人に嫌われるからやめた方がいいぞ!」
「俺が嫌だからやめろ、って端的に言いな〜」
「なんだと!?」
「なんだよ〜!」「いてっ、離せ!」
「なんで今の流れで喧嘩になんの? あんたら」
ヴァルリが睨んでくるから髪を掴みあげたらレクトーラに手を叩かれた。痛い、私可哀想。私への暴力なんて低俗なことやめてほしいものだ。
「ていうかレリア、ぴやと初めて会った時にエリちゃんはサキュバスだって言ってたじゃん。知ってたんじゃないの? まるで今まで知らなかったみたいな顔してるけど」
レクトーラの一言に皆が目を丸くしこちらを見る。丁度飲み物を飲もうとしたタイミングなのに妨害されてしまった、コースターにカップを置く。
「あれは例え話で出しただけだよ。ほら、母上って妙にエロい格好しがちだし、目線とか表情とかエロいからさ。でも実の親にビッチって言うのも良くないし、だからサキュバスって」
「例え話で出した話で正解で引いちゃったわけか。ママの要素を沢山遺伝してるから、何となく通じるものはあったんだろうね〜」
どうだろう。前世の知識が無かった状態だったら絶対サキュバスなんて単語知らないだろうし、遺伝云々は関係ない気がするが。
「てかサキュバスって事はなに、母上は夜な夜な街に出て若い男の精子搾り取ったりしてんの?」
「ちょっ、レリア!」
「下品だよ……」
「あっははは! そんな事してないよ〜! ママは性欲より食欲睡眠欲の方が強いもん。最後にしたのだって相手はパパだし」
「……パパって、私から見たおじいちゃん?」
「リアちゃん?」
笑顔のままエリザベータの輪郭が極太くなった。劇画タッチと言えばいいのだろうか、周囲の空間に蜃気楼が生じて揺らめいてる。静かな怒りで空間が歪曲してるらしい。
死にたくないので土下座した。
「もうっ、リアちゃんサキュバスのイメージが悪すぎるよ。それじゃただの痴女じゃない」
「違うの?」
「そんな曇りなき眼で。…そろそろママも傷つくよリアちゃん……」
「えぇ!? だって、そんなのさっ! 私だけじゃなくヴァルリもレクトーラもそう思ってたっしょ。なあ?」
「いんや?」「思ってないよ」
「嘘つけ」
絶対みんなサキュバスはエロいもんだと思ってるし痴女だと思ってる。笑顔で放たれた覇王色を前にして私を盾にしやがって、卑怯な連中だ。
話が進まないから一旦置いとくが、後で改めて本音の言質を取ってやる。
「で、母上がサキュバスでそれから?」
「うん。吸精鬼はね、食料こそ普通に人間が食べるもので事足りるんだけど、それとは別で、他の生物が発した欲求を察知すると発情状態に陥って、本能として搾精行動をしてしまうの」
「痴女やんけ」
「理性で抑えることは出来るよ! 人間と同じだし、ただ人間より性欲が強くて長続きするってだけだから!」
「……痴女やんけ」
「ちーがーうー!」
何が違うんだろう。痴女って単語を詳しく分解して説明したら、今エリザベータが言ったサキュバスの特徴に寸分違わず合致すると思うけど。
「吸精鬼は魔族だから本能的に人や原生生物を食料として見てるの! 精液を摂取すればその分魔力や生命力を直接奪えるし、そしたら数日飲まず食わずでも生きていけるから本能的な物なんだよ。発情とは言ったけど、食事と変わらないの」
「痴女がする強姦やセックスも多分食事感覚だと思うよ」
「リアちゃん!!!!」
また笑顔で凄まれたのですぐに土下座した。私の口も融通が効かないからなあ、そろそろ床でおでこの型が取れるんじゃなかろうか。
「なるほど……レリアがよく露出度高い服を着ていたり、母さんが男と話す距離が近いのってそういう事だったのか……」
「ヴァルちゃん? さりげなく言葉でママを刺すのやめようね」
「でもその理論で言ったらヴァルリももっと変態だったりするべきだよね? なんで普通なんだろ」
レクトーラの発言にヴァルリが「おい」と突っ込むものの、確かに妙である。私とエリザベータは、まあ他の人の感覚で言えばサキュバスらしい要素は多分あるのだろう。
でもヴァルリは至って普通だ、発情とかしてる所なんて見た事ないしな。常に賢者とかもはや仙人だろ。
「んー、そこはパパの方に沢山似たって事だよ。人間と魔族は別種の生物だからね、その子供が魔族側の親に似て無事に出産できる事すら稀なんだよ。そういう事もあって、吸精鬼が人型魔族だからって人と子供作るのは法的にもスレスレだし」
そういうエリザベータは、恐らく意図的に私が本来死産であった事を隠した。ヴァルリとレクトーラはもちろん知らない事情だ、余計な心配や同情が私に向かないようにしてくれたんだ。
「て事で、リアちゃんと一応ヴァルちゃんにも。気をつけて欲しいことが幾つかあるんだ〜」
「気をつけて欲しい事?」
「そんな話を9歳になるまでなんでしなかったんだろ」
「性にまつわる話を小さい子に話せないでしょー!」
「年齢制限的な事ね」
だとしたら現時点でも十分アウトなわけだが。倫理委員会的には12歳か15歳までお預けするべき内容だろうなきっと。
「こほん。さっきも言ったけど、吸精鬼はあくまで魔族だから、人の血が入っていても分類上は魔族に該当するの。だから、むやみやたらに人を襲ったり犯罪を犯したら魔族として処理されるっていうのが一つ」
「魔族として処理? 極刑じゃん」
「そうなんだよ、人よりも罪が重いと判断されるからね。だから2人とも、くれぐれも犯罪には加担しないように!」
そんな重大なことは幼い頃からきちんと躾てほしいものだが。
「あと、リアちゃんならよく分かってると思うけど、吸精鬼は生殖器を道具として扱う生物だからさ。本能的に性的な感覚や倫理観が他の生物より緩いというか、動物的であり人間的であり軽いものとして判断しちゃうから。そこら辺を気をつけて欲しいのがひとつ」
「「というと?」」
「ヴァルちゃんは分かるけどなんでリアちゃんもピンと来てないの……。ケイくんにあっさりキスしちゃった事もそうだし、服装もそうでしょ?」
「あっ」
「そう、その気付きだよ。吸精鬼は近親への性的拒絶とか、年の差とか、異性同性とか生物の違いとか容姿とか病気とか時間とか場所とかまっっったく考えないの。生殖器があればそれだけで簡単に対象として見れるし、少しでも"まあいっか"が心のどこかにあるとすぐに体を許しちゃうんだよ!」
「うわー、レリアとかポンポン子供産みそう〜」
「そうなのよ〜リアちゃんすぐ子供産みそうなの……」
「酷くない?」
「事実だろ。お前、知らない男と狭い所入ったら出てくるまでにそういう事しそうだもん」
「ねえ本当に酷くない? 私に兄としての愛をもう少し持ってもいいと思うんだけど」
「愛ゆえの心配だろ」
「見下し成分が大分多かったですけどね、今の愛ね」
なんでこういう話題になると毎回私は孤軍奮闘で戦う羽目になるんだ。マイノリティ側にしか回れないの世界のバグだろ。少なくともエリザベータだけは私を擁護しろよ。
「それから、これもさっき言ったけど吸精鬼は精液を摂取する時魔力を精製する、これはいいんだけど。摂取するタイミングで粘膜に接触してる状態のままだと、そのまま相手の生命力を奪ってしまって普通より多くの体力を消耗させる事になるの。場合によってはそのまま衰弱死させてしまう事もあるから、本当に細心の注意を払わないと殺人をしちゃうこともあるから気を付けること!」
「魔族の所以たり得そうなエピソード出たなコレ」
「ぴや、昔のサキュバスは所構わず人を食い殺して回ったって聞いた事あるけど、それって……」
考えながらレクトーラの顔が赤くなった。ピュアだなあ、ヴァルリはレクトーラの話を聞いても『?』といった感じの顔を浮かべているが。
「セックスで人を殺すとかナイナイ。もし仮に私が誰かとするとしてさ、死にかけてるのなんて見りゃわかるじゃん?」
「リアちゃん、さっきまでの記憶ある? ケイくんとキスしてる時の」
「あるよ。軽く唇をちょんってしただけだろ」
「い、いや。いやいやいやいや、何言ってんのレリア! あんためちゃくちゃあの男の子にキスしまくってたよ!」
「?」
レクトーラが食い入るように私の意見を否定してきたが、そんなの記憶にない。ちょっとドキドキしたけど、唇をチョンって当てた程度だ。
……今考えたら、あんな子供とキスするってだけでドキドキするのも変な話だ。そんなもんパッパと終わらせられる事なのにな。
「1つ言うと、吸精鬼が発情してる時って、人間が泥酔してる時と同じで人格を取り繕えなくなったり記憶が飛んだりするからね」
「へぇ〜、そうなんだ。……レクトーラ、話を詳しく」
嫌な予感がした。でも確認しておきたかった、現実で起きた出来事と記憶の齟齬を。
「話をって」
「その、レクトーラが見た、私とケイの……」
「……ヴァルリは耳を塞いでて」
「わ、分かった」
「まあ仕方ないよ、そういう習性だからさ〜」
一通りあった出来事を聞いた後、私は体育座りをし膝と両手の隙間に顔を埋めていた。
「だ、大丈夫か? レリア」
「……」
「何があったんだ……」
「気になるなら後で教えてあげるね」
「やめて……レクトーラ、お願い……」
「わはは、弱ってるレリア面白〜い! だから絶対やめな〜い」
おちょくるレクトーラの頭を割ってやろうと顔を上げるが、すぐ目の前に私を心配してか顔を覗き込んでいるヴァルリが居た。
……。顔を伏せる。どうやらエリザベータが言っていた通り、兄妹とか関係ないらしい。
自分と同じような顔でも、ヴァルリが"男"だってだけで私の心臓がビビり散らかし視認するのを辞めてしまった。
「あと、発情状態の吸精鬼は他の生物に顔を見せたり匂いを嗅がせたりすると相手に精神錯乱を起こさせて強制的に発情させちゃうから、ドキドキが収まらないうちはリアちゃんは顔を伏せたままの方がいいよ。2人とも、今のリアちゃんの匂いを嗅がないようにね」
「「は〜い」」
「屈辱だ……」
はあ、良くない良くない。ここ数年ずっと剣を振っててそもそも出会いが無かったから何も起こらなかっただけで、自分が特大の地雷痴女だって知りたくなかったぞ。
こんな事なら練習も辞めず、一意専心に剣術か魔法を突き詰めればよかった。なんで中途半端にやめてしまったのか、おかげで家族にここまで辱められる羽目になるだなんて。
「ちなみにリアちゃん、性行為まで及んだの? ケイくんとは」
「及んでねーわ! ばか!」
「……本当? トーラちゃん」
「え、えっと……」
「これに恥ずかしがらずに素直に答えてほしいな。1番真面目な事だから」
お、ここでようやくエリザベータが母親らしい所を見せた。実の娘の純潔の有無はやっぱ大事よな。安心してくれ、膜は今だに健在である。
「キス以外はしてないと思う。ぴやが見た限りでは」
「そう? ならいいけど」
「その反応がずっと欲しかったよ……サキュバスがどーとかよりもさあ」
「? サキュバスは唾液も愛液も猛毒だからね。キスだけだったら体の痺れ、摂りすぎても気絶とかで済むけど、愛液を舐めたら魔力少ない相手だと過剰な魔力生成で人の形を留められなくなっちゃったりするから、そこは聞いておかないと」
「……はい?」
人の形を留められなく……?
なんか恐ろしいことを言っているエリザベータの顔はマジだった。マジのガチの、冗談の一切ない警告の意を孕ませた表情だった。
「レクトーラ」
「うん?」
「……いや」
レクトーラに、実際私はケイとセックスをしてないのか聞こうとしたがやめた。僅かにだけどその時の事を思い出したからだ。
愛液、というのは膣から分泌される液の事、その認識に間違いないのなら、まあハメてさえいなけりゃ確かに相手が私の愛液に触れる事など有り得ないだろうし、摂取ともなると尚更だ。
けど、なにもハメていなくても、愛液なんて股ぐらに指を突っ込んでれば指に付着するわけで。
……ムラムラした時、私は1人でする時よくいつの間にか股ぐらに指を突っ込んでるわけで。
もし仮に、その液が付着した指をケイの口に突っ込んでいたりしたら。それはもう、黒よりも黒い真っ黒判定が出るのではないでしょうか。
「よし。明日朝イチにケイに会いにいくから起こして!」
とだけ言うと、私はエリザベータ達の反応をガン無視し寝室に向けてダッシュした。




