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ビフォーミッドサマー

「ふわぁ〜」



 あくびをしながら伸びをする。

 ん〜、髪が伸びた。ポリポリと頭髪をかこうとするが、寝癖で髪質爆発しててかきたいようにかけないや。坊主にでもしようかな。


 シャワーを浴びて軽く身を清め、屋敷を出る。今日も飽きずにカンカン照りで、シースルーみたいなサラッサラの服を着てきて良かったなあと。思いかけたけど関係ねえや、髪長いせいでめっちゃ暑い。背中がサウナですわ。



「こんにちわ〜」

「こんにちは」

「今日も暑いわねえ」

「そうですね。太陽さんはバカに違いない」

「ふふっ、そうね」



 道すがら、何度か家に来た事があるおばちゃんに挨拶を会った。エリザベータ曰く懇意にしてるご婦人だ、仕事関係の。よく知らないけど。

 ぶっちゃけ人見知りをカマしたかったけど、会話をすると途中で飴をくれるってジンクスがあるので挨拶を返す。



「はい、コレあげる。今からお出かけ?」

「お出かけっていうか、昨日落し物しちゃって。それの回収にと」

「そうなの? どんな物を落としたのかしら。私も手伝ってあげるよ」

「ん〜、お気持ちめちゃめちゃ嬉しいんですけど、大人の人だとちょっと通りにくい所を通ったんで」

「あらそう……おばちゃん太ってるから戦力にならないかしら?」

「私ぐらい小さくないと通れないと思うのでそうですね……」



 おばさんの自虐デブネタになんて返したら良いのか分からないのでスルー。どう返したら正解なのか分からないもん、方便になる嘘をつけるとも思えんし。



「なら仕方ないけど、最近物騒だし気を付けるのよ? なんか良くない噂も広まってるようだから……」

「良くない噂?」



 なになに、その井戸端会議で死ぬほど使われてそうなワード。ありがちなラインで行くと不審者情報の共有か、どこどこの家庭事情関連になってくるが、わざわざ私に言ってくるってことは前者か?



「うん。最近ね、魔獣がこの辺に出没したって言うのよ」

「魔獣?」



 聞いた事がある。ウルフェンが生きていた頃に言ってた、ウルフェン達が日々屠殺してる謎生物だ。


 独自の生態系を持っていつからか地上に現れた生物。食物連鎖で地位の低い生物が魔人とやらによって改造され生まれた怪物の俗称だっけか?


 漫画みたいな話だが、実際それで年間数十万人が被害にあって死亡してるらしいから恐ろしい。事故死とかのレベルだもんな、人数。



「魔獣……でも、魔獣の生息域と人間の活動圏の境界には、互いに立ち入らないようにって結界みたいなのが張ってあるらしいじゃないですか。それなのにこんな内陸の、街と街の間にある田舎に魔獣が出るものなんですかね?」

「それは私も思うところなんだけれどもね。それでも、こんな噂話が立った時期から男の人達、自警団かしら? が何かに警戒するように集団でウロウロしてるのを見かけたから。公にはなっていないようだけど何かは確実に起きてそうじゃない?」

「はあ」



 そんな大事になっているのに公にされていないなんてことがあるだろうか。負傷者や死者が出てから発表、なんてアホみたいな事じゃないだろうな?


 ……あ。そういえば、教会の人からここいらで何か変わったことはなかったかみたいな事聞かれたな。変わった動物や人を見たか、みたいな。関係あるのかな、あれ。



「まあすぐに帰るんで大丈夫ですよ。まだ全然昼になったばかりだし、明るいうちに襲われて逃げ切れないって感じの場所ではないと思うので」



 実の所その魔獣とやらと遭遇したら割と捕まっちゃいそうなくらい長い獣道ではあるけど、どのみちこの身体じゃどこを歩いてても出会ったら詰みみたいなもんだし関係ないな。



「魔獣ねえ。モグラやら鳥やらの死骸は何度か見た事あるけど、アレらもそいつの仕業だったりするのかしらね〜」



 おばちゃんと別れてからしばらく1人なので独り言を口にしながら歩く。一人暮らししたら絶対独り言しながら過ごすと思うわ、私。


 少し寄り道もしながら歩くこと30分ほど、ようやくよ昨日置いていった荷台の場所に辿り着いた。汗で服がビッショビショのピタピタである。



「むぐ、むぐ」

「えっ」



 そして、荷台の傍でベタっと女の子座りをして瓶に入っていたジャムをこれでもかと指につけながら舐めまわしている不審人物に出会ってしまった。



「んにゅあ!? へれお!!」



 不審人物は私の存在に気付くと、意味の分からない単語を言って睨みつけてきた。なんで睨まれてるんだ私、立場逆だろ。



「誰じゃい貴様。私の荷物に何やってるわけ? コソドロ?」

「ふぅうううう!! ぐるるるっ!!」

「警戒の仕方、オオカミに育てられた子やん……」



 と小ボケをかましてみるが不発、反応無し。まあ元ネタ知らんもんなこの人。


 てか、狼とネタで言ってみたが、不審人物は実際に動物の物じみたパーツを持っていた。

 なんか、頭のちょい高い位置に耳がある。ツインテールを作る位置よりなお高くて、そして丸っこくてもふもふしてる耳だ。本物? なわけないよなって思うけど、作り物のようにも見えない。



「れの、あるくとぅふらなぴや!!」

「? ジョン・レノン?」

「いーうー!! れの、あるくとぅふらなぴや!!」

「アピタユニー? 分からん分からん、言語の壁あるわ。ベルリンの壁よろしくそれを崩壊してからじゃないと話進まねーよこれ」

「あーま!!!」

「それは絶対バーカっつったろお前」



 なにやら不可解な言語で喋り続ける相手に合わせ、私もファイティングポーズを取り軽くシャドーボクシングをかます。

 たまらんなあ、カンカン照りの太陽の下、意味わからん奴と牽制する時間。最高に時間を消費してるわ今。


 相手も私と同じような年齢に見えるので余裕綽々だ、妙な事したらすぐにでも顎を打ち抜いてやるぜ。



 ぐうぅぅぅぅ。



「……」

「……」

「……ぃーりーなぅ」



 二人が睨み合っている中、唐突に腹減りの音が鳴った。その音が鳴った瞬間に相手は目に見えて元気をなくし萎れてしまった。

 なんか、やり合う気は初めから無かったのだが、怒る気すら無くなってしまったので私は適当な石に座り臨戦態勢を解いた。



「……?」

「なんだよ、食べれば。お腹すいてんでしょ」

「いいの?」

「喋れるんかい」



 ズコーってなった。ならなんで最初からこっちに合わせてくれないんだよ。争う前には対話だろーがよ。



「ぴや、大陸の言葉、うまくないから」

「ああそう、なるほど。でも分からないにしても合わせる努力を……ぴや?」

「ん? ぴやって言うのは、この国の言葉で言うとね、えーと」

「わたし、だろ。一人称の」

「え? うん。なんでそれ知って……」



 パチクリパチクリ。私の顔を凝視する少女。そして、彼女は私に「なにか喋って。喋り続けて」と言った。


 私は適当にマキシマムザホルモンの歌を歌った。拝啓VAP殿を歌った。



「どこの国の歌か分からないけど、やっぱりその声……オレリア?」

「そういうあなたはレクトーラちゃん、だよな?」

「うん。ぴや、レクトーラ。なんで気付かなかったんだろ、昨日会ったばかりなのに!」

「まあ暗かったし、私もレクトーラも多分互いをあんまり見てなかったしね。ってか、へぇ〜。こんな顔してたんだ、レクトーラちゃん」



 互いの正体がわかったところで、私もレクトーラの顔を凝視する。

 熊みたいな耳、どこか少しだけイヌ科っぽさがあるけど、あどけなくて可愛い顔。これはあれか、獣人的なやつ?



「あ、あんまり顔見ないでよぉ」

「なんで?」

「ぴや、可愛くない……オレリアみたいに可愛くないから恥ずかしい……」

「え〜? 可愛いよレクトーラは。私が男だったら食っちゃいたいもん」



 つい口が滑った。流石にそこまでは思ってないけど、実際レクトーラの顔は可愛いと思う。パーツのバランスが良いし、顔面でっかちボコボコでもないし。



「可愛くないよぉ。ぴや、人間以外の血、入ってる」

「そうなんだ。私も人間以外とのハーフだよ」

「そうなの!? えっ、えっ、そ、そうなの!?」

「あはは、そうだよ〜」

「こっ、こんなことを聞くのは失礼かもしれないけど……何と、人間のハーフなの?」

「えっ。うーん……痴女?」

「へっ?」

「痴女と人間のハーフ」

「……へっ?」



 はい、滑りましたね。恥ず。

 くそっ、生半可な気持ちで話を合わせるんじゃなかった。

 考え無しに出た言葉のフォローを必死に考えた結果出たのが実の母親のボンテージ姿とか終わってんだろ。口が裂けても言えねえよそんな事。



「痴女……サキュバス?」

「うん?」

「サキュバスと人間のハーフって事? ……でも確かに」



 レクトーラは不思議なことを言いながらこちらに近付くと、私の首筋辺りに鼻を近付けてスンスンと匂いを嗅ぎ始めた。



「って、はああぁぁ!? ちょちょっ、何やってんだよ!!」

「何って?」

「何いきなり匂い嗅いでるのって言ってんの!! 私、あの、汗かいてるから!! 臭いだろ普通に考えて!!」

「んー、臭くないよ?」

「そんな人類がこの世におるかい!!」


 

 私は普通に臭い時は臭いよ、寝起きの口臭とか順当に終わってるし、唾垂らしてて乾いてたら普通にツンとくるもん。人間ですからね、みんなが臭くなるような事に関しては私も臭いんですよ!


 汗かいて、その汗が乾燥して尚も臭くないは漫画の世界なんよ。

 それとも何か? 私らは今セックスでもしてんのか? それならまあ汗の匂いも不快じゃなくなったりマイルドに感じる気がしないでもないけど、健全に匂いを嗅がれてそのセックスマジックが発動するとも思えんよ??



「臭くないけど、匂いが強いからそんな気してた。フェロモン? って言うのかな」

「や、やめろよ!! 何キモイ事言ってんの!?」

「? 本当の事。オレリア、匂い強い」

「やめっ……うぅ」



 そんな何度も言わんくても……。

 レクトーラから離れる。私体臭濃いらしいので。散々である、多分女になってから今が1番恥ずかしい。ギャラリーが居たら泣いてたかもしれない。



「オレリア? どうしたの?」

「どうしたと思いますか。レクトーラちゃんは、臭いって言われたらどう思いますか」

「く、臭いなんて言ってない! オレリアいい匂い!」

「そんなわけが無いんだよなあ。汗ダラダラの服ピタピタ、どこにいい匂いの要素あるんだよ……」

「で、でもオレリアはいい匂いだよ! ぴやオレリアの匂い好き! ……ちょっと、エッチな気分になるけど、でもずっと嗅いでたいって思う!」

「ん? 何なに、身内に1人増えた? 痴女」



 すごいなあ、見た目可愛いけど普通にキモイぞ? 

 言ってることメンズエステに来た厄介おじさん客だもん。お触り許してもらえないからって女の人の纏う空気を必死に吸ってるおじさんだもんな。



「オレリアがハーフサキュバスなら、ぴやがこのくらいで収まってるのは納得。全部がサキュバスじゃなくて良かった」

「はあ。まあ、なんでもいいけど」



 元はと言えばこっちが適当に相槌打ったらミスって同族名乗りしたのが発端だし。サキュバス扱いも身から出た錆って所だ。

 サキュバス扱いって何? 渋谷ハロウィン? この世界、サキュバスなんているの? そりゃ性倫理にも違いが生まれますわな。



「それにしても、なんで勝手に瓶の中身なんか舐めてたわけ? 私じゃなかったらレクトーラ、めちゃくちゃ怒られてたと思うよ? そういうの」

「う、うー……ごめんなさい」

「私はいいけどさ。……もしかして、ご飯も買えないほどお金無いとか?」

「……」

「瓶の中身、ジャムが欲しかったとしてさ。普通はそれをそのまま舐めるなんてせず持ち帰ってパンとかにつけたりするだろ?」

「……」

「それをしないってことは、そんな事考えられないくらい余裕無かったってことだろ? よっぽど腹減ってたんだろ」

「……オレリア、お屋敷のお姫様言ってた」

「あ、あー。まあ、そんな事昨日言ってたね」



 しつこく問い詰めてみると、ようやくレクトーラの口が空いた。



「お姫様はお金持ち。とってもとっても」

「んー、厳密には全然私お姫様ではないし、大金持ちってわけでもないんだけどね。うち」

「でもお金はある」

「そう、だねえ」



 なんか話の流れがわかった気がする。相手が金持ちの家の子で自分が仮に貧乏だとしたら、そこに抱くものは相場が決まってるようなもんだしね。


「それで、私の家がお金持ちだからどうしたの?」

「馬鹿にされると思った。ジャムをそのまま舐めるような奴なんてって」

「そう言うと思った。けど、そんな事言わねえし。こんな事だってしちゃうもんね〜」



 私はそう言うと思いっきりレクトーラに抱きついた。抱き締めた。



「ふあっ!? りみくねぃろー!?」

「何言ってるか分かんねー。うりりりっ!」



 抱き締めて、これでもかってくらい頭を撫でた。

 レクトーラも人間は人間なので臭かった。素直にそう思う。

 肌はカサついてて、髪も傷みと油の特有の質感があって、何日も風呂に入ってないのが分かる。



「オ、オレリア! 抱きしめたらぴやの汚れつく!!」

「最後に誰かに抱きしめられたのはいつ?」

「えっ?」



 私の質問にレクトーラは固まった。



「指先がボロボロ、爪が歪んでて体にはいくつか青アザやむち打ちの痕が残ってる。そんで、何日も風呂に入ってなくて飯についてもこんな感じ。誰だって分かるよ、レクトーラちゃんがどんな目に遭ってきたのか」

「……」

「レクトーラちゃんは私の家が金持ちって聞いて、私が性格悪そうって思ったんじゃない?」

「っ、そんな事!」

「いいよ、実際性格悪いし。今もこうして、レクトーラちゃんに抱きついてればレクトーラちゃんを懐柔できて、友達だよって意識を植え付けてパシリにしてやろうって考えてるのかもしれないしね?」

「……そんなの、思ってたら、言わない」

「あははっ、って言う先入観を利用してるかもよ? どうする? そしたら、私と友達になる?」

「……」



 レクトーラはようやく抱きつく私を引き剥がそうとするのを諦めてくれた。鍛えてるからね、この程度なんのそのよ。



「……パシリにしたいとか、そんな事のためにここまでしない。普通じゃない。ぴや、汚いのに抱きつかない。上っ面な言葉だけ言うと思う」

「ふーん。じゃあ友達になってくれるの?」

「……なんで、ぴやなんかと友達になりたいの」

「ん? んー」



 なんでって。そりゃ。



「なんでも何も特にないよ。理由なんて」

「へっ?」

「へっ? じゃなくて。じゃあ逆に聞くけど、理由がなきゃ友達になっちゃいけないわけ?」

「えっ!? そ、そんなの当たり前! だって……」

「だって、なんだよ?」

「だって……」

「みんな大層な理由を持って友達を作ってるわけじゃないよ。単にノリが合うから、一緒にいる時間が長いから、そんなもんだろ」

「……」

「私はレクトーラちゃんと変わった出会い方をして、この子面白いな〜って思って、可愛くて、この子とこれからも仲良くしたいなって思ったからナンパしてるわけ。それ以上の理由が必要なのかよ?」

「うっ、うぅぅぅ」

「うぇっ!? あっ、語気強かった!? ご、ごめんごめん!! 泣かないで……!」



 熱く語っていたらレクトーラが泣き出してしまったので大焦りであやしに入る。頭なでなでなで。すると、レクトーラは私に心を許したのか受け入れ姿勢を認めてくれたのか、私の胸に顔を埋めて本当に喉の奥から声を出して泣いた。


 その後、紆余曲折あって夕方になると、家に帰ろうと話になったが。私は遠慮するレクトーラを無理やり引きずって屋敷まで帰った。


 理由は単純明快で、レクトーラの帰る家は家として機能してるか怪しいからである。


 建物が有るか無いかの話もそうだし、一緒に家族と暮らしてるのだとしたら、レクトーラがこんな状態になっても放置の家族なんかほっとけばいいと思ったからだ。

 レクトーラは家族の話を執拗にかわし続けた。だから詳しい話はわからないのだが、しかし、本当に家族を愛しているのなら私の手を振り払って家に帰ることも出来ただろう。


 途中から諦めて私の言う事に従ってくれたのは、つまり、そういう事なのだ。



「ただいまぁ」

「おかえりー!」



 遠くの方、食堂かな? からエリザベータの声がした。そして程なくしてパタパタとスリッパの足音がして、現れたのはエリザベータではなく風呂上がりと思しきヴァルリであった。



「帰ったのかレリア。……誰だ? その子」

「友達。ほら」

「えっ!? あ、ぅ、は、初めまして。ぴや、レクトーラ。オレリアと、同じ歳……8歳!」

「あ、あぁ。初めまして。俺はヴァルリ、俺も、8歳」



 どんな会話だ。コミュ障か。

 ふと、ヴァルリと目が合う。お小言を言う時の目だ。こわいこわい。



「レリア、母さんには俺から言っとくから先に2人でお風呂に入れ。その、ちょっと今日2人とも、すごいぞ」

「む、お兄ちゃん。さいてー」

「気を使っただろ!? 最低ってお前なあ!」

「女の子にそういうの言わないのが紳士だもん。お兄ちゃんはまだまだお子ちゃまだね」

「レーリーアー!」

「あははっ! なんだよ〜? ハグでもするかぁ?」



 私が両腕を広げばっちこいアピールをすると、ヴァルリは「うげっ」と言ってそそくさとその場を後にした。

 失礼な奴だな、私の胸が成長したら定期的に抱きついたりセクハラしてやる。妹の女の部分っていう兄にとって結構不快なやつをこれでもかと味わわせてやるからな。



「じゃあお風呂入ろ。ここ数日分の汚れを落とすよ!」

「えっ、で、でも。オレリアの家の風呂が汚れる……」

「その卑屈発言、風呂の存在価値について一度議論が生じるレベルの謎発言だからな」



 汚れを落とす場所は汚す場所でもあるようなもんだろ。最終どっちも綺麗になりゃいいんだよ。何をちゃんちゃらおかしい事を言っているのかこの子は。



 かぽーん。



 風呂からあがり、私は自分の髪を乾かすより先にレクトーラの髪を乾かす。自分のは勝手が分かるからな。



「オレリア、おっぱいおおきい。どうすればそんなふうになる?」

「そんな大きくないだろ。言うて成長期だなってぐらいだよ。もう少ししたらみんな同じくらいになるし、もっとでかくなるよ」

「もうおっぱいおおきいオレリアは、もっともっと大きくなる。羨ましい」

「そうとも限らないでしょうよ。まあでも、一説によれば、女性ホルモンの分泌によって胸の成長度合いが変わってくるって言うし、女性ホルモンを多く分泌させるような生活習慣とか食い物とか摂ればいいんじゃないかな」

「ぴや、お金無いし余裕も無いからそんなの無理。おっぱい大きくならない……」



 そうか、確かにそうだな。今日はとりあえず私の部屋に泊めるつもりで、お泊まり会をするって名目で攫ってきたわけど。いつかはレクトーラも自分の家に帰る時は来るんだよな。



「いや、待てよ」

「どうしたの? オレリア」

「今自分でも考えてたんだけど、不思議だなって」

「なにが?」

「帰らなけりゃいいじゃん。家に」

「? ごめん、ぴやには意味が分からなかった」

「嫌だから、レクトーラちゃんさ。この家に住めば良くない?」

「へっ?」



 本日何度目か分からない『へっ?』を頂きました。そんな不思議なことか?



「だって、家帰ったらまたさっきの状態にリセットだろ? 生傷絶えない友達を家に返す方が頭イッてんだろ。そんなもん、この家に監禁してた方がいいじゃん」

「オレリア? 言葉が全部怖かった今。悪い人の言葉、良くない」

「言葉で品位は測れないのだよレクトーラちゃん。ねねっ、どう? この屋敷に住まない?」



 いきなりすぎる提案だが、しかし言うタイミングなんて今しかないし。それにここで決断してもらわないと意味が無いのでそのまま私は押し切るつもり万端である。



「……この家の人は、レクトーラがいて迷惑じゃない?」

「わからん」



 それは素直にわからん。迷惑かもしれないし迷惑じゃないかもしれない。居候、客人、そういう人が泊まる様の部屋は用意してはあるが、それらを用意したのはウルフェンだしな。



「それなら、ぴやは……」

「でも、もし反対意見があっても私が説得するよ」

「へっ?」

「この家に住んでいいって言われるまで説得する。ワガママも愚図りも全部活用するね。だからレクトーラちゃん、この家に住むか住まないか、今ここであなたが決めて」

「……」



 出会いからここまで急すぎる。1日2日で知り合ったよく知りもしない少女を家に置くとか馬鹿馬鹿しいにも程があるが、それでも私はレクトーラを古巣に明け渡したくはなかった。


 何かと重なるからだ。心の中に残る癌みたいな物、それを構成する要素の一つが、このレクトーラが置かれてる状況に近かったから。

 だから、一種の執念を抱いてるんだろうなって薄々思う。


 でもそれ自体はレクトーラに全く何の関与性もないし、彼女が嫌だと言うなら無理強いはしない。今日は泊まってもらうけど、そこから先は自由だ。



「ぴや、は、帰りたく、ない」

「そっか」

「理由は、聞かない?」

「聞かない。言わなかった時点で言いたくない事情って事だろうし」

「……とぅーへあ」



 アスラン・ザラかな? 急に出る母国語、空耳でいらん記憶蘇ってくるからやめて欲しい。笑うわ。



「この家にいたら、ぴやも、おっぱい大きくなる!」

「ああ。決め手おっぱいか。なんだかなあ」

「ぴやおっぱい大きくする! その為に頑張る!」

「レクトーラちゃんさあ、おっぱい好きすぎるだろ。なんでそんなに巨乳に固執するわけ?」

「知らないの? ぴやの国では、おっぱい大きな女性、強さの象徴!」

「まだ理解は出来る範疇の話だな」

「建築物や像にもおっぱいをモチーフにしたものが多くある! 正直意味無いでしょって思う所にもある!!」

「君主が男だったら性欲に忠実なんやろな」

「年に2回、おっぱいを丸出しにして踊る祭りもある! ぴや、それ大好き! 女神に捧げるおっぱい祭り!!」

「国旗の色ピンクベースなんやろなあ」

「だからおっぱい大きくなりたい! オレリアが羨ましい! まだ8歳なのにマフィンある! 手を乗せれる!!!」

「おいやめろ言い方。色々まずいから。キツいって」



 国ごとの文化伝統は尊重するべきだとは思うけどさ、郷に入っては郷に従えよ。この国はおっぱい信仰なんか無いんだよ。


 あとマフィンはいくら何でも誇張すぎだろ。良くてホットケーキだわ。何言ってんだ私。



「いいなあ、いいなあ。オレリアいいなあ。チビなのにおっぱいあるのずるい。チビならぺったんこであるべき!」

「馬鹿にされてる? 悪かったね、デブで」

「太ってない! 体は小さいくせにおっぱいが大きくてすごいって話!」

「くせに……?」



 ねえ。なんなのこの子。口悪いんですけど意外と。

 私がチビなのがそんなに気になる? 確かにヴァルリと身長に差が出始めて、双子なのにそんな事ある? とは思ったけどさ。言わなくてもいいだろそんなこと。


 髪も乾かし終え、部屋着に着替えてからパタパタと食堂まで歩く。


 流石にエリザベータの前でおっぱいがどうとかカマされたら堪らないので「いい? 母様の前でおっぱいの話しないでよ? 頼むからね」とお願いしてある。


 余程のことがない限り大丈夫であろうが、少しだけ心配だ。とでも言っておかないとフラグになる気がするので言っておく。



「あ、やっと来たね! リアちゃんと、そのお友達のレクトーラちゃん、で合ってる?」

「は、はい。合って、ます」

「萎縮しなくてもいいよ〜。この家も広いし壮剛な飾りがいっぱいあるけど、私達も手に余ってるからね。私達はあくまで庶民派なので、固くならないでねっ」



 あら。来た時の様子をヴァルリが説明したのか、エリザベータはレクトーラが取っ付きやすくなるようきっかけを作る会話を披露した。やるな。



「……」

「? どうしたんだよレクトーラ。座りなよ」



 私の座ってる横に椅子が用意されてあって、まだ手の付けていない食事も盛り合わせてある。勿論レクトーラの分だ。

 見れば直ぐに自分の分だと分かる位置、状況なのに、何をレクトーラは突っ立っているのだろう?


 レクトーラが見つめる先には、エリザベータが居た。



「え、ええと。どうしたのかな? レクトーラ、ちゃん?」



 エリザベータの方も状況がわからず困惑しているようだった。


 そんな空気の中で、レクトーラは驚きの言葉を発した。



「オレリア、ママよりもおっぱい大きい……」

「ぶふっ!?」



 失敬。飲み物を吹いてしまいました。

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