日焼けしないタイプの肌、日光への耐性がつかず懲りずに火傷し続けるからダメ。
剣を教わるのを辞めて、およそ2週間ほど経った。
生来自主学習や自主練習といった1人でコツコツ積み重ねるタイプの努力をするのが苦手だった私は案の定剣の素振りも1時間ほどで切り上げるようになり、屋敷の中で過ごす事が多くなった。
何も考えないようにしていた、つまり暇な時間が増えれば増えるほど苦痛な想いをする確率が増してしまうのではという恐れをずっと抱いていたわけだが、それはどうやら杞憂だったようで、案外すんなりゆったりとした時間とやらに順応している。
初夏。まだ本夏でもないのに景色が青々としてきて、エリザベータが育てていたラズベリーやトマトなどを収穫し、特にトマトは大籠にそのままに食べる用や潰してソースやジャムにする用などに取り分ける日々を送っている。
良い意味で牧歌的。悪く言えば前時代的。元日本人としては何とも退屈な毎日である。
「あちぃ〜あちち。死んじゃうよ〜」
屋敷の周辺に目立つ建物なんて教会くらいでお隣さんのお宅は畑や道を隔てた先だ。人通りが少ないのでシャツとパンツのみというあられも無い姿で作業している訳だが、全然暑い。太陽さんは脳みそMRI検査受けた方がいいんじゃないかって心配するくらい暑い。
「おつかれおつかれ〜リアちゃん! はいこれ」
私が収穫した作物を中に運んだエリザベータが瓶ラムネをぐでーんとしてる私のほっぺに当てた。ひんやりした感触、気持ちいい〜。
「焼けたねえリアちゃん。痛くない?」
「めちゃめちゃ痛いよぉ〜軟膏塗って〜」
「あらら。やっぱりリアちゃんは外作業向かないねぇ」
エリザベータがそう言うと軟膏を私の皮膚に塗布してくれた。
エヴァンレイズ家は家系的に昔から白人っぽい容姿の人が多いらしく、エリザベータは外から来た人間だが白人より白い肌を持つというびっくり究極繊細肌の持ち主で、つまりウルフェンとエリザベータの子である私は病的なまでに白いし日光にも弱い。
昼間に外に出て夜に帰ったとすれば夏じゃなくても赤くヒリヒリと痛みが走る。それが夏になればもう阿鼻叫喚である、川遊びも海遊びも行けそうにないなこりゃ。
「なんで母上は平気なの? 全然辛そうに見えないけど」
エリザベータも私と同じですぐ皮膚が赤くなるし日焼けが痛いはずだ。それが今や立派に焼けている。よほど外作業に精を出しているらしいが、死にそうにならないのだろうか?
「これくらいどうって事ないよ〜。ママこう見えても頑丈だからね!」
エリザベータは力こぶを作って見せる。小さくてぷにぷにしてそうな可愛い力こぶだ。
「あ、ヴァルちゃん帰ってきた! はいこれ!」
私が瓶ラムネを飲みながら座って休憩する傍ら、お使いに言っていたらしいヴァルリが帰宅してきた。エリザベータがヴァルリにラムネを渡す。ヴァルリは笑顔を作った。
「ありがとう母さん」
「母さん?」
ヴァルリ、いつの間にかエリザベータの事を母さんって呼ぶようになったのか。知らなかった。
ジーッと観察する。なんか表情が少し凛々しく、というか冷たく? 落ち着いた感じがする。たった2年ですっかり前とは精神構造が変わったのか、子供らしさ満点だった当時と全くの別人になっているような……。
目が合う。ヴァルリは小さく「おっ」と言うと、瓶ラムネを持ったまま私の所まで歩み寄ってきた。
「今日はやってないのか? 素振り」
「うん、まあ」
「そう言えば最近お前に剣を教えていたじいさん見てないなあ」
ユークリウスさんの事だ。彼は2年も家に出入りしている人間ではあるが、ヴァルリはもう剣を振ってないし私の修行にも見向きもしなかったからユークリウスさんの事は知らないのが当然か。
「見放されでもしたのか? あのじいさんに」
「は?」
「ははっ、図星か。仕方ないよ。お前は女なんだから、体を動かすのに向いてるわけがないんだ」
……はぁ〜???
何を言い出してるんだこいつは。そんな昭和の人間みてぇな男尊女卑思想をいきなりぶっぱなしてきて。
一体どう言う心変わりが起きたんだよ、気持ち悪ぃなこいつ。
「別に見放されてないよ。私がユークリウスさんより強くなったから、もう教えることは無いな〜ってなっただけだし」
「お前が? あのじいさんより強く?」
「うん」
「嘘つくなよ。子供が大人に勝てるわけないだろ。しかも女なんだぞ?」
「女だからなに? お兄ちゃんだって私に勝てた事ないくせに」
「なんだと」
「事実でしょ」
空気がピリッとした。しまった、ついヴァルリが喧嘩を売ってくるから喧嘩を転売してしまった。
舌打ちをして立ち上がる。
「おい。待てよ、レリア。訂正しろよ」
「しないけど。本当の事なのに何で訂正しないとならないわっ」
ガッ! という鈍い音が鳴って後頭部に鈍痛が走った。
前のめりに倒れていた。ズキズキと痛む頭を抑え、そこでようやく自分がヴァルリに殴られた事を認識出来た。
「……」
立ち上がって無言で睨む。
「……っ、お前が悪いんだ! お前が」
「なんなの? お前、きもいんだけど」
「っ! なんだと!」
自分と同い年だからって勝手にヴァルリの精神年齢を高く見積もっていたが、8歳か。小学2、3年生の男児って考えれば正しく生意気盛りか。
「……ぐっ、何睨んでんだよ!」
考えながらヴァルリを睨み続けていたら勝手にたじろいだ。あれだな、黙って睨んでたらその間に耐えきれなくなるタイプか。無言とか気まずさがよほど気になるタチらしい。
「ふん、今日の所は勘弁してやる」
そう言ってヴァルリは逃げて行った。
「何だったんだろ」
あいつ、どうした? 今までならこんな事する筈もなくて、今どき珍しいくらい真っ直ぐで優しい奴だったのに。まるで中身が別人のように変わってしまっているじゃないか。
素直な子供が素直で生意気な子供に進化しただけか? 正統進化? あれがデフォなら子育てって相当大変なんだろうなあ。
「あれ〜? ヴァルちゃんは?」
「さあ。どっか行っちゃった」
エリザベータが戻ってきたので適当に誤魔化しておく。子供達が久しぶりに会話したと思ったら喧嘩が勃発したとか、そういうのを見て育ち盛りだなあって思えるような母親でも無さそうだし。
「そっかぁ。じゃあリアちゃんにお願いしようかな」
「ん? なにを」
「それがね、去年よりも作物が収穫出来すぎちゃってさ。お世話になってるご近所さん達におすそ分けしようと思ったんだけど、ママ今からちょっと野暮用があってね」
「ふむ」
「……」
ん? 含みのある間だ。なんだろう?
「……ふむ」
お隣さんのお宅は畑や道を隔てた先。外は今だにカンカン照りで、エリザベータが指さした先には小さな手押し荷車が6つほど。なるほど、この母親は8歳の娘になんて事を頼むのか。とんでもねえな。
「……日を改めるというのは」
「傷んじゃうかも〜」
「うちで全部食べ切るというのは」
「みんな食が細いじゃない? 1番食べるのはリアちゃんだけど、大丈夫?」
破裂しちゃうなあ。水牛を丸焼きにした方がまだ完食出来そうって感じの量だもんな。
「……」
「お願いね? リアちゃん」
きゅるんって効果音が鳴りそうな程にわざとらしい笑みを向けられた。ヴァルリ、実はこれを察知して逃げたのか? だとしたら流石に賢すぎるだろ、ふざけんなあの野郎! 私に押し付けやがって。
「はあ……はあ。あちすぎぃ、なんなん次から次へと……」
日も傾いて夕方頃に差し掛かったところで、ようやく最後のおすそ分けを終え帰る道中。
お返しにと瓶の詰め物をいくつか貰い全然軽くならなかった荷車を引く中、夜になるのも嫌だからと私は横道に逸れて狭い林道の近道を利用していた。
いやはや、こういった獣道は思わぬ近道になる所は良いけど、舗装もしてないし高低差やら地面の荒さやらで荷車を引くのには向かないな。これなら時間かけてでも安全な大通りを通った方がいいわ……。
「おら! 食らえっ!!」
おろ? なんか大声が聴こえてきた。
こんな道歩きに向かない獣道の途中。あまり人が利用するとも思えないのだが、何者かが私の歩いている先の木の影にいるらしい。
にしても空気が穏やかじゃない。私は荷車をその場に置いて、声のした方に忍び寄る事にした。
「おりゃっ、ドラゴンキーック!!」
「うぁっ!! ぃ、いたい……」
「もう1発だ! お前らちゃんと持ってろよ、じゃなきゃお前らも同じ目に遭わせるからな!」
「あ、あぁ」「わかってるよ……」
うわーぁ。いじめの現場か? ここから見える限り、1人の女の子が2人の男の子に腕を掴まれている。
そして、恐らく私の視点からでは死角になっているであろう手前側。私の隠れている茂みの横にある木の方に視線が集まっている。もう1人の男の子が女の子に暴力を振るっているのは火を見るより明らかな状況だ。
「行くぞ! す!ドラゴーーン!!」
「エルボー」
「ごはっ!?」
深く考えることは無かった。てか、先に手を出さなきゃ堕胎キックかましてただろうし、私は茂みから飛び出して驚きこっちを見た男の子の顎に肘打ちをした。
「んんっ!? いでぇええっ!!」
顎を打たれて男の子は痛みのあまりうずくまる。私は枯葉をたっぷりと拾うと、一応うずくまる男の子に1発蹴りを食らわせて動けないようにしながら女の子の方に近付く。
「なっ、なんだよお前!」
「さあね〜」
女の子の腕を掴んでいた2人のうち1人がこっちに近付いてこようとしたが、それよりも早く私は拾った枯葉の塊を女の子に向けてぶちまけた。
「うわっ!? 葉っぱ……?」
「その葉っぱ、なんかの動物のうんこが乗ってたやつ。馬鹿臭かったよ」
困惑する三者に向けてそう言うと、男の子は2人とも女の子から離れて「きたねー!!」と言う。
女の子もそれをまんまと信じて更に泣きそうになるが、そんな彼女の手を強引に掴み引き寄せ「逃げるよ」と言って私達は走り出した。
「待てっ! お前ら、逃がすなぁ!!」
「分かった!」
「待てえ!!」
「うははひゃひゃっ、待つわけねえだろばーーか!!」
「い、痛い、痛いよぉ!」
女の子は私に腕を掴まれていて、鍛えてもないからか足がおっそいから私の全力ダッシュについていききれずに痛がる。が、怒髪天を衝いてる3人に捕まったらそれ以上の仕打ちをされるかもしれないので今は無視だ。
「はっはっ、はあ、はあ……!」
すぐスタミナ切れか女の子の呼吸が荒くなる。獣道はまだ抜けきっていない、標準的な子供の体力を舐めていた。
若干追っ手と距離はあるものの完全に引き離したわけでなく、丘となってる向こうの方からはまだ懲りずに私達を追う声が響いてきている。
「あいつらもしつこいな……しゃーない。ねえ君」
「はあはあ、ぅん?」
「私の後ろにいて。あと出来れば私の背中に体重をかけて支えてて」
「? わかった」
女の子に背を押させ自分を固定させる。こう傾斜のある地面で魔法なんて使ったことないからな、発動の反動というか、シンプルに慣性の法則で坂を転げ落ちてしまう可能性あるから必要な対策である。
少し背中側に力をかけ、女の子が私を支えてくれているのを確認。右腕を前に出し、丘に見える獣道の横にあるそこまで太くもない木に狙いを定める。
万一当ててしまっても大きな怪我に程度の威力で破壊できる物を選ぶ。それだけで脅しには十分だからだ。
「真理を拒絶する界外の混濁」
「居た! ……? 何やってるんだ?」
「13番目の夜」
「関係ない、捕まえろ!!」
「ひぃ!」
「大丈夫、そこから動かないで。……明星より賜れた126の厄災が1」
3人が目を尖らしながらこちらへ走りよってくる、と言っても子供だ。そんなに速くはない。私の口の方が早い。
にしても魔法って非効率よな。こんな長い詠唱を口にしなきゃ出せないとか。もっと効率的に片手間で使ってみたい物である。
「金曜に石英。黒曜の刃」
「ははっ、何ブツブツ言ってるんだお前!! 誰だか知らないけど、そいつを庇うならお前も一緒にっ」
「ーー告げる」
魔法を発動する工程を銃で例えるなら引き金を引く前の前段階。弾を込め、安全装置も解除し、スライドを引いていつでも発射ができる状態になったのを合図する魔法共通の詠唱を告げた瞬間。私の右手の平から魔力が抽出され、拳大の黒い塊が生み出される。
男の子のうち1人が察しが良いのか立ち止まった。もう1人も釣られて立ち止まるが、唯一さっき私が痛めつけた子だけは意に介さずにこちらへ走り寄ってくる。頭に血が上っているのだろう。
「何ブツブツ言ってるんだぁ、おらあぁっ!!」
「出づる刻淵!」
黒い魔力が実体化し、力学的エネルギーが生じ手から離れる。反動で私も腕ごと少し後ろに下がりそうになるがそこは何とか女の子がガードしてくれた。
私の手から放たれた黒い弾丸は前に居た男の子の顔を僅かに掠り、そのまま背後の草を狩りながら進んだ後に狙いの先にあった木の幹を大きく削りへし折った。
脅しには十分すぎるほどの威力と音に、男の子達は3人とも腰を抜かして倒れ込んだ。特に1番こちら側に近かった男の子に関しては顔を掠っている、弱々しく震えていた。
「な、なんだよ今の」
「魔法だよ、魔法! でも、こんな強いのが使えるなんて……」
「なんでもいい、逃げよ!!」
後ろの方にいた男の子達2人が立ち上がり逃げる。リーダーと思しき子を無情にも見捨ててだ、可哀想に。
「あっ、はぁっ、な、あっ」
しかし残った男の子はそんな2人に意識を向けている余裕はなかったようだ。今の出来事があってから私から目を逸らさない。目を逸らしたら殺されるとでも思ってるのだろうか。
「大丈夫? もしかして漏らしちゃった?」
「ち、近付くな!」
「む……立てる? 一人で帰れそう?」
手を伸ばすと、男の子は私の手を払い立ち上がり、1度よろけてから逃げていった。
いやはや悲しいものだ、まるで汚物扱いじゃないか。ま、そういう扱いをされても仕方ないことをしたわけだしここはぐっと飲み込もう。
「すごい、今のすごい!!」
「うわぁ!?」
さて、と場をリセットし改めて女の子に話しかけようと思ったら先に女の子の方から私に飛びつき手を掴んできてジロジロ見てきた。
「なんか出た! すごい! すごい! あいつらやっつけた!!」
「やっつけてはないな。追っ払っただけだよ」
「おっぱい?」
「なんで? どういう風に聞こえたの? 鼓膜酔っ払ってんの?」
キャッキャワイワイと一人で勝手に盛り上がるのは良いのだが、私の手は見つめても何も出ないし穴も開かないから離してほしい。もう暗いんだしそろそろ帰りたいのだが。
「ぴやも今のやりたい!!」
「ぴや? 何その独特な一人称」
「ぴや! ぴやはぴや!」
そう言って女の子は自分を指差す。なるほど、ぴやって名前なのかな?
「ぴやちゃん家はどっち? そろそろ帰ろうぜ、家の人が心配する」「ぴやじゃない! ぴやの名前はレクトーラ!!」
「めっちゃ厳つい名前しとる〜! え、じゃあ何。ぴやって何なの!?」
「ぴやはぴや! じゃなくて……わたし? わたし! が、ぴや!!」
「おーおー。レクトーラちゃんの言語能力が低いのか私の理解力が低いのか分かんねぇ。どういう事? 会話難易度高くない? 君」
私の脳みそのレベルが水準なんだとしたら、この子が暴行を受けてたのって会話が難しくて苛立つからいじめに発展してってパターンだよな。絶対そうだろ。
「むぅー! ぴや、この国の言葉覚えた。この国の人、ぴやの言葉知らない。やーじゅひ!」
「この国の言葉? あー……君外国の人ね」
この国、人間の容姿に統一性が無いから地元民なのかそれ以外なのかさえも分かりづらいんだよな。肌色、目の色、髪の色。家庭ごとである程度統一感はあっても家庭を隔てるとすぐ別物になるからな。
唯一人種を判別するとしたら骨格とかのパーツになってくるが、そこはもうニュアンスになるし。
こう暗いと顔のパーツなんかいよいよ分からないし、言語の壁以外で外国の人だなんて判別出来ませんよってね。
「最近この国に来たの?」
「ん、そう。ぴや、みんなと一緒に来た」
「そっか。言葉はどこで覚えたの。塾とかに通ったり?」
「……そんな所」
「?」
歯切れが悪いな、答え辛い質問か? これ。
「じゃあさっきの奴らは同じ塾の子?」
「ちがう。しらないこ」
「知らない子? なんで知らない子があんな事をするんだ? なんか悪いことでもしたの?」
「……」
「あ、ごめん。今のは無神経だったな」
しまった、いじめられっ子側にも非があるのではと勘ぐってしまった。いけないよな、憶測で気を悪くするような事言っちゃ。まずは気持ちに寄り添ってやらないと。
ていうか、話し込むような時間では無いか。どうせ今日ここで別れたとて、土地は広くてもコミュニティは狭い街だ。また会えるだろう。
「聞きたい事は沢山あるけど今日はひとまず帰ろう」
「ん……」
「? レクトーラちゃん?」
暗闇で目が効かないかもという事でレクトーラの手を掴んで歩こうとしたが、彼女は動こうとしなかった。反応が送れたのではなく、明らかに一瞬私に対して、私が行こうとした方向に対して抵抗を見せたのだ。
「どうしたの、どこか痛い?」
「……なんでもない。ぴや、つよい」
つよい? 何の話だろう。
謎は晴れぬまま、私達は林道を歩き少しして大通りに抜けた。一人で帰れるかなと心配しレクトーラに家の方向を尋ねたが、彼女は何も答えなかった。
「じゃあ私は行くね。また会えたら今度はゆっくり話そう。もしまたあいつらにいじめられたら、教会近くにでかい屋敷があるからそこに来て。私そこに住んでるから」
「でかい屋敷……お姫様?」
「お姫様ではないね、ちなみに過度な金持ち一家のお嬢様ってわけでもないからそこら辺のアテにもしないでよ? それじゃあね〜」
手をヒラヒラと振ってお別れの合図をする。終始暗くてよく見えなかったためどれくらいの歳の子でどんな顔をしているか分からなかったが、多分私と同い年か年下くらいだと思うしこのくらいの接し方で良いだろう。
「待って」
「ん? どうしたの」
「ぴや、ぺのの名前知らない」
「ペのって何? 文脈的には『あなた』に当たる言葉でいいのかな」
「あっ! れにぇ……そう、あなた。あなたの名前、知らない」
れにぇは『そうだった』とか『しまった』とかそんな感じの意味なんだろうな。分かる言語と分からない言語を織り交ぜると微妙に意味がわかって面白いな。
「私の名前はオッレリアだよ。発音するのムズいかもだから、レリアとかリアとか、なんならオレリアって呼んでくれてもいいよ」
レクトーラの母国語に今のところ撥音が登場してないから、一応発音のことを考慮をしておく。
「オレリア……いい名前! かわいい! よい!」
「あはは、ありがとー。レクトーラって名前もとってもよい! って感じだよ〜」
「ぴやもそう思う! ぴやの名前、とってもよい!」
「いいね〜。親御さんも喜んでおるわ、ネーミングセンス光ってて良かった〜言うてるよ。じゃ、そろそろ行くね。またね〜」
「ん。また会う。ぴや、オレリア忘れない!」
「喋り方がちょくちょくゴーレムっぽいのおもろすぎるな……」
今までにないキャラを持ったレクトーラとの別れ。さっきのいじめっ子達がどこかに隠れているかもという心配もあったが、まあ、あそこまで脅せばそれもないか。ようやく帰路に着いた私は真っ直ぐ屋敷に帰った。
「ふぅ。はぁ〜疲れたぁ」
屋敷に帰ってくると急にどっと疲れが出て庭を歩いてる途中から歩くのが億劫になり屋敷内に入った途端に適当な段差に座り込んでしまった。
「あら、おかえり〜リアちゃん。遅かったね」
「んー? ただいま、いやそれがさ〜」
と、そこまで言いかけてあるひとつの違和感に気付く。
「……あれ。私、荷台置いてきた?」
「えっ?」
「あっ、いやなんでもない! なんでもないよ母上! うん! ドリームドリーム!」
「そ、そう? まあ、ご飯は出来てるからね。お手手洗ったら食堂来なさいな」
なんとか流す事に成功し一息つく。靴の泥を落とし立ち上がり食堂に向かいながら祈る。どうか私が回収してきた瓶やら小物類やらが荒らされてませんように。何より荷台事持ち去られていませんようにと。
まったく、途中で弱いものいじめなんて心象の悪くなるものを見掛けるからだ。なんだと言うんだ、厄日だな今日は。




