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     3.魔術師マーディン

 「ウーサー王バンザーイ!」

 「イヴレイン王妃バンザーイ!」

 わあぁぁわぁあああ

 大衆の大歓声がキャメロット城を包み込む中、昼間の青空に突如大きな星が光り輝き、光の帯をまといながらブリニアに落ちた。

 ブリニアの魔術師マーディンはただ1人、その彗星を目撃した。

 驚愕の瞳で空を睨みつけ、動揺を隠せなかった。

 なぜなら、まだウーサーが若き騎士だった頃、ブリニアの地盤に眠っていたドラゴンが予知と代償を告げて去った事があった。が、その彗星は、その予知に、根底をくつがえすほどの何かが起こった事を示していた。

 その何かはもやもやとしてハッキリとしない。

 だが何か、王子ではない何かにとって変わるような、

 「いや、、混じった、、のか?」

 魔術師マーディンは、言い表せぬ不安を抱いたまま、この事をウーサーに告げるべきか否か悩むのだった。


 昔々ー

 混沌の戦乱の中、ブリニア(後のイングランド)のコンスタンタン王の末の子としてウーサーは生を受ける。

 コンスタンタンの父がそうであったように、コンスタンタンもまた豪傑な女好きであった。

 太陽神ルーと、どちらの方がより女が好きか競い合い、時には宮廷の女達が一度に大勢失踪するという事件があったが、コンスタンタンの私室に監禁されて見つかったという逸話がある。

 この頃、神の血を引く王族や神自身が、気に入った女をさらってもてあそぶことは日常茶飯事であり、女が婚姻相手を自由に選べる時代でもなかった。

 そしてその頃、小国の王女に手を出したのがコンスタンタンだったのか、あるいは太陽神ルーか、父親のいない子としてマーディンは生まれた。

 正確には父はいた。マルジンという予知が出来る男だったが、マーディンが生まれる前に、発狂して森へと消えた。

 夢魔に襲われて出来た子だから、、と周りは噂した。

 乳母に託され、マーディンは乳母を母として育つ。

 孤児院で働く母のお陰で、孤児院に寄付される書物をマーディンはよく読んだ。たまに、太陽神ルーだと名乗る男がマーディンの前に現れ、お菓子をくれたり、魔法の基礎や、予知について教えてくれることもあった。太陽神ルーとしては、乳母目当てで来ていたかもしれないが、、。

 マーディンがまだ赤ん坊の頃に、太陽神ルーは子守唄がわりに予知を聞かせることがあった。

 ブリニアの地盤には大きな岩の中に、池のある洞窟があり、そこには2匹の竜が眠っているのだと。マーディンはその事をよく覚えていた。覚えておけば、何も恐れることはないと、太陽神ルーが大いに笑んだ。

 マーディンが予知や魔法について強い好奇心を持ち学び始めたのは、太陽神ルーの影響もあったかもしれない。

 この頃のマーディンはとても活発な男の子だった。

 ウーサーがアオハル真っ只中の頃、兄ヴォディガンが、父コンスタンタンと長兄コンスタンスを抹殺し、王位についた。新しい塔の建設が始まり、宮廷魔術師達は慣例通り、天災、人災、厄災から守る人柱を立てるように予言し、その初めの人柱として、「人間ではなく父親のいない幼子」のマーディンが選ばれた。

 マーディンは大人しく連行された。泣き叫びも、暴れもしない幼子に興味を持ったウーサーは、「無能な魔術師ども」と吐き捨てたマーディンを気に入り、「あの幼子は予知が出来るという噂がある。余興に、宮廷魔術師達と予知合戦させても面白い」とヴォディガンに進言した。

 「空気読むしか脳のない宮廷魔術師は、慣例通りに人柱を立て、町での厄介者を選べば民衆の支持も高まる、だがそれでは塔は建たない。」とマーディンは言った。

 「塔の下を掘れば宮廷魔術師達の嘘を証明する。塔の地盤の下には大きな岩があり、岩の中の池に竜が眠っている。」

 ヴォディガンはマーディンを塔まで連れて行き、予言が間違っていたなら即刻人柱にするとした。が。

 実際、マーディンの予言通り竜が眠っていた。

 白い竜はマーディンに話しかけるように咆哮ほうこうし、空高く飛び立ち、彼方へと消えた。

 ヴォディガンがマーディンに謎解きを求めると、

 「ブリニアに王子が生まれる。その子孫はブリニアを統治するだろう。」と予言した。

 ヴォディガンは大いにマーディンを気に入り、宮廷魔術師として迎えた。これより、マーディンは無口で狡猾こうかつな男となっていく。

 危うく人柱にされるところだったのが、幼子にはとてもショックだったのだろう。

 マーディンはヴォディガンには告げなかった事がある。

 白い竜は王子を渡せと言った。そうすれば子孫はブリニアを統治するだろうと。これはこっそりウーサーに教えた。

 ウーサーとマーディンは年の離れた兄弟のように仲良くなっていく。マーディンは時には恋愛相談も受けた。

 「一目惚れした幼姫(おさなひめ。もちろんウーサーの付けたあだ名。名前を教えるのは気が引けたか。)には既に婚約者がいてこの想いは成就することはない。ただ、幸せを願う。」と言って生涯独身をマーディンに誓う、幼馴染みに片思い中のアオハル真っ只中純情純朴なウーサー少年にマーディンは「なら、もしもその想いが成就し、王子が生まれれば、私に王子を渡してくれ。」と言ってこれをウーサーは承諾した。ウーサーはまさかこれが予知だとは思いもしなかっただろう。

 そしてまた、マーディンはウーサーにも話さなかったことがあった。

 岩は2つある。


 バルコニーから私室に戻ったマーディンは、赤ワインの入ったグラスをテーブルに置いた。

 丸まった地図や走り書きの紙切れ、汚れたティッシュや鉛筆、ペン、誰に貰ったか忘れた変な顔の置物。

 赤ワイン以外の雑多なゴミを、ガシャガシャゴトンッ、テーブルから手で払いのけ、赤ワインの瓶を置いた。テーブルには瓶とグラスだけになった。

 それから棚に向いて、本を1つ掴んでテーブルに広げる。

 本の間には持ち手に細工のほどこされた鍵が挟んであった。

 「あれからもう10年か、、。」

 マーディンはグラスのワインをクッと飲み干し、過去に再び思いをせた。


 ヴォディガン率いる傭兵軍の特徴は長身で色白、銀髪翠眼、自己顕示欲が強く、次第にヴォディガンは暴政を強いる暴君となっていった。

 父や長兄を殺された恨みも重なり、兄コンスタンティンとウーサーは反乱軍の軍勢を指揮し、ヴォディガンを討ち果たし、コンスタンティンが王位に就いた。

 傭兵軍はヴォディガンを失っても勢いは衰えず戦況は膠着こうちゃく、更に海賊や、戦機をうかがう近隣諸国に対しても油断ならない状況が続いた。

 メンタルの弱いコンスタンティンのフォローに疲れたウーサーが、マーディンに愚痴ることも多くなった。

 そんな中で、側近達の暗躍に踊らされたか、或いは疑心暗鬼に落ちたか、コンスタンティンはウーサーを毒殺しようとして失敗し、その間者ごとコンスタンティンをウーサーは切り捨てた。

 マーディンの予知により毒殺から逃れたウーサーは、マーディンの進言通り、コンスタンティンが傭兵軍に毒殺されたとし、ウーサーは王位に就いた。

 ウーサーが王位に就いた事でマーディンの地位も魔術師長に上がり、魔術師長しか使うことの許されないいにしえの祭壇の前にマーディンは立つ。

 ブリニアに昔からある、古の治癒の効果のある魔法の石で出来た石柱群ストーンヘンジで、新たな予知を得たマーディンは、支配体制の弱い、ブリニアの西南を強化すべきと予言し、ウーサーは西南の領主ゴルロイスと和睦を図る。

 ウーサーは盛大な宴でゴルロイスを迎え、ゴルロイスも和睦の意思ありとして最愛の妻を連れて現れた。

 中年のゴルロイスとそう年の離れていないはずが、薔薇の花のように匂い立つ色香、その美しさにウーサーは目を奪われた。

 「イヴ、、。」

 「お久しゅうございます、ペンドラゴン様。」

 マーディンが魔術師長に就任して間もなく、名をウーサー・ペンドラゴンと改めたことで、聞き覚えのある声から、聞き覚えの薄い名を呼ばれ、ウーサーは気恥ずかしさと懐かしさに身悶えた。

 ゴルロイスの妻、イヴレイン。かの幼姫である。

 3人の娘の母とは思えぬ美貌と若さは、まだ若きウーサーの心を再び鷲掴みするに一瞬であった。

 宴の間、ウーサーの心と体はイヴレインに注がれた。

 その様子に憤慨したゴルロイスはイヴレインを連れて宴を抜け出し、挨拶もなくサッサと自国に帰ってしまった。

 「おのれゴルロイス、、どいつもこいつも俺の邪魔ばかりする、、。」

 思えば、末っ子のアオハルウーサーは王位に興味などなく(兄が3人もいてまさか王位継承権が自分に回ってくるなどこれっっっぽちもおもっていなかった)、幼少時に見かけたイヴレインに一目惚れしたものの想いは叶わず、「欲しいものは奪えばいい」と豪語する父コンスタンタンへの反発もあり(イヴはボクが守る!的な思春期暴走)、好きでもない女と面倒な結婚をする気なんかも無く、初恋の幼姫を想いながら独身貴族よろしく生涯遊んで暮らす筈、だった。

 そしてウーサーは今、童貞でも純朴でもなく、欲望よくぼううごめく裏切りや嫉妬を切り捨て、成りたくもない王になった。

 「おのれ、、ゴルロイス、、。」

 そのすべての怒りがゴルロイスに向かった瞬間だった。

 ブリニアの王となった今、子孫を残す為に婚姻しなければならない。ならば、相手はイヴレイン以外など否。

 「和睦は拒絶された。ゴルロイスの潜むティンタジェン城を攻め落とす。」

 とはいえ、ティンタジェン城は海辺に建つ難攻不落の城。

 しかも、イヴレインを傷付けずに城を落とさねばならず、戦況は泥沼化。寝ても覚めてもイヴレインに恋焦がれ、苛立ち、八つ当たり、物や食器を壊す壊す。

 給仕や侍女達に泣きつかれ、マーディンはウーサーに助言をする。

 「神々達は手に入れられぬ女には、魔法で姿を変えて寝所に潜り込むそうです。偶然にも私には、その魔法の覚えがあります。」

 「なるほど!俺がゴルロイスの姿になれば、、マーディン頼む!イヴを想って何日もまともに眠れていないのだ!」

 それは毎晩毎晩囲い女を抱き潰しているからだろうが。と思ったが口には出さず、マーディンはあの日の約束を確かめる。

 「ではウーサー、あの日の予言通り、貴方とイヴの間に王子が生まれれば、私が預かりますが、宜しいのですね。」

 「!」

 ウーサーは幼き日のマーディンの予言、笑って承諾したあの日の約束を思い出した。

 「わかった。王子が生まれればお前に預けよう。」

 カッコ良く決めゼリフ吐いたつもりだろうが、下半身が下心丸出しなんだよ。と思ったが口には出さず、マーディンはまずゴルロイスをおびす算段から始めることにした。

 マーディンの策略通り、ウーサーの軍を敗走と見せかける事により、勢い付いていたゴルロイスが追走を始めた。

 ウーサーはゴルロイスに姿を変え、イヴレインと一夜を共にするのだった。

 そしてこの日、ゴルロイスを待ち構えていたウーサー軍の罠に掛かり、ゴルロイスの命は消えた。


 そして先程、ゴルロイスの命が消え傷心のイヴレインを慰めているうちに愛が芽生え、イヴレインのお腹の中にウーサーの子が宿されたと、王妃イヴレインを大衆にお披露目したのだが、、。

 鍵を手に取り、マーディンは鍵に施された魔法陣の細工を親指でなぞった。

 「神の配剤、、か、、。」

 面白くなりそうだ。

 マーディンは赤ワインを並々とグラスに注ぎ、鍵を本に戻した。


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