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     1.悪戯な天使

読み聞かせは、真矢ミキさんを想像して書きました。

 白い白い雲の中を風がグンッグンッと突き抜けてゆくと、まるで雲を城壁としたような大聖堂が現れる。

 光の粒が雪のようにパラパラと舞い落ちる先に、金髪碧眼の美少年と、銀髪翠眼の美少女が眉根を寄せて何やら思案している。

 大聖堂の周りに広がる見事な庭園の、脇の茂みの中にコソコソと隠れるような低い姿勢で。

 年は4、5歳ほどだろうか、純真無垢な外見からは想像もし難いほどに深く刻まれた眉間のシワがピクピクと震え、2人はどうするどうするとただ互いを見合わせていた。

 その背中には、白くふわふわとした、小鳥のような羽が開いたり閉じたりしている。

 「まさか今更バレるなんて」

 「まさか王族だったなんて」

 同時に発した言葉に互いにハッとしてやばいやばいやばいやばい、と汗がダラダラと流れ落ちる。

 そこへ、ギギ、、と扉の軋む音が2人をビクンッと硬直させた。

 バーンッッと大きく開け放たれた大聖堂の扉と同時に、

 「ティンクエシェル!ラルクシエル!」

 「はい!」「はい!」

 大聖堂から出てきた金髪金眼、足元までたゆませた金髭巻毛の老人が怒りの形相で叫ぶと、思わず茂みから立ち上がった2人が(しまった)という顔を見合わせ、

 「またお前達か!」

 「!」「!」

 2人を捕らえた老人の鋭い眼差しに、自然と体がビシッと直立不動となった。

 「よりによって、、」

 ふるりふるりと全身に怒りをまとわせてゆく老人は、カッ!!とその眼球を見開く。

 「人間の魂に悪戯するとは!どうやったらあんなことになるんだ!」

 「あ。やっぱそこ気になっちゃう?ボクもなんであんなことになっちゃうかなーってホント困っちゃいますよねー。」

 「何、ひと事みたいに言ってるの!ティンク!」

 「なんだよ、ラルクだって見てただろっ。ボクが生命の泉から生まれる魂を、ちょっと触り心地を確かめてフニフニ、、あー柔らかかったなー、、」

 「くぅぅ、、ダメだって言ったのに、、自分だけずるい!」

 「むっ。いたたっ。もうっ、そうやってジャマするから魂転がってっちゃったんだろ!いてっ。やったなこの!」

 金眼に殺意を浮かべる老人は、もう何度目かもしれぬこの光景にスッと何かが弾けた気がした。

 「ああ。なるほど、私にもよく見えるよ。」

 老人の視界に、おぼろげな光景が見え始める。


 大聖堂の中央に、雲の岩から湧き出る生命の泉。ふわり、ふわりと魂が生まれては、泉から流れ雲の通り道を通り、雲の膜に守られながら地上で待つ母の元へと吸い込まれてゆく。

 そこへ、一歩(誰もいないな)、二歩(音もないな)、ザ・忍び足、で近付くティンクの姿が。

 泉にふわりと生まれでた魂をひとつ手に取ると、キラッキラの瞳を輝かせてフニフニとその初めての柔らかさに心奪われている様子。

 そこへ、、後ろから現れる真っ赤な顔のラルク。掴み合って喧嘩を始めたティンクの手から、こぼれる魂。

 ボットフッ。

 生命の泉に落ちた魂に押し出されるように溢れた雲が、新たな流れ雲の道を創り出し、反動よろしく魂がその流れ雲に身を任せてゆく。流れ雲と魂はゆるゆらと流れ、その先で本流と合流し、仲良くふたつ並んだ魂の片方とぶつかった。

 パチンッ。ぶつかられた魂は、弾けて消えた。

 転がされた魂は、残った片方の魂に寄り添い、、雲の膜に包まれて、、

 「ウーサー王バンザーイ!」

 「イヴレイン王妃バンザーイ!」

 わぁぁあわぁああ

 大歓声の大衆を見下ろし、キャメロット城のバルコニーから手を振る、王妃の胎内へと吸い込まれていった。


 老人は右手に黄金の槍を召喚すると、ドスンッ!と雲の上に打ち下ろした。

 「!」「!」

 喧嘩していた2人の動きがピタリと止まって老人に向き直り、直立不動に姿勢を正した。

 老人は2人についてくるように伝えると大聖堂の中へと入っていく。

 2人は老人が視界から消えてまた小競り合いを始めたところに、大聖堂の扉からにゅっと飛び出してきた光の触手がカメレオンの舌のように2人をぐるぐる巻にして動きを封じ、大聖堂の中に戻っていく。

 老人の杖から伸びた触手は、2人を生命の泉のそばまで引きこむと、霧散して消えた。

 「いてて、父上もっと優しく。」

 「ずーずーしいぞティンク!太陽神ルー様を父上呼ばわりするのはお前だけだ!」

 (太陽神かよっ散々老人老人連呼してたわっ、こほん、失礼、読み手の心の声ダダ漏れ。)

 またよく目にする光景にうんざりするように、太陽神ルーは深く溜息を吐くと、槍を軽く振るう。

 キラキラ、、と光り輝く何かのカケラが現れ、太陽神ルーの手のひらの上に集まった。

 「これはな、お前達が消し去った魂のカケラだ。」

 「・・・」「・・・」

 そう言われて、流石に気まずくなったのか、2人は大人しくその場に正座する。

 「泉の乙女はいるか。」

 老人が泉に向かって問うと、

 (また老人って言っちゃったっもういいか老人で)

 (おいっ。筆者の心の声までダダ漏れに。)

 時を戻そう。


 「泉の乙女はいるか。」

 その声に呼応するように、泉の中から薄着の美女が姿を現した。絹一枚のノースリーブドレスでは、足元まで隠したつもりでも、美しい肢体のラインがシルエットに映る。

 「我が名はシャノン。久しい声ですね。」

 「海神の末裔か。実は困ったことになっておる。」

 老人が手のひらの魂のカケラをシャノンに見せる。

 ヒクッ、とシャノンの片眉が痙攣した。

 シャノンの差し出した両手のひらに、魂のカケラがふわりと移動する。

 「見ての通り、すでに魂は霧散し、このようなカケラしか残っておらぬ。だが、必要な魂なのだ、頼む。」

 「・・・私では無理でしょう。ですが、、」

 そう言って言葉を区切り、シャノンはティンクとラルクを交互に見つめた後、ティンクに向かって言った。

 「私はこの子を助けられる術を探しましょう。そのための代償を払う者を貴方は私に差し出しなさい。」

 「代償?」

 「願いを叶えたいものがそれに見合った対価を払う。与えられたものには、どんなに短くても、どんなに小さくても、過不足なく相応の対価、代償が必要なの。この世界がこの世界である為に、この世界のコトワリを変えることはできない。」

 チラリ、とシャノンはラルクを見てから、老人を見た。

 ごくり。ティンクは息を呑んで隣のラルクを指さした。

 「ボクだけ?こいつは?」

 「貴方は代償を払う者を連れて来ればいいだけ。」

 そう言いながら手のひらをそっと泉に沈めてゆく、、手のひらのカケラが泉に沈み、、持ち上げるとその手には刀身が鈍く光る剣が乗せられていた。

 「名剣カリバーン。これをブリニアの湖に沈めなさい。」

 ティンクがその剣を掴むと、泉の乙女は戻っていった。


 「と、いうわけだ。」

 老人は晴れやかな顔でそう言うと、黄金の槍を軽く振るう。光の触手がティンクをぐるぐる巻きにすると、老人の目の前まで持ち上げた。

 「ブリニア初代国王コンスタンタンは智勇に勝る女好きでな、よく私と取り合ったものだ。」

 老人は過去を振り返るの大好き。

 「その息子コンスタンティンは弟ウーサーを助けるために命を落とした、とされているが実の所、コンスタンティンがウーサーから返り討ちにあったのだ。」

 「何それ怖い。」

 ラルク、口挟んで合いの手入れると話長くなるよ?

 「ウーサーは国王になる気などなかったというのに、側近共にそそのかされたコンスタンティンは、そもそも国王の器ではなかったのだろう。若さ故の過ちは時に取り返しのつかぬものだ。」

 ティンクは、にへら、と愛想笑いで誤魔化しつつ、、なんとか触手を外せないかと握った剣を動かそうとするが全く動けない。

 「ウーサーは隣国のイヴレイン王妃のことを幼少時からずっと片想いしていてな、生涯独身を決意していたのだが、コンスタンティンが死んで王位を自分が継ぐことになって、妃にするならイヴレインじゃないと嫌だ!ってことでな、」

 なんだかこの老人、昼顔の主婦よろしくゴシップ大好きなんだろうな。ハンパじゃない情報量だよ。

 「ウーサーってむさいおっさんのくせに純情だったんですね!理想の騎士って感じ!ステキ!」

 おいこらラルク、話長くなっちゃうよ?おじいちゃん気分良くなっちゃってるよ?

 「いや、結婚しなかっただけで女遊びは激しいぞ。」

 「・・・えー、、」

 ラルク、何もそこまで引くことはなくない?ってくらい、冷たい視線を老人に向ける。

 気を良く語ってた老人の顔が、まるで孫に「おじいちゃんくさーい」と言われたかのような痛々しさに。

 「むう。」おじいちゃんがんばっ!と言いたくなるような、必死に気を保とうとしている老人は、何とかティンクの愛想笑いで持ち直し、どこまで話したっけな、あーそうそう、、と話し出した。

 「ウーサーは妃を手に入れようと隣国に攻め入ったが、隣国の城は海辺に立つ難攻不落の城、戦況は泥沼化、ウーサーは寝ても覚めてもイヴレインを妃にと諦められずにいるが、勝機の見えない現状に兵士の士気も上がらず、、」

 「欲求不満のおっさんタチ悪そう、、」

 女の子がそんな言葉使っちゃいけません、ラルク。

 「くっ、、」がんばれじいちゃん!ティンク見て!ティンクの愛想笑いでがんばって!

 「見かねた魔術師マーディンが、神話よろしく、魔法で隣国のゴルロイス国王に姿を変えてやるから一夜だけでも想いを遂げてこい、ってことで、敗走と見せかけてゴルロイスの追走を誘い、ウーサーは忍び込んでイヴレインとの一夜を手に入れることに成功した。」

 「きったねー!おっさんサイテー!」

 こらっ。ラルクっ。めっ!

 「ところが追走に失敗してゴルロイスが戦死してな、、」

 「ええええええ!ごっ、ゴルロイスぅぅぅぅ、、」

 いやいや、ラルク、ゴルロイスに感情移入しすぎ。

 言っとくけど、ゴルロイスもイヴレインも、3人の娘を持つ結構な年齢の中年よ?それに引き換えウーサーはピッチピチのアオハル真っ最中の若者だからね?今はもう中年でも、当時はまだ若かったんだからっ、そこんところよろしく。

 「ウーサーの子を懐妊したイヴレインをやっと王妃に迎える事ができたわけだが、、生まれた双子が王女と王子だったのだ。」

 「、、おめでとうございます。」

 「(怒)王子が2人生まれるはずだったのが王女が混じっておるのだ。何故だと思う?」

 「、、ちっさ過ぎて見過ごしたとか?」

 なにを?

 「スターサファイア王女とアーサー王子と名付けられたのだがな、本来ならばアーサー王子と、ヘンリー王子と名付けられるはずだったのが、アーサーが女の子の魂と入れ替わった事で女の子として生まれてしまったのだ。」

 ややこしい。

 「ややこしいが問題はまだある。アーサー王子と名付けられてはいるが中身はヘンリー王子だ。しかも、それぞれの魂が入れ替わっておる。」

 は?すいません、よくわかりません。

 「スターサファイアであるがスターサファイアではなく、アーサー王子であるがアーサー王子ではない上に、スターサファイアはヘンリー王子で、アーサー王子はスターサファイア王女なのだ。」

 てめーこのクソジジイ、わざと難しくしやがったなこの野郎っ。太陽神だか何だか知らんが喋ってるうちに楽しくなって、もっと困らせてやろうと筆者の知らん事まで付け加えやがったな!いいだろう。採用!

 「アーサーがいないのだ!肝心要かんじんかなめ!いつの世までも世間を騒がせる世界の英雄アーサー王子はなくてはならん!このままではブリニアは滅びる!世界の天秤が傾くのだ!それもこれも全ては貴様の責任だ!」

 ぜえはあぜぇはぁ、、息も絶え絶えに一気に叫びきった太陽神ルー(一応そろそろ名前を忘れられないように)。

 たくさんツバを飛ばされて、ティンクは「おじいちゃんくさーい」という顔で老人を見る。

 が、自分のやってしまった事に関しては本当に責任を感じているようで、

 「子供のやった事ですし。」

 いやまったく他人事じゃーん。

 「はあー。そう言うと思った。太陽神様、もうこいつはどうしようもないです。もう私はこんな奴の面倒は見きれません。」

 あぐらをかいて、リラックスしきったラルクは偉そうに溜息を吐く。

 怒られるのはティンクだけだと思っている様子。

 「ふんっ。」老人は鼻息で金髭巻毛を揺らすと、

 「お前のことはすべてまるっとお見通しだ!」

 どこかで聞いたことのあるようなドラマのような映画のような漫画のような決め台詞でティンクを指差す老人。

 気になった方は検索してみればいいと思う!そしてどうやらラルクのことはとりあえずまるっと無視のようだ。

 「なのでこれは預かっておく。」

 ひょいっ、と老人はティンクの背中から白い何かを抜き取った。白い羽。

 ティンクの背中を見ると、右に比べて左の羽が明らかに小さくなっている。どうやら風切羽が失われたぶん小さくなったようだ。これでは飛べないね。

 「そしてこうする。」

 「!」

 黄金の槍を軽く振るう。

 ぴぅーん!

 と、ぐるぐる巻きにされたティンクが大聖堂の外へ飛ばされたかと思えば、

 ぷつん!

 と触手が黄金の槍から切り離され、そのまま雲の下へ真っ逆さまに落ちていく。

 「アーサーの魂を元に戻せばお前も呼び戻してやる。」

 「くおーのぉーーーくーそーじーじーぃぃぃぃ、、、」

 かくして、悪戯好きの天使は下界へと落とされたのだった。

中世戦記ものだと思うので、大袈裟にR15にしときましたが、基本路線はゆるゆるで考えてます。

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