第五話:「フレイ・セフラグ」
二ヶ月後
あれから、二ヶ月が経った。この二ヶ月で俺は、覚えている初級魔術のすべてに無詠唱が仕えるのかを確認、無詠唱までにかかる時間の短縮することに着手した。
あの日以降、午前に魔術の練習を終えて、午後からヘルスとの鍛錬をする生活が始まった。
「初級魔術の無詠唱もできるようになったし、今日から、中級魔術の練習をしようかな。最初から無詠唱は無理だから、とりあえず詠唱ありでやるか」
俺はそう考え、片手に教本を持ち、もう片方の手を前にかざした。
えっと…‥よし。じゃあこの『氷射』にするか
どの魔術を使うかを決め、魔術の名前を思い浮かべた瞬間、かざしていた手から魔術が発動した。
氷の矢のようなものが形成され次々と窓を破って村の方へ飛んでいった。
な!?なんで!?勝手に発動するんだ?そんなこと考えてる場合じゃない止めないと。この氷が村の人たちに当たったら大変だ。それに、魔力設定をしていないからどんどん氷が形成されて魔力がなくなっていく。早く止めないと…‥。
俺は、足から手にかけて通っている魔力を遮断して魔術を消滅させた。
「ハァハァ。よ、よかった…‥解除できた」
安心したのか足から力が抜けてそのまま床に倒れた。
クソッ、魔力切れか…‥どんどん意識が遠のいていく。
俺が意識を失う瞬間、一階の方から階段を上がってくる音が聞こえた。
ーーー
目が覚めると見慣れたランプの明かりが目に差し込んできた。
なんだか、この光景も何回も見過ぎてなれたな…‥。
俺はあのまま気を失ったのか…‥しかし、どうして魔力切れを起こして目覚める時って何でこんなに目覚めが悪くなるんだ?
それに、俺が気を失う前に階段の方から足音がしていたよな?
考え込んでいると横から声がした。
「ルイ、大丈夫?気分悪くない?」
不安そうな顔をしたセリスと、ヘルス、ニーナ、セバスのの四人がいた。
その場にいたみんなが不安そうな表情を浮かべていた。
「はい…‥大丈夫です」
「魔力切れを起こしていたわ、魔術を使ったのね?」
少し怒ったような口調で言ってきた。
やっぱり、魔力切れを起こすのは危険なのか……こうなった以上下手に言い訳をしない方がいいか。
「はい……すみません」
「なんの魔術を使ったの?」
「中級水魔術の『氷射』です」
俺は、また発動するんじゃないかと警戒しながら自分の使用した魔術をセリスに伝えた。幸いにも、前の魔術の暴走でどうやら魔力はほとんど残っておらず魔術は発動しなかった。
「そう、中級魔術をね……ルイ」
「は、はい……」
怒られると思っていたがセリスから帰ってきた返答は予想外のものだった。
「すごいじゃないルイ!」
セリスはそう言いながら俺を抱きしめた。
「か、母様?」
「ああ、ごめんね。
ルイがなんの魔術を使ったのかが気になって少しこわばってしまったわね、
大丈夫よ!お母さんこれっぽっちも怒ってないから」
どうやら、セリスは俺がなんの魔術を使ったのかが気になっていただけらしい。
「それで、他にはなんの魔術が使えるの?」
興味深そうな顔をして聞いてきた。
「えっと、神聖魔術以外の初級魔術をほとんどと、今日使った『氷射』だけですかね。中級魔術は今日から練習しようと思っていたので」
「そうなの…‥ねえ、ルイ」
「はい?なんでしょうか?」
「ルイは魔術好き?」
「はい!好きですよ」
「じゃあ、魔術をちゃんと学んでみない?」
「魔術を?それは魔術の学校に行くということですか?」
この世界には、魔術を学ぶための学校があるというのは教本に書いてあった。
魔術を学ぶか…‥確かに俺は、中級魔術をほとんどまだ使えないし、魔力のコントロールもまだできない。また、魔術を暴走させるくらいならきちんとした機関で学んだ方がいいよな…‥。
「いや、学校じゃないわ。魔術を学べる学校は一番近いところでも3ヶ月かかるの、まだルイはその旅に体力が持たないと思うから」
「では、母様が教えていただけるんですか?」
「お母さんが教えてもいいんだけど、攻撃魔術がそんなに得意じゃなくてね……とある人に頼もうと思っているの」
「とある人?」
「その人はね、お母さんとお父さんが冒険者の頃に一緒にパーティーを組んでた子なの」
「え!?母様と父様って冒険者だったんですか!?」
俺が驚いていると今まで黙っていたヘルスが誇らしげに口を開いた。
「そうだぞ!俺と母さんは、いろいろなところに冒険をしたS級冒険者だったんだからな」
「S級?」
「S級ってのはな、冒険者にはそれぞれランクがあってな、冒険者登録したときはF級から始まってE級、D級、C級、B級、A級、S級と上がっていくんだ。つまりS級ってのは、冒険者の中で一番強い奴らが集まるところなんだ」
「なるほど!つまり父様と母様はすごい冒険者だった、ということですね」
「そういうことだ。それに、S級にいる女性がなみんなかわいくてな」
ヘルスの話が脱線したところでセリスが割って入った。
「あなた、話が脱線してる」
セリスはそう言いながらヘルスの耳を赤くなるまで引っ張り始めた。
「いててて、悪かった、一番はもちろんセリスだ」
ヘルスが言い訳をすると、セリスが顔を赤くして手を離した
「もう、今度は怒るからね」
よかったなヘルス、セリスが優しくて。
というかS級には可愛い子が多いのか……冒険者になるのも考えてみるか。
そんなことを考えているとヘルスの耳から手を離したセリスが俺の横に座ってきた。
「それでね、その時に、パーティーを組んでいた子がね今近くの大きい町にいるみたいなの、その子に、ルイの先生を頼もうと思っているんだけど、どう?」
「魔術の先生ですか……」
魔術の先生か……今は中級を一人で練習するよりも、魔力のコントロールを覚えた方がいいか、俺は前世で魔力ってものがなかったから理解しにくいし、実際に冒険者として魔術を使っている人から聞いた方が理解しやすいか……
「はい!僕も魔術を習ってみたいと思っていたのでその先生の授業を受けてみたいです」
俺がそう言うとセリスがうれしそうな顔をして立ち上がった。
「やった!そうよね!早速彼女に手紙を送るわ!」
「はい、よろしくお願いします」
話がまとまりそうになったときにヘルスが不安そうな顔をして聞いてきた。
「ルイ…‥魔術をやるってことは、剣術はもうやめるのか?」
さっきから不安そうな顔をしていたのはそういうことか…‥今も魔術と剣術の両立はできているしせっかく始めた剣術をやめる必要はないよな?
「いえ、魔術を習い始めても剣術は続けますよ!せっかく父様に教えていただけるのですから」
ヘルスは俺の言ったことを聞いて顔がほころんでいた。
1度やると決めたことを途中で投げ出すのはいけない。それに、生きていく上で魔術と剣術の両方を使えた方がいざという時の選択肢が多くなる。
「そうだよな!今までもできてたもんな」
「はい!これからもよろしくお願いします」
「ああ、こちらこそ」
俺は二人の冒険者時代の知り合いに魔術を教えてもらうことになった。
壊した家の窓のことは怒られずにすんだ。
ーーー
一ヶ月後
セリスが先生を雇うと言ってから一ヶ月の時が過ぎた。俺は、あの日以降も魔術の練習と剣術の鍛錬にいそしんだ。中級魔術の練習を本格的に始めた。あの日以降は、魔術の暴走は怒らなかった。
「そういえば母様、今日先生が来るんでしたっけ?」
「そうよ!今日の正午には着くと思うけど」
そう、今日は俺の魔術の先生が来る日だ。どうやら、うちに住み込みで教えていただけるらしい。
「そういえば先生は、どんな魔術を使っていたんですか?」
「そうね、確か、土魔術と水魔術以外は上級まで使っていたわね。土魔術は苦手で中級までしか覚えれなかったらしいわ、水魔術は確か……超級まで使えるって言ってたわね」
「へぇ、そうなんですね…‥って、超級!?超級まで使えるんですか!?魔術教本に載ってないので使える人いないかと思ってました」
「使える人多くはいないけど、魔術ギルドには結構いるって聞くわよ」
「そうなんか…‥魔術ギルド?冒険者ギルドの他に魔術ギルドなんてあるなんて知りませんでした」
「魔術ギルドはね、魔術師だけで構成されたギルドで、冒険者ギルドと同じでE級~S級に分かれてて、魔術ギルドは、新たな魔術理論の発明や魔術師としての功績でランク振り分けられるシステムになってるの」
冒険者ギルドは、行なった依頼の功績でランクが変わるのに対して、魔術ギルドは魔術理論の開発などの魔術師としての功績で変わるのか。
セリスとそんな話をして正午を迎えた。
ーーー
「セリスさん、ヘルスさんお久しぶりです。このたびは、魔術の家庭教師として雇っていただいてありがとうございます」
家の前には、金色の髪をして碧色の瞳を持ち、幼げな顔立ちをしたどこからどう見ても美少女としか言いようのない女の子が立っていた。
てっきり、セリスとヘルスと一緒にパーティーを組んでいたって言うからもっと歳を取った人が来るかと思ったけど、この人は…‥まだ十代に見えるな。
「いいのよ、フレイは教師になりたいって言ってたじゃない?だったらちょうどいいと思ってね」
「そうなんですか、ありがとうございます。それで、お子さんはどちらに」
俺は、ヘルスとセリスの後ろにいた。
「えっとね、ほらルイ前に出なさい」
「はい…‥初めまして。僕の名前はルイネス・アルストレアと申します」
「初めまして、フレイ・セフラグです」
彼女の名前を聞いたとき俺の頭がズキッと痛むような感覚がした。
う、いてて、急に頭が……。
「……パ……パ……、もう……ぐ」
なんだ……?今の?
どこかから声が聞こえたような?
まあ、考えても分からないことを気にしても意味ないか。
「今日からあなたの家庭教師をさせていただきます」
「はい!母様から聞き及んでいます。これからよろしくお願いします」
「こちらこそ……ところであなたは中級魔術を使ったと書かれていたのですが……本当ですか?」
「はい……本当ですが……」
フレイは少し怪しげな視線を向けてきた。
「そうですか……では、本当かどうかテストをします。セリスさんお庭を借りてもいいでしょうか?」
「ええ、いいわよ!それじゃあ私は後でお茶とお菓子を持っていくわね」
セリスがそう言うとフレイはうれしそうな顔をした
「はい!是非お願いします!」
「相変わらずお菓子が好きなのね」
「はい!人族のお菓子は晴らしいものです。コホン、ではルイ庭に参りましょう」
「はい…‥分かりました」
今先生、人族って言ったよな?先生は人族じゃないのか?
そんなことを考えながら歩いていると庭に到着した。
「いいですかルイ、今から一応お手本として初級魔術を使います。その後ルイには、全力で魔術を行使してもらいます。あなたが本当に中級魔術を使えるのなら使ってもらってもかまいません」
「はい、分かりました」
どうやら信じてもらえてないな…‥まあしょうがないか、こんな小さい子供が魔術を使えるわけないって思うよな…‥じゃあここはいっそ、今までの練習の成果をお見せしよう
「では、いきますよ」
フライはそう言うと手に持っていた杖を俺が作った練習用に的に向けた。
「”偉大なる水の王子よ 大いなる恵みをこの身に与え 堂々たる存在に力を見せつけろ さすれば この身を持って仇敵に力を示さん”」
フレイが詠唱を始めた瞬間周りの風がフレイにまとわりつくかのように変化し、杖の先に俺が作るよりも大きい『水弾』ができあがっていた。
『水弾』
勢いよく発射された『水弾』がベチンっと音をたてながら的を粉砕した。
「ふぅ、まあこんな感じです。あなたも、自分の一番得意な魔術を使ってみてください」
「はい!分かりました」
俺は、的の方に手をかざし、魔術を使う用意をした
ここはやっぱり、フレイと同じ『水弾』でいくか?いや、中級魔術が使えるならそっちを使えって言われたからにはそっちの方がいいか。
よし!ここはやっぱり『氷射』でいこう。一応、なんの魔術を使ったか分かるように魔術名だけは言おうか。
「では、いきます」
「はい、どうぞ」
俺は、足から手に移動する魔力を感じて、その魔力を氷に変化させ威力や射程距離などを設定した。
「うぉぉぉ!!!
『氷射』」
手を向けた前方に無数の氷を発生させ、的めがけて勢いよく飛ばした。すると、魔力を込めすぎたのか、的を粉砕し、つるしていた木に無数の氷が打ち付けられて根元からポッキリと折れてしまった。
やり過ぎたか?まあでも、全力で打てって言われたから問題ないか。
フレイの方を見ると、唖然とした様子で俺の方を見ていた。
「な!?ルイ、今詠唱をしませんでしたね!?」
「はい、練習の時にも詠唱はしていなかったので今回も詠唱はなしでやりました」
「そ、そうですか…‥すごいですね」
「先生は、無詠唱で魔術を使えないのですか?」
「で、できませんよ。無詠唱なんて…‥一朝一夕でできるもんでもないですし、今までも一人も見たことがありません。私は、詠唱を短縮することしかできません」
俺以外見たことがないか…‥俺には、前世の知識があるから魔術の性質を理解しやすいから使えるけどこっちの世界の人は科学という概念が浸透していないから性質とかが理解しにくいのかな?そんな中でも詠唱の省略をできるフレイはやっぱり優秀な魔術師なんだな。
「詠唱を短縮?どんなものか見てみたいです」
「まあいいですけど…‥私の詠唱短縮なんて、無詠唱が使えるルイにとって取るに足らないものですよ?」
そんな卑下するような言い方しなくてもいいのに…‥。
「そんなことないですよ!自分の知らないものを見られるっていうのはとても楽しいことです!」
「そ、そうですか…‥分かりました。やりましょうか」
「はい!よろしくお願いします!」
フレイは、再び杖を的に向けて集中し始めた。
「”大いなる恵みをこの身に与え 堂々たる存在に力を見せつけろ”
『水弾』」
詠唱したときと寸分変わらない威力の『水弾』が的めがけて飛んでいった。
詠唱の短縮をしても威力が変わらないのか!?
「す、すごいですね!ほとんど詠唱した時と変わらない威力でしたよ」
「最初は威力が出なかったんですけど、練習を重ねることによって変わらない威力を出せるようになりました」
「そうなんですね。これだとほとんど無詠唱と変わらないですね、先生は本当にすごいです!」
そう言うと、フレイが誇らしげな表情をした。
「そうですとも!詠唱を短縮すれば、ルイの無詠唱とだって変わらない早さで魔術を行使することができますよ!」
「なんだか、無詠唱のポテンシャルを奪われましたね。こんなすごい先生に魔術を教えてもらえるなんてとても誇らしいです」
「そんなことないですよ?私も優秀な教え子と出会ってうれしいです」
うれしいこと言ってくれるね。
この先生に魔術を教えてもらえるのは俺の今世での宝になるだろう。教えてもらう代わりに俺は優秀な生徒でいよう。
「そんなことを言っていただけるなんて、うれしいです!これからよろしくお願いします」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
こうして俺とフレイの魔術の授業の日々が始まった。




