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転生記 ~異世界では長寿を願って~  作者: 水無月蒼空
第6章:再会編
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第六十話:「久しぶり」

 ルーカスの試合騒動から、

 数ヶ月が経った。

 寒かったディーパ魔術学院も、

 ほのかな温かさが包んでいた。


 この数ヶ月間、

 俺はいつものように授業を受け、

 授業後は、研究室に隠り研究をするという生活を送っていた。


 研究は、

 あれ以降も色々な文献に目を通し、

 色々試してみたが、良い成果を得ることは出来なかった。


 時間は余るほどあるので、

 落ち着いていこうと自分に言い聞かせた。


 この数ヶ月の中で、

 一つ変わったことがあった。

 それは……。


 「おはようルイネス君」


 毎朝彼女が部屋に来る。

 ルーカスのあの件からなぜだか彼女は毎朝俺の部屋に来て一緒に学校に登校する。

 俺は彼女の行動の意図が分からなかった。

 当初俺は、自分たちの仲間の一員になって欲しくて近づいてきているのかと思った。

 学院の事に関しては協力することになっているが、

 彼女の争いに参加する気は無い。

 現在レイナ王女が、

 国から留学という形でこの学院に避難してきたのは、スィーヴズを通して分かっていた。

 彼女に直接聞いたときは、


 「もちろん君にボク達の一員になって欲しい気持ちはあるけど、

  君に迷惑を掛けるわけに行かないからね」


 と言われた。

 勧誘のためじゃないとしたら、

 彼女が俺を訪ねてくる理由は何なのだろうか?


 今日も俺は、目覚めて学院に行く支度をして部屋を出た。

 寮の階段を降り、外に出たら、

 こっちに走ってくる人影が見えた。


 「ルイネス君!おはよう!」


 もう一つの寮から走ってきたのは、

 白いフードが着いた服を羽織った彼女だった。


 「おはようございます」

 「うん、おはよう!」


 彼女は元気よくそう言った。


 「ところで、熱くないんですか?」

 「うん、これはレイナ様から貰った物で、お気に入りなんだ」


 彼女は寒い時期に着るような服を羽織っている。

 俺は初めて会ったときから来ているところを見ると、相当お気に入りなのだろう。


 俺たちはそんな会話をしながら教室に向かった。


 「おはようございます。随分と仲が良さそうですね」


 教室に入るとすぐに、

 そんな声が聞こえた。

 

 「おはようございます。貴方の指示ではないんですか」


 俺は自分の席に向かいつつ、

 声の主にそう問い返した。

 

 「フフ、まさか私は何も指示を出しておりませんよ」


 不敵な笑みを浮かべつつそう言ったのは、

 同じクラスであるレイナ・エスロア・アストだ。

 

 彼女とは、あの件以来あまり交流をしていない。

 あの件以降、俺は面倒ごとに巻き込まれないようにしてきた。

 面倒ごとに巻き込まれれば、

 自分のやりたいことに使う時間が奪われる。

 

 「ところで、何か変化はありましたか?」

 「……変化とは?」

 「何か懐かしさを感じたり、何か思い出したりとか」

 「……いえ、特には……」

 「そうですか……」


 彼女はわかりやすく気を落とすと、

 下を向いた。

 彼女の質問の意図を考えながら、

 俺も席に着いた。


―――

 俺はその日の授業を全て終わらせ、

 研究室に寄ってから寮に戻った。


 「……うーん……」


 俺は、部屋で自分のお金が入った袋を見て頭を悩ませていた。

 入学当初、傭兵まがいなことをしていたおかげで、お金にはゆとりがあった。

 だが、

 生活するには必ずお金が必要になる。

 収入なしに生活をしていると、お金がなくなるのも当然だろう。


 『ひまぁ!』


 部屋の中を走り回っている我が娘の食費がかさみ、

 いつの間にか所持金が少なくなっていた。

 

 「……久しぶりに依頼でも受けに行くか」


 俺は重たい腰を上げ、

 部屋の隅にある服掛けに掛かっているローブを着込み、

 壁に立て掛けている杖を手に取った。


 「ルーシィ、そんなに暇なら一緒に行くかい?」


 俺がそう問いかけると、

 ルーシィは耳をピンッと立ててこっちを向いた。


 『行く!』


 ルーシィは勢いよく俺の方に突進してきた。

 そして、

 走ってきた勢いのまま俺の腹部に向かって勢いよく飛んで来た。


 「そうはいくか!」


 俺は飛んでくるルーシィをキャッチした。


 「ほら行くよ」


 ルーシィは俺の身体をよじ登り、

 肩元で鎮座した。


 部屋を出て、階段を降り、

 寮の外に出た。

 

 「暖かくなったな」


 北方大陸といえ、

 この時期には雪が全て溶け、

 過ごしやすい暖かな空気が流れている。


 『ふぁぁぁ』


 温かい気に当てられて眠たくなったのか、

 ルーシィは大きなあくびをした。


 「お前な……気が緩みすぎてないか?」

 『だって、眠いたいもん』


 ルーシィはそう言って丸くなって寝息を立て始めた。

 

 「はぁ……」


 俺はそのまま歩き、

 学院の敷地を出ようとすると、

 見覚えのある馬車が門の側にあった。


 「あの馬車って……」

 

 馬車に近づくと、

 仲からある人物が降りてきた。


 「二人でどこかにいくのかい?」


 そう声を掛けてきたのは、

 この学院の学長サテラ・ウィンドヴェルだ。

 サテラはこの頃学院を留守にしていた。

 詳しくは知らないが、このディーパ魔術学院のある国の王族に呼ばれたらしい。

 

 「はい。少々所持金に頭を悩ましていましてね。ちょっとギルドの方に」

 

 俺がそう言うと、

 サテラはニヤッとした。


 「そういうことなら、私の頼みを一つ聞いてくれないさね?」

 「頼み?」

 「ある薬草の在庫が底をつきそうでね。

  取りに行きたいんだが、この老いた身体がいうことを聞かなくてね。

  ちょうど頼みを聞いてくれそうな子を探していたんだよ」

 「老いたって……あなた方長耳族の寿命を考えると、

  貴方はまだまだ動けますよね?」

 「……女性に年齢の話はタブーさね」


 彼女はそう言うと、

 ニッコリと笑いながらも彼女から感じる魔力が粗々しくなった。


 「それで、私のこの話受けてくれるのかい?」

 「報酬が出るのであれば」

 「もちろん、報酬は奮発するよ」


 その後、詳しい話を聞くため、

 学長室を訪れた。


 サテラの頼みとは、

 この間盗賊を捕まえたディーパ近隣の森。

 そこに生えている薬草を採取してくるという物だった。

 その薬草は、澄み切ったような青色をしていて。

 冬季に森に積もった雪が溶け、

 その雪溶け水が落ちた場所に生えてくる物らしい。


 「その薬草を採取してこれば良いんですね」

 「ああ、だがその薬草は滅多に生えていないから探すのが大変だと思うが、

  そこは他の者を連れていくと良いさね」


 俺は学長室を出た。

 すぐ森に向かおうと思ったが、

 

 「あの森を探すのは骨が折れるな……」


 あの森はかなり深い。

 前に盗賊のアジトになっていた洞窟にすぐ行けたのは、

 スィーヴズの協力があったからだ。

 

 「今回のことは彼らの手を煩わせる訳にはいかないな」


 だが、そうなれば、

 俺とルーシィの二人で探すことになる。

 正直、もう少し人手が欲しいところだ。

 まず、

 俺はその薬草の特徴しか聞いていない。

 本当に見つけられるのか?

 

 「ルイネスくーん!」


 そう思いつつ歩いていると、

 後ろから大きな声がした。

 声のした方を振り向くと、

 こちらに走ってくるフィードの姿があり、

 その後ろには、レイナ王女とヒュースの姿があった。


 「こんなところで何しているんだい?」


 彼女は俺の元に駆け寄ると、

 そう言った。


 「実は……」


 俺はサテラの頼み事について彼女に話した。

 すると彼女は、


 「ああ、ハスキ草のことだね」


 彼女はその薬草を知っているような口ぶりだった。


 「その……ハスキ草について詳しいんですか?」

 「うん。師匠のお気に入りでね。

  ボクの部屋にも飾ってあるよ」


 ……ん?師匠?

 彼女はサテラの弟子だったのか……。

 入学する前、サテラが言っていた弟子って彼女の事だったのか。

 まあ、その事は後で考えよう。


 ハスキ草について詳しそうな彼女がいてくれれば、

 すぐに採取することが出来る。

 頼んでみるか……。


 「実は一緒に森に行ってくれる人を探していまして、

  避ければ一緒に着いてきて貰えませんか?」


 俺がそう言うと、

 彼女は『うーん』と眉間にしわを寄せた。


 「一緒に行きたいんだけど、

  レイナ様の護衛の仕事があるからな……」

 「そうですよね」


 そう、うまく運ばないか……。

 若干諦めかけていると、

 

 「良いですよ。行ってきなさい」


 そういう声が、

 彼女の後ろから聞こえた。


 「れ、レイナ様!?」

 「二日程度、

  問題ありません」

 

 レイナは、

 笑みを浮かべつつそう言った。


 「で、ですが……」

 「大丈夫ですよ。ここは安全ですから。

  そうですよね?ヒュース?」

 「はい。ここでの護衛は私一人でも十分でしょう」


 二人はそう言った。

 彼女は二人の言葉を聞いてなお。

 少し不安げな表情だった。


 「不安なら、二日間僕達が護衛を変わってやろう」


 その声の主は、

 制服に身を包んだルーカスと、

 その護衛であるライドだった。


 「僕達が護衛に加われば、

  問題が起きても大丈夫だろう」


 ルーカスは胸を張って、

 自身一杯にそう言った。


 「ルーカス様?貴方も護衛される身ですよ?」

 「問題ない。ライドが僕とレイナ殿両方を守れば良い」

 「また無茶を……」


 ライドは肩を落としながら総呟いた。

 

 「まぁ、任せてくれ」


 ライドは一言そう言った。

 彼らを見て、

 彼女は、


 「それじゃあ、お願いしようかな」


 と言った。

 

 彼女が同行してくれることになった。

 お互い一度寮に戻り準備をすることになった。


 「ルーシィ、前に行った森を覚えているか?」

 『うん』

 「これからそこに向かう事になったから、森まで頼めるか?」

 『うん!良いよ!』


 ルーシィはそう言って、

 部屋の中を走り回った。


―――

 俺はある程度の荷物を鞄につめ、

 外に出るため仮面を付けた。

 その後すぐに集合場所である門の前に来た。


 「ハァハァハァ、お待たせ!」


 彼女は、

 鞄を肩から掛け、走ってきた。


 「すみません。こんなこと頼んでしまって」

 「全然大丈夫だよ!」


 彼女は息を切らしながら、

 微笑みながらそう言った。


 「あ!ルーシィ!」


 彼女はルーシィの頭を撫でた。

 ルーシィは彼女に撫でられるのが気持ちいいのか、

 尻尾を振っていた。

 二人は何度か会っており、

 彼女はルーシィのことを気に入っているようだ。

 ルーシィもまた、彼女の事を気に入っており、

 以前遊んでくると言って外に出ていったときは彼女の元に行っていたくらいだ。


 「それじゃあ、行きましょうか」

 「うん!」


 俺たちは、

 郊外まで歩き、

 人目の少ない場所まで来た。


 「森までどうするの?

  ちょうど良く森に向かう馬車を探す?」

 「いえ、距離があるので、

  一番早い方法を使おうと思います」

 「一番早い方法……?」

 「ルーシィ、頼んだ」

 『うん!』


 ルーシィは肩から飛び降りると、

 みるみる大きくなった。

 やがて、美しい白色をした立派な龍に姿を変えた。


 「る、ルイ……ネス君。

  これは何が起こってるの!?」


 彼女は、目の前で起こった事に頭の処理が追いついていないようだった。

 まあ無理もない。

 あんなに愛くるしい見た目から、

 こんなに凜々しい姿に変わったんだ。


 「これがルーシィですよ」


 俺は彼女にルーシィの事を話した。

 他人にはあまり言わない方が良いと思っていたが、

 彼女には伝えても良いだろうと、

 その時俺はなんとなく思った。


 「ルーシィが龍……」


 彼女は、ルーシィをジッと見つめた。


 「……綺麗……」


 彼女はポツッと呟いた。


 「まあ、ルーシィの事はこのくらいにして、

  そろそろ行きましょうか」

 「そ、そうだね」


 俺はルーシィの身体に飛び乗った。

 いつもは乗られる側なので、

 仕返しと言わんばかりに勢いよく飛び乗った。


 「ほら行きますよ」


 俺は彼女に手を差し出した。

 彼女は、俺の手をそっと取りうつむきながらルーシィの上に飛び乗った。


 「ルーシィ、頼んだ」

 『任せて!』


 ルーシィは勢いよく翼を羽ばたかせ、

 空へ飛び上がった。


 俺たちはルーシィの背にまたがり、

 森へ目指して進み始めた。

 飛んでる間、

 彼女は高い場所が怖いのか、俺の背中にしがみついていた。

 俺はなるべく揺れを感じさせないようにしながらそのまま進んだ。

 

 やがて、

 広大な広さを持つ、

 森の目の前に到着した。


 『着いたぁ!』


 ルーシィは地面に着地した後、

 翼をグッと伸ばした。


 「お疲れさま」


 俺はルーシィから降りて頭を撫でた。

 すると、

 撫でられて気持ちいいのか、

 頭を自ら当ててきた。

 いくら大きくなろうと、

 子供じみた所の多いルーシィで安心した。


 「す、すごかったね。

  ルーシィお疲れさま」


 彼女はルーシィから降りて、

 鞄の中を探った。


 「はい、これあげる」


 彼女が鞄から取り出したのは、

 何やら甘い匂いを醸し出す円形のお菓子だった。


 『これ美味しい!』


 ルーシィはさっと小さい姿になり、

 それをパクッと一口で食べて、

 もぐもぐと噛みながら、笑みを零していた。

 

 俺は持ってきた鞄を肩に掛けた。


 「それじゃあ、入りましょう」


 俺たちは森の中に入った。

 ルーシィはまたその辺で遊ぶということで別行動になった。

 

 「……妙だな」


 俺は森に入ってすぐ疑問を感じた。

 学院やディーパの町中は、

 ほとんど雪が溶け、ほのかに暖かさを感じることが出来た。

 だが、

 この森の中は、未だに寒さが森の中を包み、

 降り積もった雪が残っていた。

 いくら北方大陸といえ、

 この時期にこれだけ冬季の物が残っているのは不自然だ。


 「何か、おかしくないですか?」


 俺は彼女に問いかけると、

 

 「そうだね。なんだかここだけ時間が止まっているみたい」


 彼女は辺りを見ながらそう言った。



 「早く採取して戻りましょう」

 「そうだね。それじゃあ、ボクの思い当たる場所に行ってみよう」


 彼女はそう言って、

 森の中を見渡しながら進んだ。


 「何を探しているんですか?」

 「えっと、川を探しているんだよ。

  あの花は川辺に生えていることが多いらしいからね」


 少し苦い顔をしながら彼女はそう言った。

 俺は彼女の後ろにつき、

 彼女が歩きやすいように魔術で俺たちの周りを暖かくし、

 歩いている所の周りの雪を溶かしている。


 その後も歩き続け、

 俺たちはようやく、川を見つけた。


 「やっと見つけましたね」

 「……そう、だね」


 ようやく川を見つけたというのに、 

 彼女は曇った表情をしていた。


 「どうかしたんですか?」


 俺がそう言うと、


 「実は……昔いじめられていたときに川に溺れたことがあってね」


 彼女は、

 昔の事を話し始めた。

 彼女が話したのは、昔とある村にいるとき、

 その村の同い年の子供にいじめを受けていた。

 

 いじめを受けるうち、

 とある日、川に落とされ死にかけたことがあったらしい。

 溺れているところを、

 友達に助けて貰ったと……。


 他種族が共存しているアスト王国といえ、

 やはり種族間の価値観の違いという物が存在する。

 価値観の違いがある以上、人々の差別感というものは無くならない。

 それは、子供の世界だって同じだ。

 子供は自分の周りの環境で成長していく。

 自分の周りの大人がそういう類いであれば、

 その子供もそう育ってしまうだろう。


 いじめを受ける環境で育ってしまうと、

 暗い性格のまま育ってしまう者も多いだろう。

 だが、

 彼女は明るくここまで来ている。

 きっと、彼女の周りの環境が良くなったのだろう。


 俺は、彼女の話を聞いて、

 どこか懐かしさのような者を感じつつ、

 川辺を探した。


 「……見つかった?」


 川辺に着いて少し時間が経った頃、

 彼女はそう言った。


 「無いですね……」


 川辺を中心に探しているが、

 未だに見つけることは出来ていない。


 「ちょっと奥まで行ってくるので、

  この辺りをもう少しお願いします」

 「任せて!」


 俺は一人で、

 もう少し奥に移動した。

 さっきの一に戻れるよう、歩いた道の周りの雪を溶かしながら歩いた。


 「はぁはぁ、この森なにか変だな……」


 俺は辺りを意識しつつ、

 更に進んだ。

 すると、

 進む方向から、何やら騒がしい音が聞こえた。


 音の方へ進むと、

 黒い剣を握るフードを被った女が立っていた。


 「……誰!」 

 女は、

 木の陰から除いている俺の存在に気づき、

 こちらに振り向いた。


 「すみません。少し捜し物をしていまして」


 俺がそう言うと、

 女は剣を腰の鞘に収めた。


 「何を探しているのよ?」


 女は、俺にそう言ってきた。


 「ハスキ草という薬草を探しているのですが、

  見ていないですか?」

 「ハス……知らないわ」

 「そうですか……すみませんお邪魔しました」

 「ちょっと待ちなさい!」


 俺がその場を立ち去ろうとすると、

 女は声を荒げて呼び止めた。

 

 「何でしょうか?」

 「この辺りに強い魔物が集まっているから、

  早くこの森を出なさい」


 この人は、

 口はきついが、いい人かも知れないな。


 「ありがとうございます。気をつけます」

 

 俺は、女の忠告を聞き、

 早く切り上げようと思った。


 「それじゃあ、早く行きなさい!」


 俺は来た道を戻ろうとした。

 その時、

 突如突風が吹いた。

 振り返りざまほんの一瞬。

 女の赤い髪が見えた。


 「戻りました」

 

 俺は無事戻ることが出来た。

 戻りつつ赤髪の女に言われたことと、

 周りの異常さを考えて、日を改めることにした。


 「お帰り、どうだった?」

 「ダメでした。途中で女の人に会ったのですが、

  その人も知らないようでした」

 「そっか……」

 「それより、その人に、

  この森に魔物が集まっているから出た方が良いと言われました」

 

 俺は女から聞いた事を彼女に伝えた。


 「そっか、それじゃあ戻った方が良いかもしれないね」

 「はい。町に戻りましょう」


 移動しようとしたとき、

 ポツッと冷たい物が降ってきた。


 「雨……ですね」


 少しずつ降り出した雨は、

 徐々に強くなり、

 数分後には激しく降り注いだ。


 「ここは色々おかしいですね」

 「その前に、どこか雨をしのげる場所を探さないと!」


 俺たちは、強い雨に撃たれながらも走り、

 やがて見覚えのある小山が出てきた。


 「っ!あそこに行きましょう」

 

 小山を少し迂回し、

 人一人が通れそうな入り口の前に立った。


 「入りましょう」

 「う、うん1」


 俺たちは、

 入り口から中に入った。

 

 この洞窟は、

 前にルーカスと訪れた場所だ。

 あの一件以降、

 スィーヴズが管理しているらしい。


 階段を歩き、

 やがて広い空間に出た。


 以前はいたるところに木箱が散乱し、

 全体的に散らかっていたが、

 現在は、広間の隅に整頓されている。


 「ひとまずここで雨がやむまで待ちましょう」

 「そうだね」


 俺は燃える物を得るため、

 隅に置かれた木箱の一つを壊した


 「これは……」


 木箱の中から、

 何かの薬草のような物が出てきた。


 「……あっ!それ!」


 彼女は俺の後ろからそっとのぞき込むと、

 びっくりしたように声を上げた。


 「これがどうかしたんですか?」

 「それっ!それだよ!ボク達が探していたのは」


 彼女の反応からして、

 これがハスキ草なのだろう。


 「なんでこんな所にあるんだろう……もしかして、この箱全部」

 「おそらく、ここを根城にしていた盗賊達が売りさばいていたのでしょう。この薬草はこの辺りでしか採れないようですし」


 前にネム草を取りに行った際、

 こういった物を独占しようとする輩がいると話している冒険者がいた。

 恐らくハスキ草も同じようなものだろう。


 「まぁ、なんにしろ目的の物が手に入ったのは良かったです」

 「そうだね。問題は外だね……」


 外の大雨が止まないことには動くことが出来ない。


 「ひとまず、ここで一晩明かすことにしましょう」


 幸いなことに、

 ここには非常食が置かれており、

 一晩明かすのは苦ではなかった。


 俺たちは睡眠をとり、

 目が覚めると外に出た。


 外は雨が止んでいたものの、

 空は依然として暗い雲に覆われていた。


 「……」

 「どうしたの?」

 「……いえ、何でもありません」


 身体から力が抜けるような感覚がしたが、

 ……まあ、気のせいだろう。

 あんなところで眠ったから疲れているのかもしれない。

 早く寮に戻った方が良いか。


 「目的の物も見つかったので、森を出ましょうか」


 俺たちは森の外に出るために歩き始めた。

 昨夜降った雨のせいで地面が凍っており、かなり滑りやすくなっている。


 「足元、気をつけてください。滑りやすくなっているので」

 「大丈夫!……わっ!?」


 彼女は思いっきり足を滑らせ、

 お尻からこけた。


 「大丈夫ですか?」

 「いてて、だ、大丈夫だよ!」


 彼女は立ち上がり、

 顔を赤らめながらついた雪を払った。


 彼女は案外抜けているのか?

 これだけ見たら、

 アスト王国魔術師団の副団長とは思えない。

 この人を見ていると、何か懐かしさがあるな。

 このドジッぷり……トッタか……。


 俺はアルレシア大陸で出会った男を連想しつつ、

 その後も歩いた。


―――


 歩いていると、

 またポツポツと雨が降り始めた。


 「また降り出したね」

 「こんなに降るのは変ですね」


 この大陸は、雨が降ることが少ない。

 雨が降るよりも先に氷結し雹になって降ってくる。

 

 「急いで戻りましょう。

  昨日みたいに動けなくなる前に」

 「そうだね、急ごう!」


 俺たちは雨がひどくならないうちに帰りを急いだ。

 少し走っていると、

 何やら騒がしい音がしてきた。

 

 何の音だ……?

 魔物のうめき声か? 


 魔物のうめき声のような物と、

 それと戦闘するような音が聞こえてくる。


 「これ、何の音?」

 「恐らく、この辺りで出るという魔物と誰かが戦ってるんだと思います」

 

 昨日会った女だろうか?

 助けに行くべきなのだろうか?

 ここには凶暴な魔物が出ると言っていた。

 迂闊に助けに言って、

 こっちに被害が出たら元も子もない。

 

 今回、戦闘を想定してこの森に来たわけではない。

 無論、戦闘となれば戦えないこともないが、

 正直、

 魔物相手だと、イレギュラー発生しやすいため、

 なるべく関わりたくはない。


 「助けに行こう」


 俺がいろいろ考えていると、

 少し後ろを走る彼女はそう言った。


 「どんな魔物がいるか分かりません。危険です!」

 「それでも、戦っている人に何かあった方が大変だよ」

 

 彼女はそう言って、

 強い意志を持った表情をしていた。

 俺は、そんな彼女を見て、

 誰かの顔を思い浮かべた。

 名前も分からない少女の顔を……。


 「……っ」

 「どうしたの?」

 「……いえ、何でもありません。音の方へ行ってみましょう」


 俺たちは音の方へ向かい始めた。

 その時、

 辺りがガラッと暗くなった。


 「なに!」

 「……これは」


 俺は彼女の声がしたとき上を見ていた。

 上には、ゆっくりと地上へ近づく、

 蒼き鱗を輝かせ、

 大きな身体をうならせる一体の竜がいた。


 「おい、まじかよ……」

 

 俺はそう呟いた。


 「ルイ!危ない!」

 「っ!」


 俺は彼女に引っ張られた。


 『グシャァァ!』

 

 そこには、

 俺たちを覆い隠す程の大きさの翼を持ち、

 紫色の鱗を光り輝かせ。

 蒼い竜を睨み付けている。

 そう、

 この竜は、アルレシア大陸に生息する魔物。


 【紫竜】だ。


 この魔物はこの大陸には生息していない。

 以前の騒動の時にも大陸に存在していない魔物が放たれていた。

 

 「逃げましょう」

 

 両方とも一度は倒したことのある魔物だ。

 だが、

 二体同時にとなるとそう簡単なことではない。


 「でも、一人で戦っている人は」

 「今は自分の身の心配をしましょう」


 俺はそう言って彼女の手を引き、

 森の外に向かって走った。

 

 「ハァハァ、ちょっと、ルイネス君はや……っ!」


 彼女は急に立ち止まった。


 「どうかしましたか?」

 「……ごめん。先行って!」


 彼女はそう言って違う方角へ走っていった。

 

 「ちょ……どこに!?」


 俺は走って行く彼女の後を追った。

 

―――

 追っている間、

 彼女が何を見ながら走っているのかすぐに分かった。

 彼女は地面についた尾の跡のような物を追っていた。


 彼女は風のように颯爽と走って行く。

 俺と彼女の距離はどんどん開いていた。


 「流石半長耳族だ。俺じゃまともに追いつけないな……」

 

 以前、長耳族にあった事がある。

 分け合って追われる事になってしまい、

 人族の俺では為す術無く捕まった。

 

 彼女を追っていると、

 開けた場所に出た。

 

 そこには、

 紫色の外皮をもち、

 大きな二本の牙から緑色毒を撒く大蛇がいた。

 この魔物は、

 アルレシア大陸でA級の魔物とされている毒牙大蛇。

 昔、アスト王国の端にある村でとある少女から大切な者を奪い取った魔物……。


 「森の中で君だけには会いたくなかったよ……」


 大蛇を前にして、

 彼女はそう呟いた。


 大蛇は彼女に向かって襲い掛かった。

 しかし、

 彼女は簡単に回避した。


 「『音速衝撃波(ソニックバーン)』!」


 彼女の放った目に見えない風の衝撃波は、

 空から降り落ちる雨粒を巻き込みながら魔物に直撃した。

 

 しかし、魔術が直撃したはずの魔物は、

 何事もなかったかのように首を振った。


 「何だ……あれ」


 俺はふと、そんな言葉を零した。

 俺の目から見ても、彼女の魔術は、

 あの魔物を倒せるほどの威力を持っていた。


 それよりも、

 俺が見たのは、魔術が着弾した部分から見える真っ黒ななにか。

 良く目をこらしてみると、

 魔物を覆っている外皮を同じ物だった。


 あの魔物に黒い外皮を持つ個体などは聞いたことがない。

 だが、

 俺は一つ心当たりがあった。


 学長と会うまでの一年間、俺は傭兵のようなことをしていた。

 その時に一緒になった男からとある話を聞いたことがある。


 『魔物の中にはたまに変な個体がいるんだよ。

  同じ魔物なのにすげー強い奴。

  俺たちはそいつを特異体って呼んでる。

  そういう奴には気を付けろよ?ボウズ。

  そいつは大抵()()()()だ……』


 俺はその言葉を思い出し、

 すぐに彼女の元に向かった。


 それと同時に、

 毒牙大蛇はフィードに向かって勢いよく口を開けた。


 「避けろ!」

 「っ!」


 俺の声に反応して、

 彼女はすぐさま自身の足元に魔術を放ち魔物の攻撃を回避した。


 「俺も一緒にやります!」

 「ありがとう」

 「気を付けてください。

  恐らく、アイツは毒牙大蛇の特異体です」

 「特異体?」


 俺は特異体の存在を彼女に伝えた。


 「ということは、

  アイツは他の奴よりも強いって事だね」

 「はい、それに加えてアイツは毒を吐いてくるのでそれも注意しないといけません」


 俺がそう言うと、

 彼女は少しうつむいた。


 「うん……そうだね」


 彼女は明らかに落ち込んでいるようだった。


 「大丈夫ですか?」

 「……うん。大丈夫だよ。

  それで、どうやってアイツを倒すの?」

 「元の個体との違いを把握できていないので、

  ひとまず俺がアイツの動きを止めますから、

  その間に攻撃してください」

 「分かった」


 俺は杖を空に掲げた。


 「『土縛(アースバインド)』!」


 俺は魔物の尾を土で捕らえた。

 魔物は尾を抑えられ動きづらいのか、激しく威嚇してきた。


 「今です!」


 俺は彼女に合図を出した。


 「はぁぁぁ!」


 彼女は杖を構え力強く声を出した。


 「『破裂爆発(エクスプロージョン)』!」


 魔物の外皮は、

 小さな紅い光と共に激しい音を立て爆発した。


 黒い煙が立ち上り、

 魔物が見えなくなった。


 「ハァハァ……」


 彼女は息を切らしていた。

 あの魔術は爆発を引き起こすのに多量の魔力が必要なため、

 息切れするのも無理はない。


 「大丈夫ですか?」

 「うん。これくらい」


 彼女はその場に座り込み、

 笑いながらそう言った。


 「……っ!危ない!」


 彼女は急に起ち上がり、

 俺の腕を引っ張った。


 「くっ、」


 俺は引っ張られるがまま地面に倒れると、

 俺の頭上を鋭い石が複数通り過ぎていった。


 石の飛んで来た方を見ると、

 毒牙大蛇が大きな口を開けていた。


 「……あれは」


 魔物の目の前には崩れた土の壁のような瓦礫が落ちていた。


 「まさか……魔物が魔術を使ったのか……」


 魔術を使う魔物……。

 ミルフィッド大陸やアルレシア大陸には一部そうっいた魔物も存在する。

 竜などの魔物も魔術を扱う。

 だが、

 毒牙大蛇が魔術を使うという話は聞いたことがない。

 アイツが特異体であるから魔術を扱えるのか……。

 見たところ使う魔術は土魔術。それも、彼女の魔術に耐えられる程の魔術を使えるとしたら相当やっかいだ。

 こうなれば威力の高い魔術をぶつけるしかない。


 「少し時間を稼いでください。

  俺がアイツを倒します」

 「何か良い案でもあるの?」

 「はい、俺に任せてください」


 俺たちがそう言っていると、

 毒牙大蛇は大きな規制を発しながら大きな尾を地面に叩き付けた。

 すると、

 その部分から大きな砂渦が発生した。


 「っ!それじゃあ、よろしくお願いします」

 「うん。任せて!」


 俺たちはお互い尾別方向に飛び退いた。

 そして、

 俺は重力魔術で中に浮いた。

 彼女は地上で、

 魔物と一定の距離をとりながら注意を引いていた。


 「ふぅ……」


 俺は仮面を外し、

 一度大きく深呼吸をした。


 「偉大なる水の精霊にして 天空を司りし風来の王子よ! 

  我が願いを聞き届け 大地に旋風と天水をもたらせ!

  天からの恵みを狂わし 堂々たる存在に力を見せつけろ!

  神なる雷槍を用いて 大地に 神の怒りを打ち落とせ!」


 俺は杖に魔力を流しながら詠唱を唱えた。

 詠唱を始めたのと同時に空が更に暗くなり、

 辺りに強い風が吹き始めた。


 俺は普段、魔術を使うのに詠唱を持ち得ない。

 詠唱を唱えるのと唱えないのとでは魔術の質が違う。

 強力な魔術を扱うには、やはり詠唱する方が効率的だ。

 今回は全力でいかないと倒せそうにない。

 そのため、久しぶりに集中して詠唱を唱えた。


 「避けてください!」

 「っ!」


 俺の声と共に、

 彼女は火魔術で煙を発生させ、

 魔物の視界を奪いながら回避した。


 「はぁぁぁ!」


 俺は大きな声と共に、

 空に掲げた杖を振り下ろした。


「『雷嵐豪雨(ケラウノス)』!」


 そう唱えると、

 空を覆っていた黒い雲が渦を巻き、

 その中心から、

 目映い光が激しい音を立てながら地上に向かって降り落ちた。


 「キシャァァ!」


 魔物の断末魔のような奇声が辺りに響いた。

 俺は地上に降りた。


 「もう一発!」


 俺は杖を握っていない方の手を地面につけ、

 魔力を込めた。


 「『氷結爆発(ヘイルノヴァ)』!」


 俺がそう唱えると、

 地面が激しい勢いで真っ白凍りつきながら、

 魔物の方に向かって広がっていった。


 「ハァハァ……」


 身体全身から力が抜け、

 今にも意識が飛びそうになる。


 ハァハァ……。

 これ、魔力切れを起こしているな。

 昨日からそのままだったとはいえ、

 魔力が無くなるのが早すぎる。

 旅をしていたときも、

 これほど早く魔力が切れることはなかった。

 あれから、俺の魔力涼を多くなっているはずだ。


 そんな事を考えていると、

 魔物を覆っていた煙が徐々に薄くなっていた。


 「倒せたの?」

 

 力が入らなくなっている俺の肩を支えながら彼女がそう呟いた。

 不安そうにこちらを見る彼女の顔を見て、

 俺の頭に一人の幼い少女の顔がよぎった。


 「君は……」

 「あれは!」


 俺がふと呟くと、

 彼女が驚いた顔で前を向きながら槍発した。

 視線を向けてみると、

 全身いたるとこに傷を負った毒牙大蛇が、

 気を失っているのか死んでいるのかは分からないが地面に顔をつけている。

 魔物の周りを守るように、

 半透明の壁が毒牙大蛇を覆っていた。

 その前に壁を張る役割をしているのか、紅い剣が地面に対して斜めに刺さっていた。


 「なんだ……あれ……」


 俺は魔眼を開眼し、

 あれが結界魔術であると知った。

 それも、超級魔術を防ぐほどの……。

 それに、結界の前に刺さっている剣はかなりの魔力を帯びていた。


 「()()()()()()()()()


 俺がそう考えていると、

 奥の方から何者かが歩いてきた。

 白い鎧を着ており、腰には一本傷一つついていない真っ白い剣が収められ、もう一本鞘を携えていた。

 頭部には鎧を身に着けていないが、顔は見えない。

 そいつは自分の正体が知られないよう、

 魔道具を使っているようだった。


 「あ、あれは……」


 俺は自分の目を疑った。

 現在俺は魔眼を開眼している。

 アルレシア大陸で目覚めて以降修練を重ねて魔眼の制御が出来るようになった。

 流魔眼は瞳に映した対象の魔力量や魔力の流れを見ることが出来る。

 だが、

 そいつを映している流魔眼にはそいつの魔力が見えなかった。

 しかし、

 それとは対照的に、腰に携えている白い剣や、

 恐らくそいつが突き刺したであろう地面に刺さった紅い剣は、

 今まで見たこともない量の魔力を纏っていた。

 

 「この段階でこいつを殺されてしまうと、

  後々面倒になっているところでしたよ」


 そいつは意味の分からないことを言いながら地面に刺さった剣を抜き、

 自身の鞘に収めた。


 「お前は……誰だ!」


 フィードは声を荒げながらそう言った。

 

 「……、私はただの名も無い騎士ですよ」

 「騎士……」

 「ええ、ただ。

  守るのは国も王でもない」


 騎士がそう言うと、

 指にはめた指輪が光り出し、

 黒い渦のようなものが現れた。

 騎士はそこに手を入れ何かを取り出した。


 「っ!?」


 騎士が取り出したのは、

 俺もよく知っている白い本。


 「我が主である……」


 騎士が何かを言いかけると同時に、

 俺は身体に残っている魔力を使って魔術を撃ちだしていた。


 俺が打ち出した氷の矢は、

 騎士に向かって勢いよく飛んでいった。


 「あなたは……」


 騎士は小さく呟くと、

 右手を広げながら前に出した。

 すると、

 氷の矢は男の手に着弾し、

 何もなかったように崩れ落ちた。


 「あなたは昔から変わらなかったんですね」


 騎士そう言って、

 渦の中から、黒い球を取り出しそれを握りつぶした。


 「『魔吸玉』!」


 握りつぶしたと同時に、

 黒い球体が中に出現した。

 それを見た瞬間、

 身体が勝手に彼女を押し飛ばしていた。


 やがて、

 黒い球体に向かって風が吸い込まれ始めた。


 身体から魔力が、

 黒い球体に向かって出て行った。

 身体から更に力が抜け始めた。

 そのうち、激しい痛みが頭を襲い始めた。


 「ルイ!」


 彼女は幸いにも、

 突き飛ばしたおかげで魔力を吸われてはいないようだった。

 あの魔術を見たことがあった気がしたのか、

 意識的に彼女を遠ざけたのだと感じた。


 「とはいえ、ここで死なれても困るんですよ」


 男はそう言って、

 手を黒い球体に向けた。


 「『魔術消滅(マジックパニッシュ)』!」


 騎士は、

 自分で発生させた黒い球体を消滅させた。


 「ハァハァ……」


 魔力が底をつき、

 今にも意識を失いそうになり、

 その場に倒れた。


 「ルイ!」


 徐々に薄れる意識の中で、

 彼女がそう言いながらこちらに走ってくるのが見えた。

 すると、

 またある女の子と彼女の姿が重なった。

 

 「やらせない!今度は……今度はボクがルイを守る!」


 彼女は騎士と俺の間に立った。

 その瞬間、

 頭の中に覚えのない光景が浮かんだ。


 【ルイ!】


 頭の中で少女の声がした瞬間、

 再び激しい痛みが頭を襲った。

 見覚えのない光景、見覚えのない人達。


 「あ、あ……」


 俺はこの光景を知らない。

 俺はこの人達を知らない。

 だが、

 ()()()()()

 

 「アス……フィ……」


 俺は懐かしい彼女の名前を呼びながら意識を失った。


―――

 ルイネスが意識を失い、

 この場には、アスフィードと騎士だけが残り、

 アスフィードは意識を失ったルイネスに駆け寄った。


 「ルイ、ルイ!」


 アスフィードがルイネスに駆け寄った時、

 騎士は何かを小さく呟いた。


 アスフィードは当然そんな事には気づいて居らず、

 騎士に向かって杖を構えた。

 

 「ゆるさない……二度と、二度とルイを奪わせない」


 杖を向けられた騎士は、

 その場に立ち止まっていた。


 『グシャァァ!』


 空から雄叫びのような声を上げながら白い龍が地上に降り立った。

 

 「ルーシィ!」


 ルーシィと呼ばれた白い龍は、

 同じ白い鎧を着た騎士を睨み付けた。


 「……ここまでか」


 騎士はそう呟いて、

 白い剣を抜き放った。

 そして、

 白い剣で地面を切りつけた。


 「っ!?まさか……」


 騎士が切りつけた地面が()()()()()()()()()()()()()()()


 「まさか、お前が……」


 アスフィードは、

 杖を握る手に力を入れた。


 「今回はここまでにしましょうか。

  マ……副団長さん。その人に言っておいてください。

  ()()()()()()。とね」


 騎士はそう言って、

 裂け目の方に向かって歩き出した。


 「待て!」

 「今はおとなしくしろ。

  でないと、次は本気でその男を殺しますよ?」


 騎士は、

 今まで出さなかった殺気を放ちながらそう言った。

 色々な暗殺者と戦ったアスフィードでさえ、

 身動き一つ取れなくなってしまっていた。


 「……それでは、()()()()()()()()()()()()()


 騎士はそう言って、

 裂け目の中に飛び込んでいった。


 騎士が完全に去った後、

 アスフィードは急いでルイネスをルーシィの身体に乗せた。


 「ルーシィ急いで学院に向かって」


 ルーシィは事の次第を理解し、

 もの凄い勢いで学院に向かった。


―――

 普段通りの時間が流れるディーパ魔術学院にある騒ぎが起こった。

 空から白い龍が学院の中庭に降り立ったのだ。

 学院長サテラ・ウィンドヴェルは急いで中庭に向かった。

 白い龍という見覚えのある者が急に現れたため、

 何か問題があったのだとすぐに察した。


 中庭についてすぐに、

 龍の背中から降りてくる自分の愛弟子を見つけた。

 彼女は背中にボロボロのルイネス・アルストレアを背負っていたため、

 すぐに医療室に連れて行った。

 この騒動が騒ぎにならないよう、

 ルーシィは一度、町の外に飛び去った。


 やがて、

 ルイネスは医療室で絶対安静になり、

 アスフィードは学長に事の次第を話した。


 それから三日が経ち、

 ルイネスは目を覚ました。

 目が覚めてすぐに、

 自身のベッドの横で眠るアスフィードを見つけ頭を撫でた。

 

 「ん、っ!」


 アスフィードはすぐに目を覚まし、

 目を見開いた。


 「良かった。また離ればなれになるかと……」


 アスフィードはそう言いながら、

 今にも泣き出しそうだった。


 ルイネスは、

 そんな彼女をそっと抱きしめた。


 「えっ?ちょ……」


 急に抱きしめられ、

 顔を赤らめながら戸惑うアスフィードにルイネスは、


 「おはよう。久しぶりだね……()()()()


 そうささやいた。

 この日、

 ルイネスは、無くしていた自身の記憶を取り戻した。

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