第五十八話:「成果:後編」
現在、目の前には、
教皇に追放された貴族の二世達。
教皇並びに、その息子であるルーカス・ロンドを憎んでいる者達がいた。
「さぁ、さっさと終わらせよう。こっちはあんたと違って暇じゃないんだ」
「ああ、そうしよう」
この二日間、
ルイネスの元で特訓したが、
まだ正直自信がない。
「おい!あれをくれ!」
大柄の男が客席にいる生徒にそう言うと、
客席の方から布に包まれた長い何かが放り込まれた。
「これこれ!」
男は布をとって、
光り輝く剣を握った。
「剣……?」
剣。
魔術師とは反対の剣士達の命とも言える物。
つまり、魔術師にとっては使いづらく持ち歩く物はいない物だ。
「驚いたか?俺は魔術よりもこっち派なんだよ」
大柄の男が剣を握り、
他の二人が杖を構える。
「これは……ちょっとまずいな」
僕は今まで剣士と戦ったことがない。
ルイネスの教えて貰った戦い方も剣士に対する物は特に無かった。
それもそうだ、
ここは、魔術師を育成する場所だ。
誰が剣士がいるなんて予想できるか……。
「君、剣の方が得意なら、なんでここにいるんだ?」
「俺は剣が得意なだけで魔術が不得意な訳ではない。
いわば俺は器用なんだ。魔術も剣術も全て上達させてこそ人生を感じられるってもんだ」
自信家な奴だな。
本国にいたときもこう言う奴だったんだろう。
まぁ、腐ってもセフィス神聖王国の元貴族の息子。
追放されてもこれくらい強きでいてくれるくらいがちょうど良い。
「君、剣を使うのならこの試合は……」
今回の模擬試合を審判する教員が、
男に対してそう言った。
「大丈夫ですよ。
ちゃんと魔術も使いますし、
殺したりしませんから」
「……よろしぃ、少しでも違反行為があればすぐに失格させるからな」
「はい、もちろんです」
コホンッと一度咳払いを下の地、
審判の教員が前に出た。
「それでは、ルーカス・ロンド対オメガ・アルファ、ルコ・ベータ、プロト・ガンマによる合同チームの模擬試合を開始する」
ルーカスはこの時、
対戦相手達の名前を初めて知った。
「なお、オメガチームは、複数のため殺傷能力B級以上の魔術の使用を禁止する。」
今回学院は、ルーカスとこの三人との戦いで、公平性を保つため、
一部の魔術の使用を禁止した。
「いいのか?この程度のハンデで」
「構わない。僕の力を証明するための場だしな」
ルーカスは相手をワザと苛つかせるためにそう言った。
「それでは、開始!!」
審判員の合図で、
試合が開始した。
「お前ら、頼むぞ!」
「了解!!」
オメガの合図と共に、
ルコとプロトは詠唱を開始した。
「我の求める所に風の精霊の加護あらん 大いなる加護をその身に受け 腕章なる存在に力を見せつけろ」
「『竜巻』!」
後方新井田二人が同時に魔術を使った。
二つの大きな竜巻がルーカスに向かって襲い掛かった。
「我の求める所に風の精霊の加護あらん 大いなる加護をその身に受け 腕章なる存在に力を見せつけろ」
「『竜巻』!」
ルーカスは同じ魔術を発動させた。
三つの竜巻がぶつかり合った。
「なっ!?」
「何故だ……」
ぶつかり合った竜巻のうち、
オメガチームが放った竜巻はぶつかり合った瞬間飛散した。
ルーカスが撃った魔術は、
勢いをそのまま三人の方へ向かっている。
「燃えさかる炎の精霊よ 地熱の業火を振りかざし その威厳にて顕現せよ」
「『炎柱』!」
ルーカスはすかさず魔術を発動させた。
発動させていた魔術と今発動させた魔術が混ざり合い、
複合魔術『炎竜巻』に変化した。
「こんな物!」
オメガは、
自身の剣で魔術の軌道を逸らした。
「不純なる水の精霊よ 水流の加護を受け 我を隠す障害とかせ」
「『濃霧』!」
練習場が濃い霧に包まれ、
練習場内からも、観客席からも見えないほど視界が悪くなった。
「クソ、何も見えねぇ」
三人が戸惑っていると、
ビュン!!という音がした。
「何だ!今の音は!」
「分からない」
「オメガヤバいよ!アイツを見失った!」
三人がルーカスの姿を探していると、
右後方でバチッという音がした。
「右だ!奴は右にいる!」
三人は、
音のした方に集結した。。
「奴は何所だ!」
「……いないよ」
「あの音は何だったんだ」
三人は姿の見えないルーカスを捜していた。
「清涼なる水の精霊よ 凍てつく冷気を漂わせ 襲い来る仇敵を氷結せよ」
「『氷結領域』!」
どこからともなくそう言う声が聞こえ、
練習場の足元が氷に包まれた。
氷は三人の足を巻き込みながら凍結した。
「クッソ、足が動かねぇ」
必死に足を抜こうとしていると、
コツ、コツっと足音が三人に近づいてきた。
「降参してください」
そう言って歩いてきたのは、
姿を隠していたルーカス・ロンドだった。
「断る!降参するくらいなら足を切り落としてでも戦ってやる」
オメガはそう言い放ち、
他の二人もその言葉に同意するように、ルーカスを睨み付けた。
「そうですか。ですが、このままでは一定時間の拘束で棄権扱いになりますが?」
「だから言ったろ、足を切り落としてでも……」
「……いえ、その必要はありません」
ルーカスはそう言って、魔術を使い、オメガの剣を凍らせた。
「クソ!」
オメガは吐き捨てるようにそう言った。
「いくら剣を使え無くされようと、
俺にも魔術が……」
そう言うオメガを見ながら、
ルーカスは指を空に向けた。
「もう少しで試合終了の雨が降ります。
あまり当たらないようにはしましたが、自分でも防いでください」
ルーカスはそう言って、
霧の方へ消えていった。
「おい、オメガ」
「なんだ!」
「このままじゃやべーんじゃないか?」
「そうだよ!アイツが言ってたことが本当なら、今さっきの音って……」
「……っ!?」
オメガ達は空を見上げた。
すると、
無数の氷の矢が地上に向かって降り注いできた。
「そういう事だったのか!」
「防御が間に合わない」
「クソ……クソォォォ!」
氷の矢は三人に降りかかった。
やがて、霧と魔術によって起ち上がった砂埃が全て晴れ、
観客席からも練習場がハッキリと見えるようになった。
練習場には、
足元が凍り付き、身体の所々が凍り付いた三人の姿と、
そこから少し離れたところで疲れたように立っているルーカスの姿があった。
「そこまで!オメガチームの一定時間の拘束により、
今回の勝者は、ルーカス・ロンドとする」
審判の声と共に、
観客席から喝采が上がった。
「ありがとうございました」
試合終了後、
すぐに三人は医務室に運ばれた。
―ルイネス視点―
試合はルーカスの勝利に終わった。
結果は圧勝と言って良いだろう。
三者目線の俺から見ても、
あの三人は何も出来なかったように見えた。
「ルイネス。今回の司会……どう見えた?」
ルーカスは、俺の方へ歩いてきて、
一言そう言った。
「そうですね……俺の期待以上の戦いでしたよ?」
俺がそう言うと、
ルーカスの表情が少し濁った。
「それは嬉しいが、
僕が言いたいのは、これで彼らと何が変わるのかって事だ……」
何が変わるか……。
これを聞いた瞬間俺は何も言えなかった。
「僕も最初は戦って勝つことで納得して貰おう思った。だが、戦いながらこれじゃあ何も解決しないと思った。
例え僕が勝っても彼らとは何も変わらないだろう」
「確かに、そうかも知れませんね」
ルーカスの言い分は正しいと思う。
例え負かされても何も変わらない者は実際にいる。俺はそういう奴ばかり見てきた。
だが、まずは自分と相手を同じ高さにしないと、
こちらの言い分は通らない。だから俺はこの試合を組んで貰った。
「だけど……」
「だけど、彼らはきっと戦わないと僕の言い分なんて聞いてくれなかっただろう」
「!?」
「僕はこれから彼らと話してみる。なんとか認めて貰えるように……」
「そうですか……」
「ルイネス。色々世話になった。この後は僕自身で解決してみるよ」
「いえ、あまり役に立てず、すみませんでした」
「何を言っている。お前がいなかったら解決の糸口もなくずっとあのままだっただろう」
正直、今回俺は何も出来ていないが、
ルーカスがそう言ってくれるのなら無駄ではなかった気がする。
「そう言って貰えるのなら良かったです」
「ああ……ところでもう一つ頼みがあるんだが……」
「何ですか?」
「……になって……」
ルーカスは、
今までに無いくらい小さな声になった。
「なんて……」
「僕と友達に……なってくれないか?」
……ん?
何だ、このホワッとした空気は……?
覚悟を決めていったような表情をしているルーカスを見て、
俺はこう思った。
『ルーカスって……友達いなかったんだな……』
まあ仕方が無いか、
ルーカスは教皇の息子だし。きっと国では王族のような扱いを受けていたはずだ。
「ルイネス。そう驚かないでやってくれ。
ルーカスは今まで友達が一人しか出来たことがないんだ」
後ろから声がして振り返った。
すると、
そこにはライド・オスカーの姿があった。
「ライド!」
ルーカスはライドの姿に気づき、
声を上げた。
「そいつは俺以外友達が出来ないような臆病な奴なんだ」
「何を言ってるんだ!僕に友達が出来ないのは、誰も近寄ってこないからだ!」
「それは、お前が変な奴だからだろ?」
「そんなことはない!」
二人は、
いつもの関係では想像もつかないくらい中が良さそうに、
言い合っていた。
国にいる時でも、こうやって過ごしてきたのだろう。
「それにルーカス」
「……なんだ?」
「友達ってのは、頼んでなる物じゃないぞ?」
「え?」
「そうだよな。ルイネス」
ライドはそう言って、
俺の方へ視線を向けた。
「そうですよ。友達は頼んでなるんじゃなくて、自然になる物です!」
「そう……なのか?」
「はい。だから、俺たちはもう友達ですよ?」
「そうか……そうか!」
ルーカスは嬉しそうに、
そう呟いた。
「よかったな!友達が増えて?」
「お前はまたそうやって……今度はもう負けないからな!」
「ほう?」
「僕は今回ルイネスに弟子入りしたんだ!もうライドにだって負けない!」
ルーカスは自信いっぱいにそう言った。
ライドはそんなルーカスを見て、
「やれるもんなら、やってみろ!」
と言った。
……しかし、
弟子か……。
「あいつ……今は何してんだろうな……」
俺は苦いことを思い出しながら、
そう呟いた。
俺はそのまま、その日を終えた。
―――
一人の女の子の話をしよう。
この女の子は、実の両親を魔物に殺されずっと一緒にいた男の子の家に家族として迎えられた。
それから数年。アスト王国にあるとある村で、
家族とともに庭にある畑で作物を採取していた。
生まれてから五年ほどが経った妹達と共に、
もう一人の家族の帰りを待ちながら……。
そんな時、女の子をあの災害が襲った。
突如大地が揺れ、地面がひび割れ、地上にいた者全てを光り輝く地脈に引き込んだ。
……目が覚めると、
目の前には、果てなく続く道があった。
まるでどこかの町に続いている街道のような。
彼女は立ち上がり辺りを見ると、
木が生い茂り、右も左も同じ物が広がっていた。
「どこ……ここ……?」
目覚めた彼女が最初に発した言葉はこれだった……。
それから二日が経った。
二日間。彼女は歩き続けた。
何所に続いているのかも、何を目指しているのかも分からずに。
「お腹が……」
この街道には生物どころか、
魔物一匹も出てこない。
現在、彼女が歩いているのは、
アスト王国首都アノスに続く人魔街道。
ここは、二度の人魔戦役をアノスと共に耐え抜いた。
その影響で、この街道には様々な魔力が混ざり合い、
魔物が生まれにくい環境になっている。
別の所から移動してきた魔物達も、
この街道に生えている草などを摂取した瞬間、
多量の異質な魔力が身体を蝕み、やがて死にいたる。
この街道は人族にとって最も安全なところと言えるが、
その反面、
生物が生きるには向いていない。
そのため、
この街道に入る際は、
食料を多量に持ち込み、
尚且つ、
馬車などで移動するのが主流とされている。
だが、
彼女は急にここに飛ばされている。
そんな情報を知るよしもないだろう。
二日間飲まず食わず出歩いているが、
未だに何も出てこない。
「……あぁ、」
空から雨が降り始め、
枯れた彼女の喉を潤した。
「ハァ、ハァ……」
雨の中を歩き進んだ結果、
彼女は地面に倒れた。
いくら雨で喉が潤ったといえど、
ここまで歩いている体力の低下。
巻き込まれた災害の影響の著しい魔力の低下。
これだけのことを追いながら歩き続けていた彼女の身体は、
すでに限界を超えていた。
彼女は薄れていく意識の中で、
自らの死を感じた。
「……うっ、」
うっすらと眩しい光が、
まぶたの間を縫って差し込んだ。
何かの揺れと共に目が覚めると、
彼女は馬車の中にいた。
「なに!?」
彼女は急いで起き上がった。
彼女は自信の父親から、
長耳族は奴隷にされることが多いから、
気をつけるよう言われた事があった。
彼女が目を覚ました瞬間頭には、
その父の言葉が浮かんでいた。
「落ち着いてください。アスフィ」
彼女は声のした方を振り向いた。
「れ、レイナおねぇちゃん!?」
目の前には、
数年前にルイネスとアリスと共にブルセルに向かった、
レイナ・エスロア・アストの姿があった。
「なんで?え?」
アスフィードは目の前の状況が理解出来ず戸惑っていた。
それもそうだろう。
数年前に別れた彼女が目の前に現れているのだから。
「もう一度言います。落ち着いてください」
レイナ・エスロア・アストは、
アスフィの背中に手をやり、
落ち着かせた。
「ここは人魔街道。アスト王国の首都に続く道です。
雨に打たれながら道に倒れる貴方を発見し保護しました。
貴方は……何故こんな所に?」
アスフィードは、
自らの身に起こったことを全てレイナ・エスロア・アストに話した。
「なるほど、
貴方は、あの数ヶ月前の災害に巻き込まれたと」
その時、
彼女は疑問に思った。
「数ヶ月……?」
彼女が目覚めたのは、
ほんの二日前。
自分の認識と、
他の認識がかなりずれていることに。
数ヶ月も気を失っていれば、
普通は死んでしまうだろう。
「一体何故、私達の体感でここまでの差が生まれてしまっているのでしょうか……?」
レイナ・エスロア・アストはそう呟き、
何やら考え始めた。
だが、
アスフィードはここで、
ある事が木に掛かった。
「あの……さっき言ってた災害って」
アスフィードは、
恐る恐る訪ねた。
すると、
レイナ・エスロア・アストは、
静かに災害について話し始めた。
【リエイト領災害・防衛都市ブルセル壊滅。死者数不明。行方不明者多数。近辺の村壊滅】
耳を疑うような事実に、
アスフィードは理解することができなかった。
「えっ?……それ……じゃあ……」
アスフィードは全てを理解し、
目から涙をボロボロと流し始めた。
「ぼ、ボクはまた……」
すでに一度
実の両親を失っているアスフィードは、
今回のことと、以前の事が頭の中で混ざり合い、
どうしようもない絶望が彼女の頭を支配した。
動悸が激しく、
呼吸が出来ず、
声を発することすら出来なくなった彼女は、
涙を流しながらもがき苦しんだ。
「アスフィ!落ち着きなさい!」
レイナ・エスロア・アストは、
彼女の両肩を力強く掴んだ。
「消えた人々が死んでしまったのなら、
貴方はどうなるのですか!
貴方は実際私達の目の前にこうしている。
ならば、
他の方達もそうなのではないのですか!」
彼女の強い言葉を聞いて、
アスフィードは、物事を考えるほどの理性が戻った。
「ハァハァ……」
「落ち着きましたね」
「……はい。しかし、どうやってルイ達が無事かどうか……。
確かめる方法なんて……」
この世界には、
ルイネスが前世でいた世界とは違って、
パソコンや携帯電話などの通信機器はもちろん、
郵便などの配達面も発達していない。
出した手紙が数年の年月を掛けて送られてくることなど当たり前のこと。
ましてや、
世界のどこにいるかも分からない対象を見つけ出すことなど、
万の一つも不可能のことなのだ。
「貴方の目の前には誰が立っていると思っているのですか・」
「……え?」
レイナ・エスロア・アストは自信ありげにそう言った。
「この国の第一王女にして、
王選候補第二位のレイナ・エスロア・アストですよ?
私の力を持ってして見つけられない物などありません!」
彼女が放ったこの言葉は、
現国王の娘であるレイナ・エスロア・アストの力を行使することが出来、
それは、国直属の情報機関を利用できると言うことだ.
冒険者ギルドや魔術ギルド。王級直属の情報部門など、
世界最大の大国の情報を全て知ることが出来る。
だが、
今のアスフィードはそんな事を理解出来るはずはなかった。
「そういえば、おねぇちゃんって王女様だったね」
「ふふっ、そうですよ!」
彼女は、
かなり発育が進み、
大きくなってきている胸を思いっきり張った。
「これからしばらく私の元に来なさい。
貴方の家族を見つけることが出来るその日まで、
私の手となり友となり、そして……家族になりなさい」
アスフィードは彼女が言っていることを完全にでは無いが理解した。
そして、
彼女ならば信用の出来る人だと分かっていたアスフィードは、
彼女の元に行こうと決めた。
昔、シエラ村いた頃に、
ニーナに伝授して貰った貴族の礼儀を思い出し、
不器用ながら実践した。
「レイナ・エスロア・アスト様。
アスフィード。貴方様の剣となり、盾となり。
我が望みが果されるその時まで、
貴方様に忠誠を誓います」
この時、
第一王女レイナ・エスロア・アストの専属護衛。
アスト王国魔術師団副団長【疾風のアード】が誕生した。
なお、
彼女達がルイネスと再会するのは、
ここから数年後の事……。
第5章:学院日常編【完】→第6章:再会編




