第五十六話:「懐かしの幹部」
雪や冷たい風が顔に当たり、
ひどく震えながら飛び続け、
俺たちは、ディーパ近隣の森に到着した。
この森は、
大きな木々が生えていて、
森の中は日の光が入らないほど。
さらに、
空から降り積もる雪が森の中に入り、
侵入者の進行を阻む。
盗賊団はどうやら、
この森の特徴を利用する形で潜伏しているらしい。
「ルーシィありがとう」
俺はルーシィの背から飛び降り、
地面に降り積もっている雪を踏んだ。
「ルーシィも来るかい?」
『ううん。また遊んでくる!』
ルーシィは翼を大きく羽ばたかせ、
空へ飛び上がった。
「二日後にまた来てくれ!」
『分かった!』
そう言って、
山の方に飛び去った。
「それじゃあ、行きましょうか」
「ああ」
「……あ、それと」
「な、なんだ」
「ルーシィが竜である事は秘密にしておいてください。騒ぎになったりすると面倒なので」
「ああ、もちろんだ」
俺たちは森の中に入った。
森の中は足元が埋まるくらい雪が降り積もっていた。
しかし、
これだけ雪が積もっていては少々動きづらいな。
魔力は温存したいが、仕方が無いな。
俺は足元の魔術を使い、
熱を発生させた。
足元の雪はみるみるうちに溶けていき、
俺たちが通った後は、
雪がなくなっていた。
「見事な腕前だな。
魔術を足元に集中させて、周囲の雪を溶かしている……」
ルーカスはブツブツ俺の魔術を解析しながら呟いていた。
「とりあえず、これからの動きを伝えますね」
「え?ああ」
俺はこれからの動きを伝えた。
森の奥に拠点を構えている盗賊団を捕らえる。
どうやって盗賊の元までは、
依頼した案内人に盗賊の元まで案内して貰う。
依頼したのは、
冒険者ギルドではなく、
スィーヴズの団員だ。
町を出る際、
スィーヴズの運営する店に行き依頼をした。
案内人とは森の中で落ち合うことになっており、
落ち合う場所では案内人が狼煙を上げているらしい。
「ちょっとここで待っててください」
俺は魔術で空へ飛び上がった。
辺りを見てみると、
俺たちが歩いている方向に微かに狼煙が上がっていた。
俺はすぐに降りて、
ルーカスに方向を伝え、進み始めた。
奥に進んでいくと、
煙が立ち昇る焚き火があった。
「……ん?変だ」
俺たちはここで案内人と合流するはず、
だが、
ここには焚き火以外、人も物も無い。
静かな空間に焚き火の弾けるバチッ!っという音が転々と立っているだけだった。
ここじゃないのだろうか……。
ここには何か、
気味悪さを感じる。
「ここは……何か変だ」
考え込んでいると、
ルーカスがそう呟いた。
「変……というと?」
「ここだけ、雪が降ってこない。これだけ開けているのにだ」
「っ!」
俺はすぐに上を見ると、
確かに雪が降っていなかった。
「確かに変ですね……」
俺は何が起こっても良いように、
魔眼を開眼した。
すると、
木の根元部分が強い魔力を発していることが分かった。
その場所に向かってみると、
何かが雪に埋もれていることが分かった。
取り出してみると、
木の箱のような物が出てきた。
「箱だな……」
「箱ですね……何でしょうか」
俺は箱を開けようとしたら、
箱が光り、熱を発し始めた。
「アチッ!」
あまりの熱さに、
箱を落とした。
「何だこれは!」
箱は周りの雪を溶かしていた。
「それは!」
ルーカスは箱に飛びついた。
「この箱に施されている魔法陣、
どういう原理で動いているのだろう!
ルイネスのやつを見た感じ、箱を開けさせないようにするための物だろう。
それよりも、この魔法陣だ……。
この魔法陣の原理はまるで分からない……」
ブツブツ何かを呟いているルーカスは、
熱さを物ともせずに触れていた。
「ちょ、放してください」
俺はルーカスの腕を引き、
箱を放させた。
ルーカスの手は真っ赤になっており、
所々やけどをしているようだった。
すぐさま治癒魔術を使い、
やけどを治した。
「まったく、何をやっているんですか」
「いや、魔道具を見るとつい……」
彼はどうやら魔道具が好きなようだな。
あの熱さを忘れるくらいだ。
その熱量は相当な物だ。
「だが、あの箱の開け方なら大体分かったぞ!」
「……え?」
ルーカスは服についた雪を払い、
起ち上がった。
「この箱の魔法陣は恐らく圧力が掛かった瞬間、
魔法陣の術式が発動する仕掛けになっている」
だから箱を開けようとしたら、
発動したのか。
「この魔法陣は恐らく、
強い魔力を浴びると解除される」
「強い魔力?」
「ああ、この魔法陣は複雑な作りになっているのに、
その効果は単純な物だ。
だからその分、他のことに使われている可能性が高い。
この魔道具で他に使えることと言えば、魔道具を動かすための魔力回路だ」
なるほど、
魔力回路を外部から取り込まない魔道具なら、
制御不可の魔力を与えることで、自然に術式が崩壊する。
「そういうことなら話は早いですね」
俺はもう一度箱を掴んだ。
「うっ!やっぱり熱いな」
俺は思いっきり、
箱に魔力を込めた。
すると、
箱に亀裂が入り始め、
一気に崩壊した。
「なんか落ちたぞ」
指をさす先には、
何か魔石のような物がはまった指輪と、
紙切れのような物があった。
それを拾い上げ、
紙切れを見た。
===
ルイネス殿。
同封しております魔道具に魔力を込められたし。
===
紙の指示通り、
指輪に魔力を込めた。
指輪にはまっている魔石が光り、
一直線に伸び始めた。
「これを辿れって事か……」
光は森の中に続いていた。
「行きましょう」
「ああ」
俺たちは光をたどりに進み始めた。
ーーー
その後も進み続け、
このままで良いのかと思い始めたとき、
光が途切れ、目の前には大きな岩山があった。
「ここなのか?」
「多分ここだと思います」
目の前にある山に困惑していた。
そういえば、
前にスィーヴズの中とアジトに行ったときも、
こんな感じの山の中にあったな、
「久しぶりだなボウズ」
背後から声がして、
俺たちは振り返った。
「随分成長したな。前に会った時よりも背が伸びたんじゃねーか?」
「……え?」
振り向いた先には、
肌色の上着を羽織った男が立っていた。
だが、
それが誰なのかはすぐに分かった。
「ウリュウ……さん!」
ロシンポートで最後に見たウリュウが、
目の前にいた。
「なんでこんな所にいるんですか?」
「ボスから直の命令があってな」
「命令?」
「ああ」
ジュリアンからの直接の命令なんて、
よほどのことがあったのだろう。
『ディーパ魔術学院にいるある魔術師を援護せよ。その魔術師は、行けば分かる』
ジュリアンが出した命令は、
明らかに対象を絞られて出された命令だった。
「その魔術師って……」
「ああ、恐らくボウズのことだろう」
ウリュウがここにいるということは、
案内人とはウリュウのことだったのか。
「ルイネス。彼は誰だ?」
完全に蚊帳の外になっていたルーカスが、
頭の上に?を浮かべるような顔でそう言った。
「見たところ剣士のようだが」
「ああ、えっと……この人は昔の俺の知り合いで、今回の案内人です」
俺がそう言うと、
ウリュウは一歩前に出た。
「スィーヴズ幹部のウリュウだ。よろしくな」
「ああ、僕は……」
「ルーカス・ロンドだろ?
セフィス教団現教皇アーサー・ロンドの一人息子の。
今は建前上異国交流の名目で学院に通っている」
ウリュウは自信ありげにそう言った。
しかし、流石はスィーヴズの情報網だな。
建前上と言うのなら、教皇の真意も知っているのだろう。
「今回の目的も分かっている。こっちだ」
ウリュウに連れられるまま、
岩山を迂回し始めた。
「ボウズ。今回はルーカス・ロンドの対人強化が目的だったよな?」
「はい、そうです」
「それなら俺は手伝わない方が良いな」
「ウリュウさんには入り口の方で敵が入らないようにだけして貰えませんか?」
今回やりたいのは、
一対複数での魔術師の戦闘の実践。
そのために少しでも障害になる物は排除したい。
「いいだろう。ボウズ達が入っている間、俺が入り口を見張っててやる」
「ありがとうございます!」
ウリュウが守ってくれるのなら安心だ。
「この辺りの盗賊は無法者が多く統率があまり執れていない。
今盗賊として成り立っているのは、ここのボスが武力で従えているためだ。
武力と言っても、ボスをしている奴以外は大したことの無い連中だ。
そのため、
ウチと違って多くの手練れがいることはないが、
組織内が落ち着いていないから、裏を狙われる事は気をつけろ」
「裏……?」
「ああ、恐らくだが、ここはそんなに長くない。
内部が完全に分裂しそうだと情報が入っている。
だがら、
お前らの侵入を機にボスの座を狙おうとする者が現れる可能性が高い」
ウリュウはそう言いつつ前向かって歩いている。
だが、
何所の組織もやることは変わらないんだな。
初めは従っても、いつかは不満を持つ。
「何だか、聞き覚えのある状況ですね」
「あ、ああ。そう言われると耳が痛い」
ウリュウは、
肩をもみながら歯切れ悪そうに呟いた。
「まあ、実際。
あん時はボウズがいなかったらウチは相当まずかったしな」
「そん……」
「感謝してるぜ」
「……はい」
確かに、
あの時は色々大変だったな。
あの時は自分のためにやったことだが、
こうやって感謝されると、何か誇らしい気分になるな。
「あの……話しているとこ悪いのだが、
僕はこれからの作戦を全く聞いていないのだが」
俺たちの少し後ろを歩くルーカスが、
不安そうな表情でそう言った。
「そういえばそうでしたね」
「おい……」
「それじゃあ、これから作戦を発表します」
俺は歩きながら、
今回の作戦の概要を話し始めた。
「今回の目的は、殺傷能力の高くない魔術での複数人の相手の無力化することを身に着けることです」
「ああ」
「そういえば、まだルーカスの得意系統魔術を聞いていませんでしたね」
「おい、ボウズ……それは聞いとけよ」
「あはは……」
思わずウリュウは息を吐いた。
確かに彼を強くするために来たのならあらかじめ聞いておくべきだったな。
「君も案外抜けているのだな。
実際申告しなかった僕も悪いが……」
「いえ、完全にこちらの不手際でした」
「そうか……それじゃあまあ、僕のことだったな。
僕は火、水、風と神聖魔術が上級で、それ以外が中級。
それに、
治癒、解毒も中級だ」
「ほう」
中々だ。
正直そこまで優秀とは思わなかった。
ルーカスは、
超級魔術などの高位の魔術は会得してはいないが、
攻撃魔術の上級が三つもある。
それだけでも、十分に優秀だ。
魔術師戦において、
実践使用されるのは、上級まで。
超級となると、
消費魔力量が上級の比にならず、
一般の魔術師が使用するのにはあまりにも非効率だ。
それに加え、
治癒魔術等も中級まで納めている。
普通攻撃魔術を磨く者は、
治癒系統の魔術を覚えようとはしない。
その点、
彼はどの系統も高水準で会得している。
そして、なんと言っても神聖魔術!
セフィス神聖王国が有する国宝とも言える神聖魔術を上級。
あの国で、司祭以上になるには、
神聖魔術上級の会得が必須らしい。
そう考えると、
彼はあ、すでに司祭以上になる資格はあるわけだ。
「素晴らしいですね」
「そうだろう。国にいたときも、
毎年教団の魔術訓練を監督してくれないか頼まれていたのだからな!」
胸を張ってそう言うルーカスを見て、
彼の自信の源を見た気がした。
「ちなみに、ルイネスはどれほどのものなんだ?」
ルーカスは自信満々だ!とでも言い足そうにそう言った。
自身を崩してしまうのは申し訳ないが、
ここでウソをついてもなめられてしまうかもしてない。
ここは、現実を突きつけよう。
すまない。ルーカス・ロンド。
「そうですね、僕は水が超級。
その他攻撃系統が上級。
治癒、解毒が中級ですかね」
「……え、」
ルーカスはキョトンっとした顔をしていた。
「おい、ボウズ」
すると、
ウリュウが小さい声で俺を呼んだ。
「何です?」
「ちょっとこっち来い!」
俺は軽く引っ張られ、
ルーカスに声が聞こえないくらい離れた。
「ボウズ……」
「何ですか?」
「お嬢も言ってたが、
もう少しデリケートに扱ってやれよ」
「デリケート?」
「自分の実力に自信のある奴が、
自身以上に実力も才能もある奴を見てしまったら、気を落とすに決まっているだろうが」
ウリュウの言うことはもっともだ。
だが、
俺もそれは考えている。
「分かっていますよ。俺も嫌なほど見てきましたから」
「っ……確かにな」
表情が曇り、
ウリュウはゆっくりと起ち上がった。
「まあ、ボウズなら大丈夫か」
「はい、任せてください」
俺はルーカスの元に戻った。
彼はそのままポカンと上を向いているだけだった。
「ルーカス」
「……なんだ」
「そう落ち込まないでください。
ルーカスには神聖魔術っていう特別な物があるじゃないですか」
「……そうだが、僕はこれでも国中で天才って言われてたんだぞ」
ルーカスの実力ならそう言われるだろう。
魔術には基本、得意系統と苦手系統というものがある。
苦手系統魔術では、
中級までいけば良いとされている。
この学院でも、初級止まりや初級自体習得出来ない者もいる。
ルーカスのように上級を偏ることなく習得しているのは、
才能のある証拠だろう。
だが、
周りからもてはやされて、
自分に自信を持つと必ず痛い目を見ることになる。
「どれだけ噂されても……いざという時に大切なものを守れなければ何の意味もありません」
「……?」
「ルーカスは今のままの方が良いです。これ以上すごい力を付けてしまうといつか後悔することになりますから」
俺がそう言うと。
ルーカスは意図を理解出来ていないという顔をしていた。
「まぁ、いつか分かるときが来ます」
「そう……か?」
何だか、
随分上からになってしまったな。
これは……良くないな。
「まあ、とりあえず作戦を立てましょうか」
俺はルーカスにこれからの作戦を話した。
今回の作戦は、
あくまで複数人との対人戦。
複数人相手のため、広範囲の魔術を活用するわけだが、
何十人も同時に来てしまっては、対応することが出来ない。
そのため、
最初にやることは……。
「分断?」
「はい、複数人との戦い方ですが、多すぎては戦う事は困難です。
なので、
分断して戦う術を身に着けて貰います」
「なるほどな」
その後、
ある程度の作戦を伝えた。
ーーー
俺たちは入る前の最終確認を終え、
持ち物を担いだ。
「それでは、これから入りましょう。
俺は後ろに行くので、ルーカスは前をお願いします」
「分かった。任せてくれ」
前衛はルーカスに任せ、
俺は後衛からの援護に徹することにした。
「入り口は任せます。多分そんなに時間は掛からないと思います」
「了解した。存分に暴れてこい」
「はい!」
俺たちは岩山にある洞窟の中に入った。




