第五十四話:「学院生活」
学院に入ってから、
約二月が経った。
この二月間、
学院での生活を全うしていた。
午前は選択した授業を受け、
午後はサテラが用意してくれた研究室で聖典を破壊する方法を研究をしていた。
だが、
研究は思ったようにはうまくいかず、
難航していた。
その反面、
授業の方は順調に進んでいた。
今現在、
俺は選択した授業の内、
治癒魔術の授業を受けている。
この学院では、
治癒魔術を上級まで教えている。
俺は今現在、
中級治癒魔術まで使える。
中級では、
欠損部位などは治すことが出来ず、
冷や汗を流すことが多かった。
そうならないためにも、
この授業を学ぶ必要がある。
この授業には、
俺の他にライドの姿もあった。
ライドは授業中、
教員の言ったことを真面目に書き留めていた。
その後も授業は続き、
今日の治癒魔術の授業が終わった。
生徒達は各々別れていき、
俺たちも別れて行った。
今日俺が選択している授業は、
この治癒魔術の授業のみだ。
この後は特にやることがないため、
研究室に向かう事にした。
「おいそこの白髪!」
研究室に向かう俺を、
後ろから誰かが呼び止めた。
俺は声のした方を向くと、
深い茶色の髪をした、背丈が俺と同じくらいの男が立っていた。
「えっと……俺ですか?」
「そうだ。お前以外白髪がどこにいる」
「フィードさんとか?」
「彼女は……そういえば、彼女も白髪だったな」
彼は思い出したように、
頷いて納得した。
「それで、俺に何か用ですか?」
俺がそう聞くと、
彼は一枚の紙を取り出した。
「お前この後暇だろう?」
「いえ、暇ではありませんが……」
俺がそう言うと、
彼は手に持っていた紙を折れに突きつけた。
「これに付き合え!」
俺は突きつけられた紙を見ると、
それはギルドでよく見た依頼書だった。
依頼内容は、
近くの森に出た特異体、
ブラックティーガーの討伐。
「これに付き合えと?」
「そうだ。お前は何やら凄腕の冒険者だったらしいじゃないか?
それなら、僕の護衛をお前に任命する」
この人は何を言っているんだろう?
俺を護衛に任命?
まずこの人は、この依頼が受けられるのか?
この依頼は、C級対象の討伐依頼だ。
D級未満であるならば、受けることが出来ない。
「まず貴方は冒険者ギルドに登録しているんですか?」
「当然だ!」
彼は自信の冒険者カードを見せてきた。
===
【ルーカス・ロンド】
・E級冒険者
===
と書かれていた。
「言いにくいんですが……」
「っ?なんだ?」
「貴方ではこの依頼を受けられません」
「何だと!?」
ルーカスという彼は、
驚いたようにそう言った。
「知らなかったんですか?」
「ああ、最近登録したばかりだったからな」
なるほど、
それなら知らなくても仕方が無いか……。
俺はギルドの依頼を受ける際のことを、
ルーカスに説明した。
「なるほど……つまり僕はD級までの依頼を受けられるということか」
「はい」
これで諦めてくれるだろう。
悪いな、
俺も自分のことで精一杯なんだ。
「それじゃあ、俺はこれで」
俺が立ち去ろうとした瞬間、
目の前に見知った顔が出てきた。
「やあ、ルイネスじゃないか」
ライドが目の前に走ってきた。
すると、
ルーカスは俺の影に隠れた。
「ライド」
「一つ聞きたいんだが、茶色い髪の生徒がこの辺りにいなかったか?」
ライドは焦ったようにそう言った。
彼の言葉を聞いて、
俺は一人の男を頭に浮かべた。
「茶髪の生徒って……」
俺は後ろに隠れているルーカスを、
前に押し出した。
「ルーカス様!」
「くそ、見つかった……」
ルーカスはライドに見つかったことを悔やんでいた。
「ルイネス助かった」
「はい?」
ライドはルーカスに歩み寄り、
手を引いた。
「行きますよ」
「ら、ライド、僕の護衛任務は無視して良い!
ここはセフィス神聖王国じゃないんだ」
「そういうわけにはいきません。
教皇聖下から貴方の護衛任務を受けているのですから」
話を聞く限り、
ライドはルーカスの護衛としてこの学園に来たのか……。
まず、
ルーカスって、何者なんだ?
「僕は教皇の座を継ぐつもりはない!」
ライドに手を引かれるルーカスはそう言った。
「教皇の座……?」
教皇の座を継ぐ……?
つまりルーカスは、
教団の教皇派閥の有力者ということか?
「ルイネス助かった。今度お礼させて貰うよ」
「いえ、俺も困っていたところなので」
「ちょ、困ったって!?」
「行きますよ!」
ルーカスはライドに連れられていった。
俺は二人の後ろ姿を見た後、
研究室に向かった。
「おはよう、ルイネス君!」
俺が研究室に入ると、
部屋の中にはフィードの姿があった。
彼女には、
俺の研究の手伝いをして貰っている。
この研究室をサテラに貰った入学初日の次の日、
彼女と会ったときに俺の研究の手伝いをしたいと言ってきた。
俺がやっている研究の内容は、サテラから聞いていたようで、すぐに協力してくれていた。
俺たちはこの一ヶ月、
色々な方法で聖典を破壊しようと試みた。
燃やしたり、鋭いもので貫こうとしたり……だが、試した方法の全てが失敗に終わった。
物理的に破壊しようとしたが、
聖典に傷一つ付けることは出来なかった。
「さて、今日はどうしますか……」
この研究は毎日しているわけではない、
今は彼女が生徒会の仕事がないときにしている。
一人でやっても良いが、
俺一人では視野が狭まってしまう。
そのため、なるべく二人が揃う日にやっている。
「その事なんだけど、こんな本を見つけたんだ」
彼女はそう言って、
一冊の本を見せてきた。
本のタイトルは、
【魔道具の性質と詳細事項】
魔道具について詳しく書かれている本のようだ。
彼女は何でこの本を?
「何でこの本を?」
「えっとね、あの本を壊せないのって、
壊れないように特殊な方法で守られているんじゃないかって思ったの。
特殊な方法で守られているものって」
「なるほど、魔力のこもった道具。つまり、あの本の正体は魔道具だと思うんですね」
「うん、そう!」
なるほど、
聖典が魔道具であるなら、
魔道具の情報が書かれた本を読むのが手っ取り早い。
結論から言って、
本の内容は、あまり役に立たなかった。
本の内容は、そのほとんどが魔道具の概要についてだった。
当の破壊方法などは特に記載されていなかった。
それもそうだろう、
魔道具を破壊したいと思うのは、戦争をしている国々くらいだろう。
「ごめんね。ボクの見当が外れてた……」
彼女は申し訳なさそうにそう呟いた。
「いえ、貴方のおかげで視野が広がりました」
「そう……かな……?」
「はい」
「そっか」
彼女はホットしていた。
「とりあえず、今日は進みそうではないので終わりますか」
「そうだね」
この後どうするか……。
ルーシィは今部屋で寝ているはずだ。最近よく眠るようになった。
「……」
今思えば、
この人には大分世話になっているな……。
「この後お暇ですか?」
「うん?今日は生徒会もないし、暇だよ?」
「それじゃあ、一緒に出かけませんか?」
「……えっ?」
俺が彼女を誘うと、
彼女は動揺し、
変な声を上げた。
「で、出かけるって何所に!?」
「そうですね……俺たちなんでギルドとかで依頼を受けるのも良いんですが、
町に行きたいと思います」
「ま、町に……」
彼女は顔を赤らめ、
下を向いた。
「良い……よ」
彼女はボソッと呟いた。
俺たちは研究室を後にして、
学院を出た。
ーーー
降り積もっていた雪もすっかり無くなり、
春の暖かい日差しが地上を照らしている。
ディーパ魔術学院のあるこの町は、
人で賑わっていた。
世界でも有数な魔術学院があるため、
商人が多く立ち寄るこの町は、
魔術師や剣士、商人や住民にとって住みやすい町なのだ。
「この町はやっぱり人が多いね」
俺の横を歩く彼女はそう呟いた。
現在、俺たちは学院を出て町に赴いていた。
「そういえば……ルイネス君ってその服ばかり着ているよね」
彼女は俺の姿を見てそう言った。
俺は今、学院の制服の上に魔術師用の灰色のローブを身に着けていた。
確かに、
俺はこのローブをずっと身に着けている。
この服以外を滅多に着ない……と言うよりも、
この服以外を持っていない。
「そうですね、俺はこの服以外持っていないので」
「そうなの!?それじゃあ……今から服を買いに行こう!」
「服……ですか?」
「うん!この先にボク達が良く使う洋服屋さんがあるんだ」
王女の護衛をしている人がよく使う服屋、
興味があるな。
俺たちは、
彼女の言う服屋に向かった。
「いらっしゃいませ。フィード様」
店の中にいた店員が、
丁寧な接客で俺たちを迎えた。
「今日はどういった物を?」
「今日は、この人の服を仕立てて貰いたいんです」
店員は俺を見た。
「なるほど……分かりました。すぐにご用意致します」
店員の女性はそう言って、
店の奥の方へ入っていった。
「ここは……なんかすごいですね」
「そう?」
この店の中は、
綺麗で高そうな服が沢山置かれていた。
綺麗に整頓された列に置かれた服には、
銀貨九枚と書かれていた。
高い、
銀貨九枚というと、
一般の家庭ならば、二月は余裕で過ごせてしまう。
そんな物がこの店には多く置かれている。
「ふ、フィードさん?」
「なにかな?」
「ここひょっとして、すごくお高いんじゃ……」
「そう……かな?」
彼女はいまいちピンと来ていないような顔をした。
王女の護衛だけあって、
金銭の感覚が鈍っているのかも知れない。
そんな会話を続けていると、
店員の女性が戻ってきた。
「お待たせ致しました」
店員の女性は、
全身の服を一式持ってきた。
「こちらがよくお似合いになられると思います」
店員が持ってきた服は、
白を基調とした綺麗な服で、
その見た目は、どこか学院の制服に似ていた。
「それじゃあ、その一式をください」
「はい、ありがとうございます」
「えっと、おいくらですか?」
「シーラ金貨十一枚になります」
金貨十一枚!?
そんな大金そうそう出せない。
「ふ、フィードさん?」
「ん?」
「ちょっと俺では出せないです」
俺がそう言うと、
彼女は、小さな胸をドンと構えた。
「任せて!」
彼女はそう言って、
懐から金貨を取り出した。それも、十一枚も……。
「ちょうど頂きます」
店員の女性はそう言って、
代金を受け取った。
「はい!ルイネス君!」
彼女はそう言って、
服が入った紙包を俺に手渡した。
「すみません……いずれ必ずお返しします」
「いいよ。これは今までのお礼だから」
今まで?
この二月間のお礼だとしたら、
あまりにも貰い過ぎだ。
「……せめて、何かごちそうさせてください」
俺たちは商業区の中にある、
とある飲食店に入った。
ここは、
甘い物がとくに美味しいと彼女は言っていた。
俺はこの店に入ってすぐに、
甘い物をいっぱい注文した。
それは、
彼女が甘い物が好きだと会話の中で分かったからだ。
「ルイネス君は、こういう所良く来るの?」
「いえ、俺はあまり利用しませんね」
俺が旅をしているときは、
ほとんど自分で作った物か、
町にいるときは露店の方で買っていた。
「お待たせ致しました」
やがて、
皿を両手いっぱいに持った店員がきた。
「わぁー!」
彼女は運ばれてきた物に目を輝かせていた。
運ばれて来たのは、
果実がふんだんに使われた甘菓子だった。
「今日のお礼です。いっぱい食べてください」
「ありがとう!」
彼女は幸せそうな顔をしながら、
甘菓子を頬張っていた。
彼女は学院では王女の護衛らしく凜々しくしているが、
今は年相応な反応をする。
「懐かしいな前は……」
俺は自分が発した言葉がよく分からなかった。
懐かしい……。
俺は彼女を見て懐かしさを感じた。
一体何故だ?
「どうかしたの?」
彼女は、
俺の顔を見ながら、
心配するような表情をしていた。
「いえ、何でもありません」
俺はその後、
疑問を抱えたまま学院まで戻った。
ーーー
「今日はありがとう。とても楽しかった」
「いえこちらこそ」
今はすっかり日も暮れ、
学院の中にいた生徒達も寮の方へ帰っている。
「それじゃあ、またね」
「はい」
俺は別れて、
男子寮の方へ戻った。
「ん?何だこれ?」
俺は寮に戻り、
部屋の目の前に着くと、
俺の部屋の扉に、
紙が一枚挟まっていた。
紙を見てみると、
こう書かれていた。
『ルイネス・アルストレア様。至急生徒会室に来られたし』
俺は急ぎのようかと思い、
急いで学院棟の中にある生徒会室に向かった。
学院の真っ暗な廊下を歩き、
生徒会室の扉をノックした。
すると、
中から、
女性の声で、
「どうぞ」
と返事が返ってきた。
俺は扉を開け中に入った。
「待ち疲れましたよ?」
部屋の中には、
金髪を靡かせた女性。
レイナ・エスロア・アストがいた。
学院の中でも、
一番有名かつ人気者の生徒会長が、
護衛も付けず一人、
生徒会長のイスに腰掛けていた。
「ようこそお越しくださいました」
「えっと……私になんの御用でしょうか?」
俺がそう聞くと、
彼女はゆっくりと起ち上がり、
生徒会室の中央にあるイスに腰掛けた。
「どうぞ、お座りください」
俺は誘導されるがまま、
彼女の目の前にあるイスに腰掛けた。
「それでは、今回貴方に来ていただいた要件をお話しします」
「はい」
彼女は、
にこやかな表情をして、
話を切り出した。
「貴方には……生徒会に入って貰います」
「……はい?」
生徒会長、
レイナ・エスロア・アストの要件は、
俺を生徒会に勧誘することだった……。




