第五十三話:「入学初日:後編」
サテラは、
皆から紙を回収した。
「それじゃあ、みんな選択した授業をしっかり受けるさね」
サテラはそう言って、
教室を後にした。
初日の今日は、
授業はなく終わるようだ。
「さて、どうするか……」
今日は特にやることはない。
余った時間を何に使おうか……。
「ルイネス君」
俺が考え込んでいると、
教室の入り口の方から声を掛けられた。
「なんですか?」
「学長から鍵を預かっているんだけど」
俺に声を掛けたのはフィードだった。
彼女は学長から預かった鍵を持っていた。
「鍵……ですか?」
「うん。なんかルイネス君に渡してくれって……あ、後これも」
彼女は懐から紙を一枚取り出し、
俺に鍵と一緒に手渡した。
紙には地図のような図と、
文字が書かれていた。
【学院棟地下・南端】
と書かれていた。
「何か心当たりある?」
心当たり……って、あのことか!
俺は入学前にサテラに頼んだことを思いだした。
「もう用意してくれたのか……」
「え?」
「いえ、心当たりがあったので」
時間を何に使おうか迷っていたが、
ちょうどいい。
「貴方も来ますか?」
「え?うーん……うん行く!」
そう返事をした彼女を見て、
俺は懐かしさを感じた。
その後、
紙に書いてあった図を頼りに、
地下に下りられる階段まで歩いてきた。
「ここだね」
彼女は階段の前に立ってそう呟いた。
階段は、思いがけないところにあった。
学院棟の正面入り口にある大きな階段。
その裏に隠すように地下へと続く階段があった。
その階段は、
妙に薄暗く、奥から冷たい風が外に向かって吹いていた。
「行きましょうか」
「……うん」
彼女はこの先が怖いのか、
俺の腕を優しく掴みながらそう言った。
俺たちは階段をゆっくりと降り始めた。
階段には照明などは特になく、
薄暗いままだった。
「うっ……」
「寒いですか?」
「う、ううん。大丈夫」
彼女はそう言いながらふるえていたので、
俺は魔術を使い、
周りの温度を上げた。
「あれ?なにか暖かいような……」
「俺たちの周りの温度を上げました。
これならもう寒くはならないでしょう」
俺たちは階段を降り終わった。
すると、
急に壁に光がともった。
「あれは……魔道具か?」
壁にはランプのような物が、
一定の間を開けながら吊されていた。
俺たちが入ってすぐに明かりが付いたということは、
人の体温か魔力に反応する魔道具かな?
「あれ一つ欲しいな」
あの魔道具があれば、
明かりを付ける手間が省ける。
実に効率の良い物だ。
この地下は、
綺麗な石で形成されており、
部屋は少なく、
数少ない部屋の扉の上には、
資料室や備品室など書かれていた。
俺たちは、
紙に書かれている地点まで移動した。
すると、
一つだけ他とは年期の違う扉があった。
「ここかな……?」
俺は扉の上を見た。
すると、
扉の上には、
【第一研究室】
と書かれていた。
ここは学院棟だ。
生徒や教員が研究しているのは研究棟だ。
研究施設は全て研究棟にあるはずだが、ここにもあったのか……。
「そういえば、学長が言っていたんだけど」
「何ですか?」
「地下を壊さないでくれさね……だって」
地下を壊すな?
あの人は俺が暴れるとでも思っているのか・
俺は鍵を扉に差し込み、
鍵を開けた。
そして、、
ゆっくりと扉を開けた。
扉を開けた先は、
真っ暗な空間が広がっていた。
「何も見えないね」
真っ暗な部屋の中で、
麻植は魔術を使った。
「『光射』!」
部屋の中を選らすと、
この部屋の中が見えた。
「あれは……」
部屋の中には特に物は無く、
殺風景な部屋だった。
だが、
俺の目が向いたのは、
扉の前に置かれていた銀色に輝く岩の像だった。
「何だあれ……?」
俺が呟くと、
彼女は杖を構えた。
「ルイネス君。構えて」
「え?」
状況を理解出来ていない俺を尻目に、
像が動き始めた。
「あれはゴーレムだよ」
ゴーレム。
魔物の中でも位の高い位置にある魔物だ。
外装はとても硬く並の剣士では傷を付けられない。
それは魔術師でも同じ事だ。
俺は今日、杖を持ってきていない。
魔術は杖がなくても使えるが、やはり不安だ。
俺は念のために、
魔眼を開眼した。
【ゴーレムが火魔術を使い攻撃してくる】
魔眼の予測を見て、
俺はすぐに魔術を使った。
「『土壁』!」
俺が魔術を使った瞬間、
ゴーレムが火魔術を使った。
「よく分かったね」
彼女は驚いているようだった。
「この魔眼で、相手の動きを読めるんですよ。かなり疲れますけど」
俺はそう言って、
魔眼を指さした。
「へぇ、右目って魔眼だったんだね」
俺の目は左右で色が違う。
右目が魔眼になっているため色が変わっている。
「少し先の事なら予測することが出来ます」
「予測?」
「……簡単に言えば、起こりうる未来を見ることが出来るみたいな感じです」
「へぇ、それはすごいね!」
彼女は感心したように頷いた。
すると、
俺の壁にぶつかったゴーレムは、
方向を変え、
壁の裏にいた俺たちを見た。
「来ます」
「うん!」
「俺が援護するので、フィードはどんどん攻めてください」
今回杖を持っていない俺が無理に攻めるよりも、
無詠唱が使えて杖を所持している彼女に攻撃して貰うのが得策だろう。
「それじゃあ、俺がヤツの動きを止めます」
ここは地下なので、
地面をいじくる魔術は使えない。
ならば、
「『氷結領域』!」
俺は部屋全体を凍らせて、
ゴーレムの脚を、凍らせる事で床と同化させた。
「ヤツの足は止めました。今です!」
「了解!」
俺が合図をすると、
彼女は杖をゴーレムに向けた。
「『音速衝撃波』!」
彼女の魔術は勢いよくゴーレムに向かって飛んでいき、
ゴーレムに着弾した。
「……効いてない……」
彼女はボソッと呟いた。
確かに、彼女の魔術は、あのゴーレムに効いていないようだった。
「もしかしたら、
あのゴーレムは魔術に対して耐性を持っているのかも知れません」
「耐性……」
「……それじゃあ、攻守交代しましょう」
今は杖がないが、
魔術を使うことは出来る。
「援護お願いします」
「分かった」
彼女はそう言うと、
ゴーレムに向かって魔術を唱えた。
「『風縛』!」
彼女の魔術は、
ゴーレムを縛り付けた。
「……」
ゴーレムは風に縛られ動けないようだった。
「今だよ!ルイ……ネス君」
「はい!」
俺はゴーレムに向かって魔術を使った。
魔眼越しに見ると、
あのゴーレムの一部に魔力が集中していた。
「あそこに当てれば……」」
俺は手を魔力が集まっているところに向けた。
「『氷射』!」
無数の氷の矢が、
魔力が集中しているところに向かって飛んでいった。
氷の矢はゴーレムを貫き、
ゴーレムの奥の壁に傷を付けた。
「……すごい」
ゴーレムは力を失ったように、
床に崩れ落ちた。
「このゴーレム……」
俺はゴーレムに近づき、
ある異変に気がついた。
このゴーレムは、
俺が撃った魔術で傷がついていなかった。
打ち抜いた部分には確かに穴が空いているが、
その他に着弾した部分には、傷が一つも付いていなかった。
「……まぁ、今は良いか」
俺はひとまず、
学長に話を聞くことにした。
「あそこ!あの壁に扉がある!」
彼女は奥の壁を指さした。
奥の壁には、壁と同化するように扉が備え付けられていた。
「……どうする?」
彼女は俺に決定権を与えるようにそう言った。
俺自身、
この先に何があるのかは気になる。
あのゴーレムは恐らく扉を守る役割を果していたのだろう。
つまり、
あの奥には、このゴーレムが守るほどの物がある。ということだ。
「行ってみましょう」
俺たちは、
バラバラになったゴーレムを避け、
奥の扉の目の前にやってきた。
「……ん?開かない?」
俺は扉を開けようとしたが、
びくともしなかった。
扉には鍵穴も特になく、
どうやって開けるのか分からなかった。
「……」
「ここ!ここに何かはまってるよ!」
彼女は扉の少し上の所を指さした。
彼女が指さす先には、
小さな赤い石がはまっていた。
「これって……まさか!?」
俺はその石に触れ、
身体の中から魔力を流した。
すると、
赤い石は徐々に光り出し、
扉からガチャッという音が鳴った。
「……」
俺がゆっくりとひねると、
扉がギィィっと音を立てながら開いた。
「……なんだあれ!」
扉の先には、
先程の部屋よりも比べものにならないほどの広さがある部屋があった。
奥には、
何かの紋様が描かれた布が壁に飾られていた。
「これ……何だろう?」
部屋の中央に机が置かれ、
その上には、
腕にはめるような装飾品が置かれていた。
「これにも石がはまってるね」
この装飾品にも、
数個の石がはまっていた。
はまっている石は、赤色、緑色、青色、黄色の石がはまっていた。
これを見た瞬間、
俺はある物が頭をよぎった。
「フィード……」
「なに?」
「この石の色に見覚えがありませんか?」
俺がそう言うと、
彼女は「うーん」と声を出しながら考えた。
考えるうちに、
彼女の視線は、自身の杖に向いていた。
「魔術師用の杖に付いている魔石!」
「そうです」
この装飾品に付いている石は、
魔術師用の杖に付いている魔石と瓜二つだった。
俺はその装飾品を腕にはめ、
手をかざした。
すると、
俺の魔力がほんの少し装飾品に吸われ、
無詠唱魔術を使う前に魔術が発動した。
それも、消費した魔力からは発動するはずのない威力をした魔術だった。
「わっ!?」
勝手に魔術が発動した。
それも、
俺が無詠唱魔術を使おうとするよりも速い速度で魔術が発動した。
「これ……すごいな」
この装飾品は、
恐らく魔道具だ。
この魔道具は少量の魔力で、
何倍もの威力を持つ魔術を無詠唱よりも早い速度で使うことの出来るものだ。
「フィード、これはすごいです」
「そう……なの?」
「はい!」
俺はこの魔道具のすごさを事細かに説明した。
彼女は、
俺が説明する事をよく聞いていた。
「それって、私達無詠唱魔術が使える魔術師よりも、
無詠唱魔術が使えない魔術師の人が使う方が効果が出るね」
「そうなんですよ!」
「例えば、先生とかね!」
彼女はそう言いながら、
俺の顔をのぞき込んできた。
「先生って……サテラ学長の事ですか?」
あの人は確かに無詠唱魔術は使えないが、
正直、この魔道具に頼らなくても、
普通に戦えると思うが……。
俺がそう言うと、
彼女は残念そうな顔をした。
「もういいよ!とりあえず一度学長のと頃に戻ろう!」
「っ?はい……?」
俺は彼女の後を追い、
この部屋から出た。
彼女は止まることなく進み、
やがて学長室の目の前に着いた。
彼女は扉をノックした。
「サテラ学長、フィードです」
彼女がそう言うと、
扉の向こうから「入るさね」という声が聞こえてきた。
「失礼します」
俺たちは学長室に入った。
「研究室はどうだったさね?」
サテラは、
いい顔をしながらそう言った。
「学長が指示した部屋に行ってみたところ、
謎のゴーレムが奥の扉を守っていました」
俺が淡々とそう言うと、
サテラは、眉を歪めた。
「それで、研究室を壊さずに無力化は出来たのかい?」
サテラは不安そうにそう言った。
「はい、壁や床などに特に被害を出すことなく無力化することが出来ました」
俺がそう言うと、
サテラは驚いたような表情で固まっていた。
「ほう、あのゴーレムを被害を出さずに無力化したのか」
「はい」
「……さすがは龍王さね」
凄腕の魔術師である彼女も、
驚いたようだった。
「ところで、あのゴーレムは何だったんですか?」
俺がそう聞くと、
彼女は色々話し始めた。
あのゴーレムは、
初代学長が自身の部屋を守らせるために、
あの通路のような部屋に置いたゴーレムらしい。
あのゴーレムは、
部屋の中に人が入らない限り動くことはないので、
外から鍵を掛け入れないようにしていたらしい。
「あの部屋は、初代学長が研究をするために使っていた部屋さね。
お前さんのやりたいことをかなえるにはあの研究室を使うのが一番と考えたからあの部屋を斡旋したさね。
だから、あまり恨まないでくれ」
サテラは申し訳なさそうにそう言った。
彼女が申し訳なさそうに言うのは、
恐らく、あのゴーレムが他のゴーレムとは全く異なるようなものだからだろう。
あのゴーレムは、
装甲が頑丈すぎた。
俺が使う魔術でも、
傷一つ付けることは出来なかった。
そんな事は初めてだ。
サテラもあのゴーレムが特別製だということは知っていたのだろう。
だから、
多少申し訳なさそうなのだろう。
「あの部屋のものは好きに使って貰って構わないさね。
頑張ってあれの破壊方法を研究するさね!」
俺たちは部屋を出た。
予想通り、
あの部屋がサテラが俺に用意した研究室。
初代学長が研究に使っていた部屋なら、
俺が知りたいことも見つけることが出来るかも知れない。
その後、
俺はフィードと別れ、
男子寮に戻った。
今日一日色々なことがあったが、
実に充実していた。
こうして、
俺の入学初日を終えた。
第4章:学院入学編【完】→第5章:学院日常編




