第四十九話:「新たな来客」
シーラ王国の隅にある。
【コム】という町。
この町はさほど大きい町ではないが、
大国アスト王国と国境にあるため、警備は厳重だ。
そんな町の警備団が、
ある日突然壊滅した。
警備団の約三割が再起不能になり、
残りの七割は治癒術士の治療待ちという状況だった。
警備団が何故このような状況になったのかは、
この町に起こった事から話そう。
ある日、
突如として、
ある魔物が町に下りてきた。
その魔物は、
シーラ王国のある北方大陸において、
最も危険と言われている。
蒼い鱗を全身に纏い、
頭からは立派な角が二本伸び、
他の竜と違って、翼は生えていない。
だが、
他の竜同様空を飛ぶ。
この竜は水系統魔術を使用してくるため、
現れたときには、この大陸で滅多に降らない雨が降る。
この竜は青竜と呼ばれ、
この大陸に住む人から恐れられている。
それと同時に、作物の守り神とも呼ばれている。
青竜は滅多に人里に下りてこない。
だが、
希に傷を負った青竜が下りてくる場合がある。
今回下りて来た青竜は、
所々鱗が剥げ、全身に傷を負った状態だった。
警備団は青竜から町を守るために討伐を開始した。
しかし、
いくら傷を負えど、
人より何十倍もの体格を誇る青竜に、
警備団は為す術がなかった。
その後、
町の冒険者ギルドが滞在する冒険者達に依頼を出した。
青竜が来てすぐ、町から離れた冒険者も多かったが、
数組の冒険者は残っていた。
出された依頼は、
青竜の撃退もしくは討伐。
危険が伴う依頼に、冒険者達は受けようとしなかった。
だが、
一人だけ、
依頼を受けると言った。
「竜討伐は経験済みなので」
そう言ったのは、
白い毛並みの小さい魔獣を肩に乗せた、
灰色のローブを身に纏った魔術師。
彼は一人、杖を持って青竜と対峙した……。
強い雨が降り、
降り積もった雪を溶かしている。
足場も濡れて悪く、
とても戦いに向いているような状況ではなかった。
「こういうの、久しぶりだな……」
魔術師はそう呟くと、
青竜を見上げた。
『キュルゥ?』
「すぐ終わらせるから」
魔術師は、
魔獣の言葉が分かるのか、
そう言って魔獣の頭を優しく撫でた。
青竜は空に浮かび、
魔術師を見下ろしていた。
「グルゥゥゥ」
青竜は知性があまり高い魔物ではない。
だが、
敵意には敏感で、
目の前にいる魔術師を強く警戒した。
「『氷射』!」
魔術師は、
無数の氷の矢を生み出し、
青竜に向かって打ち出した。
向かってくる氷の矢を、
空中で身体をひねりながら全て回避した。
「あれ……?」
青竜は、
とてつもない勢いで、
魔術師めがけて襲いかかった。
「『土壁』!」
「グルゥゥ!?」
青竜は、
壁に衝突した。
「『土縛』!」
青竜は土で拘束された。
力の強い竜だが、
拘束を解けないでいた。
「『風刃』!」
風の刃は、
青竜の首を切り落とした。
首がなくなった青竜は、
少しの間暴れた後、
力が無くなったように動かなくなった。
その後、
青竜の身体は冒険者ギルドに運び込まれた。
「これは……」
冒険者ギルドに運び込まれた青竜は、
町へ下りてきた理由解明のために調べられた。
すると、
この青竜はここに来るまでに何者かに攻撃を受けていた。
ギルドは、
魔術師に対して報酬を支払った。
通常では高額の報酬が支払われる所だが、
今回は、
魔術師の要望で魔石が報酬になった。
「この青竜を倒したの誰か知ってるか?」
ギルドに運び込まれた魔物を見て、
討伐に参加しなかった冒険者が、もう一人の冒険者に対してそう言った。
「いや?知らねーが……?」
「魔術師なんだけどよ、
そいつ、まだD級らしいぜ」
「D級!?そんなやつが青竜を倒したのかよ……」
シュレーラスの騒動から、
約一年ほどの月日が流れた。
セフィス神聖王国は未だに【龍王】の消息がつかめず、
騒動の捜査は難航していた。
その消息が不明な魔術師、
【龍王】は現在どこにいるのかというと、
コムの町にいた。
コムの町に下りてきた青竜を討伐したのは、
ルイネス・アルストレアだった……。
ーーー
シュレーラスの騒動から一年が経った。
俺は色々な所を周りながら旅を続けていた。
旅をしている間、
セフィス神聖王国からの追っ手はなく、
今だに俺が犯人とつかめていないようだ。
俺はギルドにもう一度登録し直した。
前のままでもバレなかったと思うが、念には念を入れてだ。
現在、俺はD級冒険者だ。
前回は、魔術ギルドからそのまま階級を移したので、
D級冒険者というのは初めてだ。
訪れたところで、
ギルドの依頼をこなしつつ、
移動の際には、スィーヴズで護衛依頼を回して貰って移動していた。
ある町では、
貴族から人を助け出す事にも協力したが、
今は良いだろう。
俺はあれ以降、
重力魔術を使わないようにしている。
今回の青竜討伐の時も、
つい癖で使いそうになるが、使うと恐らく特定される危険がある。
必要な時を見極めなけなきゃいけない。
あれ以降一つだけ出来ていないことがある。
それは、彼女の手紙を読むこと。
ジルから渡されたフィラの手紙。
あれを今でも読むことが出来ていない。
手紙を読むと、
彼女の死を乗り越えようとしている今の気持ちが、
あの彼女を失ってすぐの頃に戻ってしまう。
「いつかは、ちゃんと見て乗り越えなきゃな……」
そう思っていると、
俺の指に生暖かい感触がした。
『大丈夫?』
そんな声がした。
声をした方を見ると、
目の前に白い毛並みで、
心配そうにこちらを見ている魔獣が俺の指をなめていた。
「大丈夫だよ」
俺が頭を撫でてやると、
嬉しそうに尻尾を振った。
「ルーシィ。暇だったら遊びに行ってきても良いよ」
俺がそう言うと、
ルーシィは嬉しそうに耳と尻尾を立てた。
『ホント!』
「この町にはもう少しいるから。
町を出るときにまた呼びに行くよ」
『分かった!行ってくる!』
ルーシィは勢いよく外に出ていった。
あのルーシィは、
この一年間の間に保護した魔獣だ。
ルーシィと出会ったのはセフィス神聖王国近くの森の中だ。
出会ったと言っても、卵の時だ。
実際に出会ったのは、ルーシィの母親だ。
ルーシィの母親は、美しい白い毛並みをした竜だった。
旅の途中、
盗賊に襲われている、白い竜と出会った。
その竜は、翼のいたる所に穴が開き、腹部には刃物で突けたような大きな傷。
鱗も至る所が剥げている。
いつもなら無視してしまう所だが、
何故かあの日は身体が勝手に動き竜を助けていた。
俺は魔術で治癒させようとしたが、
すでに大量に出血していて助けることが出来なかった。
俺はその竜をそのままにしておく訳にもいかず、
火葬しようとしたところ、
竜が守っていた卵を発見した。
竜を燃やして、卵をどうするか迷っていたところ、
ヒビが入って、
中からルーシィが出てきた。
生まれてたばかりのルーシィは、
俺を親と勘違いしてすぐに懐いた。
そのまま自然に戻すのも申し訳なかったので、
一緒に旅をすることにした。
旅を共に始めて少しした頃から、
四六時中声がするようになった。
誰が声を出しているのか探したところ、
ルーシィだった。
俺はすぐにスィーヴズに情報を探しに行ったところ、
そんな事は聞いたことがないと言われた。
ルーシィ自身に聞いても、
『僕にもわかんない』
と一言言われた。
どうしようか迷ったが、
ルーシィも着いてきたいと言ってきたので、
名前を付けて、そのまま一緒に旅をすることにした。
一緒に旅をしていて、
一つ困っていることがある。
それは、
ルーシィが俺を父親だと思っていることだ。
いつも、ルーシィが俺を呼ぶときは、
『パパ!』
と言ってくる。
そう呼ばれるのは、
嫌ではないが恥ずかしくはある。
以前直そうともしたが、
変わらず「パパ」と呼ばれてしまう。
今は半ば諦めているが、
いつか直そう。
ルーシィには、
今は擬態して貰っている。
ルーシィは竜種の子供だ。元の姿では、怖がられてしまう。
そうならないように、ルーシィに鞄の中に入ってくれと言ったところ、
ウルフ系の魔獣のような姿に変化し、
元が竜なために、最初はかなり驚いた。
何故そんな事が出来たのか分からないが、
この姿なら怖がられることもないので、
外に出て貰っている。
ルーシィにはたまに、
外に遊びに行かせている。
その理由は、
竜種の野性の感を失わせないためだ。
すっと一緒にいられるとも限らない。
そんな時に、
一人で生きていくことが出来なくなってはいけない。
そのため、
外に出して魔物を狩ったりさせている。
今回、
俺はこの町にしばらく滞在するつもりでいる。
その理由は、
ディーパ魔術学院に入る費用を稼ぐためだ。
ここまでの旅で噂を聞いた。
ディーパ魔術学院に入るにはかなりのお金がいると。
この一年間でかなり貯まっている。
だが、
過信して、
もしも足りなかったなんてことにはなりたくない。
だから、
近くにあるこの町でも貯めることにした。
ーーー
青竜を倒してから八日が経った。
俺はその間、
ギルドの依頼をこなしてお金を稼ぎつつ、
久しぶりに落ち着いた日々を送っていた。
二日目辺りに、
この町に魔術ギルドがあるのに気がついて、
カードの再発行を行なった。
どこかで落としたのか、いつの間にか見当たらなくなっていた。
使う場面は少ないが、
無いよりかは持っておいた方が良いだろう。
この日も、
外で魔物の一定数討伐の依頼をこなして、
町の中に戻ってきて、ギルドに立ち寄った。
「依頼終わりました」
「はい、ご確認させていただきます」
俺は受付嬢に、
依頼書と対象魔物の一部を提出した。
「お疲れさまでした。
こちら、報酬金となります」
受付嬢はそう言って、
お金が乗った板を出してきた。
「ありがとうございます」
俺は報酬を受け取った。
「ルイネス様」
報酬を受け取り、
外に出ようとしたところ、
受付嬢が呼び止めてきた。
「貴方にお客人がおいでになって居られるのですが、
お会いになられますか?」
「客人……?」
俺に客人。
嫌なことを思い出すな……。
「誰が来たんですか?」
「それが……私共も誰が来られたのか知らされておりませんでして……」
前のようなことにはなりたくない。
だが、
会ってみないと、
誰が来たかも分からないもんな……。
もしも、
アイツのようなヤツだったら……。
「っ!……あの……どうされますか?」
受付嬢は、
ひどく怯えたようにそう言った。
「分かりました。会います」
「っ……」
「どうかしましたか?」
「い、いえ。こちらになります」
何かしたかな……?
何か、怯えられている気がする。
俺は受付嬢に連れられ、
ギルド内の豪華な部屋に案内された。
部屋に入ると、
白髪のおばあさんが目の前に立っていた。
横のイスには鞄と魔術帽子が置かれ、その横には杖が立て掛けられている。
この人が俺への客人?
それに、
この人……長耳族だ。
「貴方が……」
おばあさんはこちらを振り向き、
そう呟いた。
「ギルド長はいないのですか?」
「私一人だよ」
おばあさんはそう言って、
ゆっくりとイスの方へ歩み寄った。
そして、
杖をゆっくりと持ち上げ、こちらへ向けてきた。
「早き風は音速となりて敵を吹き飛ばせ!」
詠唱短縮!?
「『音速衝撃波』!」
おばあさんは、
俺に向かって魔術を撃つ体勢をとった。
「っ!!」
俺はとっさに『魔術消失』を使い、
おばあさんの魔術を打ち消した。
「っ!……やっぱり……」
おばあさんは杖を元あった場所に置いた。
「噂通りの腕前だね。
まさかそんな技まで使えるなんて」
「はぁ……ありがとうございます」
「あの男を思い出すよ……お前さん。リベルって男を知ってるかい?」
「っ!」
「その反応は知っているようだね」
このおばあさん。
リベルを知っているのか!?
「あんな恐ろしい男を知っているとは、
お前さんも苦労してきたんだね」
「……あの人は私の恩人です。愚弄するのはやめてください」
俺がそう言うと、
おばあさんは、驚いた表情をした。
「へぇ、あの男が恩人ね……それはすまないことをしたね」
「いえ。それより、私に何の御用でしょうか?いきなり攻撃までしてきて」
「ああ、それは……」
そう言って鞄の中を漁り、
中から一枚の紙をとりだした。
「あたしはお前さんをスカウトしに来たのさ」
「スカウト?」
「あたしが学長を務めている学院へのスカウトさね」
この人が学長を務める学院?
「学院……って、
この辺りだと……」
「そう。ディーパ魔術学院」
この人が、
ディーパ魔術学院の学長……。
さっきの詠唱短縮といい、納得は出来る。
だけど、
この人が本当に学長で、その目的が本当かも分からない。
いきなりこういう話を持って会いに来る人は信用できない。
「そんな立派な学院の学長殿が私などに……」
「確かに、今のお前さんではあたしが直接スカウトに来るほどではないさね」
おばあさんは、
何か企んでいるのか、
頬を緩めつつそう言った。
「それでは……」
「今のお前さんではな」
「……どういうことですか」
「あたしが知らないとでも思うのかい」
俺は嫌な予感がして、
握っている杖に力が入った。
「お前さん。あの龍王……なんだろ?」
俺はそれを聞いた瞬間、
握っていた杖を向けた。
「落ち着きな。
お前さんがセフィス神聖王国でやらかしたことは知っている。
お前さんの今の立場もね。
あたしはそれでもお前さんをとりたいと思ったからここまで来たんだ」
「……理由は?今の俺を学院に入れるのはリスクしかないはずだ」
「確かにね……正直言って、あたし以外の教員は反対したさ」
「それは」
「あたしも諦めかけていたさ。だけど、あたしの弟子に頼まれちまってね」
「……弟子?」
「そう、あたしの弟子。
その子があんたのことを助けたいって言うんでね。
反対を押し切ってまであんたをスカウトしているんだ」
この人の弟子?
その人が俺を助けたいって?
誰なんだ?
「貴方の弟子って……」
「それは会ってみてのお楽しみさね。で、どうするんだい?」
そう言って、
手に持っていた紙を差し出してきた。
紙には、
学院における特記事項が書かれていた。
===
・学院内での研究費用は、学院が保証する。
・学院における学生の立場を二国間並びに当学院が保証する。
・学院内での身分は全て等しくなる。
・学外の権力を振りかざし規律違反を犯した場合、議会の後適切な処置を行なう。
・学生の住居は、当学院が保有する学生寮を提供する。
===
この特記事項に加え、
手書きである一文が付け加えられていた。
【学外における罪歴は、学長サテラ・ウィンドヴェルグに一任する】
この一文は恐らく、
今回俺をスカウトするのに当たって、
他の教員を黙らせるためにこの人が付け加えた物だろう。
「どうだい?悪いことはないだろう?」
「……」
「なんだい?まだ迷ってるのかい。元々行くつもりだったのなら良いじゃないかい」
……?
この人なんで知っているんだ?
俺が学院に行ってみたいって言ったのは、フィラくらいだ。
なのに、この人が知っているなんて……。
だがまあ、
どこかで噂でもされたのだろう。
確かに、
条件は悪くない。
元々行ってみたいと思っていたしな。
「サテラ学長。一つお願いをしても良いですか?」
「なんだい?」
「俺には一つどうしてもやらないことがあります」
そう、
学院に向かうのは、
半分がフレイ・セフラグへの興味心。
もう一つは……。
「これを破壊する術を研究することです」
俺はそう言って、
懐から一冊の白い本を取り出した。
「それは……!」
「これが何か知らないかも知れませんが、
俺はこれを破壊する術を知りたい。
だから、
そのために一部屋俺にくださるのであれば、貴方の話に乗りましょう」
俺がそう言うと、
サテラはフッと息を吐いた。
「知っているさね。それの恐ろしさは」
「だったら……」
「良いだろう。そいつを破壊する術はあたしも知りたいところだ」
サテラは、
右手を差し出した。
「お前さんに学院内の一部屋用意しよう」
サテラの了承はとった。
ならば、
俺が断る理由はない。
「ありがとうございます」
「龍王ルイネス・アルストレア。
ようこそ。ディーパ魔術学院へ」
俺はサテラの手をとった。
「それじゃあ、貴方のお弟子さんの事を聞いても良いですか?」
「それは学院に入って、自分で知ると良いさね」
結局この後も、
この人の弟子のことは聞くことが出来なかった。
俺はサテラのおかげで、
特待生というもので入学することになり、
学院への入学費用は免除ということになっているらしい。
特待生は、
通常の授業と自由な授業を選択でき、
何を選択するかは、
個人の自由ということになっているらしい。
サテラには、
入学してすぐに、
自分の授業を選択するよう念を押された。
ここからディーパ魔術学院へは、
それほど遠くなく、
五日程度で到着する。
俺はサテラと共に学院に向かう事になり、
出発は二日後ということになった。




