第四十八話:「哀傷と報復」
二人は同時に襲いかかってきた。
長い槍を持つゼルが俺との距離を保ち、
アントが大剣で追い打ちをしてくる。
「……っ!」
二人は絶えず攻撃を繰り返し、
こちらが攻撃をする隙など与えてくれなかった。
俺は『土壁』などで、攻撃を逸らしつつ、
攻撃する隙を探っていたが、防戦一方だった。
「どうした?ルイネス・アルストレア。
貴様も所詮そんなものか?」
高みの見物をしながらそう言ったケイレブは、
懐からもう一冊の聖典を取り出した。
「お前、随分と余裕だな」
「私は戦わなくても良いからね。
僕は、この神聖な神器をゆっくりと見させてもらうよ」
すぐにケイレブを捕らえたいが、
この二人が邪魔であそこまで行けない。
「おらぁ!反撃してこい!」
アントは大剣を軽々と振り回した。
俺はそれをアースウォールで防いだ。
すると、
アントの大剣は俺が作り出した壁に深くめり込み、
攻撃を当てるチャンスが出来た。
「『風縛』!」
「クソッ!」
壁から離れ、アントに対して障害物をなくし、魔術で拘束した。
アントは風で拘束され、身動きがとれないようだった。
その後、
俺は使える魔術の中で、
最速で出せる魔術を選択した。
「『氷射』!」
無数の氷の矢を生み出し、
アントに向かって打ち出した。
氷の矢は、アントに目がけて飛んでいった。
「なめるなぁぁ!」
アントは、力強く飛び上がり、
身をひねるようにして、氷の矢を回避した。
「なっ!?」
命中しなかった氷の矢は、
壁に突き刺さった大剣に衝突し、大剣をへし折った。
「お前、俺の剣を……!」
「ね、狙い通りだ」
俺は大剣をへし折ったことで一瞬油断をしてしまった。
油断をした結果、俺の死角に潜んでいたもう一人を見失っていた。
「もらったぁぁぁ!」
「クソッ、」
ゼルの槍が俺の右腹部を貫いた。
「グハッ!!」
俺は腹部から血を流し、
腹部は燃えるように熱く、
常時痛みが襲ってくる。
「うっ、、、」
俺は襲いかかる痛みのあまり、
立てなくなっていた……。
「ハァハァ……」
腹部を押さえると、
押さえた手が血で真っ赤に染まった。
この傷はヤバい……。
あの槍の攻撃で貫かれた部分を、
俺が使える治癒魔術では治せない。
あれを使うしかないか……。
「どうやらここまでみたいだね」
ケイレブは、
開いていた聖典を閉じ、
ゆっくりと俺の元まで歩いてきた。
「二人ともご苦労だった。報酬は時期に手配しよう」
「ありがとうございます」
「ああ、その前によぉ。
この魔術解いてくんねーか?」
「……仕方ない」
そう言って、腰に携えていた短剣を抜き、
アントを拘束している魔術を斬った。
すると、俺が掛けた魔術がはじけるように消えた。
「おお!それが魔術を無効にするっていう魔道具か」
「そうだ。この惨めな魔術師を殺すのに役に立つと思っていたんだが……」
ケイレブは、
俺を見下ろした。
「無駄だったようだ」
俺は見上げるように床に伏せたままだった。
こいつらのやりとりの間に腹部の傷を癒やすことも出来た。
だが、これは逆にチャンスだ。
ケイレブは俺がやられたと思って近くまで降りてきた。
このままやられたフリをすれば、必ず機会はやってくる。
今は、耐えるんだ。この痛みに……。
「それじゃあ、最後の仕事だ。
こいつをここの真下にある牢まで連れていけ」
「俺たちがかよ?」
「こんな醜態をさらしても超級魔術師だ。それに、あの方がこいつを強く警戒している。
その理由は分からないが、用心に超したことはない」
ハァハァ……あの方?
こいつも神の使いなのか。
「私は、お前の大切なものを全て奪う」
ああ、ヤバい。
徐々に意識が飛びそうになってきた。
俺の大切なものを奪う?そんな事させない。
だけど、
良いことを聞いたな。
「前から気になってたんだけどよ。そのあの方って……」
「ここの下は牢になっているのか?」
俺はゼルの言葉を遮るようにそう言った。
すまないなゼル。俺もその先は気になるが、生憎今は時間が無いんだ。
「黙っていろ。これからお前には死ぬよりも苦しい絶望を与えてやる」
「ハァハァ……質問に答えろ」
「……ああ、この下は、お前を捕らえるための牢がある」
「俺を……捕らえるため?」
「ここの下には、魔術を無効にする結界が張ってある。
お前では抜け出すことの出来ない王級の結界がな」
「そうか……」
ハァハァ……良いぞ。
逆転の条件が揃ってる。
あの手を使おう。
ザナークにも通じたあの手を……。
「それじゃあ連れて行け」
「御意」
「了解」
アントは自身のへし折られた大剣を拾い上げ、
ゼルは、俺を引き上げようとした瞬間、俺は行動に移った。
「『落ちろ』!」
俺はありったけの魔力を杖に込め、
三人に向かって重力魔術を使った。
「うっ、、、」
「これは!?」
「っ、、、!」
三人は、
重力に押しつぶされるように、
床に這いつくばった。
「ハァハァ……同じ目線になったな。ケイレブ」
「……このガキッ!」
「後のことは気にせずに落ちていけ!」
杖に込める魔術をさらに多くした。
すると、床が圧力に耐えることが出来なくなり、
俺の目の前にいた三人は下に向かって落ちていった。
「ルイネス・アルストレアァァァ!!」
三人は落ちていった。
ケイレブの叫び声が、床の穴から響いている。
「ハァハァ……今は傷を治そう」
俺は腰に携えていた小さな鞄から、
丸められた紙を取り出した。
目覚めたときに所持していた物の中の一つである。スクロールだ。
「今が……使い時だな」
俺はスクロールを巻いているひもをほどき、
スクロールを発動させた。
光の粒に変わり、俺の全身は、スクロールの光に包まれた。
すると、
俺の腹部にあった傷は見る見るうちに消えていき、
全身にあった小さな傷も綺麗さっぱり消えた。
「ふぅ……これで動けるな」
俺はゆっくりと立ち上がった。
しかし、
立ち上が瞬間、
激しい目眩に襲われた。
「冥級治癒魔術でも、体力や魔力までは治せないか……」
あのスクロールは、
冥級治癒魔術のスクロールだとリベルは言っていた。
俺が使えない治癒魔術なので、
使うべき時を見極めろといっていた。
今回はその時だと判断して使用した。
体力や魔力が回復しなくても、
傷がないだけかなりマシだろう。
その後、
俺は開けた穴を魔術で作った岩で塞いだ。
これで上からは出てこれない。しばらくは時間を稼げるだろう。
「フィラを追いかけないと」
俺は屋敷を出ようとした瞬間、
目の前に金髪の女が通路を塞ぐように立った。
「そこをどけ」
「……」
「攻撃される前にどけ!」
「私も一緒に行くわ」
女は耳を疑うようなことを言ってきた。
「断る」
「どうして?」
「俺がお前を信用するわけがないだろう。
アイツに雇われたお前なんかに」
俺がそう言うと、
女はゆっくりと俺の方へ歩いてきた。
「私はあいつらとは違う」
「同じだ。同じ犯罪者だ」
「私は違う!私は何も罪を犯していない」
「それじゃあ、なんで手配されているんだ!」
「それは……いいわ。教えてあげる」
女は懐から一本、
銀色に輝くナイフを取り出した。
そのナイフを首元に当てて、
自身の首を切り裂いた。
「何やってるんだ!?」
女は首から血を流し、
後ろに倒れた。
俺は女に近寄り、抱えた。
すぐに治癒魔術を掛けようとした。
だが、先程裂かれたはずの首の傷が綺麗さっぱり消えていた。
「これは、どうして……」
「ちょっと、下ろしてくれる?」
女はジッと俺の方を見てそう言った。
俺はすぐに女を下ろした。
「これが私が手配された理由よ」
「あれは……何ですか?」
「……呪いよ」
俺の問いに、
女は静かにそう答えた。
彼女の呪いという答えに、
俺は疑問を持った。
呪いとは、
呪器から人に移る有害な物だ。
しかし、
彼女の呪いは、他のそれとは全く違う。
ナタリーが呪いを受けたときは、
毒に侵される時とにた感じだった。
だが、
彼女の呪いは、
自身の傷を再生しているように見えた。しかし、彼女が呪器を所持しているようには見えない。
「あれが呪いですか?」
「そうよ」
「しかし、貴方は呪器を所持しているようには見えません」
「それはそうよ。
私の呪いは呪器からのものじゃなくて、先天的な物なんだから」
先天的な呪い……?
生まれたときから呪われることもあるのか?
それと、セフィス神聖王国に指名手配されることに何の関係があるんだ?
「それじゃあ、なんで国に手配されているんですか?」
「それは……」
それから彼女は、
嫌な記憶を思い起こすように話し始めた。
教団が助けるという口実で自分を招き入れたこと。
毎日色々な実験をされたこと。
自分の呪いが不死であるという事実を突きつけられたこと。
教団が自分を死刑対象にして、様々な拷問を受けたこと。
彼女の辛い記憶であるであろう事を、
隠さずに話してくれた。
「私は日々繰り返される拷問の日々に耐えられなくなって逃げ出した。すると、教団は私を見つけるために指名手配をした」
「……」
「私は誰も殺していないし、セフィス様の教えを破ったこともない。
今回だって、私が受けた依頼はフィラ・ニードルの治療だけ」
「……えっ?」
受けた依頼がフィラの治療?
ケイレブがフィラを助けるために彼女を雇ったのか……?
「ケイレブが貴方を雇った理由は……?」
「分からない。私は医者だから戦闘能力は皆無ということも知っていたはず」
「医者なら……なんで人を殺そうとしている人の依頼を受けたんですか?」
「それは、ボス……いえ、ケイレブが私の恨みを晴らしてくれると言ったからよ」
「恨み?」
彼女は自分の思いを語った。
彼女自身、
元はセフィス神聖王国の中でもかなり位の高い貴族だったらしい。
教団から逃げ出したあと、家に戻ってみると、
屋敷は全焼し、家族も行方不明になっていた。
絶望しながら彷徨っていると、ある噂話を聞いた。
それは、
自分の家を燃やしたのは、
司教以上の階級の人物だ。ということ。
彼女自身長い時間を掛けて犯人を捜した。しかし、司教以上となると簡単には接触できない。
そんな時に声を掛けてきたのが、ケイレブだったらしい。
ケイレブは犯人を見つけるという条件で彼女を雇った。
「私は家族の報いを犯人に受けさせる。そのために、使える物は全て使う」
「……それなら、尚更俺に着いてこない方が良い」
「そうね。貴方に着いていけば報酬は貰えないかも知れない。だけど、それとこれとじゃ話は別」
「別……?」
「あんなに可愛い子。放っておけないわ。
本当は、私が持ち帰って一生お世話したいくらいよ」
そういえば、
屋敷でも幼気がどうとか言っていたな。
この人……もしかしてそっち系の人か?
「それを聞いたら、尚更同行は許可できないです」
「どうしてよ。私が他とは違うって散々言ったでしょう?」
確かに、
彼女は他の連中と違って信用出来ないわけじゃない。
毒に侵されたフィラを助けてくれたのも彼女だ。連れて行っても良いが、それは彼女に悪い。
ケイレブはまだ倒せていない、屋敷の牢に落としただけだ。無傷とはいかないだろうが、すぐに追ってくるだろう。
「まず、貴方は何で僕に着いてこようと思っているんですか?」
俺は疑問を直接打つけた。
彼女が現時点でこっちに着くのはリスクが大きい。
「そうね。今の貴方に着いていくのは危ないけど、一つ気になることがあるの」
「気になること?」
「フィラちゃんの事よ。
身体を侵していた毒は治した。ケイレブの指示でね」
「指示……」
ケイレブは俺を狙っている。
俺を殺したいのであれば、フィラを狙った方が可能性は上がるだろう。
なのに、
態々宿から自分の屋敷まで運ばせて治した。
確かに気になるな……。
「……」
「貴方も気づいたようね」
「たしかに何故治させたのか気になりますね」
「そう、貴方を殺そうとするなら弱点になるフィラちゃんを殺して貴方を絶望の淵に落とした方が可能性が上がるはずなのに、ケイレブは治させた」
「……」
「私はそれが気になるの」
「なるほど……分かりました。これから貴方には協力して貰います」
今は味方が増えた方が良い。
彼女が報酬を受け取れなくなっても、俺も最大限協力しよう。
彼女にはフィラを治して貰った恩がある。
恩は必ず返す。
「良いですか?協力して貰いますが、僕の指示には従ってくださいね?」
「もちろんよ」
「それじゃあ行きましょう」
その後、
俺たちはすぐに騎士団のもとに向かうことにした。
「そういえば、私の名前を教えてなかったわよね?」
「確かに、そうですね」
「私の名前はジルよ」
「僕の名前はルイネスです」
「知ってるわ。ね?龍王様?」
俺たちは走りながら自己紹介を終え、
騎士達が集まっている噴水近くに到着した。
ここでは、疲弊した騎士や、傷を負った騎士達が一時的に休憩地になっていた。
「これは……何があったんですか?」
俺は騎士に指示を出している、老兵に声を掛けた。
「はい……出現した魔物の数が多く、
過半数の騎士が退却を余儀なくされまして、前線から下がり、ここで治療を受けています」
どうやら、
騎士達では対応しきれないほどの魔物が来ているようだ。
だが、魔力の問題でこの大陸には魔物は生まれにくいはずだ。
それに、
セフィス神聖王国自体が魔物を忌み嫌っているため、
定期的に教団直属の騎士団が魔物狩りを行なっているはずだ。
魔物が出現しても、
町の騎士達で対応出来るはずだ。だが、今回は対応出来ていない。
一体、何が起こっているだろう……?
だが、
魔物の事も気になるが、
今はフィラの安全を確保するのが最優先だ。
「一つ聞きますが、ここに青髪の女の子が来ませんでしたか?」
「……っ!はいシィル副団長を訪ねてこられました。ですが、我々が防戦一方になっていると見ると、すぐにどこかに走って行かれました」
「なに!?」
フィラがどこかへ走って行った!?
俺たちは屋敷の方から真っ直ぐここまで来た。
屋敷があるのは北側。
……まさか、
「どこへ行ったか知っている騎士はいないんですか?」
「……どうでしょう、我々も退却してすぐのことだったので、知っている物がいるかどうか……」
老兵がそう言うと、
騎士を治療していた女性が起ち上がった。
「その女の子なら前線に向かって走って行きました」
「なに!?何故行かせたんだ!」
「それが……D級冒険者ということだったので、
戦力確保のためにギルドの内容を伝えたところ……」
どうやら、
今回の魔物の討伐がギルドの依頼として出されたらしい。
責任感が強いフィラだ、
頼まれたら断れなかったのだろう。
今すぐ追いたいが、
ここの疲弊している騎士達を見ると、
治した方がいいとも思えてくる。
「……仕方ないわね。
私が治療に加わるから、貴方は追いなさい」
ジルは任せろと言わんばかりに、
強くこっちを見た。
「ありがとうございます」
俺は前線の方へ向かって走り出した。
走るにつれ町並みはどんどん悪くなった。
建物は崩れ、火が立ち上り、戦いの傷が目に見えるようだ。
現在、
ここに住んでいる町民は冒険者ギルドや教団支部の方へ避難しているらしい。
誘導が早かったのか、町民達は巻き込まれていないようだ。
「こっち増援を頼む!」
「だめだ、こっちも限界だ」
やがて、魔物と戦う騎士や冒険者の姿が見えてきた。
魔物はエルダートレントにフロックウルフなど、
一筋縄ではいかないような魔物もいた。
「『氷射』!」
俺は魔術で、
目の前の魔物を一掃した。
「おお、魔術師の加勢は有難い」
「これで余裕が出来る」
騎士達は魔物が一掃されたことに歓喜した。
ここは最前から漏れた魔物を、
町の中央に行かせないための防衛ラインらしい。
「皆さん。シィル副団長の居場所を知っている方はいませんか?」
フィラを逃がす際、
シィルのもとを訪ねるように言った。
そのため、前線で戦っているシィルの近くにいる可能性が高い。
「シィル副団長なら、南門最前線にいるはずだ」
「分かりました。ありがとうございます」
「こちらこそ。お気を付けて」
俺はさらに前に向かった。
「おい……あんなヤツまでいるのかよ」
俺が見たのは、
大きな身体に、光沢を放つ紫色の外皮。
口元には大きな牙が二本生えている魔物。
【毒牙大蛇】
さらに、
銀色の身体を持つ蛇の魔物。
【メタルスネーク】
この二体が俺の目の前に立ちはだかった。
この二体が現れたことで、
町を襲っている大量の魔物達がどこから来たのかを予想することが出来た。
メタルスネークはいてもおかしくないだろうが、毒牙大蛇はアルレシア大陸にしか存在しない魔物だ。
その魔物がここにいるということは、
何かの要因でここまで飛ばされたか、何者かがこの大陸に入れたか……。
この二体の魔物は、
騎士達にとって天敵とも呼べる魔物だ。
毒牙大蛇は近距離での反応速度が凄まじく攻撃を回避する。
メタルスネークは、外皮が非常に硬く、並の剣士では剣を通すことも出来ない。
だが、
この二体の魔物も、
対策がないわけではない。
反応速度が早く、呼応劇を回避されるのなら回避しようのない攻撃を当てる。
外皮が硬いのならば、
物理的ではなく、火魔術なので攻撃すれば良い。
俺は二つの魔術を同時に使った。
「『氷射』!」
「『火炎矢』!」
毒牙大蛇は魔術を回避しようとしたが、
読み通り、回避しきれずかなりの数着弾した。
メタルスネークは、
自身の重さでスピードは遅いので、
火の魔術で徐々に燃えていった。
「ハァ……かなり魔力が無くなっているな」
身体にだるさがかなり出てきた。
魔力の多さは自信があるが、
重力魔術を使った後は魔力がすぐに無くなる。
今残っている魔力量は、全体の四割程度だ。
「先を急ぐか」
思い身体を無理矢理動かし、
門の方へ向かった。
やがて、
大きな壁が見えてきて、
魔物と戦う騎士達が見えてきた。
その中に、
青髪の女の子と、
緑色の髪の毛の女の子が魔物と戦っているのが見えた。
そう、フィラとシィルだ。
二人はお互いを助け合うように連携していた。
フィラが魔術を打ち魔物の注意を引いた上で、
死角からシィルが攻撃し、魔物にとどめを刺している。
魔物を一体倒し、
二人の注意が一瞬途切れた瞬間、
後ろから岩の塊のような魔物が二人に襲いかかった。
「危ない!」
俺は杖を構え、
一瞬で魔術を構築した。
「『音速衝撃波』!」
目に見えない風の衝撃波が、
岩の魔物にあたり、身体を吹き飛ばした。
「っ!ルイく……」
俺は走ってフィラに駆け寄り、
強く抱きしめた。
「えっ?ちょっと、こんな所で……」
「良かった……」
息を漏らすようにして出た言葉は、
俺の不安感を払拭するようだった。
フィラも、
その事を感じ取ってくれたのか
抱きしめる俺を素直に受け入れてくれた。
「私は大丈夫だよ」
フィラは俺の背中をさすりながら、
言い聞かせるようにそう言った。
俺はその言葉で心から安堵し、
抱きしめていた手を離した。
「必死なようだったけど、何かあったの?」
「フィラ……戦いに参加するなんて、危ないことしないでくださいよ」
「あ、えっと……ごめんね?私もあの状況を見ていたら、いても立ってもいられなくて」
フィラは、
反省するように、
可愛い顔をしながらそう言った。
「病み上がりなんですから無理はいけません!」
「はい……ごめんなさい」
ここに来るまで、
フィラの身が心配だったが、
案外元気そうで安心した。
俺とジルが考えていたことは、
どうやら懸念だったようだ。ケイレブもこの場には来ていないようだし……。
前線の状況を見て、
俺たちは、魔物の討伐を最後まで手伝うことになった。
俺はフィラを守りながら騎士団をフォローする形で、どんどん魔物を倒していった。
ーーー
沈み掛けていた日が完全に沈み、
辺りは暗くなっていた。
通常では真っ暗で見えなくなる道も、
今は戦いの被害で発生した炎で明るく照らされていた。
「これで……終わりか……?」
「そうであってくれ……」
「はぁ……帰って冷たい酒が飲みたい……」
騎士達は、
各々武器を置き、座り込んだ。
今回の討伐で生き残った物は喜ぶ間もなく疲労感に襲われていた。
「総員。直ちに休憩地まで後退し休息をとれ」
シィルは、
疲労している騎士達に向けて指示を出した。
騎士達は、
重い腰を上げ、
皆後退していった。
門の側に残ったのは、
俺とフィラの二人だけだった。
先程まで多くの騎士がいた戦場だが、
今では静かに時が流れていた。
「僕達も戻りますか」
正直、俺も今すぐ戻って休みたいところではある。
ケイレブの屋敷で、凄腕二人との戦闘で重力魔術を使ったことにより大半の魔力を消費した。
その後の魔物との戦いでも多くの魔力を消費してしまった。
今の俺は、
魔力枯渇寸前の状態だ。
普通の魔術なら何発かは撃てるだろうが、
重力魔術や上級以上の消費魔力の多い魔術は使えないだろう。
「……フィラ?」
フィラは反応せず、
前を向いたま止まっていた。
「……プハッ、、、」
突如フィラは、
口から血を吐き出して倒れた。
「……っ!?フィラ!」
俺は急いでフィラに駆け寄った。
フィラの腹部には見たことのある黒い短剣が刺さっていた。
「なんでこれがここに……!?」
短剣が刺さった部分からは、
血があふれ出している。
このままではフィラの身が持たない……。
俺は短剣を引き抜いて、
治癒魔術を掛けようとした。
だが、
フィラは、引き抜こうとする俺の手を止めた。
「ハァハァ……ルイ君……後ろ!」
フィラは必死に声を振り絞った。
俺は後ろを振り向くと、
何も見えないが、気配を感じた。
「『土壁』!」
魔術を使って、
俺とフィラを囲むように土の壁を創り出した。
だが、
俺が創り出した壁は、
いとも容易く崩れ散った。
これは……そうか、そこにいるんだな。
俺は見たことのある現象を目の当たりにして、
何が起こったのか理解した。
「隠れてないで出てこい!ケイレブ!」
俺がそう叫ぶと、
目の前の空間が少し歪み、
茶髪の男が現れた。
「なんだぁ、バレたのか」
笑みを浮かべながらそう言うケイレブを見て、
俺は怒りの感情に埋め尽くされた。
「お前……何でフィラを!」
俺がそう言うと、
ケイレブは笑いをこらえれないようだった。
「フフ……ハハハ。
哀れだな。先程言ったじゃないか?」
ケイレブはそう言って、
懐からスクロールを取り出した。
『君の大切なものを全て奪う』
スクロールを発動させた。
次の瞬間、
魔力の流れが悪くなったように感じた。
「これで君は、何も出来ない」
「……まさか!?」
俺は手の中で魔術を発動させた。
だが、
魔術を発動させるために集めた魔力は、
集まった瞬間バラバラに散らばった。
「これは……結界か!?」
まずい。
これがトッタが獲物の売買の時に使っていたあの場所と同じ物ならば。
「魔術が……使えない」
「この結界魔術は、この町全体を覆い尽くすほどの王級結界魔術だ。
君が利用した地下の牢と同じ物だ」
王級結界魔術……。
王級以下の魔術を妨害する結界。
このままでは、
フィラを治す事が出来ない。
フィラは、
腹部の傷からどんどん血を流している。
短剣はフィラの腹部に深々と刺さっている。
早く治さなければ、取り返しのつかないことになる。
「……」
「あぁ、いい。
その表情がたまらない」
気味の悪い笑みを零しながらそう言うケイレブは、
右手に短剣を握りしめている。
「良いのかい?そんなボーッとしていても。
君の大切なフィラ嬢は、もう息が切れそうになっているぞ?」
「……だまれ」
「今の君をあの方が見たらきっとお喜びになられる」
「……だまれ」
「これで私は、あの方の寵愛をさらに受けられる」
ケイレブは、
聖典を開いた。
「素晴らしい。あの方も君の大切なものはなくなると言っている」
「……だまれ」
「大丈夫だ。もうすぐ、君もそこの死にかけと同じ所に送ってやる」
「だまれぇ!!」
俺はケイレブに殴りかかった。
魔術が使えず、冷静さが欠けていた俺はケイレブの攻撃を避けられなかった。
「哀れだ」
ケイレブは、俺の攻撃をかわし、
手に持っていた短剣で俺を刺した。
刺されたのは肺の部分だった……。
「ブハッ!」
血を大量に噴き出し、
俺はその場に倒れた。
魔力の枯渇と、
身体に刺さった短剣の影響で、
意識が遠のくのを感じた。
「我が神よ。哀れなる罪人に救いがあらんことを」
ケイレブはそう言って、
俺に数本短剣を突き刺し、
ゆっくりと立ち去っていった。
「うっ、……あ……」
目の前が暗くなり始めた。
手足の感覚も無くなり、
腹部に刺さった短剣の痛みなど、
感じなくなっていた……。
ーフィラ視点ー
魔物との戦いが終わって、
全員が安心した。
私自身も安心した。だけど、その瞬間私は何かに襲われた。
いつの間にか、腹部に短剣のような物が刺さり、
私は立っていることが出来なくなった。
どうやら、
私は刺されたらしい。
彼が感情的になり、
ケイレブさんに殴りかかった。
今は魔術を使えなくなっている。
だけど、
ケイレブさんは、ルイ君刺をした。
「る……ルイ君」
私の目の前で、
私の最愛の人が殺されかけている。
身体のいたるところに短剣が刺さり、
口からは血を流し、
顔色も悪くなり時間が無いことが伝わってくる。
私自身も、
徐々に身体が動かなくなってきている。
[ハァハァ……ダメだよ……こんなところで」
動かない身体を無理矢理動かし、
瀕死の彼の元まで行った。
その間、私の中では彼との時間の記憶で溢れていた。
彼と初めて会ったとき、
好きになったとき、
両思いになったあの夜。
その全てが、私に彼を助ける力をくれた。
「君は……生きなきゃ」
私は死んでも良い。
死んでも良いから、彼だけは必ず助ける。
私は、
懐から一本のスクロールを取り出した。
このスクロールは、
前に彼が私の安全のために持たせてくれたスクロールだ。
このスクロールは冥級治癒魔術のスクロールだと彼は言った。
この結界魔術は王級だとアイツは言っていた。
ならば、
このスクロールは使うことが出来るはずだ。
私は、最後の力を振り絞って、
彼に刺さっている短剣を抜いた。
「ハァハァ……お願い。彼を助けて」
私はスクロールを使った。
すると、
スクロールは優しい光の粒に変わり、
彼の身を包み込んだ。
痛々しい傷は見る見るうちに消えていった。
「良かった……これで……」
私は安心したからなのか、
全身に力が入らなくなった。
とうの昔に痛みは感じられなくなり、今では目がかすむ。
「まだ……死ねない。彼に伝えるまでは……」
私の思ったこと、
最後に彼に伝えたい。
ールイネス視点ー
俺は目を覚ました。
不快感や怒りの感情でぐちゃぐちゃになり、激しい吐き気に襲われた。
「うっ、、」
俺は自分の身体の異変に気がついた。
先程ケイレブに刺された傷が全て消えていた。
「なんで!?」
俺は辺りを見た。
すると、
隣には重症のフィラがいて、
今にも意識を失いそうになっている。
「っ!フィラ!」
俺はすぐに起き上がり、
フィラの元に駆け寄った。
彼女は大量の血を流し、
顔色が悪くなっていている。
「ハァハァ……ルイ……君」
「フィラ!」
俺はすぐ治癒魔術を使おうとした。
だが、
魔術は発動せず、
集めた魔力ははじけてしまった。
「クソッ!結界がまだ解けていないのか」
俺はフィラをおぶさった。
騎士達がいるところまで戻れば助かるかも知れない。
急げば……、
急げばまだ……。
「ルイ君……もういいよ……」
後ろから、
途切れそうなフィラの声がした。
「もう……ダメだよ……」
「何言ってるんですか……まだ間に合いますよ」
「ハァハァ……自分の最後くらい……分かるよ」
俺は前を向いて歩きながらも、
耐えられなくなり、涙が溢れてきた。
「なんで……何で僕に使ったんですか……」
フィラが俺にあのスクロールを使ったのは、
全身の傷が消えているを見てすぐに気がついた。
「ルイ君……」
「……はい」
「あの森で……初めて会ったときから……色々楽しかったね」
フィラの俺を掴む力が、
徐々に弱まってくる。
力が弱まりながらも、
途切れそうな声で出会ってからのことを話した。
「そうですね。本当に楽しかったです」
「ハァハァ……私……あの森に飛ばされる前はリエイト領に向かっていたって言ってたでしょう?」
「はい……」
「あの時……実はルイ君に会いに行ってたの……」
「僕に……ですか……?」
彼女は微かな声で色々話してくれた。
自分が父親にリエイト領に向かえと指示されたこと。
レイナという王女に俺に会うと良いと言われたこと。
もしあの森で出会わなくても、いつかは出会えていたと……。
「私……ルイ君と一緒になれてとても嬉しかった」
「僕も……とても嬉しかったです」
「でも……ルイ君には違う人を好きになって貰いたいの」
「そ、そんな事……」
「ルイ君は……私にはもったいくらいの人だった……」
「そんな事ありません……!」
フィラの身体が徐々に冷たくなり、
さらに力が感じられなくなってきた。
「私はもういっぱい色々貰った。十分なくらい。
だから、ルイ君は別の誰かに与えてあげて。
貴方が守りたいと思える人を見つけてね。」
「……っ」
「……約束できる?」
「……」
「私との最後の約束だよ?」
「そんなの……ずるいです」
「フフ……ごめんね」
【今までありがとう】
その一言を残して、
フィラは動かなくなった。
先程まで微かに感じていた彼女の温もりは消え、
今は冷たくなっている。
フィラが死んだ……。
俺はその後、
何も考えられず、
ただ真っ直ぐ歩くことしか出来なかった。
何も考えられず、何も感じない。
ただ一つ、
ただ一つ俺の中にあるのは、
ケイレブに対する湧き上がる静かな怒りと憎悪だけだった……。
「龍王。フィラは……!」
いつの間にか目の前にジルが立っていた。
ジルは俺の後ろで目を閉じているフィラの姿を見て呆然としていた。
「ジル……すみませんがフィラの事をお願いします」
「……えっ!?でも」
「僕は行かないといけないところがあります。それが終わったら……すぐに戻ります」
「っ!?わ、分かったわ」
ジルは俺の顔を見ると、
怯えたようにそう言った。
俺はフィラを優しく下ろし、ジルに託した。
「それじゃあ、少しの間お願いします」
俺はある場所に向かって歩き始めた。
向かう場所は、
【教団支部】
俺は歩きながら、
魔眼を開眼した。
魔眼越しに見ると、
教団支部の方から異常なほどの魔力が流れている。
あの場所に、結界魔術の核があるのは間違いない。
俺は教団支部に着くとすぐ中に入った。
魔眼で魔力の流れを読み、
白い線を追って歩いて行く。
ここには多くの人が避難してきている。
町民達は皆が不安な顔をしていた。
それもそうだろう、
町に魔物が攻めてきたんだから。
子供が泣き叫び、
貴族のような服装をしている男が騎士達に対して叫んでいる。
普段なら気に掛けるが、
今はそんな事どうでも良い。
魔力の線は、
教団支部の地下の扉に続いていた。
俺は扉を開いた。
中には、
紫色の魔石を中心に描かれた魔法陣と、
それを守る大剣を持った男。
「よぉ?顔つきがえらく変わってるが何かあったのか?」
魔術師殺しのアントは、
煽る口調でそう言った。
「邪魔だ……どけ」
「何だって?聞こえねーな?」
アントは大剣を構え、
勢いよく襲いかかってきた。
「人と話すときは、相手の目を見て大きな声でだろぉ!」
「『落ちろ』!」
重力魔術でアントを捕らえた。
いつも以上に魔力を込めていたため、アントは身動き一つ取れなかった。
「うっ、なんで魔術が使えるんだよ……」
「……」
「くっ、だが聞いたぜ?これを使うにはかなりの魔力がいるんだろう?」
「……」
「それじゃあ、この後はもう無理だよなぁ?」
魔法陣から魔石を抜いた。
魔法陣は、動く要であった魔石を失ったことで効力を失った。
「魔法陣を解除したところで……うっ」
俺はアントの足に向かって魔術を使った。
足は見る見るうちに凍りついた。
「ギャァァ!」
アントは、
大きな叫び声を上げた。
「痛いだろ?」
「ハァハァ……あ?」
「彼女の苦しみに比べれば、お前のなんてゴミも同然だ」
「何だと……」
「お前はこれくらいにしてやる。俺や彼女に直接は手を出してないからな」
俺はそう言って、
教団支部を後にした。
「……じゃまだな」
俺は付けていた仮面を外し、
被っていたフードをとった。
「魔石……」
俺の手の中には、
あの結界魔術を起動させていた魔石があった。
魔石の魔力を利用して結界魔術は起動していた。
これは、
人でも同じ事が起こるのだろうか?
「……試してみるか」
俺は魔石を呑み込んだ。
「うっ!」
胸に激しい痛みが襲った瞬間、
魔石は俺の中に解けるように消えた。すると、失っていた魔力がかなり回復した。
「魔石で魔力を回復できるのか……」
魔石のおかげで戦う事の出来るくらいの魔力を回復させることが出来た。
「これで、ヤツを……」
俺は再び歩き始めた。
向かう先はヤツがいるであろう場所。
ーーー
シュレーラスの中で、
最も大きな屋敷。
その中でも、
あまり物が置かれていないこの部屋は、
奥に階段があるだけだった。
そこには、
この辺りを治めることを命じられたある男爵位を持つ男が、
階段の上で空を眺めていた。
その部屋は、
ルイネスが訪れたときに使わなかった大きな窓が屋根に付けられ、
綺麗な月光りが明るく照らしている部屋。
男はそんな部屋の中で、
空を見上げ祈りを捧げている。
そんな部屋に一人、
人族の子供が静かに入ってきた。
髪は白く、
左右の目の色が違い、
着込んでいるローブは血で汚れ、
手には杖が握られている。
「おやおや?君一人かい?」
祈りを捧げていた男は、
ゆっくりと入ってきた子供の方を向いた。
「あの女はどうした?」
「……」
「ああ……死んだか」
男がそう言うと、
子供は杖を男に向けた。
「あの女は、お前を絶望の底に落とすための道具だ。
道具は道具の仕事を全うしてくれたようだ」
男は笑ってそう言った。
すると、
男の頬を何かがかすり、
頬からは血が流れた。
「お前が……彼女を語るな」
「忌々しいガキが」
魔物が一掃され落ち着きが広がったこの町の中で、
唯一この屋敷だけがそのまま続いていた。
ーーー
俺の目の前には、
殺したいほど憎んでいる男がいた。
「その真っ白な髪色にその右目……ますます忌々しいな」
ケイレブは腰から、
二本の短剣を抜いた。
「自身の大切なものを失った気分はどうだ?」
「……」
「自身は命を助けられて何も出来ず失った気分はどうだ?」
ケイレブはどうやら俺を激情させたいらしいな。
俺が冷静さを欠けば、
再び俺を殺せると思っているのだろう。
だが、
俺は不思議と冷静でいた。
彼女と……フィラと前にした約束が俺をあと一歩のところで食い止めていた。
『復讐からは何も生まれない』
彼女が言ったその言葉。
ジェドを殺されたときも、
フィラが俺を止めてくれた。自身の身を挺して。
あの時はフィラのおかげで止まることが出来た。
だけど、
今回はそのフィラを殺された。
ジェドを殺したヤツに再び……。
今はまだフィラと交わした約束のおかげで耐えられる。
「口数が多いな。怖いのか?」
俺がそう言うと、
ケイレブは明らかに機嫌を悪くした。
「私がお前に……?
なめるな……なめるなぁ!!」
ケイレブは俺に向かって短剣を投げてきた。
だが、
魔眼越しに見ている俺はその短剣をよけた。
「クッ、正面では不利か……それなら」
ケイレブは、
下に置いていたコートを羽織った。
すると、
ケイレブの姿は見えなくなった。
「なるほど、ジェシカ・シリウスが使っていた物を同じ物か」
俺がそう言うと、
部屋のどこからか声が聞こえた。
「そうだ。姿を他者に見られなくなる魔道具。
ああ、そういえば。あの女を殺したときもこれを使ったな」
俺の視界からは、
ヤツの姿を捕らえることは出来ない。
だが、
今はよく見える。
ヤツが魔道具に込めているヤツの魔力が。
「『音速衝撃波』!」
俺は魔眼で魔力の流れを読み、
魔力が多いところに魔術を放った。
「なにっ!?グハッ!」
何もないところから、
突如ケイレブが現れ、後方に吹き飛んだ。
吹き飛ばされたケイレブは床を転がり、壁に激突した。
「ハァハァ……なぜ私の位置が……」
何が起こったのか分からないような顔をしている。
どうやら、
魔眼の事は知らなかったようだ。
「お前の小細工は、俺に通用しない」
「……っ」
「正面から来いよ?殺してやるから」
ケイレブの表情が、
青白く曇りはじめた。
「わ、私があんなガキに……」
「もう終わりだ」
「クソッ、クソッ、クソォォォ!!」
ケイレブは思いっきり叫んだ。
すると、
屋根の窓から一人男が入ってきた。
「お怪我はありませんか?」
槍を持った男。
そう、ゼルが部屋の中に入ってきた。
「あの者は私にお任せください」
「必ず殺せ。報酬は上乗せする」
「御意」
ゼルは槍を俺の方に向け、
ケイレブを守る体制に入った。
「どけよ。お前がそいつを守るのはただの依頼だろ?」
「ああそうだ」
「なら態々命をかけるほどじゃないだろ?今回は殺すぞ?」
「俺の槍を避けることも出来ない小僧が何を言っている。それより、アントはどうした?」
「足が動かなくなって、今頃教団支部で捕まってるんじゃないか?」
「なんだと……」
槍を握る手に力が入り、
ブルブルと震えていた。
「アントをやったのはお前か?」
「……ああそうだ。っ!」
ゼルはすごい勢いで襲いかかってきた。
前に戦った時よりも早く、攻撃も鋭かった。
俺はゼルの攻撃を魔眼で予測し、
間一髪のところで回避した。
「っ!?何故当たらない」
ゼルは俺に槍が当たらないことに困惑していた。
「お前は……邪魔だ」
「『砂渦』!」
俺はゼルの足元を、
砂の渦に変えた。
「っ!?足が」
槍を使うヤツにとって、
足場が悪いというのは致命傷だ。
「お前は隅で寝てろ」
「なに!?」
「『岩石砲弾』!」
俺の魔術は、
ゼルに直撃して、壁まで吹き飛ばした。
ケイレブの時より激しく吹き飛ばしたため、
直撃してすぐ気を失っていた。
俺は念のため、魔術で拘束した。
「あ、あ……」
ケイレブは雇った男が倒されたことに、
驚きを隠せず、明らかに動揺していた。
俺がケイレブの方を見ると、
怯えた動物のような目で俺を見てきた。
「ま、まて。私を殺すのは得策ではない」
一歩ずつ近づく俺に、
ケイレブはそう叫んだ。
「……」
こいつの姿。見るに堪えないな……。
こんな男にフィラは……。
「私は男爵だ。
私を殺せばお前もタダでは済まないぞ」
「……」
俺が近づくと、
ヤツは一歩一歩と後ずさりをした。
完全に怯えきっているようだ。
「今回だって、真相を知っているのはお前だけだ」
「……」
「私が死ねば、お前は間違いなく教団の騎士団に追われることになる」
「……」
「それでもいいのか!?」
俺はケイレブの目の前で立ち止まった。
ヤツは俺に対して怯えている。もう終わらせよう……。
「俺が……」
「……えっ?」
「俺がそんな事を気にすると思うか?」
「ヒィッ!」
ケイレブは思わず逃げ出した。
品も何もない。死にたくないという気持ちに囚われ必死に。
「ギャァァァ!」
俺はケイレブの右手を、
魔術で打ち抜いた。
右手には穴が開き、
穴からは真っ赤な血がどんどん流れ出ていた。
「痛い……痛い……痛い!」
痛みに耐えれず、
右手を押さえながらうずくまった。
ヤツの叫ぶ声は聞くに堪えなかった。
「痛いだろ?」
「あ、あ……」
「彼女はそれ以上の痛みを味わった」
ヤツはもう、
戦意を喪失してる。
いつもならここで気分も晴れ始めるだろう。
だが、まだ晴れない……。
「何故だ。何故だ。寵愛を受ける私が何故こんな目に……」
左手で聖典を取り出した。
「ああ、神よ。
私をお救いください」
「こいつ!」
俺は魔術を再び打った。
「待てっ!」
俺が打った魔術は、
ある人物に止められた。
「もうそれくらいで良いだろ?」
「……何故貴方が……」
俺とケイレブの間に立ったのは、
偽物の足止めをしていた。
ジオラルだった。
「この国でそれ以上するのは、セフィス様を冒涜する行為だ」
「……ですが、その後ろの男はすでに犯しています」
「この男は、私の手で必ず報いを受けさせる、
君まで同じ所に落ちる必要は無い」
彼はきっと、
俺のために言ってくれているのだろう。
だが、
もう止まれない。
そう考えていると、
ジオラルの後ろにいる男が突如外に向かって走り出した。
「御心のままに……」
「待てっ!」
俺は逃げ出すケイレブに向かって魔術を打った。
しかし、
ジオラルに魔術を受け流され、
俺の魔術は壁に激突した。
ジオラルは剣を戻した。
「あの男は、
騎士団がもらい受ける。君はもう何もしなくて良い」
「……やめて……ください」
「なに!?」
「俺の邪魔をするのはやめてください」
彼は攻撃したくない。
「ヤツはフィラを殺したんです!俺がヤツを殺さないと!」
「……それは君の役目なのか?」
「はい……」
ジオラルは小さく、
「そうか」と呟き、
剣を再び抜いた。
「ならこの先に行かせるわけにはいかない!」
謎の圧力を発しながらそう言った。
前は気づかなかったが、魔眼越しに見る今だから分かる。
彼と、彼が持っている剣はかなりの魔力を帯びている。
「ジオラルさん。貴方本当に強いんですね」
「当然だ。異端審問審問長は並大抵の力ではこなすことは出来ないからな」
普通に魔術を使ったのでは勝てない。
だが、
時間を掛ければケイレブを逃がしてしまう。
それだけは絶対にダメだ。
一撃で決めるんだ……。
「どいてください」
「断る!」
「くっ!」
俺は魔術をジオラルに向かって打った。
水魔術と火魔術の複合魔術だ。
「無駄だ!」
ジオラルは剣で魔術を受け流そうとした。
だが、
俺の魔術は、剣に触れた瞬間破裂した。
破裂した魔術は凄まじい衝撃を放ち、ジオラルを吹き飛ばした。
「ハァハァ……何だ今のは……?」
体勢を整えたジオラルは、
何が起こったのか分からないようだった。
「すみません。今は時間が無いので」
「ま、待て!」
「『落ちろ』!」
俺は重力魔術で、
ジオラルを動けないようにした。
「くっ、こ、これが重力魔術!」
俺は魔術を使いながら部屋を後にした。
すると、
部屋の外にはポタポタと血が垂れていた。
俺は血の跡を辿った。
やがて、
先程まで騎士達の休憩地になっていた噴水まで来た。
そこには、
噴水のふちに腰を置きながら辺りを見ているケイレブの姿があった。
「もう終わりだ」
「……ああ、そうだな」
ケイレブは諦めたように、
力が抜けているように起ち上がった。
「さぁ、殺すが良い」
「その前に一つ聞く。お前は何故あんなことをした」
俺はそう問いかけた。
すると、
ケイレブは、聖典を見せてきた。
「私にこれを授けてくださった御方のためだ」
「結局、お前も得体の知れないヤツの指示に従ったのか」
「……得体の知れない者ではない。私はあの御方が誰なのかを知っている」
「なに!?」
ジェドやフィラを殺すように言ったヤツを知っているだと……?
「誰なんだ!?」
「それは……リベルという男だ」
「……何だと!?」
ヤツの口から出た名前は、
決して出るはずの無い名前だった。
「私はその男に頼まれたのだ」
「……ウソをつくな。あの人は俺の恩人だ。俺の恩人を侮辱するようなことを言うな!」
俺は魔術で、
ケイレブの足を打ち抜いた。
「くっ、本当だ」
「……ウソだ。ウソだ!」
俺を助けてくれた人が、
俺を殺そうとするはずがない。
「お前を許さない……俺から大切なものを奪うだけじゃなく、
俺の恩人を侮辱するお前を!」
「やはり愚かで忌々しいガキだ」
「くっ、、」
俺は杖をケイレブに向けた。
「最後に一つ……」
「何だ?」
「あの女はやはり無駄な命……だったな」
俺はそれを聞いた瞬間、頭が真っ白になった。
真っ白になり、
残りの魔力の大半を使い魔術を使った。
「『雷嵐豪雨』!」
大きな落雷が降り注ぎ、
バチバチ音を立てながら、
ケイレブに着弾した。
ケイレブは魔術の直撃を受け、
バタッと倒れた。
俺は初めて……人を殺した……。
「最悪な気分だ……」
初めて人を殺したということ。
殺した人から立ち上る焦げた匂い。
色々なものをなくしたという事実が、
俺をどんどん落としていった。
「……」
俺は耐えきれないほどの喪失感を隠すため、
仮面を付けた。
「あ、あ……」
怯えるような声がして、
それはその方向を向いた。
そこには、怯えきった表情をした女性がいた。
「ひ、人殺し。それに、あの髪色……!」
「……」
「キャァァァ!」
女性が叫ぶと、
騎士達が複数人こちらへ走ってきた。
「どうされましたか!?」
「あ、あそこに」
女子は俺の方を指をさしながら、
騎士にこう叫んだ。
「呪われた子が人を殺しました!」
騎士達は、
俺と倒れているケイレブを見て、
すぐに俺を取り囲んだ。
「貴様。今すぐ跪け!」
「抵抗しても無駄だ!」
騎士達は剣を俺の方へ向け、
逃げ場を塞ぐように取り囲んだ。
そのうち一人は、
増援を呼ぶために奥へ走って行った。
「……呪いの子がここまで育つとは……」
「貴様の名は?」
「……」
「名を名乗れ!」
俺は名乗ろうとした。
だが、
ここで名乗ればアルストレアに迷惑を掛けることになる。
俺の行動で関係の無い人を巻き込みたくない。
「早く名乗れ!」
「……俺は……龍王だ」
俺はそう名乗り、
重力魔術で空中に浮かんだ。
俺の姿を見ると、
騎士達は驚いていた。
「かの英雄の名を名乗るとは」
「かの英雄を冒涜するということは、セフィス教団を敵に回すと思え!」
騎士達は、
空に浮かぶ俺に向かって叫んだ。
「副団長をお呼びしろ。ジオラル審問長もだ!」
「この町にいる戦力を集めて、あの呪いを打つ!」
やがて、
俺の元にこの町の騎士達が集まってきた。
騎士だけではなく、冒険者も集まってきた。
その中には、
シィルやジオラルの姿もあった。
「何処ぞの龍王よ。我々の連行に応じる気は無いか?」
ジオラルは、
俺を見上げながらそう叫んだ。
俺の名前を知っている彼が、
名を敢えて出さないようにしているのを見て、
彼はいい人だと改めて思った。
彼の思いをむげにしたくない。
だが、
俺はやることがある。
ここで捕まるわけにはいかない。
「応じる気は無い」
「……そうか。魔術構え!」
ジオラルがそう言うのと同時に、
この町の魔術師達が杖を俺に向かって構えた。
「打て!」
魔術師達は詠唱を始めた。
「無駄だ」
俺は地上の魔術師達に手をかざした。
そして、
魔術師達が構築していた魔術を俺の魔力で乱して、
全て解除した。
「何が!?」
「魔術が使えない!?」
魔術師達は、
自身の魔術が使えないことに困惑していた。
「クソッ!」
「もう一度だ!」
俺が今使ったのは、
魔術の訓練時に、リベルがよく使っていた技。
この技は魔術というよりかは魔術師対策に作られたような技だ。
リベルは特に技名などは言っていなかった。
使いやすいように名前を付けるとしたら、
「『魔術消失』!」
俺は再び、
魔術師達の構築途中の魔術を消滅させた。
「『落ちろ』!」
「くっ!」
地上に向かって重力魔術を使った。
ジオラルはすぐに回避したが、
騎士達や冒険者達は、
上からの圧力に押しつぶされた。
「……さらばだ」
俺は教団支部の方角に向かった。
ーーー
教団支部に着くと、
ジルがフィラを抱きかかえながら待っていた。
「……お帰りなさい」
「ああ、フィラを見てくれてありがとう」
俺はフィラの頭を撫でた。
彼女はもう冷たくなっており、
失ってしまったという事実が俺の中の悲しみを込み上げてくる。
今まであった安心感が、全て虚無感に変わり、
何も考えれなくなる。
「……」
「……これからどうするの?」
俺がボーッとしていると、
ジルが問いかけてきた。
今回のことで、
俺は間違いなく教団から追われる身になるだろう。
理由はどうであれ、この国の男爵を殺し騎士達に攻撃したのだからな。
フィラを故郷に連れて帰りたい。
だが、
ここからアスト王国に戻るのは時間が掛かる。
そこまでフィラの肉体が耐えられるはと思えない。
ああ……まだ一緒にいたい。
フィラと離れたくない。
彼女を失いたくなかった。
俺は目から涙をこぼし、
まともに話せなくなっていた。
「……ジル……」
「なに?」
「フィラを……任せても良いですか?」
「……え?いいのそれで」
「はい。俺はこれから恐らくこの国にはいられなくなる。
ジルも同じようなものですが、恐らく今は俺に対しての捜索が多くなると思います。なので、フィラを安全な場所に弔ってあげて貰いたいです」
「それって……」
「はい。俺が教団の注意を引きます。なので、ジルはどこか安全な場所に」
俺が教団を引きつければ、
ジルが国外に逃げる時間くらいは稼げるだろう。
「……」
「ジルにも目的があるのは分かっています。
ですが、今は俺の頼みを聞いて貰えないでしょうか?」
「……分かったわ。フィラちゃんは任せて」
「ありがとう。この恩はいつか返します」
「ええ」
「それでは」
俺はこの場から立ち誘うとした。
すると、ジルは俺の肩を叩いた。
「これを持って行きなさい」
ジルはそう言って、
手紙のような物と、
フィラの冒険者カード。
それに、彼女がいつも首から下げていた首飾りを手渡してきた。
「これは……」
「フィラちゃんの遺品……のような物よ。
彼女を弔うなら、貴方が持っている方が喜ぶわ」
「そうですね……ありがとうございます」
俺はそれを受け取って、
重力魔術で浮いた。
騎士達の注意を引くには空を移動する方が効果的だ。
「……ジル」
「なに?」
「この国を出たらシーラ王国の魔術学院に向かう事をおすすめします」
「え?」
「あそこなら、身を隠すのにちょうど良いと思います」
「……分かったわ」
「……フィラを頼みます」
俺は北の方に向かって飛んだ。
フィラの首飾りを首に掛け、
手紙や冒険者カードを大切に鞄の中にしまった。
一人ということを理解すると、
彼女を失ったときのあの絶望感が襲ってくる。
そのたびに、涙が溢れる。
一人。その事実を耐えれる気がしない。
「せめて……彼女の家族には……」
俺は恐らくどんどん落ちていくだろう。
だけど、俺がどんなに醜くなろうと、彼女の事を彼女の家族には……。
ルイネス・アルストレアは、
一人。北の方角に向かって飛び去った。
ー???視点ー
シュレーラスの騒動から数日後、
シュレーラスから北に少し離れた街道。
この街道は、シエルという町の側にあり、
この時、ここにはケイレブ・レイター男爵が殺害されたという噂はまだ流れて居らず、
シュレーラスとは違って平穏な空気が流れていた。
「ここには、魔物がいないのね……」
「この辺りは魔物が生まれにくい土地なんですよ」
この街道を歩いている、
二人組の人影があった。
一人は、
何か模様が彫られた白い仮面を付け、
背中から翼のような物を生やした白髪の女性。
翼を隠すように、ローブを身に纏っていた。
この女性は、聖帝龍王ディエードが信頼を置く八大精霊が一翼。
【色欲のルーナ】
もう一人は、
同じく仮面を被っていて、
あまり身長の高くない女の子。
ただ、
一つ特徴があるとすれば、
この世界ではまず見ることのない、
黒色の髪の毛をしているということだ。
「それよりも、良かったのですか?」
ルーナは、
黒髪の女の子に対して、
そう言った。
「何がですか?」
「直接歩いて向かわなくても、
城の魔法陣を使えば一瞬で目的地に行くことが出来るんですよ?」
「いいんです。この世界を直接見てみたいですから。
それに、私のことで、ディエード様にご迷惑を掛ける訳にはいかないです」
「……そうですか。
ですが、ディエード様なら迷惑など思わずに、お許しいただけると思いますよ?」
「分かりました。それでは次に何かあったら、ディエード様に懇願させていただきます」
「はい。そうしていただけるとディエード様もお喜びされると思います」
この黒髪の女の子は、
リエイト領で発生した災害。
その時、
聖帝龍王ディエードによって保護された、
異世界からの漂流者。
【暁月 春】
彼女は現在、
ある目的のため、
セフィス神聖王国の王都を目指している。
「そういえば、先程から何を書いているのですか?」
ルーナさんは、
私が書いている物に興味があるようで、
横からのぞき込んでいた。
「ここで見た物とかを忘れないように日記を書いているんです」
「そうですか……?見たことのない文字ですね?」
日記を書いているのは、
この世界で見ることのない言語だった。
「これは日本語です」
「日本語……?」
「私がここに来る前にいた世界の言葉です」
私は懐かしむように、
自身が書いた文字を見ていた。
「すみません。一度外します」
ルーナさんは、
何かを思いついたようにそう言った。
「分かりました。私はこの辺りで待っていますね」
街道沿いの丸太に腰掛け、
自身が書いた日記を見ていた。
「あ、そうだ。
これからやることも書いておかなきゃ」
私はこれから向かう場所、
やること、必要な物を書き綴った。
すると、
目の前から白髪の男の子が歩いてきた。
よく見ると、
全身ボロボロで、
だれが見ても満身創痍だという事が分かるようだった。
男の子は目の前で倒れた。
「大丈夫ですか!?」
すぐその男の子に駆け寄った。
男の子は全身に傷を負っていた。
小さな傷が無数にあり、
小さな男の子がこんな傷を負うのか疑問に思った。
「今治します」
ディエード様から頂いた治癒魔術のスクロールを使い、
男の子の傷を癒やした。
「ありがとうございます」
「良いですよ」
「すみません。貴重な物を使わせてしまっ……」
男の子は、
私が書いていた日記に目を移した。
「その街に向かうのなら、日を改めた方が良いですよ」
「……えっ!?」
男の子が見たページには、
敬愛の町:シュレーラスと書いてあった。
「すみません。余計なお世話でしたね。
スクロールありがとうございました」
男の子はそう言って、
私達とは逆方向に歩いて行った……。
「なんでこれを……」
自身の日記を見ながらそう呟いた。
日本語で書かれた日記を読むことの出来る子供。
「……誰なんだろう……」
私はそう思いながら、
ルーナさんが戻るのを待った……。
ーーー
その後、
セフィス神聖王国で、
新たに指名手配された人物がいた。
===
・名前:不明/龍王
・罪歴:貴族虐殺/呪子/異教徒
・報酬:セフィス金貨:十枚
===
セフィス神聖王国は、
この日、手配犯の内三名を捕縛した。
この功績をたたえ、
シュレーラス警護騎士団副団長シィル・ウェイカーを、
聖女近衞騎士団第七席に任命。
異端審問審問長ジオラル・オスカーを、
教団直属教皇騎士団団長の空席に任命。
その後、教団は正体不明の龍王の討伐指令を出した。
この手配書が発行されてすぐ、
神聖王国内で大々的に検問をしかれた。
教団から多くの騎士団が派遣され、
見つかるのも時間の問題とされた。
しかし、
何所の検問にも引っかかることなく、
この謎の龍王という人物は忽然と姿を消した。
事態を重く受け止めた教団は、
手配書に
他と違うある一文が付け足した。
『見つけ次第抹殺せよ』
第3章:冒険者編【完】→第4章:学院入学編




