第四十六話:「怪しげな護衛依頼:後編」
ここは、
どこかの森の中。
目の前には綺麗な湖が広がり、辺りは綺麗な樹木に覆われている。
そんな中目の前には、
黄緑色の光が飛んでいた。
「君が守ってあげるんだよ?」
小さな光は、
そう言って静かに消えていった……。
「……んっ、、、」
目が覚めると、
適度に揺れながら進む馬車の中にいた。
「またこの夢か……」
あの森で出会った変な光。
その時に記憶が夢になって度々出てくる。
今でもあの光が何だったのか、
あの言葉にの意味は何なのかは分からない。
だが……。
あの言葉が胸にずっと残っている。
あの光に信憑性もなのもないが、今後はより一層意識していこう。
もう何も、失うわけにはいかない……。
シュレーラスに向かい始めてから一日が経った。
ケイレブとは世間話をしながら進んでいた。
初めは気味悪く思っていたが、
現在では打ち解けることが出来たのか、気味悪さは感じなくなっていた。
ケイレブは、
笑い方などは不気味だが、面白い男だった。
セフィス神聖王国の事やアスト王国の知っている情報を教えてくれた。
「アスト王国の第一王女が作った魔術団は団長が不在らしいよ」
今俺たちは、
ロシンポートの男達が話していた話題について話している。
アスト王国の第一王女。
【レイナ・エスロア・アスト】が新たに立ち上げた魔術団。
魔術の才があると見抜かれた者は、貴族でも平民でも関係なく入団することが出来る。
入団には、
他の師
団とは違って入団試験などはない。
完全に王女の独断で決まる。
「団長はいないが、
副団長はいるらしくてね。その副団長がとても腕が立つと噂になっている」
「副団長?」
「ああ、何でも、君と同じ……無詠唱の使い手らしいよ」
無詠唱?
俺以外にも使える人がいたのか!
「それは、会ってみたいですね」
その人とは一度会ってみたいな。
仲良くなれそうだ。
しかし、
無詠唱魔術が使えるのに、
副団長ということは、団長になる人はどれだけ腕が立つのだろうか……?
今団長がいないのは、
副団長がすごすぎて、団長に収まる人が見つかっていないのか?
「その副団長とは、
一体どんな人なんですか?」
「分からない。その人の情報は、外にあまり出てこない」
「出てこない?」
「ああ、無詠唱魔術というのは、君が思っている以上に貴重なモノだ。
無詠唱の使い手が一人で、一つの師団に匹敵する。おいそれと情報は出さないだろう」
なるほど、
その国の切り札的なモノか。
凄腕の魔術師……気になるな。
フレイ・セフラグやその副団長。
会ってみたい人が日に日に増えていく。一度、ゆっくりと色々なところを回る旅とかしてみるのもアリかもな。
そんな会話をしていると、
馬車がゆっくりと止まり始めた。
目的地についたのかと思い外を見てみると、
まだ平原の街道だった。しかし、一つあるとすれば、馬車の目の前に布を被った女が立っていた。
「どうした?」
「いえ、女が道を塞ぐように立っていたので一度停車しました」
「そうか」
女は、布を深くかぶり、
馬車の方へ近づいてきた。
「な、何か食料をいただけませんか?もう五日何も食べていなくて」
そう言って、
ジリジリ近づいてきた。
だが、
よく見ると、女には何だか違和感があった。
五日何も食べていないという割には声に張りがある。それに、布を深くかぶってはいるが、チラチラ見える肌は血色が良い。
「そこの女止まりなさい」
後ろの馬車からシィルが走って前に出てきた。
フィラもそっと馬車の横に来た。
「ルイ君。あの人指名手配されている人だと思う」
「え?そうなんですか?」
「うん。シィルさんが手は遺書を見ながら間違いないって言ってた」
俺はギルド長から貰った手配書に目を通した。
数枚めくると、女に似た顔が描かれた手配書が出てきた。
===
・名前:ジェシカ・シリウス
・罪歴:大量殺人/呪器所持
・報酬:セフィス金貨:二枚
===
セフィス神聖王国では人の殺害は厳しく取り締まっている。
聖セフィスが説いた教えに、
【如何なる種であっても命を冒涜することなかれ】
この教えで、
他の命を取る行為はセフィスの教えに反すると言うことで、
厳しく取りしまわれている。
その他にも、呪器の所持とある。
これは、ダニエルの部下が使っていたあのナイフのように、
呪気が込められている物を所持しているときに罰せられる罪だ。
聖セフィスは神聖な物を司る神として教徒達の信仰されている。
呪器は、その申請の正反対にあるようような物で異物として忌み嫌われている。
セフィス神聖王国では呪器の所持だけでも罪に罰せられる。
このジェシカという女は、
セフィス神聖王国でタブーとされている罪を犯している。
あの女のことをセフィス教団は血眼になって捜し回っているだろう。
シィルは剣を抜き、
女の方へ構えた。
「貴様の正体は分かっている」
シィルがそう言うと、
女は布を脱ぎ捨てた。
布の中には、茶色の髪を後ろで束ね、顔には赤い塗料で模様が描かれている。
ジェシカはナイフを構え、こちらを睨み付けた。
「ちっ、バレてんのかよ」
「ジェシカ・シリウス。
聖セフィス様のお言葉により、貴様の身柄をもらい受ける」
「はは、出来るモンならやってみろ」
ジェシカは、
恐るべき速さで走り出した。
「っ!この!」
シィルは剣を振り下ろした。
だが、
剣を空を切り、ジェシカは姿を消した。
「クソッ!どこに行った!」
辺りからジェシカの姿が消え、
騎士やシィルが警戒をしているとき、俺の少し後ろで気配がした。
俺は杖を気配の方へ向けた。
「そこか!」
「はっ!おせーよ!」
俺が魔術を使おうとした瞬間、
ジェシカはナイフで俺の杖を弾いた。
「死ね!」
クソ、避けきれない。
「危ない!」
そんな声がした瞬間、
俺は横から力強く押された。
俺はフィラに押され、
ナイフの圏外に押し出された。
「うっ、、、」
ジェシカが振り下ろしたナイフは、
フィラの腕をかすり切り傷を残した。
「テメェ、邪魔しやがって」
腕を押さえているフィラに対して、
ジェシカは再びナイフを振り上げた。
『氷射』
俺は魔術をとっさに使った。
俺の魔術は、ジェシカのナイフを弾き、肩を貫いた。
「グハッ!」
ジェシカは、
魔術に押され、後ろへ倒れた。
「今だ、捕らえろ!」
シィルは、
騎士数名と共に、ジェシカを取り押さえた。
「フィラ!」
俺は、フィラの元に駆け寄り、
傷口に治癒魔術を掛けた。
「大丈夫ですか?」
「うん。大丈夫。かすっただけだから」
フィラはすぐさま起き上がり、
なんともないと言った。
「良かった」
ナイフがフィラに当たった瞬間、
俺はあとても焦った。
あの光が言っていたことが現実に表れたのかと思い、平常心が保てないでいた。
その後、
ジェシカに最低限度の治癒魔術を掛けた。
全て治さないのは、逃げられるリスクを減らすためだ。
彼女の身柄は、
縄と魔術で二重に拘束を施し、俺とケイレブが乗っている馬車に乗せた。
「なぁ、私を解放してくれないか?」
勢い置く走る馬車の中で、
ジェシカはそう言った。
彼女は現在、
手足を拘束されていて、身動き一つ取れない状況だ。
「君は罪人だからね。
これ以上自由にするわけにはいかないよ」
ケイレブは、
彼女を冷たい目で見ながらそう言った。
「おいガキ。
お前の女を傷つけた事は謝るからよぉ、拘束解いてくんねーか?」
俺は正直、
光のこともあってこの女のことを嫌っている。
憎悪とまでは行かないが、彼女を危険にさらしたことにいらだちを覚えていた。
「少し、黙れ」
俺は杖をジェシカに向けた。
正直魔術を使うまではないが、今はこのいらつきを発散したい。
『落ちろ!』
「何言って……うっ」
俺はジェシカに向かって魔術を使った。
彼女は上から圧力が掛かるように床に這いつくばった。
「な、何だよこれ……」
彼女は動こうとして動けない感じだった。
魔術の強さを上げると、馬車がメキメキと音を立て始めた。
「クッソォォ」
ジェシカは抵抗していたが、
やがて意識を失った。
「ハァ……やっと静かになった」
「君は……いや何でも無い」
ケイレブは何かを言おうとして口を噤んだ。
ーーー
それから一日が経ち、
俺たちの馬車は、町の入り口に到着した。
俺たちの依頼は、
町までと言うことだったので、
町に入ったら終了と言うことになった。
「それじゃあ、これを」
ケイレブは、
そう言って、サインを書いた依頼書を渡してきた。
ギルドの依頼は、
個人からの依頼の場合、
依頼書に本人のサインを記入し、ギルドの受付に提出すると報酬を受け取ることが出来る。
「それと、彼女の身柄は教団支部に連れて行くと良いよ」
今回、ジェシカの身柄は俺たちに委ねてくれる事になった。
それは、
俺たちがジェシカを無力化した事を考慮しての判断らしい。
今回の依頼、
イレギュラーがあったにしろ、奇妙なほど簡単な依頼だった。
この町と町の間の距離を護衛するにしては報酬が良すぎる。
単純にケイレブの人が良いってだけなのかも知れない。
何にしろ、
これで依頼は終了だ。
「それじゃあ、ルイネス君。また会おう」
「はい、また」
「……ああ、それと。
人の目には気をつけたまえ」
「え?」
ケイレブは不気味に笑いながら町の中に消えていった。
「ルイ君。これからどうするの?」
後ろから、
顔色が悪いフィラが声を掛けてきた。
「どうしたんですか?」
「な、何が?」
「顔色が悪いように見えますけど」
額から汗を流し、
唇の血色の悪く、誰が見ても体調が悪いと思うような感じだった。
「とりあえず、どこか宿を取りましょう」
俺はフィラの体調を見て、
休ませるべきと判断した。
町の中に入って、
宿を捜した。
捜し始めてすぐに、
宿を見つけた。
一泊銀貨二枚とかなり高い宿だったが、
今は一刻を争う事態だったので、急いでその宿を取った。
「それじゃあ、フィラはここで寝ていてください」
「うん」
「僕は、ジェシカを教団に送り届けた後何か食べるものを買ってきます」
俺は宿の部屋を後にした。
ここの宿は、四つしか部屋が無く、一つの部屋がかなり広かった。
その後、
俺はジェシカを連れて教団支部に連れてきた。
教団支部は、
ギルドとかと違い、白い石で作られていた。
「すみません!」
俺がそう言って、
大きな扉を開けると、中には広い空間が広がっていた。
「はい。こ……この度はどのようなご用件で?」
中から、
司祭服に身を包んだ男がゆっくりとこちらへ歩いてきた。
一瞬のつまりは恐らく、
俺が仮面を付けているため、一瞬驚いたのだろう。
「教団の指名手配をしている女性を捕らえたので、送り届けに来ました」
俺がそう言って、
ジェシカを前絵に出した。すると、司祭服を纏った男は、
明らかに目の色を変えた。
「ジェシカ・シリウス!」
司祭服の男は、
一度、この部屋の脇にある扉の中に入っていった。
やがて、
一人の男を連れてきた。
その男は、金髪の髪の毛を靡かせ、銀色に輝く鎧を身に纏っていた。
「そちらの方は?」
俺がそう訪ねると、
鎧を着込んだ男が目の前まで歩いてきた。
背はかなり高く、顔立ちはかなり綺麗だった。
「私は、【セフィス教団異端審問審問長】ジオラル・オスカー公爵である」
公爵?
この国の貴族か。それに、異端審問って……。
「……貴様か。ジェシカ・シリウスを捕らえてきたのは」
「はい」
ジオラルと名乗ったこの男は、
俺の横で拘束されているジェシカへ視線を向けた。
「久しぶりだな。逃亡生活は楽しかったか?」
ジオラルは、
ジェシカと顔見知りなのか、そう問いかけた。
「……」
「異端審問官の任を放棄し、犯罪者になってセフィス様を裏切った気分はどうだ?」
「……」
「何も言わないのか?異端審問副審問長ジェシカ・シリウス!」
「っ!……私だって、なりたくてこうなったわけじゃない」
そう言ってジオラルの方を強く見た彼女の顔は、
決してウソを言っているようにはッ見えなかった。
「私はあの時、お前を救おうとした。
議会にも、お前の身の潔白を訴えた。しかし、お前は私を裏切り犯罪者として身を落とした」
「……」
「なりたくてなったわけではないと言うのなら、何故あの時お前は我々の前から姿を消した?」
この空間に、
なんとも言えない苦しい空気が流れた。
「あ、あの……」
「ああ、今回は大変ご苦労だった。
これは報酬金だ。受け取ってくれ」
ジオラルはそう言って、
腰に携えていた布袋を手に取り、渡してきた。
「すまなかったな。こんな所を見せてしまって」
「いえ、何か事情があるみたいですし、
僕が介入するところではないので」
「そう言って貰えると助かるよ。君の今回の活躍はセフィス様に届いているよ」
「あ、ありがとうございます」
俺は布袋を受け取った。
「……んっ?」
「どうかしましたか?」
「……いや。何でも無い。ご苦労だった」
ジオラルは急に気を悪くしたように、
目つきが鋭くなり、ジェシカの方へむき直した。
いきなり機嫌を悪くして、
何か悪いことでもしただろうか……?
俺は教団支部を出ようとした瞬間、
後ろから声が響いた。
「ルイネス・アルストレア!」
「……!」
「私は呪器所持者だ」
「……」
「これがどういうことかお前なら分かるな?」
「……まさか!?」
「待ってく……」
俺はいても立ってもいられず支部から走り出した。
後ろで俺を制止するジオラルの声など今の俺には聞こえていなかった。
俺は今最悪な想定をしている。
今想定したことが本当だった場合、取り返しのつかないことになる。
走り出してから数分。
俺は今日借りた宿に到着した。
「フィラ!」
俺は部屋の扉を勢いよく開いた。
だが、
部屋の中には人一人いなかった。
いない!?
あんなに体調悪そうだったのに、一体何所に?
それに、
ジェシカが言うことが本当なら、きっと……。
俺はあ町の中を捜し回った。
フィラが行きそうな所、人通りが多い場所など、
人がいそうな所は全て回った。しかし、フィラの姿は見つけることが出来なかった。
「ハァハァ……一体、どこ行ったんだ」
今はすでに日が沈みかけている。
ナタリーの進行の速さを見るに、今頃はもう危ない状況になっている。
「クッソ!」
俺が何所を探そうか迷っていると、
後ろから、カチャカチャと、
金属が擦れる音が近づいてきた。
「ルイネス・アルストレア」
声のした方を振り向くと、
ジオラルが目の前にいた。
「なんでここに?」
「ジェシカから興味深い事を聞いたもんでね。手を貸しに来た」
その後俺たちは、
教団支部へ再び向かうことになった。




