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転生記 ~異世界では長寿を願って~  作者: 水無月蒼空
第3章:【少年期】冒険者編
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第四十三話:「出航」

 ナタリーが目覚めたのは、

 翌日の昼頃だった。


 俺は目覚めたナタリーに、

 昨日のことを伝えた。

 ダニエルがジュリアンのおかげで思い直したことや、ここに来てナタリーを治してくれたことを。そして、ダニエルを許してもらえないかと……。


 「……」


 ナタリーは、まるで鉄仮面のように静かに考え始めた。

 俺は正直、許してもらえるとは思っていない。

 彼女はダニエルによって生死を彷徨ったばかりだ。自分を殺そうとした相手をそう簡単に許せるものでも無いだろう。


 「……そういうことなら良いわよ」

 「……え?」


 予想とは全くの逆の回答に、

 俺はポカンと声を漏らしていた。


 「本当に許しても良いんですか?」

 「ええ、パ……ボスが対処してそう判断したのなら問題は無いわ」


 ナタリーはそう言うと、

 ベッドからぴょんっと飛び降りた。


 「私のことはもう大丈夫よ」


 俺はあっさりとしたナタリーの反応に戸惑いつつも、

 割り切って下へ降りた。

 宿の一階は、人族の冒険者で賑わいを見せていた。次から次へと、屈強な体格をした男達が酒を体内へ流し込み、忙しく走り回っている白髪の少女へ追加の酒を注文している。

 冒険者ギルドや、その周辺の酒場でよく見られる光景だ。

 この宿は、宿兼酒場も兼ねているので止まる目的以外の客も多いのだろう。


 「フィラもいるわね」


 ナタリーの視線の先に目をやると、

 そこには、ソフィアと同じような足元が寒そうな服を身に纏って、酒の入った器を複数同時に運んでいるフィラの姿があった。


 「っ!!」


 フィラは、酒を冒険者達の元まで持っていくと、

 俺とナタリーに気がつき、大きく手を振った。俺とナタリーが振り返すと次の冒険者の酒をカウンターの方に取りに行った。


 「……あれって……」


 俺はカウンターに立っている男達を見て驚いた。そこには、昨日今日で見知った顔があった。


 俺たちはカウンターの方まで歩いて行き、

 カウンターにある席に腰掛けた。


 「やあルイネス君。ナタリー。

  何か飲むかい?もちろん僕の奢りだ」

 「……」


 俺たちを迎えたジュリアンと、

 無言で器を磨くダニエルが目の前にいた。


 「えっと……お任せで」

 「私も」

 「かしこまりました」


 ジュリアンはそう言うと、

 俺に白い飲み物を、ナタリーに紫色の飲み物を出した。


 変わった色の飲み物だな……。

 俺たちの髪色に合わせた色なのか……?


 そんな事を考えつつ、朝から何も口にしていなかったので、

 俺は出された飲み物を一気に飲み干した。すると、喉が焼けるように熱くなったのを感じた。


 「ゴホッゴホッ!!」


 こ、これ酒じゃないか!?

 この人、昼間からなんて物出してくるんだ!?


 「……ジュリアンさん」

 「なにかな?」

 「これ……お酒ですよね?」


 俺が問いただすと、

 そうだけど?とでも言いたげな顔をした。


 俺はふと横を見てみると、

 さっきまで元気そうだったナタリーがカウンターに頭を伏せていた。


 「な、ナタリー……?」

 「……」


 反応がない。

 ナタリーを起こしてみると、

 顔が真っ赤になって眠っていた。


 「ジュリアンさん!ナタリーにもお酒を出したんですか?」

 「ああ、そうだが?」

 「病み上がりの人にお酒はダメですよ……」

 「そうなのかい?

  僕の知人にどんなケガや病に侵されても酒を飲んで治す男がいたから、てっきり一種の治療法だと思っていたよ」


 この時俺は、

 世の中には色々な人がいるのだと再確認した。


 酒一杯で酔い潰れたナタリーを先程までいた部屋に運んだ。

 運んでいる最中、

 気持ち悪いのかうなされていたので、解毒魔術を掛けておいた。

 ナタリーをベッドに寝かし俺は一階へと戻った。すると、階段で下から上がってくるフィラとばったり会った。


 「ナタリーさんは?」

 「お酒に酔って眠ってしまいました」

 「あはは、、、」


 お互い微笑し、

 この場に和やかな空気が漂った。

 フィラはパンっと手を叩き、俺の目の前まで階段を上ってきた。


 「ルイ君!この後町に出てみない?」

 「町にですか?」

 「うん!この町に着いてから色々忙しかったでしょ?

  アルレシア大陸もここで終わりだし、たまには遊びに出たいなって思って……ダメかな?」


 フィラは上目遣いで頼んできた。

 こんなに可愛い姿を見てお願いを断れるだろうか……否、それは無理だ。こんなに健気な少女のお願いを断れるはずがない。

 そうなれば俺の答えは一つだ。


 「もちろん良いですよ」

 「ホント!やった!」


 フィラは着替えてくると言って部屋へ戻っていった。俺は、フィラを待つために一階の酒場で座っていた。


 「やぁ、フィラ嬢とお出かけかい?」


 声が聞こえてきた方を見ると、

 ジュリアンが俺の顔をのぞき込んできた。


 「はい、町を見て回りたいと頼まれまして」

 「それは良いことだ。だが……」


 歯切れが悪そうに口を噤んだ。


 「どうしたんですか?」

 「いや、ルイネス君の組織への印象を少しでも良くして貰いたいと思って組織の事を紹介したいと思っていたんだけどね……」

 「なるほど……」


 なるほど、ジュリアンの考えは分かった。

 俺が組織に対して悪く思わないようにしたいということか。確かに、俺の組織への印象は良くは無い。

 恐らく、俺に敵視して欲しくないのだろう。


 「ルイネス君。今後の予定は?」

 「今後……」


 今後の予定か……出来れば早い内に大陸を渡りたい。

 長居しても旅は終わらない。今は一刻も早くフィラと一緒にアスト王国まで戻りたい。


 「そうですね……二,三日中にはここを立とうと思っています」

 「そうか……それじゃあ明日一日僕にくれないかい?」


 よほど敵視されたくないらしいな……俺はそのつもりはないが、気になることもあるから良い機会だろう。 

 

 「良いですよ。明日よろしくお願いします」

 「ああよかった。任せてくれ」


 そうこうしていると、フィラが降りてきた。

 いつもの動きやすい服装とは違い、女の子らしい服装をしていた。

 俺はいつものローブ姿だが、彼女が俺と出かけるために着替えてきてくれたのだとすればとても嬉しく思う。


 「これはフィラ嬢。とても麗しいお姿で」

 「ありがとうございます。ルイ君をお借りしいても良いですか?」

 「用件は伝え終わっているから構わないよ。ではルイネス君明日はよろしく」


 そう言ってジュリアンはカウンターの奥に戻っていった。

 あの人……一応組織のボスなのにこんな所にいても良いのか?ボスと言っても、そんなに忙しくはないのかもしれないな。

 俺はそんな事を思いつつ立ち上がった。

 

 「それじゃあ行きましょうか」

 「うん!」


 俺とフィラは宿を出て町に出た。

 この町は、別大陸とを繋ぐ玄関口の役割を果している。そのため、アルレシア大陸の他の町よりも栄えている。

 この大陸では手に入らない物や、食べ物などが多く出回っている。

 俺たちは串に魚やスクウェルという体調が二十メートルほどあり、長く伸びる脚が十本生えた頭のとがっている魔物の肉が交互に刺されている串を買った。

 その串はタレに漬け込まれてから焼かれているため香ばしく実に美味しかった。フィラは、この串焼きがお気に召したようで、違う店で似たような串ももう一本購入していた。


 町には魔族だけではなく、獣人族、人族、海人族など多くの種族が共存している。

 その中でも海人族は見たことがなかったため、歩きつつ観察していた。

 見た目は、人型の竜のような見た目をしており、基本的に服では無く鎧のような物を身に着けている。肩や膝など動くのに邪魔になる部分のは鎧を身に着けておらず、いつでも戦えるような格好をしていた。


 「……くん……」


 この町に来てから見たこと無い物を色々知れて実に良い。色々なところに行って色々な物を見る。旅の醍醐味をとても感じられる。


 そんな事を思っていると、横から大きな声が聞こえてきた。


 「聞いてるの?」


 横を見てみると、

 俺の顔をのぞき込むフィラがいた。


 「聞いていますよ」


 彼女は町を歩きながら旅での思い出話していた。

 俺と森で出会った時のことやリングルの町でのこと。ナタリーに出会ったときのことなど色々だ。

 その思い出に彼女はその時驚いたとか怖かったとか色々話していた。


 「ホントかな~?」

 「本当ですよ」


 そんなやりとりをしていると、

 店先で話している男達の話が聞こえてきた。


 「おい知ってるか?」

 「何を?」

 「アスト王国の王女が有能な魔術師を集めて魔術師団を作ったって噂」

 「いや、知らねーが……」

 「少しでも魔術の才能があれば王都で住まわせてもらいながら貰える金も多いらしい」

 「なんだそれ。すげー良いじゃねーか!」

 「だよな!俺たちも行ってみねーか?俺たちでも多少は魔術が使えるかもしれないしよ」

 「だけど、その魔術師団に入れるのって才能がある奴らだけだろ?俺たちなんかじゃ無理だろ」

 「そっか……だよな……」


 男は落ち込んだようにその店で一本串を買ってどこかへ歩いて行った。

 気になる話ではあったな。アスト王国で有能な魔術師を集めている王女の話か……俺たちがアスト王国に戻ってまだ募集していたら行ってみるのも良いかもしれないな。

 

 俺たちは町を歩きつつ店で食べ物を買って食べ歩きをしたり珍しい物をみて驚いたり最近出来ていなかった時間を取り戻すように堪能した。そして、現在俺たちは港の方に来ていた。

 港には大きな船が数隻海に浮いている。

 俺とフィラは初めて見る光景に目を奪われた。

 初めて間近で見る海に、初めて見る船という乗り物。船と港を行き来する人達。その全てが新鮮に見えた。


 俺たちは砂浜に降りた。

 靴を脱ぎ裸足になって海に足を付けた。


 「冷た~い!!」


 フィラは水をパシャパシャさせながらそう言った。

 初めて海に入ってテンションが上がっているのか、水を手ですくッた。


 「しょっぱい!」


 手についた水を少しなめてそう言った。

 俺もなめてみた。海の水は確かにしょっぱかった。不思議な感じだ。

 昔どこかで感じたことのあるような……。


 「ここって泳いでも良いのかな?」

 「どうなんでしょう」


 俺は近くにいる男の人に声をかけて聞いてみた。すると、泳がない方が良いと言われた。

 なんでも、この辺りの海域は魔物が多く生息しており襲われる危険性があるらしい。砂浜の近くまでなら大丈夫らしいが、わざわざ危険を侵す必要も無いだろう。

 

 「ということなので、泳ぐのはまたの機会で」

 「……そういうことなら仕方ないね」


 本当ならフィラの泳いでいる所を見たかったが、

 泳げないところなら仕方がない。


 俺たちは宿に戻るために町の方に向かった。

 今は日が完全に落ちて昼にはあいていない店が開いていて、活気に溢れていた。主に酒場だ。

 酒場には、冒険者が多くいた。みんな依頼を終えて酒でも飲みに来たのだろう。この光景はどの町に行っても一緒だな。


 町を抜けて宿に戻った。

 宿にも人族の冒険者が多く来ていた。恐らく、他の酒場で飲むよりもここで飲んだ方が安くすむのだろう。

 町の酒場には人族の冒険者は少なかったし。


 宿に入り部屋に戻った。

 すでに夜遅かったため今日は休むことになった。


 夜遅く

 俺は部屋で魔術の練習をしていた。

 部屋にある物を宙に浮かし続けゆっくりと下ろすという簡単なものだ。この練習の目的は魔力量を増やすことと、覇気の最大量の強化だ。

 魔力量は、身体が完全に成長しきる前に魔力を消費すればするだけ魔力量が増えていく。魔力が増えるのは恐らく、魔力の最大量十五の魔力を十消費した場合、消費した十だけ戻るのではなく最大量の十五が戻る。

 それにより、魔力の最大量が増えるというものだろう。だが、覇気量を増やす方法はよく分からない。

 覇気量は魔力と違って消費量の多い魔術を使っても最大量は増えない。それは覇気を全く消費してないからだろう。

 なら、覇気も一緒に消費する重力魔術を使えば最大量が増えると思った。だが、増える感じは全くしない。

 重力魔術を使っても身体が疲れるだけで全くといって良いほど覇気の量は増えない。


 「魔力と覇気は別物なのか……?」


 この練習方は意味ないか……。

 重力魔術をもっと多く使うには覇気の量を多くしないといけない。どうやってやれば良いんだろうか?

 ……そういえば獣人族、魔族、四大流派の剣士達とかの魔術をあまり使わない魔術師ではない者は覇気を纏って超人的な力を出しているとリベルが言っていた、ということは、覇気は魔術で増やす物ではないのかもしれない。

 アスト王国に戻った後どこかの流派の道場に行くのも良いかもしれないな……剣は全く出来ないが。

 今のうちから剣を振ったりしていた方が良いのか?


 「はぁ……ザナークがいれば教えてもらえるかもしれないのに」


 アイツがいれば剣を教えてもらえるかもしれない。

 狂神流王級剣士のアイツに教えてもらえれば覇気のことも何か分かるかもしれない。

 何所に行ったんだろ……。


 考え込んでいると、

 ドアを叩く音が聞こえた。


 「入って良い?」


 ドアの向こうから、

 フィラの声が聞こえてきた。


 「はい、ちょっと待ってください」


 俺は練習で使っていた物を元の場所に戻して、

 部屋のドアを開けた。


 「あ、えっと……一緒に寝ても良い?」


 彼女は、恥ずかしそうに枕に顔を埋め、チラチラとこっちを見ながらそう言った。

 昼に出かけたときとは違って、

 寝間着に着替えたフィラはとても可愛かった。


 「どうぞ」


 俺はフィラを招き入れた。

 深夜に男女が揃ったら変な雰囲気になるかもしれないが、俺たちはアスト王国に戻るまでは禁止にしているからそんな空気にはならない。


 二人でベッドに入り、

 寝る体制を取った。


 「なんだか久しぶりだね。こういうの」

 「そうですね。最近は賑やかでしたからね」


 トッタやナタリーと出会ってからは大人数で旅をしてきた。二人の時よりも賑やかになり二人だけの時間はほとんどなかった。

 それでもいいのだか、やはり二人の時間というのは欲しい。その点、今日の出かけた時間はとても楽しかった。


 「もう少ししたらまた二人になるんだね」


 フィラはそう言って、

 俺の背中を抱いた。


 「寂しくなりますね」

 

 半年間の旅の仲間と別れると考えたら、

 少しは感傷に浸ってしまうと言うものだ。トッタの時には特になかったが……。

 ナタリーとは出会いこそ良くなかったが、共に旅をする内に人柄をよく知れて悪い人じゃないと思った。

 正直まだ一緒に旅をしていたいが、

 彼女にもやることがあるだろう。それに、一生の別れになるわけじゃないんだ。


 「またどこかで会えますよ」

 「そうよね」


 そう呟くと、フィラはスウスウ寝息を立て始めた。

 彼女が眠ったことを確認した後、俺も眠りについた。


ーーー


 翌日目が覚めると、

 横でフィラがまだ眠っていた。


 俺はベッドから身体を起こし、顔を洗い部屋を出た。

 部屋を出て廊下を歩き階段を降りた。


 「やあ、おはよう」


 下に降りると、

 イスに座り優雅にお茶を飲むジュリアンとその横に目をつむりながら座っているダニエルの姿があった。


 「おはようございます」


 俺はカウンターに行きソフィアに飲み物を貰った。

 今回は酒じゃないかちゃんと確認してから飲んだ。今回は果実水だった。


 今日は、ジュリアンに組織の施設を案内してもらう日だ。

 今はお昼前。出かけるにはちょうど良い時間だ。


 「それじゃあ、行こうか」


 俺たちは宿を出た。

 ジュリアンは町のことや組織のことを色々話題に出しながら歩いている。俺も相づちを打ちながら進んでいる。

 今はひとまずアジトを目指しているらしい。


 今回俺は、ジュリアンを信じるという意志を見せようといつもの杖を持ってこなかった。今持ってきているのはいつもの杖よりもかなり小さく青色の小さな魔石がはめ込まれていた。

 何故杖を二本所持していたかは分からないが、この杖を鞄の中で見つけたとき大事そうに布に包まれていた。恐らく、記憶を失う前の俺はこの杖が大切な物だったのだろう。

 一般的な魔術師は初級を使えるようになれば師から杖を貰うという伝統があるらしい。俺もその伝統の枠を出ていないのならば、この杖をくれたのは……フレイ・セフラグだろう。

 手紙や杖。それに、ザナークに言っていた噂。日に日にフレイ・セフラグという人物に興味が湧いてくる。目的を達したら一度会いに行ってみるのも良いかもしれないな。

 フレイ・セフラグはどうやらディーパ魔術学院で教師をしているらしい。

 一度行ってみようか……。


 そんな事を考えていると、

 数日前に来たばかりのアジトに到着した。


 「さあ、こっちだ」

 

 ジュリアンはそう言って、

 玄関口の方ではなく、外を迂回するように裏の方まで歩いて行った。


 「こっちに何かあるんですか?」

 「ああ、裏庭にちょっとね」


 ジュリアンはそう言って颯爽と裏庭の方に向かっていく。

 前に来たときはそんなに動き回らなかったためよく分からなかったが、このアジトはかなり広い敷地で建っているようだった。

 やがて開けた場所に出た。ここがどうやら裏庭らしい。

 裏庭は周りを塀に囲んでいて、一つ石碑のような物が建っていた。


 「到着したよ」


 ジュリアンはそう言って石碑の所まで歩いて行った。

 目の前まで行くと、自身の腕輪を外し石碑にはめ込んだ。すると、腕輪をはめ込んだ石碑はガタガタと揺れ始め後ろに下がっていった。

 石碑が後ろに下がり、石碑があった場所には地下へ続く階段が現れた。


 「おおっ!!」

 「さぁここを降りよう」


 ジュリアンは階段を下り始めた。


 「この下には何があるんですか?」

 「ここには組織の活動報告書や組織にとって重要な物を保管するための部屋に繋がっている」


 なるほど、

 組織の命とも言うべき物を保管するのにアジトに置いておくだけは確かに危険だ。

 裏庭に保管庫を作るっていうのは想像できるが、地下にあるならばかなり安全だろう。


 地下に続く階段は、

 怪しい雰囲気を醸し出すように、壁にランプが置かれている。


 「足元気をつけてくれよ」


 俺たちは階段をどんどん降りていった。すると、少し開けた空間に出た。


 この空間は、

 棚が多く置かれており、

 その中には、紙の束が置かれていた。


 そこには、アスト王国やシーラ王国、

 シャーレン王国などの貴族の名前がずらっと書かれていた。


 シャーレン王国は、

 中央大陸にある小国の一つだ。

 領土もアスト王国やシーラ王国ほど広くなく

、国力が高いわけでもない。だが、リベルがこの国に向かうと行っていたため、

 さほど詳しくない俺でも知っていた。


 「君は僕達が卑劣な奴隷売買をしたり、

  盗みをしたりと思っているだろう?」


 ジュリアンは紙を一枚、

 棚から取り出しながらそう言った。


 「……はい」

 「これを見てくれ」


 そう言って手渡された紙に書いてあったのは、

 誰か人の名前、種族、それに……


 「これって……」

 「これはその子達の境遇や過去のことだ」


 俺が見ている紙に書いている人のは、


 『八つの時に親と共にある貴族の奴隷になる。

  貴族の遊びと称した拷問を受け片目を失明。

  その後、たいした食事も与えられず餓死寸前になる。

  現在十三歳 種族人族 片目失明家事全般可能』


 書いてあることはひどい物だった。

 その子供が、

 いかに辛いことがあったのかを記してあった。

 

 「ここに書かれていることは事実なんですか?」

 「事実だ。その子は、現在違う貴族の元に送った」

 

 ジュリアンはさも当たり前のようにそう言った。

 

 俺はそれを聞いた瞬間、

 この人に対して無性に腹が立った。


 「こんなことがあってどうして……?」

 「こんなことがあったからだよ」


 そこからジュリアンの考えを聞いた。


 「その子を買い取ったのは、

  人族の年老いた夫婦の貴族だ。

  片目を失い戦う術がないその子は元の貴族の元にいれば確実に殺されていた。

  私はその子を高額で買い取り、年老いた貴族に格安で渡した。その方が、その子も幸せになる」


 元の貴族から離れても、

 奴隷のままでは結局同じ目に遭うだけなんじゃないのか?


 「……別の貴族の元に送っても、また同じ目に遭うだけなんじゃないんですか?」

 「そうだね。だから、私達の奴隷市場には信用のある者しか招待していない。それに、我々が売っている奴隷達は自ら望んだ者達だけだ」


 あの奴隷市場にいた人達が全員信用できる人だけ……?

 俺が入ったときにいた奴らは明らかに信用できるような人ではなかったと思うが……?


 「現在はダニエルが招いた信用できない者達もいるが、 

  ここ二日の間に全て対処することが出来た。

  今は前の形に戻っている。それに、売った奴隷が我々の方針以外のことに扱われれば、組織全体で戻しに行く。これが我々の奴隷市場のルールだ。我々は奴隷のことを大切に思っている」


 つまり、

 生きる術がない子や奴隷になることを懇願した者を組織が見つけ出し、信用できる者の元に渡す手助けをしていると言うことか……。


 「やっていることは奴隷売買だが、

  決して悪質な物ではないと理解してくれ」

 「……一度、奴隷市場に向かっても良いですか?自分の目でも確認したいです」

 「いいだろう」


 俺たちは地下から出て地上に戻った。

 その時に一瞬だが、

 見覚えのある本があったように思ったが、今は良いだろう。


 俺たちは奴隷市場がある町の南の方へ向かった。

 

 そういえば、

 確かにあそこの奴隷市場は優しいとザナークも言っていたな。

 あのがさつ男がそう言うって事は、ジュリアンの言っていることを本当なのかも知れないな。


 町を抜けようとしているとき、

 ジュリアンは露店に立ち寄った。その露店で、食べ物を大量に購入した。


 「そんなに食べるんですか?」

 「ハハハ!僕は食べないよ。これはあの子達の分さ」


 ジュリアンはそう言って微笑んだ。

 やがて、ザナークとも通った娼館が建ち並ぶ道に出た。


 「あ~ん、ジュリアン様!」

 「是非寄っていて!」


 女性達は、

 以前通ったときよりも積極的に誘っていた。


 「君たち僕が妻一筋なことは知っているだろう?」

 「そんな事言わずに」

 「またね」


 ジュリアンは女性を軽くあしらっていった。


 「仕方ないわね。それじゃあ、また今度お話だけでも!」

 「ああ、是非」

 「仮面の旦那もまたねぇ」

 「……えっ!?」


 通り過ぎようとした瞬間、

 驚きのことを言われ、驚いた。


 「バレてる……」

 「ハハハ!あの手の女性は人を覚えるのが得意だからね。

  仮面で顔を隠していても、体格とかでバレだのだろう。それに服装」

 「……あ、」


 確かにあの日も今日も同じローブだ。

 そうか、ローブでバレたのか。


 娼館を抜けてすぐに、

 前にも来たあの木造の建物の前までついた。

 今日も、前と同じ槍を持った見張りがいた。


 「やあ、ご苦労様」


 ジュリアンがそう言うと、

 見張り達はすぐに道を空けた。


 「お疲れさまです!ボス!!」

 「どうぞ、お通りください!」


 二人とも緊張しているのか、

 汗を流しながらそう言った。


 「二人とも、ちゃんと休んでいるかい?」

 「はい、さっきも休憩をしていました」

 「問題ないです」

 「それなら良かった。後ろの子も通してくれ」


 見張り達はそう言って俺の方を見た。


 「アルストレア家の方ですね」

 「こちらをお通りください!」


 見張りは俺のことを覚えていたようで、

 すっと通してくれた。


 「ありがとうございます」


 あの時も仮面を付けたままだったはずだが、

 やはり、ローブでバレているのか……。


 俺たちは扉を入り、

 階段を下った。


 布をめくると、明るい部屋に出た。

 前回ここには競りをしている人が多くいたが、

 現在は、人一人いなかった。


 「今日は人がいないんですね?」

 「あの時、ここにいた一の大半がダニエルが招いた者だったからな。

  今は全員入れないようにしている。さぁ、こっちだ」


 黒い扉の方に向かい、

 扉の中に入った。


 前と同じような暗い通路を歩き、

 途中の扉の前に立った。


 「ここの中に、

  奴隷達の部屋がある」


 ジュリアンはそう言って、

 扉を開けた。


 扉の先には明るい通路があり、

 その脇にはいくつもの部屋があった。


 「あ、ジュリアン様だ!!」


 通路を歩いていた子供がそう言うと、

 部屋の中から多くの子供が出てきた。

 そこには、人族だけじゃなく、色々な種族がいた。


 「ジュリアン様!」

 「お帰りなさい!!」


 ジュリアンの周りに子供達が集まってきた。


 「今日はね、このお兄さんが、

  みんなに用があるみたいだから聞いてあげてくれないかい?」

 「いいよぉ!!」


 子供達元気よく返事をした。


 俺は子供達の目の前に出た。

 子供達に目線を合わした。


 「君たちに聞きたいことがあるんだけど良いかな?」

 「うん、なにぃ?」

 「君たちは、ここにいて辛くないかい?」


 俺がそう言うと、

 子供達は顔を合わせながら二ヒッとした。


 「うん!辛くないよ!」

 「みんな優しくしてくれるし、暖かいご飯も貰えるもん!」


 人族の子供がそう言うと、

 子供達が全員俺の顔を見ながら色々楽しかったことを話し始めた。

 その中には「大人の人に遊んで貰える」や「お水で綺麗にして貰える!!」など、いろいろあった。


 「ジュリアン様が助けてくれたから、今はとーっても幸せだよ」


 そう言いながらニッコリと笑う子供を見て、

 俺はジュリアンの言うことを信じようと思った。子供の笑顔はとても良い。


 「そっか、みんなありがとう」

 「うん!」

 「それじゃあ、正直な君たちにこれを」


 ジュリアンは勝ってきた食べものを子供達に渡した。

 子供達は一本ずつ分け合って、それを食べた。

 俺たちは、その光景を見つめつつ、部屋を後にした。


 「ちょっと寄りたいところがあるんですが、良いですか?」


 部屋を出てすぐに俺はジュリアンにそう言った。

 

 「いいとも。何所だい?」

 「あそこです」


 俺は茶色い扉の方を指さした。そこは、つい昨日ダニエルと一戦交えた場所だ。

 現在は、部屋の中が荒れているため封鎖しているようだ。


 俺は部屋に入り暖炉を見た。そこには、何かが燃え尽きているのか白い灰が溜まっていた。

 暖炉の横に置かれている鉄の棒なような物で中を探ってみたが、目的の物は出てこなかった。


 「燃え尽きたのか……?」


 ここには聖典を見に来た。

 ダニエルが所持していた物を俺はこの暖炉の中に投げ入れた。暖炉の炎で燃え尽きれば良いと思ったが、もし残っていたら回収しないといけないと思い見に来たが、聖典はなかった。

 聖典といっても、案外壊れやすい物なのかもしれないな。


 「どうしたんだい?」

 「……いえ、何でもありませんでした」


 俺は多少不審に思いながらも部屋を後にした。


 その後、組織の施設を色々回った。

 露店に治療所なんかもやっていた。しかも格安で。

 組織がやっていた医療所は屑銭三枚で治療を受けられる。これが中央大陸のアスト王国ならば銅貨一枚で何度受けられるだろうか?

 

 この時、俺の組織に対しての印象はとても良い物になっていた。


ーーー

 日が沈み、辺りはもう真っ暗になっていた。

 俺たちは宿まで帰ってきた。


 「どうだったかな?」

 「そうですね、思ったよりみんな幸せそうな表情をしていました」


 組織の施設を回る前は、

 ジュリアンやナタリーがいくら良く言っても不満は漏れると思っていた。だが、どこに行っても、聞こえてくる声は、喜びやジュリアン達に対する感謝の言葉ばかりだった。


 「僕達のやっていることが悪質な物でないと理解して貰えたかな?」

 「はい!悪質なことはしていないと分かっては今したが、今日で確信することが出来ました」

 「それか!よかった!」


 ジュリアンは心から安堵しているようだった。

 俺自身、組織を敵視しても襲うことはなかったと思うが、ボスという立場からすれば危ない要因を少しでも無くしておきたいのだろろう。


 ジュリアンはアジトの方に戻るらしく、ここで分かれることになった。

 去り際に、

 

 「明日、港で会おう」


 とだけ言い残して去って行った。

 

 俺は宿に入った。

 今日は、俺たち以外のお客さんはいなく、

 珍しく静かだった。


 俺は二階に上った。

 部屋に戻る前にフィラの部屋を訪ねてみたが、すでにもう眠っていた。


 「……おやすみなさい」

 

 起こさないように静かに部屋を立ち去った。

 横の自分の部屋に戻ろうと思い扉に手を掛けた。その瞬間、何か気配を感じた。


 「誰かいるのか……?」


 一応魔眼を開眼して、万全な体制を整えた。

 勢いよく扉を開けた。


 「誰だ!」


 部屋の中でビクッと影が動いた。

 魔眼に魔力を込めた。


 《()()()()()()()()()()()()()()()


 今見えているこの光景は、()()()()()()()()()()()だ。

 俺の右目は、流魔眼という魔眼らしい。

 リベルが言うには、

 魔力の流れを読むことが出来て、魔力の流れで一秒先を予測できるらしい。何故一秒なのか疑問に思ったが、あまり先のことを見ようとすれば死んでしまうらしい……。だが、あくまで魔眼が導き出した一つの予測に過ぎないため、あまり過信するなとのことだ。

 使うのも怖くなるが、一秒先ならば問題は無いらしいので、慎重に使っている。


 俺は魔術で部屋の中を照らした。


 『光射(フラッシュライト)


 俺の魔術で照らされた部屋の中には、

 よく見知った人がいた。


 「なんだ、ナタリーですか」

 「何だとは何よ?」


 ナタリーは、

 「はぁ」と一息はいた。


 「全く、こっちが気を利かせて龍王様と一杯やろうと思ったのに」


 俺はナタリーの横に置かれている机に目を移すと、

 瓶とコップが二つ置かれていた。


 「部屋に人がいたら警戒くらいしますよ!」

 「へぇ……まあいいわ。ほらここに座りなさい」


 手でイスを指さし、

 お互いイスに座った。

 この部屋にイスは一脚しかなかったはずだが、

 ……ソフィアに持ってこさせたのか。


 「じゃあ入れるわ」

 

 瓶の蓋を開けて中身をコップに入れ始めた。

 

 「大丈夫なんですか?」

 「ん?何が?」

 「ナタリーって……お酒弱いですよね?」

 「……大丈夫よ。ちょっとずつ飲むから……」


 確かにあの時は一気に飲み干していた。

 あんな飲み方をすれば誰だって酔ってしまうか。


 ナタリーが持ってきた酒は、

 紫色をしていた。これは、この前ナタリーが酔い潰れたときの物と同じだろう。


 「それじゃあ、乾杯!」

 「乾杯」


 酒の酔いは、解毒魔術で抑えることが出来る。

 もしもナタリーがダウンしてしまったらすぐに掛けよう。


 俺はそう考えて、

 ついで貰った酒を飲んだ。

 俺は半分くらい、ナタリーは一口分飲んだ。確かにちょっとずつ飲もうとしている。


 「それで、今日は何で一緒に飲もうなんて思ったんですか?」

 「それは……お礼をちゃんと言っていないと思ったからよ」


 お礼?

 ああ、呪気を解除したことか……。


 「別にお礼なんて」

 「助けて貰ったんだからお礼を言わない訳にはいかないじゃない」


 なるほど、

 俺は気にしていなかったが、

 ナタリーは結構気にしていたのか。


 「なるほど、それでは素直に受け取らさせていただきます」


 その後、

 部屋は静けさに包まれた。


 「……ルイネス」

 「はい?」

 「普通の子なら貴方に惚れている所だと思うんだけど」

 「……はい?」


 何を言っているんだろうか?

 俺はナタリーの言ったことに理解が追いつかず、戸惑っていた。

 

 「私は貴方と友達でいようと思っているわ」

 「は、はい?そうですか……ありがとうございます?」


 残った酒をグイッと飲み干した。

 驚きと緊張で渇いた喉を潤すにはちょうど良かった。


 話を整理しよう。

 今ナタリーは俺に惚れるところを友達のままでいたいと言ったのか?まず、女の子はあれで惚れてしまう物なのか?

 いや、邪険にする物ではないな。彼女が考えて友達でいたいと言ってくれているのだから、俺もそうするだけだ。

 俺自身、彼女との距離感をとても気に入っている。今以上に親しくなるのも良いと思うが、今の関係が気軽に話せてとても居心地が良い。

 ならば……


 「僕も、ナタリーとはずっと友達でいたいです」

 「良かった!」


 ナタリーそはう言って手を差し出してきた。

 俺もそれに答え握手を交わした。


 「スッキリした!!」


 背伸びをしているのを横目に、

 俺は魔術で飲み水を作り、一気に飲んだ。


 「そういえば、ナタリーはなんでトッタから人を買おうとしていたんですか?」

 「ああ、あれは人族を安全に大陸を渡らせるために、トッタ達みたいなのを使って人族を保護していたのよ。

  ここ数年は中央大陸の人族の一般人がアルレシア大陸に急に現れる事があったから私が直々に見に行ってたのよ」


 なるほど、

 俺と同じような目に遭った人を助けるためにか、

 もしかしたら、

 今日見た奴隷市場の子供達の中にも同じような目に遭った子もいたかも知れないな。


 「それで、僕達の時にもいたんですか?」

 「いや?ルイネス達が送られてくることは知っていなかったから、あれは完全な偶然よ」


 偶然って、

 それじゃあ、トッタの運が良かったって事か。

 自分で言うのも何だが、

 超級魔術師の冒険者なんてそうそういないだろう。それでたまたま出会った俺が超級魔術師っていうのは相当運が強いのだろう。


 「偶然ナタリーに出会えた僕達は、

  相当運が強いみたいですね」

 「そうよ。光栄に思いなさい!」


 さっきの空気とは打って変わって、

 いつもの調子に戻ってきたようだ。

 彼女はいつもの調子のままが良い。これが、彼女の魅力の一部だ。


 「それにしても、

  半年間に二回も死にかけるなんて、ルイネス。

  貴方何かついてるんじゃないの?」

 「そんな事言わないでくださいよ!

  僕だって、この大陸に来たときは死にかけたんですから」

 「へぇ、聞かせなさいよ」


 それから、

 俺のこの大陸で目覚めたときの話を始めた。

 ナタリーは俺の話を真剣に聞いていた。

 流石のリベルのこととかを話すわけにいかず、時々濁しながら話した。


 俺のことを話し終わり、

 次はナタリーの話になった。

 生まれてから組織の幹部達とよく遊んだとか、その時に魔術を少し教えて貰ったとか。

 

 話を聞いてて驚いたが、

 ナタリーは、水と岩魔術以外の攻撃魔術を上級まで収めているらしい。上級魔術の中にも使えない物はあるが、基本は出来るらしい。

 なら戦いの時に使ってくれとも思ったが、実践ではほとんど使ったことがないらしい。


 話し込んでいると、

 外はすっかり夜が深くなっていた。


 「夜もかなり深くなってきたので、そろそろお開きにしましょうか」

 「え?もうなの?」

 「明日ここを立つので少し寝ておきたいんですよ」


 俺がそう言うと、

 渋々納得してくれた。


 「あ、そうだ。

  これルイネスにあげる」


 ナタリーは、

 そう言って何かを投げてきた。


 「わっ、」


 それをキャッチして、見てみると、

 それは、ナタリーがいつも身に着けていた腕輪だった。


 「それがあれば、

  組織の施設を自由に使えるわ」


 なんって便利な物を!

 これがあればあれをタダで使えるのか!


 「良いんですか?そんな良い物を?」

 「構わないわ。ルイネスはもう組織の客人だし」


 やはり持つべきは最高の友達だ。いや、この腕輪は彼女が信頼してくれた物だ。

 その思いをむげにするわけにはいかない。


 「有難くいただきます」


 その後、

 ナタリーは自室に戻っていった。


 今日はいろいろあったが、

 一番は、ナタリーとちゃんと友達になれたことだ。

 明日で一度お別れだが、また会いに来よう。


 俺はそんな事を考えながら床についた。


ーーー


 翌日俺たちは港に来ていた。

 港でセフィス大陸に向かう船を捜す。だが、今はまだ日が昇りきって居らず、港にいる人もまばらだ。

 一緒に来ているフィラも眠たそうにしている。

 俺自身も、昨日の酔いが残っており、気分は最悪だった。


 「うっ……気持ち悪い」


 気分が悪く、

 俺は座り込んでいた。


 「ん……ルイ君大丈夫?」

 「はい……大丈夫です」


 俺は解毒魔術で酔いを覚ました。

 魔術で覚ますと、一気に覚めるのでなく、ジワジワと気分がもどる。


 「あぁ……和らいできた」


 そうこうしていると、

 町の方から見知った人達が大勢を連れて歩いてきた。


 「やあ、ルイネス君おはよう」


 そう言ってジュリアンは俺を見た。


 「どうやら、昨日はうちの娘が世話になったようだね」


 ジュリアンの後ろには気分が悪そうなナタリーが立っていた。

 まるでさっきの俺を見ているようで、少し面白かった。


 「クスッ」

 「……何笑ってるのよ?」


 機嫌が悪そうなナタリーに、

 俺は解毒魔術を掛けた。


 「あぁ……助かるわ」

 「ほう、解毒魔術にはそんな使い方もあるのか」


 ジュリアンは興味深そうに見ていた。

 しかし、解毒魔術と治癒魔術を無詠唱で使えるようになりたいのだが、なぜだか、この二つだけは無詠唱で使えない。

 一体何故だろう……?

 そう考えこんでいると、ナタリーがじろじろ俺の方を見ていた。


 「ルイネス?もう良いわよ?」

 「あ、すみません」

 

 どうやら、俺が魔術を掛け続けていたらしい。

 俺たちが話しているのを見てフィラが頬を膨らませていたことは割愛しよう。


 「さて、酔いも覚めたところで本題に入ろうか」

 「本題?」

 

 そう訪ねると、

 本題について話し始めた。

 

 「ルイネス君。セフィス大陸に向かう船は見つかったかい?」

 「いえ、まだですが?」

 「なら、我々が船を出そう」


 え!?わざわざ良いんですか?

 この町に来てからお世話になりっぱなしだが、良いのだろうか?

 ここは節度を持って断った方が良いよな?セフィス大陸に向かう船は捜せばきっとあるだろう……。


 「流石にここまで助けていただくには……」

 「いいんだ。ルイネス君には迷惑を掛けたからね。恩を返すという意味でも、君たち二人を送り届けさせてくれないかい?」


 ジュリアンがそう言うと、

 後ろで一人ビクッとしている人がいた。恐らくダニエルだろう。


 しかし、なるほど、

 ジュリアンなりに恩返しとしてやろうとしてくれていたのか。なら、素直に受け取ろう。

 船を捜す手間も省けるし。


 「それではお言葉に甘えさせていただきます」

 「ああ、存分に甘えてくれ。それじゃあみんなよろしくね」


 合図と共に、

 組織の人達が動き始めた。


 数十分後、

 多くの人達が目の前の船を行き来している。


 「そっち!急げ!」

 「違う!その樽は船内に運ぶんだ」

 「おい、帆を広げるの手伝ってくれ!」


 船上はにいる人達は忙しそうにしていた。


 現在俺の周りには誰もいない。

 決して省かれたわけではない。

 ジュリアンは商人達と話し、

 ナタリーとフィラは二人で女子トークをしている。

 二人に混ざろうとも思ったが、女子トークに混ざるのは無粋だろう。


 そこからさらに十数分後、

 朝日が完全に昇り、港にも人が増えてきた。


 「ボス!準備完了だ!」

 「そうか!」


 どうやら船の出向準備が整ったらしい。


 「それじゃあルイネス君達、乗ってくれたまえ!」

 「はい、色々とありがとうございました」

 「構わないよ」


 この町に来てからそんなに日は経っていないが、

 この人達にはとてもお世話になった。また会いたいと思える人達だったな。


 「ジュリアンさん、またどこかで会いましょう」

 「ああ、またどこかで」


 俺たちはお互い握手を交わした。

 

 「ほら、お前もなんか言いなさいよ」

 

 そう言って、

 ジュリアンに押されて前に出てきたのは、

 後ろで束ねていた髪の毛をバッサリ切ったダニエルだった。


 「だ、ダニエルさん!?その髪……」

 「これは……私なりの後悔の証だ」

 「後悔の証?」

 「私のしてしまったことを忘れないように自分自身に刻み込んだ」


 自身に刻み込むために、

 髪の毛を刻み込んだのか。……寒いな。


 しかし、

 俺はこの人のことをよく分かっていなかったな。

 こんなにも正直に気持ちを表に出す人とは思っていなかった。


 「こんなことで許されると思っていないが、

  せめて形に残ることで表したかったのだ」

 「なるほど」

 「ルイネス君もすまなかった」


 ダニエルはそう言って、

 深々と頭を下げた。


 「はい、僕は大丈夫です。

  もう胡散臭い変なヤツに騙されないでくださいよ?」

 「無論だ。もう二度と同じ間違いは起こさない」

 「それが聞けて良かったです。この話はこれで終わりにしましょう」


 俺はそう言って手を差し出した。

 正直、俺自身は良いのだが、

 ナタリーの事を思うと許してはいけない気がする。だが、張本人のナタリーが普通に接しているので、俺が気にする必要はないだろう。

 全ては本人達次第なわけだし……。

 ならこの話はおしまいだ。仲良くしようじゃないか。


 「ルイネス君。ありがとう」


 俺たちは熱い熱い握手を交わした。


 「あ、そうだもう一つ」


 握手を終えると、

 ダニエルがそう切り出した。


 「ザナーク・アルドには気をつけると良い」

 「……どうしてです?」

 「彼を雇ったのは、実際神……いや、あの得体の知れない者にそうしろと言われたからだ」


 そういえばそんな事も言っていたな……。


 「でも、それだけじゃ……」

 「私に告げる際にこう言葉を漏らしていた。

  『彼は使える。何かあれば頼ると良い』と」


 なるほど、

 神と名乗る者がそう言ったのならば、

 ザナークのことを詳しく知っている可能性がある。

 ダニエルが警戒するのも納得だな。


 「なるほどそうでしたか……」

 「ああ、一概に敵とは言えない。

  私のように利用されているだけの可能性もある」

 「そうですね……一度あって話をしたいところですが」

 「狂神流剣士は自由奔放だからな……まあ、今は心に留めておくくらいで良いだろう」

 

 確かに、

 あの一件以降ザナークとは会っていない。自由奔放というのも納得だ。

 ひとまずは置いておくとしよう。


 「そうですね覚えておきます」

 「ああ、話はこのくらいで良いだろう。

  それじゃあ、ルイネス君。気をつけて」

 「はい!ダニエルさんもお元気で」

 

 この人とはいろいろあったが、

 なんとなく仲良く出来そうだ。


 「話は終わったかな?もうじき出航の時間だよ?」

 「はい、終わりました」

 「そうか、ダニエルが失礼な真似はしなかったかい?」

 「おい……それはどういう意味だ?」

 「ハハハ、そのままの意味だけど?」


 ジュリアンは、

 ダニエルを挑発するようにそう言った。


 「はぁ……私は何故こんな男の下に……」

 「もう遅いよ!」


 満遍の笑みでそう言うジュリアンを見て、

 ダニエルはもう一度、大きくため息を吐いた。

 こう言う親しい仲で出来るような絡みは正直うらやましい。


 そろそろ時間か。


 「それじゃあ、僕達はそろそろ行きますね」

 「気をつけてね」

 「またアジトに来い。歓迎する」


 俺はもう一度二人に挨拶をして船の方へ向かった。


 「フィラ、そろそろ行きますよ!」


 フィラの方を見ると、

 二人で別れを惜しんでいた。


 「もう泣かないの。また会えるんだから」

 「グスンッ……はい」

 「ほら、ルイネスの方に行きなさい」

 「……また会えますよね?」

 「もちろんよ。さ、早く」

 「……はい、ナタリーさんまた」

 「またね」


 フィラは泣きそうになりながらも、

 しっかりとした足取りでこっちに歩いてきた。


 「それじゃあ、行きましょうか」

 「……うん!」


 涙を拭き、

 麗しい表情をしながらフィラは船へ上がった。


 この船には、

 俺たちや組織の人の他にも、商人や冒険者など多くの人が乗っていた。


 「それでは、出航します!」


 船室の方から男の人の声がしたと思ったら、

 ゆっくりと船が進み始めた。


 「あ、そうだルイネス君。

  その船には面白い人が乗っているから、目的地に着くまでに会っておくと良い」


 進む船に乗る俺たちに向けて叫ぶジュリアンの声が聞こえた。


 「分かりました!」


 面白い人とは誰なのか分からないが、

 一応、捜してみるとしよう。

 考えていると、

 もう一つ声が聞こえてきた。


 「二人とも!また会おうね!絶対よ!」


 涙を流し、

 鼻声になりながら叫んでいるナタリーの声だ。


 フィラは止まっていた涙を再び流し、

 船から少し身を乗り出した。


 「はい!また会いましょう!」


 俺もフィラの隣に立ち、

 大きく息を吸った。


 「みなさーん!ありがとうございました!またお会いしましょう!」


 港で見送ってくれた人達は、

 俺たちの姿が見えなくなるまで手を振り続けてくれた。

 本当にいい人達だ。またフィラと一緒に会いに来よう……必ず。


 こうして、

 俺たちはアルレシア大陸を飛び出した。

 楽しいばかりではなかったが、

 良い経験を積むことが出来た。


 これから目指すはセフィス大陸。

 アルレシア大陸とは違って、人族が多く住む領域だ。

 今まで経験したことのない事が多く起こるだろう。

 新たな大陸を目指して心を躍らせながら、俺たちは船に揺られ始めた。


ーーー

 ルイネス達が乗り込んだスィーヴズ所有のこの船には、

 色々な人物が乗り込んでいた。


 狂神流剣士や、

 何かの花が刻み込まれた短剣を携える不気味な男、


 それに、


 【金髪で灰色のローブを着込む謎の少女】とか……

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