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転生記 ~異世界では長寿を願って~  作者: 水無月蒼空
第3章:【少年期】冒険者編
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第四十一話:「潜入」

 ザナーク・アルドは、

 両の手に握っている剣を鞘へ戻した。


 「俺は、狂神流王級剣士:ザナーク・アルドだ」


 ザナークは俺の方を見て、

 自分の名前を言った。


 ザナークの見た目は、

 褐色の肌にほんのりとした赤い髪、大きい体格をしていた。歳は中年といったところだろう。

 俺がそう考えていると、ザナークは俺の方を睨み付けた。


 「ボウズ。お前の名は何という?」

 「……ルイネス・アルストレアです」

 「……ほう」


 俺の名を聞いたザナークは、

 剣の柄をこすりながら微笑んだ。


 「ボウズ……あのフレイ・セフラグの弟子か」


 フレイ・セフラグ……!

 こいつ、フレイ・セフラグを知っているのか?


 「知っているのか?」

 「会ったことは無いが、噂くらいは聞いた事がある。

  昨日、王級魔術を会得して王級魔術師になり。弟子には超級魔術を操る人族の子供、ルイネス・アルストレアがいると」


 王級魔術師!?

 手紙では分からなかったが、そんなにすごい人なのか?


 「ボウズがそのルイネス・アルストレアだろ?」

 「……さぁ、どうでしょうか」

 「なんだ?煮え切らない返答だな」

 「こちらにも事情がありましてね」


 ザナークはつまらなそうに、


 「そうか……」


 と呟いた。

 ザナークはゆっくりと二本の剣を抜いた。


 「まあ、余談はこの辺りで良いだろう。

  これより、依頼を果させて貰おう」


 ザナークが剣を構えると、

 部屋の中に漂う空気が一気に冷たく感じはじめた。


 「俺と戦え。魔術師ルイネス」


 俺は圧を感じ、

 とっさに杖を構えた。


 「……っ、、、」

 「どうした?魔術を撃ってこないのか?」


 魔術を撃とうとしても、

 身体がすくみ、魔術を使うことができない。


 超級剣士のベンジーと戦った時はここまでの圧を感じなかった。ザナークとベンジーでは、発している圧の質がまるで違う。

 階級が一つ違うだけで、ここまで差が生まれるものなのか?

 俺がすくんでいると、

 ナタリーがコソッと声を発した。


 「ルイネス……勝てるの」

 「……無理ですね。僕達では到底勝てる相手じゃないです」


 俺とナタリーでは、

 ザナークに勝つのは不可能だ。後で追っているウリュウが入ったとしても勝算はないに等しいだろう。

 それだけ、俺たちとザナークの実力が離れていることは戦わずとも圧力だけで分かる。


 ここは撤退したいところだが、

 ザナークが見逃してくれるとは思えない。


 「どうするか……」


 正直言って、

 打つ手がない。


 「どうにか出来ないの?いつもみたいに派手な魔術を使って……」

 「並の魔術じゃあ、弾かれるか打ち落とされます。それに、強い魔術を撃つにも溜めが……」


 そう言った瞬間、 

 俺はリベルといたときにした会話を思い出していた……


ー二年前ー


 『ルイネスよ。

  お前が格上の相手と戦う際、どうやって対処する?』


 リベルは、

 俺の魔術を素手で弾きながらそう言った。


 『……強い魔術を使う……でしょうか?』

 

 俺がそう言うと、

 リベルは、俺が杖に溜めていた魔力を阻害して、構築途中の魔術を破壊した。


 『違う。強い魔術を使うには多少なりと溜める時間が必要だ。魔術は上位の物になればなるほど詠唱が長くなる。

  無詠唱で魔術を使えるお前でも、多少時間が必要だろう」

 『確かにそうです』

 『ではどうするか?』


 俺はリベルの言いたいことが分からず困惑していた。すると、リベルは人差し指を俺の額に当てた。


 『相手の意表を突くことだ』


 リベルはそう言って、

 俺にもう一度杖に魔力を込めさせた。


 『例えば、俺が先程使ったこの技』


 リベルはそう言って、

 俺が杖に溜めていた魔力を散らせた。


 『この技は、構築中の魔術を無効化するための技だ。基本詠唱中に使う物だが、無詠唱の者にも魔力の流れが読めれば通用する』

 『……はい?』

 『お前は、この技を使われた時どうした?』


 この技はこれまで何度か使われたが、

 俺は対応することが出来ず、見ているだけだった。


 『……呆然とみているだけでした』

 『そうだ。

  お前は目の前で起きていることに理解が追いつかず一瞬思考が停止している』


 確かにそうだと思った。


 『人族にとどまらず、

  生物は自分の理解が追いつかない物を見たとき思考が停止する。その瞬間、いくら実力差があっても必ず隙が生まれる。

  戦っている場所、その場の状況、相手の動き、自分の持ち札。

  その全てを使って相手の隙を作ることが出来れば、各上相手にも一矢報いることは出来るだろう』


ーーー

 リベルの言っていたことを思い出せ。

 辺りを見て、相手の隙を作れる場所を、どう行動すれば良いのかを考えろ……。


 「……ナタリー、今から一度動きます。

  僕が合図を出したら、後ろの扉に向かって走ってください。この屋敷から脱出します」


 俺がそう言うと、

 ナタリーは、分かったと一言言った。


 俺は床を二度ほど叩いた。

 ここは屋敷の一階だ。しかし、ウリュウが言っていたことを思い出すと、組織は普段地下を使っていると。つまり、今俺たちが立っているこの書斎の下にも、人が通れるだけの空間があるということだ。

 そうなら、なんとか脱出するだけの時間は作れるかもしれない。


 「準備は出来たか?」


 ザナークは、

 暇そうにそう言った。


 「はい、終わりました。

  わざわざ待っててくれるとは、律儀なんですね」

 「はは、これでも一応戦士だからな。

  格下が作戦を練る時間くらいはくれてやるさ」


 格上の余裕か……だけど、相手がなめてくれるから大切なことを思い出した。


 「それじゃあ、もういいな?」

 「ふぅ……ああ。準備は出来た」


 俺はナタリーを巻き込まないようにするため、

 少し前に出た。

 

 ザナークは剣を構え、

 強く踏み込んだ。その瞬間、ザナークの姿が俺の目の前から消えた。


 「ウラァァァ!」


 ザナークは一瞬のうちに俺の目の前に現れ、

 雄叫びのような声と共に、右手に持つ剣で俺に斬りかかってきた。


 『氷壁(アイシクルウォール)


 俺はすかさず魔術を使い、

 分厚い壁を作った。しかし、ザナークの剣は、魔術をいとも容易く切り捨てた。

 俺は魔術を使ったときの反動を利用し、後ろに飛び退いた。


 「やるじゃねーか」


 ザナークは余裕そうな態度で、

 片方の剣を床に突き刺した。


 「魔術師にしては、身体能力が高いな……いや、これは経験が故か」

 「何が言いたい?」

 「いや、なんだ。

  前に戦った剣士が、お前によく似た魔術師のことを褒めるもんだから比べてたんだ」


 剣士?

 俺に似た魔術師?一体誰のことだろう?


 「それで?僕とその魔術師はどっちが強いんですか?」

 「恐らくお前だろうな。

  その剣士は、その魔術師は、魔術において右に出る者はいないが、剣術や体術においてはまだまだと言っていた。身体能力は大して高くないんだろう」


 その魔術師は、

 魔術を使うのに、剣術も使っているのか……。


 「だが、俺に比べれば、一も二も変わらないがな」

 「はは……そうですか……」


 俺たちがそう言っていると、

 後ろで、聖典を読んでいたダニエルが口を開いた。


 「まだやっているのかい?

  ザナーク。早くそいつを殺せ。

  そいつは何をするか分からないから早く殺せとの命令だ」


 命令?

 誰からの?

 

 「命令だぁ?一体誰からの?」

 「お前が知らなくて良いことだ」

 「……そうかよ」


 聖典を持っていると言うことは、

 恐らく、命令をしているのは、リベルの言っていた白いヤツだろうな。


 「まあ、そういうこった。

  依頼主が急かすんでな。お前はそろそろ死んで貰うことにする」


 ザナークは、

 そう言って先程よりも深く踏み込んだ。


 「そうか……ですが、切り込んでくる前に、足元に気をつけた方が良いですよ?」

 「……あ?」


 ザナークが視点を下に向けた瞬間、

 俺は二つの魔術を使った。


 『地盤振動(アースクェイク)

 「うおっ!?」


 俺は上級土魔術で、

 自身の近くに地震を起こす魔術と、重力魔術と同時に発動させた。

 ザナークは、重力魔術に押さえつけられ、身動きがとれないようだった。


 「ナタリー!今のうちに!」


 俺がそう言うと、

 ナタリーは扉の外に向かって走り出した。


 「くっ、、、いかせるかよ……」

 『落ちろ!』


 俺は、重力魔術を使っている杖にさらに多くの魔力を流した。すると、先程魔術で地震を起こした影響で床に多くのヒビが入り、重力魔術の重さで床が崩れるようになくなった。


 「く、くそぉぉぉ!」


 ザナークはそう叫びながら、

 崩れた床から地下に落ちていった。


 地下はかなり深くあったようで、

 しばらくザナークの声が反響して聞こえてきた。


 「ハァハァ……ギリギリだった……」


 頭にひどい激痛が走り、

 目が眩み、視界が暗くなるような感覚があった。


 俺は杖に身体を預け、

 重たい身体を無理矢理立たせた。


 「……あとは……」


 ダニエルの方を見てみると、

 何が起こったか分からないといった表情で、こちらを見ていた。


 「ハァハァ……さあ、それを渡してそこに座れ!」


 俺がそう言うと、

 ダニエルはブツブツ呟き始めた。


 「おかしい……おかしいぞ!

  私は聖典が示すお告げのままに計画を実行してきた。それなのに……何故私が劣勢になるのだ」


 ダニエルは、

 整えていた髪の毛を乱しながらも、聖典をめくり始めた。


 「私は……私は……」


 聖典をまた一枚、また一枚とめくった。しかし、聖典を見る表情は、次第に曇り始めた。


 「なぜ……何も書かれないのだ……」

 「もう、終わりだ」


 俺はダニエルの目の前まで移動し、

 聖典を渡すよう要求した。


 ダニエルは、俺たちが証拠を握っていると知っている。そのため、雇ったザナークと共にここで待っていたのだろう。

 この男はもう終わりだ。


 「ルイネス」


 扉の方からナタリーの声が聞こえた。

 俺は扉の方へ振り向くと、

 いたるところに傷を負った黒装束の男がナタリーの首元に短剣を添えながら立っていた。


 「ハァハァ……その御方から離れろ」


 黒装束の男は、 

 ゆっくりと扉を潜り、部屋の中に入ってきた。


 「聞こえなかったのか?離れろと言ったのだ!」


 声を荒げ、

 短剣を首に押しつけた。ナタリーの首からほんのり、一滴に赤い血が流れた。


 俺は、黒装束の男に警戒されない場所まで離れた。


 「それでいい。それと、お前が持っている巻物も、その穴の中に投げ捨てろ」

 「……くっ、、、」


 俺は、巻物を開けた穴の中に投げ捨てた。すると、黒装束の男はナタリーをその場に置き去りにしてダニエルを担いだ。


 「いいか?我々がここを離れても、決して追ってくるな」


 黒装束の男は、

 そう言って短剣でザナークが入ってきた割れ目をさらに広げた。


 「……ああ、そうだ。

  一つ言い忘れたことがあった」


 男はそう言って、

 血で汚れた黒のフードをとった。底には、俺とまだ年が変わらなそうな子供の顔があった。


 「ナタリー様……もうじき死ぬぜ」

 「……えっ?」


 俺が視線をナタリーに移した瞬間、

 男は窓の外に出るように飛び去った。


 「あ……あ、、、」


 ナタリーは息が苦しいのか、

 額からは大量に汗を流し、首元を押さえて苦しんでいた。


 「な、ナタリー!?」


 俺はナタリーに駆け寄った。

 

 ナタリーの押さえる手をどかし、

 首元を見てみた。すると、あの黒装束の男に付けられた傷口が紫色に変色し、動脈が変色しながら浮き出ていた。


 「これは……毒か!?」


 俺は、中級解毒魔術をナタリーに使った。しかし、その効果は無く、ナタリーの首は変色したままだった。


 「どうする!?」


 この毒は俺には治せない。

 誰か、治せる人はいないのか……。


 「あ、あの人なら」


 俺は魔術を研究しているっていう、

 ソフィアの元に向かうことにした。


ーーー

 俺はナタリーを抱きかかえ、

 外に出た。


 「……上からの方が早いか」


 この屋敷に来る途中通った道は、

 大通りや路地を多く通るため、宿に行くのに時間が掛かる。そのため、重力魔術を使い空から向かうことにする。


 「うっ、、、」


 俺は自身の身体を浮かせた。そして、宿のある方向に向かった。

 自分の身体から魔力がどんどん消費されていくのを感じながら急いで向かった。


 そこから数分が経ち、

 ようやく宿に着くことが出来た。


 「あら?龍王様?どうかされましたか?」


 宿の目の前を掃除していたソフィアと運良く出会った。

 ソフィアは最初俺に明るく話しかけたが、俺が抱えているナタリーを見て次第に表情が曇り始めた。


 「ハァハァ……ソフィアさん。助けてください」


 俺がそう言うと、

 ソフィアは急いで宿の扉を開け、俺たちは中へ引き入れた。


 ナタリーをソフィアの部屋に運び込み、

 ベッドに寝かせた。


 「これは……」


 ナタリーの首の変色は、先程よりも広がっており、

 今では顔や肩口にまで広がっていた。


 「僕が使える中級解毒魔術を使ったのですが、効果が出なくて……」


 俺がそう言うと、

 ソフィアはナタリーの首元に手を置いて中級解毒魔術を使った。だが、やはりその効果は出なかった。


 「これは……まさか……」


 ソフィアは、

 口元に手を当てながらそう呟いた。


 「これが何か分かるんですか?」

 「はい……恐らくこれは……」


 ソフィアが何かを言おうとした瞬間、

 部屋の扉が勢いよく開いた。


 「それは呪気(カース)だ」


 そう言って、扉の前に立っていたのは、

 先程俺の魔術で地下に落ちていった王級剣士:ザナーク・アルドだった……。


 ザナークは、部屋に入ってきて、

 ナタリーの首元を直視した。


 「これなら……」


 ザナークはそう呟いて、

 小さな鞄の中から指輪を取りだした。


 「おい、そこの白髪の女」

 「……はい?」

 「これをその女にはめてやれ。これで少しはカースの進行を押さえられるはずだ」


 ザナークは、指輪をソフィアに向かって投げた。

 ソフィアは指輪を受け取り、ナタリーの指にはめた。


 「……何も変わりませんが……」

 「当たり前だ。これで治るわけじゃねーんだからな」


 確かに、ザナークは治るとは言っていなかった。しかし、これで進行を抑えられたとしても、治す方法が分からないのならどうすることも……。


 ザナークは、

 部屋の隅にあるイスに腰掛けた。


 「ルイネス。その女を助ける方法ならあるぞ」

 「……えっ!?」


 ザナークは、

 俺の方を見てそう言った。


 「一体どうやって!?」

 「呪気(カース)を解呪するには、二つの方法がある」

 「一つ目は、王級以上の解毒魔術を使える魔術師に高い金を払って治して貰う」


 王級以上なんて、

 そんな解毒魔術を使えるヤツなんているのか?


 「それは……」

 「ああ、無理だな。

  王級以上の解毒魔術なんて使えるヤツはそうそういないだろう。いてもセフィス神聖王国に一人いるかいないかくらいだ」


 それじゃあ、

 いくら指輪の効力があったとしても不可能だ。ナタリーの身体がセフィス神聖王国まで持つとは思えない。


 「ただ、もう一つ方法がある」

 「……あっ、まさか!?」

 「そう、王級解毒魔術のスクロールだ」


 やはりか……。

 しかし、そんな貴重なスクロールなんて何所にも……。


 「そんなスクロール何所にも……」

 「いや、あるぞ。この町に」

 「……はっ!?」


 王級解毒魔術のスクロールがこの町にある!?


 「何所にあるんですか?」

 「こいつらの組織が運営している奴隷市場の金庫の中だ」


 ザナークは奴隷市場で見たときのことを教えてくれた。

 ダニエルに雇われこの町に来たとき、奴隷市場を紹介された。見ても面白い物じゃないので聞き流していると、対抗心を出したダニエルが金庫を開けてスクロールを見せてくれたらしい。その時、ダニエルは、

 

 「昔、セフィス神聖王国のある家に協力した際に報酬として渡された物だ」


 と言っていたらしい。

 ザナークは普段、興味ないことはすぐに忘れてしまうらしいが、王級魔術のスクロールなんて珍しい物を見た物だから、よく記憶に残っていたらしい。

 

 奴隷市場に行けばナタリーを救う事が出来る。しかし、奴隷市場はダニエルの担当という話だ、他の所よりも警備は厳しいだろう。

 それにもし、ザナークほどのヤツが他にもいるとしたら、俺一人ではまず敵わない。

 ザナークの時もナタリーを逃がす時間を稼ぐだけでやっとだった……。


 「……どうするか……」


 俺が考え込んでいると、

 ザナークは立ち上がり、俺の目の前に立った。


 「ルイネスよ。奴隷市場は雇い主の配下が山ほどいる。

  恐らく、この町で一番危険な場所だ。それでも、スクロールをとりに危険を冒すか?」

 「……はい!」


 俺がそう言うと、

 ザナークは、俺の肩に手を置いた。


 「ならば……俺が協力しよう」

 「……えっ!?」


 ザナークが発した言葉は、

 俺の予想だにしない言葉だった……。


ーーー

 その後、奴隷市場に向かうのは、

 俺と、ザナークの二人だけと決まった。


 ザナークは、 

 先に出ていると言って宿の外に出た。


 「あ、あの龍王様……」

 「はい?」

 「あの人を信用しても良いんですか?」


 ソフィアはコソッと周りには聞こえない程度の小ささでそう言った。

 どうやら、彼女はザナークが信用に足る人物なのかどうか不安なようだ。


 彼女が不安に思うのも分かる。

 俺自身もザナークのことは信用できない。さっきまで殺し合いをしていたような相手だ。すぐに信用しろという方が無理だろう。

 彼が俺たちに協力しようとしている理由もよく分からない。彼にとって特になるようなことは何もないはずだ。


 「そうですね、僕も彼のことは信用できていないです」

 「えっ!?」


 彼女は、何言ってんだ!とでも言いたげな顔をした。

 

 「それでは、どうして彼と?」

 「それは……彼が協力してくれるというのなら、頼りになるからです」


 ザナークは狂神流王級剣士だ。

 警備の厳しい場所を襲撃するなら、彼ほど頼りになる人はいないだろう。


 「彼は誰なのですか?」

 「凄腕の剣士ですよ」


 俺はそう言って、眠っているナタリーの側に行った。


 「ナタリー、ちょっと待っててください」


 俺がそう言うと、

 ナタリーのまぶたがゆっくりと開いた。


 「る、ルイネス?」

 「大丈夫ですか?」


 ナタリーは、

 震えながら手を俺に伸ばした。


 「危ないことはしないで」

 「っ、……大丈夫ですよ。あぶないことはしません。今は眠っていてください」


 俺はナタリーの手を下ろし、

 ドアの方へ向かった。


 「ソフィアさん。ナタリーのことを頼みます」

 「はい!もちろんです」


 俺はナタリーのことをソフィアに任せ部屋の外に出た。

 部屋の外には、水の入った桶を持ったフィラがいた。


 「ルイ君、気をつけてね」


 フィラは俺の顔を見ると、

 一言そう言った。


 彼女の心地の良い声を聞いた瞬間、

 俺が抱えていた不安は一気に消え去り、少し晴れた気持ちになった。


 「はい!」


 俺はフィラと別れ、

 宿の外に出た。すると、目の前に赤髪の大男が経っていた。


 「来たか」


 ザナークは振り向きざまにそう言った。

 彼の腰には立派な剣が二本携えられており、手には肉が刺さった串とそれが入っているであろう紙袋を持っていた。


 「ほら一本やるよ」


 差し出された串を受け取り、

 口へ運んだ。


 「美味しいです」

 「そうだろう。ここの食いもんは俺たちの口によく合う」


 俺たちというのは、

 人族ということだろうか?


 彼は、紙袋の中に入っている串を全て食べ終わると、

 ゴミを捨てた。


 「さてと、行くとするか」

 「はい」


 奴隷市場は、

 この町の南通にある。そこは、この辺りと違って人はほとんど住んでいないらしい。その代わり、酒場や娼館などが立ち並んでいる。

 俺たちが向かう場所はそういうところだ。


 「ルイネス。

  お前はなんであの娘を助ける?」


 町中を歩きながらザナークはそう言った。


 「部屋の外にいた青い髪の娘はお前の親しいヤツだと言うことは分かった。だが、部屋の中にいた白い髪と紫の髪の娘はそこまでじゃないだろう?」


 一目見ただけでそんな事まで分かるのか?


 「お前は何のために助ける?」

 「何のためにって……苦しんでいるんですから助けるのは当然ですよ」


 ザナークは俺の返答を聞くと、

 「そうか」とつまらなさそうに呟いた。


 「次は僕から質問してもいいか?」

 「なんだ?」

 「あなたは何で僕に協力するんですか?」


 ザナークは腕を組み、

 空を見上げた。


 「誇りのためだ」

 「誇り?」

 「俺たち狂神流は荒くれ者の集まりだ。

  殺し合いが好きで、殺し合いをするために剣を学ぼうとしているようなヤツばかりだ」

 「なんか……怖いですね」

 「そんな俺たちにも一つの掟があった」

 「掟?」

 「()()()()()()()()()()()()()


 随分と荒っぽい掟だ。

 

 「俺はこの掟に従って生きてきた。今では誇りさえ持っている」

 「……」

 「俺はお前に負け、依頼主は逃亡した。

  逃亡した依頼主に、もはや従う義理も理由もない。だから、俺を負かしたお前に協力する」


 ザナークは自分自身の誇りを持って行動している。

 まだ信頼は出来ないが、誇りは信頼できる。


 「なるほど……それじゃあ、頼りにさせていただきます」

 「ああ、任せろ」


 俺はザナークに勝った覚えはないが、

 彼がそれで協力してくれるのなら勝ったということにしておこう。


 俺たちはその後、

 人の行き交う町中を抜け、娼館などが立ち並ぶ南通に出た。


 「お兄さん寄っていかないかい?」

 「仮面の御方も」


 娼館と思われる建物の中から、

 衣類を乱した女がこちらに向かって声をかけてくる。


 「あの……」

 「ただの客引きだ、無視しろ。無視すればあっちも違う奴に行く」


 俺たちは、

 声のする方へ見向きもせず真っ直ぐ歩いた。


 「なぁんだ」

 「また来てね」


 女達はそう言って、

 他の人に声をかけ始めた。


 その後も、

 数件の娼館の女から客引きという名の誘惑をされたが、全て耐えきった。


 やがて冒険者ギルドのような木造の建物が見えてきた。冒険者ギルドの看板の代わりに魔神語で【会場】と書かれていた。

 入り口の近くに槍を持った人族の男が二人立っていた。


 ザナークは、入り口に立っている男達の所まで歩いて行った。


 「狂神流王級剣士:ザナーク・アルドだ」

 

 ザナークがそう言うと、

 男達は、入り口を開けた。


 「どうぞ、お通りください」

 「ああ。

  それと、あの男も頼む。連れだ」


 ザナークは俺に指をさした。

 男達は、仮面を付けている俺に不審がっているようだった。


 「……申し訳ありませんが、

  不審な人物を御入れするわけにはいきません」

 

 男達はそう言って、

 持っている槍を入り口を塞ぐように交差させた。


 「俺の連れだぞ?」

 「はい。いくらダニエル様が雇われたザナーク様でも、

  不審な方と一緒ということであれば御通しすることは出来ません」


 あちらも譲る気は無いといった感じだ。

 こうなれば、正体がバレるにしろ一度仮面を外すしかないだろう。


 俺は素顔を見せるため男達に近づいた。すると、男達は衝撃の物を見たかのような表情をした。


 「おい、あれ」

 「ああ、間違いない」


 男達は何やらブツブツと言い始めた。

 もしかして……俺がダニエルを襲ったことがバレたのか?それならいっそ……。

 俺は杖に魔力を込め始めた。その瞬間、男達からは思いも寄らない言葉が発せられた。


 「もしや、アルストレア家の方ですか?」

 「……はい、そうですが」


 俺がそう言うと、

 男達は焦ったように槍を収めた。


 「も、申し訳ございません」

 「よもや、あのアルストレア家の方とは知らず」


 男達は、

 化け物を目の当たりにした子供のように恐縮していた。

 俺は、この機会(チャンス)を利用しようと考えた。


 「それでは、私を通してください」

 

 俺がそう言うと、

 男達は急いで扉を開いた。


 「失礼致しました!」

 「どうぞ!お通りください!」


 態度が豹変した男達は、

 俺たちを簡単に中に通した。


 扉の中は地下へと続く階段になっていた。

 俺たちは階段を降りながらどんどん奥へと進んだ。


 「ルイネス。さっきのあれはなんだ?」


 ザナークは階段を降りながらそう言った。


 「さぁ?僕にもさっぱり」

 「何だそれ。お前もアルストレアなんだろ?」

 「僕は……昔のことを覚えていないので」

 

 俺は記憶をなくしたことを話した。

 気がついたらこの大陸にいたと……。


 「なるほどな……だから、俺がフレイ・セフラグの話を出しても微妙な反応だったわけか」

 「……はい」

 

 しかし、入り口の男はなんであんな反応をしたんだろ……そういえば、ナタリーがアスト王国の貴族と関わりがある。みたいなことを言っていたな……その事に関係があるんだろうか?

 考え込んでいると、ザナークが俺を止めるように目の前に手を出した。

 

 「ここからは色んな金を持っている奴が集まっている。下手な動きはするな」

 「……分かりました」


 前を見ると、入り口に布の幕がはられており、

 奥から光が漏れ出している。


 「いくぞ」


 ザナークは布をめくり、

 奥に入った。俺は、ザナークの後に続いて中へ入った。


 「なっ!?」


 入ってすぐ俺の目に飛び込んできたのは、

 イスが付けられている段差が円状に広がっている部屋で、その中央には、真っ白な服を着させられ、手に枷をしている獣人族の男が立っていた。


 「金貨二枚!」

 「こっちは三枚だ!」


 イスに座っている人達は、

 各々手を挙げて自分の支払う金額を提示していた。


 「これは……」

 「ああ、戦士の奴隷を護衛として買おうとしている奴らが競りをしてんだよ」


 どうやら、ここでは一番高い金額を提示した人に奴隷を売るって方法を採っているらしい。

 

 「ここは、えらく奴隷に優しいな」


 ザナークは、

 中央に立たされている獣人族の男を見ながらそう言った。


 「そうなんですか?」

 「ああ、他の奴隷を売っている場所を見たことあるが、

  他の所は、奴隷は衣類を剥がれ、病気でも持っているのか状態が悪いことが多い。だが、ここの奴隷は、状態も非常に良く新品に近い衣類を着させられている。他とは大違いだ」


 そうなのか?

 この状況でも十分ひどいと思うのは、俺が他を見たことがないからか?


 「ここは戦士の奴隷を売っている場所だ。

  左に行くと、治癒や鍛冶に長けている奴隷も売り出されている」


 治癒や鍛冶に長けている奴隷……。

 確かに、治癒専門の奴隷や鍛冶専門の奴隷がいればかなり助かるだろう。まあ、俺は奴隷を買う予定はないが。


 俺たちは、

 さらに奥に進み、黒く壁と同化しているドアらしき物の目の前まで来た。


 「ここからは、 

  完全に裏側だ。不審な動きをすると、ここ以上に警戒される。

  くれぐれも不審な行動はするな。いいな?」

 「……はい。分かりました」

  

 俺はもう一度フードを深く被り直した。

 

 俺たちは扉を開けて中に入った。

 扉の中は、暗い通路が広がっており、複数の人が行き交っているのが分かった。


 通路の左右には、

 額縁に入れられた絵が飾られており、奥の方からは、奴隷を連れた男がこちらに向かって歩いてきた。


 「おや?ザナーク様。御用で?」


 男は奴隷につないだ鎖を持ちながらそう言った。

 鎖につながれた奴隷は、先程見た奴隷のように真っ白な服を着させられていた。奴隷達の顔色も良くしっかりとした体調管理がされているとみただけでも分かった。


 「ああ、奥の部屋にちょっとな」

 「そうですか。今日はボスもダニエル様も御見えにならないので、不審な行動は慎まれますようお願い致します」

 「ああ、分かっている」

 「それでは」


 男は、鎖を持ちながらも引っ張ると言うより、そっと誘導するように奴隷達を連れていった。

 男の態度といい、奴隷達といい。

 ホントにここは、ナタリーの言うように悪質な商売はしていないのかもしれない。


 俺たちはその後も奥へ進み、

 やがて、茶色いドアの目の前まで来た。


 「ここが目的地だ。

  油断せず入るぞ」


 ザナークは真剣な面影でそう言った。

 俺は無言で頷いた。


 ザナークは扉を開けた。

 扉の先は真っ暗な空間が広がっていた。


 「……何も見えませんね」

 「ああ、ここは魔道具で照らしているんだ。

  ルイネス。入り口の側にあるその石に魔力を込めてくれ」


 俺は左右を見渡した。すると、すぐにザナークの言う石を見つけることが出来た。

 早速魔道具に手を当てて魔力を込めようとした瞬間、異変に気がついた。


 「……っ!」

 「何をしている早くしろ」

 「これは……ザナーク。これは罠です」

 「なに!?」


 俺がそう叫んだ瞬間、

 俺たちが通ってきた扉がバタンと音を立てて閉まった。すると、部屋の明かりがパッと明るくついた。


 「ここまで来るとは……本当に鼻につく奴だよ君は」


 後ろから声が聞こえ振り返ると、

 そこには、つい数時間前に逃がしてしまった男。


 ダニエル・ドミニクがそこにいた。


 「お前が一人で来ると読んでいたが、まさか、ザナーク・アルドを連れてくるとはな」


 ダニエルは、

 肘をつき、こちらを睨みながらそう言った。


 「ザナーク・アルドよ。私の依頼を蹴るのかい?」

 「当然だ。弱者には興味がない」


 ザナークがそう言うと、

 ダニエルは明らかに機嫌を損ねた。


 「私が……そこにいるガキよりも弱者だというのか!?」

 「そうだ」


 ザナークは一言そう返した。


 「ハハハ……依頼をしたものには裏切られ、あの御方にも見捨てられた」


 あの御方……?

 一体誰のことを言っているんだ?


 「私もここまでかもしれないな」


 ダニエルは息を吐くようにそう言った。

 彼の表情からは、力を感じられなくなり、やがてイスに座り込んだ。


 「ルイネス・アルストレア」

 「……?」

 「お前が欲しいのはこれだな」


 ダニエルはそう言って、

 座っている場所の真後ろにある金庫を開けた。そして、中から歴史を感じさせるような巻物を取り出した。


 「ナタリー様を救える唯一の方法である。このスクロール」


 ダニエルが持つスクロールこそ、

 俺たちが求める王級解毒魔術のスクロールなのだろう。


 「あの方も、最初は殺せと告げてきたのに、

  今度はスクロールを渡せと……今ではお告げすらなくなった」

 「一体……何を言っているんだ!」


 ダニエルは、

 イスから立ち上がった。


 「あの御方は、狂神流王級剣士であるお前を呼べばルイネス・アルストレアを殺せると言っていた。それなのに、お前はたかが魔術師一人に敗北した……何故だ!」

 「……そんなもん、俺が知るかよ」


 ザナークは、

 ダニエルの叫びともとれる一言を、

 行きを吐き捨てるように言い消した。


 「そうか……それならば最後の抵抗として」


 ダニエルは、

 スクロールの手を掛けた。


 ダニエルは、せめてもの抵抗として俺たちが欲しがっているスクロールをこの世から葬り去ろうとしている。

 その事に気がついた瞬間、俺とザナークはダニエルを止めるために踏み込んだ。


 「もう……遅い!」


 ダニエルが手に力を入れようとした瞬間、

 この部屋の扉が勢いよく開いた。


 「両者とまれ!」


 その場にいた全員が、

 扉の方へ視線を動かした。


 「あ、あなたは!?」


 ダニエルは扉の側にいる人を見た瞬間、

 突発的に言葉を漏らした。


 扉の目の前に立っていたのは、

 薄紫色の髪の毛をしており、体格は痩せ型でもなく肥満型でもない普通の体格。服装は奴隷を競っていた金持ち達のような綺麗な服ではなく、どちらかというと冒険者に近い服装を身に纏っている。

 その見た目からは何も感じないそこら辺にいる普通の人と差は無いが、最も違うところがある。それは、この人が纏っている圧だ。

 他の人とは何かが違うような圧をこの人から強く感じる。


 部屋に入ってきたのは、

 この一帯……いや、アルレシア大陸を統べる魔王達。その次にアルレシア大陸を牛耳っている組織のトップ。


 「……ジュリアン・ルーカス……」


 スィーヴズのボスであり、

 ナタリーの父親。ジュリアン・ルーカスだった。

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