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転生記 ~異世界では長寿を願って~  作者: 水無月蒼空
第3章:【少年期】冒険者編
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第四十話:「アジト」

 俺たちは夜も遅かったので、

 翌朝から動くことになり、海辺から宿へ戻った。


 「今日は俺の奢りだァ!どんどん飲めぇ!!」


 宿を入ってすぐ、

 荒げた男の声が聞こえてきた。


 声を挙げたのは、

 テーブルの上に立ち、腰に剣を携え、ジョッキを高く掲げた茶髪の人族の男だった。


 「にぃーちゃん!いいぞ!」

 「流石だぁ!」


 冒険者の男達は、

 茶髪の男に歓声を挙げていた。

 冒険者達は、お酒をどんどん飲み料理を食べる。そのおかげで、ソフィアは行ったり来たりで忙しそうにしていた。

 茶髪の男は、テーブルから飛び降りた。


 「ここは平和でいいな。人族ばかりで」


 男はそう言って、

 端の方にあるイスに腰掛けた。


 入り口付近で立ち止まっていた俺を横目に、

 ナタリーは中へ入り、男のもとまで歩いて行った。


 「相変わらず賑やかですね。貴方の周りは」


 ナタリーが男に語りかけると、

 男は口に含んだ酒を勢い良く吐き出した。


 「ブハッ!お、お嬢!?」

 

 男は驚いた様子で、

 座っていたイスから転げ落ちた。


 「なんでここに!?確か、中途アジトで誘拐されたって……まさか、あの情報は偽だったのか?」

 「いえ、誘拐はされましたよ」

 「……っ?じゃあ、なんでここに?」


 男は全く理解出来ていないのか、

 首をかしげながらナタリーと俺を交互に見始めた。


 「お嬢……後ろにいるボウズは?」


 男はナタリーと一緒にいる俺のことが気になるのか、

 俺の全身を見渡している。


 「フヒッ……」


 ナタリーは俺の方をチラッと見て、

 悪巧みでもしていそうな顔をした。


 「彼が私を誘拐した犯人です」

 「……はい?」

 

 始まった……。


 「だから、彼が私を誘拐した犯人だって言っているんですよ。ウリュウ」

 「はぁ!?」


 ウリュウと呼ばれた茶髪の男は、

 未だに状況が理解出来ないのか、俺とナタリーを交互に見渡した。


 「流石にお嬢の冗談ですよね?」

 「さぁ?どうでしょうか?」

 「かぁー意味分かんねー!」


 ウリュウは頭をかきむしり、

 イスに腰掛け、飲み途中だった酒を飲み干した。


 「ふぅ……で、お嬢。本当はどうなんだ?」

 「全部本当よ。そうよね?ルイネス?」

 「ルイネス……?」


 ナタリーはそう言いながら俺の方を見て、

 ウリュウも俺を直視した。


 「えっと……はい、そうです」

 「……なるほど、誘拐犯とお嬢がなんで一緒にいるのか気になるところではあるが、お嬢が無事なら深くは聞かねーよ」


 ウリュウはそう言って、


 「ソフィア!もう一杯頼む!」

 「はい!」

 「それと、お嬢とボウズにも!」

 「はいはい!」


 と追加の注文をした。


 注文をしてすぐに、

 三つのジョッキが運ばれてきた。


 「お嬢もボウズもとりあえず座んな」


 俺たちは、

 ウリュウに進められるがままイスに腰掛けた。


 「とりあえず、今の……この状況を聞こうか」


 ウリュウは酒をグイッと飲んだ後、

 真剣な表情でそう言った。


 ナタリーは、

 ウリュウの頼んだ酒を少し飲み、この半年のことを話し始めた。


 半年前、

 アジトにいたときに俺が襲撃したこと、そこからしばらくの間共に旅したこと、管轄下の村でベンジーの裏切りにあったこと。


 「ベンジーのヤツが……」


 ウリュウは、

 ナタリーの話を聞いて、考え始めた。


 「私達は、これからもう一人の裏切り者を剔抉(てっけつ)します」


 もう一人の裏切り者……ナタリーの言っていた犯人のことか。


 「……」

 「スィーヴズ幹部として貴方にも協力を要請します」


 ……幹部!?

 このウリュウという男、こいつもベンジーと同じ幹部?


 「……お嬢。一つ聞いて良いか?」

 「何ですか?」

 「お嬢の言う裏切り者って……誰だ?」


 ウリュウは残った酒を飲み干し、

 強い眼差しでナタリーを見つめそう言った。


 「……ボスの右腕にして、幹部総統括」


 ナタリーがそう言い出すと、

 ウリュウの顔が驚きと戸惑いに包まれた。


 「ダニエル・ドミニク」


 ナタリーの口から出た名前を聞いた瞬間、

 ウリュウはイスを倒しながら立ち上がった。


 「まさか……ダニエルが、裏切り者……」


 ウリュウの息が荒くなり、

 ドンと音を立てながら机に手をついた。


 「あの人が……」

 「残念ながら本当のことです」

 「……お嬢。それはきちんと証拠があって言っていることだろうな?証拠もなく言っているのなら、いくらお嬢でも許さないぜ?」


 ウリュウは、

 自分の腰に携えている剣に手を掛け、何かの圧力のような物を発し始めた。


 「……ダニエルが奴隷部門を兼用するようになってから、

  組織内で怪しい動きが増え始め、奴隷部門での取引きにずれが生じ始めました」

 「そんな事……ただの偶然だろ」


 ウリュウが言うことはもっともだ。

 俺はダニエルという人物を知らないが、ウリュウが頑なに信じようとしないということは、それだけ信頼されるような人物だったのだろう。


 俺がそんな事を考えていると、

 ナタリーが、いつも持ち歩いている小さな鞄の中から一つの巻物を取りだした。


 「これを読んでみてください」

 「……こんな物……」


 ウリュウは、

 巻物を手に取り封を開いた。


 「……っ!?これは……」


 今ウリュウが読んでいる巻物は、

 ベンジーが懐から落とした巻物だ。ナタリーは巻物の中身を読んだ時、明らかに動揺していた。


 「これに書かれていることは、全て事実なのか?」

 「はい」

 「お嬢が書き足したんじゃないのか?」

 「違います」


 ウリュウは信じ切ることが出来ないのか、

 ナタリーに度々問いかけた。ナタリーはその全てを否定した。


 「私達は、ダニエル・ドミニクを失墜させ、

  スィーヴズを元ある姿に戻します」

 「……」

 

 ナタリーは、海辺の時のような真剣な表情でウリュウに語りかけた。

 ウリュウは息をのみ、ナタリーを見つめた。


 「貴方からすると、信じることが出来ないかもしれない。だから、私達を監視するということで、協力をしてはくれませんか?」


 ウリュウは、

 もう一度巻物を見つめた。


 「……お嬢は本気なんだよな?」

 「はい」

 「……分かった。

  監視するということで協力はする。だが、ダニエルを裏切ることは、書かれていることが事実だと確認できるまではやらない」


 巻物を置き、

 真剣な顔をしたウリュウはそう言った。


 「それでいいなら協力をしよう」

 「はい、それで構いません」

 「……そうか……」


 ウリュウは立ち上がり、

 ソフィアに酒を頼んだ。


 「こんな時は飲んでいないとやってられん」


 そう言ってジョッキを持ち、

 中身を一気に飲み干した。


 「今日は飲むぞ!お嬢も、そこのボウズも付き合え!」

 「フフ、喜んで」

 「はい!」


 俺たちは、

 夜が明けかけるまで飲み続け、冒険者達が部屋に戻り始めた頃に解散した。


 ウリュウは、

 明日訪ねるだとけ言い残して帰って行った。


 俺は借りた部屋へ、ナタリーはソフィアの部屋まで戻った。

 戻った後、目を覚ましていたフィラに怒られたのは今は置いておこう。


ーーー

 翌日、

 フィラに起こされた俺は、客人が来ていると言われ下へ降りた。


 「よぉボウズ。昨日ぶりだな」


 俺を呼んだのは、

 昨日会ったばかりのウリュウだった。眠れなかったのか、目の下が黒くにじんでおり、やつれたような顔をしていた。


 「よく眠れたか?」

 「はい、そちらは……あまり良くはなさそうですね」

 「ああ、寝ようと思ってもお嬢に見せられた物を思い出してしまってな」


 この男は、

 昨日ナタリーに裏切り者について語られた。ウリュウは、ナタリーが裏切り者と言ったダニエル・ドミニクのことを信頼していたようで、かなり消沈していた。

 昨日今日で整理はつかなかったのだろう。


 「ボウズ……ちょっと良いか?」

 「はい?」


 俺たちは宿を出て、

 町中を歩き始めた。


 「よぉ!ウリュウじゃねーか」

 「こっち寄ってけよ!」


 町を歩いていると、

 ウリュウに声をかける店主が多くいた。人族が多かったが、獣陣族や魔族もいた。


 「おう、後でな!」


 ウリュウは声をかけてきた人に対して、

 元気よく返事を返した。

 

 「この町ってすげーいいだろ?みんな平和的で」


 ウリュウはそう言いながら

 俺の頭に手を置いてきた。


 「そうですね。この町は、種族間の柵が薄いように感じます」


 他の町では少なからずあった。

 冒険者内でも人族は魔族や獣人族からの差別を受けやすい。それは種族上、人族は他の種族と比べて劣っていると考えられているからだ。

 俺もフロートにいたとき紫竜が降りてきていなければ俺も同じ扱いを受けてただろう。


 「この町に住んでいる奴らは、皆が何かしらスィーヴズの恩恵を受けている奴らだからだ」


 恩恵?


 「うちは組織の大半が人族で構成されている。それは、この人族劣等という考えをなくすためだ。

  ボスは武力という物をあまり好いていない。武力を用いずに目的を達成する。俺たちはそんなボスの背中を見て集まった組織」


 ナタリーも似たようなことを言っていたな。

 二人がこう言うボスという人物……会ってみたいな。


 「昨日話に出たダニエル・ドミニク。こいつは、スィーヴズ発足前からボスと共に奮闘してきた男だ。

  組織の中にはダニエルに助けられたヤツも多くいるだろう。俺もそうだ」


 ウリュウはそう言って、

 自分が組織に入るまでの生い立ちを話し始めた。


 「俺は組織に入るまで、

  ある貴族の奴隷だったんだ」


 ウリュウはそう言って、

 左肩に付いているやけどの跡のような物を見せてきた。その跡は、翼の生えた猛獣のような形のある紋様のような物に見えた。


 「これは俺を奴隷にしていた貴族の家紋らしい。自分たちの所有物として形に残す物らしい」


 奴隷に跡を付けるのか?

 ひどいことをする。


 「日々死ぬ直前までは働かせられ、

  死ぬことしか考えられなくなっていた」

 「……」

 「だけど、そんな俺を助けてくれたのが、ボスとダニエルだった。

  二人が所用出来たとき、偶然俺を見たらしく、他の奴隷と共に俺を解放してくれた。それも、武力を使わずそれ以外の力で。だから、俺はボスと同じくらいダニエルのことも信頼している」


 ウリュウはダニエルへの思いを俺に語った。

 

 「だけど、お嬢が言うように、

  ダニエルが奴隷部門を兼用し始めてから組織内で不穏な行動が多くなったのは事実だ」


 ウリュウはそう言って、

 昨日の巻物を懐から取り出した。


 「見てみろ」


 ウリュウに手渡された巻物を見てみると、

 そこには、簡単な計画のような物が書かれていた。


 『例の村にてナタリー・アルジェを捕縛後ロシンポートに帰還。その後、誘拐犯を装いボスを脅迫。

  ボスを例の場所に呼び出した後、奴隷市場にて依頼しておいた無法者共に上客を襲わせる。ボスを失脚させ、秘密裏に処理すること。

  ベンジー・ライド

  お前の活躍に掛かっている。私への恩義を果せ』


 という内容と一緒に、

 蛇のような生き物が書かれた紋様が記載されていた。


 「これは、指令書……でしょうか?」

 「ああ、恐らく。

  一番見て欲しいのは指令と一緒に描かれている紋様だ」


 ウリュウはそう言って紋様を指さした。


 「それは、ドミニク家の家紋だ」


 ドミニク……ダニエルという男の家か。

 堂々と家紋を書くって、バレても大丈夫とでも思っているのだろうか?


 「お嬢も、その家紋が描かれているからダニエルが裏切り者だと思ったんだろう」

 「……確かに、これだと証拠になるかもしれませんね」

 「そうだが……まだ決定的になったわけではない。

  誰かがダニエルを貶めるために描いた可能性が残っている。だから、直接ダニエルに問いただすしかない」


 確かにそうだ。

 こんな物、誰でも偽装しようと思えば出来る。


 「ダニエルは恐らく奴隷市場の方にいるはずだ。とりあえず、ボスの下に向かい指示を仰ごうと思う」

 「……はい、それが良いと思います」


 俺たちは宿まで戻った。

 今回、危険なためフィラはソフィアに守って貰うことになった。フィラは一緒に来たがっていたが、危ないので遠慮して貰った。


 俺は今回、ナタリーを助けた冒険者:龍王としてボスのところに向かう。そのため、久しぶりに仮面を被った。

 リベルに渡されたこの仮面を被ると、自分の魔力の流れをよく感じることが出来る。仮面を被りながら魔術を使うと、魔力の流れが読み取りやすくいつもよりも精度の高い物を使うことが出来る。

 恐らく、魔眼が暴走しないようにリベルが補助できる魔道具を渡してくれたのだろう。


 仮面を付けた俺を見たウリュウは、

 懐から一枚の紙を取り出した。


 「灰色のローブに白い仮面、

  青い魔石が付いた杖を持った魔術師……なるほど、お前がそうか」

 「はい?」

 「お前が龍王か」


 ウリュウは、

 紙と俺の顔を交互に見てそう言った。


 「はい、そうですけど」

 「……お前から見て、紫竜は強かったか?」


 ウリュウは俺に腕を回し、

 肩を組んだ状態でそう言った。


 「はい……強かったです」

 「お前、一人で倒したって?」

 「……はい」

 「それじゃあ、お前は俺より強いな」


 質問の意味が分からなかったが、

 そういうことか。


 「俺も昔、

  部下と一緒に紫竜と戦ったことがあってな。その時は、ひどい犠牲を払ったもんだが……ボウズ、お前すげーヤツだな」

 「……ありがとうございます」


 あの紫竜相手なら並の人では敵わない。

 それでも生き残ったって事は、この人も相当強いぞ。


 「ベンジーのヤツが負けたのも納得だ。

  紫竜を倒した猛者相手なら、負けるのも仕方が無いな」

 「僕も死にかけましたけどね」

 「そりゃあ、アイツは片腕しかないが、閃神流超級剣士だからな」


 超級剣士!?

 そんなヤツと戦ったのか!?一歩間違えばやられてたのはこっちだったかも……今考えると、恐ろしいな。


 「俺もアイツとは良い勝負だったからな。恐らく、俺よりもボウズの方が強いだろう。頼りにしてるぜ?」

 「もちろんです」

 

 俺とウリュウは、

 握手を交わした。交わしたウリュウの手は、剣士の手すぐに分かるくらいゴツゴツしていて、とても硬かった。


 「話は終わったかしら?」


 ナタリーは、

 初めて会ったときに来ていたような服を身に纏い、宿から出てきた。


 「ああ、終わったぜ」

 「それじゃ、向かいましょう」


 俺たちは、

 ボスのいる本アジトまで向かい始めた。


 スィーヴズのアジトは、

 この町の端にある屋敷にあるらしい。


 「アジトの大半は地下にあるんだが、

  ボスはいつも屋敷の中に居られるから、とりあえず地上から向かうぞ」


 俺たちは町の中を抜けて、

 人通りの少ない路地に出た。


 「この辺りはあまり人が立ち寄らない所だ。

  危険ではないが、注意はしてくれ」

 「はい」

 「お嬢はボウズの近くに」

 「分かっているわ」


 戦闘にウリュウが歩き、

 間にナタリーを挟んで、一番後ろを俺が歩く。


 この並びで屋敷まで向かっている。


 「……っ?」


 ウリュウが急に立ち止まり、

 腰に携えていた剣を抜いた。


 「下手な尾行してるヤツ。

  出てこい。とっくにバレてるぞ」


 ウリュウがそう言うと、

 後ろから複数人黒の装束に身を包んだ集団が出てきた。


 「バレていたか、流石は幹部の中でも一二を争う腕前の持ち主だ」


 集団の先頭にいたヤツがそう言って、

 短剣を取り出した。


 「ナタリー様をこちらに渡せ」

 「断る」


 ウリュウは剣を構えた。


 「お前ら、何所所属だ?」

 「……我らは所属を持たない」


 集団の中心にいるヤツが、

 そう言い放った。


 「……そうか、暗部か」


 暗部?

 暗部と言うウリュウの言葉を聞いた瞬間、ナタリーは俺のローブの裾をつかんだ。


 「ルイネス。

  彼らは、ダニエル直属の部隊よ」

 「ダニエル直属?」

 「ダニエルが行き場を失った子供を迎えて訓練を施した部隊よ」


 子供を訓練した部隊?

 そんな奴らがなんで?いや、目的は……ナタリーか。


 「お前達の主人は、

  やはり、組織を裏切ったのだな」


 そう言ったウリュウは、

 剣を強く握りしめた。


 「あの方は裏切ってなど居られぬ。

  スィーヴズをあるべき姿に戻すために自ら泥を被るような思いをして行動されておられるのだ。あの方を裏切り者呼ばわりは我らを敵に回すと思え」


 黒装束の集団は、

 ウリュウの発言が気に障ったのか、全員が短剣を抜いた。


 「はは、そうかよ。おいボウズ」

 「はい」

 「ここは俺が足止めしとくから、お嬢を連れて先に向かえ」


 ウリュウはベンジーと同じくらいと言っていたから、

 実力は相当のもののはずだ。だが、実力差があっても、数の差は侮れない。

 俺が考えていると、ウリュウが声を荒げた。


 「早く行け!」


 俺とナタリーは屋敷に向かって走った。

 

 「置いていって大丈夫でしょうか?」

 「……大丈夫よ。ウリュウは幹部よ?

  同じ幹部と戦った貴方がそれを一番分かっているでしょう?」


 ベンジーと戦った時、

 相手が万全な状態なら俺は負けていただろう。そのベンジーと同等の実力を持っているなら任せられるだろう。


 「そうですね。急いでボスの下まで向かいましょう」

 「ええ、そうね」


 俺たちは屋敷まで走った。

 

ーーー

 ウリュウと別れてから数分が経ち、

 町の路地を抜けた俺たちは、開けた場所にいた。


 「何だこの霧は……」


 路地を抜けた先は、

 濃い霧に包まれ、先がほとんど見えないようだった。

 

 「ルイネス。止まって」


 俺たちは、開けた場所の目の前に立ち止まった。

 ナタリーは、身に着けている腕輪に触れた、すると、腕輪が光り出し辺りを包んでいた霧が晴れた。


 「何だこれ」


 霧が晴れると、

 目の前には、この辺りでは一番大きい屋敷があった。


 「ここが、私の家よ」


 スィーヴズのアジトに到着した。


 俺たちは屋敷に入った。

 屋敷に入ると、目の前には大きな階段があり、その左右にはいくつもの部屋があった。


 「こっちよ。パパはいつも書斎にいるから」


 ……パパ?

 

 「ナタリー……」

 「黙りなさい。今のことは聞かなかったことにしなさい」


 ナタリーからの圧を感じた俺は、

 それ以上追求はせず、静かに書斎に向かった。


 屋敷の中は、かなり広く、

 外観で見たときよりも広く感じた。


 「屋敷の中は外から見たときよりも広く感じますね」

 「パパが以前協力し合ったアスト王国の貴族から送られた魔道具で屋敷の中だけを拡張しているらしいわ」


 そんな魔道具もあるのか。

 便利そうだな。


 「着いたわ」


 俺たちは、

 他の部屋よりも綺麗な扉の前にいた。


 「入るわよ」

 「はい」


 扉を開くと、

 整理された本が立ち並んでいる本棚が左右に並び、部屋の奥には大きな窓があり、その目の前には、綺麗な机と窓の方を向いたイスがあった。

 イスには人影があった。


 「ただいま戻りました」


 ナタリーがそう言うと、

 イスがゆっくりこちらを向いた。


 「ああ、お帰り。()()()()()


 イスには、目映いほどの金髪を後ろで束ねた男が座っていた。

 ナタリーとは似ても似つかないようだった。


 「これがスィーヴズのボスで、ナタリーの父親?」


 ナタリーの方を見てみると、

 驚いたような顔をしていた。

 

 「ナタリー?」


 俺が呼びかけると、

 ナタリーは額に汗を流し身震いさせていた。


 「あ、貴方がどうしてここに……何で貴方がここにいるの!ダニエル・ドミニク!」

 「……えっ!?」


 ナタリーは、

 金髪の男の子とをダニエル・ドミニクと言った。


 「お久しゅうございます。

  誘拐されたと聞いて焦りましたよ。私の計画が崩れるかと」


 どうやら、この男がダニエル・ドミニクらしい。

 自分の計画と言った。つまり、あの指令書はダニエル本人が書いたと言うことだ。


 「人族の子供に攫われたと知ってベンジーを向かわせたが、よもや、子供に負けるほど落ちぶれていたとは」


 ダニエルは笑みを零しながらそう言った。

 この男から感じる雰囲気は、気味が悪く、前にどこかで感じたことのあるような雰囲気だった。


 「っ!……なるほど」


 ダニエルはそう呟いて、

 俺の方を見た。


 「そうか、君がルイネスか」

 「そうです」

 「ベンジーを倒したのも君だね」

 

 ダニエルはそう言って、

 イスから立ち上がった。


 「君。私に雇われないかい?」

 「はい?」

 「君が私に雇われるなら出せる物の最大級の物を出そう。スィーヴズのボスになるこの私のね」


 ダニエルはそう言って手を差し出してきた。


 「私の物になれルイネス・アルストレアよ」


 ナタリーは、

 そう言って手を差し出してきたダニエルと俺を不安そうに交互に見た。


 「ナタリー、安心してください」

 「……っ!」


 俺はダニエルから距離を取った。


 「すみませんが、お断りします。

  貴方が差し出す物よりも、ナタリーからの信頼の方が重いので」


 俺がそう言うと、

 ダニエルは笑いながら懐をまさぐった。


 「なるほど、確かに、君はお告げ通りつまらないな」

 「お告げ?」


 ダニエルは懐からある物を取り出した。

 それは、リベルに言われたとき、リングルで初めて目にしてから一度たりとも忘れたことが無かった物。

 俺がダニエルを見てから感じていた気味の悪い雰囲気もそのものから発せられていた。


 「……それは……」


 俺が動揺していると、

 ダニエルはニヤリと気味悪く笑った。


 「そうさ。

  選ばれた物にしか手に取ることは出来ない特別な物」


 「【聖典】さ」


 ダニエルの手には、

 白い本が握られていた。


 「君はリングルで同志と戦ったようだね。彼はどうした?」


 ダニエルは、

 聖典を開き、不気味に微笑んだ。


 「そうか……」


 ダニエルは笑いをこらえれないようで、

 口元を手で覆った。そして、笑いながら軽い口調で、


 「死んだか」


 と言った。

 俺はその瞬間杖に魔力を込めて、魔術を使った。


 『氷射(アイシクルショット)


 俺は怒りのまま魔術をダニエルに向かって使った。

 複数の氷の塊は、ダニエルに向かって勢いよく飛んでいった。


 「ダニエル!!」

 「フフフ、ハハハ……来い!」


 魔術を目の前にして笑ったダニエルはそう叫んだ。すると、窓を突き破り、一人の男が入ってきた。

 その男は、剣で俺の魔術を全て弾いた。


 「お怪我は?」

 「ああ、大丈夫だ」


 男は、

 二本の剣を左右の手につかみながらこちらを見た。

 

 「紹介するよ。

  彼は君と戦うために雇った狂神流王級剣士:ザナーク・アルドだ」


 俺の目の前にいる剣士は、

 世界にある四大剣術の中でも、魔術師との戦闘を得意とする流派であり、最も荒く、人を殺す技に長けている流派。


 狂神流の王級剣士と戦う事となった。

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