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転生記 ~異世界では長寿を願って~  作者: 水無月蒼空
第3章:【少年期】冒険者編
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第三十八話:「寄り道」

 アジトを襲撃してから三ヶ月が経った。

 辺りは肌寒くなり、身体に当たる風が冷たく肌を刺してくるようだった。

 あれから、トッタ、ナタリーの二人が増えて旅を随分と賑やかになった。


 「フィラ~あたしに食べさせて~」


 ナタリーは、フィラの方を見てそう言った。二人は、三ヶ月前までぎこちなかった二人だが、一緒に旅をする内に打ち解けてきたらしい。

 相手は盗賊のお嬢様なわけだからあまり仲良くなるのもどうかとは思うが、旅に支障があればいけないので良いとしよう。

 ナタリーは俺が使った魔術で拘束されている。


 「ナタリーさん……いつも言っていますが、自分で食べてください」

 「無理よぉ、龍王に拘束されているんだから」

 「……ルイ君、拘束解いてあげられない?」


 裏切られないように拘束していたが、

 この三ヶ月間ナタリーは俺たちに何かをする様子はない。あったとしても、フィラを少しからかうくらいだ。

 ナタリーも、ロシンポートまでは安全に着きたいと思っているはずだ。拘束は解いても良いかもしれないな……。


 「分かりました。拘束を解きます」


 俺はナタリーに使っていた魔術を解いた。

 

 「ようやく自由になれたわ!」

 「良いですか?ちょっとでも危害を加えようとしてきたら、すぐに拘束しますからね」

 「分かっているわ!さぁ、食事に戻りましょう」


 ナタリーは食事に戻り、すぐに食べ終わった。


 「ごちそうさま!龍王のご飯は今日も美味しかったわ」

 「そうですか、それは良かったです」


 食事を終えると、

 ナタリーは俺やフィラを過度に触り始めた。この二ヶ月間ずっと腕を拘束されていたため自由に動かせるということがよほど嬉しいのだろう。


 「フィラ!一緒に水浴びをしに行きましょう!」

 「ちょっと待ってください。これだけ片付けますから」


 俺たちが火を起こしている所の近くに小さな湖があった。それを見てからナタリーは水浴びをしたいと言って聞かなかった。


 「僕が片付けるので行ってきて良いですよ?」

 「いいの?ありがとう……ルイ君も来る?」

 「行きません。冗談を言ってないで早く行ってきてください」


 フィラは少し残念そうにナタリーと共に湖の方へ向かっていった。

 この時期だと、水浴びをするにはかなり寒いと思うが、女の子はよほど水浴びが好きなんだろう。


 「旦那はモテモテだな」

 「冗談言ってないで魔獣の手入れを続けてください」


 トッタは二人がいなくなると、馬車から出てきた。トッタは夜になると、馬車を引いている魔獣の世話をする。

 この馬車を引いている魔獣は、足がゴツゴツとしており、背中には硬そうな甲羅を持っており、その見た目は魔物のサンドリザードに似ている。


 「そういえば、トッタは何で二人がいるときはあまり出てこないんですか?」

 「……な、ナタリー様が怖いんだ」


 トッタは震える自分の手を押さえながらそう言った。


 「……裏切ったからか?」

 「ああ、俺はきっとむごい殺され方をするだろうぜ」


 盗賊は知らないが、ナタリーだけを見たらそんな事は無いと思うが……?

 ナタリーは傍から見ると、フィラと同様、ただの人族の女性に見えるが。


 「そんな事ありませんよ」

 「……旦那は、あの人の怖さをしらねーんだ。

  実際には見たことはないが、ナタリー様は人を殺すとき、人が変わったようになるらしい……」


 怯えながら言うトッタを見ても、

 あまり信じられなかった。

 

 俺がアジトで会ったときは、

 すぐに逃げだそうとしていた。それを見た俺からしたら、ナタリーが人を殺すというのもあまり信じられない。


 「まぁ、ここでお前を殺そうとはしないさ」

 「……そうだな。旦那もいるわけだし」


 その後、

 俺たちは片付けを終えた。

 片付けを終えた俺は一つの悩みを抱えていた。


 この旅は一見順調そうに見えるが、一つ問題がある。

 それは、食料が心残り少ないことだ。

 今は魔物を狩って食料にしているが、この先、ロシンポートに近づくと魔物があまりいない。そうなってくると、食料が無くなる。


 「どうするかな……」


 俺が息を漏らしていると、

 俺の後ろから声が聞こえた。


 「龍王、何かあったの?」


 後ろから声をかけてきたのは、

 湿った髪を後ろで束ねたナタリーだった。


 「びちゃびちゃじゃないですか……」

 「龍王が便利な魔術が使えるってフィラが言うから、やって貰おうと思ったの」


 なるほど、

 前に森で使った魔術をフィラが教えたのか。


 「分かりました。ここに座ってください」


 俺が指をさしてそう言うと、

 ナタリーは指をさした所に座った。


 濡れた髪の毛を優しく魔術で乾かし始めた。


 「ふぅ、気持ちいわね」


 彼女の髪は、

 紫色をしていて、とてもさらさらしていた。


 「私の髪の毛に触れるなんて光栄なことなんだから」

 「はぁ……ありがとうございます」


 俺がそう言うと、

 ムスッとした顔で俺の顔を見てきた。


 「何よ?不満でもあるの?」

 「無いですよ。ただ、初めて会ったときと違って今はかなり落ち着いていますね」


 彼女と始めて会ったとき、

 俺を見て逃げ出していた。アジトを急に襲撃されたということもあると思うが、今とはまるで別人だった。


 「三ヶ月も一緒にいれば、緊張だって解けるわよ」


 そういうものなのか?

 俺がナタリーの状況だと解ける気がしない。


 「ナタリーは強いんですね」

 「そう?まあ私の話は良いわ。

  それよりも、龍王は何悩んでいたのよ?」


 ナタリーは、

 乾かし途中の髪の毛を振り向き様に俺の顔にぶつけながら、そう言った。


 「……えっと、このまま行くと、食料が心許なくて」


 俺がそう言うと、

 ナタリーはがっかりしたように俺をジトッと見た。


 「はぁ……」

 「どうしたんですか?」

 「期待して損したわよ」


 期待……?

 何を期待してたんだろう?


 「それならすぐに解決できるわよ」

 「……えっ!?」

 「この近くに、私達が使っている小屋があるのよ。

  そこでなら、必要最低限の食料は手に入ると思うわ」


 小屋?

 そこに行けば食料が手に入るのか?

 いや、盗賊が使ってるって事は、


 俺が考えていると、

 ナタリーが息を吐いた。


 「大丈夫よ。その小屋は、長期間食べられるものとか、

  買い手が見つからなかった物を一時的に置いておくところだから、人は滅多に来ないわ」


 ナタリーは、

 俺が考えていたことの答えを言った。


 「なるほど……それな安心ですね」


 俺たちは、

 ナタリーの言う小屋まで行くことになった。



ー翌日ー


 俺たちは小屋に向かって馬車を走らせた。

 ナタリーが言うには今いる場所から大体半日掛かるところに小屋があるらしい。

 小屋に向かう道の近くに一つ少ない人数が住んでいる村もあるらしい。そこの村人がたまに小屋の見回りをしてくれているらしい。

 

 馬車を走らせて半日が経ち、

 ようやく小屋に到着した。


 小屋は驚くほど静かで、

 人の気配が全くしなかった。この小屋だけでなく、小屋に続く道を走っているときも全く人を見なかった。


 「何か妙ね……?」

 

 馬車を降りるなり、

 ナタリーがそう呟いた。


 「何が変なんですか?」

 「人の気配が全くしないのよ」

 「昨日人は滅多に来ないって……?」


 俺がそう言うと、

 ナタリーは俺の方を見た。


 「小屋には来ない。だけど、この時期は弱い魔物が出てくる頃だから、村人がこの辺りにいずっといるはずなんだけど……」


 今は肌寒くなり、強い魔物は眠ってしまっている。そのため、弱い魔物は強い魔物が出ないうちに食料を溜めようとする。

 そのため、冒険者ではない村人達は、この寒い時期のうちに自分たちで狩ることの出来る魔物を多く狩っておこうとする。

 近くの村人も同じなのだろう。


 「考えていても時間が過ぎるだけなので、

  とりあえず、中に入ってみませんか?」

 「……そうね」


 俺たちは小屋の扉を開けた。

 扉は立て付けが悪いのか、ギシギシ音を立てながら開いた。


 小屋の中は、

 木箱が数個綺麗に整理されており、

 その横には、何か物がいっぱい詰まった袋が数個置いてあった。


 「結構整理されてますね」

 「そりゃ……一応ここにある物は全て商品だからね」


 そういえばそんな事も言っていた気が……買い手が見つからなかった物だっけ?


 「食料って……どの箱ですか?」

 「えっと……」


 ナタリーは小屋に入り、

 数個ある木箱の中から、綺麗な木箱を取りだした。


 「これね」


 木箱の中には、

 乾燥した肉やまだ鮮度を保っている芋や豆が入っていた。


 「これは最近入れた物ね。まだ鮮度が良いわ」

 「これだけあれば、ロシンポートまで持ちますね」


 食料が手に入り、ロシンポートまでの不安が解消された。

 この後は問題なくロシンポートに行ければ良いんだが。


 俺とナタリーは食料の入った木箱を持って馬車まで戻った。

 馬車で待っていたフィラ達は馬車の近くで焚いた火の近くにいた。


 食料を馬車に積み、再び馬車を走らせた。

 馬車を走らせ向かったのは、近くにある村だ。

 ナタリーが一度村に行っておきたいと言ったので向かうことになった。


 馬車を走らせてからほんの一時間程度で村に到着した。


 「ホントに近いですね」

 

 この村は家が数軒立っていて、

 肉が干されていたり、育ちきっていない作物が植えられている畑があったりしている小さな村だった。


 「なんか……変じゃない?」


 そう言ったのは、

 馬車から降りたフィラだった。

 

 「何だか妙に焦げ臭くありませんか?」

 「確かに……」


 俺たちは、村に入った。

 村に入るとすぐに異変に気がついた。


 村の真ん中にある広場に村人が全員座らされていた。

 村人の周りに剣を持った男が複数人歩き回っていた。


 全員人族だ……座らされているのは村人だと分かるが、

 歩き回っている男達は誰だ?


 男達は、村へ入った俺たちに気がつき、

 全員が視線をこちらへ向けた。そして、その中から左腕のない人族の男が出てきた。


 「おやおや、ナタリー様ではありませんか」


 男はそう言いながら、

 剣を腰に携えて歩いてきた。


 「どうされたのですか?こんな飾り気のない所に」


 男は笑いながら一歩、また一歩と近づいてきた。


 「貴方こそ、

  スィーヴズの幹部の一人であろう貴方が、こんなところで一体何を?」


 幹部!?

 盗賊の幹部って事は確実に敵だよな?それに、盗賊には俺たちがナタリーを攫ったって事になってるよな?

 それってまずくないか?

 あの人数相手だと、フィラ達を守りながら戦うのはかなりキツイぞ。


 そう考えていると、

 隻腕の男は、剣を抜きながらこう言った。


 「いやぁね、ナタリー様が中途アジトで誘拐されたって言うじゃないですか」

  なので、心配になって捜していたんですよ?」


 そう言って笑いながら後ろに戻り、

 村人の一人を連れてきた。


 「ナタリー様を捜索するために、あなたの管轄下であるこの村まで来た。というわけですよ」


 管轄なんて物があるのか……。

 あのアジトにナタリーがいたところを見ると、あの辺りもナタリーの管轄なのだろうか?


 「それでは、何で私の管轄下にいる村人を拘束しているんですか?」


 ナタリーがそう言うと、

 隻腕の男はニヤリと気味の悪い笑みを零し、こっちに近づいてきた。


 「フハハッ!

  初めは捜そうとも思ったのですが、よくよく考えればこの状況は我々にとって得なのですよ」

 「あなた……一体何を?」

 「我々は、スィーヴズをボスからいただこうと思っていましてね。貴方を利用したかったんですよ。

  ボスは希にしか顔を出さず、何所にいるのか全くつかめない。しかし、ボスの娘であるナタリー様を捕らえて脅せば、ボスは出てこざるを得なくなる」

  ボスの権力さえあれば、アルレシア大陸の裏だけでなく、セフィス神聖王国やアスト王国すらも手中に収めることが出来る」

 「……」

 「それに、ボスは甘いんですよ。奴隷は売るのに、人を殺すなとか。

  ボスは盗賊に向いていない。それなのに、俺ともう一人を除く八人の幹部から絶対の忠誠を受けている。

  私は、そんなボスを見ていて不快でした。実力の無い者が奉られるなんて……」

 「だから、ボスを……?」

 「そうです。今のボスを失脚させ、私がスィーヴズを牛耳る。

  私がスィーヴズを元あるべき姿へ戻す」

 


 笑いながら高々に自分たちの目的を話した男は、

 連れてきた村人の首に剣を置き、力一杯横へ振り切った。剣は村人の首を貫通し、首は宙を舞った。


 「きゃあぁぁぁ!」


 後ろからフィラの悲鳴が響き、

 男の後ろに座らされている村人達は見ることが出来ないのか、全員顔を逸らしていた。


 「なんてことを……」

 「先程からナタリー様の居場所を聞いても知らぬの一点張りでしてね。少々気に障っていましたもので」


 気に障っただけで人を殺すのか……。

 この男を見ていると、気分が悪くなりそうだ。


 男は、村人の身体を投げ捨てた。

 

 「しかし、ナタリー様がその子供に攫われたのであれば、

  村人が知らないのも当然でしたな。これは無駄な殺しをしました」


 「いけない。いけない」


 男はそう言って、

 笑い。剣に付いた血を振り払った。


 「さぁナタリー様。

  我々のために犠牲になってください」


 男はそう言って、

 鼻歌でも歌いそうな様子でこちらへ近づいてきた。


 「お前。いい加減気分が悪いぞ」


 俺は、この男を見ていると、

 気が抑えられなくなっていた。


 「何かな?ガキがえらくでかい口を叩くじゃないか?」

 「お前の言動の一つ一つが気分が悪いって言ってんだよ」


 俺は杖を男の方に向けた。


 「魔術師か……おいガキ。

  お前、まさか俺と戦おうなんて思ってるわけじゃないわな?」


 男はそう言って、

 持っている剣をこっちに向けてきた。


 「龍王。一応言っておくけど、

  うちの幹部達は、それぞれに担う部門が別れていて、

  彼……ベンジー・ライドは傭兵部門の幹部で、うちではトップクラスの戦闘能力を持っているのよ?」


 傭兵部門か……戦争専門で、それに剣士か。

 これって、相当まずくないか?


 「……」


 俺が考えていると、

 ナタリーが俺の肩に震えた手を置いてきた。


 「龍王」


 そして、後ろからも声が聞こえてきた。


 「ルイ君……」


 二人の声は震えていて、

 声から二人が不安がっているのだと分かった。


 トッタはと言うと、

 馬車の後ろに隠れていた。どうやら、ベンジー達が何かやっているといち早く気がついて隠れていたらしい。

 

 「全く……」


 トッタの逃げ腰を見ていると、

 嫌でも冷静に戻れる。こればかりはトッタに感謝だな。


 「大丈夫です」


 不安がる二人を、

 これ以上不安にさせないようにするにはどうすれば良いか、簡単なことだ。

 俺がいつものように平常でいれば良い。そうすれば、二人を取り巻いている物も解消できる。


 「あっちは剣士なのよ?魔術師の龍王じゃあ、相性が……」

 「それじゃあ、一つ聞きますが、

  彼は紫竜よりも強いですか?」


 俺がそう言うと、

 ナタリーはクスッと笑った。


 「確かに、ベンジーは紫竜よりは弱いわね」


 ナタリーはそう言って、

 笑顔で俺の肩を叩いた。


 「それじゃあ、任せたわよ!ルイネス!」

 「はい!」


 ナタリーに初めて名前で呼ばれた。

 俺は彼女と友達になれたような気がして嬉しかった。後ろでフィラが頬を膨らましているのは、ひとまず置いておこう。


 俺はベンジーの目の前に出た。

 相手は剣士。どこの流派かは分からないが、どこの流派であっても油断の出来ない相手に変わりは無い。


 「ガキ。用意は出来たか?」

 

 男は、剣を地面に突き刺し、

 身体を預けながらそう言った。


 「わざわざ待っててくれたんですか?

  見た目や行動に比べて優しいんですね」


 俺がそう言うと、

 男は何が面白いのかまた笑った。


 「優しい?ああ、俺は優しいよ。

  馬鹿なガキを殺してやるくらい」


 剣を地面から抜きだし、

 俺に向けて構えた。


 「一つお願いをしても良いですか?」

 「なんだ?」

 「場所を移したいのですが……いいですか?」

 「……良いだろう」


 ベンジーに場所を移すメリットは一つも無いが、何故か俺の提案を受け入れた。

 俺たちは、村の奥の方にあるもう一つの広間まで移動した。


 「よし、ここまでで良いだろう?」

 「はい」


 移動し終わり、

 俺たちは再度お互いに構え合った。


 「それじゃあ、全力で来いよ?じゃねーとお前……すぐに死ぬぜ?」

 「……分かりました。全力で行きます」


 俺は杖に魔力を溜め始めた。


 「始めるぞ」


 ベンジーは片手で剣を強く握りしめ、

 俺の方へ構えた。

 

 『氷射(アイシクルショット)

 【閃光】


 俺の魔術が放たれたのと同時に、

 ベンジーは剣を上から下に振り切った。


 「何か……まずい!!」


 俺は『氷射』を打った瞬間にそう感じ、

 込められるだけ魔力を込めて『土壁』を使った。


 使った瞬間、

 並の剣士には傷すら付かない俺の『土壁』が砕け、俺の身体に強い痛みを感じた。

 痛む部分を見てみると、肩から腰に掛けて決して浅くない剣の切り傷があった。


 「ハァハァ……うっ、、、

  危なかった。魔術で防いでいなきゃ身体が二つになるところだった」


 俺はすぐさま詠唱をして、

 傷を治癒した。


 「あれは何だ?斬撃を飛ばしたのか?」


 前に一度、

 あれと同じ技を見たことがあるような……。


 「どこでだっけ……?」


 傷を治した後、ベンジーの方を見た。

 ベンジーは、肩や腹部、ももの辺りに穴を開いていた。どうやら、俺の魔術が当たったらしい。


 「ハァハァ……よぉガキ。

  なんだよ、生きてたのかよ」


 口から血を流し、

 倒れそうなのを剣で無理矢理支えながら立っているベンジーは俺の姿を見てそう言った。


 「ハハ……やっぱ片手じゃあ力入んねーわ」


 そう、ベンジーは隻腕だった。

 隻腕であの威力だ。両腕ならと考えると背筋が凍る思いだ。


 「僕の勝ちで良いですね?」

 「ハァハァ……まだだ。

  俺はまだ死んでねーぞ」


 ベンジーはそう言って剣を地面から抜き、

 倒れそうになりながらも一歩ずつ近づいてきた。


 「……」

 「負けねーぞ……ルイネス」


 ベンジーはそう言って俺の目の前まで到達し、

 剣を振りかぶった……だが、一瞬硬直し身体を地面に向けて倒れ伏した。


 倒れたベンジーを見てみると、

 気を失っていた。


 「……」


 「神なる恵みをこの身に受け 力を失いし汝に 再び力を授けん」

 『ヒール』


 俺はベンジーに治癒魔術をかけた。

 目を覚まさない程度に傷を塞いだ。


 「幹部ともあろう人が、どうして……っ?」


 ナタリーがそう言った瞬間、

 ベンジーの懐から一つの巻物が落ちた。ナタリーは、巻物を拾い上げ、封を開いた。


 「……っ!?これは……」


 ナタリーは、巻物に書かれていることに驚きを隠せないでいた。


 「何か、書かれていたんですか?」


 俺がそう聞くと、

 ナタリーは小さく、


 「何でも無いわ」


 と言ってうつむいた。

 俺は様子のおかしいナタリーが気になったが、今はそっとしておくことにした。


 俺たちは村人達の拘束を解いた。

 村人達のベンジー達に付けられた傷を治した。数分の後、村人達の治療が終わった。


 「さて、この人の処遇は、ナタリーに決めて貰います」


 村人の治療やベンジー達の無力化を終えた後、

 処遇をナタリーに決めて貰うことにした。


 「そうね……この村での強制労働にしましょうか」


 この後、

 ベンジーの部下を全員捕らえて、まとめて拘束した。

 そして再び小屋に戻り、ある魔道具を取ってきた。その魔道具は、首輪の形をしていた。

 この魔道具は、魔力を込めた者が許可をしない代わりに外すことが出来ない。それに、命令者の指示以外のことをしようと考えるだけで、全身に激痛が走るという物だった。魔道具を持って村に戻り、ベンジー達に付けた。


 「それじゃあ、ルイネス。

  この魔道具に魔力を込めてちょうだい」


 俺はナタリーに言われたとおり、

 魔道具に魔力を込めた。魔力を込めると、魔道具に書かれた文字が光った。


 「これで大丈夫よ。

  この首輪が付いている限りここの村の人の命令に逆らえなくなったわ」


 ナタリーがそう言うと、

 村人の中から老人が一人出てきた。


 「ナタリー様。

  この度は助けていただきありがとうございました」


 老人は深々と頭を下げた。


 「いいのよ。貴方たちが無事ならね」

 「一度ならず二度までも……一体どう恩を返せば良いか」


 小屋に向かうときに聞いた話だが、

 ここにいる村人達は、ナタリーがこっそりと奴隷から解放した人達らしい。

 ナタリーの父親が行なっている奴隷市場。そこで売られている奴隷が買い手に渡る前に流して秘密裏にかくまっている。

 

 ナタリーは父親が奴隷を売っていることを知って、それを止めるべく買い手から奴隷達を解放していたらしい。

 この老人もその一人なのだろう。


 「恩なんて返さなくて良いわ。元々、うちが奴隷売なんてやっているのが悪いのよ」


 老人はもう一度ナタリーに礼を言った後、 

 俺の方を向いた。


 「ルイネス様。我々を助けていただいき、ありがとうございます」


 老人は俺にも頭を下げてきた。


 「僕もアイツにイライラしていたのでお礼を言われる必要は無いですよ?」


 俺がそう言うと、

 老人は、呆気にとられていた。


 「どうかしましたか?」

 「い、いえ……冒険者の方は、

  人を助けるのに金銭を要求されることが多いので……ルイネス様は変わっておられますね」

 「そうでしょうか……?」


 冒険者は確かにそういう人は多いかもな……。

 今は特に金に困っていないから要求する必要は無いけど。


 「我々はルイネス様に何をお返しすれば良いのか」

 「特に……」


 待てよ……。

 この村の人と仲良くなっていればまたアルレシア大陸に来た際に色々助かることも多いだろう。


 「それでは、一つお願いしたいことがあります」

 「はい……何でしょうか?」

 「僕がまたこの大陸に来た際に、色々助けてもらえると有難いです」


 俺がそう言うと、

 老人は、また呆気にとられたような顔をした。


 「そのような事で良いのですか?」

 「はい、僕もこの大陸のことは分からないことだらけなので、

  助けていただければかなり助かります」

 「……分かりました。

  ルイネス様が再びこの大陸に来た際には、村人一同が全力で協力させていただきます」


 俺は老人と握手を交わした。

 そういえば……この老人の名前ってなんて言うんだろう?


 「あの……」

 「はい?」

 「お名前を聞いてもよろしいでしょうか?」


 俺がそう言うと、

 老人は、ハッと何かを思い出したようだった。


 「申し訳ありません。まだ名乗っておりませんでした。

  私の名前はクリントです」

 「クリントさん。今後ともよろしくお願いします」

 「こちらこそ」


 俺たちは村を後にした。

 馬車に乗り込みロシンポートまでの残り少ない経路に戻った。


 ロシンポートまでは残り……二ヶ月。


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