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転生記 ~異世界では長寿を願って~  作者: 水無月蒼空
第3章:【少年期】冒険者編
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第三十七話:「盗賊」

 翌日、

 俺たちは、ルルラの街を出た。

 ルルラからロシンポートまでは約半年ほどかかる。その間、俺たちは徒歩や商人に金をつかませて馬車に乗車させてもらうなどして移動する。

 徒歩と商人に頼むのでは移動する速度にかなりの差が出来る。

 俺が見積もっている半年というのは、商人の馬車に乗せてもらってロシンポートを目指す際の時間だ。


 俺は街を出る際、

 ロシンポートに向かう商人を見つけて路銀を渡した。二人ロシンポートまでで黒銭三枚。

 この値段はかなり高いとは感じたが、今は一刻も早くロシンポートに着きたかったため、支払って乗せてもらうことにした。


 俺たちが乗せて貰った荷台の持ち主は、

 トッタという獣人の商人だ。


 ルルラでネム草を取引しているトッタを見かけて、

 獣人族の商人は珍しいと宿の店主が言っていたため話してみたらロシンポートに向かうとのことだったのでダメ元で頼んでみたところ、路銀を払うならいいと言うことだったので支払った。


 「トッタさん助かりました。もし乗せてもらえなかったら、路頭に迷っていたところでしたよ」


 俺は、トッタと共に馬車の先頭にある所に腰掛けていた。

 トッタは魔獣の手綱を持ちながら腰掛けていた。フィラは後ろでスヤスヤ眠っている。


 「いいや、路銀を貰っているんだ。気にするな」


 このトッタという男、

 路銀を支払ったとはいえど、得体の知れない俺たちはためらいなく乗せてくれた。

 いい人を疑いたくはないが、何やら思惑があるのではないかと疑ってしまう。


 「そういえば、あんた達は何でロシンポートに?」

 「大陸を渡るために船を利用しようと思いまして」

 「それなら、ロシンポートに行くのも納得だ」


 アルレシア大陸を出るには、二カ所から出ている船に乗る必要がある。

 一カ所目は、今俺たちが向かっているセフィス大陸行きの船が出ているロシンポート。

 もう一カ所は、ここより南に位置して、

 ミルフィッド大陸行きの船が出ているもう一つの大陸の入り口。サースポートだ。

 サースポートから出ている船の行き先であるミルフィッド大陸は大陸に流れている魔力が乱れているため雷に突風。竜巻に砂嵐など色々な気象災害が多発するアルレシア大陸とはまた違う意味で過酷な大陸だ。

 俺もアスト王国に向かうとなった時にどちらの大陸に渡るか考えた。セフィス大陸は、

 魔族や魔物などの生物を根絶を教義に掲げているセフィス教団が中心に統治している国。セフィス神聖王国がある。

 セフィス神聖王国は、表向きの体制としては王制を取ってはいるが、その実は、セフィス教団が実権を握っている。

 教団のトップである教皇が今では国の中心としている。

 この国やこの大陸では魔族はあまり歓迎されない。現在、魔族和合派のトップが教皇として教団が動いているため、魔族もこの大陸に入ることが出来る。教皇の前任者は排斥派のトップだったため魔族の血が入っている者は大陸に入ることさえ許されなかったらしい。

 俺たちは二人とも人族だ。そのためセフィス大陸や国の中でも不自由なく動くことが出来る。危険なミルフィッド大陸に行くよりも、セフィス大陸に向かう方が良いと考えてロシンポートに向かった。

 トッタが納得と言ったのも、ミルフィッド大陸よりもセフィス大陸のほうが安全だと知っているためだろう。


 「大陸を渡って何所に行くんでぇ?」

 「アスト王国です。とある理由でアルレシア大陸に移動してしまったので、生まれ故郷に帰ろうと思いまして」

 「それって、数年前のこの災害か?」


 トッタはそう言って懐から少々古びた紙を取り出した。

 その紙は、リングルの街にあるギルドで見た紙と同じ物だった。


 「その紙は?」

 「前にセフィス王国の商業ギルドにいた茶髪の兄ちゃんに渡された物だ」


 茶髪の男……?

 男の子とは分からないが、以前、セリスという女性からの手紙にセフィス神聖王国に拠点があると書かれていた。もしかしたら捜索隊の仲間の人が配っているのかもしれない。


 「はい、その災害の被害に遭いまして今戻っているところです」

 「なるほど……そりゃあ災難だったな」


 トッタはそう言って馬車を引いている魔獣の手綱を引いた。


 「そういやぁ、あんたの名前を聞いていなかったな」

 「そう……でしたね。

  僕の名前はルイネスです」

 「そうか、短い間だがよろしくなルイネス」


 ルルラからロシンポートまでの道は二つ存在している。

 現在俺たちが走っている道はそのうちの一つで、この道には、とある噂がある。

 それは、この道を通る人が次々に消失している。

 理由は定かではない。

 魔物に襲われたとも聞くし、ただ途中で道を変えただけとも聞く。だが、人々はこの道を通りたがらない。


 「そういえばトッタさん」

 「なんだ?」

 「最近この道には変な噂があるようですが何でこの道に?」

 

 俺がそう言うと、

 トッタの顔がほんの少し濁ったように見えた。


 「……この道は最近通るヤツが少なくてな。ロシンポートに行くのに都合が良い」

 「それでも、危険じゃないですか?」

 「問題ない。噂なんか所詮噂だけだ」


 トッタは気を悪くしたのか、

 手綱を強めに引いた。


 「気を悪くしてしまったのならすみません。理由は分かりました。確かにその通りですね」

 「分かったのなら良い」


 俺は馬車の荷台の後ろに下がった。

 今のままではトッタの気をさらに悪くしてしまうだけだ。

 俺はフィラの元に向かい。近くに腰掛けた。


 「なんだか、気になるな……」


 トッタのあの挙動。

 何か思うことがあるのか?

 

 俺はいつの間にか眠っていた……。


 目が覚めると、

 辺りは真っ暗になり、馬車の走る音だけが響いていた。


 「おお、起きたか」

 「すみません。僕達だけ寝てしまって……」

 「いや、気にするな。

  馬車を引くのは俺の仕事だ」」


 トッタはそう言って手綱を引いていた。

 俺はもう一度先頭に腰掛けた。


 「夜だと魔物が近づいても気づきにくいので僕も警戒しておきます」

 「……ああ、分かった」


 トッタは渋々といった様子で承諾した。

 俺は警戒しながら辺りを見回した。


 そこから数時間何事もなく、

 ただ馬車に揺られる時間を過ごした。


 静かな暗闇の中を警戒していると、

 トッタが話しかけてきた。


 「眠らなくて良いのか?」

 「はい、ついさっきまで寝ていたので」

 「……そうか」


 トッタかそう言った瞬間、

 前方に一瞬光が見えた気がした。その時、俺の後頭部に痛みが走り、

 俺は気を失った……。


ーーー

 目が覚めると、

 古びた家屋のような場所にいた。

 部屋中に蜘蛛の巣が張り巡らせられ、使われていないのがすぐに分かった。


 「ここは、うっ、、、」


 後頭部に強い痛みが走り俺は手で押さえようとしたときに異変に気がついた。


 「これは……?」

 

 俺は縄で縛られていた。

 手足を動かせないように強く。


 「こんなもの」


 俺は魔術を使った。いや、使えなかった。

 俺は、いつも魔術を使おうとしたら魔力の流れは感じるのに、魔術を発動させることが出来なかった。

 

 「何でだ!?」


 何度も魔術を使おうとしたが、

 魔力が流れるだけで、魔術が発生しない。


 「ここでは、魔術を使えないのか……」


 俺はすぐに辺りを見た。

 俺が持っていた杖や鞄は近くにはなかった、

 すぐ横にはフィラが眠っており、トッタの姿はなかった。


 「フィラ、起きてください」

 「……ん、、」


 フィラは重たいまぶたを開けた。すると、辺りの様子が違うことに気がついて焦りを隠せないでいた。


 「え!?ここ何所?」

 「分かりません」

 

 フィラは状況が理解出来ていないようで困惑していた。


 「フィラ、とりあえずこの縄をほどいてもっても良いですか?」

 「え?あ、うん」


 フィラは俺を縛っている縄をほどいた。

 

 「ありがとうございます」

 「うん」


 俺はひとまず部屋の中を歩き回った。

 

 この家屋は一部屋しかなく、

 入り口のドアは硬く施錠されていた。


 「どう?出られそう?」

 「……無理ですね。魔術が使えれば別なのですが……」


 この部屋では魔術が使えない。

 魔術が使えない俺は、ただの子供にすぎない。


 「どうするの?」


 不安そうな表情をしてフィラは俺を見つめた。


 「……とりあえず、ここから出る方法を見つけます」

 「分かったわ」


 俺たちはここから出る方法を見つけるために、

 この部屋中を見回った。


 数分後、

 俺たちは出る方法を見つけるために歩き回った、そして、一つ不可解な物を見つけた。


 「これは何?」

 「さぁ、何でしょう?」


 見つけた物は、

 部屋の中央にある汚い絨毯。その下に空洞があり、薄い光を放つ杭があった。


 「どうする?試しに抜いてみる?」

 「そうですね、危険が無いかどうか確かめてからじゃないと」


 俺がそう言った瞬間、

 ドアの方からガチャっと鍵の開く音がした。


 「フィラ、寝たふりをしてください」

 「え?」

 「早く!」


 俺の声と共に、

 フィラは床に伏せた。


 「おいおい、縄ほどけてるじゃねーか」

 「縛っていなかったのかよ」

 「ルイネスの方だけ縛っていたんだよ」

 「片方じゃあ逃げられるに決まってるだろ!」


 ドアの目の前にいたのは、

 汚い衣類を身に着けて、腰に手入れのされていない剣を携えている男と、よく知った顔があった。


 「フィラ、僕が合図したらその杭を抜いてみてください」


 俺は小声でフィラにそう言った。


 「大丈夫なの?」

 「分かりません。ですが、それのせいで魔術が使えない可能性が高いです」


 そう、今この部屋の中にいるせいで魔眼は使えないが、

 その杭が魔力を纏っているのはなんとなく分かった。


 「その杭が魔術を使えないようになっている要因ならやるだけの価値はあります」

 「分かった」


 フィラは小声でそう言った。

 俺は二人にバレないようにフィラの手元に布をかぶせて杭をつかむ手を見えないようにした。


 言い合いを終えた男達の内、よく知った顔をしている男は、

 ゆっくりと部屋の中に入ってきた。


 「トッタ」

 「よぉルイネス。目覚めはどうだ」


 ドアの前で不敵に笑いながらトッタはそう言った。


 「ああ、最悪だよ。お前のせいでな」

 「それは良かった。ところで一つ提案なんだが、もう一度眠ってくれないか?」

 「断る」

 「だと思った」


 トッタがそう言うと、

 もう一人の男がこっちに向かって歩いてきた。


 「それじゃあ、おとなしくしてもらおうか?お前達は大事な商品なんだ」

 「商品?」

 「お前達は、俺たちが開いている()()()()の商品だ」

 「奴隷市場……」


 ロシンポートには、隠れた奴隷市場があるという噂を聞いたことがある。

 アルレシア大陸にいる獣人や魔族、人族を攫って奴隷市場を開いていると……。誰が開催しているとか、実際に開催されているという話は聞いたことがなかったが、本当にあったんだな。


 「俺たちの商品に傷を付けるわけにはいかない。

  おとなしくしてくれ。俺がボスに殺されてしまう」

 「ボス?」

 「ああ、おっかない盗賊のボスだ」

 

 盗賊?

 こいつが盗賊って事は、トッタも盗賊なのか?


 「じゃあ、トッタも盗賊なのか?」

 「アイツは違う。アイツはただ俺たちに奴隷として価値のあるヤツを売る。ただの商人だ」


 つまり、

 トッタが手頃なヤツを見つけて気絶させ、

 眠っている内に盗賊に売るっていたのか。ひょっとすると、この道を通る人が消えているのって、俺と同じように盗賊に売られていたのか?


 「ここで消えた人達も」

 「ああ、アイツが情報を俺達に渡して、俺たちが待ち伏せる。そうやって俺たちは商品を確保して、アイツは私腹を肥やす。お互い利益しかない取引だろう?」


 確かにお互い利益しかないが、

 売られる側には利益が全くない。



 「そうですね。ですが、僕達には全く利益がないので逃げたいと思います」

 「あ?」

 「フィラ今です」


 俺の合図と共に、

 フィラがつかんでいた杭を勢いよく抜いた。


 「こいつ起きてって、やべー!」


 フィラが杭を抜いた瞬間、身体を循環する魔力をいつも以上に感じた。

 俺は魔力を手に送った。


 『音速衝撃波(ソニックバーン)


 透明の衝撃波が盗賊に向かってすごいスピードで飛んでいった。


 「グへァ!!」


 俺の魔術が直撃し、

 盗賊の男は後方に吹き飛んだ。


 「ふぅ、、、」

 「怖かった……」

 「はは、大丈夫ですよ」


 フィラはゆっくりと立ち上がった。


 「怖かったよ!」

 「そうですね。一か八かだったので僕も怖かったです」


 俺とフィラは、

 ドアの目の前で固まっているトッタの方まで歩いて行った。


 「おい、トッタ」

 「……」


 俺の呼びかけに

 トッタは答えなかった。


 「おい!起きろ!」

 「おわっ!」


 トッタは腰から地面に崩れ落ちた。

 怖がっているのか立てなくなってしまっている。


 「どうした?俺たちを売るんじゃないのか?」

 「……」

 「ほら立てよ?」

 「……え、いや……」


 トッタは俺の顔を見ようとしない。

 どうやら本当に俺のことが怖いようだな。そんなんなら、人を盗賊に売るようなことしなければ良いのに……。

 

 「トッタ、俺たちと取引をしないか?」

 「えっ?」


 俺はトッタに取引を持ちかけた。

 その内容は、俺がトッタの安全を保証する代わりに盗賊のアジトの情報を俺たちに流すという物だ。

 今の俺たちにはトッタが運転する馬車が必要だ。馬車がないと、ロシンポートまでかなりの時間が掛かる。それだけはどうにかしないといけない。


 「俺たちがお前の身の安全を保証してやる。だけど、その代わりに盗賊のアジトに案内しろ」

 「そ、そんなことしたら、俺が殺されちまう」

 「だから、俺たちが守るって言ってるだろ?それに、アジトを落としてしまえば、お前を襲うヤツはいなくなる」


 俺がそう言うと、

 トッタは考え始めた。


 その後、数分沈黙の時間を過ごした後、

 トッタが立ち上がった。


 「ほ、本当に俺を守ってくれるんだろうな?」

 「ああ、もちろんだ。

  その代わりもう一つ約束して貰っても良いか?」

 「……なんだ?」

 「もう二度とこんなことはするな」


 俺がそう言うと、

 トッタは少し考えた。


 「分かった。

  お前が俺を守って、俺は情報を提供する。俺はもう二度とこんなことはしない」

 「契約成立だ」


 俺とトッタは手を交わした。

 


 俺たちは家屋を出た。

 この家屋は、トッタが盗賊が来るまで閉じ込めておくための物らしい。


 あの杭は一種の魔道具のようで、中にいる生物の魔力を利用して動作する物で盗賊から借り受けた物らしい。

 杭は家屋から出た後すぐに破壊した。

 あれは魔術師に使うととてつもない効力を発揮するが、逆にこっちに使われたら先程のように自力では抜け出せない折となってしまう。破壊するのが一番の得策だろう。


 俺たちは再びトッタの馬車に乗り込んだ。

 馬車のに荷台には、俺の杖や荷物が積まれていた。


 「僕達の荷物をどうしようと思っていたんだ?」

 「い、いや~高そうな杖だったんで街に行ったら売ろうと……」


 全くこの男は……。

 お金に目が眩みすぎている。


 「いいか?

  俺たちを裏切るようなことをしたらすぐに馬車を破壊するからな」

 「わ、分かってますよルイネスの旦那」


 旦那?

 なんだ、この完全に劣勢になった瞬間の腰の低さは……。


 その後、 

 御俺たちは暗い道を進んだ。途中整備のされていない脇道にそれた。


 脇道にそれて数時間経ち、

 馬車が停止した。

 辺りはすでに夜が明け始めているため、明かりがなくとも物が見えるようになっていた。


 「つ、着いたぞ」

 「……ここが?」


 俺たちがいたのは、

 森の中にポツッと経っている山。その一カ所にあいている穴の前だった。

 この穴の中は洞窟になっているようで、奥は暗くて全く見えなかった。


 「本当に、この中に盗賊のアジトがあるのか?」

 「ほ、本当だ。本当にこの中だ」


 トッタは恐る恐る洞窟に入った。

 俺はその後ろに着いて行き、フィラは荷物を守ってもらえるように馬車に残ってもらった。

 ここが本当に盗賊のアジトであるなら外にいる方が安全だ。念のためにアースウォールを二重で囲ったが……。


 アジトだという洞窟に入ってから数十分が経った。

 この洞窟は迷路のように複雑になっており、道を覚えるのは不可能だった。そのため、どんどん進んでいるトッタを見失わないように急いで追った。


 やがて、洞窟の行き止まりにたどり着いた。

 迷路のように入り組んでおり、確かではないが、今進んできた道を直線に直してもあの山をまたぐほどの距離はなかったように感じる。

 まだ何かあるのだろうか……。


 考え込んでいると、

 前を進んでいたトッタが行き止まりに近づき何かを探し始めた。


 「何やってるんだ?」

 「ここで、中にいるヤツと連絡を取ってここを開けて貰うんだ」


 トッタは壁を探って、

 一カ所、突起を見つけた。


 「おお、あったあった」


 トッタは突起を押し込んだ。すると、行き止まりになっている壁がゆっくりと動き出し、

 やがて、壁は見る影もなくなくなった。


 「なんだ、お前か。

  商品を取りに行ったヤツはどうした?」

 

 壁の先には、家屋でみた男と同じような衣類を身に着けた所々汚れが目立つ男が立っていた。

 男は、古びた紙を手に持ちながらトッタに話しかけていた。


 「ああ、えっと……一度来られたんすけど、

  何やら用事が出来たと言って、商品を直接ここに持ってくるよう言われたんすよ」

 「じゃあ、そいつが商品か」

 「はい」


 トッタはそう言って俺を男の近くに押し出した。

 俺はあらかじめトッタに縛られていた縄と同じ物を自分手腕に巻いておいた。いつでも自分で採れるよう少しゆるめに結んで。

 男は俺の顔をじっと見た後、トッタを睨み付けた。


 「おい、こいつはただのガキじゃないか?それもただの人族だ。

  これじゃあ、売れ残っちまう。内ではただの人族は受け入れねーよ?」

 

 なるほど、

 確かに、俺は一見非力な子供に見える。いくら奴隷市場といっても、すぐに潰れてしまう人族の子供なんて欲しくはないはずだ。

 俺がそう考えていると、

 トッタがおとこにかけよりい耳打ちをした。


 「実はですね。

  このガキはあのアスト王国の災害に巻き込まれた子供で、本名をルイネス・アルストレアっていうらしいでっせ」

 「おい!?アルストレアって、あの最上級貴族のか?」

 「恐らく、その血統に属してるんじゃないですか?

  こいつは奴隷としてではなく、人質としてあの家を揺すれば、かなり入ってくると思うですが?」


 男は、しばらく考えた後、

 俺をじっと見た。


 「お前名前は?」

 「ルイネス・アルストレアです」

 「……よし、二人とも入れ」


 男はそう言って、

 俺たち二人を中に迎え入れた。

 壁の奥は、かなり広い空間が広がっており、大人数が寝泊まりできるようになっているようだった。

 だが、この空間の広さと比べて中にいる人の数が合っていなかった。


 「なんで今日はこんなに少ないんで?」

 「今ボスと他の奴らはロシンポートに出払っている。

  近々でかい競売を開くらしくてな。その準備があるんだと」


 今のここはボスが居らず、

 ロシンポートでは大きな競売りがある。これは物騒だ。


 この空間にいる人の数は、

 ざっと数えて十人程度、このくらいの数ならなんとかなるか……。


 「それじゃあ、商品はここに入れておけ」

 

 男は、

 質素な檻を目の前にそう言った。

 この織にはあの家屋に設置されていた魔術を発動させないための魔道具と同じような杭が刺さっていた。

 ここに入ると魔術が使えなくなる。


 「動くなら今しかないか……」


 俺はそう思い、

 行動を起こすことにした。


 「おい、何やっている?早く入れ」

 「お断りします」

 「なに?」


 俺は男に向かって、

 風魔術を使った。


 『風縛(ウインドバインド)


 俺は透明で目に見えない風魔術を使い、

 男を捕らえた。


 「なんだ?お前は!」

 「なにって、……冒険者ですよ冒険者」


 男は、

 縛られてなお騒ぎ立てている。

 これ以上騒がれても困るので、黙って貰うことにした。


 俺は、重力魔術で男を気絶させた。

 重力魔術を使う必要は無かったが、他の魔術で気絶させるのは調整が難しいので、重力魔術で気絶させた。


 「トッタ、杖を」

 「へ、へい!」


 俺はトッタに預かって貰っていた杖を受け取り、

 他の部屋を静かに見て回った。


 現在、俺たちがいるのは、

 この空間の二階の隅にある檻で、盗賊の残りは、一階で何やら物を箱積めしているようだった。


 上から見て気がついたが、

 この空間の至る所に首がなく、剣で串刺しになっている羽が生えている人が刺繍された黒い旗が掲げられていた。


 「ではトッタ。

  僕は下の人達を捕らえてきますので、トッタは他の出口がないか見回った後、あった場合は、入ってきた通路以外を潰してきてください」

 「おいおい、俺にそんな事……」

 「出来ますよね?」

 「……了解。これで俺もいよいよ裏切り者かよ……」


 トッタは渋々、奥の方まで走って行った。

 俺は、下で作業している盗賊にバレないように目の前の階段を静かに降りた。そして、一階に降りて、誰を標的にするか定めた。


 「よし、あのバンダナを巻いている男にするか」


 俺はバンダナの男の後ろにゆっくりと近づき、

 そっと魔術を使った。


 『風縛(ウインドバインド)


 男は透明な風に縛られた。

 

 「なんだよこれ!?」


 男は急に何が起こったのか理解出来ていないようで、

 縛られている中で暴れ回った。


 『落ちろ』


 俺は、最初の男と同様バンダナを巻いた男を気絶させた。


 「よし、次は紙を持ったアイツと、

  長い棒を持ったアイツにしよう」


 俺はその後、

 五人気絶させた。


 残り、この空間内にいる盗賊は残り三人。

 三人とは言っても、全員女だった。

 一人は裕福そうな格好をした人族の女、もう二人は腰に剣を携えている剣士の女だった。


 「これは、まずいかも」


 俺は剣士と相性が悪い。

 俺がいくら無詠唱で魔術を使えるとしても、一流の剣士の速さの前には無意味だろう。



 「ここはあの二人と、

  人族のあの女を離すしかないか……」


 俺は二階に登り、

 一階を見下ろせる場所に立った。


 「やるか……」


 俺は二階からアースウォールを使い、

 二人の剣士と、裕福そうな女を離した。


 「うっ、、、」

 「なに!?」

 「二人とも!」


 二人の剣士と離れた女は、

 魔術の衝撃に耐えきれず後ろに腰をついた。二人の剣士は、魔術を剣でいなし、後方に飛んで距離を取った。


 俺は剣士の女を拘束した。

 腕の良い剣士でも不意打ちでは反応しきれていなかった。


 俺は裕福そうな女の目の前に降りた。

 女は、目の前に降りた俺に怯えた表情をした。


 「だ、だ……誰なの?」

 「一端の冒険者ですよ」


 俺がそう言うと、

 女は俺が怖いのか、腰を抜かしながら逃げ出した。俺は、重力魔術で女を浮かせた。


 「逃がしませんよ?」

 「……あなた、龍王ね」

 「ご存じで?」

 「もちろん、紫竜を単独で倒した凄腕冒険者を知らないわけがないじゃない」


 紫竜討伐の話はかなり出回っているらしいな。


 「ねえ、龍王様?

  私と、取引しない?」

 「取引?」

 「ええ、ここで私を見逃してくれない?その代わり、貴方たちを見逃してあげる」

 「断る」

 「どうしてよぉ?」

 「今の僕達は、あなたと取引をしなくてもここから逃げられます」


 俺がそう言うと、

 女は、笑った。


 「無理よ。

  私達【スィーヴズ】はこの大陸のどこにでもいる。貴方がここを落としたと知られれば、この大陸から出ることは出来ないわ」


 スィーヴズ……。

 この盗賊達の名前か……こう言ってくるって事は、この女ならどうにか出来るのか?


 「……貴方を見逃せばどうにか出来ると?」

 「ええ、もちろんよ。

  私が言えばボスだって貴方を見逃してくれるわ」


 女はそう言って、

 腕に付けている腕輪を俺の方に向けた。

 腕輪には、旗に刺繍されているものとおなじものが掘られていた。


 「私はナタリー。

  スィーヴズのボスの娘よ」


ーーー

 俺は取引に応じることにした。

 正直今すぐこいつらを街の兵士に送ってもいいが、こいつの言うことが本当なら、ロシンポートに着いた後盗賊の奴らに襲われでもしたら大陸を出ることが出来なくなる。大陸を出るのに一番良い方法は、こいつを利用して盗賊の目を逃れることだ。


 「取引を受ける代わりに、一つ条件があります」

 「なぁに?」

 「貴方は見逃します。ですが、それはロシンポートに着いてからです。

  ロシンポートに着くまでは、僕達と一緒に来てもらいます」


 彼女をこの場所で逃がすと、

 裏切られる可能性がある。だが、ロシンポートまで一緒に行けば裏切られる可能性は少ない。

 

 俺が条件を提示すると、

 ナタリーは即答した。


 「そのくらいのことなら喜んで」


 ナタリーは余裕があるように微笑んだ。

 さっきまでは分からなかったが、ナタリーは俺と同じくらいの歳に見えた。


 俺は彼女に魔術を使い拘束して、

 そのままトッタが待っている出口まで移動した。


 「おいおい、旦那?

  その人……ナタリー様じゃあねえか?」

 「はい、捕らえてきました」


 俺がそう言うと、

 ナタリーはムスッとした顔をした。


 「あら?トッタじゃない?……なるほど、龍王がここに来たのは貴方が連れてきたのね?」

 「龍……王?」

 「なに?知らなかったの?」


 ナタリーはそう言って、

 俺のことをいろいろトッタに話した。


 「だ、旦那が紫竜を単独で倒したって?」

 「そうよ?あなた……とんでもない人を商品として持ってきてくれたわね?」


 ナタリーがそう言うと、

 トッタは怯えたように俺を見た。


 「なんですか?」

 「い、いや……旦那がそんなにすごい方だとは」

 「そんな事はどうでも良いです。早くロシンポートに向かいますよ」


 俺は二人を連れて、洞窟を抜けた。

 洞窟の目の前には、暇そうに足を振りながら馬車に座っているフィラがいた。


 「ルイ君。

  その人、だれ?」

 

 フィラは、

 疑問の目を俺に向けながらそう言った。

 

 「ここの盗賊団のボスの娘さんです。ロシンポートまで同行させます」

 「ナタリーよ。よろしくね。お嬢様?」

 「は、はい……?」


 この人、

 フィラのことまで知っているのか……?

 盗賊団の情報収集能力は侮れないな。


 馬車は俺たちを乗せて、

 ロシンポートに向かって走り出した。


 ここから半年程度かかる長い旅だが、

 我慢して進んでいくことにしよう。


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