第三十五話:「フィラ・ニードル」
俺はギルドにいた。
魔力切れで気を失っていたフィラを運び入れた後、彼女が起きるのを部屋の中で待っていた。
「・-・-やべ・-!!」
ギルドの一階が騒がしくなっていた。
俺は気になり一階に降りた。
「おい、今すぐ治癒魔術が使えるヤツを連れてきてくれ!」
そう言って受付嬢に怒鳴り込んでいたのは、
商人のような服装をした魔族の男だった。
「早く来てくれよ!」
「何度も言いますが、
そういったことは私ども冒険者ギルドではなく、優秀な魔術師が多くいる魔術ギルドに依頼してください」
受付嬢は疲れたように男にそう言った。
「だから、今は治癒魔術を使える人をよこしてくれるだけで良いんだって」
「昨日の事件で、当ギルドの魔術師は疲労しています。なので、今動ける人で治癒魔術が使える人は当ギルドには居りません」
「なんでだよ……」
男は悲しげな顔をした。
「あの、僕でしたらすぐに動けますが?」
悲しげな男に向かって声をかけた男がいた。誰であろう……そう俺である。
この男がこれ以上騒いでは、二階で寝ているフィラの目覚めが悪くなってはいけない。なので、俺が男の要望を聞こう。
「それで、何があったんです?」
俺がそう聞くと、
男は俺の両肩を強くつかんだ。
「お、俺の恩人が血を大量に流しながら道に倒れてたんだ!い、今ならもしかしたら助かるかもしれない。早く来てくれ」
なるほど、
それで焦っていたのか……。
「それじゃあ、その恩人が倒れている場所と、その人の特徴を教えてください」
「ああ、倒れている場所は、唯一何も被害がなく残った宿に向かう道」
俺が泊まっている、
宿の行き道か……。
俺はそう考えた瞬間、
背中に汗が流れ、鼓動が早くなり始めた。
「特徴は、
大柄の男で、灰色の毛並みをした魔族だ」
俺はそれを聞いた瞬間、
動悸が激しくなり、全身が震えていた。
「名前を……ジェドという」
俺はそれを聞いた途端、
ギルドの外に向かって走り出していた。
数分後、
人だかりが出来ているところを見つけた。
「ちょっと、どいてください」
俺は人だかりの間を抜けて、
人だかりが出来た原因のものを見た。
「じぇ……ジェド……」
俺の目の前には、
身体に複数の短剣が刺さり、腹部には剣で刺したのか大きな穴が開いており、全く微動だにせず眠っているジェドの姿があった。
ジェドが倒れている地面には血が大量に流れ出ており、外側の方はすでに乾き始めていた。顔の色も悪く、触ってみたところひどく冷たかった。
「ジェド……ジェド!」
俺は何度も、何度も、何度もジェドに呼びかけた。だが、ジェドは一度も返事をしなかった。
「そ……そうだ。
とりあえず傷を治さなきゃ。治さないと起きれても起きられないよな」
俺はジェドの身体に刺さっている短剣を一本一本抜いた。
俺はどんどん呼吸が荒くなり、目からボロボロ涙を零していた。
「ブライトヒール」
俺は治癒魔術をジェドにかけた。
ジェドの身体についた傷は見る見るうちに消えていった。
「……」
ジェドは目を覚まさない。
「ブライトヒール、ブライトヒール、ブライトヒール」
俺は何度も治癒魔術をかけた。
自分の魔力がどんどん消費されていく。前日からずっと魔術を使っていたため、流石の俺でも底が見え始めていた。
だが、俺はそんな事気にもとめず俺は何度も魔術を行使した。
「頼む……頼むから……」
俺は涙を垂れ流しにしながら魔術を使った。やがて、俺の魔力が残り一割を切り、身体のだるさや意識が遠のくような感覚が俺の身体を襲った。
その瞬間、俺の肩を誰かが叩いた。
「ルイ君、ジェドさんはもう……」
そう言って俺の肩を叩いたのは、
ギルドで眠っているはずのフィラだった。
「ダメだよ、もう眠らせてあげないと」
俺は今にも涙を流しそうにしているフィラにそう言われ我に返った。
ジェドは傷こそないが、先程と何も変わっていなかった。
「フィラ……ジェドが……」
俺がフィラにそう言うと、
フィラは俺の背後から優しく俺を抱きしめた。
「悲しいね、ルイ君。
私もジェドさんがいなくなってとても悲しくて辛いよ」
フィラを辛いのか、
目から大粒の涙を流していた。
「大丈夫、ルイ君には私がついてるよ。
私がついているから、今は休んで」
フィラはそう言って、
俺の頭をそっと撫でた。彼女の手はとても温かった。
俺は彼女に身体を預けた。その瞬間、俺は魔力切れの症状を起こし、
彼女に抱かれたまま気を失った……。
ーーー
俺は目を覚ました。
目の前には木で出来た天井が広がり、硬いベッドの上で目を覚ました。
「もう夜か……」
俺は部屋にある窓を見ながらそう言った。その瞬間、あることに気がついた。
「フィラ……」
俺が気がついたことは、
俺が寝ていたベッドの側で俺の手を握りながら眠っているフィラの姿だ。
「ん……ん……」
フィラは俺の声で目が覚めたのか、
よだれを垂らしながら眠たそうに顔を上げた。
「ん……ふぁぁ……」
「おはようございます」
「うん……おはよ」
フィラは眠たそうに俺をみた。
「ルイ君……あの……」
フィラは言いにくそうに、
言い途中で口を噤んだ。
「大丈夫です」
俺は一言そう言った。
分かってる。朝の俺は平常心を保てていなかった。そのせいで、病み上がりのフィラに無理をさせてしまった。
ジェドが死んだ。それは理解できた。
街でも人が死ぬことは珍しくない。過酷なアルレシア大陸において人が死ぬということは当たり前のことだ。
だけど、それは過酷な大陸に順応出来なかったためだ。だが、ジェドは違う。
ジェドの身体には何本も短剣が刺さっていた。それはつまり、誰かに殺害されたということだ。
一体誰だ?
ジェドは思い直して生きていくと心を入れ替えていた。彼はここから新しい道に進むはずだったんだ。
誰がジェドを……?まさか、俺以外にジェドが犯人だと特定したヤツがいたのか?それで、復讐のためにジェドを……。
それでも、俺は許せない。
必ず見つけ出して……。
俺がそう考えながら、
シーツを握りしめた。すると、フィラが俺の手を握った。
「ルイ君……今怖いことを考えていますね?」
「……え?」
フィラは心配するように俺の顔を見た。
俺は急に言われたことで戸惑った。
「な、なんで?」
「ルイ君の考えていることなんて分かります。
今の君は、森で出会った頃と同じ顔をしていたのよ?気づかない方がおかしいです」
優しげな顔をしたフィラは、
俺の手を両手で握った。
「ルイ君、復讐はダメよ?
復讐からは何も生まれない。生まれるのは新たな復讐心よ」
「……」
「私は、今の君と同じような人を何人も見てきたわ。何人も見て、その全員が悲惨な目に遭ったのも見てきた」
「それでも……誰かがジェドの仇を……」
「それは、ルイ君の役目じゃない」
フィラははっきりそう言った。
ジェドの仇をとるのは俺じゃない……か。
彼は俺を殺そうとした。俺も彼に言われ彼を殺そうとした。だけど、フィラに好きだと言われ思いとどまった。ジェドはそんな俺を受け入れた。
ここで、俺がジェドのためを思って復習に身を置くのは間違っている。確かに、その通りかもしれない。
だけど、だけど……今の俺の中の深い部分に渦巻いている物は一体どうすれば良いと言うんだ。
この何かにぶつけないと収まらないようなこの何かは……。
「それでも、僕は……」
俺が言いにくそうにしていると、
フィラは何かを決めたような顔をして、俺のベッドに座り俺をそっと抱いた。
「今君の中で、良くない物が渦巻いているのね」
「……」
「今も一人、それと戦って今にも爆発しそうなのね」
「……」
「……そう、それじゃあ今私に出来ることは一つね」
フィラはそう言いつつ、
自分が来ている服に手を掛けた。
「フィラ……一体何を?」
「ルイ君の溜めている思いを今私に打つけて」
フィラは頬を赤らめながら、
俺の耳元でそう言った。
「私を抱いて君が元気になるなら私もうれしい」
彼女は不安なのか、
手を震わしながらそう言った。震わしながらも、彼女の手がとても熱かった。
手の震えや、彼女の表情から彼女が勇気をだして言ってくれていることが分かった。
「る、ルイ君?何か言ってくれないと……あっ」
俺はフィラを勢いよくベッドに押し倒した。
「あ。あの……ちょっと」
この時の俺は彼女が痛がると考える余裕はなかった。とにかく今は、俺の中で渦巻いている物を早く発散したい。
俺の中にあったのは、この思い一つだった……。
ーーー
翌朝。
俺は外で泣いている鳥の囀りで目が覚めた。
目が覚めてすぐ目に入ってきたのは、白く綺麗な肌を露出させた……というか、全裸で寝ているフィラの寝顔だった。
よく起きていない俺の頭が起き始め、
昨日の夜の記憶が鮮明に思い出されてきた。
「……」
俺は無言で彼女の頭を撫でた。
撫でてると、彼女はくすぐったいのか、少し口角を上げながら頭を揺すった。
俺はフィラの頭を撫でながら昨日の夜のことを思い起こし恥ずかしくなった。
昨日の夜、何も考えれなくなり、彼女にため込んでいた物を打つけた。彼女への配慮のないどうもうな獣のようだったと冷静になって思う。
彼女は初めてだった。初めてだったのにもかかわらず、焦っていた俺に対して、彼女は優しく「大丈夫」と何度も何度も言ってくれていた。きっと、焦っている俺を見て彼女がリードしていてくれたんだろう。
目が覚めて二つ気がついたことがある。
一つ目は、視界がハッキリとしていること。もう一つは、頭の回転がハッキリとしていることだ。
昨日まで……いや、俺が目覚めたこの二年間すっと俺の視界を曇らせていた霧まで晴れた気分だ。それに加え、頭までハッキリとしている。
「二年間も長い間、俺は不安に思っていたのか……」
俺が二年間もの間、自分の中にくすぶらせていた物を彼女が一夜で腫らしてくれた。
今の彼女はとても愛らしい。
「……しかし、、」
この大陸に来る前のことは何も覚えていないのに、
言葉や魔術にこういった人本来の機能は忘れないのか……人が基本として無意識に認識していることは、例え記憶を失っていても変わらず出来る。発見だな。
そんな事を考えていると、横に寝ているフィラがパッチリ目を開けた。彼女は、自分があられも無い姿で寝ていることに加えて、同じくあられも無い姿で横に寝転んでいる俺を見て顔を赤らめた。
顔を赤らめ、すぐに毛布をバッと被った。そして、チラッと顔を出した。
「お、お、おはようございます……ルイ君」
「はい、おはようございます」
フィラは恥ずかしそうに俺の顔をチラチラ見た。
時々、俺の下腹部を見ては毛布にうずくまっている。
この、何とも気恥ずかしい時間を数分ほど過ごした後、
フィラが恥ずかしそうにこっちを見た。
「それで、その……わ、私はどうですた?」
あ、噛んだ。
「……っ!や、やっぱり良いです!」
彼女は噛んだことに気がついたのか、また毛布を被ってしまった。とても可愛い。
彼女がどうだったか、それはもちろん、とても良かった。
口では言い表せないほどの物が俺を包んでくれた。あれは、この世にある快楽のどれよりも気持ちの良い物だった。
この世で一番気持ちよくなければ、あの時の思いは払拭出来なかっただろう。今の俺はとてもリラックスできている。もしかしたら、この大陸で目覚めてから一番リラックスできているかもしれない。
そうだとすれば彼女に言うことはこれだな。
「とても気持ちよかったです」
顔を赤らめたフィラは、
恥ずかしそうに口を開いた。
「そ、その……ルイ君もとても良かったですよ」
恥ずかしそうに言った彼女がとても愛おしくなり、
俺は手を握った。俺が握ると、彼女も握り返してくれた。
「それじゃあ、気分の方はどうですか?」
「はい、フィラのおかげでとても良くなりました。ありがとうございます」
お礼を言うと、
手を握られる力が強くなった。
「それでは、お礼に抱いてくれるとうれしいです」
「フィラ、まだ朝ですよ?こんな時間からだと、一日動けなくなりますよ?」
「そ、そういう意味ではありません。抱きしめて欲しいという意味です」
「ああ、なるほど」
俺はフィラを抱きしめた。強くだが優しく。
彼女は俺を受け入れてくれた。
そういえば、
昨日の夜、彼女に一度も大切なことを言っていなかった。
「今からでも、遅くないか……」
「え?どうかしましたか?」
「フィラ、僕はあなたに助けられました。
返しきれないほどの物をあなたからいただきました」
「はい?」
「なのに、あなたに大切なことを言い忘れました」
「大切なこと……?」
「はい」
大切なことだ。
本来、彼女に助けて貰う前に言うはずの大切なこと。
遅れてしまったが、今からでも伝えよう。
「僕……いえ、俺はフィラ。君のことが好きだ。
俺と、これからずっと一緒にいてください」
俺はそう言ってもう一度抱きしめた。
彼女は、驚いた後、笑顔で受け入れた。
「はい、ずっと一緒です」
彼女は涙を流しながら頷いた。
俺は彼女と出会ってまだ二月程度だが、
人が人を好きになるのに時間なんて関係ない。
俺は彼女が好きだ。この気持ちにウソは一つもない。彼女という存在が俺を動かしてくれる。彼女は俺にとっての光だ。
俺はその光を守るためなら何でも出来る。
彼女が俺に与えてくれた物を失わないよう。彼女を守る。必ずだ。必ず……。
ーフィラ視点ー
昨晩。
目が覚めると、目の前には、暗い表情をしたルイネスがいた。
暗い表情と言っても、表面上は取り繕っているため、普通の人が見ても元気になったと思うだろう。だが、私は違う。
私は彼のことが好きだ。彼が考えていることくらい見たらすぐに分かる。
今の彼は、あの森で出会ったときと同じ、暗く何かに対して殺意を抱いている顔だ。彼はこれからジェドを殺した相手を殺そうとしている。
そうだと彼の顔を見てすぐに分かった。
私は言いにくかったが、聞くことにした。返ってきた言葉は私が考えていることを決定付ける物だった。
「大丈夫」
私はこの一言を聞くだけで、
この先起こることが大体予想できた。それではいけない。その方法では誰も救われないどころか、彼を恨む人が必ず出てくる。
その方法を選択して、
その後、満足に生活している人を私は知らない。その道は蛇の道だ。絶対に止めないと。
「ルイ君……今怖いことを考えていますね」
私の口から出た言葉は、
私の今の考えを直球にしたものだった。私がそう言うと、彼は明らかに動揺した。
「復讐からは何も生まれない」
私はそう言った。
今思えば少し配慮が足りなかったかもしれない。彼は現在、ジェドの仇に対しての復讐心でなんとか冷静を保っているような感じがした。
冷静を保つ要因を私が取り除く、それで彼の頼りをなくしてしまうことにこの後すぐに気がついた。
「それは、ルイ君の役目じゃない」
「それでも、僕は……」
私はここで一つの方法を思いついた。
それは、彼の中に溜まっているものを私にぶつけることだ。だが、この方法は彼を本当の意味で助けることは出来ないかもしれない。
一時的に彼を騙すだけなのかもしれない。だけど、一時的にでも彼を助けることが出来るのなら、後のリスクを考えている暇はない。
私は、今の彼を救いたい。
「……そう、それじゃあ今私に出来ることは一つね」
私はそう言って、
私よりも二つも下の男の子を露骨に誘惑する。彼が、私に思いをぶつけることしか考えれなくなるように、彼の中で渦巻いている復讐心が全て無くなるように。私が、彼の開いた穴を塞げるように。
すると、
彼は理性を失ったように私を押し倒した。
私は覚悟はしていたがいきなり押し倒されたことに驚いて情けない声を出してしまった。
そこから私は理性を失った彼に身を任せた。
最初こそ痛みで涙を流したが、時間が経つにつれ彼も無意識に分かってきたのか、的確に攻めてくるようになった。
私は「大丈夫」としか言えなくなっていた。
いつの間にか夜が更け、私達は眠っていた……。
ーーー
翌朝、
私は頭を優しく撫でられる感覚と共に目を覚ました。彼の顔は、昨日何度も見たはずなのに、いつもよりもより洗練して見えた。
私は彼と目が合うと、昨日あったことを思い出し反射的に目を逸らしてしまった。
目を逸らし、毛布を深々と被り、彼の顔をチラチラ見る。これが今の私に出来る最大のコミュニケーションだった。
私はなんとか冷静に声を出そうとして挨拶をした。すると、彼も優しそうな顔で挨拶を返してくれた。
「はい、おはようございます」
私は、彼の顔が直視できなくなった。段々と頭が起き始め昨日見た物が鮮明頭の中に浮かんできた。
すると、自然に目線が昨日見た物に引かれていた。彼は年相応な物を持っていた。私は、それを見る度に恥ずかしくなり毛布に包まっていた。
数分後、
私はこの場の空気に耐えきれなくなり、
何か言おうとした。その瞬間、私の口から出たのは思いがけない言葉だった。
「それで、その……わ、私はどうですた?」
噛んだ……。
噛んだのに加えて、今聞くと頭が沸騰してしまうくらい恥ずかしいことを言っている。彼はさっきと顔色一つ変えずこう返してきた。
「とても気持ちよかったです」
彼はそう言った。
その瞬間、私は頭が沸騰しそうになり、口を滑らした。
「そ、その……ルイ君もとても良かったですよ」
そう言った瞬間、
私は頭がパンクしそうになった。そんな時、彼は私の手を握った。
彼の手は、彼も照れているのかとても熱かった。私はその温もりにとても安心した。
その後、
気分について聞いてみたところ、
「はい、フィラのおかげでとても良くなりました。ありがとうございます」
と言ってくれた。
私はうれしさのあまり握っている手の力を強くしてしまった。私は思いを抑えきれなくなった。
この思いを彼と分かち合いたい。だけど、彼に言うのも恥ずかしい。
遠回しに言おうか……いや、彼は鈍い。かなり鈍い。
恐らく私が彼を思っていることは一昨日、彼に伝えるまで気がつかなかっただろう。彼に遠回しで言うのは逆効果だ。ならば、そのままを言えば良いのだ。
「それでは、お礼に抱いてくれるとうれしいです」
私は勇気を出してそう言った。しかし、彼は勘違いをした。
彼は少し楽しそうな顔をしてからかうようにこう言った。
「フィラ、まだ朝ですよ?こんな時間からだと、一日動けなくなりますよ?」
彼はからかうようにそう言った。私はその瞬間、
恥ずかしくなり、また平常心を失った。
結果的に彼は私を優しく抱きしめてくれた。
私はそれを受け止めた。彼の鼓動も早くなっていた。彼も恥ずかしがっていると知って少しうれしかった。
その後、彼は言い忘れたと言って、
私が待ちわびた言葉を言ってくれた。
「僕……いや、俺はフィラ。君のことが好きだ。
俺と、これからずっと一緒にいてください」
彼はそう言って私をもう一度抱きしめてくれた。
私は待ちわびた言葉に驚き、そして、うれしさのあまり笑った。うれしさがこみ上げすぎて涙を流した。
この大陸に来て何も分からない場所。多くの危険な魔物。私には怖い物しか無いこの大陸で唯一私を助けてくれた私の大好きな人。
この人とずっと一緒にいたい。この人と人生を共に過ごしたい。この人の手の中で眠りたい。
私にそう思わせてくれた人と結ばれた。私はこの瞬間を死ぬまで忘れることはないだろう。私は彼の側にいる。この事実さえあればこれからだって生きていられる。
「はい、ずっと一緒です」
今の私はきっと涙に濡れて変な顔になっていることだろう。だけど、それでもいい。
彼ならばそんな私でも受け入れてくれる。
私は、アスト王国で巻き込まれた災害に最初こそ恨んだ。だけど、あの災害のおかげで彼、ルイネスと出会うことが出来た。
あの災害がなければ私は彼と出会えていなかったかもしれない。この世界に神様のような存在がいるのならば、きっと、神様が私と彼を巡り合わせるためにあの災害を起こしたのだろう。
そう考えれば、あの災害のこともきっと乗り越えられる。
そう考え、私は彼にも聞こえないくらい小さな声で、
「彼と巡り合わせてくれた、神様や他の色々なもの全てに感謝します」
と言った。
私は心の底からそう思った。
これからは彼と共に生きていくんだ。彼と一緒ならば、どんな過酷な状況に立たされても乗り越えられる気がする。
これからやることで一つ考えがある。それは、私と彼の生まれた地に戻ること。彼はこの大陸に来てからの記憶しか持っていない。彼はその事を表には出さないが気にしているらしい。私は彼の記憶を戻してあげたい。たとえ、彼が記憶を取り戻した後私のことを嫌いになってしまったとしても彼の記憶を取り戻してあげたい。
だから、一度帰るんだ。私と彼の生まれた国。
【アスト王国】に。




