第三十四話:「解決と粛清」
ーフィラ視点ー
フィラは俺の杖を強く握りしめ、
ジェドを睨み付けている。
「もう一度聞きます。
ジェドさん、ルイ君に何をしているの?」
フィラがそう言うと、
ジェドは笑みを浮かべた。
「浄化だよ、フィラのお嬢。
ルイネスという男の人生は今この時点で終わった。彼は今生まれ変わろうとしているんだ。
この浄化の炎で身を清め、生まれ変わった彼が私を殺し、我々の同志となることで、彼は真の意味で救われる」
ジェドは顔に笑みを浮かべながらそう言った。
彼の笑みは今日共に過ごしたジェドの笑みとはかけ離れたものだった。
「貴方が言っていることは分かりませんが、
今の段階でルイ君が傷ついていることには変わらない。それだけで、貴方が間違ったことをしているのは分かります。
私は……ルイ君に貴方を殺させない」
私がそう言うと、
ジェドは先程まで浮かべていた笑みをなくし、冷たい表情をした。
「お嬢、お前は俺たちを否定するのか?」
ジェドは、
手に持っている剣を強く地面に叩き付けた。
「はい、私は貴方のその考えを否定します」
私がそう言い放った瞬間、
ジェドはすごい勢いで襲いかかってきた。
手に持った剣を、
私に向かって大きく振り切った。
「がぁぁぁ!」
私はジェドの剣をギリギリ回避した。
「うっ、」
全身に浅い切り傷がついた。
どうやら少しだけ回避するのが遅れたらしい。
「おいおい、
今のですら回避出来ないのかよ」
「今のは偶々かすっただけです」
「はは、そうかよ」
ジェドは剣地面に突き刺し、
懐から杖を取り出した。
「やっぱ、ルイネスを落とすにはアイツが使っている魔術が一番だな」
このままでは負けてしまう。
どうすればいい、どうすれば……。こんな時ルイ君ならどうする?
私はそう考えたとき、ルイネスが大きな魔物とたたかうとき、
いかにして体格差を埋めていたのかを思い出した。そして、一つの解決法を思いついた。
「大地の精霊よ 地脈からの加護を受け 我が身を守る壁となれ」
私は詠唱を唱えた。その瞬間、身体から魔力が杖に渡り、杖に付いている大きな魔石の中で魔力が膨れ上がるのを感じた。
『土壁』
杖に込められた魔力が魔術に変換された。
魔術は私とルイネスを囲むように大きな土の壁を形成した。だが、この壁を普通に発動させたときのアースウォールとは異なるものだった。
「その程度の魔術なら……っ!?」
ジェドは剣で壁を壊そうとしたが、
私が作った壁はジェドの剣を弾いた。
「この壁なら……」
私は、今にも死んでしまいそうな顔をしたルイネスを見た。
「ルイ君、早く傷を癒やして」
傷を治してルイネスが一緒に戦ってくれれば勝てると思った。だが、ルイネスは反応もせず、ただ虚ろな表情を浮かべるだけだった。
「どうしたの?」
私がそう言うと、
ルイネスは何かを話そうとした。
「あ……あ、、あ」
ルイネスは声を出せないでいるようだった。
「声が出せないのね?……ちょっと待ってて」
私は、残り少ない魔力を使い治癒魔術を使った。
「聖なる光をこの身に宿し 力尽きし汝の身に 再び立ち上がる光を与えよ」
『ブライトヒール』
見たところ、骨が折れるのにはとどまらず内臓も傷ついているようだった、そのため中級の治癒魔術を使った。すると、ルイネスの傷は見る見るうちに消えた。
「ハァハァ……ハァ、、」
「フィラ……」
ルイネスは魔力切れで倒れそうな私を心配しているのか、
肩をもつように私を支えた。
「ルイ君、戦って」
「……無理だよ」
「どうして?」
私がそう聞くと、
ルイネスは言いにくそうに口を開いた。
「僕はジェドが言っていることに納得しているんだ。僕には何もない。あるのは人を傷つけるだけのどうしようもない力だけだ。
僕は誰からも必要とされない。されたとしてもそれは、僕の力を利用しようとする人だけだ」
ルイネスは泣きそうな顔でそう言った。
私はじっと黙って聞いた。
「ジェドは言った、今後僕の人生に救いはない。あるのは絶望だけ」
「……」
「だけど、一つ解決法がある。
それは自分を僕に殺させて自分と同じにしようとしている。同じになればとてつもない救いがあると」
ルイネスはそこで黙ってしまった。
その様子を見て私は、自分とルイネスを比べて見ていた。
自分とルイネスの人生を比べたら私は何も言うことが出来なかった。
自分は、アスト王国の貴族に生まれて何不自由のない生活を送ってきた。親の温もりというのも最近感じたばかりだ。最近と言っても二年前の話だが……。だが、ルイネスは違う。
ルイネスはここ二年の記憶しかない。起きたときルイネスは死にかけていたと言っていた。きっと、この大陸に来る前は壮絶な目にあっていたはずだ。父からはそういった話は聞かなかったが、きっと、目覚めたばかりのルイネスは不安だったのだろう。
そんな時にルイネスが恩人と言う人に出会ってルイネスは救われた。だが、今はどうだ?
右も左も分からない場所で一人、孤独に生きていかなければならない。森で出会ったときのルイネスは目的のためだけに生きているようだった。
目的のためでしか生きる活力を見出せないでいる。今のルイネスは孤独だ。その孤独から間違った選択を選ぼうとしている。
ルイネスにジェドのような間違った道に進んだ人になって欲しくない。ルイネスには正しい道に進んで欲しい。だけど、今の私にかけられる言葉が見つからない。どう言葉をかけたら良いのか分からない。
私が考え込んでいると、
ルイネスは、私の手を握った。
「いいんです、僕がジェドの手を取ってもフィラのことは絶対に守ります」
ルイネスはそう言って立ち上がった。
「フィラ、魔術を解いてください」
今まさにルイネスは間違った道に進もうとしている。私は止めなければならない。
私を助けてくれた人が間違った……
私はリエイト領に行く前、父が言っていたことを思い出した。
自分の信用する殿下のために自ら動く父の姿勢、どんなときでも殿下に恩を返そうとする父のことを……。
その瞬間、
私はルイネスの手をつかんでいた。
「フィラ、放してください」
「……」
「フィラ……」
「ねぇ……ルイネス」
私は、
彼を守ると言ったんだ。そんな私が迷ってちゃダメだ。
父を見習って私は、ルイネスに言うんだ。君を守ると。
「私ね……」
「……はい……」
「あなたが好きよルイネス」
私の口から発せられた言葉は、
自分の考えていない言葉だった。
ールイネス視点ー
俺はジェドの浄化という名の襲撃を受けて死にかけた。そんな時、フィラが俺の目の前に来て守ってくれた。
フィラは俺の傷を治した。完全に治ったとは言えないが、ほとんど治っていた。
俺は、フィラが助けてくれたのにもかかわらずもう一度ジェドの元に向かおうとした。だが、フィラに止められた。
「ねぇ……ルイネス」
フィラは俺の腕をつかんで放さなかった。
「あなたが好きよルイネス」
フィラの口から出た言葉は、
全く想像もしていなかったような言葉だった。
フィラは自分の発した言葉に驚いた様子だった。だが、先程まで心配するような目だったが、今は真っ直ぐな目をしていた。
「ルイネス、あなたは自分のことあまり好きではないかもしれない。でも、私はあなたのことが好き。
まだ出会って間もないけど、森で出会ったあの時からずっとあなたのことが好きなの」
フィラは顔を赤くしながらも、
真っ直ぐ俺を見てそう言った。
「今のあなたはとても傷ついている。私はあなたにかけられる言葉がみつからない。
あなたが今抱いているあなたの気持ちを理解できるとは到底言えない。あなたからしたら私はただのお荷物なのかもしれない。
私ではあなたのためにできることはほとんどないのかもしれない。だけど、唯一出来ることがある」
フィラは、
俺の腕を強く引っ張り抱き寄せた。
「あなたの絶望を私が希望に変える。
これから、あなたが誰からも必要とされていない、孤独な人生を送ることになるなんて誰にも言わせないくらい私があなたと共に生きる。
ジェドみたいな間違った道に進んだ人に利用されないように私があなたを守る」
俺は戸惑いを隠せないでいた。
俺とフィラは出会って間もない。それなのに、彼女は俺を好きだと言った。
彼女は素晴らしい人だ。この二ヶ月だけで痛いほど理解できた。彼女が言ってくれることは正直うれしい。だが、今の俺では彼女を殺しかねない。
ジェドは仲間が俺の所に現れると言っていた。そうなれば、彼女が危険にさらされるかもしれない。
まず第一に、今の俺に誰かを好きになる資格がない。
「フィラ……今の僕では、あなたを傷つけてしまうかもしれない」
「そんなものは関係ない。今のあなたがダメなら、次のあなたに変われば良い」
「ジェドは……自分のようなヤツが次々に俺を襲うとも言っていた。そうなれば君を傷つける事になる」
「関係ない。私が守るし、私が襲われたのならあなたが私を守る」
フィラは俺の顔を真剣な眼差しで見つめた。
「ルイネス、あなたは自分に何もないと思っているかもしれない。何もないなら今から見つければ良い。
ジェドのような暗い道に進まなくてもいいように私があなたとともに歩く」
俺は彼女の言葉を聞いて彼女のことを強いと思った。
俺も彼女のように強い人間になりたい。彼女のようになれれば俺にも生きる目的になるようなものが見つかるかもしれない。
俺が考え込んでいると、
フィラは一度大きく深呼吸をした。
「私をあなたの側に置いてください」
彼女はそう言って俺に口づけをした。
彼女の唇はとても柔らかかった。
「ルイネス。あなたが私には必要です」
彼女がそう言った瞬間、俺は涙を流していた。
俺のことを必要に思ってくれる人がここにいる。
【彼女の気持ちに応えたい】
俺は本気でそう思った。
「ふ、フィラ……」
「はい……」
「ありがとう。おかげで僕のやりたいことが見つかりました」
「そ、そう……よかった」
彼女はそう言って俺の手を放した。恥ずかしくなったのか顔を背けられてしまった。
俺は彼女の事をとても愛おしく思う。彼女の気持ちに今すぐに応えたいと思う。だけど、今の俺にはやるべき事がある。
「フィラ」
「はい」
「今の僕にはやらないといけないことがあります」
「はい」
「なので、フィラの気持ちに応えるのはもう少し待ってもらえますか?」
「ええ、ルイ君。
行ってらっしゃい」
「はい、行ってきます」
俺は彼女から杖を受け取った。
杖を受け取った瞬間、俺たちの周りを囲んでいた壁が綺麗さっぱり消えた。
「今は、気持ちが軽いな」
フィラのおかげで俺の心の整理がついた。
今の俺ならば、ジェドの歪んだ誘いに乗ることはないだろう。
「よお、ボウズ。
なんだかさっぱりしたような顔してんな」
「ああ、俺にはやるべき事が見つかったからな」
俺がそう言うと、
ジェドは大きく笑った。
「ハハハ!お前にやりたいことが見つかっただと?」
そう言うと、
剣を思いっきり地面に叩き付け、怒鳴ってきた。
「お前はどこまで哀れなんだ!
お前が誰かと関わればその相手を不幸になる。お前がいるだけで周りは被害を被ることになるんだぞ?
お前はそんなにも他人を傷つけないのか?」
確かにそうかもしれない。だけど、今の俺には俺を守ってくれる人がいる。
フィラのために生きていく俺に人を傷つけるようなことは起こらない。
「ジェド、それは俺に、もうきかない」
俺はそう言って、
ロックショットをジェドに向かって打った。ジェドは剣で魔術を弾いた。その瞬間、最速でウォーターボールを放った。
ジェドはウォーターボールをもろに受け、後ろによろめいた。すると、ジェドの懐からスクロールが落ちた。
「それで俺の思考を惑わせたんだろ?」
リベルに重力魔術を教えてもらっている際、
他の固有魔術について教えて貰った。その中に、とある種族に催眠魔術というものがあると聞いた。催眠魔術には大きく分けて二つ種類がある。
・対象を眠らせる魔術
・対象の思考を妨害する
この二種類だ。
リベルは大したこと魔術ではないと言っていたが、あれは恐ろしい魔術だ。
「ハハ、なんだ。
バレてたのかよ」
ジェドはそう言って、
スクロールを拾った。
「このスクロールはな、俺の一族特有の魔術で、相手の思考力を弱められるんだ」
やっぱりそうか。
「これを使った後のお前は見てて傑作だったよ。
俺の話しを聞いて本気で動揺しているお前は本当に哀れだった」
「お前の言っていたことは本当なのか?」
俺がそう聞くと、
ジェドは先程までの表情とは裏腹に真剣な表情をした。
「それは、お前次第だ」
ジェドはそう言った。
信憑性は分からないが、彼の真剣な顔は、宿から人を助けているあの時の彼と同じ顔だった。
「なあ、聞かせてくれよ。
なんで放火した本人が被害に遭っている人を助けるんだよ:
俺がそう聞くと、
笑いながらも悲しそうな表情をした。
「ハハハ……俺はただ関係ねーヤツを傷つけたくないだけだ。
いくら指示だからと言っても、関係ねーヤツは一生関係ねーことだからな」
やっぱり。
俺はやっぱりジェドのことを嫌いになれない。彼の行動には一本芯が通っているように思える。やっていることはダメなことだが、それでも彼が完全な悪人だとは思えない。
だとしたら……。
「なあジェド。
俺はやっぱりお前と戦いたくない」
「それは無理だ」
「なんで!」
俺が声を荒げて言うと、
ジェドは懐から聖典を取り出した。
「俺の指示はお前の引き入れ。もしくは消し去ることだ」
「それは、お前の信念を曲げてまでやらないといけないことなのか?」
ジェドは、
俺の方を真っ直ぐ見て口を開いた。
「俺は恩には恩で返す。
だから、俺は恩を返すためにお前を殺す」
「そうか……」
俺はジェドをかっこいいと思う。ジェドにやられたことは正直かなりキツかった。だけど、ジェドはジェドなりの信念を持ってやったことならば俺はそれを受け入れるだけだ。
「さぁ、決着を付けようぜ!
超級魔術師……いや、龍王ルイネス・アルストレア」
「ああ……ああ決着を付けよう。エランドのジェド」
俺は杖を、
ジェドは剣を俺に向けた。
「あれ?魔術じゃなくてもいいの?」
「ああ、俺にはこっちの方が向いてる」
俺とジェドはお互い笑い合った。
今日一日しか一緒にいなかったとは思えないくらい俺達は互いのことを気に入っている。
これで最後だ。これで。
「ふぅ……」
俺たちはお互い深呼吸した。
「行くぞ、ルイネス!」
「ああ、来いジェド!」
ジェドは俺の方に向かって走り出した。本気で向かって来るジェドに対して、俺が出来ることは俺も本気で返すことだ。
『落ちろ!』
俺は重力魔術を使いジェドを捕らえた。ジェドは重力魔術で動けなくなった。だが、ジェドは無理矢理身体を前に前に押し出した。
彼の身体は、掛かる重力の負荷に耐えきれずメキメキ音を立てていた。やがて、口と目から血を流し始めた。
「ルイネス!俺はこの程度で止まらねーぞ!」
ジェドはジリジリ俺の方に近づいてくる。
「お前はこの程度じゃないだろ!使ってこいよ!お前の使える最大を!」
「分かった。死ぬなよ?」
俺は杖を空に杖を向けた。
「偉大なる水の精霊にして 天空を司りし風雷の王子よ! 我が願いを聞き届け 大地に旋風と天水をもたらせ! 天からの恵みを狂わし 堂々たる存在に力を見せつけろ」
俺は詠唱を始めた。
暗かった空がさらに暗くなり、雲の中に光が出始めた。
「神なる雷槍を用いて 大地に 神の怒りを打ち落とせ!」
雲の中で光っていた光が一つに集まった。
『雷嵐豪雨』
光が雷となり、
バキィィンと音を立てながらジェドに落ちた。
俺は魔術の放つ強い光に目が眩み、
視界が真っ白に染まった。
視界が良好になり、
俺はジェドの方を見た。
ジェドは、剣を地面に突き刺し、
剣を支えにしてかろうじて立っていた。
「ハハ……すげー魔術だ……」
ジェドはそう言って地面に倒れた。
「いやー負けた負けた。
全く、とんでもねーな龍王様はよ」
ジェドは地面に寝転びながら笑ってそう言った。
懐から聖典を取り出しジッと眺めた。
「これの示すままに生きてきた。
今までこいつに助けられてきた。今までは断片的な指示だった。だが、今回は明確に指示が書かれていた」
ジェドは俺に聞こえるように大きくそう言った。
俺はジェドに近寄り横に座った。
「今回の指示は俺のためではなく、この本に指示を出しているやつがやって欲しいことだと思った。だから、指示に従ってここにきた。そしてお前に出会った。
ギルドでお前と話すまでお前がルイネスだと知らなかった。指示通り宿を燃やし、お前の泊まっている宿だけを残した。
お前と出会って初めて指示以外のことが書かれた。
お前の過去のこと。そして、未来のことが書かれていた」
俺の過去と、未来……?
「お前の記憶を失う前のことも書かれていた。
そのおかげでお前がどういうヤツなのか分かった。お前が良いやつってのもな。だからお前とは仲良くなれると思った。だが、その矢先に指示が来た。
【ルイネスの引き入れ、もしくは消すこと】
俺はお前を殺したくはなかった。だから、お前を煽ることでなんとか勧誘した。お前は乗らなかったがな。
まあ、結果的にお前を殺さずにすんで良かった」
ジェドはそう言って笑った。
「あとはお前が俺を殺せば全て解決する」
「……」
「俺はもう生きていない方が良い。
この街のヤツにも迷惑をかけたからな。どうせ死ぬならお前の手で殺されたい」
「……」
「早くやってくれ」
「俺は、お前を殺さない。
お前はこれから自分が殺してしまった人のことを考えて償って生きていくんだ」
俺がそう言うと、
ジェドは驚いたように俺の顔を見た。
「俺はお前を追い込むようなことを言って、
実際殺そうとしたんだぞ?お前はそんな俺を殺さないって言うのか?」
ジェドは傷ついて重い身体を、
無理矢理起こして俺にそう言った。
「ああ、俺はお前を殺さない。
お前が俺に言ったことは事実だ。俺もそう思った。だが、俺はお前のおかげでやるべき事が見つかった。
今では感謝してるよ」
「感謝って……」
ジェドはそう言って、
戸惑いを隠せないでいた。
「ジェド、これから俺が困っていたら、
お前が俺を助けてくれよ」
「え……」
「お前が助けてくれるなら俺も安心できる。
助けてくれるか?勇敢なおっさんのジェド?」
俺が立ち上がって手を差し出しながらそう言うと、
ジェドは無理矢理立ち上がり、俺の手を取った。
「ああ、任せろルイネス!」
ジェドは笑った。
昼間の気の良い性格をしたジェドと同じ。
「もう、人を襲ったりするなよ?」
「ああ、もうしない。約束する」
こうして俺たちの戦いは終わった。
正直今回は精神的にキツかったが、なんとかなって良かった。
まだ聖典や、その他のことが気になるが、
それは追々ジェドに聞いていけば良いだろう。
「それじゃあ、俺はフィラをギルドで休める場所に連れて行くから、
ジェドは俺の泊まっている部屋に先に行っててくれ」
「ああ、分かった」
俺はジェドと別れた。
これから俺はフィラに伝える。俺が思っていることを。
「ふぅ……緊張する」
俺はフィラを抱きかかえながらギルドの中に入った。
ージェド視点ー
俺は、ルイネスの泊まっている宿に向かうために、
リングルの街中を歩いていた。今の時間は人が少ないが、ルイネスの魔術せいで家から出てきている人が多かった。
戦いを終えて、ルイネスは俺を許した。
この事実が、指示を無視した俺の不安感をなくしてくれる。
「ルイネス。
アイツに教えてやんねーと。アイツの過去を」
俺はルイネスに教えてやりたいと思った。
過去のことをそして、あいつが知りたがっているあのことを。
「あのウソのことも謝らねーとな」
俺は宿に向かってさらに歩いた。すると、前方から汚いコートを着てフードを深々と被ったあまり背の高くない人が歩いてきた。
特に変な行動をしていないが、ヤツの放つ雰囲気が奇妙だった。
俺は前から歩いてくるやつとすれ違った。
すれ違う際、ヤツが放っていた奇妙な雰囲気は完全に消えていた。
すれ違った後、
後ろから声をかけられた。
「お前のせいで我らが神はお怒りだ」
この時、声質的に男だと分かった。
俺は声が聞こえた瞬間振り返った。すると、腹部に強い痛みが走った。
「グハッ!」
俺は自分の腹を見ると、
黒い短剣が刺さっていた。短剣のヒルト部分には何かの花の模様が入っていた。
「お前は我らが神を裏切った。お前が生きる意味は無い」
コートの男は、
腰裏から次々短剣を抜き出し俺に刺した。
俺は意識が飛びそうになり、
地面に倒れた。
「我らが神の神器は返して貰うよ」
コートの男はそう言って俺の懐から血で汚れた聖典を奪った。
「神器を汚すとは……」
「ゼェゼェ……お前がやったんだろが」
俺は最後の力を振り絞って剣を振った。だが、コートの男は片手で剣を受け止めた。
「お前の汚い物で、神に選ばれた私の身体を汚すことは断じて許さない」
コートの男は、
最後に、腰に携えていた剣を抜き去り、俺に突き刺した。
「愚か者に、神の洗礼があらんことを……」
コートの男はそう言って俺の腹から剣を抜き。この場から立ち去った。
俺は薄れゆく意識の中で街の人が俺を見て騒いでいるのを見た。
「く、クッソ……ルイネスに謝ろうと思ってたのにな……」
そんな事を思い、ルイネスとフィラのお嬢の顔を思い浮かべながら、
俺は死んだ。




