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転生記 ~異世界では長寿を願って~  作者: 水無月蒼空
第3章:【少年期】冒険者編
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第三十三話:「ジェドの浄化」

 俺はフィラが運ばれている冒険者ギルドまで向かった。

 ギルドには多くの人が運ばれていた。だが、運ばれた人のほとんどが後遺症無く治癒されていた。


 「おお、ボウズ!」


 そう言いながら俺の肩を叩いてきたのは、どこかで見たことのある顔の獅子のような見た目で灰色の毛並みをした魔族の男だった。

 必死に思い出そうとしたが思い出せなかった。

 

 「俺だよ。ジェドだ!東にある宿でお前に助けられた」

 「……ああ!」


 そうだ、思い出した。

 このジェドという男は俺が治癒魔術をかけたケガ人の内の一人だ。よく覚えている。


 依頼で東に向かった時、宿はまだ燃えていた。

 大きな炎を纏って燃えている宿からこの男が出てきた。全身に軽いやけどを負いながら宿の中にいる人を運び出していた。

 俺はこの男に協力して宿にいる人を全員外に出した。その後、宿の炎を消してケガ人に魔術をかけた。


 この男は自分が傷を負いながらも人助けを優先していた。この男はきっと善人なのだろう。


 「いやぁ、あの時は助かったよ。

  お前がいなかったら助けられんヤツもいただろうし、俺もヤバかった」

 「ギルドからの依頼だったので別に気にしないでください」


 俺がそう言うと、

 ジェドは大きく笑い、俺の頭を軽く叩いた。


 「お前、硬そうだと思っていたが想像以上だな!

  まあ、そういう所も気に入った!俺も着いていって良いか?」

 「はぁ……まあ、良いですが」

 「ああ、それと敬語はなしだ」


 俺はジェドを連れてフィラの元に向かった。

 フィラはギルドの二階にある部屋のベッドの上に寝かされていた。


 「フィラ……」


 眠っているフィラは顔色も良く大丈夫そうだった。

 俺が一安心しているとジェドがにやついた顔で俺を見てきた。


 「なんだ、この美人ちゃんはボウズのガールフレンドか?」

 「違う」

 「ウソつけ、顔にしっかり書いてあるぞ?」

 「え?なんて書いてあるんだ?」

 「……お前なぁ」


 ジェドは俺の返答にあきれたのか、息を漏らしていた。


 俺とジェドはこの部屋の中で一時間程度話してフィラが起きるのを待った。

 やがてフィラは目覚めた。


 「ん、んぁぁぁ」


 フィラは眠たそうに起き上がり腕を伸ばした。

 背伸びをした後周りを見渡した。


 「ん……る、ルイ君!?」

 「おはようございます。フィラ」


 フィラは今の現状に理解が追いついていないのか、

 辺りを見渡した後、自分の両腕を見た。


 「あ……れ?なんで腕が?」

 「もう大丈夫ですよ。今は完全に治っています」


 俺がそう言うと、

 フィラは両腕をグルグル回していた。


 「ホントだ。痛くない」

 

 フィラはベッドから降りた。俺の元に駆け寄り、俺の手を握った。


 「良かった……もう会えないと思っていたから」

 「ええ、僕ももう会う気は無かったのですが……いえ、ごめんなさい。

  僕がギルドに置いていかなければフィラが事件に巻き込まれずにすんだかもしれない」


 俺がそう言うと、

 フィラはまた、俺を優しく抱いた。


 「大丈夫、ルイ君のせいじゃないよ」

 「それでも……」

 「君の判断は正しいし、私も理解したからギルドに残った。その時点でこれは私の責任だよ」

 「……」

 「それに、私は君よりも三つも年上なんだよ?こんな時はお姉ちゃんを頼りなさい」


 俺は彼女の言葉に安心感を覚えた。

 俺はリベルのおかげで一人で生きていく術を学んだ。もう一人でも生きていけるとも思った。

 だけど、まだ無理だったようだ。


 「フィラ、僕を付けてください」

 「任せて、ルイ君は私が守るよ」


 俺とフィラは手を握ったままだった。

 この部屋の中で一人だけ、ニヤニヤしているむさい男が一人いた。


 「フィラちゃん、めっちゃええ子やね。

  ルイネス。お前さんにはもったいないくらいの子だ」


 むさい男もといジェドは手をパチパチしながらそう言った。

 フィラは恥ずかしいのか手をパッと離してしまった。


 「だから、違うって」

 「ほらほら照れてちゃ男が廃るぜ」

 「そんな男廃って結構」

 「相変わらず、頑固過ぎるぞお前は」


 俺とジェドが話していると、

 フィラが俺の方を見て耳打ちをしてきた。


 「ルイ君、この人誰?」

 「ああ、この人は……偶然偶々あった勇敢なおっさんだよ」


 俺がそう言うと、

 ジェドが俺とフィラに近づいてきた。


 「初めましてフィラのお嬢。

  俺の名はジェド。勇敢なおっさんだ。よろしく頼むよ」


 ジェードは俺の頭に手を置きながらそう言った。

 このおっさんの子供扱いは正直嫌だが、善人過ぎるこのおっさんのことをおれは気に入りだしている。


 「自己紹介はもう良いでしょ。

  僕はこれから犯人捜しをしますが、みんなはどうしますか?」

 「私はもう少し休んでからルイ君を手伝いに行くわ。

  まだ疲れているみたい」

 「俺はお前さんを手伝うよ」

 「分かりました。フィラはしっかり休んでください。ジェドは手伝いを頼む」


 俺がそう言うと、

 二人とも笑顔で返事をした。


 俺とジェドはフィラと別れて街に出た。

 街中は放火箇所以外は賑やかなものだった。宿に泊まっていた人はひとまず俺が泊まっていた宿、両ギルドとギルドが保有する空き家に分けて泊まることになった。


 「ジェドはすごいよな」

 「あ?何がだ?」

 「自分が傷ついているのに他の人のために身体を張れて。俺とは違って善人だ」


 俺がそう言うと、 

 ジェドは「ハッ!」と笑った。


 「俺は善人でも何でも無い。俺も助けられなかったことはいくらでもある」

 「それでも自分から率先して助けにいけるのはすごいと思うよ」

 「いいや、俺はお前が思っているほど綺麗じゃない。今も人や他のものの流れに身を委ねるだけの傀儡みたいなものだ」


 ジェドはそう言いながら歩いている地面を見た。


 「それに、お前の方がすごいだろう。

  人族なのに竜に勝つヤツなんてそういないぞ?」


 ジェドは俺が紫竜と戦ったことを知っているのか。

 俺に力があるのはリベルのおかげだ。俺一人の力じゃない。それに比べて、ジェドはほとんど一人でやっている。

 十分俺よりもすごいだろう。


 「流れに身を委ねていようが、人を助けることが出来るのはとてもすごいことだ」

 「はは、そうか?」

 「ああ、俺は何か理由がないと、とてもじゃないが人助けをしようなんて思わない。俺はジェドを心から尊敬するよ」


 俺がそう言うと、

 ジェドはなんとも言えない表情をしていた。


 「お前さんに言われると少しうれしいな」


 ジェドは何か小さい声でブツブツ言った後、

 さっきの明るい表情に戻った。


 「はっ!俺の恩人のくせに俺に尊敬なんて生意気だ!」

 「なんだそれ」


 ジェドが俺の頭に手を置いてきた。

 俺はジェドの顔を見た。


 「ジェドと友達になれてうれしいよ」


 俺がそう言うと、

 ジェドはもう一度なんとも言えない表情をした。


 「ジェド?」


 俺がジェドの顔を見ながらそう言うと、 

 ジェドは無理矢理作ったのかぎこちない笑顔で俺の方を見た。


 「俺もだよ」

 「本当に思っているか?」

 「ああ、本当だ……本当にそう思っている」


 ジェドは静かにそう言った。

 俺は違和感を感じながらもそのままジェドと聞き込みをして回った。


 結果的に街の誰も放火した人物について知っている人は一人もいなかった。

 これだけ聞き込みをして知っている人が一人もいないとなるとこれは難しいな……。


 考え込んでいると、

 ジェドが肩を叩いてきた。


 「お前さんよ、もう日が暮れる。

  続きは明日にして今日は休もう」

 「え?」


 俺がジェドの方を見ると、

 先程まで昇っていた日がいつの間にか暮れていた。


 「そうだな。今日は終わりにしよう」


 俺とジェドはギルドまで戻ってきた。

 

 「じゃあ、俺はここに泊まるからまたな」

 「ああ、また明日」


 俺はジェドと別れた。

 宿に戻る間、ジェドの変な様子を思い返していた。


 「何か言いにくそうな表情だったよな?」


 俺に何か言いにくいことでもあるんだろうか?まあ、人なんだから、言いにくいことの一つや二つくらいあるだろう。

 何を隠していてもジェドが良いやつだというのに変わりは無い。


 今日はなんか、人の温かみというのを感じたな……この街に神の使いはいないようだし、リベルの言うように神の使いを捜すのはやめた方が良いのかな……。

 ひとまず考えても仕方が無いな、今日は帰って休もう。


 俺が宿の前まで来ると、

 魔族の子供が遊んでいた。


 「ここもやろう」

 「そうはさせない!」

 「やぁー!」

 「たぁー!」

 

 子供達は木の棒を元気よく振り回していた。

 俺と子供達とは五歳くらいは離れているだろうか?俺にもあんな時期が合ったのかな?


 「ん?」


 俺が子供達を眺めていると、

 子供が俺の元に近づいてきた。


 「仮面のお兄ちゃん?お姉ちゃん?」


 子供は首をかしげていた。

 今の俺はリベルに貰った白い仮面を付けている。この状態だと分からないのか……ん?そういえば、なんであの時……。

 俺が考え込んでいると、子供が俺の方をじっと見ていた。俺は仮面を取って顔を見せた。


 「お兄ちゃんだよ」


 俺は年上としか話したことがなかったので、

 少し浮かれていた。


 「お兄ちゃん、周りの人とは違うね」

 「まあ、お兄ちゃんは人……」


 そういえば、あの人は何で俺が……いや、まさかね。


 「そういえば、君たちは何の遊びをしていたの?」

 「今ね、昨日見た毛深い男の人の真似をしてたの」


 まさか、この子供達、犯人の顔を見ているんじゃ……。


 「君たち、昨日見たって言う毛深い男の事を教えてくれないかい?」

 「うんいいよ!」

 「僕も!」


 もしかしたら、

 俺の考えていることが当たっているとしたら……。


 俺は子供達に毛深い男の特徴を事細かく聞いた。

 子供達は毛深い男はフードを被っていたと言っていた。だが、火が付いた瞬間一瞬だけその男のフードが外れたらしい。

 その時見えたのは、立派な耳を持った毛深い男だったと。


 「他に何か知らないかい?」


 子供達は「うーん、、、、」と考えながら数秒が経った頃、

 毛深い男の真似をしていた子供が思い出したと言った。


 「男の人がね、あと二カ所って言ってたよ」


 あと二カ所か……。

 俺の考えが正しいのなら。


 「はぁ……嫌だな」

 「なにが?」

 「ん?」

 「いいや、何でも無い。君たちありがとう」


 俺は子供達と別れて宿に入った。

 昨日放火が起こったのは夜更け前だ。それまで休んでおこう。

 俺は一休みすることにした。


ーーー

 リングルの街にある二つのギルドの内、荒くれ者の多いギルド、

 冒険者ギルドの前に一人、フードを深々と被った大柄の男が立っていた。男は、手に本を持ちながらその中の文を読んでいる。


 「これでいいんだ。これで」


 男はそう呟きながら、

 身体に見合わないサイズの杖をギルドの方に向けた。


 「・~・~・~」


 男は詠唱をはじめた。

 長い詠唱を唱え最後に魔術の名前を言った。


 「炎矢(ファイアーアロー)

 

 男の杖から炎で形成された鋭い矢が一本すごい勢いでギルドの方に飛んでいった。


 「あと、一カ所」


 男がそう言った瞬間、

 横の道の方から声が暗く静かな夜の街に響いた。


 「水壁(ウォーターウォール)


 その声が聞こえた瞬間、

 ギルドの目の前に大きな水の壁が形成された。


 「なっ!?」


 大柄の男が放った魔術は、

 突如現れた水の壁に激突し、消滅した。


 「誰だ!」


 男がそう言うと、

 ギルドの横の道から一人、誰かが歩いてきた。

 歩いてきたのは、灰色のローブを身に纏い、大きな魔石がはめられている杖を持ち、白い仮面を身に着けている背の低い人が一人ゆっくりと歩いてきていた。


 「貴方が、放火犯ですか?」


 歩いてきた人はそう言いながら、

 杖を大柄の男に向けた。


・・・


 俺は今犯人の目の前にいる。

 犯人は、大柄で身体に合わない杖を持っている。そして、俺の目が向いたのはある物だった。


 「白い本……聖典か」


 俺はようやく目的の相手を見つけた。

 本当ならば喜ばしいことだが、なぜだか喜ばしいとは思えなかった。それは、俺には犯人が誰なのかある程度予想が付いているからだ。


 「その本をこちらに渡せ」

 

 俺がそう言うと、

 大柄の男は本を懐にしまった。


 「断る。得体も知れないお前さんにはもったいない代物だ」


 おま……はぁ、本当に嫌で、不快だ。

 せっかくリベルの言っているように気にせずに生きていこうと思い始めていたのに。よりにもよって何で、なんで。


 「そうか、それならば一つだけ質問させてくれ」

 「いいだろう」

 「お前は白いヤツと会ったことはあるか?」


 俺は確信を得るための質問をした。だが、大柄の男の反応が妙だった。

 男は、懐からもう一度本を取り出し中を見た。それでも、変わらず妙反応をしてブツブツ何か言い始めた。

 そして男はこう言った。


 「知らない」


 この一言で俺は困惑した。

 目の前にいる男は神の使いではなくただの放火犯?だが、聖典を保有している。


 そうだ、

 あの本を手に入れれば全て分かる。あの本を一刻も早く手に入れなければ。


 本を手に入れないといけない。だが、俺はこの男と戦いたくない。

 どうにかして戦わないで収める方法はないのか……。


 考え込んでいると、

 男はしびれを切らしたのか、杖を懐にしまい、

 布で隠していた大きな剣を背中から抜き取った。


 「おいおい、いつまで悩んでいるつもりだ?早く掛かって来いよ!」


 男は剣を俺に向けてそう言った。

 

 「お前に一つ良いことを教えてやる。

  お前がこのまま戦わないのであれば、ギルドに火を付けて中にいるとある女を俺の手で殺しに行く」


 俺はヤツが言ったことを聞いた瞬間、

 ヤツに向かって魔術を使っていた。


 「水弾(ウォーターボール)


 俺の使った魔術は男の方にすごい勢いで飛んでいった。

 男は、俺の魔術を剣で受け止めた。だが、受け止めた衝撃で後方の納屋へ吹き飛んだ。


 「アハハハ!すごい威力だ。

  だが、それだけだ。威力が高くても初級魔術ではやはり殺傷能力は低い。お前ならばもっと高位の魔術だって使えるだろう?超級魔術師ルイネス・アルストレア君?」


 男は、起き上がり、

 服をはたいて、砂を落とした。


 「俺の尊敬している小さい魔術師はもっと冷静に使う魔術を選択するぞ?今のお前とは違って」


 男はそう言って自身のフードを取った。

 フードを取って露わになった顔は俺の予想通りの顔だった。


 「……ジェド……」

 「ああそうだ。

  みんな大好き勇敢なおっさんことエランドのジェドだ」


 ジェドは昼間の優しげな表情をした瞬間、

 今日一度も見せていないような暗く冷たい表情をした。


 「なんで、なんでお前なんだよ」

 

 俺がそう言うと、

 ジェドは気味の悪い笑顔をした。


 「何のことだ?」

 「俺はお前を信用していた。尊敬もしていた。なのに……」


 俺がそう言うと、

 ジェドは大きく笑った。


 「フフハハハ!」

 「何がおかしい」

 「いや、お前がとても哀れでむなしくてな」


 ジェドが笑いながら俺にそう言った。その瞬間、ジェドの後ろが少し光ったように見えた。


 「お前が俺に対して抱いている物はただの幻想だ」

 「なんだと?」

 「お前はここ数年の記憶しか無いらしいな?そのせいでお前は人に対して執着心を持っている。

  記憶にいる人が少ないからお前は知っている人、出合った人物に対して自分の都合の良い幻想や妄想をその相手に向けているだけだ。無警戒で打つけてしまうから俺のような偽物に対してもそんな感情を抱くんだ。

  それにお前は適性者。世界中の生物全てから嫌われている存在だ。

  お前のことを心から思ってくれるヤツ、お前の思いを受け入れてくれるヤツなんてこの世に存在しない。

  お前は生涯一人、孤独のまま一生を終えることになる」

 「……」


 俺はジェドが行っていることを否定できなかった。

 否定するどころか、心の中でそうだと肯定してしまった。


 「もしかしたら、お前は心の中で生き別れの家族が僕にはついているとでも思っているのか?」


 そうだ、

 俺には……。

 

 「そうだとしたら傑作だ。

  今のお前が家族にとって待ち望んでいるルイネスだとでも思っているのか?お前は全く別の得体の知れない何かだ。

  得体の知れないお前を家族が歓迎してくれるとでも思っているのか?お前は誰からも必要されていない惨めで哀れなルイネス。

  龍王と呼ばれて周りからは持ち上げられるだろう。だが、そこに信用信頼という物は存在しない。

  お前はただ、その力、力により得ることの出来る物欲しさに寄ってくる俺みたいなクズばかりを相手にして腐っていくだけの哀れな人生を送ることになる」

 「お、俺は……」

 「おっと、否定はするなよ?

  お前には俺を否定する権利はない。

  お前は頭の中で色々なことを考えている。それを実行できる力も備えている。だが、実行する勇気も無いただの弱虫の負け犬だ。

  お前が俺の言葉に逆上し、俺を殺してもこれからに人生で一生後悔することになる。人を殺したという罪悪感は一生身体に染みつき拭いきれない物となる。

  お前が再び記憶をなくしてしまったとしても人を殺した記憶は身体に染みつき忘れていても無意識に思い起こしてしまう。

  そんな人生に希望などあるか?

  まあ、俺を殺さなくてもこれから俺の同士がお前を襲い絶望という絶望の全てをお前に与えてくる」


 ジェドの言っていることは全て事実だ。

 ジェドが全て正しく、俺が全て間違っている。


 「そんな中にも一つ救いがある」

 「……っ!」

 「それは自身の浄化として俺を殺し、こちら側に来ることだ。

  俺を殺しこちら側に来て聖典の示すままに人生を送れば必ず救われる。俺たちを拒まず、受け入れさえすればお前はとてつもない幸福を得ることが出来る。

  受け入れさえすればお前は俺を殺した罪悪感、誰からも求められないという虚無感、お前に襲いかかる悪感情の全てから解放される」  


 ジェドはそう言いながら、

 俺に手を差し出してきた。


 「俺の手を取れルイネス。お前はこちら側に来るべきた」


 俺は無意識のうちのその手を取ろうとしていた。そのしゅんかん、俺はジェドに強く殴られていた。


 「グハッ!」


 俺は殴られた瞬間、

 杖をジェドの方に向けた。


 「お前はこちら側に来るべき存在だ。だが、今のお前は迷いがある。

  それでは意味が無いのだ。迷いのあるお前では意味が無い。だから、お前がこちら側にしか頼れないようになるまで追い詰める。耐えたければ耐えるがいい。

  だが、耐えればお前には救いが訪れない」


 俺はジェドの言葉を聞いた瞬間、

 全身から力が抜けた。


 それから数分の間、

 俺はジェドに殴られ続けた。


 ジェドの拳は重く、

 身体の至る所から血を流していた。骨は折れ、内臓は破れ、意識が何度も飛びそうになっていた。


 これでいい。これでいいんだ。

 俺が最近抱いていた悩み、その解決法をジェドが示してくれたのだ。

 孤独でしかない俺の人生の中の唯一の救いを提示してくれる者が現れたのだ。俺はその救いにただ従えば良いのだ。

 今俺の全身に襲いかかっている痛みは、俺が救われるために必要な者だ。ここで痛がっててはいけない。全てを受け入れるんだ。痛みも、痛みから発生する悪感情も、その全てを。


 俺はこの時、完全に諦めようとしていた。

 人生を自分で考えるのは疲れた。疲れたのならば、導いてくれる者に全てを委ねた方が幸福になれる。


 「お前は今の人生に負けた。

  次の人生に生まれ変わる時だ」


 俺はジェドが使った魔術で全身が炎で覆われた。

 全身を焼けるような痛みが俺を襲った。


 「これは浄化の炎だ。この炎を浴び終わった瞬間お前は生まれ変わることが出来る」


 ジェドがそう言った瞬間、

 俺の全身を纏っていた炎が冷たさと共に消えた。


 「ジェドさん、貴方……ルイ君に何をしているの?」


 俺の目の前には、

 俺の杖をジェドに向かって構え、今にも襲いかかりそうな見幕をしているフィラの姿があった。


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