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転生記 ~異世界では長寿を願って~  作者: 水無月蒼空
第3章:【少年期】冒険者編
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第三十二話:「リングルの一騒動」

 森を出てから二ヶ月、

 俺とフィラは【リングル】に到着した。


 リングルまでの道中目立ったことはなかった。

 唯一合ったと事と言えば魔物に襲われた事くらいだ。


 襲われたと言っても、

 眠っていた魔物を俺たちが起こしてしまったのが原因だが。


 魔物に襲われて分かったことだが、

 フィラは魔術に長けている。


 一般の人の魔術がどれほどの物かは知らないが、

 紫竜討伐隊のB級冒険者並には魔術が使えていた。

 アルレシア大陸の魔物は他の大陸の魔物に比べ強さが段違いだ。他大陸の冒険者がアルレシア大陸の魔物に殺されるというのはよく聞く話だ。

 そんな中でまともに戦えているフィラは中々に魔術のセンスがある。ただ、彼女の保有する魔力量が少ないのか二度三度魔術を使ったら息切れを起こしていた。

 彼女のセンスでこの魔力量は非常にもったいない。


 俺たちはリングルに到着して宿を取った。

 取ったのはもちろん一部屋。


 「ルイ君と私の一部屋ですか?」


 フィラは森を出て以降、

 俺のことをルイ君と呼び始めた。


 この呼び方を聞くと何かむずかゆい物を感じる。

 これは何なのだろうか?


 「いえ、フィラはギルドに保護して貰います」


 俺がそう言うと、

 フィラは動揺した。


 「えっ!?な、何故です?」

 「僕といるよりも、ギルドに保護して貰った方が安全です」

 「それは、ルイ君のここに来た目的のためですか?」


 俺は予想だにしなかった言葉に絶句した。

 フィラに俺の目的を言っていない。彼女はどこまで知っている?


 「フィラは何を言っているんですか?」

 「二月も一緒にいたんだから知っているわよ。

  貴方がここで何かをしようとしているって」


 この口ぶりからすると、

 詳細は知らないのだろう。


 それなら、これ以上踏み込ませないために、

 早くギルドに保護して貰おう。


 俺は半ば無理矢理にフィラを冒険者ギルドに連れて行った。

 ここのギルドはフロートの街にあるギルドと同じで賑やかだった。

 俺は受付嬢の目の前まで歩いて行った。


 「彼女の保護を頼みたい」

 「かしこまりました。それでは、冒険者カードの提示をお願いします」


 俺は自分のカードをカウンターの上に置いた。

 俺のカードには、<ルイネス・アルストレア/B級冒険者>と書かれている。俺はこのカードをフロートで発行した際、魔術ギルドカードを経由して発行した。その際に、保証人の欄に書かれている名前が空欄になっている。

 魔術ギルドは冒険者ギルドと違ってギルド員になるためには保証人の存在が必須となっている。それなのにもかかわらず俺のカードは空欄になっている。どうなっているんだ?

 受付嬢は俺のカードを手に取った。


 「これはこれは、龍王様でしたか。

  それではすぐに保護させていただきます」


 受付嬢は引き出しから書類を取り出した。


 「それでは保護対象のお名前をご記入ください」


 俺は受付嬢に言われるがまま彼女の名前を記入した。

 

 「フィラ・ニードル様……あ、そういえば」


 受付嬢はカウンターから出て掲示板に掲示されていた依頼書を剥ぎ取ってきた。

 その依頼書には【消失民捜索求む!】と書かれていた。


 「この依頼書のこの欄をご覧ください」


 受付嬢の指さす場所を見ると、

 最重要保護者欄と書かれていて、そこにフィラ・ニードルの名前があった。


 「ここに、ルイ君の名前も」


 今まで不貞腐れていたフィラも依頼書に指さしていた。

 フィラの指さす場所には俺の名前も書かれていた。


 「貴方がルイネス・アルストレア様ですか?」


 受付嬢が俺を見ながらそう言った。

 ギルドカードにも名前書いてあるんだがな……。まあ、アルストレアという名前はアスト王国に多いらしいし、ルイネスという名前も他にもいるだろう。


 「恐らく、そうだと思います」


 俺は身に着けている仮面を外した。

 受付嬢は俺の顔を見ると後ろの扉に入っていった。


 数分後、受付嬢が戻ってきた。

 戻ってきた受付嬢の手には小さい紙が一枚握られていた。


 「龍……いえ、ルイネス・アルストレア様。こちらをお受け取りください」


 俺は差し出された紙を手に取った。

 紙を見ると、所々劣化が見られた。この紙はかなり前に届けられたのだろう。


 「最愛なる息子、ルイネスへ。

  お元気ですか?貴方の大好きな母セリスです。

  あの日、貴方の誕生日の日どう過ごしたでしょうか?私達は貴方の帰りを待っていました。五年ぶりに会う貴方がどれほど成長したのかを楽しみに、成長した貴方を貴方の妹たちに紹介できるのを心から楽しみにしていました。

  ですが、貴方と会うことは叶いませんでした。リエイト領で起こった災害は私達家族と貴方の対面を妨害した。

  私はあの災害にいらだちを覚えました。ですが、それよりも今は、貴方に会いたい。

  五年も耐えた後に、また貴方に会えないのはとても悲しいです。

  貴方がもし無事でこの手紙を読んでいるのでしたら、すぐに手紙を送るか会いに来てください。私は今ヘルスや昔のパーティーメンバーと共にリエイト領の住民の捜索のために世界中を旅しています。こちらも旅をしているので出合うことは困難でしょう。なので、セフィス神聖王国に向かってください。

 あの国にあるシエルという街に活動拠点があります。お父さんの実家であるエルア家が出資してくれたおかげで貴重な魔力付加品(マジックアイテム)を使うことが出来る。今はセフィス大陸を中心に活動しているので貴方が訪ねてきたらすぐに戻ることが出来ます。なので、必ず連絡をください。

  セリス・アルストレアより」


 この手紙はここで終わっていた。

 この手紙を書いたのは、俺の母親であるセリス・アルストレアなのだろう。

 この手紙を読むだけで、母が俺のことを思ってくれていると言うことがよく分かる。俺は家族と五年以上会えていないらしい。

 家族はきっと俺に会いたがっているだろう。だが、それは俺であって俺ではない。

 家族が会いたいのは、家族の知るルイネス・アルストレアであって、記憶の無い抜け殻のルイネスではない。

 今の俺が会いに行っても悲しまれるだけだろう。それならば、会わない方が良い。俺が連絡せず会いにも行かなければ家族も俺が死んだと自然に思ってくれるだろう。


 俺が考え込んでいると、

 フィラが俺の顔をのぞき込んできた。


 「ルイ君……泣いてるの?」


 彼女はそう言った。

 俺は目元に手を当てた。すると、涙が手にしたたった。


 「あれ……何で涙なんか……」


 俺はいつの間にか涙を流していた。

 記憶にない母親、記憶にない家族、記憶にないフレイという人物、記憶にない故郷その全てに恋しさを感じる。

 決して覚えていないのに知っている。その記憶に無いもの全てに共通する暖かさ。だが、俺はその全てに関わることは出来ない。

 今の俺が関わってもそのもの全てに不利益を起こしてしまう。俺は関わるべきじゃないんだ。


 「……フィラ」

 「なんですか?」

 「君の家族は幸い無事だ。君には帰る場所がある。

  これからどんなことが起きても君は必ず家族の元に帰るんだ」

 「ルイ君は……」

 「僕は帰れない。

  今の僕は、家族の求める僕ではないから……」


 俺がそう言うと、

 彼女は何も言えないのかうつむいてしまった。


 「君は家族とまた平穏な日常を送ってください」


 俺はそう言ってギルドに彼女を任せた。

 今度の彼女は特に抵抗もせずに受け入れてくれた。


 彼女とは別に長い付き合いではない。

 出合ってまだ二月程度の中だが、彼女がいることで俺も精神面で助けられた。

 俺がこれから行なうことは人道的に許されることではないだろう。そのため、暗い気持ちばかりになりがちだったが彼女のおかげでそんな気持ちも徐々に晴れていた。


 彼女は歩く道中ずっと明るく話しかけてくれた。彼女の笑顔は今の俺にはとても眩しい物だった。

 彼女の優しい部分を見ていると不器用ながら俺を助けてくれたリベルのことを思い出す。


 彼は確かに、神の使いを殺したいほど嫌っていた。彼は俺に気にすることではないと言っていたが俺は彼に返しきれないほどの恩がある。

 その恩を少しでも返そうと決心してここまで来た。だが、彼女を見ているとその決心が緩む。

 これでいいんだ。例え、今の俺の行いで二度と家族に会えなくても構わない。俺は過去の思い出(以前の自分)よりも、今の恩(現在の自分)を取る。


 俺はその後宿に戻った。

 宿に戻り俺は仮面を外した。いつも寝るときは付けたままなのだが、今日は外して寝たい気分だった。

 宿に戻ると何もやる気が起こらなかったので休むことにした。


ーーー

 

 「うっ、、」


 俺はひどい吐き気と共に目を覚ました。

 こんなひどい気分で目覚めるのはいつぶりだろうか……。


 俺は重たいまぶたを無理矢理開けた。すると、目の前には真っ白な空間が広がっていた。


 「何だ……何所だここは!?」


 俺が辺りを見回すと、

 人型の白い光のような物が見えた。


 「やぁ、久しぶりだね」


 俺に声をかけてきたのは、

 先程見た白い人型の光だった。


 「君と会うのは、

  大体三年ぶりくらいかな?」


 白い光は、

 気味の悪い魔力を漏らしながらそう言った。


 「知らない。

  俺はお前なんて知らない」


 こいつがリベルの言っていた白いヤツ。恐らく間違いないだろう。

 確かに信用ならない気味悪さだ。


 俺が考え込んでいると、

 白いヤツは笑った。それも不気味に。


 「フフフッ、そうだね。

  確かに()()()とは初めてだね」


 こいつはダメだ。

 信用云々では無い。こいつの存在自体が気味悪い。


 ……殺すか……。


 俺が考え込んだ瞬間、

 白いヤツから漏れ出している気味の悪い魔力が多くなった。


 「余計なことを考えない方が良い。

  今のお前では到底不可能なことだよ」


 先程までの軽い声とは全く違う、

 低く冷たい声でそう言った。


 「冗談だ、悪かった」


 俺がそう言うと、

 白いヤツは気味の悪い魔力を消した。


 「それでいい。君は僕を信用できないようだが……それは違う」

 

 白いヤツは最初の軽い声でも、冷たい声でもない。

 今のヤツの心情がはかれない。本心で言っているのか、俺をだまそうとしているのか分からない。


 「それと、君は勘違いしている」

 「何のことだ?」

 「君はあの男から僕から聖典に指示を出していると聞いているだろう?」

 「ああ、それがどうした」

 「僕があの男を殺そうとしているとも聞いているね?」

 「だから、それがどうした」


 俺がそう言うと、

 白いヤツはしっかりとは見えないが、気味の悪く笑った。


 「それは全てウソだ」


 何を言っているんだこいつは……。


 「まあ、僕が言っても君はウソだと思うだろう」

 「それは当然だ!」

 「それならば逆に、あの男を信頼するのは何故だ?」


 そんなの、決まってる。


 「それは、俺がリベルに助けられたからだ」

 「そんなの、ただの現状証拠だ。それに、君はアイツの嫌う存在だ」

 「どういう意味だ!」

 「君はヤツの嫌う適性者だ」


 適性者?

 一体……うっ、


 俺はその言葉を聞いた瞬間呼吸が出来なくなるくらい気が動転した。


 「ハァハァ……うっ、、」


 寒気が止まらず、

 どうしようもないほどの悪感情にとらわれた。


 「これは面白いことになっているね」


 白いヤツは、

 笑いながら俺を眺めている。


 「なっ……何が面白い!」

 「おもしろいさ!滅多に見られない物だからね」


 どうすれば、どうすれば落ち着けるんだ。


 「治してあげようか?」


 白いヤツは俺にそう語りかけてきた。

 正直こいつには頼りたくはないが、こいつがこんなことを言うからには治す手立てがあるのだろう。


 「ほ……本当に治せるのか?」

 「当然さ!なんて言ったって僕は全能だからね」


 白いヤツはそう言いながら納めていた魔力を発した。

 すると見る見るうちに悪かった気分や、乱れた呼吸、手の震えなど先程までの悪い物全てが綺麗さっぱり無くなった。


 「これで良し!」


 白いヤツはそう言った。

 俺の先程までの症状は全て消えた。


 「これで、多少は信用してもらえるかな?」


 確かに、今の俺は助けられた。

 助けられたが、まだ信用まではほど遠い。


 「まだ信用は出来ません」

 「はは、相変わらずの強情ぶりだな」


 ヤツがそう言った瞬間、

 空間に亀裂が入り始めた。


 「チッ、また時間切れか」


 ヤツはまたと言った。

 つまり、俺はこいつと前に会った事があるんだ。


 「最後に一つ質問させろ」

 「何かな?」

 「お前は誰だ?」


 俺がそう言うと、

 白いヤツは俺の周りを飛回り、俺の目の前で止まった。


 「僕はフェリックス。ただのいい人さ」


 フェリックスと名乗ったヤツは俺にそう言った。その瞬間、俺は突如足元から現れた黒い霧に呑み込まれた。


 「ゴホッゴホッ!」

 

 俺が咳き込むと、

 目の前に一人の子供がいた。


 その子供は、

 白髪で耳が長い。その見た目から半長耳族(ハーフエルフ)だと分かった。


 そのハーフエルフは何か言いたいのかチラチラ俺を見ながら下を向いている。


 「君は誰だい?」


 俺はハーフエルフの子供に声をかけた。すると、俺の方を見て涙を浮かべていた。

 この顔、どこかで見たような……?まあ、いいか。


 「何かあるから俺を呼んだんだろ?」


 俺がそう言うと、

 子供は大きく頷いた。


 俺は膝をついて子供に目線を合わした。

 子供の瞳も左右で色が違っていた。


 「……」


 子供はまだ口を噤んでいる。

 こういった場合、どうしたら良いのか分からない。

 どうすれば良いか分からないときは何かを手本とすればいい。


 今現在の俺で手本に出来る人と言えば誰がいるだろうか……?

 リベルは……子供相手にはダメだな。泣かしてしまう。そうなれば……フィラを手本にしよう。

 彼女ならばこういうときには……そうだ。

 

 「大丈夫だよ」


 俺はその子供を抱きしめた。

 優しく、苦しくならないようにそっと。俺が彼女にして貰ったように。


 「俺は君の敵じゃない。味方だ」


 そう言った瞬間、

 子供は、目尻にためていた涙を流し始めた。


 「あ、あ……ありがとう」

 

 子供はそう言った。


 「やっと話せる。やっと……」


 子供は、

 俺を強くつかんだ。俺をそれを受け入れた。


 「じゃあ、質問してもいいかな?」

 「うん」

 「君のお名前はなんて言うのかな?」

 「僕の名前はル……」


 子供は何かを言おうとして口を噤んだ。

 どうしたのかと思ったが、どうやら名前を言おうとした瞬間喋られなくなっているらしい。


 「それじゃあ、質問を変えるね。

  君はなんで俺を呼んだのかな?」


 俺がそう言うと、

 子供は、横をチラチラ見たあと俺の方を強く見た。


 「僕は……貴方に伝えたい事があるんです」


 伝えたいこと?


 「何を?」

 「重要な事は多分言えないです。なので、伝えられることだけ言います」


 子供は焦ったようにそう言って、

 俺の手を強く握りしめた。


 「これから十年後貴方の身に色々な不幸が起こります。これはあらがいようのない物です。ですが、今から言うことをすれば全て丸く収まります。」


 十年後に不幸なことが起こる……?

 そんな事急に言われても理解出来るはずがない。


 俺の疑問をかき消すように、

 子供は話し続けた。


 「十年後、貴方と……ある者の間にとても喜ばしいことが起こります。ですが、それは災いをもたらすものです。

  必ず、そのものを処分してください」


 俺は子供が言っていることが理解出来ていなかった。

 喜ばしいのに、災いを呼ぶ?一体何を言っているんだ?

 


 俺が考え込んでいると、

 黒い霧の中に亀裂が入り始めた。


 「時間が……」


 子供はさっきのフェリックスと同じ事を言い始めた。すると、子供は焦ったように俺の手をもう一度握った。


 「信じられないかもしれないけど、貴方が災いを回避するにはそうするしかありません。ただ、この方法でもたった一つ、貴方の大切なものが無くなります。なので、貴方も調べてください。

  きっと、貴方なら何でも変えられます」


 子供がそう言った瞬間、

 亀裂が完全に裂けて俺は意識を失った。


ーーー

 目が覚めると、

 木製の天井が見えた。

 ここは、俺が昨日借りた宿屋だ。


 昨日、帰った瞬間眠ったんだっけ?

 なんか、重要な事を聞いたような気がするんだが……何も思い出せない。

 前にも同じようなことがあった気がする……あれはいつだっけ?


 俺はひとまず、その事に関して考えるのをやめて目的のために行動することにした。俺は最初に宿、次に冒険者ギルド、最後は魔術ギルドの人に聞いて回った。


 「白い本を持って街中で騒いでいるヤツはいるか?」


 だが、どこで聞いても帰ってくる答えは一つだけだった。


 「そんな話し聞いたことがない」


 この答えをみんな口を揃えて言った。

 もう少し調べるが、もしかしたらこの街には神の使いはいないのかもしれない。


 その後一日中調べ回ったが、

 神の使いの情報を得ることは出来なかった。


 俺は宿に戻り、

 今日得た物を振り返っていた。まあ、なにも無いんだが……。


 「恐らくこの街には神の使いはいない」


 俺はこの結論に至った。

 どうやら、フロートで得た情報は偽物だったらしい。


 俺はこれからやれることを考えたが何も思い浮かばなかった。

 なので、今日は休むことにした。


 翌日リングルで事件が起きた。

 起こった事件は、簡単に言ってしまえば放火だ。


 放火されたのはリングルにある宿のほとんどが襲われた。

 なぜ俺が泊まっている宿だけが襲われなかったのかが分からなかったが、恐らく偶々だろう。


 ひとまず俺は放火現場に行ってみることにした。

 俺が向かったのはこの街で一番高い宿だ。


 俺が着いた頃にはかなりの人だかりが出来ていた。

 宿の目の前には、魔術ギルドと冒険者ギルドの役員らしき人が原因の調査を行なっていた。俺が気になったのは、地面に敷かれた布に寝転ばされている人だ。


 そんな中で一人だけ見覚えのある人がいた。

 俺はその人を見た瞬間走り出していた。


 「フィラ!!」


 そこには、両腕にひどいやけどを負い苦しい表情で眠っているフィラの姿があった。

 昨日まで元気だったフィラが今こんなにひどいことになっている。昨日俺がギルドに残していかなければフィラはこんなことにはなっていなかったかもしれない。


 「これは……俺のせいだ」


 俺はフィラの元に駆け寄り治癒魔術をかけた。念のために初級の【ヒール】ではなく、中級の【ブライトヒール】を使った。

 すると、やけどがひどかった両腕が見る見るうちに治っていった。


 「どうだ?」


 彼女の顔を見ると先程までの苦しい表情は消えていた。俺が一安心していると魔術ギルドの役員が声をかけてきた。


 「貴方、治癒魔術が使えるのですね?」


 声をかけてきたギルドの役員は今にも倒れそうなくらいフラフラで顔色もとても悪そうだった。


 「はい、中級までなら使えます」

 「使用限度回数は?」


 使用限度か……正直分からないな。

 一度使ってみた感じではまだまだいけそうだ。


 「分かりませんが、数回程度では疲れは感じないです」

 「魔術ギルドか冒険者ギルドに所属していますか?」

 「はい、両方に」

 「では両ギルドから依頼をさせていただきます。

  リングルで起こった放火事件のせいで治癒術士の手が足りません。ギルドへの協力の依頼です。報酬は黒銭十枚です」


 治癒だけで報酬が黒銭十枚。

 報酬が破格だな。だが、依頼が無くてもそうするつもりだった。問題は無いだろう。


 フィラを傷付けた時点で俺はこの事件の犯人は許さない。

 犯人捜しを始めたいところだが、その前にまずはけが人の治療だ。


 「分かりましたお受けします」

 「では、まずはここのケガ人を。次は東にある被害現場に向かってください」

 「分かりました」


 俺はすぐにケガ人に治癒魔術をかけ回った。ここにいるケガ人に魔術をかけ終わった後東にある被害現場まで急いで向かった。

 東にある現場もひどい有様だった。フィラが泊まっていた宿よりもひどかった。

 ここにもケガ人が多数いた。中には全身にやけどを負っている者もいた。俺は急いで全員に魔術をかけた。


 それから半日かけてもう三カ所回って魔術をかけた。

 ようやくギルドの依頼を終えた。ここからは犯人捜しだ。

 絶対に見つけてやる。だが、その前にフィラの様子を見に行こう。心配だ。

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