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転生記 ~異世界では長寿を願って~  作者: 水無月蒼空
第3章:【少年期】冒険者編
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第三十一話:「深い森の出会い」

 フロートを出た俺は、

 杜撰な街道を歩いていた。


 俺がこれから向かうのは、

 アルレシア大陸で、一番と言って良いほど栄えている街「リングル」だ。


 俺がこの街に向かうのには理由がある。

 フロートの酒場で討伐隊と飲んでいるときに、ある話が聞こえてきた。


 リングルの街で「自分は神の使いだ」と言って暴れている者がいるという話だ。

 俺はこの話を聞いたとき、あることが頭をよぎった。


 「聖典と呼ばれる物を所持している者を信用するな」


 遺跡にいるときリベルに念を押された事だ。

 あの後、何回か聞いてみたところ詳しく教えてくれた。


 「白いヤツは、

  利用できる者を見つけたら自分のことを神と名乗り目の前に現れる。その際、聖典という白い本を手渡してくる。

  聖典は、ヤツが利用している使いに指示を送るための物だ。

  ヤツは、聖典を渡した者に神の使いと名乗らせて自分の意のままに操る。目的は定かではないがな。だが、一つ分かることは、神の使いを名乗る者はヤツにとって得なことを起こす。その場合、俺やこの世界にいる者にとって損な事が起こる。

  使いの中にも善良な者もいる。そういう場合には、聖典に使いを助けることやためになる指示を送って自分を信用させ、自分の目的を達成しようとさせる。

  ヤツの思惑に俺が邪魔なのか、俺の元に神の使いを名乗る者が何度も襲撃してくる。

  ヤツの思惑を阻止するために、神の使いとヤツを野放しにするわけにはいかない」


 この話を聞いた後、

 俺が聖典を無理矢理奪い取れば良いのでは?と聞いてみたところ、

 リベルは怖い顔をしながらこう言った。


 「俺は聖典を奪い取ることが出来ない。

  なぜだか、俺からは神の使いと出会うことが出来ない」

 「え?でもさっき……」

 「俺から接触は出来ないが向こうからなら接触が出来るらしい。俺が神の使いの情報を手に入れてすぐに向かっても、すでにいなくなっていることが多い」


 つまり、

 リベルは、神の使いには会うことが出来ない。


 リベルは、神の使いは見つけ次第殺した方が良いと言っていた。

 リベルは殺したくても殺せない。それならば、俺が代わりに神の使いを殺す。


 前に一度リベルに提案したが、お前が気にすることではないと言われた。だが、俺にはリベルに対して恩がある。

 だから、リベルの代わりに俺がやる。


ー二ヶ月後ー

 リングルまでのこり半分まで来たところで、枯れた森に入った。

 この森は、【荒れの森】と呼ばれている。

 生えている木々は枯れ、一日中薄暗く、アルレシア大陸の中でも危険度の高い魔物が数多く生息している。


 荒れの森は、フロートとリングルのちょうど中心に位置しており、

 冒険者や魔族は、この森を避けるように迂回して街に向かう。


 アルレシア大陸に住んでいる魔族はこの森に入ろうとしない。

 この森に一度入ってしまえば二度と出てくることは出来ないと言われている。


 森に入って数時間が経った。

 俺は、森の中をひたすらまっすぐ進んでいた。


 途中魔物に襲われることもあったが、

 難なく撃退することが出来た。


 襲ってきた魔物の中に、

 紫色の外皮をしている大きな蛇がいた。その蛇を見た瞬間、俺は無意識のうちに魔術を使っていた。


 何故だか分からないが、

 俺がその蛇に対してなんとも言えない感情を覚えた。


 日が暮れたのか、辺りがより一層濃い霧に包まれた。

 俺は、進むのをやめて野営の準備に取りかかった。


 幸いこの森には数多くの魔物が生息しているため食料には困らない。

 安全を確保するため魔術で土の壁を形成した。


 「湿気てるな……」


 俺が壁で囲んだ場所に落ちている木の枝は湿気を多く含んでいた。


 「トレントでも探しに行くか」


 俺は、場所を忘れないために壁の一角に縄を結びつけた。

 その縄を引きながら俺は薪になるトレントを捜した。


 捜し始めて数分が経ち、トレントを発見した。

 発見したトレントは、この森に生えている枯れ木にうまく擬態していた。


 『風刃(エアカッター)


 俺は風魔術を使い、

 擬態していたトレントを倒した。


 「おお、これは良い薪だ」


 倒したトレントから採れた薪はしっかりと乾燥していて、

 火を起こすのに最適な薪だった。


 その後、

 俺はもう数体トレントを倒し、薪を回収した。


 俺は薪の束を持ちながら壁に向かった。

 壁に向かう際に遭遇した兎の魔物の肉を持ち帰った。


 壁の中に戻った後、土魔術で鍋を作った。

 鍋の中に魔術で水を張り、肉を調理した。

 俺の鞄の中には数種類のスパイスが入っていた。前の俺はどうやら味にはうるさかったようだ。


 調理を終えたとき、

 遠くの方で叫び声のような物が聞こえた。

 

 俺はすぐさま調理をするのをやめ、

 杖を持ちながら声の方向に走った。

 走り出して数分もしないうちに、叫び声の主を見つけることが出来た。


 声の主は青色の髪をした女だった。

 青髪の女は森に入るのには不格好な動きづらい格好をしていた。だが、全身に傷を負い、今にも気を失いそうな顔をしていた。

 女は、メタルスネークに追われ、木の根付近に追い詰めたれていた。


 俺が様子をうかがっていると、

 女は、俺の方を見て大きな声を出した。


 「そこに居られる魔術師様、

  どうか助けてください!」


 女は必死そうに俺に助けを求めてきた。

 俺は杖を魔物の方に向けて魔術を使った。使った魔術は「火弾」だ。

 こういう系統の魔物は火に弱い。森の中で火を使うのは危険だが、すぐに消化をすれば良いので問題は無いだろう。

 俺の魔術は、暗い森の中で強い光を放ちながら魔物の方へ飛んでいった。


 俺の魔術が魔物に着弾すると、

 魔物は燃えながら断末魔のような雄叫びを発して倒れた。

 

 俺は、魔術で燃え広がった炎を水魔術で鎮火した。

 思ったよりも燃え広がっていたので広範囲の魔術を使う羽目になった。


 火を鎮火し終わると、俺も襲われていた女もびしょ濡れになっていた。

 俺はとりあえず女に近づいた。すると、女は怯えているようなので仮面を取り優しく近づいた。俺は彼女に治癒魔術をかけて傷を治し、彼女を連れ壁の方に向かった。


 壁の中に入ってすぐ、俺は彼女にここに置いてあった普段着ているローブを手渡した。


 「これを着て置いてください。

  そのままでは身体を壊します」

 「ああ、ありがとうございます」


 彼女は寒いのか、

 手を震わせながら俺のローブを受け取った。


 「…………」


 彼女は、俺をジッと見ている

 

 「どうしました?」

 「……ちょっと、後ろを向いてて欲しいのですが……」


 なるほど、そういうことか。

 これは、デリカシーが足りなかったな。

 俺は壁の外に出た。


 出てから数分が経ち、

 ようやく彼女からの声が掛かった。


 「もう大丈夫です」


 俺は壁の中に戻った。

 壁の中には、彼女が先程まで着ていた衣服が木に干されており、

 彼女は、ローブの前をしっかりと留めて、何かを握りしめていた。


 「何を握っているんですか?」

 「えっと……」


 彼女が握っていたのは、

 真っ白な下着だった。


 なるほど、

 それは干せないか……。


 俺は魔術で小部屋を作った。

 

 「この中で干してください」

 「ありがとうございます!」


 彼女は、小部屋の中に入っていった。


 彼女は干し終わったのか、

 小部屋から出てきた。

 

 俺は作っていたスープを彼女に手渡した。

 彼女は俺から受け取ったスープを一口飲み込んだ。


 「美味しい!」


 そう言いながら器に入っているスープを全て飲み干した。

 まだ欲しいのか、スープをじっと見ていたので残りもあげた。


 俺たちは、食事を終えた。

 お互い腹を満たせたことで、張っていた緊張感が薄くなった。


 「さて、そろそろ本題に入りましょうか」

 「え?」


 彼女は、驚いたような声を漏らした。


 「まず、貴方のお名前を聞かせていただきましょうか」

 「……はい。

  私の名前は、フィラ・ニードルです」

 「ではフィラさん」

 「敬称は不要です」

 「分かりました。ではフィラ。

  貴方は人族ですよね?何故アルレシア大陸にいるんですか?」

 「…………」


 そう、フィラは人族だ。

 判断材料は少ないが、彼女が身に着けていた衣類はアスト王国の貴族で多く出回っている物だ。

 前にリベルが弔っていた人族の女が同じような物を身に着けていた。リベルはその人族を貴族の女と言っていた。

 俺が考え込んでいると、フィラが口を開いた。


 「私がこの大陸にいる理由は、私にも分かりません」


 フィラはそう言ってこの大陸に来たときのことを教えてくれた。

 家の事情でアスト王国にあるリエイト領そこを納めている領主の家「スロウ家」に行く際、緑色の光に包まれたらしい。

 光に包まれ気がついたときにはこの森の中にいたらしい。

 

 つまり、フィラは俺がいたところの近くにいたらしい。だが、そうなれば一つ疑問点が浮かぶ。

 それは、俺がこの大陸に飛ばされたのと、フィラがこの大陸に飛ばされたのに二年近くの誤差があることだ。

 この二年の差がなんなのかは分からないが、彼女が俺がいたところの近くにいたのなら詳しいことを聞いてみる価値はあるだろう。


 「フィラは、僕と同じ場所にいたらしいですね」

 「……え?そうなんですか?」

 「はい……」


 俺はリベルや目的のことを濁してフィラに話した。

 フィラは最初こそ真剣に聞いていたが、俺が記憶を持っていないことを聞いた途端泣き出した。


 「君も大変だったのですね」


 彼女はそう言って俺を優しく抱いた。

 最初は動揺して抵抗したが、泣きながら俺を抱いているのを見て抵抗するのをやめた。


 やがて彼女は満足したのか俺を離してくれた。


 「そういえば、君の名前は……ってすみません。そういえば記憶が……」

 「いえ、名前は覚えています」

 「なんと言うんですか?」

 「僕はルイネス。

  ルイネス・アルストレアです」

 「えっ?」


 俺が名乗ると、

 フィラは明らかに動揺した。

 

 「どうかしましたか?」

 「いえ、ただ……その名前に聞き覚えがあって」


 今日はお開きになった。

 あの会話の後、彼女が眠ってしまったため俺は壁の周りを見回ることにした。いつもは一人でいるため回る必要は無いが、今はフィラがいるため辺りを見回る必要があるだろう。


 朝日が昇った頃、

 フィラが目覚めた。


 「ん、ん……はぁぁ」

 「おはようございます」

 「おはよう……って、えっ!?」


 彼女はびっくりしたように飛び起きた。

 どうやら、記憶が混雑していたらしい。少し経つと昨日のことを思い出していた。


 俺たちは揃って次の街(リングル)に向かうことになった。

 彼女を俺の目的に関わらせるわけにはいかない。なので、リングルに着いたら彼女はギルドに保護して貰うことにしよう。


ーフィラ視点ー

 リエイト領の災害が起こる三ヶ月前。

 私は、アスト王国の王都にある屋敷にいた。

 私の家「ニードル家」はアスト王国でも位の高い方の貴族だ。三大貴族ほどではないが、国の中でもかなりの権限を持っている。

 そんな中で、父が私を呼びつけた。


 「お父様、要件とは何でしょうか?」

 「ああ、来たか。

  突然だが、フィラには今すぐリエイト領に向かって貰う」


 私は父の言葉を聞いて動揺した。

 リエイト領というと、三大貴族のスロウ家が納めている領地だ。そう、スロウ家が納めているのだ。

 ニードル家は、スロウ家と仲が良くない。

 スロウ家は第一王女派閥、ニードル家は第一王子派閥なのだ。

 派閥が違うためスロウ家と仲が悪い。それなのにもかかわらず父は私にリエイト領に向かえと言った。

 父は一体何を考えているのだろうか?


 「お父様。一つ質問してもいいですか?」

 「許可する」

 「私の見解では、ニードル家はスロウ家と仲が悪いはずです。

  そんな時に、ニードル家の一員である私がスロウ家の納めるリエイト領に行くとなると少々問題になると思うのですが……」


 私がそう言うと、

 父は大きく笑った。


 「そうか、そうか。

  お前は本当に頭が良いな。父として鼻が高いぞ」


 父はそう言って、

 私をリエイト領に向かわせる理由を話し始めた。


 「まず始めに、

  フィラは私達ニードル家がスロウ家と仲が悪い理由を知っているかい?」

 「はい、ニードル家とスロウ家は所属している派閥が違うためです」

 「そうだ。基本他派閥の貴族と関わりを持つのは同派閥の貴族から敵視される可能性があるためリスクが高い。だが、これは私の独断だが。ニードル家は第一王女の派閥に鞍替えしようと思う」


 父の口から発された元場は耳を疑うような内容だった。

 下級貴族や中級貴族が他派閥へ鞍替えするのはよく聞く話だ。だが、上級貴族や三大貴族の最上級貴族のタッは罰への鞍替えは聞いたことがない。

 ニードル家は上級貴族だ。

 上級貴族が鞍替えするとなると、派閥勢力が揺れ動く。そうなれば、第一王子派は勢いが弱まり、第一王女派は勢いづくことになる。


 だが、それよりも。

 父が何故第一王女派に鞍替えしようと考えたのかが気になる。


 「お父様は何故鞍替えという危ない橋を渡ろうとするのですか?」

 「それは……ある日私の元に第一王女レイナ様が急に訪ねてこられた」


 父は、少々暗い顔をしながら理由を話し始めた。


 レイナ様は、

 私の元に来て自分の派閥に入ってくれと言ってきた。当然、私は断った。

 私は、殿下を信頼している。殿下を裏切る事なんてできない。そう思っていた。だが、レイナ様は私が最近抱いていた不安感を煽ってきた。

 それは、殿下の言動の全てが以前の殿下とは似ても似つかなくなっていることだ。

 以前の殿下ならば困っている者には手を差し伸べ、貧困が著しい地域には戦局的に援助するなど国民思いの素晴らしい方だった。

 私はそんな殿下を信じて進んできた。だが、最近の殿下は何かがおかしい。

 最近の殿下は、困っている国民や、貧しい国民を見ても手を差し伸べることをせず、自分の利益になる事を最優先にする。

 殿下は変わられた。私はいつか前の殿下に戻ってくれると信じている。だが、その兆しは一向に見えない。

 だが、レイナ様は一つ提案をしてきた。

 レイナ様はニードル家が自分の派閥に入る代わりに殿下について調べてくれると言った。

 確かに、いくら上級貴族といえど王族である殿下のことを調べると不敬罪に当たってしまう。だが、同じ王族であるレイナ様ならば調べることが出来るだろう。

 私は、レイナ様の派閥に入ることにした。

 だが、入るのは形式上だけだ。レイナ様もそれでいいと承諾してくださった。

 私は殿下をお救いするためにレイナ様に協力する。


 父から聞いた理由はとても素晴らしい物だと正直に思った。

 私は父のことを勘違いしていたのかもしれない。いつも殿下の後ろについて歩くその辺りにいる貴族と同じだと思っていた。だけど、父は父なりの考えを持って行動していたのだと知った。

 今の私は、父のことを誇りに思う。


 私は、父の理由を聞いて一言で了承した。

 私がリエイト領に向かう目的は、現在リエイト領にある街【ブルセル】にあるスロウ家の屋敷に留学しているルイネス・アルストレア。

 レイナ王女はルイネスという人物にコンタクトを取ると良いと言っていたらしい。ルイネスという人物は私よりも2つ下の男の子らしい。

 正直そんな子供に会って何が変わるのか分からないが、父やレイナ王女が言うのであれば赴こうと思う。


 私はすぐに準備をしてリエイト領に向かった。

 不安はあったが、私も多少なりと魔術は使える。聖神流の剣術も多少納めている。それなりには戦えるはずだ。

 警護には冒険者の方にも着いて貰っている。恐らく大丈夫だろう。


 この三ヶ月後、

 リエイト領に入って二日が経った頃私達は強い光に包まれた。強い光に飲み込まれた私はすぐに意識を失った。


ーーー

 目が覚めると、目の前には枯れた木々が生える変な森が広がっていた。

 アスト王国にはこのような悲惨な光景をした森は存在しない。ということはここはアスト王国ではないのだろう。

 森の反対方向は荒野が見る限り一面に広がっていた。私はとっさに森に入ることを選択した。


 森に入ると、日の光は全く差していなかった。

 木々は枯れているのに、日の光は差さない。変な不気味さを感じた私はすぐに森を出ようとした。だが、すでに戻れなくなっていた。


 私は真っ直ぐ進むことにした。

 真っ直ぐ進み続ければいつかは森を出られると信じて。だけど、現実はそうあまくなかった。

 進み始めてすぐに私は木の形をした魔物トレントに襲われた。トレントは下位の魔物のため私にも倒すことが出来た。だけど、倒してすぐに別の魔物が襲ってきた。

 その魔物は全身から金属の光沢を放っているような見た目をしていて蛇のような見た目をしていた。


 私はトレントを倒したことで過信していた。この蛇のような見た目の魔物にも勝てると思ってしまった。

 結果、私はこの魔物に簡単に突き飛ばされた。突き飛ばされた私は全身に傷を負い、逃げることしか出来なかった。


 森の奥へ奥へと逃げて、

 やがて一本の大きな木の根元付近に追い詰められた。全身の傷が痛み今にも意識が飛びそうな時に私の他に一人、人がいるのに気がついた。

 その人は、昔文献で見た龍族の伝統の白い服を着込み、白い仮面を付け大きな杖を持った子供のような見た目をしていた。

 私はその見た目からすぐに魔術師であることが分かったので助けを求めた。すると、その魔術師は颯爽と魔術を放ち、魔物を撃退した。使った魔術の炎を消して私に近づいた魔術師は怯えた私に気がつき仮面を取ってくれた。

 仮面の裏には優しそうな顔立ちをした人族男の子の顔があった。彼は私に治癒魔術をかけてくれた。あの威力の攻撃魔術や治癒魔術を簡単に使いこなす彼はきっと名高い魔術師様なのだろう。

 私はこの時、この魔術師様に少し好意を寄せた。


 私は彼に連れられて森の奥を進んだ。すると、やがて森の中では浮いてしまうような壁が見えてきた。

 あの壁は彼が建てたらしい。広範囲で建てられている壁を見て私は驚愕した。これほどの魔術師は王都にもいないだろう。

 私はお父様が言っていたことを思い出した。

 お父様はレイナ王女に紹介されたルイネスという人物は魔術にかなり長けていると言っていたらしい。

 早くアスト王国に戻ってお父様から言い渡された目的を果さなければと思った。


 彼は木に干されていたローブを手渡してきた。

 濡れたままではいけないと言いながら衣類を手渡す彼に少し見惚れた。私は、寒さに震えながらローブを受け取った。


 ローブを受け取ったわたしは着替えようとした、だが、彼はその場に残ったままだった。私は着替えたいが世話をして貰っている上で要望を出すのは失礼だと思って口をさせないでいた。だが、彼がどうかしたかと聞いてきたので私は小声で後ろを向いてくれと言った。

 すると、彼はすぐに壁の外に出ていった。わざわざ出なくても良いと思ったが、彼の子供ぽっさと律儀さに関心を抱いた。

 私は着替え終わったので声をかけたすると、嫌な顔一つしてない優しそうな顔立ちの男の子が入ってきた。

 私が下着を干せずに困っていると、気がついた彼が小部屋を作ってくれた。私はそこで下着を干した。

 下着を干し終わると、彼はスープをくれた。

 そのスープは良い代わりを醸し出し良い見栄えをしていた。私は、警戒するのは失礼だと思いスープを一口飲んだ。

 すると、口の中にアスト王国でもあまり味わったことのない味が広がった。その味はとても美味しく、中に入っている肉もとてもジューシーな物だった。


 私と彼は食事を終えた。すると、先程までの優しそうな表情とは全く異なる怖い顔をした。


 「本題に入ろう」


 彼はそう言った。何を聞かれるのかを不安だったが聞かれたことは名前とここにいる理由だった。私は自分の名前とここにいる理由を包み隠さず話した。

 すると彼は、私と同じ場所から来たと言った。私は、彼のことが気になった。

 彼は自分のことを話してくれた。目が覚めると全身に強い痛みが走り、死にかけているときに恩人に助けられたこと。それまでの記憶が一切無いこと。

 それを聞いたとき、私は涙を流した。

 記憶が無いと言ったときの彼の悲しげな表情、恩人の話をしているときの彼の明るい表情。そんな彼を見ていると、私はいつの間にか彼を抱いていた。


 「君も大変だったのですね」


 私はそう言いながら彼を優しく抱いた。

 彼は最初こそ抵抗していたが、すぐに受け入れてくれた。


 数分後、

 私は彼を離した。彼は顔を少し赤らめていた。

 そんな彼を見て私はより一層彼に興味を持った。彼の色々な事を知りたい。彼の好きな物、彼の忘れている生い立ち、その全てが知りたい。

 その前に一番知りたいのは彼の名前。そういえば、

 そう思った瞬間、私の口から漏れたのは彼の気持ちを考えていない物だった。


 「君の名前は……ってすみません。そういえば記憶が……」


 私はとっさに口を手で覆った。だが、彼は嫌がることなく教えてくれた。

 自分の名前を……。


 「僕はルイネス。

  ルイネス・アルストレアです」


 彼の口から出た名前は最近聞いたばかりの名前だった。

 そう彼は、レイナ王女が伝えたスロウ家の子供の名前。彼は、私の目的だった人物。

 【ルイネス・アルストレア】だった……。

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