第二十六話:「下位迷宮攻略:後編」
目が覚めると、
目の前には、爆発で地面がえぐれゴーレムの姿は跡形もなくなっていた。
「一体何だったんだ?」
倒したゴーレムが爆発した。
前世のゲームでも爆発するゴーレムは出てきたりしたが、こっちの世界のゴーレムも爆発するのか……。
核を破壊して爆発してしまうなら防ぎようがないな……そういえば、ゴーレムが爆発する瞬間、なんかゴーレムが爆発する瞬間のイメージのような物が見えたよな?
あれは何なんだろう……?
「……うっ、」
俺が、考え込んでいると、
横で苦しそうに声を出すアリスがいた。アリスは、頭から血を流し壁のそばで倒れ込んでいた。
俺は、アリスに近寄ろうと思い体を動かした。だが、体に思うように力が入らず立ち上がることが出来なかった。
「うっ、」
足に激痛が走り、一瞬意識が飛びそうになった。
どうやら、足が折れてしまっているようだ。俺は、足に治癒魔術をかけて折れた部分を癒やした。
俺は、横に倒れているアリスに近寄り、傷の具合を確認した。
頭からは血が流れていたが、傷は底まで深くないようだ。俺は、治癒魔術を使いアリスの傷を癒やした。
治癒魔術を使うと一瞬意識が飛びそうになった。どうやら、残りの魔力が少ないようだ。
「大丈夫ですか?」
「うっ、ええ、大丈夫よ」
立ち上がったアリスはふらふらしていた。
どうやら、爆発の衝撃で頭を打った時の症状が残っているようだ。俺は、アリスに肩を貸しながら立ち上がり扉の方に向かった。
「アリス、どうでした?」
「そうね……疲れたわね」
「ハハ、そうですね」
今回は戦い事態はなんとかなった。だが、その後の爆発がイレギュラーだった。
ゴーレムを倒すと爆発するなんて思いもしなかった。
俺たちは扉を開けて迷宮の通路に戻った。
通路は、先ほどと変わらず静かな通路が広がっていた。
少し歩くと、アリスの足取りが安定してきたので離れた。通路を歩いているときも絶え間なく魔物達が襲ってきたので全力で牽制した。
迷宮をちょうど半分戻ってきた。
帰りも罠に掛かりまくった俺は、アリスの真後ろにひっつくように歩いていた。
「いい、絶対に私の後ろを離れてはダメよ。絶対に!」
「分かってますよ」
行き帰りで何度も罠に掛かっている俺にアリスは自分の後ろを離れないように何度も呼びかけてきた。
そんなに心配だろうかと思うが、あれだけ引っかかれば仕方が無いだろう。
ゴーレムとの戦闘から大分時間が過ぎた。
あの戦闘以降、体がうまく動かなくなってきている。体調が悪いような、視界が眩んで来るようなそんな感じだ。
この症状が出てきてからというもの、視界の中に白い線のような物が見えるようになった。
「アリス、目の前に浮かんでいる白い線は何ですか?」
「……?そんな物無いけど?」
「……え?」
アリスには、この白い線は見えないらしい。
俺はよく目を凝らして見ると白い線は少し進んだ先の壁に向かって延びているのが分かった。
あの壁に何かあるのだろうか?
「アリス、少し待っててください」
「え?ちょ、ルイネス?」
俺は、白い線が延びている壁まで向かった。壁は、縦に溝があるだけで、他と同じようなただの壁のようだった。
俺は、目に意識を集中させた。その時、足から力が吸い出されるような感覚があったが……まあ、特に気にすることはないだろう。
白い線は、俺の身長よりも上の方に延びていたので足場を作って登った。
「ハァハァ……疲れたな」
足場を登ると、俺は息を切らしていた。
息を整えて壁の方を見た。壁には、細い溝のような物があり、溝の先には赤い球が埋め込まれていた。
「何だこれ?」
俺は、その赤い球を捕ろうとして触れた瞬間球が光り出して俺の手から魔力が流れ出るのを感じた。
「ちょ、え?」
やがて、魔力が流れ出るのが終わり溝が光り出した。すると、ガタガタと音を立てながら溝が開いていった。
「うわっ!?何だ?」
溝が完全に開ききって、目の前には真っ暗な通路が広がっていた。どうやら、この赤い石に魔力を流すと溝が扉のように開いて通路が現れる仕組みになっていたらしい。
魔道具の一種なのだろうか……?
俺は、その暗闇に恐る恐る足を踏み入れた。アリスは、俺の後を追うように暗闇に足を伸ばした。真っ暗な通路には依然白い線が延びていた。
この通路に入って数十分が過ぎた……。
この通路は、
まっすぐ一本道になっており、道明かり一つ無い真っ暗な通路だった。俺は、火魔術で小さな炎を作りながら歩いていた。
残りの魔力がかなり少ないため温存したいが、前が見えないのでは仕方が無いので最小限の炎を作っている。
「……何もないわね」
何もない通路にしびれを切らしたのかアリスがそう言った。俺は、前方を炎で照らしながらアリスの方を見た。
「ハァハァ……そうですね、ここまで何もないと逆に不安になりますね」
俺がそう返すと、アリスは俺の顔色をうかがうようにのぞき込んできた。
「ルイネス……どうしたの?顔色が悪いわよ?」
「え?」
顔色が悪い……?
そんな事は……って、確かにさっきよりも体調が悪いし、息切れも増している。
魔力も想定よりもかなり速いスピードで減っている。この魔術は魔力消費量はそんなに多くないはずなんだが……このままじゃあ帰りまで持たないかもしれない。
「仕方ありませんね……戻りましょうか」
「えっ!?戻るの?」
「はい、このままじゃあ魔力が持ちません。この続きは、またの機会にしましょう」
「そうね……分かったわ」
俺とアリスは来た道を戻ろうとしたとき、
この通路の異変に気がついた。
「何よ……これ……」
「道が……」
俺たちの目の前には、
先ほどまで通ってきた道がなくなり、静かな壁がそこに建っていた。
壁を叩いてみたが、通ってきた横の通路の壁と変わらず、硬くてちょっとやそっとの事では崩れない頑丈な物だった。
「どうするのよ……?」
壁を見たアリスが俺の方を見てそう言った。
どうするか……魔術を使えばなんとかなるかもしれないが、他の魔術を使えば魔力切れになってしまうかもしれない。
進むしかないか……。
「戻れないのでは仕方がありませんね、このまま進みましょうか」
「そうね!そうしましょ!」
俺たちは、壁のない方向に向かって歩き出した。
そこから数分歩いていると、大きな空間に出た。この空間は、俺とアリス以外の生物の気配は感じられなかった。だが、空間の中央にある台座に向かって白い線が延びているようだった。
「中央に何かあります、気をつけてください」
「ええ、分かったわ!」
俺たちは、空間の中央にある何かに注意しながら近づいた。
中央にあったのは、光沢のある水色の丸い石が埋め込まれた台座のような物だった。
「あそこ、何かあるわよ」
「あれは……魔石でしょうか?」
よく見てみると、
白い線はあの魔石のところで終わっており、俺の目からは、あの魔石は強く光って見えた。
俺は、台座に登り魔石を右手で手に取った。
この魔石は、強い魔力を帯びていた。もしかすると、今見えているこの白い光や線は魔力なのかもしれない。
そんな事を考えていると、台座が置かれていた場所が白く発光し始めた。よくよく見てみると、魔法陣が床に描かれているようだった。
「ちょ、何だこれ!?」
「ルイネス!」
アリスの声が聞こえたと思った瞬間、
目の前が真っ白になり意識が薄れていった。
ーーー
目が覚めると、どこかも分からない空間にいた。
足元は雲の上のような感じのするモヤモヤしていて立ちにくい場所だった。
「何だここ……?」
俺は確か……アリスと一緒に迷宮に潜り、新しい横道を見つけ広い空間に出てそこにあった台座の魔石を取った所までは覚えている。だが、こんな所は覚えがない。
ここは、どこを見ても真っ白い光景が広がり、
足元は歩きにくく、フワッとした気持ちになる。天国にいたらこんな感じなのだろう。
それに、さっきまであった気持ち悪さもなくなり、魔力も減っていないように感じる。いつの間に回復したのだろうか?
『こ……にきた……』
少し歩いていると、
声が聞こえた。その瞬間、右目にひどい激痛が走った。
「うっ……」
右目に変なイメージが見えた。
《霧が視界全体を覆うように広がる》
何だこれ……?
ゴーレムと戦った時と同じようなイメージが……。
そう考え混んでいると、
目の前に白くて深い霧が立ち込んできた。
霧が晴れて視界がはっきりしてきた。
すると、目の前には、眩しすぎるくらいの光を放つ何者と、ドス黒いオーラを纏っている黒い何者が目の前にいた。
光を発している何者は顔は見られないがこっちを見ているようだった。黒い何者は俺を見ると一瞬動きを見せたが、周りの黒いオーラが一段と強くなった瞬間制止した。
「やあ、今回は初めましてだね」
光を発している何者は、俺に対して優しく問いかけるようにそう言った。
その何者の声は、女なのか男なのか分からない声をしていて、どこか安心するような印象を受ける。その声は、レイナ姉さんと同じような感じだった。
声のことはいいとして、『今回は』ってどういうことだ?
「おや?緊張しているのかい?」
何者は、クスッと笑いながらそう言った。
実際笑っていたのかは分からないが、声の感じからそう思った。
「あ、いえ。
ちょっと動揺しているだけで」
「ああ、そうかい。まあ、仕方が無いね」
そう言いながら、また笑い出した。
この人?は失礼だな。そんなに笑わなくても良いだろう。それにしても、一体この神々しい何者は一体誰なのだろうか?
「あ、あの……」
「ん?何かな?」
「あなたは誰ですか?」
俺がそう言うと、
何者は、小さく笑いながら呟いた。
「今、なんて……?」
「いや、何でも無いよ。そうだね……」
何者は少し考えた後、口を開いた。
「僕の名前はフェリックス。ただのいい人さ」
いい人ね……。
自分から言うヤツにろくなヤツはいない。実に、胡散臭いものだ。
この輝いている人がフェリックスという名前なのは分かった。今気になるのは、このフェリックスという人物の隣にいる黒い何者だ。
さっきから一度たりとも微動だにせず、ただじっとそこにいるだけ。
「おや?どうかしたのかい?」
「……あなたが誰かなのかは分かりました。
それで……横にいるその黒い人は誰なんですか?」
俺がそう言うと、
フェリックスは、頭に「?」を浮かべているような顔をしていた。
「ああそうか、君からはそう見えているのか……僕からしたら可愛い子供に見えるが」
え?そうなの?
俺から見たら黒い物がまとわりついているようにしか見えないんだけど……。
「そうだね……この子は、『セラフ』。
可愛いぼくの息子さ。そうだろう?」
フェリックスは、そう言いながら黒い何者の肩?を叩いた。
黒い何者は、一瞬ビクッとしたように見えた。その瞬間、纏っていたドス黒いオーラがさらに多くなり、辺り一帯が真っ暗になった。
「え!?何これ?」
「まあまあ、落ち着いて。
これは、ただ魔力が漏れているだけだから。君もちゃんと納めようか」
フェリックスがそう言うと、辺りに漏れていた黒いオーラは黒い何者に戻っていた。
あの黒いオーラはどうやら、あの何者の魔力らしい。
魔力が目に見えるって、どれだけ魔力持ってるんだろう。
俺が考え込んでいると、
真っ白い空間の端の方の亀裂のような物が入り始めた。それと同時に、俺の右手が強く光り始めた。
「おや?もう時間切れか……」
亀裂を見たフェリックスがそう言った。
「まだ全然話せていないんだけどなぁ……まあ、いっか。
これで最後というわけでもないし、今回は完全なイレギュラーなわけだし」
良く意味の分からないことを言い出したと思ったら、
俺が立っていた足場が突然消えて、俺はまっすぐ落下し始めた。
「君のことはこれからも面白く見させて貰うよ。ルイネス・アルストレア君」
フェリックスはそう言ってニヤッと笑った。
……ん?俺一度も名乗っていないよな?なんで俺の名前を知っているのだろう?
考え込んでいると、
頭痛がして右目に激痛が走った。その瞬間、フェリックスの隣にいたセラフという人物が周りに纏っていた黒いオーラが薄くなっていた。
オーラが薄くなり少しだけ顔が見えた。
「あれは……半長耳族?」
そこにあったのは、
白髪で、誰かに似ているような顔立ちをした可愛い半長耳族の子供の顔だった。
この顔を見ていると、なんだか胸がざわついてくる。
その半長耳族の子供は、目元に涙を浮かべて俺に何かを言ってきているようだった。あいにく俺の位置からは声を聞くことは出来なかったが、フェリックスがこれで最後ではないと言っていたから今度会えたときに聞いてみることにしよう。
「……あ、そうだ。
君は、魔界提督には気をつけておくことだよ」
フェリックスはそう言った。
魔界提督って、あの二人の英雄に出てくる魔界提督?なんで俺は気をつけた方が良いんだ?
こう考えている間に、視界は真っ白に染まっていった。視界が真っ白に染められる瞬間、フェリックスが不気味に笑っていたような気がした。
ーーー
目が覚めると、
目の前には岩山のような、どこかの山脈のような場所にいた。この場所は、見ていると何だか幻想的な物を見ている気がしてくる。
ここは、さっきまでいたところとは全く違う場所だな……って、さっきまでどこにいたんだっけ?なんだか、変な人と会った覚えはあるんだけどいまいち思い出せない。
考え込んでいると、
遠くの方から大きな咆哮のような物が聞こえてきた。
「グシャァァァ!」
咆哮と共に、
白銀の鱗を纏、銀白の三白眼の綺麗な竜が一体こっちに向かってすごいスピードで近づいてきた。
竜は、大きな翼を羽ばたかせながら俺の目の前に降り立った。降り立った竜は、俺を威嚇するように咆哮を浴びせてきた。
「グシャァァァ!」
俺は、その咆哮の圧に押されその場に腰をついた。竜は、俺を見下ろすように俺を見て口を開いた。
「・・・ーー・・ー・・・」
竜は俺に対して何かを語りかけているようだった。だが、人間語を話しているわけではないようで俺には何を言っているのか分からなかった。
「……?」
俺が言葉が分からず戸惑っていると、
竜は俺が戸惑っていることに気がついたのか話す言葉を換えた。
「ああ……これは通じるか?」
「……ええ、大丈夫です」
この龍、人間語も話せるのか……言葉を話せると言うことは、この龍は龍族なのか?
通常、竜は言葉を話せない。知能が低いからだ。だが、龍族は別だ。
龍族は、知能が高く戦闘能力も高い。竜と龍族の違いは言葉を話せるほどの知性と戦闘能力の違い。
しかし、さっきの言語は何だったのだろう?聞いたことがない言語だったな……。
「私が誰か分かるか?」
龍は唐突にそう言った。
俺には龍の知り合いはいないので答えはNOだ。
「いえ、知りません」
俺がそう言うと、
龍は大きな爪が生えた指を俺の右手の方を指さした。俺は、自分の右手を見ると、水色の石が手の中にあった。
「私は、それだ」
それ?
指をさしてるって事は、この石がこの龍!?
そういえば前にフレイが言っていたな……。
「竜系の魔物や龍族は、体の中に核となる魔石を持っている。高位魔術師の杖に使われている魔石は大抵が竜系の魔物の魔石を使っている」
この魔石は、この龍の魔石なのだろうか?
あれ?魔石を取り出せるのは、魔石を持っている対象が死んでからだったよな?じゃあ、なんでこの龍は俺の目の前にいるのだろうか?
「こ、この魔石があなた……ですか?」
俺が恐る恐るそう聞くと、龍はうなりながら翼を広げた。
「そうだ。私が死んだ後迷宮に保管されたと思っていたが、まさか……よりにもよってお前のような者の手に渡るとは」
ええっと……俺は相当嫌われているようだ。
会って間もないのにお前のような者って言われてる……何でだろう?
「あの……」
「なんだ?」
「何故僕は、あなたに嫌われているのでしょうか……?」
俺がそう言うと、
龍は不機嫌そうにフンッと鼻息を吹いた。
「それはお前自身の方が分かるだろう」
「……っ?」
俺がそう言うと、
龍は、大きく「はぁ」とため息をついた。
「お前、その右目は生まれつきか?」
龍は唐突にそう言った。
人族の目は大抵緑色だ。だが、俺は生まれつき右目が金色。
ヘルスとセリスは「そういう人もたまにいる」と言っていたので気にしてはいなかったが、龍に嫌われる理由がこの目なら悪い物なのかもしれないな。たまにもの凄い激痛がするときもあるし……。
「右目……ですか?ええ、生まれつきこんな色ですが」
「そうか、それじゃあ、その底無しの魔力量はどうだ?」
今度は、魔力量?
この魔力は、魔術を使う度に多くなっていくが、それは普通のことじゃないのか?
俺が考え込んでいると、龍が不機嫌そうに鼻を鳴らしたので早く答えることにした。
「ま、魔力量は、幼い頃から魔術を使っていたら増えました……この質問意味があるんですか?」
「……お前、自覚していないのか?」
龍は、俺を不審に思っているのか、
俺を睨み付けた。
「はい?得には……?」
俺がそう言うと、龍は「なるほど……まだコンタクトはないか」と呟いた。
そう呟いた龍の表情が少し明るくなったような気がした。
コンタクトが何かは分からないが、龍の機嫌が少し良くなったところを見ると良いことなのだろう。
「それならば、お前に一つ忠告をしておいてやろう」
「はい?何でしょうか?」
「白いヤツと黒いヤツには気をつけろ」
白いヤツと黒いヤツ?
俺は、龍に言われたことに既視感を感じた。
「どうしてですか?」
「白いヤツは、人をだますことに喜びを感じるようないけ好かないヤツだ。己のためならば、他を殺すことも厭わない自身で神などと名乗っているヤツだ。
黒いヤツは……口にも出したくない」
白いヤツは相当性格が悪くて、
黒いヤツは、この龍にとって相当悪いことをしたのだろう。
そういえば、この龍って名前とかあるのだろうか?あるなら聞いておきたい。あなたとかそんな呼び方は失礼かもしれないからな。
「なるほど分かりました……そういえば、あなたの名前を聞いても良いですが?」
「私の名か……まあ、教えても良いだろう」
龍は自身に問いかけた後、
一人で納得し、翼を大きく広げた。それと同時に意識が遠くなる感覚に襲われた。
「私の名は、リアム。
世界を見守りし原初の六大神の一人である」
俺はその発言と同時に意識が完全に途切れた。
薄れゆく意識の中であのリアムという龍が飛び立つのが見えた……。
ーーー
「うっ、」
俺は、激しい頭痛と共に目が覚めた。
目が覚めると目の前には、この迷宮に入る時に潜った大きな扉が目の前に立っていた。
あれ?
俺は確か……アリスと一緒に大きな部屋に入って、魔石を手に取ってそのまま……。
あれ?何かを忘れているような?
なんだか、大事なことを聞いた覚えがあるんだけどな……だめだ、思い出せない。
俺がそうこう考えていると、
後ろの方で大きな声が聞こえた。
「ルイネス!どこにいるの!」
アリスの声だ!
アリスが俺を呼ぶ声が聞こえる。
「ここです!」
「ルイネス!」
アリスが奥の方から走ってきた。
俺の目の前まで走ってくると、思いっきり俺の頭を殴った。
「どこ行ってたのよ!心配したじゃない!」
俺は殴られた頭を抱え込んだ。
すごく痛かったが、彼女が相当心配してくれたのが分かったので素直に謝ろうと思った。
「すみませんでした」
「分かれば良いのよ」
アリスは頬を赤らめながらそう言った。
「ああ……可愛いな」
「……ん?何か言った?」
「い、いえ!?何でもありません!」
つい口走ってしまった。
身体も精神も疲れ果てているから思ったことを口走ってしまう。
うかつに変なことを考えるのはやめよう。
それにしても、
俺は何故ここにいるのだろうか?アリスに聞けば分かるだろう。
「アリス。僕が何故ここにいるのか分かりますか?」
俺がそう聞くと、
アリスは、こっちが聞きたいと言うような顔をした。
「ああ……じゃあ、質問を変えます。
僕が、アリスのそばからいなくなったときの状況を詳しく教えて貰っても良いですか?」
俺は、アリスからあの部屋で起こった状況を詳しく教えて貰った。
俺が魔石を手に取った瞬間床が円形状に光り始めたらしい。その後すぐに、視界全体に光が覆ったらしく前が見えなくなったらしい。
視界が良好になり、俺が登っていた台座の方を見ると俺の姿が無かったらしい。アリスは、俺の姿が見えなくなった瞬間来た道を無理矢理こじ開けて入り口まで戻ってきたらしい。
状況は分かった。俺がここにいる理由は分からないままだが、アリスが無事なら問題は無いだろう。
あの部屋で手に取った魔石も俺の右手の中にあるままだし、もう十分だろう。
ここから出よう。
「さて、二人とも扉の前に戻ってきたわけですしこの迷宮から出ましょうか」
「そうね、今日はルイネスのサポートで疲れたわ」
アリスはそう言って肩を回した。
今までは俺が助けることが多かったが、今回は、アリスに助けられてばかりだったな。
「アリスも成長したのですね」
俺は、目尻に涙をためながらそう言った。
彼女と出会ってから四年近く経ったが、彼女の成長は著しい。
俺が感傷に浸っていると、アリスは拳を強く握りしめて俺を殴った。
「ほら、バカなことを言っていないで帰るわよ」
「あ、はい」
俺が立ち上がろうとした瞬間、
足に力が入らずその場に倒れ込んだ。
「あ、あれ?足に力が……」
足に力が入らない原因はすぐに分かった。
どうやら、俺の魔力は切れる寸前らしい……あれ?俺の魔力って回復していなかったっけ?
……ん?なんで今こんなこと思ったんだ?
あの部屋に入ったときも魔力は切れそうだったはずだ。なんでこんなこと思ったのだろうか?
俺が考え込んでいると、アリスが、心配そうに俺をのぞき込んできた。
「大丈夫?具合悪いの?」
「……あ、いえ。大丈夫ですよ」
これだけ心配そうな顔をしているアリスは久しぶりに見る。
やっぱり、アリスは可愛いな。
そう思っていると、アリスは俺の頬を強く引っ張った。
「ほら、変なことを考えていないで肩を貸すから腕を回しなさい」
「はい、お願いします」
俺は、アリスの肩に手を回し立ち上がった。
俺たちが扉を開けようとすると、扉が向こう側から開かれた。
開かれた先には、ライリーが剣を構えながら立っていた。
「おや?アリスとルイネス。
ちょうど、夕暮れになった時に戻ってきたな。上出来だ」
ライリーは、構えていた剣を鞘にしまった。
俺とアリスは、ライリーの元まで歩いて行き飛びついた。
「ライリー!!」
「ただいま戻りました!」
ライリーは動揺していたらしいが、今は関係ない。
この迷宮は、低位らしいが、かなり大変だった。爆発するゴーレムや、謎の部屋も大変だったが、一番はやはり罠だろう。
アリスはほとんどの罠を回避していたのに俺はほとんど全ての罠に引っかかった。
何か回避方法でもあるのだろうか?あとで二人に聞いてみよう。とりあえず今は、フカフカのベッドで眠りたい。今日は疲れた。
こうして、
俺とアリスの初の迷宮攻略は終止符が打たれた。




