第二十三話:「一年半の変化」
俺がブルセルに来て一年と半年が経った。
一年半も経つとこの辺りの地理も理解でき、一人でも行動できるようになった。
アリスは、この一年半で初級魔術を複数習得することが出来た。アリスは土魔術が苦手らしく初級魔術すら使うことが出来なかった。
魔力量は俺ほど多くはないが、魔術を使うのに問題はないくらいには持っているようだ。
ライリーの方も初級は難なく出来てはいたが、苦手な魔術も多かった。アリスは一属性だけだったが、ライリーは土魔術と風魔術の二属性が苦手なようだった。
魔力量もさほど多くはなく数回魔術を使うと魔力切れを起こしていた。本人は、「魔術は必要最低限さえ使えれば問題はない」と言っていた。
二人に、俺が魔力量を増やすためにやっていた練習法を教えたが効果はなかった。俺やアスフィには効果があったが二人にはなかった。何か条件でもあるのだろうか……。
剣術の方は特に変化はない。
ライリーの稽古を受けヘルスよりはわかりやすかった。現在は、アリスとの対の稽古をやっていた。
俺は、木剣を強く握りアリスに向かって斬りかかった。アリスは、俺の剣を回避し、回避際に俺の背中に剣を当てた。
「ルイネス。剣を握ることに集中するな。
目の前に居る相手に意識を向けろ」
「はい!」
「アリス、相手が下だと思って侮るな。
相手がなんの動きをしてきても対応出来るようにしておけ」
「分かりました!」
アリスは元気よく返事をして俺に斬りかかってきた。俺は、アリスの剣を受け止めたが、剣を受け止められた瞬間俺の腹部を蹴った。
「グヘッ……!」
俺は、横に少し蹴り飛ばされた。
痛みの余り俺は体勢を治すことが出来ずそこで対は終了した。
「そこまで!」
「ありがとうございました」
「うっ……あ、ありがとうございました」
「ルイネスは魔術は出来るのに剣はダメダメね!」
「はは、耳が痛いです」
俺は一度もアリスに剣を当てることが出来ていない。アリスはヘルスと同じように天才なのだろう。もちろん努力している。それは、近くで見ているのでとてもよく分かる。
「アリス、
お前は今日から閃神流中級だ。
お前ならすぐに上級に上がることが出来るだろう」
「はい!分かりました!」
中級かそれはすごい。
剣術は魔術と違って位が上がりにくいからな、アリスの歳で中級というのはかなり珍しいだろう。
「ルイネス」
「はい」
「お前は魔術の腕は一流以上だ。だが、剣術の腕はまだまだだな」
「はい……」
「お前は剣を握っているとき頭で物事を考えようとしている節がある。それでは、感覚で剣を振っている奴らや戦闘経験が豊富な相手には太刀打ちすることが出来ない。
お前の頭で考えるということは大事だがそればかりにならないよう感覚なども使って相手よりも一歩前へ出られるようにしておけ」
考えるな感じろというヤツか。
頭で考えていると反応が鈍ってしまう。だから、時には感覚に頼るのも大事なのだろう。
今後の稽古ではそこの辺りを意識してやっていくとしよう。
アリスは九歳になり礼儀作法を学び始めた。
礼儀作法の先生はアールの礼儀の先生をやっていた人物で名をエンネという。
「ルイネス様……ご相談したいことがあります」
ある日、エンネが突然俺の部屋を訪ねてきた。
俺は、次の日の授業の準備をしていたが神妙な顔をしたエンネが気になり話を聞くことにした。
「ルイネス様は、アリス様ととても仲がよろしいですよね?」
「はい、そうだと思いますが……」
「私は、アリス様に礼儀作法を教えています。ですが、アリス様は礼儀作法が面白くないのかすぐに怒って出て行かれてしまうのです」
ああ、なんとなく分かるな。
アリスは暇が嫌いだ。恐らくアリスにとって礼儀作法の授業は暇なのだろう。
「アリス様はルイネス様の授業はしっかりと受けていますよね?一体どうやってアリス様を真面目に受けさせることが出来るのですか?」
「ええっと……特に何もしていないですね。
僕の場合は、アリスの方から学びたいと言ってきたので集中して出来るのだと思います」
「そうですか……」
エンネはがっかりしたように下を向いてしまった。
この人は本気で困っている。俺が出来ることはないだろうか……。
「なにか、僕に出来ることはないでしょうか……?」
「そうですね……あっ!
ルイネス様も一緒に受けてみるというのはどうでしょうか?」
俺も……一緒にか。良い考えかもしれん。
家ではアスフィがセリスとニーナに礼儀作法を教えて貰っていたけど俺はしなかった。これは良い機会かもしれないな。
ヘルスは、「別の環境で学べることを学んでこい」と言っていた。礼儀作法もその中に入るだろう。
アリスも俺が一緒に受ければ少しはマシに思ってくれるかもしれない。
「そうですね、僕が一緒に受けることでアリスが真面目に取り組んでくれるのなら良いかもしれませんね」
「本当ですか!では、早速明日からよろしくお願いします」
「はい、分かりました」
ーーー
翌日から俺も礼儀作法の授業に加わる事になった。
アリスは、授業が始まる寸前まで嫌がっていたが、俺が手を引いて連れて行くと渋々だが、授業を受けてくれた。
「いいですか、礼儀作法という物は貴族の生活に多い手なくてはならない物です。アリス様も、いずれ他の貴族と関わることが多くなると思います。しっかりと学んでください」
「……分かったわ」
アリスはめんどくさそうに返事をした。
アリスにとって礼儀作法はやはりつまらない物なのだろう。
「アリス様、お召し物の裾を少しつまみ、膝を適切なかくとまで曲げて礼をするのです」
「こ、こう?」
「違います。もう少し深くです」
「こう?」
「はい!そのまま頭を少し下げて礼をしてください」
アリスはエンネに言われたように礼をした。
今のアリスを見ていると素直に聞いていると思う。
「お見事です。アリス様がこんなに言うことを聞いてくださるのは初めてです」
「ただの気まぐれよ!」
「それでも十分です」
エンネはアリスが素直に授業を受けてくれてうれしいようだ。
アリスもめんどくさそうだがやろうとしている。俺が一緒ならやってくれる。それが本当なら俺もちゃんと受けよう。
礼儀作法という物は俺には必要ないかもしれないが一応学んでおいて損はないだろう。
この一年半の間にフレイからの手紙が帰ってきた。
『拝啓
ルイネス・アルストレア様。
いかがお過ごしでしょうか。私は今、アルレシア大陸北方の入り口シンポートの街にいます。
私はこれから私の生まれ故郷のセフラグ族の村に行きます。アルレシア大陸は非常に危険な土地です私はもう生きては帰られないかもしれません。冗談です。
ヘルスさんに聞きましたよ。
リエイト領の領主の家に留学しているのですね。
ルイは賢いですがすべてを自分で何とかしようとするところがあります。この留学はルイにとってとても有意義になることでしょう。
留学を通してルイがどんな成長を遂げるのかを楽しみにしておきます。あと、ライリーさんにはよろしく言っておいてください。
誘拐されたという話は、ルイならばその辺りのゴロツキくらいなら片手でひねる事が出来ると思うので特に心配はしていないです。
魔物の件は……正直、私には分からないです。
私も冒険者をやっていたり学院にいたりして魔術的なことには詳しい気でいたのですが、ルイが言っているような話は聞いたことがありません。
魔術ギルドに行けば何か情報が集まっているかもしれません。
私の方でも調べてみるので進展があり次第報告します。
それでは、私は旅に戻るのでルイも勉強頑張ってください。フレイ・セフラグ』
フレイは無事にアルレシア大陸まで着いたのか、
アルレシア大陸は危険な土地と聞くからくれぐれも安全に行って欲しい。
フレイにも分からないとなるといよいよ分からないな。
アリスは、最近忙しそうにしている。
この国の風習である誕生日パーティまで一年を切り、屋敷内は準備に大忙しにしている。
ここ最近、俺の魔術の授業の時間を少し削りアリスの礼儀作法の授業の時間が多く取られている。パーティには、多くの貴族が来訪するため、礼儀をしっかりと出来るところを見せなければいけないんだとか。
アリスは、めんどさりながらも真面目に取り組んでいた。
俺もアリスのサポートが出来るように一緒に礼儀作法の授業を受けたり、魔術の授業などで苦労を掛けないようにしたりといろいろやった。
ある日、アリスが授業を飛び出してどこかに行ってしまった。俺は探しに出て屋敷の隅にある貯蓄用の倉庫の中にいた。
アリスは元気がないのか隅の方でうずくまっていた。
「アリス、大丈夫ですか?」
「大丈夫よ、ちょっとストレスがたまっているだけ」
アリスは最近授業ばかりで出かけることが出来ていない。
森に行ったときのアリスはとても生き生きしていた。戦うことをしていないためストレスの発散が出来ていないのだろう。
「アリス」
「なによ?」
「十歳のパーティが終わった後、僕が森かどこかに連れて行ってあげます。一緒に魔物を倒したり冒険したりして遊びに行きましょう」
「ほんと?」
「ええ、本当です」
「それなら……頑張るわ!」
アリスに元気が戻った。
屋敷の中に戻りエンネの授業に戻った。
俺はこの一年半で例の本の文字の解読も進んだ。
この世界の文字の解読は一文字一文字の意味を考えて法則性を見つけ出す必要がある。
この謎の文字は、きちんとした法則性があった。
その法則性に気がついたときだんだんと読めるようになってきた。この文字は人間語と酷似している点が多い。
文字の種類が人間語とだけ一緒だった。
そのおかげで、あの本を読み解くことが出来た。
【魔神討伐の真相】
『我、聖帝龍王ディエードの名において、
第二次人魔戦役時に起こった事の真相をここに綴る。
魔神との最終戦のさなか、我々の前に白髪の男が現れた。その男は中に浮いていた。
男は、白い髪に左右で色の違う瞳、魔術師なのか手には杖を握り、灰色のローブを着ていた。
男は、こう言った。
「私は、魔神を倒すためにやってまいりました。とある事情で魔神を私の手で倒さなければなりません。あなたがたの……特にディエード様。あなた様のことは授受承知しております。
あなた方の悲願を邪魔をする気はありません。ただひとつお願いがございます。
私を共に魔神の元へ連れて行ってもらえないでしょうか?」
その男は、魔神に対して激しい怒りを向けていた。
男が言ったことに我々は疑問に思った。
この男は何故突如として我々の前に現れたのか、この男が言ったことは事実なのだろうか、この男は何故我のことを知っているのかと。
疑問に思って我々は悩んだ。しかし、魔神と戦う上で戦力はとても重要だ。少しでも戦力は増やしておきたいと考えたことと、男の魔神に対する怒りを理由に我々はその男の動向を許可した……』
本を解読しようとしたときは気がつかなかったが、本はここから先は汚れや劣化で読むことが出来なかった。
読める範囲で分かったことは、
この本を書いたのは聖帝龍王ディエードだということ、
魔神討伐は三大聖神だけでなされたことではなかったということ、
白髪の男が聖帝龍王ディエード達に協力したということくらいだ。
魔神討伐に裏話があることは正直面白かったし、続きが気になる。だが、俺が最近気になっていることの進展はなかった。
白髪の男の外見的特徴が誰かと似ているような気もするが……分からないな。
この本を売った商人が俺の見た光と似たような物を発していたというので進展があるかもしれないと思ったが、関係はなさそうだ。
この本をまた見つけたら読んでみることにしよう。
ーーー
俺は魔術ギルドに向かった。
向かった理由は、フレイの手紙に魔術ギルドなら何か情報があるかもしれないと書いてあったからだ。
魔術ギルドは一年半前にアール達と行ってから一度も来ていなかったが、あの時とほとんど変わっていないように見えた。
俺が受付嬢のお姉さんに話をしたところギルド長があってくれると言うことになったのでギルド長の部屋に向かった。
部屋に入ると、一年半前と何も変わらない姿のディオバルドがいた。
「これはこれは、ルイネス様お久しぶりですね」
「はい、あの時はギルドカードの発行ありがとうございました」
いえ、あの時は我々にとっても有益だと思ったからでございます。なのでそうかしこまらずに。
それで、今日はどういったご用件で?」
「はい、私が住んでいたシエラ村で度々目撃した光について知っていることを教えていただきたいのです」
「光?」
「はい、緑色の光が大地の裂け目より漏れ出ているのを度々目撃しました。その光の周辺には、この大陸には生息していない魔物が突如として現れる事があったのです。
リエイト領領主のアルバート様も商人が目の前に突如として現れた時、似たような白い光を目撃しております」
「なるほど……申し分かりませんが、我々魔術ギルドにそういった情報は入ってきておりません」
「そうですか……」
無駄足だったか、
魔術ギルドでも確認できていない事って一体あれはなんなんだ?
考え込んでいるとディオバルドが口を開いた。
「ですが、私個人としてはアルバート様が見たと言っている光には心当たりがございます」
「え?」
アルバートの見た光は色は違うけど俺が見た光に酷似している。ディオバルドの心当たりがその光と同じ物ならばなにか進展が出来るかもしれない。
「一体何です?」
「ルイネス様は魔法陣が発動したときの光景を見たことがありますか?」
「いえ、ありませんが」
「魔法陣という物は、使用者の魔力を魔法陣に移して中の術式を発動させる物です。その時に、魔法陣は白い光を放ちます」
「つまり、アルバート様が見た商人は魔法陣を使って現れたと言うことですか?」
「はい、私はそうだと思っています」
なるほど、魔法陣の光か。
それがそうなら、俺が見た光もそれだったかもしれないな。色は違うけど、光が発生するという観点からしたら同じだ。
「なるほど……ありがとうございます。良いことが聞けました」
「それは良かった」
俺は魔術ギルドを後にした。
ディオバルドから貰った情報は良い物だった。ヘルスにも伝えたいが俺が手紙を出すのはダメなのでアールにでも頼るとしよう。
フレイにも伝えておいた方が良いだろう。今はアルレシア大陸に入ってしばらく経っているから手紙は届きにくいかもしれないな……。
翌日、俺は街に出た。
街に出た理由はアリスへのプレゼントを買うためだ。
俺とアスフィの誕生日パーティではいろいろなプレゼントを貰った。貴族のパーティではどうか分からないが、変わりは無いだろう。
俺は、街にある武器屋や防具屋などアリスが好みそうな所を集中的に回った。
「なんだボウズ?良いとこの格好してんのに武器なんて興味あるんか?」
俺が武器屋に入ると店の店主が声を掛けてきた。店主は珍しい物を見たような顔をして俺を見ていた。
「はい。友人にプレゼントをしたいと思いまして」
「ほぅ、今時武器を欲しがるような子がいるんかね……それならそこの剣なんてどうだ?」
店主はそう言いながら指をさした。
指をさした方を見ると、壁一面に剣が掛けられていて、その中の一本に指が向いていた。
その剣は、剣先が鋭く剣からは光を鋭く反射して、持ち手付近は綺麗な装飾がされていて傍から見ても見事な一品という感想を持った。
「綺麗な剣ですね」
「ハハハ、そうだろう。
その剣はこの店で一番の代物だからな」
「おいくらですか?」
「金貨六枚だ」
うん、高い。
もう少しやすければプレゼントにちょうど良いかもしれないのにな……金貨六枚はだいぶ高い。
「それは、高いですね」
「まあ、それに見合った物だからな」
ここの剣はアリスならいつでも手に入るからな……他に良い物。
何かないものか?
アリスが喜ぶ物……以前ヘルスに貰った剣は魔力付加品だ。そう簡単に手に入る物ではないだろう。しかし、父親から貰った物を上げるのも気が引ける。
よって、あの剣を渡すのはなしだ。
俺はあの時、みんなに何を貰った?
みんな俺たちが喜ぶ物を各々が考えて渡していた。特にヘルスには剣を志のような物を貰った。人えのプレゼントというのは、物の価値ではなくあげる本人の意思が重要なのかもしれない。
俺も、アリスが喜ぶ物をあげたい。それと同時にヘルスやフレイに貰ったような志も。
俺はあの時貰った物で一番うれしかったのはなんだ……やっぱり、あれだよな?俺はあの時あれを貰って誇らしく感じた。
あの時感じた物をアリスにも伝えてあげたい。ちょうど、条件も満たしていることだしプレゼントはあれにするか。
俺は、アリスに渡すプレゼントを決めた。そして、一年の月日が経った……。




