第二十二話:「授業」
あれから二日が経った。
あの後すぐにアールの派遣した捜索隊が到着して俺たちは、ブルセルに戻ることが出来た。
俺たちを送ってくれていたハリルにはスロウ家からの優先商売券を発行してくれたらしい。ハリルは俺を見つけると「ありがとう。ボウズのおかげでこの先の商売が楽になったよ」と言ってきた。
俺個人としては直接お礼をしたかったが、今の俺では返せる物がないので素直にアールに感謝した。
アールはこの二日間、事後処理をしていた。俺は、あの部屋で聞いた会話内容をアールに伝えた。
「今回のことはどうやらザルギスの旦那という人が仕組んだことのようです」
「やはりザルギスだったか」
「はい。あの男達はザルギスという人に雇われていただけらしいです」
「なるほどね……理解したよ」
「あの……ザルギスって一体誰なんですか?」
「ああ、ザルギスという人物はアスト王国の現国王の相談役として国の中で強い権力を持っている男だよ。アスト王国の裏で暗躍している悪いやつさ」
裏で暗躍している悪いやつね……何でそんな人がアリスを攫おうなんて思ったんだ?
「なんでそんな人がアリスを?」
「どうやら、あの男の趣味にアリスがはまったらしい」
「趣味って……」
「ああ、あの男は幼い女児を攫って奴隷にするんだ。性的な奉仕をさせるためにね」
ロリコン……。
ザルギスという男はとんだ趣味をお持ちなようで、それに性的なって……アスト王国の貴族達は前世の世界では一発アウトのようなヤツばかりか。
「それは……危険な人ですね」
「そうだね。まあ、王都にいるような貴族の大半が特殊な性癖を持っているからね」
「アール様は普通ですよね?」
「……ふふ」
アールはいつものように笑った。
なるほど、この人もか。
俺は、アールと別れた後自室に戻り、作業に取りかかった。
作業というのはアリスとライリーの魔術授業の資料作成だ。
アスフィに教えていたときは、教本が手元にあったのとフレイにアドバイスをもらえていたため難なく出来ていた。だが、今回は手元に教本がなければフレイも居ない。
家から教本を持ってきた方が良かったかな……いや、あれは妹達に有効活用してもらおう。
俺はひとまず書庫に赴くことにした。
書庫は前にも行ったが、あの時は気になる本を取ってすぐに出たのでほとんど見ていなかった。俺が書庫に行くとアールが本を読んでいた。
「おや?どうしたんだい?」
「アリスとライリーの授業のために教本が必要になりまして、探しに来たんです」
「ああ、魔術教本ならあそこの棚にあるよ」
アールはそう言って書庫の端にある棚を指さした。
俺はその棚まで歩いて行った。
「ええっと、魔術、魔術……あった!」
俺が手に取った魔術教本は、家にあったのとは別の物だった。
それもそのはず、この世界には全く同じ本は存在しない。この世界では印刷技術はほとんどな存在しない。なので、世に出回っている本はすべて手書きだ。すべて手書きのため本一冊の値段が高い。
誕生パーティの時、セリスから送られた本と同じ物がこの街の本屋に売れていた。あの本は店では、金貨七枚で売られていた。
金貨七枚というと日本円にして七百万円だ。とても高い。
金額を抜きにしても、魔術教本という物は書かれた国や地域ごとで内容が変わるらしい。家にあったのはセリスが実家から持ってきた物のため神聖魔術の記述があった。だが、この教本には神聖魔術の記述は一切ない。
攻撃魔術や治癒魔術に関してはちゃんと書いてあったためこれを使うことにした。
俺は教本を取って書庫を出ようとしたときアールに呼び止められた。
「目的の物は見つかったかな?」
「はい!ちゃんと」
俺はそう言って教本をアールに見せた。
「君は超級魔術師だろ?教本なんて必要ないんじゃないか?」
「いえ、僕は普段無詠唱で使っているので詠唱を……忘れてしまいまして」
「クスッ。
ああ、そうかい。君は本当に面白い」
なんだか馬鹿にされた気分だ。
仕方がないだろう。一度詠唱して使ってしまえば後は無詠唱で使えるんだから。
「それにしても、無詠唱か……それは、アリスでも出来るのかい?」
「どうでしょうか……僕の家にいたアスフィに教えたときは使えていたので可能性はあると思います」
アスフィに教えたときはすんなり出来るようになっていた。俺の時も急に出来ようになった。フレイは出来ないようだったので何か条件があるのだろうか?
「まあ、よろしく頼むよ。
無詠唱は無理でも自分の身を守れるくらいには」
「ええ、もちろんです」
俺とアールが話していると一人の女性が書庫に入ってきた。
その女性はアリスと同じような赤髪で目元がキリッとしていた。そして、うちの母様よりもお胸が大きい。
「やあ、リリス。
帰ってきてたんだね」
「ええ、あなた。つい今ほどね」
あなたということは……この人がアリスの母親か。
この屋敷に来てから母親のような人を見ないと思っていたけど出かけていたのか。
「ご実家の方では、しっかり休めたかい?」
「ええ、とても。
それで、そちらのお子さんは?」
リリスと呼ばれた女性は俺と目線を合わせるようにしゃがんできた。
「君。お名前は?」
「ル、ルイネス・アルストレアです」
「アルストレア?」
リリスは俺とアールの顔を見回した。
アールは俺の頭に手を置いた。
「この子がヘルスとセリスの息子。ルイネスだよ」
「そう、君がヘルスさんとセリスのね……」
「よ、よろしくお願いします」
リリスはそっと腕を回してきた。
なんだ?チョークスリーパーでもされるのか?
「この子……可愛いわ!」
リリスは思いっきり俺に抱きついてきた。
「えっ?ちょ……」
俺は突然抱きつかれたことに戸惑いを隠せないでいた。
この人、結構力つよ……って、当たってる。リリスさん。あなたのすごい物が当たってますよ。
この人が母親なら、アリスも成長すればこれくらい……って、七歳相手に何を考えているんだ!
この感触はとても……うっ、苦しい。
「く、苦しいです」
「ああ、ごめんなさい」
リリスは急いで俺を離した。
「ごめんなさい。力が強かったわね」
「ハァハァ……大丈夫ですよ」
「それは良かった。しかし、君は可愛いわね。さすがはセリスさんの息子ね」
この人セリスのことを知っているのか。そういえばヘルスが地方騎士の職を貰うとき一緒に来ていたんだっけ?
「母様とは仲が良かったのですか?」
「ええ、とてもね。
彼女とは少しの間しか一緒に居なかったけどいろいろ話してね。子供が生まれるときはどんな感じなのかとか、生まれた後は大変なのか?とかね」
この家にヘルス達が来たときはセリスは俺を身ごもっている時のはずだからセリスにとってリリスという女性は、良いお手本になっただろう。
「そうなんですね。リリス様は母様にとってきっと良いお手本になったと思います」
「そうだとうれしいわ」
リリスは俺の頭をそっと撫でた後、どこかへ行ってしまった。
なんか、アリスそっくりの明るそうな人だったな……セリスにも似ている。仲良くなるのも当然だ。
「アリスそっくりの方ですね」
「そうだね。アリスは僕よりもリリス似だね」
リリス似ということは、あの暴力的な物を受け継いでいる可能性もあるのか……将来有望だな。
「リリスは男の子が好きなんだ」
アールは突然、神妙な顔をしながらそう言った。
何か悲しいことを思い出しているような暗い顔をしていた。こんな顔をしているアールを見るのは初めてだ。
「僕達の間には、アリスの他に二人の息子が居たんだ」
「え?」
そんな人この屋敷で一度も見ていないぞ?
「この屋敷では一度も見ていませんよ?」
「ああ、そうだね。今はここに居ない」
「ではどこに……?」
「息子の一人は次期当主である兄の家に。もう一人は……死んだ」
「それは……申し訳ないことをお聞きしました」
一人は留学?中でもう一人は亡くなった。
一人は留学中ならすぐに会えるんじゃないか?
「息子さんの一人とならすぐに会えるのではないですか?」
「いや、僕達は息子とは会えない。そういう決まりなんだ」
「決まり?」
「ああ、僕達三大貴族は、次期当主が決まるとその家に息子を預けないといけないんだ。永遠にね」
「それは……酷ですね」
「ハハ、そうだね。君もいつかは行かないといけなくなるよ。なんせ、エルア家の次期当主はヘルスの弟だからね」
……え?俺もなのか!?
ヘルスは確かにエルア家出身だが今は違う。その対象には入らないんじゃ……ホントに俺も?
「父様はもう家を出ていますよ?」
「ヘルスは家を出ていてもエルア家の一員だ。だから、三大貴族の決まりには逆らえないんだ」
「そんな……」
ヘルスさん。
そんな重要な事はちゃんと教えてくださいよ……。
俺が暗い顔をすると、アールは笑いがこらえれないようでお腹を抱えていた。
「……クッ、ハハハ。
すまない、冗談だ。君はエルア家に行かなくても大丈夫だ」
……えっ?
行かないで良いの?よかったぁぁぁ。
この人は本当に人をからかうのがお好きなようだ。一度懲らしめようか?
「アール様。これから夜道を歩くときは足元に気をつけてくださいね?」
「おやおや脅しかい?兵士でも呼んでこようか?」
「冗談です。すみません」
アールは悪い顔をしてまた笑った。
俺はアールに挨拶をして書庫を出た。教本を探しに来ただけだったが、なんだかとても疲れた。
ー翌日ー
リエイト領最大の都市。
防衛都市ブルセルに存在するスロウ家の屋敷のとある一室。
広い部屋に長い机と数個のイスが置いてある部屋。そこには、とある超級魔術師の授業を受けようと多くの人が集まっていた。
今回の出席者はアリスお嬢様、ライリー王級剣士様、アルバート現当主様、アール次期領主様、リリス次期領主夫人様、屋敷の使用人方々数名。
リエイト領だけでなくアスト王国においてでも、このような上級階級の方々が集まるのは王都にある王宮やパーティ以外では希である。
今回、魔術授業を開催したのは、若くして超級魔術を習得し、スロウ家現当主の屋敷に留学しに来た魔術師。ルイネス・アルストレアだ……。
……ん?
何この人数?授業を受けるのはアリスとライリーだけって話じゃなかったの……?
アリスとライリー以外は今回だけと言うことらしいが、この人数相手に授業をするとなると、とても緊張する。
「えっと……それでは、これより魔術の授業を始めます」
「はい!」
アリスは元気に手を上げて返事をした。
他の面々も俺の方を見てきている。この人数の目線を感じるのは本当にキツイ。
「今回は初回と言うことで簡単に魔術とはどういう物か、魔術を使うことの注意事項と共に簡単な魔術の詠唱をしていきましょう」
俺はそう言って魔術の注意事項と『水弾』の詠唱を書いた紙をみんなの手元に配った。
人数分用意できていたのは、アールに言われたからだ。
昨日、自室で準備をしているときアールが部屋まで来た。
「ルイネス。何をやっているんだい?」
「明日の授業の資料作成をしていました」
「資料?」
「はい。魔術の注意事項や初級魔術の詠唱を書いた資料を作っています」
「では、それをいっぱい用意しておくといい」
「え?それはどういう?」
「明日になれば分かるよ」
こんなやりとりが昨日あったため用意することは出来ていたが、意図は分かっていなかった。
こんなに来るならちゃんと言って欲しかった。簡単な気持ちでやろうとしていたのにここまで来てしまったら簡単な気持ちでは出来ないじゃないか……。
俺は全員に配り終わった後、
授業を進めた。
「アリス。
魔術を使うためには何が必要だと思いますか?」
「……魔力?」
「はい。魔力はとても重要な物です。
魔術は魔力の性質を変化させて使う物です。他には何が必要だと思いますか?」
「……分からないわ」
「それは、魔力を制御するための集中力と魔術の性質を理解するための理解力です」
「……?」
「魔術を使うときには魔力を消費します。ですが、過度に魔力を使ってしまっては魔術が暴走して周りにも被害が及びます。僕も実際、魔術を暴走させて家を壊したことがあります」
「クスッ」
俺がそう言うとアールが静かに笑った。
あの人はどうやら、俺の失敗談が好きなようだ。
「魔力を使いすぎると魔力切れを起こしてしまいます。魔力切れを起こすと何が起こるか知っていますか?」
「知らないわ!」
「気を失ってしまいます」
「危険じゃないの!」
「そうです。魔術とは危険な物なのです。だから、魔力切れを起こさないための制御が大事なのです。ここまでは良いですね?」
「大丈夫よ!」
アリスは元気良く返事をした。
本当に分かっているのだろうか……。
「次に必要なのが性質を理解することです」
俺は右手の指先に小さめの炎を作った。
「魔術を使うには詠唱という物が必要です。
詠唱は、魔術の威力、射程範囲、射出速度の調整をするための物です。ですが、それと同時に魔力の性質を変化させています。
魔術の性質を知っているのと知らないのとでは同じ魔力量でも威力が段違いに変わります」
左手にも大きめの炎を作った。
「右手が適当に作った炎。
左手が、どう変化させるのかを考えながら作った炎です」
「ほう」
「なるほど」
このことには各面々驚いているようだった。
これに気づくのは、無詠唱を使う俺や、短縮するために詠唱を研究しているフレイのような希な魔術師だけだろう。
アリスだけはよく分かっていないようだった。
「ここまでが魔術を使うに当たっての注意事項です」
俺がそう言うとみんなが拍手をした。
「なるほど。
ルイネス。君の魔術の破壊力が高い理由はそれだったのか」
「はい。僕の場合は無詠唱で威力設定などは勝手にやってくれるので何を使いたいのか考えるだけなんですけどね」
「君の無詠唱を一度みんなに見せてはどうだい?」
確かに、ここで見せたのはアリスとライリー、それにアールだけだ。
ここは一度、俺の秘伝の技を見せておこうか。
「そうですね。
では、外に移動しましょうか」
俺たちは屋敷の中央にある庭まで出た。
庭には、大きい気が一本生えており、通っていた高校の中にはを連想させる。
「これから大きめの魔術を使いますので後ろに下がっていてください」
俺の呼びかけと共にみんな後ろに下がった。
今回使うのは、複合魔術の『砂嵐』だ。
「それでは始めます」
俺はフレイに貰ったロッドを上に掲げた。
「『砂嵐』」
魔術の名前を言わなくても使えるが、全員に何を使うのかを知らせるために名前を言った。
俺が魔術を使うと目の前に砂煙が発生した。
砂煙は徐々に渦巻いていき、数秒経った頃には大きな砂嵐になっていた。
「これが無詠唱魔術です」
俺が後ろを向くとみんなが唖然としていた。
屋敷の中の使用人達も窓から顔を出して見ていた。
「こ、これは……」
「……すごい」
アルバートやリリスも驚いていた。
アールは悪い顔を、アリスは何故か誇らしげな顔をしていた。
「これくらいで良いでしょう」
俺は魔術を解いた。
魔術を解くとアルバートが近づいてきた。
「ルイネスよ」
「なんでしょうか?」
「お前……銀髪の男とはあった事があるか?」
銀髪の男?
それは、アルバートが本を買ったという怪しい商人のことだろうか?
「いえ、あった事はないです」
「そうか……ならばよい」
「アルバート様、それは本を買った怪しい商人の事でしょうか?」
「お前……何故知っている?」
「アール様から聞きました」
「なるほど。
あの商人はわしの目の前に突然現れて突然消えた。その時に魔術のような物を使っていたのかもしれない。だが、詠唱は唱えていなかった。
お前が無詠唱を使ったとき、あの商人も使っていたのではないかと思い聞いてみたのだ」
「なるほど……分かりました」
突然現れて突然消えたか……ん?何か引っかかる。
何かと同じような……あっ!森で見た魔物達と同じだ。あの魔物達は他の大陸から突如現れる。
「アルバート様。
その商人が現れたときや消えたときに何強い光のような物を見ませんでしたか?」
「光……ああ、確かに白い光のような物を見た気がする」
白い光……?
森で見たのは緑の光だ。じゃあ、別物なのか?
「他には何も見ていないですか?」
「ああ、それだけだ」
「そうですか……ありがとうございます」
何かが現れるとき、急に強い光が発生する。
魔物の時や謎の商人の時その両方で同じような光が発生している。
これは一歩前進だ。
俺がアルバートと話しているとアリスが近づいてきた。
「お爺様。お話は終わった?」
「ああ、アリスもう良いぞ」
「ありがとう。お爺様!
ねえ、ルイネス!私も魔術を使ってみたいわ!」
アリスは俺の魔術を見て自分も早く使ってみたいようだ。
やってみたいならさせてやるべきだろう。
「いいですけど、一つ注意があります」
「なによ?」
「恐らくアリスは発動できないと思います」
「どうしてよ!」
「魔力量が足りないからです」
「……どういうことよ!」
「魔力というのは……」
俺は、魔力について話した。
魔力は消費すればするほどその量が増える。
「……ということなんです」
「なるほど!」
ああ……これ分かってないやつだ。
「まあ、物は試しにやってみますか」
「そうね!」
俺は、庭の奥の方に土魔術で的を作った。
的は、弓道で使われているような丸い的を作った。
「いいですか、僕が一度あの的に向けて詠唱をします。
二人は、僕が言った詠唱を繰り返してください」
「分かったわ!」
「了解した」
俺は、手を的に向けた。お手本なので杖は使わないことにした。
今回は詠唱をするので思い出しながら詠唱をした。
「偉大なる水の王子よ 大いなる恵みをこの身に与え
堂々たる存在に力を見せつけろ
さすれば この身を持って仇敵に力を示さん『水弾』」
足から魔力がこみ上げてくる物を感じながらそれを手に集めた。
手に集まった魔力は水に変化し球状に変化した。俺は、それを目の前にある的に向けて思いっきり放った。
放った水弾は勢いよく飛んでいきバシッ!という音を立てながら的を粉砕した。
「おお」
「ルイネス……やっぱりすごいわ!」
アール達も「これは見事だ」と言っていた。
俺の得意魔術はこれではないが魔力制御の練習のおかげで魔術の威力向上をすることが出来た。
「ルイネス!私もやりたいわ!」
「そうですね、やってみましょうか」
アリスが俺の立っていた場所に立ち、俺はもう一度的を作った。
「良いですか、
魔術を使うときには魔力の流れを感じてください。
足の裏からこみ上げてくる物を手の中心に集めるような感じです」
「分かったわ!」
アリスは手を的の方に向け、真剣な面影になっていた。
「えっと、魔力の流れを感じながら手に集める……」
アリスは俺が言ったことを復唱していた。
向けている手に力を込めすぎているのかプルプルしていた。
「アリス、力みすぎですよ。
もっと力を抜いてください」
「分かっているわ!」
アリスは一度手を下ろしてもう一度上げた。
うん、力みすぎだね。
どうすれば良いか……何か良いたとえがあれば良いんだけど。
「アリス、剣を握るときそんなに力まないですよね?それと同じですよ。
剣を握るとき、力みすぎると振りにくいのと同じで、魔術もまともに発動しません。もっと力を抜いて……」
「わ、分かったわよ。
力を抜く……力を抜く……」
アリスは大きく深呼吸をした。
深呼吸をしたアリスは何度かつま先飛びをした。
「いいですか、
『偉大なる水の王子よ 大いなる恵みをこの身に与え
堂々たる存在に力を見せつけろ
さすれば この身を持って仇敵に力を示さん』ですよ」
「分かったわ!
い、偉大なる水の王子よ……大いなる?恵みをこの身に与え 堂々たる存在に……えっと、力を見せつけろ さすれば この身を持って仇敵に力を示さん?『ウォーターボール』」
アリスが詠唱を唱えても何も起こらなかった……。
「何も起こらないじゃないのよ!」
「アリス、もっと自信を持ってください!
アルバート様も言っていましたよね?自信を持たないと小さく見られるって」
「言われた事ないわよ!」
アルバートさぁーーーん!
もっと厳しくしてくださぁーーーーい!
「自信を持つことは大切です。
もっと詠唱を唱えるときに自信を持ってください!」
「分かったわ。ふぅ……」
アリスは大きく深呼吸をした。
手をもう一度的に向けて真剣な顔をした。
「偉大なる水の王子よ 大いなる恵みをこの身に与え
堂々たる存在に力を見せつけろ
さすれば この身を持って仇敵に力を示さん『水弾』」
アリスの手から球状の水の塊が形成された。
「はぁぁぁ!」
アリスの叫びと共に水弾が勢いよく飛んでいった。
水弾は的に当たりバシャンッ!という音を立てた。
「あ、あ……ルイネスこれは」
「ええ、成功ですよ!おめでとうございます」
「やったぁ!成功したわ!」
アリスは飛び跳ねて喜んだ。
俺も初めて使えたときは飛び跳ねて喜んだもんだ……いや、あの時はすぐに気絶したか?
「やったわ!みんな見ててくれた?」
「ああ、見ていたよ」
「アリス、おめでとう!」
「よくやったなアリス」
「お嬢様、おめでとう。
私も後に続くとしよう」
リリスはアリスに抱きついた。
アリスは恥ずかしいようで離れようとしていた。
「お、お母様、恥ずかしいわ。
ルイネスが見てる……」
「あら?アリスは私に抱かれるのが好きじゃない」
「好きだけど、今は恥ずかしいわ」
「あら、そう……」
その後、ライリーも無事に発動させることが出来た。
ライリーは一発で発動させることが出来た。ライリー曰く、「剣を使っているときと同じような感覚だった」らしい。
二人は魔術を使ったあとにしては元気だった。
「二人とも、疲れのような物は感じませんか?」
「いいえ?」
「全くないな」
俺の時は一回使っただけで疲れを感じた。
なんの違いがあるのだろうか……?やっぱり、剣士は自分の体の周りに魔力でも纏っているのだろうか?それなら、魔術と同じで魔力を消費していることになって魔力量が増えたのか?
あとでこの事を手紙に書いてフレイに出しておこう。
俺はこの後、終了の挨拶をして初回の授業を終えた。
初回は上々だろう。魔力の危険を教えつつ実際に体験させることも出来た。アリスは生きる上での最低限のみで良いと言われたので、魔力切れまで使うという俺の練習方はしなくて良いだろう。
翌日、
俺は自室でフレイ宛ての手紙を書いていた。
内容は、家にアリスとレイナが来たこと、そのままブルセルに留学しに来たこと、魔術の授業をすることになったこと、街に来てから森に行って魔物と戦ったこと、そして先日の誘拐のこといろいろだ。
あの謎の光についても書いておくことにした。フレイの見解を聞ければ何か分かるかもしれない。
手紙を書いていると、部屋の扉をノックされた。
扉を開けると、アールが立っていた。
「どうされたんですか?」
「君の家から君宛の手紙だよ」
「え?手紙は出さないと……」
「いや、どうやら君の師匠の手紙を送ってきただけらしいよ」
「え?師匠の!?」
俺はアールが持っている手紙を受け取った。
手紙には確かに、《フレイ・セフラグ》と書いてあった。
手紙を開けると綺麗な紙が一枚と古そうな紙が二枚入っていた。
フレイの字は綺麗で達筆だ。手紙の内容はこんな感じだった。
『拝啓、
ルイネス様お元気でしょうか。
もう早いもので、アルストレア家から出て早一年あまりが過ぎました。
この手紙が届く頃には、私はアルレシア大陸に渡るための船に乗っている頃でしょう。アルレシア大陸までの船旅とても長いので正直暇です。
さて、私のことはこの辺りで良いでしょう。
ルイからの手紙拝見しました。
前にも言ったとおり、魔術に行き詰まりを感じたらディーパ魔術学院に行くと良いです。放っておくような言い方になりますが、私よりもあそこに行った方がルイの知りたいことの全てが学べると思います。
私もいずれ行くので、その時にでも一緒に行きますか?と言うとルイは喜んでと言うのでしょうが先に行っていても構いません。
それと、妹さんのことおめでとうございます。
セリスさんの間にはそろそろだと思っていましたが、まさかニーナさんまで……まあ、妹さんが元気に生まれたのなら何よりです。
シャロンちゃんとエマちゃんはきっと美人に育つでしょう。私も一度見に行きたいです。
ルイはすごく妹たちのことが好きなようなので毎日デレデレしているでしょうね。文字からだけでもルイが妹たちのことが大好きと伝わってきましたから。
私は私で頑張ってきます。だから、ルイも頑張ってください。勝負の件、忘れないでくださいよ?
あと一つ、この手紙の他に二枚ほど古びた紙を同封させておきます。これは、旅の途中で出合った魔族の男から貰った物です。きっと何かの役に立つと思います。
ではルイ、これからもお手紙待っています。 フレイ・セフラグ』
相変わらずフレイは可愛い。
文面からでもかわいさが伝わってくる。
ディーパ魔術学院か、やっぱりそうだよな……。
五年後にアスフィの気が変わっていなかったら二人で行こう。その頃にはきっとフレイも帰ってきているはずだ。
フレイが帰ってきたら妹たちを紹介しよう。この可愛い子達が俺の妹ですって……その前に俺自身を妹に紹介しないと。
俺は、手紙に同封されていた紙を取り出した。
紙には何かの魔法陣のような物が書かれていた。
「おや、魔術スクロールじゃないか」
俺が紙を取り出すと、
後ろに居たアールがそう言ってきた。
「魔術スクロール?」
「ああ、魔術を使うための魔法陣を書き記した巻物の事だよ。
スクロールに書いてある魔法陣は魔力消費なしで使える」
めっちゃ便利じゃん!
そんな物をくれるなんて俺の師匠はどれだけいい人なんだ。
「そのスクロールは……なんの魔術か分からないな」
「そうなんですか?」
し、師匠?
このままでは使えないですよ……。
「そうだね……一度魔術ギルドに行ってみるかい?」
「魔術ギルド……!」
この街にあるのか!
前から気になっていたしちょうど良いかもしれない。
「行きたいです」
「分かった。
それじゃあ、今書き途中の物を書き終えるといい」
「はい!分かりました!」
書き途中の手紙を書き終えた。書き終えた手紙を使用人に預けた。
俺は、フレイが送ってきたスクロールを持って下に降りた。下に降りると、アールの他にアリスとライリーもいた。
「準備できたかい?」
「はい!」
「ルイネス!遅いわよ!」
「なんでアリスが?」
「暇だからよ!」
暇だから、か……。
確かにアリスは今日暇そうにしていたな。
この前の一件から外室は控えるよう言われていたからな。ということはライリーは護衛役か。
「ライリーはアリスの護衛ですね」
「ああ、そうだ」
ライリーがずっと着いていてくれるなら安心だ、
俺もライリーに守って貰うことにしよう。
「それじゃあ、行こうか」
俺たちは屋敷を出た。
街に出ると今日も賑わっており、人が多くいた。
数分歩いた後、目的地に到着した。
「ここが、魔術ギルドだ」
アールが指をさした場所は、
つい先日アリスとライリーと来た場所だった。
「アール様?ここは冒険者ギルドですよ?」
「君が見ているのはね、魔術ギルドはその隣さ」
隣の建物を見ると全く同じような外観をしている建物があった。その建物の看板には人間語で《魔術ギルド》と書いてあった。
まさか、冒険者ギルドの隣にあったなんて何で気づかなかったんだろう……ま、まあ、あの時はいろいろ忙しかったからしょうがないよね。
俺たちは魔術ギルドに入った。
魔術ギルドは冒険者ギルドと同じような外観にもかかわらず内装は全くの別物だった。
入るとすぐに受付が見えるのは変わらないが、受付の後ろには無数の収納があり、その中には俺が持っているスクロールと同じような物が詰め込まれていた。
受付に立っている受付嬢は美人で冒険者ギルドと同じだった。
周りにいる人は荒くれ者のような人ではなく、フレイが被っていたものと同じような帽子を被っている人が多かった。
俺たちは受付の目の前まで歩いて行った。
「ようこそ、魔術ギルドへ」
受付嬢はそう言って深く頭を下げた。
「スクロール鑑定を頼みたい」
「かしこまりました。スクロールをこちらに」
俺は受付嬢の目の前にスクロールを置いた。
受付嬢はスクロールを受け取り、横にあいてあった透明な箱に入れた。
「こちらは……えっ!」
受付嬢は驚いた様子で俺の顔を見た。すると、受付嬢は少々お待ちくださいと言って受付の横にある階段を駆け上がっていった。
数分が経ってアリスがイライラし始めた頃に受付嬢が勢いよく降りてきた。
「ぎ、ギルド長がお会いしたいと言うことなので来て貰ってもよろしいでしょうか?」
「ああ、構わないよ。
アリス、ライリーはここで、ルイネスは僕と」
「はい」
「分かったわ!」
「分かりました」
俺はアールと共に会談を上がり奥にある扉の前に来た。
扉の前まで来ると受付嬢が扉をノックした。
「ギルド長えっと……」
受付嬢は言葉に詰まったように俺たちの方を向いた。
「すみません。聞き忘れていましたがお名前を聞いても……」
「ああ、アール・スロウ・アルストレアだ」
「……えっ!?次期領主様!?申し訳ありませんでした!今までの無礼をお許しください」
「ああ、構わない。それよりもいいかな?」
「はい!ギルド長アール・スロウ・アルストレア様をお連れしました」
「ああ」
扉の向こうからの返事を聞いた末に受付嬢は扉を開けた。
俺たちは部屋の中に入った。
部屋の中にはソファーが二つ向かい合って置いてありその間には高級そうな机があり、奥には資料が山積み似されている机がありその奥には白いひげが目立つ頭に金属光沢のような光を放っている男がいた。
「よくお越しくださいましたアール様
私は、魔術ギルドリエイト支部ギルド長ディオバルド・シークと申します」
「初めまして、私はリエイト領次期領主アール・スロウ・アルストレアです。お初にお目にかかれて光栄でございますミスターシーク」
「ほう、私のことをご存じで?」
「それはもちろん。私は腐っても三大貴族に名を連ねる者ですよ?
我が国の英雄は存じております。あなたのような方が我が領地に来てくださったときは光栄の極みでございました」
アールはそう言って貴族の礼をした。
「なるほど。しかし、私は英雄などではございませんよ?
英雄と呼ぶにふさわしいのは、かの龍王……三大聖神の方達のみですよ」
「そうですか」
「はい。そして……そちらのお子さんはご子息の方ですかな?
私はアール様にはご子息はいないと記憶しておりますが……」
アールの笑顔が少し乱れた。
それもそうだろう。息子は居ないと記憶しているなんて言われたらさすがにイラッとするだろう。
「ご不快な思いをさせてしまったのでしたら申し訳ない。
私は、そっちのことには疎いもので」
「構いませんよ。
こちらは、私の甥に当たるルイネス・アルストレアでございます」
アールはそう言って俺の背中を押した。
俺は立っていた場所から一歩出てアールがしたように貴族の礼をした。
「お初にお目に掛かります。
私はルイネス・アルストレアと申します」
「私は、ギルド長のディオバルド・シークでございます。
あなたがスクロールを持ち込んだ方ですね?」
「はい。我が師匠より賜ったスクロールの解析をお願いしたいと思いまして持ち込んだしだいです」
「ほう、お年の割には礼儀が出来ているようで」
「私の両親や師の教えの賜物であります」
「そうですか。
まあ、余談はこの辺りにして本題に入りましょう」
ディオバルドはそう言うと、受付嬢は俺たちをソファーまで誘導した。
俺とアールはソファーに腰掛け、ディオバルドは俺たちの反対側のソファーに腰掛けた。
「今日、アール様とルイネス様が持ち込んだスクロールは特別な物でして、通常では作れないような物なのです」
「それはどういうことですか?」
「あのスクロールは冥級治癒魔術のスクロールでした」
「えっ?」
「ほう」
冥級って上から二番目の魔術だよな?
それってすごい物なんじゃないか?
「通常スクロールという物は一流の作り手でも超級までしか作ることが出来ません。その一流も現在ではほとんど残っていません。なので、問いたいのです。
これを送ってきたルイネス様の師とは一体何者ですか?」
どれだけすごい物を送ってきたんだよ師匠。
この人が聞きたいのは、師匠の事と、このスクロールの製法だろうな。
「私の師は普通の魔術師ですよ。
魔族ではありますが特別なことはないと思います」
「そうですか、分かりました……」
「ですが、このスクロールと一緒に入っていた師の手紙には『旅の途中で出合った魔族の男にもらった』と書いてありました」
「魔族の男?」
「はい。名前や外見的特徴は何も書いてありませんでした。ただ、魔族の男と」
「そうですか……分かりました。
わたしの聞きたいことは全て聞けました。ご足労を掛けて申し訳ない。下までお送りします」
そう言ってディオバルドが立ったので俺も立つとアールが口を開いた。
「そうだ。ルイネス。君今から魔術ギルドに登録しないかい?」
「え?」
「君も魔術師ならギルドに登録しておいた方が良いだろう」
アールがそう言うと、
ディオバルドが再びソファーに腰掛けた。
「ですがアール様。
ギルドに登録するには攻撃魔術の一属性の上級、中級治癒魔術、中級解毒魔術の習得が条件です。
失礼ですが。ルイネス様はまだ幼い。とてもじゃないが習得できているとは思えません」
そんな条件があるのか……魔術ギルドに入れるのは、一流の魔術師のみという話を聞いたことがあるがそういうことだったのか。
こうして聞かれると言うことは、俺は満たしていないと思われているのか……まあ、確かに、俺の歳ならそう見られても仕方がないな。
「その事に関しては問題はないさ。なあ、ルイネス」
「はい。僕は治癒魔術と解毒魔術が中級、攻撃魔術の内、水魔術が超級でそれ以外が上級です」
「……ほう。ルイネス様には魔術の才がおありのようで」
「いえ、師匠の教えが良かっただけですよ」
ディオバルドはあまり驚かなかった。
まあ、アールがディオバルドのことをアスト王国の英雄と言っていた。それで、魔術ギルドのギルド長というのならすごい魔術師なのだろう。
「それだけじゃないさ。
ここにいる、ルイネスは『無詠唱魔術』の使い手だ」
「……え?む、無詠唱?本当に?」
「ああ、本当さ。ルイネスやってみたまえ」
「え?あ、はい」
俺は机の上に土魔術で人形を作った。
人形を作りそこに『氷射』をぶつけて壊した。
「これで信じてもらえたかな?」
「はい。とても見事でした。
無詠唱なんて今まで生きてきた中で初めて見ました」
ディオバルドはテンションが高くなっているのか少し声が高くなり、にこやかな顔になっていた。俺は、人形を砕いたときに出た土を一つに固めて受付嬢に渡した。
「ルイネス様。
あなたは実に素晴らしい魔術師だ。
これなら、B級のカードを発行しましょう」
「ほう、いきなりB級」
「それはすごいことなんですか?」
「ええ、B級なら魔法陣を書くための塗料がやすく手に入ったり、市場での融通などが利きやすくなり、ギルドの附属の場所では身分証として活用できます。冒険者ギルドに持って行けば簡単なテストの後、階級と同じ冒険者カードを発行して貰うことが出来ます」
へえ、物がやすくなったり身分証にもなって、テストはある物の冒険者カードも発行して貰えるか……便利な物だな。
「魔術ギルドのカードは冒険者ギルドや市場でも効果があるのですね」
「ええ、魔術ギルドは冒険者ギルドと連携しておりますし、市場への援助もかなりしておりますから。
ところで、ルイネス様は無詠唱技術は確立されているのですか?確立できているのでしたら提出していただければS級のカードを発行しますが……」
「すみません。
私自身、無詠唱に関しては分からないことが多く、未だに確立には至っておりません」
俺がそう言うとディオバルドは残念そうな顔をした。
無詠唱は幼い頃から魔術を使い、性質を理解できればと言うことは考えたが、俺とアスフィが特殊だったケースもまだ残っているので言わないことにした。
「ギルドカードの発行には保証人が必要ですが、それはアール様で?」
「ああ、私が保証人になろう」
「かしこまりました。すぐに準備させます」
ディオバルドはそう言って受付嬢に指示を出した。
受付嬢はこの話を聞いていたのですぐに準備に取りかかるために部屋を出ていった。
数分が経ち、扉が勢いよく開いた。
「お待たせいたしました。
こちらがギルドカードになります」
受付嬢がそう言って渡してきたのは、ライリーが持っていた冒険者カードと同じような見た目をしたカードだった。
カードには《ルイネス・アルストレア/B級ギルド員》と書かれていた。
俺がカードを見ているとディオバルドが両手を広げていた。
「ようこそ魔術ギルドへ。
私達職員一同あなたの入会を歓迎いたします」
こうして俺は成り行きで、B級ギルド員になった。




