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転生記 ~異世界では長寿を願って~  作者: 水無月蒼空
第2章:留学編
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第二十一話:「一騒動と閃光」

 ライリー・ドーガ。

 彼女は閃神流剣術の王級剣士だ。

 王級剣士というのは、超級剣士が閃神流の奥義とされている【閃光】を習得し、今代の閃神に任命されることで認められる。

 彼女は、閃神流の発祥の聖地とされている本道場に十歳の頃入門したらしい。

 

 「ライリーさんは、そんな幼い頃に道場まで行ったのですか?」

 

 俺たちは現在、ライリーと共に夕食をとっていた。


 「ルイネス。私に敬称はいらない」

 「分かりました。ライリー」

 「それでいい。話を戻すが、私は、大森林で一番の問題児だった」

 「問題児?」

 「そうだ。

  大森林に住んでいる、獣人族や長耳族、小人族と喧嘩をする毎日。父と兄はそんな私を厄介払いのごとく追い出した」


 毎日色んな人と喧嘩をする荒っぽい性格……なるほど。アリスがこの人に懐いたわけが分かった。

 この人とアリスはよく似ている。似ている者同士息が合うのだろう。


 「それは、お気の毒でしたね……」

 「そうでもない。私は追い出されたことで師匠に会うことが出来た」

 「師匠?」

 「ああ、閃神ジル・フラッシュが私の師匠だ」


 閃神ジル・フラッシュ……って、閃神!?

 閃神って閃神流のトップだよな?そんな人が師匠ってライリー、相当すごい剣士なんじゃないか?


 「師匠が閃神ってすごいですね」

 「そうでもないぞ。道場にも数人弟子がいる」


 ヘルスは閃神にあった事が無いって言ったから超級以上の剣士に弟子がいるのか?超級までいければ教えなんていらないと思うけど……。


 「師匠と出会ったことで私は、閃神流剣術を知ることが出来た。師匠のおかげで今の私がある」


 師匠のおかげで今がある……か。俺と同じだ。

 今の俺があるのはすべてフレイのおかげ。俺はライリーと仲良くなることが出来るだろう。師匠を慕っている者同士。


 「こうやって話せて良かったです。これからよろしくお願いします」

 「ああ、こちらこそよろしく頼む」


 俺は夕食を取り終わり部屋に戻ろうとした時ライリーに呼び止められた。


 「ルイネス。甘えは私から剣を学ぶそうだな?」

 「はい。そう伺っています」

 「では、今から最初の稽古をしよう」

 「え!?今からですか?」

 「ああ、これから街道沿いにある森に行って魔物の討伐をする。

  お前の実力を確かめるのと私の剣を見せるのが目的だ。いいな?」


 こんな夜遅い日に……良いかもしれない。

 夜の森は魔物が多い。

 そうなれば自然と闘うことになり俺の剣を見ることも、ライリーの剣を見せることも出来る。確かに今のタイミングがベストかもしれないな。


 「分かりました。用意してきます」

 「ああ、用意が出来たら裏門の前に来てくれ」

 「裏門?」

 「ああ、この屋敷には壁の外につながる裏門がある。そこから少し行けば王都まで繋がっている道と、シーラ王国まで繋がる道の分岐点まで行くことが出来る。

  今回は、その分岐点に行くまでの街道の近くの森に行く」

 「なるほど、了解しました」


 俺は部屋に戻り、実剣を持った。

 この実剣は、誕生パーティーの時にもらった物だ。今まで使ったことは無かったが、剣術を学んでいくのならこの剣になれておいた方が良いだろう。

 今日は使うことは無いと思うが、一応フレイにもらった杖も持っておこう。


 俺は、準備を整えて裏門まで向かった。

 門の付近には、凄腕の鍛冶師が作ったのだと分かる業物の剣を腰に掛け、物を少しだけ入れたような鞄を背負ったライリーと、ワクワクした様子で今にも走り出してしまいそうな紅赤の髪の女の子、アリスの姿があった。

 それともう一人、金髪美少女の姿もあった。

 アリスは俺の姿を見て大きく手を振ってきた。


 「ルイネス!遅いわよ!」

 「すみません。準備に手間取ってしまって……ところで、姉さんも行くのですか?」


 俺はレイナ姉さんの方を見ると彼女はニコッとした。


 「私は御一緒しませんよ」

 「ではなぜ?」

 「私はこれから、王都アノスに戻ります」

 「え?これからですか?」

 「ええ、ここではスロウ家の力があるので襲われることはありませんが、街道となるといついかなるところで襲われるか分かりません。

  なので、暗いうちに出発して内密に王都まで戻るのです」


 なるほど。

 大々的に出てしまっては居場所を教えることになる。それなら、夜のうちに静かに出た方が襲ってくる奴らも油断をするという訳か……俺の家からここに来るとき夜に出たのはこれが理由か。


 「なるほど、確かに暗いうちに出た方が襲ってくる人たちも油断しますからね」

 「ええ。

  なので、今日でお別れですね」

 「そうですね……でも、また会えますよ」

 「はい、もちろんです。

  今度は、ルイ君の方から会いに来てくださいね?」

 「分かりました。

  アスフィとアリスも連れてみんなで会いに行きます」

 「はい!お願いしますね」


 レイナ姉さんは微笑みながら馬車に乗り込んだ。

 彼女とは一生の別れでは無いが、合いにくくはなるだろう。彼女は王女という立場だ、俺みたいな下級貴族とは滅多に顔を合わせれないだろう。

 だけど、もし王都に行く機会があれば王宮に立ち寄ってみることにしよう。

 俺たちは、レイナ姉さんの乗る馬車を見送った。


 「さて、二人とも行くぞ」


 ライリーはそう言って道を歩き始めた。

 俺たちは、ライリーを後を追って道を歩き始めた。


 「ワクワクするわね!」


 アリスは歩きながらそう言ってきた。

 俺は、アリスと並びながらライリーの後ろを歩いていた。


 「僕は怖いです」

 「どうしてよ!」


 夜の森なんてろくな事は起きない。

 もし、別大陸の魔物がいたりしたら……まあ、今回はライリーがいるから問題ないと思うが。


 「アリス覚えていますか?一緒に戦った魔物を」

 「覚えてるわよ。あの魔物強かったわね!」

 「あの魔物は別の大陸の魔物であそこにいるはずの無い魔物なんです」

 「……?」


 アリスは何を言われているのか分からないようできょとんとした顔をしていた。


 「えっとですね、アリスも読んだことがあると思いますが【四剣士の世界放浪と地下転移迷宮】に書かれている魔物とあの魔物は同じなんです」

 「それくらい知っているわよ!」


 知ってるのね……。

 まあ、アリスも冒険物の本は好きだろうし知ってて当然か。


 「あの物語は他の大陸の話なのであの魔物がいるのはおかしいんです」

 「……なんとなく分かったわ!」


 なんとなくか……まあ、それでもいいだろう。

 今は、魔物に警戒しながら今日を乗り切ることを考えよう。


 それからしばらく歩いたあと、ようやく森にたどり着いた。

 森に着くと、ライリーとアリスは自分の剣を確認して、俺も剣を確認した。見てもよく分からないが……。


 「二人とも、用意は良いか?」

 「ええ、出来たわ!」 

 「はい。大丈夫です」


 俺たちは、ライリーを先頭に森の中に入った。

 森の中はとても静かで、生き物一匹たりとも見当たらなかった。


 「なんか、今日は静かね」

 「そうですね。ここまで静かなのはシエラ村の近くにある森でもあまりないですよ」

 「そうだな、ここまで静かなのはあまりない。二人とも周囲に注意しながら進むんだ」

 「了解!」

 「了解」


 俺たちは、周囲に気を配りながら先を進んだ。

 以前森は何も無いかのように静かだった。


 「暇ね!今日は何もいないんじゃないの?」

 「こらアリス。気を抜いてはいけませんよ」

 「そうだアリス。気を抜いては足下をすくわれるぞ」

 「わ、分かってるわよ!」


 まあ、気が抜けるのも分かる。

 ここまで静かだと緊張が緩む。だが、毒牙大蛇と戦った時もこんな静かなときだった。

 こんな静かな日には何かしら起こる。気を抜かずに行こう。


 そこから数分歩き、広い空間に出た。

 広い空間に出ると、ライリーが俺たちの前に手を出してきた。


 「止まれ!」

 「ど、どうしたのよ?」

 「何か……いる!」


 ライリーの一言に俺たちは警戒心を強めた。

 警戒を始めて約一分ほど経ち、前方が騒がしくなった。

 俺たちが騒がしい方を見ると、何かが木々をなぎ倒しながらこっちに向かって来た。


 「グァァァ!」


 雄叫びを上げながら四足の魔物が三匹飛び出してきた。

 その魔物は白い毛並みをしており、額には鋭い角が生えていた。だが、一体だけ色の違う毛並みをしていた。


 「ほう、ホワイトティーガーか……それに、特異体のブラックティーガーまでいる」

 「特異体?」

 「ああ、魔物の中には希に特異体という個体が存在する。

  特異体は魔物の中で急に生まれる通常個体よりも強い個体だ」

 「なるほど……」


 魔物の中の特異体か。

 ゲームにもそんな設定があるやつが多かったな。そういう個体は取得経験値が多くて……って、今は良いか。


 「それで、どうします?」

 「ブラックティーガーは私がやる。ホワイトティーガーはお前達でやれ。強い魔物だ、魔術を使ってもいい」

 「分かりました」

 「分かったわ!」


 ライリーはブラックティーガーを引きつけながら奥の方に走っていった。

 俺たちは、ホワイトティーガーと対峙しながら行っていいの距離を保っていた。


 「ルイネス。一体ずつでいいわね?」

 「はい。僕が倒せるかは分かりませんが、一体ずつの方が良いです」

 「じゃあ、私が左をやるからルイネスは右をお願い」

 「分かりました」


 アリスは俺の返事を聞いた瞬間ホワイトティーガーに向かって走り出した。


 「あなたはこっちよ!」

 「グァァァ!」


 ホワイトティーガーはアリスの方に向かって走り出した。

 もう一体のホワイトティーガーは依然俺の方を見て威嚇していた。


 「こいつ、俺が倒せるのか?」


 見た感じグリフォンよりは弱いと思う。

 さっきから威嚇ばかりで襲ってこようとしない。グリフォンみたく遠距離の攻撃を持っているのかもしれない。

 今回油断はなしだ。前みたいに大怪我はしたくない。

 俺は、魔物の動きを注意しながら徐々に距離を詰め始めた。


 「魔術を使っても良いと言われたが、剣で戦った方が良いよな……?」


 俺はヘルスにもらった剣を抜いて魔物に向けた。

 剣は俺の体には少し大きく、少し重かった。


 「グァァァ!」


 魔物は俺に向かって襲いかかってきた。

 俺は剣で迎え撃とうとしたが魔物の重さに耐えきれず転倒した。


 「うっ、こいつ重すぎ」


 俺は、魔物と距離を取るために後ろの方に下がった。

 俺の剣で倒せるか?

 正直俺の剣が通用するとは思えない……だが、とりあえずやってみるか。


 「はぁぁ!」


 俺は剣を魔物に振り下ろした。

 振り下ろした剣は、魔物の腕部分の皮を裂き肉を断ち切った。


 「グアァァァ!」


 俺と距離を取った。

 魔物の傷から血がどんどん流れ出ていた。魔物は傷が痛むのか、すぐには襲いかかってこなかった。


 「ハァハァ、効いてるぞ」


 俺は、魔物が襲いかかってこないので息を整えていた。すると、横の方から声が聞こえてきた。

 その声は俺に対して言っているようで、聞いたことのある声だった。


 「ルイネス!何やってるのよ!そんな雑魚早く倒しちゃいなさい!」


 アリスは俺の方を向いてそう叫んでいた。アリスの手には、血まみれの剣が握られていた。

 もう、倒したのか!?こいつ、相当強いと思うんだけど……アリスは本当に剣の腕が立つんだな。

 俺がそんな事を考えているとアリスが焦ったような表情をした。


 「ルイネス危ない!」

 「えっ?ガハッ……!」


 俺は遙か後方に吹っ飛ばされた。

 どうやら、俺が油断している隙に魔物が突進してきていたらしい。


 ハァ、ハァ……これはさすがに痛い。

 うっ、肋骨が折れてる。


 「いてて、これはもう剣を振れないぞ……どうする」


 魔物は今にも俺の方に走り出しそうだし。

 魔術を使うか……。


 「グァァァ!」

 「はぁぁ、『アイシクルショット』」


 俺の魔術はいともたやすく魔物を貫いた。

 貫かれた魔物のは力を失ったようにその場に倒れた。


 「ハァ、ハァ……良かった」


 俺は、すぐに治癒魔術を唱えた。


 「神なる恵みをこの身に受け、力を失いし汝に再び力を授けん『ヒール』」


 治癒魔術を唱えると俺の怪我はみるみるうちに癒えていった。

 ふぅ、これで大丈夫か。


 「見事な物だな。剣術はまだまだのようだが」


 そう言って近づいてきたのは、ブラックティーガーの死体を引きずっているライリーだった。

 ライリーの後ろにはうれしそうに笑っているアリスもいた。


 「無詠唱魔術とは、フレイが嫉妬しそうなものだな」

 「師匠は嫉妬なんてしませんよ。師匠は僕なんかよりも優秀な魔術師です」

 「ああ、ルイネスはフレイの弟子だったな。フレイが魔術を教えているときはどんな風だったんだ?」

 「師匠はとてもすごい方でしたよ。僕が分からないことも丁寧に教えてくれて、魔術だけじゃ無くこのこの世界の常識や昔話なんかも教えてもらいました」


 フレイとの日々は今でも鮮明に思い出せる。

 初めて会った時、魔術の授業を受けている時、一緒に食事を取っている時、卒業試験の時。そのすべてが俺の思い出として俺の脳に焼き付いている。


 「フレイはお前にとっていい師匠だったんだな」

 「はい。とても」

 「私の知っているフレイとは大違いだな」

 「そうなんですか?」

 「ああ、私の知っているフレイはいつも自信がなさげで、セリスにばかり付いていた」

 「師匠が……?」


 フレイが?確かに、セリス達といるときは俺といるときと違って頼るような感じだった。俺やアスフィといるときは頼られる存在になろうとしていたのか、可愛いな。

 弟子には良い格好を見せたい。実に可愛いじゃないか。


 「私はフレイが弟子をとったと聞いたときは正直信じられなかった。フレイは誰かに物を教えるとは思えなかったからな」

 「そうなんですね」

 「だが、ルイネス。お前を見たらフレイに誰かに物を教える才があったのだと思い知らされたよ」

 「そうですよ。師匠は物を教えるのが得意なんです。その事を忘れないでくださいよ?」

 「ああ、覚えておこう」


 フレイの話をしているとき、アリスが『誰よ!』と言ったのは割愛しよう。

 俺は、いつも通り魔物の死体を燃やすことにした。


 「では、魔物の死体は僕が燃やしておきますね」

 「待て!」

 

 俺が魔物の死体を燃やそうとしたとき、ライリーが止めてきた。

 ライリーは魔物の死体に近づき剣を抜いた。

 抜いた剣を魔物の額に生えている角に添えて角を剥ぎ取った。


 「この魔物の角は素材になる。この角をギルドに持って行くと金と交換してくれる」

 

 へえ、そんな事が出来るのか……ゲームでも素材を持って行くとお金をくれたり、武器を作ってくれたりしてくれるシステムがあったな。


 「なるほど、そんな事が出来るんですね」

 「ねえ、ライリー。私、冒険者ギルドに行きたいわ!」


 アリスが声を大きくそう言った。

 俺もギルドに興味があるから賛成だ。


 「ああ、構わないぞ。

  街に戻ったら行くとしよう」


 俺たちは、魔物から角を剥ぎ取り死体を燃やした。

 死体の焼ける匂いは消して良い物では無かったが、毒牙大蛇ほどでは無かった。あの、魔物の燃える匂いは、毒が蒸発している匂いなのか分からないがとても刺激的な匂いがする。

 

 その後、俺たちは森を出た。

 森を出ると空は明るくなり始め、気温が下がっているのかすこし肌寒かった。

 

 はぁ、疲れたな。

 森に入ると、体力はかなり消耗する。たとえ一度しか戦っていなくても緊張感を張り詰めていると疲れを感じる。

 俺以外の二人は特に疲れている様子はない。この世界の剣士は本当に規格外だ。


 街に着いた頃には完全に明るくなっていた。

 俺たちは行きと同じように裏門に行って中に入った。

 中に入ると俺たちが帰ってくるのを分かっていたのか老いた使用人が立っていた。その使用人は、布のような物を人数分持っており、それを手渡してきた。


 「皆様お疲れさまでした。こちらをお使いください」


 俺は、その布を受け取って顔を拭いた。

 その後一度屋敷に入り荷物を置いてきた。

 屋敷に戻ったとき、アールとたまたまあった。


 「おや、ルイネス。そんなに疲れた様子でどうしたんだい?」

 「昨日の夜に、アリスとライリーと一緒に森に行っていまして、今さっき戻ってきたばかりなんです」

 「ああ、聞いているよ。特異体と出合ったんだって?大変だったね」


 ……ん?なんで知っているんだ?

 俺が疑問に思っているとアールはニヤッと悪い顔をした。その顔を見たとき俺はすべて悟った。


 「誰かに付けさせていましたね?」

 「正解だ。よく分かったね」

 「まあ、アール様の悪巧みをした顔はもう何回も見ましたからね」

 「悪巧みなんて失敬だね。

  僕は、娘を思ってそうしたんだよ?」


 娘のため?

 ライリーがいるから危険なんて無いと思うのだが?


 「危険なんて特になかったですよ?」

 「ああ、ライリーがいれば魔物に対しての危険は無いだろう。だが、今ちょっとやっかいなことになってね」

 「やっかいなこと?」

 「どうやら、王都にいる上級貴族がアリスに対して刺客を送ったようでね」

 「刺客!?」


 刺客ってどういうことだ?

 何でアリスに?


 「それって、アリスが殺されるかもしれないって事ですか?」

 「いいや、違う。

  どうやら、その上級貴族がアリスのことを欲しがっているようでね、アリスをさらおうとしてやっけになっているようだよ」

 「それって良いんですか?」


 王都の上級貴族って言ってもアールよりは下だろう。アールは上級貴族よりも上、三大貴族のスロウ家だ。

 これが国にバレたら消されそうな物だが……。


 「良くは無い。だが、どうやら気づかれていないと思っているらしい。

  まあ、現スロウ家の次期当主は僕の兄。だから、僕の家に対しては何をやっても良いと思っているんだろう」

 「そんなバカな人がいるんですか?」

 「ああ、王都にいる貴族なんてバカばかりさ。だから、だましやすくもある」


 この人はまた悪そうな顔を……。

 

 「だから、今日は一応として見張りを付けていたんだ」

 「なるほど、理解しました」

 「ルイネス。君もアリスの周りを注意して見ておいてくれ」

 「……分かりました」


 アリスに対して刺客か……これは油断をしない方が良いな。

 今から行くギルドも気を張りながら行くとしよう。

 

 数分後、今度は表門に集合して町の方に歩いて行った。

 街はすでに多くの人がいた。その多くの人の中を歩いていた。アールに言われたことに注意しながら進んでいるため、すごく疲れた。

 そこから少し歩いていると大きな建物の前に付いた。

 そこは、木造で、他の店に比べてとても大きかった。建物の表には人間語で《冒険者ギルド》と書かれた看板が張られていた。

 建物の入り口からは沢山の人が出入りしていた。


 「着いたぞ。ここが冒険者ギルドだ」


 俺たちは冒険者ギルドに入った。

 冒険者ギルドには、絵に描いたようなゴロツキが多数いてとても賑やかだった。ゴロツキ達は、ライリーが入ると一瞬静かになった。

 周りを見渡してみると、美人な受付嬢が立っている受付に、木の札のような物が吊してある掲示板があった。

 その掲示板の周りには冒険者と思われる人が多く立っていた。


 「ルイネス!冒険者ギルドよ!」

 「アリスはこの街に住んでいて来たことなかったんですか?」

 「お父様が『ギルドは野蛮だから近づかない方が良い』って言って行かせないようにしていたのよ!」


 野蛮な人が多いのは分かる。まあ、アールが言っている野蛮なやつって言うのはヘルスの事だろうな……。


 「そうなんですね」

 「ずっときてみたかったのよ!」

 

 アリスはそう言ってギルド内を走り出した。


 「こら、アリス。暴れてはいけませんよ」


 俺はアリスを追った。

 数分かかってアリスを土魔術で捕まえることが出来たのでライリーの元に戻った。


 「ルイネス!もう暴れないから離しなさい!」

 「本当ですか?」

 「本当よ!」

 「……分かりました」

 

 俺は魔術を解除した。その瞬間アリスの渾身の右ストレートが飛んで来た。


 「グハッ……!」


 俺は右ストレートをもろにくらいうずくまった。そんな様子をライリーは眺めていた。

 俺が息を整えたのを確認して、ライリーは受付の方まで歩いて行き、角を受付に置いた。

 受付には、美人な受付嬢が立っていた。

 

 「これの換金を頼む」

 「はい。では、冒険者カードの提示をお願いします」


 ライリーは受付にそう言われると懐からカードのような物を取り出した。そのカードを受付に提示すると受付嬢はとても驚いたようにカードとライリーの顔を見ていた。


 「S級冒険者!?」

 「ああ、【黒雲の灯火】のライリー・ドーガだ」

 「す、すぐにご用意します」


 受付嬢は裏の方に走っていった。

 数分ほど待っていると受付嬢が戻ってきた。


 「お待たせいたしました。

  こちら金貨一枚と銀貨二枚二なります」

 「ああ、いただこう」


 ライリーは金貨と銀貨を受け取って受付を後にした。

 

 「この銀貨はお前達の物だ。受け取れ」


 ライリーはそう言って銀貨を差し出してきた。

 俺たちは銀貨を受け取った。

 

 「やった!」

 「良いんですか?」

 「当然だ。これはお前達が倒したんだからな」

 「そうですか、ありがたく受け取ります」


 初めて自分でお金を稼いだ。

 今までも魔物を倒したことはあったが、こうして換金したりはしていなかった。

 冒険者か……良いかもしれない。もし、旅をすることがあったら登録するのも良いかもしれないな。

 

 アリスはギルドの中を見に行くと行って走り出してしまった。

 俺も付いて行こうか?と聞いたところ『ルイネスはここで待ってて』と言われてしまった。恐らくまた止められるのを嫌がったのだろう。

 ライリーがやることがあるとの事で受付の方に行ってしまった。

 俺はアリスとライリーを待つためにしばらく座っていた。すると、入り口の方が騒がしくなり、多くの人が入ってきた。

 冒険者達はそれぞれ手に木の札のような物を持っていて、魔物の体の一部のような物を持っている者もいた。

 入ってきた冒険者は全員受付の方に歩いて行った。

 冒険者ギルド内は一気に騒がしくなり人も多くなった。


 「おい、間入りをするな!」

 「何言ってやがる。俺の方が早かっただろうが!!」

 「はあ、テメェー頭に虫でも湧いてんのか?」

 「言いやがったなクソ野郎。ぶっ殺してやる!!」


 ゴロツキのような冒険者達は色んなところで喧嘩を始めてしまった。

 周りの冒険者も喧嘩にはなれているようで特に気にする様子も無かった。


 冒険者こわ!

 冒険者ってあんなのしかいないのか?


 俺は、あれている冒険者に関わりを持たないように静かに待っていた。

 数分が経ち、ライリーが戻ってきた。


 「ルイネス。待たせた」

 「いえ、大丈夫ですよ」

 「冒険者カードの更新に時間が掛かってな」

 「更新なんてあるんですね」


 俺とライリーはアリスが戻ってくるまで待つことにした。

 アリスを待っている間、ライリーの昔話を聞いていた。


 「ライリーはどこで父様と出会ったのですか?」

 「ヤツと初めて会ったのは、セルード王国周辺にある迷宮内だな……」


 私はその頃、一人で迷宮に潜っていた。戦いから食事、周辺の警戒すべてを自分一人でやっていた。

 私は冒険者に成り立てですべて一人でやっていけると思っていた。だが、迷宮に潜り始めて二日が経ち食料が無くなった。その時点では危機感は無かったが、地図を付けていなかったため道に迷った。

 私は、食料が無く二日間彷徨った後倒れた。

 倒れた私を迷宮内の魔物達は格好の餌を見つけたように襲いかかってきた。死を覚悟したときにヤツは現れた。

 ヤツは、魔法戦士のような格好の炭鉱族の男と剣と盾を持った長耳族の女、シーフのような格好の魔族の男の四人で私の前に立っていた。

 ヤツは魔物を片付けた後、私に食料をくれた。

 私の体調が良くなり起き上がれるようになるとヤツは『うちのパーティーに入ってくれ』と言われた。

 ヤツのパーティーには剣士がヤツしかいない。攻撃の人数を増やしたいらしくて剣士の私を誘ったと言った。

 獣人族は恩義に報いる種族だ。

 このパーティーには命を助けられた。これは恩だ。恩には恩で報いらなければならない。

 私はヤツがリーダーのパーティーに入った。


 「……ということがあった」

 「なるほど、その話を聞く限りでは父様はとても性格の良いように聞こえますね」

 「そうだな、ヤツは決して性格の良いやつではない」

 

 ライリーはうっすらと笑いながらそう言った。

 しかし、ヘルスと出合った頃のエピソードはどれも良い物だが、みんなヘルスが性格が悪いことを知っている。ヘルスは希代の垂らしだな。


 そこから数分ほど話していたが、アリスは一向に戻ってこなかった。


 「アリス戻ってきませんね」

 「ああ、そうだな」


 俺は何か胸騒ぎのような物を感じた。

 なんだ、この胸騒ぎは……まさか、刺客か!

 俺は街に戻ってきた頃アールに言われた事を思い出した。


 「ライリー急いで街中を探してください!」

 「どうかしたのか?」

 「街に戻ってきた頃アール様に言われたんです。

  アリスは今、王都の貴族に狙われていると」

 「なんだと!?」

 「だから、今アリスが戻ってこない理由は……」

 「分かった私はすぐに街中を探しに行く」

 「頼みます。僕は屋敷に戻ってアール様にご助力を頼みに行きます」

 「分かった」


 俺は、ギルドの前でライリー別れ屋敷まで走った。


 「くっそ!ここからだと時間が掛かりすぎる。足は……仕方が無いか」


 俺は。人が少なくなった場所に向かった。

 辺りに人がいないのを確認した後、俺は足元に風魔術を使った。

 風魔術で宙に浮かび屋敷までの進行方向に向かってもう一度風魔術を使った。すると、俺の体は風に押し出され屋敷まで飛んだ。

 屋敷上空まで来た後、逆向きに風魔術を使い勢いを殺した。

 勢いが死んだ俺の体は一直線にドォォン!と音を立てて地上に落ちた。


 「いぎぃ……!」


 地上に落ちた俺は足から落ちたため足が折れた。

 俺は急いで足に治癒魔術を掛けた。

 屋敷からは音に気がついた使用人やアールが出てきていた。


 「ルイネス……どうしたんだい?」

 「アール様、アリスが突然姿を消しました」

 「なに!?一体どこでだい?」

 「冒険者ギルドです。急に人が多くなってその隙に」

 「誘拐の可能性は?」

 「分かりません。いなくなった瞬間を見ていないので」

 「とりあえず報告ありがとう。直ちに捜索隊を出すことにするよ」

 

 良かった。

 これで一安心だ。俺も街の中を探しに行ってみよう。


 「僕も街の中を探してみます」

 「ああ、頼むよ」


 俺は街に向かって走り出した。

 行く当ては無かったがひとまずアリスの行きそうな所をしらみつぶしに回ることにした。


 数十分が経ち俺は冒険者ギルドに戻ってきた。

 この時間でアリスの行きそうな所は行き尽くした。武器屋に、俺とレイナ姉さんと一緒に回ったお店全部。俺の思い当たる所すべて……だが、アリスの姿は無かった。

 

 「アリスー!アリスー!どこにいますか!」


 俺は大きな声で叫んだ。

 すると、俺の近くにいた額に傷を付けたスキンヘッドの男が声を掛けてきた。


 「なんだぁ?坊主?ここの領主の孫娘の名前なんか叫んで?」

 「いや、今探していて」

 「そうか……ところで坊主の名前は?」

 「僕はルイネス・アルストレアです……グハァ!」


 男は俺の腹部を強く殴ってきた。

 俺はとっさのことで反応することが出来ず気を失った……。



ーーー


 目が覚めると知らない天井があった。

 俺は辺りを確認しようとしたときからだの異変に気がついた。

 俺の手元は縄で縛られ、足も縄で縛られていた。口元は厚い布のような物で神¥張られていたため声を出すことも出来なかった。


 俺は無理矢理体を起こした。

 体を起こすと俺のいる部屋を大方見ることが出来た。

 この部屋は、扉が一つしか無くそれ以外は格子状の窓が一つで後は分厚そうな壁で囲まれていた。その他には何かの荷物置き場のようになっていた。

 縄で縛られた積み荷のような物と布でくるまれている長いものなど色んな物が置かれていた。


 いてて、あのおっさん思いっきり殴りやがって……今は良いか。ひとまず現状の確認をしよう。

 手と足を縛っている縄は問題ない。魔術を使えばすぐに外せる。口を縛っている布もそうだ。問題は、今俺のいる場所とアリスの行方だな。

 俺は扉まで床を這いずりながら移動して耳を扉に付けた。すると、扉の向こうの会話が聞こえてきた。


 「おいバロ。

  なんだあのガキは?」

 「ああ、領主の孫娘のことを嗅ぎ回ってるヤツがいたから名前聞いたんだよ。そしたらアルストレアって言ったもんだから連れてきたんだよ」

 「なに?あの領主には孫娘の他にもいたのか?そんな情報はもらってないぞ?」

 「分からねーが、アルストレアって言うんなら身代金をとれる。攫ってきて損はねーさ」

 「そうだな。ひとまず身代金は置いといて、孫娘をザルギスの旦那に持って行くぞ」

 「ああ、了解」


 ええっと、これは……つまり俺は、アールの息子と勘違いされて攫われたということかな?おいおいマジかよとばっちりも良いところだな。でもまあ、事情は分かった。

 今の口ぶりからするとアリスを攫ったのも扉の向こう側にいる奴らか……ということは、アリスもここにいるのか。

 俺は、魔術で手の縄を焼き切った。手を少しやけどしたがすぐに直せるので問題は無いだろう。足の縄は風魔術で切り、口の布を外した。


 「ふう、これで息がちゃんと出来る」


 俺は部屋の中を探し始めた。

 探し始めてすぐに紅赤色の髪の毛をした女の子を見つけることが出来た。


 「はは、やっと見つけた」


 アリスはこの部屋の布にグルグル巻きにされていた。

 アリスは不安そうな顔をして眠っていた。俺がさすっても揺らしても目を覚まさなかった。もしかして、死んでいるのかと思い首元に指を当てたが、脈はちゃんとあった。


 「はぁ、良かった。ちゃんと生きてる」


 それもそうか、アリスを攫った男達はザルギスの旦那という人にアリスを渡そうとしていた。それには、生きているのが条件なのだろう。

 アリスを担いで逃げられるかは分からないがひとまずここから逃げる手段があるのかを確認しておこう。


 俺は、この部屋中を隈無く歩き回った。

 この部屋は最初に見た通り、扉と窓にしか外に繋がっているところは無かった。

 魔術を使えばこの壁くらいなら簡単に崩せるが、そうなれば扉の向こうの男達と戦わないといけなくなるだろう。


 「どうするか……」


 俺は窓付近の壁を触った。

 すると、あることに気がついた。

 この壁はすべて土で作られていた。それもそのはず、この世界では科学技術の発展はほとんど無いのでコンクリートなどは普及していない。

 俺は、魔術の応用で土を流体にまで戻すことが出来る。


 「これで脱出する事が出来る」


 俺は脱出するに当たって追われ内容に扉を凍り漬けにした。これで、すぐには追われることはないだろう。

 俺は、荷物をまとめるために縛ってあった縄をつなげて長い縄を作った。それを使い、アリスが落ちないようにきつく縛った。


 「これで大丈夫だ。よし、逃げようか」


 俺が窓に向かおうとしたとき扉の向こうから大声が聞こえてきた。


 「おい。寒いと思ったら扉が凍りついてんぞ!」

 「なに!?たたき壊せ!」


 その合図と共に扉を強く叩く音がした。

 ドンッ!ドンッ!という音が聞こえて扉がメシッ!メシッ!と悲鳴を上げ始めた。

 これは……破られるな。急ごう。


 俺は急いで窓まで向かい壁に触れた。

 壁に触れて魔力を流すと壁はみるみるうちに流体に変わっていった。俺は流体に変えたところに飛び乗った。その瞬間、扉が破られた。


 「テメー!このガキ何してやがる」

 「おい坊主。お前魔術師だったのか」

 「ねえ、誘拐犯のおじさん達」

 「ん?」

 「あぁ?」

 「魔術師を閉じ込めたいのなら王級レベルの魔法陣を用意するべきだよ。口を塞いでも魔術を使える魔術師もいるんだからさ」

 「なんだと?」

 「おい、ガキ待て!」

 「それじゃあ、おじさん達さようなら」


 俺は窓から外に向かって飛び降りた。

 窓から飛び降りた俺は自分の背中に向かって風魔術を使った。今まで何度もやってきた我流舞空術だ。

 着地の時に足が折れやすいのが難点だが、それ以上の結果が出るので問題は無いだろう。


 「おいなんだあれ」

 「飛んでる!?」


 男達のそんな声を尻目に俺は遠くの方に飛んでいった。

 飛んでいる最中に下を見た。

 ここは……ブルセルじゃあないな。どこだ?

 とりあえず距離を取ることが出来たな……この辺りで良いだろう。


 俺は、進行方向と逆の方向に風魔術を使い威力を殺し、下に降りた。今回は背中にアリスがいるのでまっすぐ着地した。もちろん足は折れた。

 俺はいつも通り治癒魔術を使い足を治し、近くの建物に入った。俺達が降りたのはバスのように街から街に運んでくれる乗合馬車の待合所だ。

 待合所は、木造で人が休めるように柔らかい素材で吸われるところが設けられていた。そこに、アリスを寝かし、俺は現在位置を知るために看板の方に近づいた。そして、現在位置を知ることが出来た。


 ここは、ブルセルから三つほど離れた小さい街(スィール)という所だ。ここからブルセルに戻るには乗合馬車を三回ほど乗り換える必要がある。

 どうするか……今の俺たちには金がない。俺が持っているのは冒険者ギルドでライリーにもらった銀貨一枚のみだ。このままでは乗合馬車に乗車することは出来ない。それに、もう夕暮れ前だ、このままでは確実に一日だけ宿に泊まる必要がある。そうなれば、さらに足りない。

 そう考え込んでいると、寝ていたアリスが目を覚ました。


 「…ん?んん……うっ、眩しい。ってここどこよ!」


 アリスは目が覚めると知らない場所にいたので混乱しているようだった。


 「アリス落ち着いてください」

 「ルイネス!ここはどこ?」

 「ここはスィースという街です。僕達はどうやら誘拐されたみたいなんです」

 「え?」


 俺は、今回のことを一通りアリスに話した。

 アリスは戸惑いながら聞いてくれた。


 「大体分かったわ!それで、ここからどうするの?」

 「とりあえずブルセルに戻れるよう乗合馬車に乗るつもりです」

 「お金はどうするの?」

 「それは……考え中です」


 本当にどうするか……銀貨があれば隣町までは行けるだろう。だが、時間的に途中の街で一泊する必要がある。そうなれば、確実に足りない。

 どうする。今の俺には何をすることが出来る。

 そんな事を考えながら自分の手を見た。


 「ああ、この手があった」


 恐らくこの辺りを通っている馬車はほとんどが商人の乗る馬車だろう。そういう商人は、積荷を守るために冒険者を雇うと聞く。俺は冒険者ではないが超級魔術師だ。その事を証明すれば雇ってもらえるかもしれない。

 今はひとまず馬車を待とうか……。


 それから数十分後一台馬車が近づいてきた。

 その馬車は商人の馬車と分かるくらい後ろの方に積荷が積まれていた。


 「すみませーん!」


 俺はそう言いながら馬車の人に見えるように手を振った。

 馬車は俺に気づいたのか目の前に停車した。


 「どうしたんだ?こんな暗い中待合所に子供だけで」

 

 商人はちょび髭を生やした気前の良さそうな男だった。

 その承認の男は俺と目線を合わせるために馬車から降りてかがんでくれた。


 「実は僕達、元はブルセルにいたんですけど、ここまで連れてこられてしまって……」

 「ブルセルから?」

 「はい。なので、もしブルセルに向かわれるのでしたら乗せていただけないでしょうか?」

 「ほぉ……ボウズたちお金は持っていないのかい?」

 「はい、急に連れてこられたので……」

 「なるほどね……」


 商人は悩んでいるような顔をした。

 もう一押し必要かな……。


 「ダメでしょうか?」

 「ダメでは無いんだが、こっちも商売で行くんでね、面倒ごとは困る……」

 「では、僕を雇ってもらえないでしょうか」

 「ボウズをか?」

 「はい。僕は超級魔術師です。

  僕がこの馬車の警護をします。見たところ敬語を付けておられないようですので」

 「……対価は?」

 「僕と彼女を目的地まで送ること。それだけです」


 男は悩んだ。

 とても悩んだ。条件は良いはずだ。この積荷からするとブルセルに向かう途中なのだろう。それなら、実質タダで超級魔術師を雇えるんだ。

 ……もしかしたら俺が超級なのかどうか迷っているのか?それもそうか、相手からしたら子供の戯れ言として取られている可能性が高い。

 証明しても良いが、今超級魔術を使えばあの男達が追ってくるかもしれない。

 考え込んでいると何か納得したような顔をした商人の男が口を開いた。


 「よし、その条件なら良いだろう。しっかり守ってくれよ」

 「えっ?良いんですか?疑っているんじゃあ?」

 「疑ってはいないさ。ボウズの真剣そうな顔を見たら疑いなんて晴れちまったよ。頼めるんだよな?超級魔術師さん?」

 「……ええ、もちろんです」

 「それじゃあ、よろしく頼む。俺はハリルだ」

 「僕はルイネス・アルストレアです。こっちはアリス。

  これからしばらくの間よろしくお願いします」


 俺たちはこうしてハリルの馬車に乗せてもらえることになった。条件は馬車の警護。

 簡単な内容ではないが、お金がない今はしょうがない。頑張ろう。


 隣町に到着した。

 このハリルという商人はとても良いやつだ。本来はここで一泊する予定だったらしいが、俺たちのために少し休んだら出発してくれるらしい。


 「良いんですか?僕達のために……」

 「良いんだよ。ボウズ達は急いでるようだ。今も追われてんだろ?」

 「はい……恐らく」

 「なら、こんな所早く離れた方が良い。ほら、行くぞ!」

 「……はい!」


 ハリルは馬車に乗り込んだ。

 俺もハリルの後を追って馬車に乗った。アリスは疲れていたのかもう一度眠ってしまった。俺が見つけたときは不安そうな顔で眠っていたが、今は安心しているようだった。

 俺が乗ったのを確認したハリルは馬車を走り出した。


 馬車を走らせて数時間が経った。次の街はまだ見えないがハリルはもうすぐ付くと言っていた。

 馬車を走らせている間俺はハリルと話していた。

 俺が魔術を学んでいるときのことやブルセルに来たときのこと。そして今は、ハリルのことを聞いていた。


 「俺にも息子がいたんだ」

 「息子?」

 「ああ、無事に生きてたら今頃十歳の誕生日を祝っている頃だろうな」

 「あの……無事にとは?」

 「俺の息子は死んじまったんだ。ちょうどボウズと同じくらいの頃だったよ」


 ハリルはそう言って俺の頭を撫でてきた。

 なんだか温かさのような物を感じて俺は許した。


 「俺の息子は、ボウズ達と合った街でどこかのゴロツキに捕まって奴隷として売られてしまってな。見つけたときにはもう死んでいたよ」

 「そんな事が……」

 「俺は息子を売りさばいた奴らを捜したがどうすることも出来なかった」

 「それは……お気の毒でしたね」

 「だから、真剣そうに頼んでくるボウズの顔を見て俺の息子と重ねちまったんだ。真剣に商売について勉強をする息子とな。

  俺はボウズを見て思ったよ、こんな子供を死なせるわけにはいかない。ってな」


 あの納得したような顔はこのことを考えたときの顔だったのか……息子さんを無残に無くしてしまった……相当悲しかっただろうな。


 「だから、俺はボウズ達を必ずブルセルまで送り届ける」

 「はい……ありがとうございます」


 ハリルは良いやつだ。

 何かあったら必ずアリスと一緒に守るとしよう。


 さらに数時間進み次の街が見えてきた。

 この街では数分しか止まらないと言われてすぐにトイレに行った。アリスを起こそうとしたが、可愛い寝顔を見ていて気が引けてしまった。

 俺が戻り次第、馬車が動き始めた。


 「寝てても良いんだぜ?ブルセルまではまだ掛かる」

 「そういうわけにもいきませんよ。僕は雇われている側なので」

 「ボウズは律儀だな。それなら、後ろのお嬢さんの相手をしてやりな」

 「え?」


 ハリルにそう言われ後ろを向くとアリスが起き上がっているところだった。

 アリスは一度伸びた後、辺りを見渡した。


 「はぁ……ルイネスおはよう」


 アリスは大きなあくびをしながらそう言った。


 「はい、おはようございます。まだ、夜ですが」

 「そうね。真っ暗だわ!」


 アリスは俺とハリルが座っている先頭部分まで来た。

 アリスは俺の隣にヒョコッと座った。


 「ルイネス、私……怖かったわ」


 アリスは俺の肩に頭を預けてそう言ってきた。ハリルは馬車の手綱を俺に預け「後は二人で」と言って後ろの方に下がっていった。


 「僕も怖かったですよ。アリスが急にいなくなっちゃうから」

 「私が勝手に居なくなったわけではないわ!」

 「はは、分かっていますよ。

  今頃、アール様もライリーも必死に捜していますよ」

 「そうなの?」

 「ええ、だから急いで戻りましょう」

 「……そうね」


 俺たちはその後次の街に着くまで馬車に揺られ続けた。その間、後ろでハリルがニヤニヤしていたのは無視していた。

 この世界の父親というのは良いやつが多いが、人を見てニヤニヤするヤツが多すぎる。ヘルスとかヘルスとかヘルスとか。


 俺たちは、ブルセルまでの最後の街に着いた。

 街に着いた頃には外が明るくなっていた。

 ハリルはこの街で半日休むと言った。理由は、馬が疲れているからという理由だった。

 俺たちは街の中に入ることにした。

 この街は、今まで通ってきた街とは違い店が建ち並んでいるところがあるため店を見て回ることにした。お金はないが……。


 「ルイネス!見てみて!色んな物が売っているわよ!」

 「アリス。あまり走らないでください!」


 アリスは街の中に向かって走り出していた。

 俺はアリスの後を追って走った。


 「ルイネス!早く!」

 「ハァハァ……ちょっと待ってください」


 アリスの足がとても速く追いつけないでいた。

 俺の体力はもう切れる寸前だ。急いで追いつかないと。

 アリスは横道のあるところに立ち止まって俺に手を振ってきた。


 「ルイネ……キャア!」


 アリスが悲鳴のような物を上げて路地の方に消えていった。

 

 「えっ?」


 俺は急いでその路地の方まで走った。

 路地には、どこかで見たことのあるようなスキンヘッドの男がアリスを抱えてもう一人剣を持った男が走っていた。

 俺はその男達を追いかけて路地を出た。

 路地を出ると、噴水のような物がある広場に出た。男達は、広場の向かい側にある路地に逃げ込もうとしていたので、路地の入り口部分に土壁を使い、入れないようにした。


 「クッソ!どうなってやがる」

 「魔術。ということは、あのガキか!」


 男達は後ろを向いて俺を見た。


 「よう、クソガキ。

  こんなところで何やってるんだ?」

 「早くおうちに帰りな」


 男達は、俺との距離を詰めようとしていた。


 「まだ帰るわけには行きませんよ。その子を返してもらうまではね」


 アリスは男に抱えられて不安そうな顔をしていた。

 俺は、手に魔力を込めた。

 現在逃げ道は俺の後ろにある路地だけだ。ここさえ死守できればなんとかなる。


 「それは無理だな。こいつは大事な商品だ」

 「商品?」

 「ああ、スロウ家のお嬢様を欲しがっている貴族がいてな、そいつに売りつけるんだ。だから、商品で間違いないだろう?」

 「お前達はいつもこんなことをしているのか?」

 「ああ、五年前に商人の息子を攫ったときからな」


 男達は笑いながらそう言った。


 「あれは傑作だったな」

 「ああ、金持ちのババアに売りつけたら良い額で買ってくれたよ。売った後すぐに死んじまったようだが」


 男達は笑っていた。

 とある日を懐かしみながら笑いをこらえきれないようで。


 「それは、スィールでのことか?」

 「……ああ、そうだ。今でも覚えてるぜ。あの時のガキの顔は」

 「あはは!思い出させるなよ!今でも笑えてくるんだからよ」


 ああ、こいつらはクズだ。救いようのない。

 こんな奴らを野放しにしておくわけにはいかない。


 「お前らは本当に救いようがないな」

 「はぁ?」

 「お前今の状況を分かっていってるんだろうな?」

 「分かっているから言ってるんだよ。お前らごとき俺だけで十分だ」

 「殺すぞクソガキ」

 

 剣を持った男が俺に向かって襲いかかってきた。

 俺は手に込めていた魔力を魔術に変換した。

 使用する魔術は、『閃光(フラッシュ)』と『風弾圧縮(ウインドブラスト)』だ。フラッシュを使い剣士の目とスキンヘッドの男の目を眩ませ、ウインドブラストで俺の体を押し出した。

 押し出した瞬間土壁を解除した。


 「アリスは返してもらうぞ」


 俺は押し出された力をすべてスキンヘッドの男にぶつかる力に使った。

 スキンヘッドの男は強い衝撃に耐えられなくなり、アリスを手放して後方に吹き飛んだ。


 「グハッ!」


 俺は落ちてきたアリスをキャッチした。

 キャッチした瞬間、剣士が襲いかかってきたので『火弾(ファイアーボール)』と『破裂爆発(エクスプロージョン)』の複合魔術を使い、爆発する火弾を作り出した。

 俺はそれを剣士に向かって打ちはなった。

 剣士は、俺が放った魔術を剣で上の方に弾き飛ばした。剣士が弾き飛ばした魔術は空中で爆発した。


 今のは、聖神流の技……いや違うな。今のは受け流すと言うよりも弾き飛ばすと言った感じだった。恐らく、狂神流の技か。

 ヘルスが嫌うだけある。嫌な技だ。

 剣士は勢いを殺さずに俺たちの方に向かってきた。


 「死ねぇぇクソガキィ!」


 剣士は俺に対して剣を振り下ろそうした瞬間何かに弾かれた。

 俺の目の前には、業物の剣を剣士の剣に対して合わせている白い毛並みの剣士がいた。俺はアリスを下ろして口に付いている布を外してやった。


 「ライリー!」

 「アリス、ルイネス無事か?」

 「はい……大丈夫です」

 

 ライリーは剣士とスキンヘッドの男の二人を見た。

 

 「ルイネス。敵はあの二人だけか?」

 「はい、そうです」

 「了解した」


 ライリーはそう言って俺の前を歩いて行った。

 ライリーに剣を向けられた誘拐犯の剣士は後ずさりをしていた。


 「お、お前。閃剣王だろ」

 「そうだ」

 「なんでそんなやつがここに居るんだよ」

 「今の私はスロウ家に雇われているからな。当然なことだろ?」

 「ああ、当然だな。ところで、見逃してくれないのか?」

 「お前はアリスお嬢様を危険にさらした。それだけで私には殺す理由になる」

 「なるほどな……なら逃げるとするよ」


 剣士はそう言ってスキンヘッドの男の方に走り出した。


 「おい、バロ。逃げるぞ!」

 「何でだよ?」

 「急げ!アイツはやばい」


 誘拐犯の二人は逃げ出した。

 ライリーは剣を下に向けて消えた。すると一瞬のうちに二人の前に居た。

 だが、先ほどまで逃げていた二人の男の首が宙に浮いていた。


 「え?」


 俺がそう言うと突然すごい音と風がしてきた。

 まるで、空間がライリーが動いたことに今気づいたように現象が遅れてやってきた。

 俺の目の前に男の首が飛んできた。その首は斬られる前に走っていたときの顔と同じ顔のまま斬られていた。


 「これが……閃光」


 俺が目の前で見たのは、この世界で最も速くて鋭く、この世界で最強の剣術とされる閃神流の奥義【閃光】だった。

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