第十九話:「初めての町:前編」
こんにちは。
僕の名前はルイネス・アルストレアです。
この世界に転生して五年が過ぎた実年齢二十二歳の子供です。
僕はこの世界の両親に成長してこいと留学に出され、成長してこないと家を追い出すと言われてしまいました。
現在僕は、街向かって馬車に揺られているところです。目の前には茶髪のおじさん。前世では目を疑うほどの紅赤色の髪をした従兄弟、横には金髪美少女の王女様。出合って一ヶ月が経ちますが普通に緊張はします。
街までは二日かかるらしく、今は通過点にある街を目指して進んでいる。
「あぁぁ!やっぱり馬車は暇ね」
アリスの我慢が切れて騒ぎ始めた。
彼女は基本暇が嫌いだ。何もしていない時間が退屈で仕方が無いらしい。
「アリス、少し我慢しなさい。
途中にある街までもうすぐだからそれまでルイネスに相手をしてもらいなさい」
「はい!お父様!ルイネス。どうにかして!」
「ええ、そう言われましても……」
この狭い中で何をしろと……そうだ!
ここは夜に練習していることの成果を出すことにしよう。
「分かりました。では、皆さんに魔術の奥深さをお見せしましょう」
俺はそう言って手を上に向けて広げた。
広げた手からシャボン玉を作り出した。
「ほう、これは見事だね」
「すごいですねルイ君」
「すごいの?」
アリスだけはよく分かっていなさそうだった。
俺が説明しようとするとアールが代わりに説明をしてくれた。
「アリス。これは、恐らくだが水魔術の応用で膜を作りその中に適量の空気を注入しているんだ。こんなことが出来る魔術師はそうはいないだろう」
「……?」
「わかりやすく例えると、剣術で物体の奥にある物だけを斬って手前にある物には傷を付けないような感じだ」
「なるほど分かったわ!」
アリスは分からないことでも剣術で例えれば理解してくれるのか!良いことを知った。
これからはこの方法を使っていこう。
「アリス。魔術がすごいということは理解できましたか?」
「ええ、できたわ!」
「それはよかったです」
アリスが何かを悩んだ後俺の肩を強くつかんできた。
「ルイネス……私、魔術を覚えたいわ!」
「……え?」
「私に魔術を教えなさい!」
アリスが魔術を……?そんな事が可能なのか?
アリスは剣術の腕は達者だ。それは、才能や本能的な物もあっただろう。しかし、魔術は日々の努力や良い師に正しく導いてもらう必要が……いや、出来るか。アリスの剣術の腕が立つのは才能とかだけじゃなくてきっと努力をしたはずだ。ヘルスだって言ってたじゃないか「剣術は確かに才能が必要だ。だが、才能だけではいけるところまでの限界がある。才能がある者でも努力は必要だ」と。
その点アリスはきっと努力を日々しているだろう。今俺の肩をつかんでいる手もマメが出来て少しゴツゴツしている。それに良い師なら俺がなれば良いじゃないか。無論フレイのような最高の師匠にはなれない。フレイほどの最高の師匠は世界中や前世の世界を探しても見つからないだろう。フレイのような最高の師匠にはなれない。なれないが、良い師にならなれるかもしれない。なぜなら、俺は最高の師匠の弟子なのだから!
しかし、良いのだろうか?
現在、アリスは閃神流剣術をどのくらいかは分からないが習得している。そこに、俺が魔術を教えてしまってはいよいよ手が付けられなくなるのでは無いか?現在、鬼が金棒を持っている状態のところに俺が魔術を教えることでマシンガンを与えるようなものだ。どうするか……。
俺が考え込んでいるとアールが一つ提案をしてきた。
「良いじゃないか。僕に一つ案がある。
ルイネスがアリスに魔術を教えて、ルイネスは代わりにアリスが剣の指導を受けている者に剣を習ってみるのはどうだい?」
「僕がアリスに教えて、代わりにアリスの師匠に剣を教えてもらう。ということですか?」
「ああ、ちょうど彼女も魔術を学びたいと言っていてね。そして、アリスも。
だから、君も中途半端で止まっている剣術をヘルスよりも凄腕の剣士に学んでみたいと思わないかい?思っているのだとしたらちょうど良い」
なるほど、確かにちょうど良い。
俺が教える代わりに剣術を学ぶ。お互いに得があって損は無い。実にホワイトな良い案だ。
「そういう条件でしたらもちろん良いですよ。僕自身、魔術を教えることは自分のためになると思っているので。
それに、剣術も途中で止まったままになるのではないかと思っていたのでちょうど良かったです」
「ふふ。それは良かった。
アリス、ルイネスは魔術を教えてくれるらしいよ」
「ホント!」
「はい。僕は厳しいのでしっかりついてきてくださいよ」
「のぞむところよ!」
俺が留学して最初にやることが決まった。
お嬢様と凄腕剣士への魔術講義だ。
「ふふ、ルイ君の魔術の授業。とても、興味深いですね」
「姉さんも受けてみますか?」
「そうしたいのですが……私はすぐに王都アノスに戻って研究員の派遣のため父上に謁見をしなければなりません。なので、授業はまたの機会に」
「なるほど、分かりました。
研究員の派遣、よろしくお願いします」
「はい、任せてください」
森のことは気になるが、後のことはレイナ姉さんが派遣してくれる研究員の人とヘルスに任せることにしよう。
数時間後、馬車に揺られた末にとある街で停車した。
その街は、街と言うには人が少なく、物を売っている店が少ない。だが、宿と料理店が異様に多い。アールに聞いてみたところ、「ここはブルセルに向かう旅人が多く通るため、宿や料理店が多くある。その反面、ここで住む者は少ないがね」らしい。
街に入ってアールは一番綺麗な宿に入っていた。そこは、スロウ家御用達の宿らしく丁重に案内された。
「ここにはよく来るのですか?」
「ああ、ブルセルから他の場所に行く際、ここによく立ち寄るからね。ここのサービスは他の宿と違って丁寧でよく出来ているよ」
「そうなんですね」
「まあ、ここを作ったのが僕の父だからなんだけどね」
「そうなんですか!?」
「ああ、父の趣味は旅をすることでね。『ブルセルからどこに旅をするにも大抵はここを通らないといけない。それなら、ここに、スロウ家の宿を作った方が良いだろ』と言ってね。すぐに人を派遣して作ってしまったんだ」
さすがは大貴族様だ。やることがすごい。
確かに貴族ともなると誰かに狙われることも多いだろう。狙われていては安心して眠ることが出来ない。それなら、自分の家の関係者しかいない宿を自分で作ってそこに泊まればいい。
理にはかなっている。やろうとは思わないが……。
入った宿は綺麗だった。
隅々まで掃除が行き渡っており、接客も丁寧。さすがはスロウの関係者達だ。
俺は、みんなと共に食事の席へ案内され食事をとった。
「ルイネスの家で食べたご飯の方が美味しかったわね」
「そうですか?確かに母様達の料理も美味しかったですけどここの料理も美味しいですよ」
「ルイネスが言うならそうね!」
まあ、アリスがそう言うのも分かる。
ここの料理は栄養がバランスを考えているのだろう。野菜を中心に味の薄い料理が振る舞われている。
正直、物足りなさを感じるが俺は我慢できる。だが、獰猛な肉食動物であるアリス様は肉が無いと物足りないようだ。
食事を取り終わった後、俺はアールが泊まる部屋に呼ばれた。俺は何をされるのかと思いながら部屋まで赴いた。
「アール様。ルイネスです。入ってもよろしいでしょうか」
「ああ、入ってくれ」
俺はアールの応答待った後、部屋に入った。
入った部屋はとても豪華な作りになっている。大きなベッドに綺麗な絨毯。ベッドの前には綺麗なデザインをしている机にイスが置いてある。
アールはイスに座り紅茶のような物を飲んでいた。
「やあ、ルイネス。わざわざすまないね」
「いえ、お世話になっている身なので当然です」
「そんなこと考えなくていいよ。君はもう家族同然なんだからね」
「あはは、そうですか……」
どうやら諦めてはいないようだな……ん?ちょっと待てよ。
俺がアリスと仲良くなってはアールの思うつぼなのではないか?俺とアリスが仲良くなればアールの計画も迅速に進めることが出来る。今の俺たちってアールが喜ぶ結果になっているのか……。
「えっと、アール様?まだあのことって諦めていないのですか?」
「もちろんだよ。君も協力的になってくれているようだしね」
「協力的にはなっていませんよ」
「そうなのかい?随分とアリスと親しくなっていたようだが」
「それは……」
だって仕方ないじゃないか。
俺が、頑張って計画通りにしないと思っても、一緒に強敵に挑めば仲が良くなってしまう。至極当然のことだ。少年漫画の主人公達も同じようなことを言っていたんだぞ!
「確かに親しくはなりました。ですが、僕はアール様の計画には賛同は出来ません」
「まあ、今はそれでもいい。時間はいくらでもある」
「いくらでもではありませんよ。五年だけです」
「はは、そうだね。五年もある」
アールは不敵な笑みを浮かべた。
この人がこんな表情をしたときは大抵良からぬ事を考えていると分かった。
「まあ、すべてはアリス次第です」
「そうだね、すべてはアリス次第だ」
全くこの人は……。
諦めが悪いというか執着心が強いというか。この人はあの計画に賭けているのだろう。あの計画でしか家を乗っ取る方法が無いのだから。理解は出来る。納得は出来ないが。
「それで、僕を呼び出したのは今の話をするためですか?」
「いいや、ここからだ。
君は森で上半身に翼を持つ魔物と戦ったようだね」
ああ、グリフォンのことか。
グリフォンと戦ったときは本当にキツかった。
俺の魔術でもアリスの剣術でも簡単には傷を付けられないし、グリフォンも風魔術を使ってきた。今回はどうにかなったがグリフォンが複数体でもいれば間違いなく負けていただろう。
「はい。アリスと共に討伐しました」
「あの魔物はこの大陸にはいないはずなんだ。君は【四剣士の世界放浪と地下転移迷宮】という本を知っているかい?」
そう言ってアールは一冊の本を手渡してきた。
「はい。読んだことがあります」
「じゃあ、知っているね。あの物語に出てくる四剣士がとある大陸の砂漠で戦った大きな翼を持つ魔物。それが恐らく君とアリスが戦った魔物だろう」
俺は、アールが言っていることが書かれているページを開いた。
そこにはこう書かれている。
『喉を一瞬で渇かすような風が吹いている、植物一つ存在しない砂の地面が辺り一面に広がっている土地に入った。この土地の魔物達はとても大きくそして凶暴だ。ここでなら、我々の剣の腕をさらに高めることが出来るだろう。
この過酷な土地に入ってかなりの時間が経った。やがて、大きな岩までたどり着いた。我々は休憩を取ることになった。
休憩を取っていると辺りが急に影に覆われ始めた。我々は注意を払いながら辺りを見渡し、上面を向いた。
そこには、上半身に大きな翼を持ち、獅子のような下半身をしている魔物が複数、空を飛んでいた。
我々は、魔物に気づき剣を抜いた。
魔物達はすぐには襲いかかってこなかった。数分が経ち、魔物は翼を大きく振りかぶった。すると、魔物から何かが放出された。
我々は最大限の警戒をした。
すると、一人の剣士が傷を負った。何かで切りつけたような切り傷だ。
我々はあの魔物が魔術を使ったのだと理解し一人の剣士に任せた。その剣士は聖神流を使っているため魔術を逸らすことが出来る。
その剣士が魔術を逸らせることを知った魔物は攻撃手段を魔術から鋭い爪での攻撃に切り替えてきた。
魔物が剣の届く範囲まで来たことで我々にも戦うことが出来た。しかし、魔物の外皮は非常に硬く、私以外の剣士の剣では一撃で仕留めることが出来ないくらいだ。
私以外の剣士が私に魔物の注意が向くように動き、私が魔物を討伐する。この陣形で魔物を倒していった……』
この本を読む度に思うけど、これって本というよりかは日記……だよな?まあ、日記が後に本として出版されるのは前世でもあったことか。
それよりも今は本の内容だ。
本には『喉を一瞬で渇かすような風が吹いている植物一つ存在しない砂の地面が辺り一面に広がっている土地』とある。そんな、厳しい環境はアスト王国……いや、この中央大陸には存在しない……はず。
「そうですね……特徴がよく似ていると思うので、恐らくそうだと思います」
「やはりか……君はこのことに関してどう思っている?」
「恐らくですが、あの魔物達は他の大陸から飛ばされてきているのだと思います」
「ほう、それはなぜ?」
「あの魔物や毒牙大蛇、メタルスネークなどの魔物はどれもこの大陸には存在しない魔物です。それに、アスフィの両親は元々、大森林に住んでいたところを一瞬のうちにシエラ村まで飛ばされていた。と言っていました。そうなれば、あの魔物達も偶然あそこで生まれたのではなく、アスフィの両親のように突如飛ばされたのではないかと思います」
「なるほどね。それで、原因は?」
原因。
恐らく……あの光だろうな。
俺が、毒牙大蛇とグリフォンと戦った時、両方緑色の光が大地から漏れ出ていた。
あの後、地面を少し掘ってみたが……当然光は漏れていなかった。何か条件のような物があるのだろうか?
「原因は、恐らく大地から漏れ出ていた光だと思います」
「光?」
「はい。僕が父様と共に戦った毒牙大蛇。アリスと共に戦ったグリフォン。その両方で同様の『緑色の光』を見ています」
「グ……それで?」
「その光は大地の裂け目から漏れ出ていました」
「大地の裂け目……」
「はい。僕達がグリフォンと戦っているときに見ました。大地が裂け、裂け目からは光が漏れ出ているのを。原因は分かりませんが……」
あの光は一体何なんだろう……。
今は想像もつかない。だから、レイナ姉さんが派遣してくれる研究員の人の頑張りに期待するしか無い。
「なるほど……大地の裂け目か……」
アールは口元に指を当ててブツブツ聞こえない位の声量の言葉を発しながら、考える人のようなポーズをしていた。
「よく分かったよ。ありがとうルイネス」
「お役に立てて良かったです」
アールは机の上に置かれていた紙を一枚手に取り、そこに何かを書いていた。
書いていた内容は分からなかったが、恐らく自分の考えついたことだろう。
「ところでルイネス」
アールは今まで見たことないような真剣な表情をして、机に肘をつき口元で手を組んでいるゲンドウポーズをしていた。
「はい。なんでしょうか?」
「君は一体どこで魔物の名前を知ったんだい?」
「……え?」
「僕は一言も魔物の名前を言っていない。ヘルスにも森でのことを少し聞いていたが彼は知らなかった。ヘルスが知らないなら、あの家にいる者は恐らく誰も知らないだろう。
君の家にある本も見たがそこにも記されている物は無かった。あの本にも魔物の特徴は書いてあったが名前は書いていない。では、なぜ君は知ることが出来たのだろうか……教えてもらっても良いかな?」
……あ、
俺ってあの魔物の名前を口に出して言っていたのか!?
確かに、ヘルスもあのグリフォンと言っていなかったし、本にも書いていなかった。それなのにも関わらず、家からろくに出たことも無いような子供が知っていたら、そりゃあ疑ってしまうのも当然だ。
どうする……偶然考えていた名前と同じだった。なんて言っても信憑性は無いだろう。いっそのこと話してしまうか?
俺が転生者で前世の記憶を保持していることを……いや、だめだ。
そのことを話してしまっては、生活をしづらくなる。それに、家族にはなるべくばれたくない。息子にどこの誰かも分からない男が入っているなんて知られれば、家族として見てもらえなくなってしまう。
何か、バレない言い訳けが無いだろうか……?
「それは……」
「ヘルスに話を聞いていたときからおかしいと思っていたんだ。その歳の割には君は賢すぎるんだ。ヘルスの息子とは思えなほどの礼儀の良さに加えて膨大な知識量。それに、魔術。
どれをとっても君は異質だ。君は……一体何者だい?」
……詰みだ。
何も思いつかない。完全に手詰まりだ。こんなに動悸が激しいのは教室に乗り込んだとき以来だ。
あの時は教室にいた生徒と教師の目線がキツくて緊張したな……はぁ、もう言ってしまおうか。
言ってしまえば、俺が家に帰っても、家族として迎えてもらえないかもしれない。それは悲しいが、受け入れて静かに出て行こう。
家を出たら旅でもしよう。旅をして冒険者になっていろいろなところに行こう。フレイのように大陸を渡るのもいい。
「僕は……」
俺は考えるのを諦めてすべてを話そうとした。その時、部屋の扉が勢いよく開いた。
開いた扉の先には、二人の少女が立っていた。
「ルイネス!遅いわよ!」
「ええ、そうですよルイ君。私達はずっとここで待っていたんですから」
二人の少女、アリスとレイナ姉さんはずっと扉の前にいたのかすごくご立腹のようだった。
二人は部屋の中に入ってアールを通り過ぎ俺の元まで来て、手を引いた。
「行くわよルイネス!」
「えっ?ちょ……」
「ふふ、行きますよ。良いですね?アール様」
レイナ姉さんがそう言うとアールは、先ほどまでの真剣な表情を崩し、いつものように何を考えているのか分からない笑みを浮かべていた。
「ええ、もちろん」
「それでは、ルイ君はもらっていきます」
「それじゃあお父様。おやすみなさい」
「ああ、おやすみアリス」
二人は俺の手を引いて扉の方に向かった。
アールは俺が目の前を過ぎるときボソッと何かを呟いた。
「よかったね、娘達に助けられて。
答えはまた明日聞くことにするよ……」
その呟きに一瞬ドキッとしたが、俺はなんとか逃げられた。
俺はこの世界での一番の山を乗り越えた。
部屋を出た後、俺の手を引いている二人はまっすぐ俺が止まる部屋に向かった。
「ふう、ここまで行けばもういいわね!」
「ええ、大丈夫でしょう」
「ハァ、ハァ……ふ、二人ともありがとうございます」
俺は心からの感謝を述べた。
二人には感謝をしても仕切れない。
「当然よ!」
「ええ、当然のことをしたまでです」
助かったのだが、なぜ二人は扉の前にいたのだろうか……?
特に約束もしていなかったはずだが?
「二人はなぜ扉の前にいたのですか?」
「ああ、それは……」
「ルイネスに何か面白い話をしてもらうためよ!」
「面白い話?」
ど・う・い・う・こ・と・?
俺が面白い話なんて出来ないぞ?
「どういうことですか?」
「アリス様が、『一人は暇よ!』と言って私の部屋に来られたのですが……私ではアリス様を満足させることが出来ず、仕方なくルイ君に頼ろうとなりまして」
「なるほど、分かりました」
そういうことなら頑張ろうじゃないか。
二人には殺気の恩がある。その恩を今返そう。
「どんな話をしてくれるの!」
「ルイ君の話、楽しみですね」
「それでは、伝説の三大聖神の……」
「それ知ってるわよ。聖帝龍王ディエードよね?」
俺が話をしようとした瞬間アリスが話を区切るようにそう言った。
あれ?知っていたか。じゃあ、違う奴で。
「では、四人の剣士の話を……」
「それも知ってるわ!」
おっと、それも知っていたか。
冒険物がダメなら……。
「それでは、アスト王国の二人の……」
「それも知ってる。他にないの?」
「うっ、それでは……」
家にあった本は全滅か……。それじゃあ、前世の物語の物を話すか。
「それでは、桃色の果実から生まれた剣士と三匹の獣たちが角の生えた大きな怪物を打倒するまでの物語です」
「何よそれ……面白そうじゃない!」
「ええ、そうですね。聞いたこともありませんし興味深いです」
よし、これは知らないみたいだな。まあ、当然だな。桃太郎だし……。
俺はその後も桃太郎のストーリーをこっちでも伝わるように話した。
「こうして桃色の果実から生まれた剣士は三匹の獣と共に屈強な怪物達を倒し、財宝を持ち帰ったとさ。めでたしめでたし」
「面白かったわ!」
「ええ、そうですね。果実から生まれたというのは少々気になりますが……面白かったです」
好評だったようだな。
前世の物語で楽しんでもらえるのなら良かった。これからも、何か聞かせろと言われたら前世の物語を話すとしよう。
しかし、今回のことでいろいろ勉強になった。そして、これだけは肝に銘じておこう。
余計なことを口走ってはいけない。決して。
もう二度とこんな過ちは犯さない……。よし!今日のことは心に留めておいて明日からも頑張っていこう。
あと五年もあるんだ。こんなところで躓いてはいけない。
……言い訳考えなきゃ。
朝目覚めると知らない天井があった。
なぜかと考えていると、徐々に昨日のことを思い出してきた。ヘルスとセリスに留学をしてこいと言われ、そのまま夜のうちに家を出て馬車に揺られこの街まで来た。
街に来て、スロウ家の宿に入った。入った後、食事をとって、アールと話した。森で戦った魔物のこと、謎の光のこと。そのことを話し終わった後、尋問された。
尋問されているときのことは今でも覚えている。「君は……一体何者だい?」この言葉を聞いたとき動悸が激しくなりすごく怖くなった。
結果的にはアリスとレイナ姉さんに助けられた形になる。二人には感謝しかない。だけど、問題も残っている。アールだ。
アールは今日にでもあの問いの答えを聞いてくるだろう。どう、切り抜けるか……そうだ!ここは我が偉大な師匠フレイ・セフラグの名を借りることにしよう。
予想通り、朝食後にアールに部屋に呼ばれた。
「さて、昨日の問いの答えを聞こうか」
アールは昨日と同じような顔をして俺にそう言ってきた。
俺は、朝に考えた返答をそのまま伝えた。
「僕の師匠であるフレイ・セフラグが魔族でして、師匠が大陸を渡ってくるときに偶然その魔物と遭遇し、戦ったあと、魔物について調べたことを思い出話として聞かされていたからですよ」
俺は冷静に、慎重にアールに嘘だと悟られないようにゆっくり話した。
アールはしばらく考えた後にいつもの微笑んだ顔になった。
「なるほど、そういうことだったのかい。
確かに、君の魔術の師匠のことをすっかり忘れていたよ」
アールはいつもの軽いしゃべり方でそう言った。
なんとか誤魔化せたようだ。さすがはフレイ大先生だ。いつでも俺の力になってくれる。一生崇めて生きていこう。
「師匠を忘れてもらっては困りますよ」
「はは、いやすまなかった。許してくれ」
俺は部屋を後にした。
部屋を出るときのアールの顔が計画を俺に話しているときの楽しそうな顔と似ていたことだけが気がかりだが……。
俺たちは宿を後にした。
再び馬車に乗り込み、ブルセルまで続く街道を進む。
馬車の中は家から先ほどまでの街に向かっている間と特に変わるところは無く、賑やかに進み始めていた。
アールの様子も特に変化は無く、至って平然にしていた。
馬車に乗り込んでから数時間が経ち、外が少し賑やかになってきた。
馬車についている窓のカーテンを開き外を見てみるとそこには、長蛇の列があった。
長蛇の列の並ぶ先には、数十メートルはある壁に鉄製の巨大な扉。扉の前には、動きやすそうな鎧を着た兵士のような者が二人、扉の前で列に並んでいる人の何かを見ている。
俺が考えているとアールが俺の考えていることの答えを言ってくれた。
「あれは来た者を確認するための関所だ」
「関所?」
「アスト王国の主要都市にはああやって関所のような物が設置されている。関所で自分の身分を証明できる物を提示するんだ」
関所か……前世で言うところの入国審査のようなものか。入国するにはパスポートを提示しろ。ということか……おい、待てよ?
俺、自分の身分証なんて持っていないぞ?
「あ、あの。アール様」
「なんだい?」
「僕は身分証なんて持っていませんよ?」
「ああ、それなら問題は無いよ。
街に入るのに通行料を支払えば仮身分証を発行してもらえる」
なるほど、金さえ払えば誰でもこの街には入ることが出来る。それって、警備的には大丈夫なのか?まあ、きちんと兵士が見ているのなら問題は無いか。
「ちなみに、通行料というのはおいくらなのです?」
「銅貨三枚だ」
「銅貨三枚……」
銅貨三枚というと……三千円か。
某ランドの入場料と同じくらいか?分からないが……。
まあ、それで入れるのならやすいものか。
「では、僕はとりあえず通行料を払えば良いんですね」
「いや、問題ないよ」
「え?」
馬車が列を無視して、そのまま門の方へ向かった。
門の目の前まで行くと馬車が止まり、アールは窓に自分の顔が見えるようにした。すると、門の前に立っている兵士は焦ったように鎧を正し、敬礼をした。
兵士は中を特に確認せずに馬車を街の中に通した。
「あの兵士の人、馬車の中を特に確認していませんでしたが、良いのですか?」
「ああ、大丈夫だ。
スロウ家はこの街どころか、この土地を納めている家だよ?そんな人が乗っている馬車に変な者が乗っているとは思わないだろう」
「なるほど、確かにそうですね」
つまり、ここくらいは身分証を見せなくても顔パスでいけるということか。
さすがは、大貴族様だ。
俺たちは街へと入った。
入った街は俺がこの世界に来てから行ったどの場所よりも店が多く人も多い。ここは活気に溢れていた。
俺はついに入った。
リエイト領最大の都市にして、他国との戦争において最終防衛地点となる壁に囲まれた屈強な都市。
《防衛都市ブルセル》に。




