第十七話:「お嬢様と共闘」
ーヘルス視点ー
今日家でパーティーが開催された。
そのパーティーは防衛都市ブルセルから来た俺の従兄弟、アール・スロウ・アルストレアと姪のアリス・スロウ・アルストレア。それに昔に一度だけ遠目で見たことがある、アスト王国第一王女レイナ・エスロア・アスト。
この三人が来て家の中は大騒然だ。
アールとアリスの二人ならまだしも来ぬ国の第一王女が来たとなるとこっちも頑張ってもてなさないといけないとセリスが言って急遽パーティーが始まった。
俺とアールはこの村周辺に起きている魔物の異常発生やその対策などの話し合いをしていた。酒を飲みながら。
俺はアールになぜ第一王女がこの家に来ることになったかの経緯を聞いた。それは、アール達がこの家に来るに来る前、第一王女と会談をしていた。
会談内容ははっきりとは教えてもらえなかったが、会話内容で大方見当はついた。アールが俺のことをバカだと思っててくれて助かった。くそっ、自分で言ってて嫌になるぜ。
おそらくだが、レイナ・エスロア・アストはおそらく王位を狙っている。王族なら王位を狙うのは当然だろう。
アスト王国には王位を狙う王族がレイナの他にも数人いるのは知っている。それぞれに派閥があるのも……。エルア家にいる時もそう言った話をよく聞いていた。それも俺が家を出た原因の一つでもある。親父が死んだら次は俺がその役目を受け継がないといけないとか正直嫌気がさす。あいつはよくやっているよ。
アールはまだ幼いが王位を狙っているレイナ妃殿下につくことで計画を進めやすくしようと思ったのだろう。
計画が成功した場合、後押しをしてくれる存在が欲しい。それがレイナ妃殿下か……。まったく、性格が悪いところは変わっていないようだな。
会談中に時間になりどこに行くのかと聞かれこの家に行くと伝えたのだろう。
レイナ妃殿下がニーナの事を知っていたところを見ると今回のも計画の一つとしてアールの計画に組み込まれていたのだろう。
そして計画通り、レイナ妃殿下は行きたいと言いここまで連れてきて計画の要となるルイと合わせたのだろう。
レイナ妃殿下とルイが仲良く慣ればそれだけ計画の進行も早まる。本家が跡目争いに負けた家に王女と仲の良いエルア家の子供がいれば絶対に反応を見せるそこにつけ込もうとしてたのか……。相変わらず怖いくらい先を読んで行動しているな。
そこは尊敬すると共に怖く思うぞアール。
今我が優秀な息子がアールと言い合いとまではいかないが自分たちの意見を互いにぶつかっている。終始余裕な笑みを崩さないアールが一瞬だけその笑みを崩した。
それは、付き合いの長い俺だからこそ気がつけたような微妙な変化だった。
余裕の笑みが崩れたのは息子のルイネスが口調を荒くしてアールに対して声を張り上げながらこう言った時だ。
「『親なら親らしく自分の子供のやりたいことをさせてやれよ!
こんな子供を利用するようなやり方じゃなくアリスに協力して欲しいなら面と向かって頼んでみろ!
それが出来ないなら本家を乗っ取るなんてやめてしまえ!』」
普段礼儀正しく誰にでも同じ姿勢で自分の感情をめったに表に出さない優秀な息子が感情をあらわにしてアールに言いたいことをぶちまけたのだ。
俺は最初は驚いた。
なんせ、俺でも今まで見たことの無いような顔をして聞いたこともないような声を出していたからだ。
……いや、前に一度だけ見たことがあるか。
あれは、ロイド達が魔物に殺されて俺とルイでその魔物を倒しに行ったとき、ルイは今さっき見た印顔をしていた。
あのとき俺も、冷静さを保てず感情的になりかけていた。それでも、魔物の元に向かい協力して討伐できたのはルイがいたからだ。
あいつが俺以上に魔物に対して怒りを露わにしていたからこそ俺は冷静に正気を保つことが出来た。
あの時と同じ、ルイの本性というかルイの中にいる者というかなんというかよく分からないものを垣間見た気がした。
俺はルイのことを自分の息子だとちゃんと思っている。思ってはいるが、時々ルイがルイじゃ無いと思ってしまうときがある。ルイの中に得体の知れない何かが……いや、中のルイが本当のルイで外のルイが偽りのルイなのかもしれない。それとも、両方ともルイ自身なのかもしれない。
こう考えると、自分でも何を考えているのか分からなくなる。
だが……まあ、良いか。
ルイがどういう存在でも俺の息子に変わりは無い。
ルイは歳の割には大人びていて不安に思うところもあるが同時に頼もしくもある。あいつは、そんな優秀な俺の息子だ。
俺もアールの考えていることは反対だ。
当人達の気持ちに関係なく事を進めるなんて汚い貴族と同じようなことは……。
今回のルイのことでアールも多少は控えるようになるらしいが本当のあいつは諦めが悪く執着心が高い。
一度やると決めれば必ず実行する男だ。
だから、これで終わりと言うわけにはいかないがルイならどうにか出来るだろう。
ールイネス視点ー
パーティーから一夜が開けた。
翌日の朝は綺麗な朝日が昇り良い朝だった。
俺は早くに目が覚め庭の方へ出ていた。
庭に出ると何かを振り下ろすような音が聞こえてきた。気になって見に行ってみるとそこには、木剣を勢いよく振り下ろしているアリスお嬢様がいた。
「お嬢様、朝が早いのですね」
「いつもやっていることだから勝手に目が覚めただけよ!」
習慣化しているのか。
ということは普段から素振りをしていると言うことか……それなら、あの底なしの体力にも合点がいくな。
「お嬢様は剣術が好きなのですね」
「そうね、剣術は好きだわ!」
獰猛な肉食動物が剣術を覚えてしまったらもう手を付けられないだろう。いや、もう手遅れか……。
「お嬢様」
「なによ?」
「意味も無く決して人に向かって剣術を使ってはいけませんよ?」
「なんでよ?」
「剣術は確かにすごくて魔物に対抗できる手かもしれません。しかし、その反面人を簡単に殺せてしまう者なんです。剣術は自分の武器になります。だけど、一歩間違えれば人を傷つけるだけの道具になってしまいます」
「……」
まだ難しかったかな……?
こればかりはこの世界と前の世界との常識の違いがあるから仕方が無いか……。
「まあ、えっと……無活に人に向けて使わないという事です」
「……分かったわ」
まあ、太刀筋的にアリスお嬢様に剣を教えている者がいるのだろう。
……俺もやろうか。
剣を振っているとヘルスが起きてきたためそのまま稽古をすることになった。
俺は朝食を取ってからの方が良いと進言したがアリスお嬢様がやりたそうにしていたため開始する運びになった。
開始してすぐ体作りの練習に基本の型の練習それを終えた後、対の練習に入った。
最初に俺とヘルス、次にヘルスとアリスお嬢様がやることになった。
結果から言おう。
お嬢様はとても強かった。
俺がヘルスと対をしても一太刀も浴びせられない。だが、アリスお嬢様は数回に一度はヘルスに当てれていた。
俺は魔術を使っても一度も当てられない。
お嬢様は魔術を使わず体術と剣術のみで一太刀浴びせていた。
ヘルスもアリスは相当練習を積んでいると言っていた。それと、こんなことを呟いていた。
「アリスの剣には見覚えが……。
アリスに剣を教えたのはあいつか。ということは、あいつが今いるのはスロウ家か」
俺にはあいつという人物は分からないが、ヘルスの知り合いの剣士なのだろう。
試しにやってみろと言われ俺もお嬢様と打ち合ったがコテンパンにされた。
お嬢様には「あなたは弱いわね!」と言われた。
お、俺だって魔術さえ使えれば一太刀くらい浴びせられるもんね……はぁ、なんか自分で言ってて悲しくなってくるな。もうちょっと剣術の鍛錬を多くしよう。
稽古を終えた後、水浴びをした。
稽古をしているときアールが見に来ていて水浴びをアリスお嬢様とさせようとしてきたので全力でお断りさせてもらった。
俺は一人で水浴びをして、お嬢様は起きてきたアスフィと水浴びをした。
各々がさっぱりした後朝食を取った。
朝食はパンを主食にしてスープとサラダが出てきた。
「それじゃあ、僕はそろそろ街に戻るとするよ」
朝食を取り終わった後アールがそう言い出した。
「なんだ、もう帰るのか」
「僕はここに送るだけだったからね。
ここに来た目的も完璧とはいかなかったが果たすことが出来た」
アールはそう言って俺の方を見てきた。
彼の顔は爽やかに笑っていたが目は笑っていなかった。
昨日のこと相当根に持っているな……まあ、面と向かってあれだけ言ったんだ。根に持たない人の方が少ないだろう。
俺たちは見送りのために庭先まで出ていた。
レイナとお嬢様はまだ残るようだ。
「アリスとレイナ様はまた一月後に迎えに来るとするよ」
「分かったわ!お父様」
「ええ、分かりました。アール様お気を付けて」
アールは馬車に乗り込み防衛都市ブルセルまで帰って行った。
馬車に乗る時小声で俺に呟いてきた。
「ルイネス。
アリスとレイナ様を頼んだよ。
レイナ様は確認が必要だがアリスは好きにしてもらっても構わない」
「何もしませんよ」
「今はそれでもいい。だがいずれ……まあ、それは一月後で良いだろう」
「一月後もしませんよ」
「はは、君は案外強情だね」
「アール様には及びませんよ」
「本当に君と話していると楽しいよ。この調子でアリスのことも頼むよ。
では、ルイネス。一月後にまた会おう」
彼はやっぱり俺とお嬢様をつなげようとするのか……お嬢様は確かに可愛いが手を出すと俺が殺されかねない。
そんなリスクを負ってまで俺が無理矢理何かをするとでも思うのだろうか……。
彼の作戦には乗らない。乗らないが、俺個人として親しくなるのは問題は無いだろう。
せめて、殴られないくらいには親しくなろうと思う。
その後、ヘルスの稽古は朝にやったため昼間で暇な時間が出来た。
暇な時間が出来たことをレイナに伝えると遊びに行こうと言ってきた。
「ルイ君森の近くまで行きましょう!私村には行ったけど森までは行ったことがないの」
「いや、しかし……レイナ姉さんは王女様ですよ?そんな御方が森に行くなんて危ないです」
「いいのよ、今の私はアスト王国第一王女レイナ・エスロア・アストじゃなくてルイ君のお姉ちゃんのレイナだもの。それに、危なくなったらルイ君達が守ってくれれば良いのよ」
確かに、森にいる魔物くらいなら遅れは取らないだろう。
俺もだが、アスフィも剣術が立つアリスお嬢様もいる……なんとかなるか。
この辺りに生息しない魔物が出た場合はすぐに逃げてヘルスを呼んでこよう。
「わかりました。行きましょう」
「やった!」
こうして俺たちは森に向かうことになった。
セリスやヘルス達に話すとお弁当を持たせてくれた。今日はみんなでピクニックだ!
「昨日来たときは夜で大人の人達しかいなかったけどやっぱり子供がいるとより明るく思えますね」
「そうですね、ちょっと問題のある子供もいますが……」
問題がある子供というのはチャール、ゾル、マルドの悪ガキ三人組だ。最近は良し悪しの区別がついてきたらしくいじめのようなことはしていないらしいが、一度やったことはそう簡単には消えない。
アスフィはもう気にしていないとは言っていたが俺はやっぱりあの三人は苦手だ。
「問題があってもいいじゃないですか」
「え?」
「確かに、度が過ぎているのはよくないと思います。
アスフィに聞きましたよ。
ルイ君がいじめられているアスフィを助けた時のことを」
「えっと……」
おいおいおい。
まさかあの恥ずかしい台詞を聞かれたんじゃないだろうな。
ヘルスに気づかれないようにアスフィに広めないよう言っておいたのに……いや、あの時は「父様にだけは言わないで」と言った。
それならアスフィがレイナに言ってしまったのも仕方が無いか。
「随分とかっこいいことを言ってましたね」
「あああ、あの時のことはどうか内密にしておいてもらえないでしょうか」
「なぜです?もしかして……ヘルス様に気づかれたくないのですか?」
「……はい、父様にだけには聞かれるわけにいきません。絶対に馬鹿にされます」
「そんなこと無いと思いますよ?もしかしたら、よくやったと言ってもらえるかもしれません」
確かにヘルスならそう言うかもしれない。
しれないが……。
想像してみるとニヤニヤしながら俺を突いてくるヘルスの姿が浮かんできた。
だめだ、想像するといらついてきた。
「それでもダメです。絶対にダメです!」
「そうですか……まあ、良いでしょう」
レイナは「本題に戻ります」と言った。
「子供の大抵は愚かな者です。性格や言動に問題を抱えている者ばかりで。
しかし、それは当然なことなのですよ?
愚かな子供の頃からいろいろな経験、いろいろな体験をすることで大人へと成長していく。
愚かな子供から聡い大人に成長する。それが、人の人生だと私は思っています。
だから、問題のある愚かな者で良いのです。人は成長できるのですから」
なるほど、愚かな者から聡い者へ成長する。それが人生か……。
たしかにそうなのかもしれない。
だけど、成長できない者もいる。俺だ。
レイナの言う大人には俺はなれなかった。まあ、前世での話だが。
春を……義妹を傷つけていなくなるような奴が聡い大人になれるわけがない。それが、心残りで俺はこの世界に転生しなのかもしれない……そういえば、俺が死ぬ直前声のような物が聞こえたな。
なんだっけ……?だめだ、思い出せない。
考え込んでいるとレイナが顔をのぞき込んでいた。
「ルイ君。どうしました?」
「えっ?あ、いや。何でもないです」
「そうですか……何かあったら相談してくださいね。私はルイ君より多少多く生きていますから」
「分かりました。何かあれば相談します」
まあ、誰にも相談は出来ないだろう。
違う世界から来ました。なんて言ったら頭おかしいのかと思われる。
森の近くで弁当を食べることになった。
弁当にはパンに何かの肉や野菜を挟んだ物……つまりサンドイッチだ。
みんなそれを黙々と口に運んでいた。
食べている途中森の方が騒がしくなった。
何かと思って見ていると森に住んでいる危険性のない魔物が出てきた。
危険性はないとはいえ魔物に変わりないのでこのままじゃあ自警団の方々に討伐されてしまうだろう。
魔物は焦ったように俺たちに目もくれずに走って逃げてしまった。
普段はおとなしい魔物達も逃げ出している……森に何が?
「なんだか……面白そうね!」
「あ、ちょっと。お嬢様どこに!?」
アリスお嬢様は森の方へ走り出した。
彼女は遊びに行くにもかかわらず剣を所持していた。恐らく、森に近づいたら一人で中に入ろうと考えていたのだろう。
「アスフィ、姉さんを安全なところに」
「ルイは?」
「俺は森に入ってお嬢様を連れ戻す」
「でも……」
「大丈夫。見つけたらすぐに戻るから」
「……分かった」
「姉さんもアスフィと一緒にいてください」
「分かりました。帰ってきたら森の中のことを教えてくださいね!」
「はい、分かりました」
俺は走り出した。
森に入りまっすぐ進んだ。
魔物達は奥の方から外に向かって逃げている。
一体何が起こっているんだろう……。
魔物達は普通、人を見つけると襲いかかってくる。そして、敵わないと思ったら逃げ出す。
俺が知っている魔物はそういう奴だ。
こんなのを見るのは初めてだ。
数分進むと懐かしの場所に着いた。
開けた場所でその中央には石の遺跡がある俺とヘルスで大きな魔物と戦った場所だ。
「ああ、またお前か」
そこには前に見た奴よりも小さかったが紫色の外皮に鋭い牙。牙から緑色の液体……毒が出てきている。忘れもしない。そう、毒牙大 蛇だ。
「もうお前とは会いたくなかったんだがな」
前とは違って今回はヘルスがいない。こいつは凍り付いても少し動けていた。
おそらくは耐性を持っているのだろう。あの硬そうな外皮が凍らせるのを妨害していたのだろう。おそらく、火も効かない。
こういうとき剣士がいると助かるんだけどな……。
どうするか……あいつ今にも襲いかかってきそうだし。
毒牙大蛇は俺に対して威嚇をしながらじっと見てきている。
相当警戒されているな。
「シャァァ!!」
毒牙大蛇は大きな口を開いて襲いかかってきた。
前の奴よりも素早い動きで一瞬理解するのに遅れた。
『アースウォール!!』
俺は避けられないと思い俺の目の前に壁を作り出した。
毒牙大蛇は壁に当たり一瞬怯み隙をみせた。
俺は、アイシクルショットを発動して毒牙大蛇に対して放った。前にウォーターキャノンを使った際に簡単に避けられてしまったので今回は無数の氷の矢を作り出した。
今回は避けられなかったようで直撃した。
毒牙大蛇は体に無数の穴を開け倒れていった。
「今回はなんとかなってよかった」
正直この魔物は苦手だ。
あの日の事があったのもあるが今でもこの魔物を見ると少し怒りが湧いてくる。
フレイに聞いたが本来この魔物は三体~五体で群れをなしながら生息しているらしい。こんな奴が複数体でいるなんて考えるとゾッとする。
しかし、こいつは何でここにいるんだ?
前にも思ったがアスト王国がある中央大陸からアルレシア大陸まではかなりの距離があるにもかかわらず魔物達はここまで来ている。
一体何が……。
俺は森をさらに進んだ。
人に襲いかかる魔物もいたが俺を見ても気にとめずに走り去っていった。
普通では考えられない光景に俺はまだ理解が追いついていなかった。
以前に見たメタルスネークもいたがあいつの対処はやりやすいので直ぐに討伐した。
森を進んでいると何か光のような物を見た。
その光は緑色で発光していて俺はその光の方向に走っていった。
光っている地点に着くとそこには相手を威嚇している傷を負ったアリスお嬢様とその対面に大きな図体をした鷹の上半身を持ち、ライオンのような下半身をした魔物がいた。魔物の姿はまるで、前世でも本物は見たこと無いがアニメや映画などでよく出てきている伝説上の怪物グリフォンのようだった。
下半身には鋭い爪が付いており、爪にはかすかに血が付いていた。
そのグリフォンがいる奥にはひび割れた地面から光が漏れ出ている奇妙な光景が広がっていて、光が漏れ出ている地面は徐々に塞がっているようだった。
お嬢様は剣を構えてはいるが足に力が入っていないようで木にすがりながらぐったりしていた。グリフォンは鋭い爪を構えて目の前にいる人間に対して威嚇しているようだった。
よく見たらお嬢様の近くの木に刃物で傷を付けたような跡が付いている。あれは、一体……図体で木に攻撃すればあの木は跡を残すのではなく、えぐれて倒れるはずだ。
そんなことを考えているとグリフォンが襲いかかろうとしていたので急いで止めに入った。
「はぁぁぁ!『エアブラスト』」
俺はエアブラストを使いグリフォンの首を吹き飛ばそうとした。だが、グリフォンは俺の魔術をくらっても薄皮一枚削っただけだけだった。
ダメージは負っていると思うが外傷が深いようには見えない。そうなると、恐らくこいつも何かしらの耐性を持っているのだろう。
クソっ!こいつも別の大陸の魔物か!
どうする……ダメージを負っているがそこまでの外傷は首の薄皮一枚削っただけ。結構本気で打ったんだがな……こいつもかなり硬いな。
俺は対策を考えているとふと、ある光景を思い出した。
その光景は俺がヘルスに剣術の稽古をしてもらっているときだ。
ヘルスはその稽古の時硬い岩をたやすく斬っていた。どうやったのかと聞いても感覚的なことだったためよく分からなかったが、今思うとなんとなく想像することが出来る。
ヘルスは恐らく魔力を纏っているのだろう。前世のゲームで言うバフ……身体強化魔術だ。だが、そんな物はこの世界には存在しないはずだ。
フレイに魔術を学んでいる頃、ゲームの知識がどれくらい通用するのか確認するために質問したことがある。しかし、そんな物は存在しないと言われた。
存在しないと言われても、実際にそうだとしか言い様がない。現に、この世界の剣士は世界記録よりも速く走り、陸上の棒高跳びのバーよりも高く飛び、光の速さで剣を振り下ろしたりする。
そんなもの、人間離れしすぎている。
お嬢様は剣の腕が立つもしかしたら岩くらい切ったことがあるかもしれない。
「ふぅ、賭けだが……やってみるか」
俺がボソッと呟いた言葉にお嬢様はきょとんとしていた。
俺はグリフォンとの間にアースウォールで分厚い壁を形成して一時的に安全地帯を作った。
俺はお嬢様を真剣な目で見つめた。
「アリスお嬢様」
「ハァ、ハァ……な、なによ?」
「お嬢様は岩を斬ったことはありますか?」
「何を言ってるのよ!」
「質問に答えてください!」
「無い……けど、師匠には出来ると言われたことはあるわ!」
へぇ、お嬢様にも師匠がいるのか。この猛獣を御せるなんてきっと、フレイのような素晴らしい……いや、今はいいか。
「それなら任せたいことがあります」
「なによ?」
「お嬢様にあの魔物の首を刎ねていただきたいのです」
「……無理よ。私の剣じゃアイツを斬ることは出来ないわ」
「大丈夫です。僕に一つ案があります」
俺が使った魔術で薄皮を少し削った。削った位置を気にしているように思う。こいつは恐らく外皮が固いだけで中身はそんなに硬くないんじゃ無いか?
そうとなれば、同じところに魔術を当て続ければいずれ柔らかい部分が出てくる。そこをお嬢様に斬ってもらえば良い。
「僕があの魔物に魔術を当て続けて外皮を薄くします。そこを、お嬢様がその剣で斬ってください」
こう考えててなんだが、誕生日にヘルスにもらった剣があればグリフォンも楽に倒せたのではないか?まあ、森に入って魔物と戦うなんて想定していなかったから仕方が無い……。
お嬢様は悩んでいた……いや、悩むと言うより大丈夫なのか不安に思って迷っているって感じだ。
迷っていてもやってもらわなきゃアイツには勝てない。
「お嬢様……やってくれますか?」
「……いいわよ!私もアイツにやり返したいと思っていたもの!」
「よし!では、僕が魔術を当てるので、合図を出したら動き出してください」
「分かったわ!」
俺は治癒魔術を使って、お嬢様の傷を治した。
傷は直したが……服が所々破れていた。
おお、俺より一つ歳上と言っていたがなかなかの成長……いや、やめとこう。
前にも思ったがこんな小さい子をそんな目で見るのはいけない。断固としていけない。
「お嬢様……これを着てください」
俺は羽織っていた上着をお嬢様に渡した。
「なんでよ?」
「あの……ほら、魔物の攻撃を受けて服が」
「えっ?」
お嬢様は自分の身なりを見て赤面した。
バッと自分の体を俺から受け取った上着で隠した。
局部は見えてはいなかったが恥ずかしいものは恥ずかしいのだろう。
あ、もちろん殴られた。
お嬢様が上着を羽織り終わったのを確認して俺はアースウォールを解いた。アースウォールを解くとグリフォンは距離を取るために飛び上がっていた。
おいおい、やっぱり飛べるのかよ。
飛べるなんて反則だ……いや、翼が付いているのだから当然か。それに、あの翼は胴部分よりは柔らかそうだ。
とりあえず打ち落とすしか無いか……。
超級魔術を使えれば簡単に倒せるのに、森の中はやっぱりやりずらいな。
俺は、手をグリフォンに向けて魔力を込めた。
「始めます」
「分かったわ!」
俺はグリフォンに向かって岩石砲弾を五発打ち込んだ。
グリフォンは最初の二発は回避していたが残りの三発は回避しきれずに直撃していた。
直撃した岩の砲弾は翼をえぐって落下させることは出来たが首には多少しか傷を与えられなかった。
「グアァァァ!!」
グリフォンは痛みで激情したのか襲いかかってきた。
残った片方の翼を振りかぶって何かを飛ばしてきた。何も見えなかったが確かに何かを飛ばしてきたような気がする。すると、急に体に激しい激痛が走った。
いってぇぇぇ!これって……風魔術か!?魔物が魔術を使うこともあるってフレイに言われていたのにそのことを忘れていた。
くそっ!こうなったらやられる前に倒すしかない。
俺は全力で魔力を込めた。
「はぁぁぁ!『氷射』」
俺は残りの魔力をフルに使って無数の氷の矢をグリフォンの首元に対して打ち込んだ。
魔術を発動させる度に痛みと共に傷口から血が出てくる感覚がある。痛みで何度も意識が飛びそうになったがなんとか正気を保っていた。
グリフォンは外皮が薄くなってきてダメージが入っているのか少しずつ怯みだした。
「もうすこし!!」
俺は魔術を打ち続けた。
やがてグリフォンの首元から血が出始めた。
血が出始めたことを確認して、俺はウォーターキャノンを使いグリフォンの足を濡らした。
ウォーターキャノンではダメージを与えることは出来ないが、今は濡らすことが目的なので問題は無い。
俺はその後、アイシクルフィールドを使いグリフォンの足を凍らせた。
よし!そろそろ。
「お嬢様!今です」
「分かったわ!」
お嬢様はグリフォンが凍った足に気を取られている隙に首元に剣を添えた。
お嬢様の剣は力が足りなかったのか首に少し入った状態で止まっていた。
「があぁぁぁ!」
雄叫びと共にお嬢様は力いっぱい剣を振り斬った。
振り切ったと同時に、お嬢様の剣がグリフォンの首を切断し弾き飛ばした。
首を失ったグリフォンは血を吹き出しながら倒れていった。
「や、やったわ。倒したわよ!」
お嬢様は飛び跳ねて喜んでいた。
傷が癒えているのでお嬢様は元気だ。服は上から上着を羽織っているだけなので、少々自重してほしいものだ。
だがまあ……喜ぶのはいいことだ。
「はい、やりましたね。倒せたのはすべてお嬢様のおかげです」
お嬢様はここに来たとき悩んでいそうな顔をしていたのでとりあえず褒めておこうか。
現在俺は全身に傷を負い激痛が走り傷口からは血が流れ、魔力切れを起こしている。
今の俺はもうズタボロだ。治癒魔術を使う魔力さえ残っていない。
このままでは森にいる魔物に食い殺されてしまう。それに、急に現れた魔物が毒牙大蛇とグリフォンだけという可能性は低い。
今はなんとしても森から出なければならないが……ここは元気なお嬢様に頼ることにしよう。
「お嬢様」
「アリスよ」
「え?」
「あなたに私をアリスと呼ぶことを許すわ!光栄に思いなさい!」
「あ、はい。ありがとうございます。
では、僕のことはルイネスと呼んでください」
「分かったわ!ルイネス!」
「ではアリス。僕はもうじき気を失うと思うので後のことはよろしくお願いします」
意識が遠のくような感覚がある。
視界が暗くなり始め、全身に寒気のような物を感じる……。
俺は全身から力が抜けていくようにドサッと倒れた。
これ死なないよな?
「えっ?ちょっと。ルイネス?ルイネス!」
アリスの声を聞きながら俺の視界が真っ暗になり気を失った。




