第十五話:「来訪者」
妹のシャロンとエマが生まれてから三ヶ月の月日が流れ、俺は六歳になった。
二人の妹たちは健康に育ち、首が据わり始めていた。
二人は最近目に見える物のすべてが珍しくて興味が湧くのか手を上に向けて仰いでいる。
そんな可愛らしい妹たちに一人の不穏な男が近づいていた。
その男は二人の女児に気づかれないようにそっと近づき手で顔を隠しながら二人をのぞき込んだ。
二人がその男の顔を見たと同時にパッと手を開いた。
「シャロン、エマ、パパでちゅよー」
変な顔をしながらそう言った男はこの家の大黒柱にしてそこにいる二人の女児、シャロンとエマの父親。そう、ヘルス・アルストレアである。
ヘルスは森の巡回から帰って来るなり最近出来た愛娘達の元に直行した。
妹たちはヘルスを見るなり驚いてしまったのか泣き出してしまった。
ヘルスが泣き出した二人を泣き止まそうとしていると奥の部屋から二人の女性が出てきた。
一人は金髪の優しそうな顔立ちをした美しい女性。
一人はボルドー色の髪を後ろでまとめてメイド服を着込んでいる無愛想な様子女性。
そう、セリスとニーナである。
二人は泣き出した女児達を抱きかかえて泣き止むようにあやしていた。
「もーあなた。何やってるの」
「旦那様、赤ちゃんは急に大きな声を聞くと泣き出してしまいます。気をつけてください」
二人はヘルスに対して言い聞かせるような口調で注意した。
「す、すまん」
「まあ、この子達が可愛いからしょうがないわよね」
「そうですね」
三人はそんなことを話しながら子供をあやしていた。
母親に抱かれている妹たちは不思議そうに三人を見回していた。
「よし、泣き止んだわね」
「それでは旦那様あとはお願いします」
二人は女児をヘルスに任せて奥の部屋に戻っていった。
二人は食事を作っている最中だった。
俺は三人のそんなやりとりをアスフィと共にセバスの授業を受けながら見ていた。
そういえば俺が生まれたときもあんな感じのやりとりをしていたな。
「なあ、アスフィ」
「ん?なに?」
「俺は二人の妹に尊敬されて目標となれるような兄になるよ」
「えっ?ああ、うん。頑張ってね」
アスフィはニッコリと微笑んだ。
現在俺とアスフィは算術の授業を受けている。
この世界の算術は前世と似たところが多かった。
そのため俺はすぐに理解できたがアスフィは苦戦しているようだった。この世界の算術には前世ほど難しいものはなく計算の基本となる四則演算しかなかった。
セバスが大体のやり方を教え俺がアスフィの分からないところを教える。この方法で授業を進めてた。セバス曰く「お互いに教え合うことで自身の知識も豊かになる」とのことだ。
その考えには俺も激しく同意する。
アスフィに魔術を教えることで俺も魔術に関してさらに知識を深めることが出来た。
「ねぇ、ルイ」
「ん?なに?」
「ここってどうやるの?」
「えっと……」
アスフィはどうやらかけ算に苦戦しているようだった。
かけ算は物を買うときとかにも必要になる。ここはしっかりと教えよう。
「一個銀貨三枚の果実を七個買ったらいくらかかる?」
「えっと……」
アスフィは自分の指を使いながら数え始めた。だが、途中で指が足りなくなり断念した。
「三枚の銀貨の束が7つあると考えれば良いんだよ。三枚の銀貨が二つあれば六枚、三つあれば九枚とこんな感じで考えていけば分かると思うよ」
「四つで十二枚、五つで十五枚、六つで十八枚、七つで二十一枚……あ、できた」
「正解。それを金貨に置き換えて考えてみて」
「えっと……金貨が銀貨十枚分だから、金貨二枚と銀貨一枚!」
「うん、正解。
これだけ出来ればもう大丈夫だね」
「うん!」
セバスがパチパチと手を叩いていた。
「アスフィ、おめでとうございます」
「セバスさん、ありがとうございます」
「坊ちゃまも教えるのが板についていますね」
「まあ、フレイ先生の授業を受けたり、アスフィに魔術を教えたりしてましたからね」
「なるほど、さすがは博識で多彩な坊ちゃまですね」
「はは……あ、ありがとう」
セバスの俺に対する評価が前と変わらず高くてちょっと怖い。
何でこんなに評価が高いのだろうか……。
「セバスは何でそんなに僕のことをそんなに讃歎するんですか?」
「それは、才能を持って生まれたのに努力を怠らないからです」
「え?」
「坊ちゃまは生まれた頃から何か考えのあるような行動をしていました。何かを探すように家中を駆け回り書斎を見付けたときにいは目を輝かせながら本に手を伸ばしている光景は今でも覚えています。その後、魔術を練習し始めた時もすぐに初級を扱えるようになって私は魔術の才能を持っていると思いました。
今まで才能を持って生まれてきて努力することを怠る人を何人も見てきました。ですが、坊ちゃまは才能にすがらず努力をしているのをこのセバスずっと見てきました。少々努力を隠すところがおありのようですが」
「僕には才能なんてありませんが……えっと、ありがとうございます」
なるほど……。
恥ずかしいな。
前にアスフィに似たようなことを言われたがやはり面と向かって言われると恥ずかしい。
俺の照れた様子をアスフィがニコニコしながら見ていたのは今は気にしないようにしよう。
ヘルスは妹たちが生まれてからというものずっと構っている。俺も妹たちにデレデレしているので人のことは言えないが。
二人の妹、シャロンとエマは俺のように別の世界から転生してこの世界に来た転生者ではないようだ。
俺がヘルスとセリスの息子として転生したケースがあったことと、エマがシャロンに比べて泣かない子だったので妹たちに前世のことを質問して反応を確認してみた。
「君たち、ここはすごいだろ?前の世界じゃあ見たことのないものばかりで」
妹たちは特に反応を示すことのなくいつものように俺に手を向けて仰いでいるだけだった。
どうやら妹たちは誰かが転生しているようではないようだ。
別に誰かが転生していても俺の妹に変わりはないので問題はないが一応の確認として問題がなくてよかった。
俺はフレイに手紙を書くことにした。
手紙の内容は近況報告や魔術の悩みそして、生まれた妹たちについてのことを手紙三枚分に渡って書き綴った。
妹の可愛いところを書いていると手が止まらなくなる。読んでみると自分でも引くレベルだった。まあ、シスコンと思われてもいい。この世界にシスコンという言葉があるかは分からないがフレイなら受け入れてくれるだろう。
フレイへの手紙をセバスに渡した。
あれからさらに数週間が経った。
この日俺は稽古の後アスフィと共に魔術の練習をしたりセバスの授業の復習をした後ヘルスと共に森に向かった。
森では、ヘルスや自警団の人たちが定期的に魔物の討伐をしているのにもかかわらず魔物の数が減っているようには見えなかった。
ヘルスが言うには「ここ数年間で魔物の動きが活発になりつつあってどこからか魔物が集まっているように思える」とのことだ。
前にヘルスと一緒に戦った毒牙大蛇もこの辺りにはいない魔物と言っていたし何か起こっているのだろうか……。
不安だな……。
俺たちは森にいる魔物達を倒していった。
シクロピアンボアやポアトレントなどアスト王国周辺に生息している魔物がほとんどだったが希にこの辺りに生息していない魔物もこの森にいた。
「父様、あの魔物は」
「あれは……」
その魔物は、メタルスネークと言うらしい。斬撃に対して高い耐性を持っており全身が鋼鉄の鎧のようになっている蛇のような見た目の魔物。
ヘルスはこいつは魔術師なら余裕で倒せる程度の魔物だ。と言っていたので俺が相手をすることになった。
メタルスネークは火の魔術に弱いと言われたが森の中で火魔術を使うわけにいかず俺は、土魔術の『岩石砲弾』を使いメタルスネークの胴体に向こう側が見えるほどの穴を開けた。
「おお、すごいな」
「そうですか?」
「ああ、普通メタルスネークを倒すには火魔術を使う。それはあのての魔物は熱に弱いからだ。それなのに土魔術で胴体に穴を開けるなんて出来る奴は少ないだろう。斬撃が効かないのも硬いからだしな」
確かに硬そうに見えたが土魔術ならあれくらい貫通させれそうなもんだが……。
「僕が出来るならフレイ先生も出来ますね」
「お前はホントにフレイのこと好きだな」
「もちろんです。先生は僕にとって憧れの人ですからね」
「そんなことばかり言っているとアスフィがヤキモチを妬くぞ?」
「もちろんアスフィのことも大好きですよ?」
「全くお前は……誰に似たんだか」
フレイは先生として尊敬しているしアスフィは守ってあげたいと思う。二人ともそれぞれ好きなだけなんだ。
「似たと言えばおそらく父様にですね」
「ああ、そうだな。女の子が好きなところは父さん似だな。
父さんに似たんならガールフレンドの二人や三人は作らないとだめだぞ?」
「はは、頑張ります」
俺とヘルスは家に帰宅した。
帰宅後、ヘルスがアスフィに俺の言ったことを伝えてしばらくの間まともに面と向かって話せなかったことは割愛しよう。
少しずつ寒くなり始めた頃ヘルスに集められて家族会議が始まった。
家族会議の議題は数日後この家に客人が来るというものだった。
客人くらいならわざわざ集まって話すこともないんじゃないかと思ったがそういうわけにもいかないようだった。
「父様」
「なんだ?」
「その、家に来る客人って?」
「防衛都市ブルセルの一番偉い人でこのリエイト領の領主のお嬢様だよ」
「なんでそんな人がこの家に来るんですか?」
「その領主が父さんのいとこでな、ルイが5歳の誕生日を迎えたら一度来ることになっていたんだよ」
「なんで僕の……?」
「それは……まだ言えない」
ヘルスはアスフィの方をチラチラと見ながら明らかに言いづらそうにしていた。
まあ、これに関しては言えないこともあるか……あるのか?
「まあ、直に分かるからその時まで待っててくれ」
「父様がそう言うなら……分かりました」
直に分かるならその時まで待てば良いか。
それよりも会議を続けよう。
「それで、その領主様のところのお嬢様が何しに来るんですか?」
「そのお嬢様に貴族の生活だけじゃなくこういった庶民的な生活も体験させたいらしくてな、この村で騎士の仕事に就く際に条件として出されたんだ」
簡単にまとめると、貴族の生活だけでは偏った常識を持ったまま成長することになる。そうなれば端的な目線でしか物事を見ることが出来なくなる。それなら、幼い頃からいろいろな生活を体験させることでいろいろなことを考えられる人に育てるというところか。
「お嬢様はいつまで滞在されるのですか?」
「大体一ヶ月程度の予定だ」
一ヶ月程度なら問題はないだろう。
領主の娘ということなら応対はセバスがするだろうし俺は迷惑をかけないようにするだけだ。
「あと、そのお嬢様はルイとアスフィより一つ年上だ。
同じ年代の奴と一緒にいた方がお嬢様も安心できるだろう」
おっと、このパターンは……。
「だから、そのお嬢様の応対はルイとアスフィに任せるぞ」
「僕がお嬢様の応対を出来るわけないじゃないですか」
「ぼ、ボクも自信ないです」
「大丈夫だ。
領主の奴には普通の家族の一人として扱ってくれと言われているから普段通りにしていれば問題ない」
そういうことなら大丈夫か?
問題があればセバスに任せることにしよう。
「二人とも出来るな?」
「はい」
「頑張ります」
俺とアスフィは元気よく挨拶をした。
不安は残るが一ヶ月我慢するだけだ、頑張ろう。
会議中セリスの顔がずっと優れなかったところが心残りだが今はお嬢様をどうするか考えよう。
ーーー
一ヶ月後
家族会議から早くも一ヶ月過ぎた。
今日は領主様とお嬢様が来られる日だ。
俺とアスフィは部屋の中で頭を悩ませていた。
「なあ、アスフィ。何か思いついたか?」
「ううん、まだ何も」
現在俺たちが悩んでいることはお嬢様に対して何をするかだ。
お嬢様の相手を頼まれた以上むげにするわけに行かなかったので必死に考えた。しかし、お嬢様が楽しく思うようなことはあまり思いつかなかった。
俺とアスフィは同年代の女の子がやるようなことは何も知らない。俺たちが遊ぶときは大抵魔術の練習だったり村の方へ出かけたりするだけだった。しかし、それではお嬢様は楽しく思われないだろう。
そう考えた時、ヘルスの言葉を思い出した。「家族の一員として扱え」この言葉の通りに普段やっていることをやろうという結論に至った。
二人でそんなことを考えていると正午になった。
正午になり二台の馬車が近づいてきた。
二台とも豪華な装飾が施されており、一目見ただけで身分の高い人が乗っていると分かった。
馬車が家の前に止まり一台目の馬車から一人の老人が降りてきた。
その老人はセバスが着ているタキシードのような服を纏っており、二台目の馬車の扉を開けた。
扉が開くと中からヘルスに似いている茶髪で爽やかさを纏っている男と紅赤色の髪を靡かせた女の子が降りてきた。
茶髪の男は貴族流の挨拶なのか右手を左胸に当て左手を後ろに回しながら片膝をついた。
「アルストレア家の皆様、本日はお招きいただきありがとうございます」
男は爽やかに笑い綺麗な口調で挨拶をした。
その男は前世でアイドルでも食っていけそうな顔をしていた。どことなくヘルスに似ているのは従兄弟だからか。
そんなことを考えているとヘルスが口を開いた。
「何かしこまってんだ。お前もアルストレア家だろうが」
「何言っているんだい?僕の家はスロウ。君はエルアじゃないか。
三大貴族に名を連ねる同士の礼儀としては当然の事だよ?」
「俺はもうエルアじゃない」
「フフ……そうだったね」
その男は辺りを見渡して視線を俺に向けた。
「ヘルス、この子が君の息子のルイネスかい?」
「ああ、そうだ。俺に似て賢そうな顔をしているだろ?」
「君には似ていないが確かに賢そうだ」
そう言って男はニヤっと笑いながら俺の頭を撫でた。
いや、顔は笑っているが目は笑っていなかった。何かを企んでいるようなそんな顔をしている。
「あの……あなたは」
「ああ、まだ自己紹介はまだだったね。
僕の名前は、アール・スロウ・アルストレア。
君にとっては叔父に当たる者だよ」
「僕の名前はルイネス・アルストレアです。
お初にお目にかかり光栄です」
「君はヘルスとは違って礼儀正しいね」
「そうでしょうか?」
「ああ、そうさ。知っているかい?ヘルスは君くらいの歳の頃は学校の女の子のお尻ばかりを追っかけていたよ」
「それでしたら今と変わりありませんね。今も母様とニーナさんのお尻ばかり追いかけていますから」
「おお、そうなのかい?何も変わらないねあいつは」
「そうですね」
俺のジョークにも軽く乗ってきてくれる。
何かを企んでいるように見えたが気のせいだったのか?もしかしたら、俺が考えているよりも良い奴なのかもしれない。
俺がそんなことを考えているとヘルスが後ろの方で怖く微笑んでいる金髪の女性に怯えながら俺とアールの前に入ってきた。
「も、もう良いだろ?それよりも、お嬢様の紹介をしないとだろ?」
「僕はまだ話していてもよかったんだけど……まあ、そうだね。アリスこっちに来たまえ」
「はい!お父様」
アールにアリスと呼ばれた女の子は俺たちがいるところまで歩いてきた。
その女の子は、紅赤色の髪を腰の位置まで伸ばし目はキリッとしていて物腰が良いように見える。女の子は身に纏っている洋服のスカートの裾を軽く持ち上げて膝を曲げた。
「は、始めまして。あ、アリス・スロウ・アルストレアですわ」
「初めましてアリスお嬢様。
私はヘルス・アルストレアと申します。
こっちが息子のルイネス・アルストレアです」
ヘルスは俺の背中を押して前に出させた。
案外おとなしい子なのか?ちゃんと挨拶も出来るようだし……。
ヘルスが俺の名前を言ったがもう一度言った方が良いだろう。
「ご紹介にあずかりました。僕の名前はルイネス・アルストレアです。
一ヶ月間と短い期間ではありますがよろしくお願いいたしますアリスお嬢様」
「ふんっ!」
アリスお嬢様は機嫌が悪いのかそっぽを向いてしまった。
あれ?何か気に障ることでも言っただろうか……?
「こらアリス。
そんな態度ばかり取っているとルイネスが困るだろ?」
「だって……」
「いえ、僕は大丈夫ですよ」
「あなたには関係ないでしょ!ちょっと黙っていなさい」
彼女は拳に力を込めて俺の頭を上から叩いた。彼女の方が身長が高いため簡単に叩かれた。
俺を叩いた後、右手で腰の位置まである紅赤色の髪をサラッと靡かせて手を腰の位置持っていって仁王立ちしていた。
「と、父様?あれって」
「ああ……そうだ。彼女のあの性格を押さえるためにここに来たんだ」
「やっぱり……」
やっぱりそう言うことか、貴族の生活だけだ取って言うのはあの性格になってしまった原因が貴族なら一度貴族の生活から離れたら収まるんじゃないかって事か……。
「父様」
「ん?なんだ?」
「申し訳ありませんが無理です」
「だめだ、やるんだ」
「あれは無理です!あれは猛獣です。魔物よりも恐ろしい獰猛な肉食動物です!」
「お、おいルイ。そのあたりに……」
ヘルスが顔を青くしてある一つの方向に指を指していた。俺がその方向を見ると怖い顔をしたアリスお嬢様がこっちを見ていた。
「聞こえてるわよ?」
「ヒッ!あ、えーと……ごめんなさい!」
俺は逃げた。その場にいると命が無くなるような気がしたからだ。
村の方に向かって走っていたが後ろの方から寒気のような者を感じたので後ろを向いてみると凄まじい殺気を出しながらアリスお嬢様が追いかけてきていた。
「待ちなさい!」
「いやです!」
「どうしてよ!」
「殺されるからです!」
「殺さないわよ!ちょっと眠りについてもらうだけよ!」
「お断りします!」
俺は走った。とにかく走った。村人の視線を気にすることなく、行く当てもなく、とにかく追いつかれないように……。
後ろから追ってくる凶暴な猛獣が諦めるまで……。
ーヘルス視点ー
ルイネスがアリスに追われている頃
俺たちはルイとアリスを見送った後家の中に入った。
「いやぁ、よかったよ。ルイネスがアリスと仲良くなってくれて」
「いや、あれは仲良くなってはいないだろ……」
「そうかい?僕から見ると懐かしいような光景だったよ」
「懐かしい?」
「ああ、昔君が屋敷に来たとき、僕も君によく追い回されたよ。娘達は立ち位置が逆のようだが」
アールは昔を懐かしむように微笑んだ。
「まあ、このまま二人が仲良くなってもらった方がこっちとしても楽になってうれしいよ」
「お前……あんなことホントにやるのか?」
「当たり前だよ。あの家を潰すにはこれしか……君は反対なのかい?」
「俺は反対だ。スロウ家のアリスと血筋的にはエルア家のルイを婚姻させて裏からスロウ本家を乗っ取ろうなんて」
「良い計画じゃないか。君もエルア家を乗っ取りたいだろ?協力するよ」
「俺はエルアなんてどうでも良い。俺はただのアルストレアだ。
それに、お前がやろうとしていることも本人達次第だろう?」
「そうだね、すべてはアリスとルイネス次第だ」
アールはニヤッと悪巧みでもしていそうな表情をした。
こいつは昔からよからぬ事を考えているときこんな顔をする。
昔は気持ちが悪く思っていたが今ではそんなに気持ち悪いとは思わない。それは、昔よりも今の方がこいつの事を知っているからだろうか……。
「もしルイネスがアスト王国の貴族になりたいと言ったら君は止めるのかい?」
「その時は……ルイがやりたいって言ったならもちろん止めはしない」
ルイ自身がやりたいと思うなら別に止めはしない。
俺は自分の子供がやりたいと言ったことはなるべくやらせてあげたいと思っている。それは、俺自身が実家にいるとき自由にさせてもらえず窮屈な思いをしたからだ。だから、俺は家を出た。
俺の子供時代の時のような思いは自分の子供にはさせたくない。
「そうか、それなら安心だ」
「だけど、無理矢理ルイの意思関係なく巻き込むようなことはするなよ?」
「ああ、分かっているよ」
アールは不敵な笑みを浮かべたまま家の中を見渡した。
すると、アスフィを見たときに疑問を浮かべたような顔をした。
「なあ、ヘルス」
「なんだ?」
「君に娘が二人生まれたとは聞いたが随分と大きい娘が生まれたようだね」
アールはアスフィの元まで行き同じ目線になるように膝を曲げた。
膝を曲げると「なるほど、半長耳族か」とつぶやいた。
「初めまして、僕はアール・スロウ・アルストレア。君は……誰だい?」
「ぼ、ボクは……」
「その子はアスフィード。前に職を探してるって会わせたロイドの娘だ」
「ああ、あのハーフエルフの……アスフィード、君のお父さんとお母さんについてはとても残念に思うよ」
「え?」
「彼がこの村に来てくれたおかげで魔物の被害が少なくなり村からの納品が安定して届くようになった。これは君のお父さんやお母さんが村人やヘルスと共に魔物達を押さえてくれたのが大きいだろう。
そして、すまなかった。本来は職を進めた僕にも責任があるのに今まで挨拶をすることが出来なかった。
君のお父さんとお母さんには感謝しているよ」
「いえ、お父さんもお母さんもそれを聞いたらとても喜ぶと思います。ありがとうございます領主様」
まだロイド達のことを気にしていると思っていたがもう大丈夫なようだ。
前にルイが「アスフィはもう大丈夫ですよ」と言っていたがどうやらホントだったらしいな。
まったく、我が優秀な息子はよく人を見ている。
あの日からかなり経ったが両親を失った傷は大きかっただろう。
アスフィが乗り切れたのはルイが何かやったのだろう。
「全くあいつは……さすがは俺の自慢の息子だな」
俺の口からは自然とそんな言葉が出てきた。
「ああ、そうだヘルス」
「ん?なんだ?」
「少しの間だけここにおいてほしい御方がいるんだ」
「おいてほしい御方?」
「ああ、その御方はスロウ家に内政の会談として来ていたんだが、この家にいるニーナ・セルトがいると伝えたら是非会いたいと言い出されてね」
「ニーナに?」
なぜニーナに?
ニーナは近衞侍女の仕事をやめてからすぐにこの家に来たはずだ。
こいつが御方と言うくらいだから身分の高い奴なんだろうが、そんなやつとニーナが面識を持つ事なんてあるのか?
「その御方という奴はだれなんだ?」
「それは来てからのお楽しみさ。今日の夜には到着するはずだから。
それと、その御方が来られたらそんな口調で話すんじゃないよ?
一発で君の首が飛びかねないよ?」
「わ、分かった」
ニーナに会いたくて身分が高い人……全く想像が出来ない。
もしニーナの両親とかだったらしっかりと挨拶をしよう。
アールはこの後シャロンとエマの寝顔を見た後、村と森付近まで行った。
森付近に行くとルイがアリスに馬乗りにされていたので興味本位で近づくと本気の顔で「助けてください」と言われたのでルイとアリスを引き離した。
ルイが傷だらけになりながら「父様無理です」と言ってきたので、「このての女の子は普段は素っ気ない態度を取るがふとしたときに可愛い顔を見せるから手込めにしろ」と言っておいた。
ルイ達と合流した後、近くの草原まで視察に行った。草原にあるロイド達の墓に手を合わせた。手を合わせたアールは普段悪巧みしている時とは別人のような顔をしていた。
ールイネス視点ー
俺は今現在アリスお嬢様に馬乗りにされている。
俺は疲れ切って息切れをしながら殴られている。お嬢様は息切れはしているが疲れている様子はなく鬼の形相で俺を殴っている。
追いかけられて分かったことがある。
このお嬢様の体力は底なしだ。
俺は家から飛び出して村を越え森付近まで追いかけられて捕まった。いくら体力を付けるために日々トレーニングをしていてもこの距離を全力疾走をしたら誰でも疲れるだろう。しかし、このお嬢様は疲れを見せることなく俺を捕まえた。
さすがは猛獣だ。
俺が馬乗りにされているときアールとヘルスが来たので止めてもらった。
俺は怪我をしたところに治癒魔術を使い完治させた。
治癒魔術を使っているときお嬢様が凝視してきていたが襲われたくないので気がついていないことにした。
さすがに命の危機を感じたので、これ以上は無理とヘルスに伝えたところ、
「このての女の子は普段は素っ気ない態度を取るがふとしたときに可愛い顔をするから手込めにしろ」
と言われた。
確かに前世にもツンデレという言葉はあったがこのお嬢様はツンというよりかはズンのみ、みたいな感じだ。ツンよりも重みがあってデレがない。
デレがないのは飴と鞭の飴がないようなもんだ。鞭だけでは人は耐えられない。
これからの一ヶ月が不安だ。
その後、お墓がある草原まで行きみんなで手を合わせた。手を合わせているときのお嬢様はさっきとは別人のように静かに手を合わせていた。
あんなにも凶暴な性格をしているのにこういう時はちゃんと出来るんだな……。
俺の中でアリスという人物の印象が変わった。
家に戻るとヘルスに呼び止められこの後一人偉い客人が来ると言われた。
何でも、その人はアールよりも偉い身分でニーナに会いたいと言っている人物だそうだ。
アールより偉い身分の人物なんてこの国には少ないだろう。アールは三大貴族のスロウ家に名を連ねている。この国で三大貴族に名を連ねているアールよりも身分が高いのは片手で数えられる程度だろう。
あれから一時間くらいが経っただろうか。
アールはヘルスと共に森で起きていることやそれに関する情報はないかなど仕事面の話をしていた。
俺とアスフィはセバスの座学があったので二人で受けているとアリスお嬢様が来た。お嬢様が興味深そうに見ていたので「一緒にやりますか?」と言うと殴られた。なぜだ?
お嬢様は俺を殴りつつも一緒に席に着いたので彼女なりの照れ隠しの一環で殴っているのかもしれない。
そう考えるとこれも飴……いや、違うか。
外で馬車が近づくような音がしてきたのでみんなで外に出た。
外に出るとアール達が乗ってきた馬車よりもより豪華な装飾が施された馬車が近づいてきていた。
馬車が家の前に止まるとスロウ家の執事と思われる老人が馬車のドアを開けた。
「ようこそお越しくださいました」
アールがドアが開いたと同時にそう言いながら片膝をついた。
馬車の中から背丈の小さい一人の女の子が降りてきた。
「レイナ妃殿下様」
レイナ妃殿下様と呼ばれたその女の子は、綺麗な金髪を靡かせ、整った眉に綺麗な碧色の瞳、鼻筋が通っていてシャープな顎。美人の条件をすべて満たしたような顔立ちをしていた。
その女の子を見た瞬間ヘルス、ニーナがさっと片膝をついて跪いたので俺たちもそれに従って跪いた。
「皆様頭をお上げください。
本日は王室の公務ではなくただのレイナとして参りました。
王室の公務でない以上跪礼は必要ありません」
レイナという女の子がそう言うとヘルス、ニーナが頭を上げたので俺たちも頭を上げた。
「それでは改めてご挨拶させていただきます。
私の名前は、レイナ・エスロア・アスト。
この国、アスト王国の第一王女です。
短い期間ではありますがどうぞよろしくお願いいたします」
彼女はレイナ・エスロア・アスト。
この国の第一王女様だった……。




