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転生記 ~異世界では長寿を願って~  作者: 水無月蒼空
第1章:【幼年期】転生編
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第十四話:「ニーナ・アルストレア」

ールイネス視点ー


 数分ほど泣き続けていたニーナは落ち着いてきたのか「もう大丈夫です」と言った。

 彼女は、目を赤く腫らして少々恥ずかしがっているように見えた。まあ、子供がいる前で大人が泣いてしまったんだ恥ずかしく思うのも当然だろう。

 それよりも俺は、彼女の弱いところが見られて少しうれしく思っている。

 彼女は普段、俺とあまり関わり合いを持たないようにしていた。それはおそらく今回のことを気にしていたからだろう。

 俺は彼女のことをまだよく知らない。そのため今のような彼女を見ることが出来てよかった。

 彼女は涙を拭おうとしていたので俺はハンカチを手渡した。

 涙を拭った彼女は心にゆとりが出来たのか明るい表情になった。


 「ルイネス様、ありがとうございました」

 「いえ、ニーナさんが落ち着かれたのでしたらよかったです」

 

 俺たちはこれからどうするのかを話し合った。

 このまま街に行くのか、それとも、家に戻ってきてくるのかを。


 「それではニーナさん、決めてください

  このまま街に向かうのか、家に戻ってくるのか」


 ニーナは戸惑うような表情をした。

 心にゆとりを持つことは出来たが、悩みは晴れていない。そんな感じだ。

 悩みという物は一朝一夕で無くなる物ではない。

 俺はあくまでもニーナの選択を尊重するつもりだ。本当なら是が非でも連れて帰りたいところだが無理強いをしてもニーナは喜ばないだろう。


 「僕は、ニーナさんの選択を尊重します。

  家に帰りたいというのならすぐにでも一緒に帰ります。父様達が事情を聞いたりしてきてもフォローします。

  街に向かうということであれば,寂しくなりますがご助力します」

 「わ、私は……」


 ニーナは言いにくそうに口を噤んだ。

 その表情からは、不安や迷いを感じた。


 やっぱりまだ決めきれないか……。

 ここは一度森の外に出てゆっくり話した方が良いだろう。


 「……まあ、今すぐに決められることでもないですよね。

  いつまでもこんなところにいるのもなんですし一度森の外まで出ましょうか。話はそれからで」

 「……はい、分かりました」

 「アスフィもそれでいいか?」

 「う、うん」


 俺たちは森を出ることになった。

 俺が前に出て魔物が近づいてこないように安全を確かめて合図を出す。アスフィとニーナは合図を確認したら後ろに付く形で進行する。

 とりあえずはこのフォーメーションで行くことになった。


 森を進み始めて数分が経った。

 俺は二人から数歩進んだ位置で視覚と聴覚を頼りに魔物がいないか確認をしながら進んでいた。その間、アスフィとニーナは何かを話しているようだった。

 後ろの方が少し騒がしくなっているが近づいてこないところを見るとさっきまでいた魔物なのだろうか?

 襲ってこないなら無理に倒す必要はないか。それなら、このまま警戒をしつつ先を進んでいこう。



 この森を出ればにニーナが選んだ方を優先して動くことになる。

 街に行くと言えば送り届け、帰ると言えば連れて帰る。

 後者を選んでほしいがニーナの意思は尊重する。


 不安だ……。



ーニーナ視点ー


 私は今選択を迫られている。

 このまま街に向かい生活できる場所を捜す。

 アルストレア家に戻り今までのような生活を送る。

 この二つの選択肢だ。

 私は当初アルストレア家に迷惑のかからないところでひっそりと生活しようと思っていた。その結果が、先ほどまでのあれだ。

 ルイネスとアスフィが来てくれていなければおそらく今頃ここに立っていなかっただろう。

 ルイネスに対して不信感を向けている私をなぜ助けたのかと疑問に思う。彼も薄々は気づいているだろう、私は今まであまり関わりを持たないようにしていたそれはこの国の伝承にこういった物があるからだ。


 《生まれつき左右の目の色が違ったり赤子の頃に不可思議な行動を取ることの多い者は呪いや悪魔が取り憑いている》


 この伝承が定かではないが多くの者に知られているところを見るとそういったこともあったのだろう。

 ルイネスは左右で違う色の目をしていて、赤子の頃から活発に動き家中を這いずり回っていた。這いずり回りながら聞いたこともないような言葉を発していた。

 最初の頃は赤子が上げる言葉としか思わなかったが一年くらいが経った頃から発している言葉が聞き取りやすくなり一つ気づいたことがあった。

 ルイネスが発していた言葉にはきちんとした規則性があったのだ。

 規則性のある言葉を生まれて間もない赤子が発している、これは普通なことではない。

 そのことに気づいてからルイネスと距離を取るようにしていた。

 この伝承でルイネスのことを嫌っている事を抜きにしても、今アルストレア家に戻ればあの家族を壊してしまうことは目に見えている。ルイネスはフォローすると言っていた。だが、優秀で気味が悪いと言っても所詮はまだ子供の言い分だ、聞き取られるかは分からない。

 それなら、私はもう戻らない方が良いのではないか……。


 現在ルイネスは数歩先を先行して歩いている。

 魔物の接近がないかを警戒しつつ合図を出すためだ。私たちは合図を確認して前に進む。

 今のところは魔物の接近は一度もない。それはおそらく、ルイネスがこの森の一番強い個体を倒したため魔物達が警戒して近づいてこないのだろう。

 ルイネスもそれには気づいている。それでも警戒を解かないのは彼が慎重な性格をしているからだろう。そういうところはセリスに似ていて安心する。

 

 私はアスフィと並んで歩いている。アスフィは自分たちよりも後方をチラチラ見ながら歩いていた。

 自分は何もすることが出来ないということに思うところはあるがこの二人は優秀な魔術師のため頼らせてもらう。

 数分ほど歩いて後ろの方から魔物の泣き声のようなものが聞こえてくる。

 アスフィはそれに最大限の警戒をしながら前に向かって進んでいた。


 あれからさらに数分が経ち一度休憩を取ることになった。ルイネスが疲れているだろうからとアスフィが提案して魔術で壁を作った。

 

 「さすがにずっと警戒しながら進んでいるので疲れますね」

 「すみません、任せきりになってしまって」

 「ごめんね」

 「大丈夫だよ。現状はこれが一番最適だからね」


 ルイネスは本当にまだ五歳なのかと度々疑う。五歳ではあり得ないほどの観察力や頭の回転の早さやなどそういった常識外れなところを見るとより一層何かが取り憑いているのではないかと疑ってしまう。

 ルイネスは私が疑っていると悟ったのか少々話づらくしていた。


 「あ……えっと、ニーナさん?疲れていませんか?」

 「私は大丈夫です」

 「そ、そうですか……。では先に進みましょうか」


 ルイネスはまた数歩先を歩き始めた。

 彼の背中は悩み事があるのか元気がないようだった。

 

 「ルイ、元気ないね」


 同じ事を考えていたのかアスフィがそう切り出した。

 

 「そうですね」

 「ルイはいつもいろんな事を考えているから普段から何に悩んでいるか分からないけど今なら分かる」

 「それは……」

 「ねえ、ニーナさん」


 アスフィは真剣な表情をした。


 「ニーナさんってルイのこと怖いと思っているよね」

 「え、それは……」


 アスフィはニーナがルイネスに対して不信感や悪感といったものを向けているのを気づいていたのだ。

 ニーナがすぐに選択できなかったのもそういった感情をルイネスに対して抱いているためということにも。


 「まあ、ルイのことよく知っていないと怖いと思うこともあるよね。ボクだってルイと一緒に遊んだり、フレイ先生の授業を受けていなかったら怖いと思ってしまうかもしれない」


 アスフィはルイネスと今まであった事を思い出しているかのように優しくニッコリと微笑んだ。


 「ルイって何でも知っているし何でも出来る。どんなときでも前を向いて解決しようと動く。そんな人ボクだって怖いって思うよ。でもね、ルイはいつも努力している。何でも出来て何でも知っているのはルイが日々努力した結果なんだよ。

 ルイは人一倍努力している、だからそれに見合った結果が出ている。ルイのことをよく知らなければ理解出来ないけどそれって当たり前のことじゃない?」

 「……そうですね」

 「まあルイは努力しているところを隠そうとするから気づけないけどね。

  ニーナさんも思い当たるところがあるんじゃないですか?」


 確かに思い当たる節はある。

 ルイネスが魔術を使い始めたとき私は、ヘルスとセリスが知る前から気づいていた。

 ヘルスとの鍛錬が終わるといつも一番に書斎に入り魔術を練習しているルイネスの姿を度々見ていた。

 教本を片手に初級魔術を発動させ成功したところを喜びながら魔力切れを起こしている姿を。

 私はそれを見るたびにルイネスの中にいるよくない者が何かをやっていると思っていた。

 魔術だけじゃない、剣術だってヘルスが家にいないときは一人で怠ることなく鍛練を積む。

 私が見ていたのはアスフィが言うところの普段隠している頑張っている姿というものなのだろう。

 それに気がついたとき私の中にある不信感や悪感といったものは不思議と薄れていた。それは、アスフィに言われたことで自分の中で納得する物があったからだろう。

 今まで気づかなかったというわけではない。

 生まれて間もない頃から聞いたこともないような言葉を話し、他の子とは違うどことなく違和感のような物をずっと抱いていた。そのため、人間らしいところや年相応なところアスフィの言う努力をしている姿を見ても気づかないふりをして理解しようとしない。

 だけど、アスフィに言われて理解した。いや、理解せざる得なかった。ルイネスはどこにでもいる普通の男の子と変わらない。

 そんな当たり前のことを今まで理解しようとしなかった。


 「そう、ですね。

  私は今まで何を考えているのか分からなくて不気味だと思っていました」

 「やっぱり……」

 「ですが、アスフィに言われて気がつきました。私が不気味に思ったり怖いと思っていたのはルイネス様ではなくアスト王国の伝承の方です」

 「え?」

 「左右の目の色が違う色だったり、幼い頃から普通と違う行動をしたりする子供は悪魔が取り憑いていたり、呪いにかかっているなど信憑性のない伝承です」

 「そんなものが……」

 「はい。しかし、今はもう大丈夫です。 

  アスフィ、ありがとうございました」

 「えっ?いや、ボクは何もしてないよ」


 そう、

 ルイネスは普通の男の子だ。

 今私が生きていられるのもすべてはルイネスのおかげだ。ルイネス達がここまで来てくれなければあの魔物の群れに襲われ無残に食い殺されていただろう。

 そうとなれば、ルイネス……いや、ルイネス様は命の恩人だ。この恩を返していけるようにあの御方に尽くしていかなければならない。

 あの方はヘルス様とセリス様の息子で私がお仕えする主の一人だ。

 そう決めた私には街に向かうという選択しは綺麗さっぱり無くなっていた。


ーーー


 数分間歩き続けて俺たちはようやく森を抜けることが出来た。

 行きはオオカミのような魔物の群れが襲ってきたが帰りはほとんど襲われなかった。

 魔物は群れをなすのもいれば単体で動いているのもいる。群れをなす魔物も単体で動く魔物も互いに捕食する対象とみているので人と同じように油断しているときに襲ったりする。

 魔物達には縄張り意識のようなが物ある。自分たちが生息している場所に何かが侵入したら排除するために襲ってくる。

 だが、縄張りに侵入してきても襲わない個体がある。それが縄張り野中で一番強い個体だ。強い個体に襲いかかっても逆に殺されてしまうことを知能が魔物でも感じ取る。

 魔物は相手が自分よりも強いと判断すると逃げる事がある。魔物の生存本能が逃げることを優先させるのだろう。たまに逃げずに襲ってくる魔物もいるが。

 一度逃げるとしばらくの間は襲ってこない。

 俺が倒した大きい図体をしていた魔物がおそらくこの森の中で一番強い個体だったのだろう。その個体を俺が倒したことで魔物達は倒せないと判断して逃げていった。そのおかげで帰りには一度も魔物に襲われなかったのでよかった。


 森を出ると少し夜が明けて日が昇り始めていた。

 森に入ったときは真っ暗だったことを考えると数時間の間森の中にいたことになる。

 そこまで長くいた気はしないが魔物と戦っているとき時間の感覚が分からなくなる。かなり長い時間戦っていたのか……アスフィが魔力切れを起こしかけていたし今後は早期撃退をモットーにしていこう。


 森を出た俺たちは火を起こしていたところで一休みすることになった。

 森の中の魔物も襲ってくる様子はない。しかし、森に入ってすぐのところで足音のような物が聞こえてくるので油断するのを待っているのだろう。

 オオカミのような魔物が五匹か……。

 五匹くらいならいけるか?

 ……よし、他の魔物もいるかもしれないから注意しながら倒しに行こう。


 「二人ともここで待っててください。ついてきていた魔物達を倒してきます」

 「分かった。ここは任せて」

 「お気を付けて」

 「はい、ありがとうございます」


 俺は魔物達が警戒しないようにそっと歩き始めた。

 魔物達は位置がばれたくないのか森の入り口付近をうろうろしていた。

 俺は森の入り口に入り薪を拾うフリをした。

 魔物達は俺が油断したと思ったのか五匹のうち三匹が襲ってきた。

 三体の魔物はそれぞれいる位置から素早いスピードで俺に向かって走ってきた。三匹が俺を襲うために飛び上がった瞬間俺は魔術を使った。


 「はぁぁぁ!『空気爆発(エアバースト)』」


 空気の爆発が三匹の魔物を襲い首を根元から吹き飛ばした。

 首を吹き飛ばされた魔物は力が入らなくなったように動かなくなった。

 

 残りの二匹はその光景を見るやいなや森の中に逃げていった。

 これで襲われることはないだろう。

 俺は、三匹の魔物の死体を森の外に運び出し燃やした。


 さすがに疲れたな。

 夜からずっと魔術を使いっぱなしだったためか疲れを感じていた。魔力を消費しすぎて魔力切れを起こしかけているのだろう。

 魔力切れを起こすのが久しぶりだったため正直疲れた。だか、疲れるのはここからかもしれない。

 ニーナがどっちを選んだかは分からないが、選んだ方を尊重して行動しよう。


 ニーナとアスフィがいるところまで戻り一度水を飲んだ。

 ニーナを探し始めてから飲まず食わずだったため喉がカラカラだった。カラカラの喉で飲む水はとても美味しく感じた。

 さて、本題に入ろうか。


 「ニーナさんどうす……」

 「ルイネス様」

 「はい?どうされましたか?」

 「私は、アルストレア家に戻ります。

  戻り次第、旦那様と奥様、心配をかけた人たち全員に謝罪をして回ろうと思います」


 ニーナの口から出た言葉は俺が待ち望んでいた言葉だった。

 ニーナもまだ不安はあるはずだ。だけど、家に帰ると言ってくれた。

 家に帰ってきてくれると言うことであれば任せなさい。ヘルスとセリスが怒っても最大限フォローするとしよう。


 「そうですか、分かりました。

  戻ってきてくれると言うことであればすぐに帰りましょう。父様も母様も心配をしているはずです」

 「はい、かしこまりました」

 「うん、分かった」


 俺たちはシエラ村まで続く街道を歩き始めた。

 先ほどまで付けれを感じていたはずが今は感じない。

 それはアスフィもニーナも同じようでこれなら村まで休憩なしでいけるだろう。

 そんなことを考えているとアスフィが隣まで来て話しかけてきた。


 「よかったね、ニーナさんが戻ってきてくれる事になって」

 「ああ、そうだね。すごくうれしいよ」

 「ルイはさ……もしボクがいなくなっても、こうして探しに来てくれる?」


 もちろん探しに行くだろう。もし、いなくなった理由が俺のことが嫌いとかでも泣きながら探す。まあ、いなくなってほしくないけどね。


 「もちろん探しに行くよ。どこにいても探し出して連れて帰るよ」

 「そっか……」

 「まあ、まずいなくなってほしくないけどね」

 「うん。じゃあ……ボクもいなくならないからルイもいなくなったりしないでね?」

 「ああ、約束するよ」


 アスフィが一人で生きていけるまで一緒にいるって約束もしたし俺も離れたくない。

 このまま家族みんなでシエラ村で過ごすというのも良いかもしれない。


 街道を数時間歩いてようやく村が見え始めた。

 村は静かで生えている草や木には朝露がしたたっていた。

 この世界に来て黄金の小麦畑や広大な範囲を持つ綺麗な草原。いろいろな綺麗な光景を見てきたが、今見ている光景もとても綺麗に見えた。


 村の方から三人こっちに向かって走ってくるのが見えた。

 それは疲れた様子をしていたがこっちを見ると明るい表情になった、ヘルス、セリス、セバスだった。セリスはこっちまで走ってくるとニーナに抱きついた。


 「お、奥様。あまり激しい行動をするとお腹の中の子に支障が……」

 「もう……バカ!急にいなくなったら心配するじゃない」


 セリスはニーナに抱きつきながら泣き出した。セリスの足下を見ると泥が多く付着しているところを見るとセエリスもいろんなところを捜し回ったのだろう。

 泣き出したセリスを見てもらってしまったのかニーナも泣き出してしまった。


 「す、すみませんでした……私のせいでご迷惑を……」

 「いいのよ。ニーナが無事なら」


 涙を拭って微笑んだセリスはとても綺麗に見えた。

 うちの母様は優しい人だな。

 そんなことを考えているとヘルスが頭を撫でてきた。


 「ルイ、よくやった。

  よくニーナを見つけ出してくれたな」

 「いえ、父様ならもっと早く見つけられていたと思います」

 「いいんだよ、こんな時まで謙遜しなくても。

  お前はすごいよルイ。さすがは俺の自慢の子だ」

 「っ!あ、ありがとうございます」


 自慢の子か、面と向かってそう言われると恥ずかしいが悪い気はしない。

 ヘルスは恥ずかしがっている俺が珍しいのか笑顔になってずっと撫でてきている。

 

 「僕のことは良いですから早くニーナさんのところに行ってあげてください」

 「ああ、そうするよ」


 ヘルスは俺の頭から手を離してニーナの元へ歩いて行った。ヘルスはニーナとセリスの二人をまとめて抱いて無事に戻ってきたことを喜んでいた。


 「ルイ、ヘルスさんに褒められてよかったね」

 「ああ、そうだね」

 「ボクもさっき褒められてお礼を言われたよ『ニーナを助けてくれてありがとう』って。

  褒められるってうれしいね」

 「ああ、そうだね。とてもうれしい気持ちになる」


 俺がそう言うと、

 アスフィは真剣な顔をして俺の方を向いた。


 「ルイはもっと自分の頑張りを前に出した方が良いよ」

 「え?」

 「ルイは確かに何でも知ってるしいつでも助けてくれる。だから、ルイは何でも出来るすごい人ってみんな思ってるけどそれはルイが陰で努力している結果だってみんなにも知ってもらった方が……」

 「いや、いいよ」

 「なんで?」

 「努力って誰かに見せるためじゃなくて自分のためにやる物だろう?」

 「それはそうだけど……」

 「それに俺は、誰か一人でもそのことを知っててくれたらそれだけでうれしいよ。だから、アスフィが俺のことを知っててくれるならそれだけで努力した甲斐がある」


 俺がそう言うと「そういうことなら……しょうがないね」とアスフィは言った。

 そう言った彼女の顔は少し赤くなっていて、セバスが後ろの方で微笑みながら見ていたことは割愛しよう。


 俺たちは家の中に戻りニーナに今回のことを聞いた。

 ニーナは家を出た理由を話し始めた。

 セリスが妊娠してこれから大事な時って言うときに自分も妊娠をしてしまった。その結果、自分がこの家で迷惑な存在になってしまうからという物だった。

 この話を聞いただけだとヘルスにも非があると思うのだが、ニーナにも考えがあってのことだとみんな気づいている。この国には、子供を身ごもってから正式に妻として扱われるという話も聞く。それは

王族や貴族が家を残すために多くの子供を作る際、複数の妻を娶ることが多いためそう言われている。

 それでもまたニーナが戻ってきてくれたことと妊娠をしたことにみんな喜んだ。

 妊娠は二ヶ月目と言うことで出産はセリスと同時期になるということでみんな大変になるが頑張ろうという話になった。

 俺も、二人弟か妹が出来ると思うと今から楽しみになる。アスフィも弟か妹が出来る気持ちになっていて喜んでいた。

 この日、正式に家族の一員となったことでニーナ・S・アルストレアとなり、より一層家族の仲が深まった気がした。




ー数ヶ月後ー


 ニーナが家に戻ってきてから数ヶ月の月日が過ぎた。

 この数ヶ月間は生活にいろいろな変化があった。

 今まで家事をしてきてくれていたのはセリスとニーナとセバスだ。だが、セリスとニーナが妊娠をしているためセバス一人になる。

 今まで三人でしてきた仕事を一人で行えるわけなくみんなで分担して手伝うことになった。

 ヘルスは村や森の見回りがあったため仕事がなく手伝える日ということになったが俺とアスフィは積極的に手伝った。

 俺はセバスに付いて洗濯、掃除、買い出しなどこの世界に来てからやっていなかったことをやり始め、買い出しはアスフィと行くことが多く楽しい息抜きになった。

 アスフィは、セリス、ニーナに料理を伝授してもらいセバスと一緒に料理をしていた。

 変わった生活は大変だったが今後に使える物ばかりだったので苦ではなかった。


 とある暖かい日。

 いつものようにセバスの座学の授業を終え昼食をとり剣術の鍛錬に行こうと思った矢先、セリスが陣痛を訴えたため急いで出産に取りかかることになった。

 ヘルスは急いで村の診療所からこの村の出産に多く立ち会ったことのあるおばあさんを呼びに出て行った。

 俺とアスフィはセバスの指示で綺麗な布や痛みを紛らわせるために治癒魔術をかけたりした。


 数分後ヘルスがおばあさんを連れてきて出産が始まった。

 セリスは痛みに耐えながらも必死に頑張っていた。ニーナも身重な身で出産を手伝っていた。俺とアスフィも指示されたことをこなしていたがヘルスはあたふたしていた。

 セリスの出産は難産だった。

 胎児の股関節か屈曲し、膝が伸展していた。

 セリスはとても不安そうな表情をしてヘルスの手を握りしめた。ヘルスは汗だくで必死になりながら「頑張れ、頑張れ」と語りかけていた。

 俺も治癒魔術は必要かどうか聞いて必要とあればいつでも治癒魔術を使えるように待機していた。

 難産ではあったが、出産を幾度も経験しているおばあさんの適切な処置のおかげで帝王切開をせずに無事に元気な赤子を出産した。

 赤子は大きな鳴き声を出しながら生まれてきた。


 「よかった。無事に生まれてきてくれて」


 セリスはそうつぶやいた。

 俺が生まれたときは鳴き声を出さずに心臓が停止した状態だったらしい。その後すぐに持ち直したらしいがやはり不安になるのだろう。

 あのときは俺も驚いたな。

 周りに急に知らない人がいたんだから……まあ、俺のことは良いか。


 赤子は女の子だった。セリスと同じような綺麗な金髪を生やしていてセリスの優しげな顔立ちに、ヘルスを彷彿とさせる整った目。二人の娘で間違いないような可愛い女児だった。

 アスフィは生まれてきた赤子に目をキラキラさせて見ていた。


 この世界で俺に妹が出来た。前世でも義妹がいた。

 義妹ではあったが俺は妹同然で接していた。こっちの世界でも妹が出来てうれしく思った。

 母胎ともに良好だったため赤子を抱くことが出来た。

 セリスとヘルスは無事に生まれてきてくれたことに感動したのか二人して涙を浮かべていた。


 セリスは赤子を抱き終わった後疲れてしまったのか眠ってしまった。

 俺たちはみんな疲れ切っていた。

 俺とヘルスはその場に座り込んでいた。


 「と、父様」

 「ハァハァ。な、なんだ?」

 「家族が増える瞬間ってなんだかすごいですね」


 俺は前世で出産に立ち会ったことはない。

 家族が増える瞬間って言うのは春が来たときにもあったが出産は全くの別物だった。


 「ああ、そうだな。

  父さんはルイが生まれたときにも感じたが何回感じてもいいもんだ」

 「そうですね」

 「ルイも父親になるときは今以上にすごいと感じると思うぞ」


 俺が父親になるときか……まったく想像も出来ないがいつかは来るのか?

 前世では若い頃に死んでしまったからな、経験したことはないからいつかは経験してみたいものだ。


 「そうですね、楽しみにしておきましょう」

 「そうだな、まずはガールフレンドを捜すことだな」

 「はい……頑張ります」


 俺と結婚をしてくれる人なんているのだろうか?

 顔はヘルスとセリスの良いところを取ったような顔立ちをしているから大丈夫だと思うけど……。まあ、ヘルスがあれだけモテるんだ、俺にもきっとチャンスはあるはずだ。


 「まあ、ルイにはもういるか」

 「えっ?どこにですか?」

 「まったく、お前な……」


 ヘルスとそんな会話をしていると部屋の中が騒がしくなった。

 何があったのか気にしているとアスフィが焦ったように部屋を出てきた。


 「アスフィ!何かあったのか?」

 「ニーナさんが急にお腹が痛くなったらしくて今から出産することになったから布を取りに行くの!」

 「えっ!?」


 セリスが出産してみんなが落ち着いてきた頃、ニーナが陣痛を訴え始め、急遽ニーナの出産も執り行うことになった。

 俺とヘルスは急いで部屋に戻って出産の手伝いを開始した。

 さっきのセリスの出産を経験してみんなテキパキと動いていた。

 ヘルスはさっきのようにあたふたしていたので「父様!ニーナさんの手を握ってあげていてください」と言ってニーナを支えられるように移動してもらった。


 数時間が経ちニーナは無事に出産することが出来た。

 ニーナの出産はセリスのように難産ではなくいたって順調に執り行われた。

 普段落ち着いているニーナがとても焦りながらヘルスの手を握っていた。

 ヘルスは汗だくになりながら「頑張れ、頑張れ」と言って必死に手を握っていた。セリスの時と同じ事を言ってると思ったが夫の目線になるとそれしか言えなくなるのだろう。

 俺は今回も治癒魔術をいつでも使えるように待機していた。


 ニーナとヘルスの子も女の子だった。

 生まれたとき鳴き声を上げたがすぐに泣き止んでニーナの方に手を伸ばした。ニーナは赤子を抱きかかえて涙を流した。

 ニーナとヘルスの娘は、ニーナ譲りのボルドー色の髪を生やしていてヘルスのように活発に成長しそうな顔立ちをしていた。

 その赤子は笑いながら俺とアスフィの方を見てきたので人差し指を出してみるとギュッと握った。その手は温かくぷにぷにしていた。

 俺はその日、一日に妹が二人も出来て俺は落ち落ち着けずそわそわしていたが時間が経つにつれて徐々に落ち着いてきた。

 アスフィは赤子が二人そろって寝転んでいるベッドを見て「可愛い」と言って一日中見ていた。

 家族が一気に二人も増えアルストレア家はさらに賑やかなになった。




 セリスの娘がシャロン・アルストレア

 ニーナの娘がエマ・アルストレア

 そう名付けられた。


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