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転生記 ~異世界では長寿を願って~  作者: 水無月蒼空
第1章:【幼年期】転生編
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第十三話:「ニーナ・セルト」

 卒業試験を終えた後俺たちは家に帰宅した。

 帰宅するとみんなが待っていた。二人とも試験に合格したことを伝えるとみんな喜んでくれた。

 一通り話し終わった後フレイが話があるということなのでみんな椅子に座ってフレイが話し出すのを待った。


 「今日二人が合格したことで私が教えられることはなくなりました。そのため、もうこの家においてもらうわけにはいきません。なので、私はこれから旅にでて世界中を見て回ろうと思います」


 場の空気が一気に暗いものになった。

 みんな分かっていて覚悟をしていたが、やはり本人の口から直接聞くと悲しくなってしまうものだ。


 「フレイ」

 「はい」

 「まだいても良いのよ?そんなに焦らなくても……」

 「いえ、私は家庭教師を通して自分の力不足を痛感しました。

  二人の師匠として誇れる自分でありたいと思いました。なので、世界中を回り魔術を磨いていこうと思います」


 フレイは何かを思い出すような表情をして、その言葉を自分自身に言い聞かせるようにそう言った。

 俺は「そんなことはない」と言おうとしたが、フレイの顔を見て言いとどまった。

 ここで俺が止めてしまえば試験の時にした覚悟やフレイの思いまで踏みにじってしまう。

 

 考え込んでいるとヘルスが口を開いた。


 「そうか……分かった。

  フレイの選択を止めることはしない。頑張れよ」

 「はい」

 「ただ、今日まではちゃんとここにいてくれよ?

  今は、フレイもうちの家族の一員なんだからな」


 それを聞いたフレイは静かに頷いて「ありがとうございます」と言った。

 うれしそうな表情をしたフレイは恥ずかしくなったのか下を向いてしまった」


 「よし、それじゃあ二人の合格をお祝いするのと、フレイのお別れ会を兼ねてパーッと騒ぐぞ!」


 ヘルスがそう言うと、ニーナとセバスが準備に取りかかった。

 二人が料理を運んできた。

 肉料理や魚料理などいつもよりも豪勢な料理が運ばれてきた。

 スイーツが多くあるところを見ると甘い物好きのアスフィとフレイのために多く用意されたのだろう。

 二人は甘いものが運ばれてくるのを見て目を輝かせていた。


 料理がすべて運ばれてくるとみんな席に座り、ヘルスがグラスを持った。


 「それじゃあ、二人の合格とフレイの旅の安全を願ってカンパーイ!」


 ヘルスの挨拶と共にパーティが始まった。

 各々(おのおの)が食べたいものを食べていく中、アスフィとフレイが甘い果実が乗ったケーキのようなお菓子を食べて幸せそうな顔をしていた。

 最初に甘いものを食べるのもどうかと思ったが、二人が主役なのでよしとしよう。

 俺も置かれていた肉料理を食べた。

 この肉はヘルスが今日狩ってきた魔物の肉と家畜の肉両方とも使われていた。

 魔物の肉は赤身が多く筋肉質で噛み応えあるような肉だった。

 家畜の肉は、脂身が多く前世と変わらないように見えたが、前世で食べた品種改良されているものと比べるとやはり数段落ちるものだった。だが、普段パンと豆の入ったスープを中心に食べているのでたまに食べる肉はとてもおいしく感じた。

 魚料理は、魚をまるごと置いて周りにオリーブのような木の実を置いて香り付けをしてそれをそのまま釜戸に入れて焼き上げたような感じだった。前世のところで言うアクアパッツァのような料理だ。

 少し匂いがある感じだったが、味はとてもよかった。

 この辺りで出回っている魚は匂いが強いものが多く、工夫をしなければ食べづらいものが多い。そのぶん、この料理はしっかりと匂いを抑える工夫がされていて食べる分には気にならないほどのものだった。

 俺が前世で日本の質の良い魚を食べていたこともあって気にしてしまうだけだろう。


 肉料理も魚料理も両方美味しかった。スパイスのようなものが効いており米が食べたくなるような料理だった。

 この世界にも米はあるのだろうか?この国は主食はパンだ。この世界に込めがあるならいつか探してみたいな。

 普段では使われていないスパイスが効いていてとても美味しかった。

 俺は気になってセリスに聞いてみることにした。


 「この両方にかかっているスパイスはなんなのですか?」

 「これはね、前に組んでいたシーフのパーティーメンバーに教えてもらったスパイスなの。

  その人はね、普段から数種類のスパイスを普段から持ち歩いていてね、何個かもらっていたの」

 「そうなんですね、こんな美味しいものをくれたそのシーフの人に感謝しなければいけませんね」

 「ふふ、そうね」


 その後も料理を堪能して楽しく会話をして、今回もお酒を飲んだヘルスが潰れてパーティは終了した。

 アスフィもフレイも終始楽しそうにしていたのでよかった。


ーーー

その日の夜


 セバスとの座学を終えて部屋でセリスにもらった本を読んでいた。

 誕生会以降、卒業試験に備えて夜にも魔術の復習をしていたのでまだ読めていなかった。

 もらった本は、この世界が出来たときのことを童話風に書かれていた。


 この世界は、原初の六大神という六人の神によって創造されたと書かれていた。

 空を生み出した空神、海を生み出した海神、獣を生み出した獣神、人を生み出した人神、龍を生み出した龍神、無の空間を生み出した無神、の六人の神によって創造された。


 この本を読む限り最初は人族、獣人族、龍族の三種族しかいなかったことになる。この三種族からいろいろ派生して今の種族が生まれていったのか?

 前にフレイに聞いた獣神ザルドーガとこの本に書いてある獣神はおそらく別人だろう。

 それに、空や海、獣や人や龍とかは分かるけど無の空間ってなんだ?

 他の神様は生み出したものが分かるけど、無神だけは何を生み出したのかは判明していないっていうことか?もう少し読み進めてみようか……。

 よく分からなかったのでもう少し読み進めようと思ったとき部屋のドアをノックする音が聞こえた。

 俺は、読み進めていた本を閉じてドアの方へ向かった。


 ドアを開けるとそこにはアスフィが立っていた。 

 アスフィは何かを言いたそうに下を向いていた。何も言い出そうとしないので俺の方から聞いてみることにした。


 「えっと、アスフィ……?どうしたんだこんな遅くに?」

 「あ、うん。

  えっとね、今日一緒に寝ない?」

 「えっ?」


 一緒に寝る?俺と?

 まあ、アスフィがこの家に来たばかりの頃は不安そうにしていたので一緒に寝ることもあったが最近は寝ていなかった。

 あのときは一人にするのが不安だったから一緒に寝ていたけど……そうか、フレイが明日からいなくなってしまうって事でまた不安になったのか。

 それならまあ、今日くらいは良いか。


 「だめかな……?」

 「いや、構わないよ」

 「やった!じゃあ、行こ!」

 「行く?どこへ?」

 「先生のお部屋」

 「えっ?」


 俺たちはフレイの部屋に向かいドアをノックした。

 ノックしてから数秒がたちドアが開いた。


 「来ましたね、どうぞ」

 「はい」

 「お、お邪魔します?」


 俺は何がなんだか分からなかったがフレイが教えてくれた。

 どうやら、フレイがこの家にいる最後の夜って事でアスフィが三人で寝たいと行って俺を呼びに来たらしい。

 なるほど……まあ、不安がってないっていうことは良いことか。

 しょうがない、付き合ってあげるか。アスフィが寝た後に部屋に戻れば良い。

 俺はそう思ってフレイの部屋の中にある椅子に腰掛けた。


 その後、俺たちは最近楽しかったことやうれしかったこと、悩みなどフレイとしばらくの間会えなくなるので夜通し話し尽くした。

 アスフィは両親が亡くなった時のことを話していた。

 フレイは「大丈夫ですよ」と言ってアスフィを撫でていた。

 眠くなってきていたのか「ルイに助けられてうれしかった」と言ってアスフィの家で俺が言ったことを話し始めてフレイに「さすがですね」と言われて褒められた。俺は徐々に恥ずかしくなったのでトイレに行くと言って外に出た。


 「ふぅ、あそこまで言われたらさすがに恥ずかしくなるよ」


 ただ、やはり褒められることはうれしいことだ。

 自分の努力が誰かに認められた気がしてうれしい気持ちになる。


 しかし、フレイが家に来てからの一年間はいろいろなことがあったな。

 魔術の授業を受けたり、アスフィと友達になったり、超級魔術師になれたり。

 前世を含めて一番濃いい一年間だった。

 楽しいことも大変なこともあったし悲しい出来事もあった。

 思い出のすべてが良い物だけではなかったが良い経験になる一年間だった。

 

 風に当たっていると後ろの方から声をかけられた。


 「おや?ルイ、トイレに行ったのではないのですか?」


 声をかけてきたのは寝間着に着替えたフレイだった。

 フレイはやや寒そうにしていたので庭の端の方にある石が円形に置かれているところで火を起こした。

 そこは鍛錬後に体を洗い流すお湯を沸かすためにヘルスが用意したものだ。木は俺の足腰を鍛えるためにヘルスに薪割りをさせられていたため十分においてあった。そのため支障なく火を起こすことが出来た。

 俺は一度家に戻り、水で冷やしてある牛乳のような飲み物を取ってきて土魔術で作ったやかんで暖めた。

 この牛乳のような飲み物は、今日卒業試験を行なう前に話したバルトというおじさんが持ってきてくれた物だ。そのおじさんは、牛のような動物を飼っていてたまに持ってきてくれるらしい。

 ありがたいことだ。

 前世で俺は好んでホットミルクを寒い日の夜に飲んでいたためこの世界でも飲めてよかったと思っている。

 バルトには今度お礼を言わないとな。

 この辺りは夜になるとかなり冷え込むので乳製品も水につけるだけで保存は出来る。

 そのため、保存には困らない。出来れば毎日欲しいくらいだ。


 やかんから湯気のような物が上がってきたので土魔術でカップを作ってそれを注いだ。

 カップをフレイに手渡すと少し不安そうに受け取りそっと飲んだ。

 ホットミルクを飲むと美味しかったのかホッと緩んだ表情をしていた。


 「美味しいですか?」

 「はい、とても美味しいですし体が温まりますね」

 「僕のお気に入りの飲み物です」


 俺とフレイはホットミルクを飲みながらゆっくりとした時間を過ごしていた。


 「そういえば、アスフィはどうしたのですか?」

 「アスフィは疲れていたのかもう眠ってしまいましたよ」

 「そうですか……じゃあ、僕はもう少ししたら自分の部屋に戻りますよ」

 「べ、別に私の部屋に寝れば良いじゃないですか。それに、朝起きたときにルイがいないとアスフィが寂しがりますよ」

 「……そうでしょうか?」

 「はい。それに、『俺がずっと一緒にいる』と言ったそうじゃないですか。

  それならば、アスフィと一緒にいないといけませんよ」

 「うっ、はい。分かりました」


 改めて言われるとすごく恥ずかしいな。

 これはアスフィに言いふらさないように伝えないとな、ヘルスに聞かれたら絶対にからかわれる。


 「それで、ルイはここで何をしていたのですか?」

 「僕は……この一年間のことを思い出していました」

 「一年間?」

 「はい、楽しいことやうれしいこと悲しいこといろんな事があったこの一年間のことです。

  父様と母様に魔術を使っていることがばれてとても焦りました。自分がやってはいけないことをしたんじゃないかって。ですが、そのおかげでとても優秀な……尊敬できる素敵な師匠に出合うことが出来たので結果的にはよかったです」

 「そうですか……」


 そう言ったフレイは恥ずかしいのか顔を赤くして下を向いていた。


 「先生と出会って魔術やこの国のこと、常識とかいろいろな事を教えてもらってとても楽しかったです。

  先生と出合っていなければ今でも中級で止まっていたと思います」

 「そんなことはないと思いますが……」

 「いえ、超級まで使えるようになったのは間違いなく先生のおかげです」


 そう、今の俺がいるのはフレイの影響が大きいだろう。

 俺は残りの人生、フレイを尊敬して過ごしていくだろう。


 「それで、アスフィと出合って一緒に先生に魔術を学び始めて今まで気づくことが出来なかったことも気がつくことが出来ました。

  この一年間は僕の人生で忘れることが出来ない物になりました。

  先生、ありがとうございました」

 「私も、ルイとアスフィと出合って自分が少し上がっていたことに気がつくことが出来ました。

  この経験のおかげで私はさらに成長できると思います。

  こちらからもお礼を言わせてください。

  ルイ、私の生徒……弟子になってくれてありがとう」


 俺はフレイの弟子として恥ずかしくないように努力してきたつもりだ。それは、これからも意識して生活していくことだろう。

 フレイの方も俺のことを認めてくれた。これほどうれしいことはない。


 「先生が旅に出ても絶対に立派に成長して会いに行きます」

 「はい、その時は歓迎します。

  私も、ルイに負けないように頑張って成長していこうと思います」

 「では僕はその先生も超えられるようにもっと努力します」

 「勝負ですね、負けませんよ?」

 「こっちこそ」


 俺たちはお互い顔を見合わせてフフッと笑い合った。

 

 「そろそろ戻りましょうか」

 「そうですね」


 その後もフレイと楽しく会話をして家の方に戻った。

 俺はフレイに連れられたまま部屋に向かい、先にベッドで眠っていたアスフィの横に並んで川の字で寝転んだ。

 子供二人と小柄なフレイの三人だったがさすがに三人で寝転ぶと狭く感じたが、これで最後と言うことで気にならなかった。


 こうして、フレイがいる最後の夜が明けた。



ーーー

 

 朝にみんなで朝食をとった。

 朝食を取っている間みんな明るい雰囲気だった。

 アスフィとフレイは昨日寝るのが遅かったのもあってまだ眠たそうだった。

 俺も久しぶりの夜更かしで眠たかったがなんとか起きていた。


 「それではそろそろ行きます」

 「分かったみんなで見送るよ」

 「ありがとうございます」

 

 俺たちは、家を出て街まで続く道まで来ていた。


 「私はとりあえず一度、防衛都市ブルセルまで行ってアルレシア大陸にある故郷まで戻ろうと思います。

  もしお手紙をいただけるのでしたら冒険者ギルドに出していただければ届くと思います」

 「絶対に出します」

 「ふふ、楽しみにしています」


 そのあと、各々(おのおの)が伝えたいことを言っていった。


 「先生、学院の先生になったら連絡ください。

  絶対に会いに行きますから」

 「はい、教職に就くことが出来たら一番にルイに手紙を出します」

 「それまでは先生に負けないようにしっかりと努めていこうと思います」

 「私も負けないくらい頑張ります」

 「はい。

  それでは、先生お元気で」

 「はい……あ、そういえば」


 フレイはそう言って自分の懐をさぐって碧い石が埋め込まれたペンダントを取り出した。

 そのペンダントはと一つの盾の上に碧い石が埋め込まれた剣が中心を分断して付けられていて、分断された左右には何かのマークのようなものが刻んであった。


 「私の一族にこういう伝承が言い伝えられています。

  親しい者との別れの時、このペンダントを再会を願って渡すと再び巡り合わせてくれる。

  これをあなたに渡します。また再会できる日を願って」

 

 フレイからのありがたいプレゼントだ大切にしよう。

 俺はペンダントを受け取った。

 フレイと俺がペンダントをペンダントに触れたとき、埋め込まれている石が光ったように見えた。

 

 ん?今光った?

 これに埋め込まれているのは魔石なのか?


 「先生これって……」

 「分かりません……なんなのでしょうか?

  私が持っていたときはこんなこと起こらなかったのですけど」

 「これは誰にもらったのですか?」

 「確か……幼い頃に曾祖父にいただきました」

 「もし会えたらどんな物か聞いておいてもらえますか?」

 「どうでしょうか……私が幼い頃に出て行ったきり会えていないのでもし会えたら聞いておきましょう」

 「はい、よろしくお願いします」


 フレイは俺と話し終わった後、アスフィの方へ向かい何やら話していた。


 「約束ー・-わたー・ーまたー・ー」

 「はいー・ー・ーがんばー・ー」

 「-・ーでは-・-」


 アスフィはフレイの言葉を聞いて強く頷いて「はい!」と答えた。

 俺の方からはよく聞こえなかったが約束と聞こえたので何やら約束事をしたのだろう。


 アスフィと話し終わった後、魔術師用の帽子を深くかぶり俺たちの方へ向き直った。


 「皆さん、今までありがとうございました。

  どこかで会うことがあればその時は気軽に呼んでください」


 出発しようとしているフレイを見て涙が溢れてきたが、頑張って耐えた。

 俺が涙を流しては隣で必死に耐えているアスフィに申し訳ない。


 「では皆さん、お元気で」


 そう言ったフレイはローブをフワッと靡かせて街に続く道を歩き始めた。その背中は見た目は幼く小さく見えるが、俺から見た彼女の背中は大きく見えた。

 俺はあの小さな背中に何回助けられたことか。

 あの背中を決して忘れないように目に焼き付けておこう。


 こうして超級魔術師フレイ・セフラグは旅立っていった。


ーーー



 フレイが家を出てから一ヶ月の月日が流れた。

 魔術の授業がなくなり、変わりとしてセバスの算術の授業や歴史の授業が入ってきた。算術は最初こそ慣れなかったが、前世での知識が生かせることが分かったのでそれからは苦労をせずに理解することが出来た。

 アスフィの方も理解するのに苦労していたが、やりやすい方法を教えて上げたところすぐに理解できていた。

 

 「アスト金貨一枚を持っています。そして、アスト銅貨三枚で雑貨物を購入した後アスト銀貨二枚で布を購入、アスト大銅貨四枚で肉を購入しました。

  今現在でルイネス坊ちゃんはいくら手元に残っていますか?」

 「銀貨七枚、銅貨六枚、大銅貨六枚です」

 「正解です」


 この国の通貨は日本円にして金貨が百万円、銀貨が十万円、大銅貨が一万円、銅貨が千円と言うことになっているらしい。

 最低が千円からってこの国の通貨は高すぎる。

 二十万円の布ってなんだよ。まあ、想像上の話だから現実でそこまでする物があるのかは分からないけど。

 

 「坊ちゃんは理解が早くて助かります」

 「いえ、そんなことないよ」

 「博識高い坊ちゃまはすぐにマスターするであろうと思っていましたが、ここまでとは思っていませんでした。セバスは感服いたしました」

 「う、うん。ありがとう」


 セバスの中での俺の評価が高すぎてちょっと怖い。

 小学校二年生レベルの問題でここまで言われてしまうと正直恥ずかしい。


 「坊ちゃまは昔から物覚えがよく聡明な方だと思っていましたが……」

 「も、もう良いよ。十分分かったから」

 「そうですか……」


 むず痒くなってきたので勢いで止めてしまった。

 セバスは少し残念そうな表情をしていたが……まあ、良いだろう。


 算術の授業が終わった後、セバスが何やら文字のような物を書き始めた。

 見たこともないようなものだったのでセバスに聞いてみることにした。


 「セバス、この言語はどこの?」

 「ホッホ、それは分かってからのお楽しみでございます。

  いずれ必ず役に立つ物なのでしっかりと覚えてください」

 「は、はい。分かりました……?」


 よく分からなかったが、言語という物は覚えておいて損はないものなのでありがたく教えてもらうことにする。


 剣術の方は基本的に一ヶ月前からやることは変わらないが型の練習の後に対を組むようになった。

 一ヶ月前は型を学び始めたこともあって対人練習はやっていなかったが、一ヶ月も経つと使える物も増えてきて打ち合い練習を中心にやるようになった。

 この日も基礎作りの練習を行い、型の稽古を終えた後に対人練習に入った。


 「ほらルイ、手元に意識を向けすぎて足下がおろそかになっているぞ!」


 ヘルスは、上段から剣を振り下ろすフェイントをかけて俺の足を横から蹴り払った。

 俺はかわしきれずにその場に転倒した。


 「クソッ、フェイントにつられた」

 「すぐに体勢を直せ!次行くぞ!」

 「は、はい!」


 俺はすぐに起き上がると剣をヘルスの方へ向けた。

 

 ふぅ、さすがはヘルスだ。

 剣に意識を向けすぎるとフェイントをかけて足下を狙ってくる。逆に足下に意識を向けるとフェイントではなく剣での攻撃に切り替える。

 戦い慣れをしていてとてもじゃないが一撃を入れることも出来ない。


 「そろそろ、魔術を使って攻撃を仕掛けてこい!」

 「は!分かりました」


 俺は魔術の使用を一部しか制限をされていない。

 一部というのは、攻撃魔術は相手に直接当てなければ使用しても良い、だけど、基本的には阻害系の魔術を中心に使っていくというものだ。

 ヘルス曰く、「なまった体を元に戻すのにちょうど良い」とのことだ。

 それでは、遠慮なく使わせてもらうとするか。


 俺はヘルスの足下の土を泥濘みに変化させた。

 広範囲に変化させたためなかなか抜け出せないようだった。


 「くっ、足がはまっ……」


 俺はヘルスが泥濘みに気を取られている間に複合魔術『濃霧(シックミスト)』を発動させた。

 シックミストを発動すると目に見える範囲のすべてが濃い霧に包まれた。

 

 「視界が……ルイの奴考えたな」


 俺は、少し回り込んでヘルスの裏を取った。

 よし、いける!


 「はぁぁぁ!」

 「そこか!」


 俺は大きく振りかぶって剣を振り下ろした。

 ヘルスはとっさに俺の位置に気づき足を泥濘から足をあげて体制を整えた。体制を整え俺の剣を逸らした。

 まるで俺が振り下ろした剣の力をそのまま使って剣を横に逸らしたような感じだった。その動作は、精錬されたようで綺麗に流れるように行なわれた。

 

 これは聖神流の……。

 守りを中心としている聖神流の基本の型の一つで敵の攻撃をそのまま受け流すという単純な技だ。

 単純だが、いざやろうとしたら自分の剣に力を込めてしまい綺麗に受け流すことが出来ない。

 俺は、体制を立て直そうとしたが目の前にはすでにヘルスの剣が振り下ろされていた。


 「はぁぁぁ!」

 「うっ、いて」


 ヘルスの剣は見事に俺の額に打ち付けられていた。


 「いてて」

 「今回も勝ちだな」

 「ちょっとくらい手加減してくださいよ」

 「やなこった。

  ちょっと手加減をするとこっちがやられてしまうだろうが」

 「そう……ですか」


 今回は良いところまではいったと思ったんだがな……まだヘルスは余裕そうだし、一撃を入れることは出来ないか。

 俺が残念そうにしているとヘルスが額をポリポリ掻きながら口を開いた。


 「まあ……なんだ。

  今回は危なかったぞ」

 「え?」

 「あの妨害からの死角からの攻撃は正直危なかった。少しでも気づくのが遅かったらこっちが取られてるところだ」

 「そうでしたか?」


 「今回は危なかった」か……魔術を使っているとはいえ、ヘルスをもう少しのところまで追い詰めたと思えば成長はしているか。

 よし、希望が見えた。この調子で頑張っていこう。


 考え込んでいるとヘルスが不安げに聞いてきた。


 「だからまあ、あんまり気を落とすなよ?」

 「え?」

 「お前最近元気がなかったじゃないか」

 「もしかして、僕が落ち込んでいると思って気にしてくれたんですか?」


 俺がからかい交じりに聞いてみると少し照れた様子で腰を突かれた。


 「うるせぇよ。優秀な息子が元気なかったら気になるだろうが」

 「そうですか、そうですか」

 「なんだよ」

 「父様が僕のこと大好きということが分かりました」


 俺がそう言うとヘルスは顔を赤くして俺の額を指でつんっと突っついて後ろを向いた。


 「ちっ、うるせーよ。ほら、帰るぞ」

 「はい!」


 こうして今日の稽古は終わった。


 この生活を繰り返してさらに三ヶ月の月日が流れた。


 三ヶ月経っても何も変わらない生活を送っていたそんなある日

 セリスが妊娠した。



 ある日の朝、セバスの授業を終えた後ヘルスと共に剣術の稽古に向かおうとしたときにセリスが

集合をかけた。

 セリスは神妙な顔で何かを言いたそうにしていたので俺が聞いてみることにした。


 「母様?何かあったのですか?」

 「そうだ、セリス何かあったのか?」

 「えっとね、その……二人目がね」

 「二人目?」


 ヘルスがそう聞き直すとセリスはヘルスの手を握った。


 「二人目が出来たの」

 「……えっ!?ほ、ほんとに」

 「う、うん」


 感極まったのかヘルスはセリスに抱きついた。


 「はは!やったな!」

 「うん!」

 「今どのくらいなんだ?」

 「えっとね、三ヶ月だって」


 最近吐き気や腹痛がひどくなりこの村にある診療所で診てもらったところ妊娠が発覚したらしい。

 三ヶ月前……三ヶ月前というとフレイが家を出てから少し経ったくらい頃か。

 あの頃はよく夜中が騒がしかったからなその時だろうな。


 「おめでとうございます母様」

 「おめでとうございますセリスさん」

 「二人ともありがとう。元気な弟か妹を産むからね!」

 

 実にめでたいことだ、今日は赤飯だな!あ、米はないんだっけか

 しかし、弟か妹か……前世でも春がいたから寂しい思いをせずに生活を出来ていた。俺は、春に何もしてやることが出来なかった。

 弟か妹が生まれたら前世で春に返せなかった分まで愛情を込めて接してあげようと思う。


 その後も、セバスとニーナが祝言を言ってとりあえずその場はお開きになった。

 俺たちがセリスと話しているときや祝言を言っているとき、ニーナの顔が優れなかったところが少し気がかりだった。


 その日から家が幸せな空気に包まれていた。

 一週間が経った頃ニーナが家から姿を消した。


 ニーナが家に戻らないと気がついたのはその日の夕暮れ頃のことだった。

 日が暮れ始めても戻らないニーナを心配して部屋に行ってみたところ書き置きを見付けた。


 『今日をもって侍女の職を下ろさせていただきます。

  そのため、勝手に家を出ることをお許しください。

  私のことは捜さずにいてくださると幸いです』


 この書き置きを見付け急いでヘルス達の元に持っていた。

 ヘルスに何かあったのかと聞いてみても「覚えがない」と言っていた。

 何があったのかのか分からないがみんなで探しに行くことにした。書き置きには捜すなと書かれていたが事情を知らないと心配になる


 俺たちは村や街道などいろんなところを探した。

 俺はアスフィと共に村人に聞き回った。


 「茶髪の女なら夕暮れ頃に街道沿いを街に向かって歩いているのを見たぞ」


 今日街から戻ってきたという村人から情報をもらい俺たちは街道に向かって走った、

 街道は多少整備されているとはいえ魔物も出没する。

 最近は、この辺りにいるはずのない魔物も出没することがあるためニーナでは魔物に襲われたらひとたまりもないと思い急いで向かった。



ーーー

ニーナ視点


 この一週間アルストレア家は明るい雰囲気が広がっていた。誰もが幸福感を感じて傍から見れば仲のよい幸せな家族という印象を持つだろう。

 そんな中自分だけは疎外感を感じていた。

 この幸せそうな家族の仲を崩してしまう自分の立ち位置に。そんなことを日々考えているとセリスと同じ腹痛や吐き気などの症状が出るようになった。

 まさかと思って診てもらったところ《二ヶ月目》とのことだ。

 その結果を聞いてさらに不安になった。

 子供を授かったことは素直にうれしい。しかし、このことがあの家族に知られたらきっと今の明るい家族は消えてしまうだろう。

 妾として迎えてもらってはいるが、所詮妾という者は部外者なのだ。あの温厚なセリスだって妾が子をなしたら思うところがあるだろう。実際にも妾になる際、最終的には認めたが最初は怒りをあらわにしていた。

 

 「自分はこの家族にとって邪魔者になってしまう」


 そう思ったとき気がついたら書き置きを残して家を飛び出していた。自分の今の状態で旅に耐えられるとは思えないが飛び出さずにはいられなかった。

 書き置きを残したのはこの数年間お世話になりながらもこんな恩を仇で返すような行為をしてしまう事のせめてもの謝罪の気持ちを込めて残した。

 

 無計画に飛び出したためどこに向かうかは決めていなかった。

 自分が行ける場所というとやはり王都にある実家だろう。

 王宮の近衞侍女の仕事を辞めてから六年以上経っている。もう自分を狙ってくる貴族はいない……だが、襲われる可能性も拭えない。危険な目に遭うことが予測されるところに行くのはやめておいた方が良いだろう。


 「実家はまだだめか……」


 そうなったら自分が頼れる場所は他に見つからない。

 お金はヘルスから給料としてもらっていたため貯金はあった。だが、お金はあっても行ける場所がない。

 アルストレア家という場所が自分にとってどれだけ居心地がよかったのかを今になって痛感している。

 そんなことを考えていると日が暮れてきた。

 この辺りの街道は魔物の出没は少ないが出ないわけではない。これ以上暗い中進んでも危ない目に遭うことが目に見えていたためここで野営をすることにした。


 王都にいた頃学校で魔術を学んでいたため基本の魔術の初級までは習得していた。そのため、野営をする際は火を起こすのに苦労しなかった。

 王都からシエラ村に向かう際にも魔術を学んでおいてよかったと何度も思った。

 火を起こし、お腹を満たすために辺りを探索した。探索した結果攻撃能力を持たない低位の魔物を見付けたためそれを今日の夜にすることにした。

 こういった生活は前にもやったが正直良くは思わなかった。ヘルスがなんでこんな生活を送る冒険者に身を投じたのか理解できなかった。


 魔物を殺し、皮を剥いで内臓を取り出す。内臓はその匂いにつられて他の魔物が来てしまうため燃やして処分した。

 その後、近くの川で魔物の肉を洗い火で肉を焼いた。

 焼いた肉は匂いがきつく非常に固かった、とてもじゃないが美味しいと言える物ではなかった。

 アルストレア家で食べた肉は匂いもなく食べやすいようになっていた。セリスやヘルスが一緒にパーティーを組んでいたシーフの男は料理が得意なのだろうと思った。

 あのときは、珍しくルイネスも料理に対して満足そうな顔をしていた。何を考えているのか分からなく不気味さを持っているルイネスが満足をしていたのだ。普段から美味しいと賞賛をする言葉を言ってはいるが、内心ではそんなこと思っていないのだろうと思っていたがあのときは心から満足していると感じた。


 気がつくとあの家のことばかり考えていた。

 あの家での生活は大変ではあったが非常に楽しいものだった。

 戻れるものならまたあの家に戻りたいとは思うが自分はあの家にとって不幸を招いてしまう厄病神だ。戻るわけにはいかない。

 

 食事を終えた後皮で水浴びをした。

 今日はいろいろなことがあって気分を変えたかったため水浴びはいい気分転換になった。

 水浴びを終えた後衣類を着直して休むことにした。ここで休むのも少し不安になったが一日くらいなら問題ないだろう。

 そう思い眠りについた……。


 どのくらいの間眠っていただろうか……何か物音がしたような気がして目を覚ました。

 目を覚ますと眠る前とは違って雰囲気が違っていた。


 何か……いる?


 そう思って護身用に持ってきていた剣を持った。剣で戦うのは単純に魔術よりも得意というのもあるが自分の魔力量が少ないことが大きいだろう。

 少ないが多少なら魔力切れを起こさずに魔術を使えるのでファイアーボールを使い火を起こしていたところに火を起こした。

 そういえば、ルイネスも幼い頃はよく魔力切れを起こしていた……何をしているのか分からなくて不気味だった。

 そんなことを思いながら明るくなった周りを見渡した。すると、何かが動き回る音が聞こえた。

 音がした方を見ると、犬の足跡のようなものが至る所に付いていた。

 もう一度ファイアーボールを使い辺りを照らすとよだれを垂らしながらこちらに敵対心を向けているフロックウルフが複数体いた。

 フロックウルフはアスト王国で多く生息しおり、複数体で群れをなして行動をする。フロックウルフが一体いれば十体はいると思えというのはこの国での常識だ。

 私はとっさにフロックウルフがいる方向の逆方向にある森の方へ走り出した。走り出したときに何かを落としたような気もしたが気にとめることなく森に向かって走った。

 私が走り出すとフロックウルフも追いかけるように走り出した。

 

 走り出して数分が経った。フロックウルフを撒くために死角の多い森に入ったのが裏目に出た。森は、街道に比べて魔物の数も多く討伐しきれないため魔物が出る。

 村や街周辺の森は地方騎士や自衛団、冒険者が逐一討伐しているため魔物の数は少ない。しかし、街道沿いの森にいる魔物まで討伐しようとすれば手が足りず現状は野放し状態になっている。

 魔物の方も街道に出て人を襲えば討伐されることに本能的に気づいていてなかなか外に出て遅いには来ない。だが、人が一度(ひとたび)森に入ると魔物は餌が来たと思って遅いに来る。

 そのため、森に入った後複数の魔物に襲われることになった。

 

 森に入ると近くを彷徨っていた魔物にも襲われた。

 シクロピアンボア、ポアトレントなどシエラ村付近の森にも出没する魔物もいた。ヘルスやルイネスならば余裕で勝てる魔物ではあるが魔力も少なく足が悪い自分にとっては驚異以外の何物でもない。

 足が悪く速く走れない私にとってシクロピアンボアやフロックウルフの足の速さは驚異で徐々に追いつかれ始めた。


 「もう、そこまで」


 追いつかれそうになったためなくなく戦うことにした。

 戦うと言ってもこの数の魔物に勝てるはずもなく多くの傷を負ってしまった。


 「くっ、押し切られる……あっ!」


 後ずさりをしながら戦っていたため背後にある木に気づかずにぶつかった。

 ぶつかった拍子に足をくじいてしまい転倒してしまった。


 「このままじゃあ……」


 何がいけなかったんだろう、やっぱりセリスやヘルス、あの家にいる誰かに相談をして家を飛び出さない方がよかったのだろうか?

 今悔やんでも仕方ないことか……。

 私は後ろに逃げる事が出来ず、目の前にいる複数の魔物を見て諦めかけていた。


 「ああ……死にたくないな」


 せめてこの子だけでも……。

 そう思って自分のお腹を撫でた。そんな時、遠くの方から何かが爆発するような音と共に人の名前を呼ぶ声のようなものが聞こえた。


 「ニーナさん!どこにいますか!!」


 それは、ヘルスとセリスの優秀な息子の声だった。


 「に、ニーナさん。いたら返事してください!」


 別の方向から女の子の声が聞こえた。

 とても焦ったようなその声は探し回っているのかいろいろなところから聞こえた。

 私は、その声に届くようにいま出せる最大の声を出した。


 「ルイネス様!アスフィ!私はここです」


 私がそう叫ぶと爆発音や魔物の断末魔のような声と共に何かが近づいてきた。

 近づいてきたものは私の目の前に群がっている魔物を次々と倒し始めた。

 違う方向からもう一人ビュンっと音を立てながら魔物を倒している。

 魔物がどんどん倒れていき近づいてきたものの姿が見え始めた。

 

 見えたのは、最近超級魔術師フレイ・セフラグの生徒を卒業し彼女に優秀と判断された二人の幼い魔術師の姿だった。


ーーー

ルイネス、アスフィ視点


 村人から情報をもらい俺たちはすぐに街道に向かった。

 その街道は四ヶ月前にフレイを見送った道のため感傷に浸りそうだったが今は一大事のため先を急ぐことにした。

 ヘルスたちには情報をくれた村人が伝えてくれるらしく俺とアスフィは早くに街道に向かうことが出来た。

 あの村人には感謝しても仕切れないな。


 街道を走り始めてから数時間が経った。

 最近ヘルスの稽古のおかげで体力はかなり付いたがここまで長く走ることがなかったため少し疲れを感じ始めた。

 アスフィは俺と違って体力作りをしていないためヘトヘトになりながらも俺に付いてきてくれている。

 辺りはすでに日が落ちて暗くなっていた。夜道は危険だが、危険な夜道にいるはずのニーナが心配なのでそのまま進むことにした。


 そこからさらに数時間走りさすがに俺もヘトヘトになったので川の近くで少しだけ休憩することにした。

 アスフィは俺が土魔術で作ったカップに水を注いでそれをクイッと飲んでいた。

 休憩するに当たって周りの安全を確認しないと安心できないので辺りを少し見て回ることにした。


 「アスフィ、俺はこの辺りを少し見て回ってくるよ」

 「ボクもいこうか?」

 「アスフィは疲れてるだろ?ここで休んでて良いよ」

 「分かった。気をつけてね」


 俺は周りを確認しながらニーナの痕跡がないか見て回った。

 すると、火を起こした痕跡と共に何かの魔物の足跡のようなものを見付けた。

 

 「これは何の魔物だ?」


 その足跡は見たことのないものだった。

 この量はおそらく複数の魔物がいたのだろう。

 俺は気になって足跡が続いている方に歩いて行った。

 足跡は森に向かって続いており、足跡が森に入る直前あるものを見つけた。


 「これは……腕輪?」


 何でこんなところに腕輪が……?

 まあ、腕輪くらいこの辺りを通った冒険者が落としていても不思議はないか。

 

 その腕輪をよく見るとなんだか見たことあるような形をしていた。

 あれ?どこかで見たことあるような……どこだっけ?

 俺はもっとよく見てみた。すると、腕輪の裏側に文字のようなものが書いてあった。


 《セルト》


 セルト!これってニーナの家名だったよな……ということはニーナは森の中に!?。

 俺は急いでアスフィの元に戻り「ニーナの居場所が分かった」と言ってアスフィの手を引いて森に向かった。


 「ねぇルイ、ニーナさんの居場所が分かったって言ってたけど何処なの?」

 「森の中だ」


 所在を知ったアスフィは不安げな顔をした。

 アスフィの両親が亡くなったのも森の中だったもんな……不安になるのも仕方がないか。

 俺は引いているアスフィの手を強く握りしめた。


 「大丈夫だよ。ニーナさんはきっと無事だ」

 「……うん、そうだね」


 俺たちは森の中に入った。

 森はシエラ村の近くにある森と同様に高い木が生い茂っており月の光が届かないほどだった。俺たちは魔物が通った後であろう草が折れているところをひたすら進んだ。

 森に入ってから数分が経ち魔物の通った後が複数に分かれていた。


 これは骨が折れそうだな……


 「アスフィ、ここからは二手に分かれよう」

 「え?」

 「俺がこっちからできるだけ魔物の注意を引きながら捜すからアスフィはそっちの方から捜してみてくれ。魔物の注意を引かないようにアスフィはできるだけ目立たない魔術を使ってくれ。出来るな?」

 「う、うん」

 「よし、じゃあ行くぞ!」

 

 俺たちは二手に分かれた。

 アスフィは風魔術を中心に、俺は複合魔術の破裂爆発(エクスプロージョン)を使い魔物のタゲを取りつつ捜していく。

 オオカミのような見た目をした魔物の数が多く手こずったが爆発を起こす魔術を使っていたため特に問題はなかった。

 シクロピアンボアやポアトレントもいたがすでに戦ったことがある魔物なのでなんとかなった。


 俺は魔物を倒しつつニーナを捜し回った。


 「ニーナさん!どこにいますか!!」


 俺はそう大声で叫んだ。

 森中に届くようにとにかく大きく今出せる最大の声量で。

 すると奥の方から声が聞こえてきた。


 「ルイネス様!アスフィ!私はここです」


 そう聞こえた瞬間俺は声のする方向に急いで向かった。

 背後に向かって風魔術を打ち、風で体を押し出した。

 向かった先には今まで走ってきたところとは比べものにならない数の魔物がいた。その魔物達はすべてある方向を向いていた。

 俺は魔物の背後から魔術をぶつけていった。アスフィも到着して魔物を倒し始めた。

 魔物を倒していってやっとの思いで道を開いた。倒した魔物を越えて魔物が向いている正面まで来た。

 そこには、全身に傷を負い今にも気を失いそうになっているニーナの姿があった。

 

 「ルイネス様!」

 「ニーナさん!」


 アスフィも魔物の包囲を抜けてニーナの元まで来たので俺は全力で水滝(ウォーターフォール)を使い魔物達を押し流した。

 魔物達は水の流れに逆らうことが出来ず流されていった。魔物を流して距離が離れたのを確認して土壁(アースウォール)を使い壁を形成した。

 ニーナがもたれていた木の周りをアースウォールで覆い魔物が侵入できないようにした。


 ふぅ、こんなところか……。


 俺は全体を覆えたのを確認して一呼吸入れた後ニーナの方を向いた。

 

 さてと、

 ニーナの方はどうだ?


 俺はニーナの状態を確認するためにニーナに近づいた。

 全身に傷を負っているが損傷部位は見当たらないため治癒魔術で治せることを確認した。


 「触れるのでちょっと痛みますが我慢してくださいね」

 「え?は、はい」


 彼女は少し怯えた様子だが触らないと治癒魔術を使えないので我慢してもらおう。


 「神なる恵みを我が身に受け、力を失いし汝に再び力を授けん『ヒール』」


 俺が治癒魔術を使いニーナの傷を癒やした。

 ニーナの傷は治癒魔術のおかげでどんどん消えていった。


 「他に痛むところはありますか?」

 「い、いえ。大丈夫です」

 「そうですか……ではアスフィと一緒にここで待っててください」


 ニーナはとりあえず疲れているようなのでこの安全地帯にいてもらうとして、アスフィにもここにいてもらおう。

 アスフィを見ると顔色が悪くなり始めていてふらふらとしている。これは、魔力切れを仕掛けているときの症状だ。


 「る、ルイ。ボクもいくよ」

 「だめだ」

 「どうして……?」

 「アスフィ、魔力切れを起こしかけているだろう?」

 「それは……」

 「魔力切れを起こしたらカバーすることが出来ないからここで待っててくれないか?」


 俺がそう言うとアスフィは暗い表情をしていた。

 自信がないような、落ち込んでいるようなそんな顔を。

 また力不足とでも思っているのだろうか?

 アスフィが力不足なんて事はない。これは、カバーを出来ない俺の力不足だ。

 どう伝えれば彼女を傷つけずにここにいてもらうことが出来るだろうか……。

 よし、これでいこう。


 「アスフィの役目は、俺が逃した魔物がここに入ってきたらアスフィがニーナさんを守るんだ。

  俺はアスフィが後ろでニーナさんを守ってくれるなら安心して戦うことが出来る」


 アスフィは真剣な顔をして俺の目を見つめた。


 「だからアスフィ、ニーナさんを頼むぞ?」

 「うん。まかせて」

 「よし。

  ではニーナさん」

 「はい」

 「ちょっと外の野次を倒してくるのでここで休んでいてください」

 「わ、分かりました。ご武運を」

 「はい」


 俺は足下に風魔術を使い高く飛び上がった。

 アースウォールを越えて魔物達が群がる壁の向こう側に降り立った。


 よし、やるか。


 

ー数分後ー


 オオカミのような見た目をした魔物のひときわ大きい個体の首を魔術で吹き飛ばしてようやく魔物達は退散していった。

 さっきの個体がおそらく群れのトップなのだろう。

 しかし、よかった。

 毒牙大蛇のようなこの辺りにいるはずのない魔物がいなくて。

 あんな魔物がいた場合俺一人じゃあ勝てるかどうか分からないからな。


 俺は周りの様子を確認した後二人が待っているアースウォールの中に戻った。

 中ではアスフィがニーナの隣に座っていた。


 「あ、ルイ。どう?おわった?」

 「うん。数が多くて骨が折れたけどなんとかなったよ」

 「えっ!?どこの骨?治癒魔術を使うから見せて」


 骨?骨なんて……ああ、そういうことか。こっちにはそんな感じの言い回しはあるけどこれは完全に日本のものだからな。


 「ああ、いや。これは言い回しでして……あの、どこも折れてないです。すみません」

 「えっ?ああ、そういうことね。もう、脅かさないでよ!」

 「ご、ごめん」


 日本の言い回しを使うときは気をつけないとな。


 俺はアスフィと話し終わったあとニーナの方を向いた。


 「ニーナさん大丈夫でしたか?」

 「は、はい。お手数をおかけしました」

 「いえ、お手数なんて……家族なら当然のことをしたまでです」


 俺がそう言うとニーナはあからさまに暗い表情になった。


 「家族……いえ、私は違います」

 「というと?」

 「私は所詮妾の女です。ルイネス様の家族になる資格はありません」


 所詮妾?家族の資格?

 ああ、そういうことか。セリスが妊娠をしたときニーナは暗いような何か悩んでいるような表情をしていたがそういうことだったのか。

 ニーナの常識ではそう考えているかもしれないが、俺を含めて家にいるみんなニーナの事を家族だと思っている。

 ニーナはそう思っていなかったのか……。


 「ニーナさん」

 「はい」

 「家族になる資格って何なのでしょうか?」

 「えっ?」

 「僕には家族になる資格っていうものはよく分かりません。

  一緒に住めば家族?それとも血がつながっていれば……でしょうか?」

 「それは……」


 俺はそう言いつつ前世での義妹の春のことを思い出していた。

 

 春とは血のつながりはなかった。

 最初は確かに避けられることも多かったが少し経てば「お兄ちゃん」と言って慕ってくれた。家族に血のつながりは確かに重要だと思う。だけど、それだけではないと思う。

 俺が思うに、家族というものは大切な存在との関係性にあると思う。

 自分の大切な相手、守りたいと思う相手、そういった存在を家族と呼ぶ。俺はそう考える。その中に資格なんてものは必要ない。

 今のニーナはきっと「自分はあの家族にとって邪魔者、もしくは部外者」と考えているのだろう。

 どうすれば……いや、こればかりはありのままを伝えるしかないな。

 

 「僕はですね、家族というものは大切な存在のことを言うのだと思います。

  一緒にいて楽しいと感じたり、守ってあげたいと思う相手、そういった大切な存在との関係性を家族だと僕は思います」

 「大切な……存在との関係性」

 「はい。なので、家族になる資格なんて物は必要ないんですよ」

 「しかし……」

 「僕は、ニーナさんといて楽しいし、もう一人のか、母様としてとても大切に思っています。

  僕だけではありません。父様や母様、セバスにアスフィだってそう思っています」


 ニーナは不安そうにアスフィの方を向いた。

 アスフィはニーナの瞳を真剣に見つめてコクッと頷いた。


 「なのでニーナさん」

 「は、はい」


 返事をしたニーナは今にも泣き出しそうな顔をしていた。


 「戻ってきてください。

  僕達家族にはニーナさんが必要です」


 ニーナは目から大粒の涙を流して泣き出してしまった。


 「う、う……ありがとうございます、ありがとうございます」


 彼女はその後も涙を流し続けた。

 今までの不安をすべて流し出すようにいっぱい涙を流した。

 俺たちはそれを静かに見守った。彼女が泣き止むまで……。


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