離縁予定の奥様は、夜行性旦那様のお役に立ちたい(前)
「おはようございます。旦那様」
「ああ、……おやすみ」
毎日の朝の挨拶です。
旦那様と噛み合ってないのは承知してますが、慣れるとこれが普通なのです。
ふらふらとおぼつかない足取りで寝室に向かう旦那様を見送ってから窓の外を見ると、茜色の空が金色に変わってゆく途中でした。
いい天気になりそうです。
なので今日も一日がんばりましょう。
私がこのイングレイス領に嫁いできて、半年ほど経ちました。
「奥様。こちらが昨年の分になります」
「ああやっと終わりそうですね。冬の備蓄分を捻出する前に目処がつきそうで、良かったです」
支出の洗い直しをするだけで数ヶ月かかりました。約十年分ですから、これでもがんばった方です。
部外者だった私を信頼してくれてお手伝いしてくれているのは、家令のセサルさんです。細みでしゃきっと背筋が伸びた素敵なおじい様です。
歳を重ねたシワが刻まれてはいますが、まだまだお若くおじい様なんて見えないと言ったら「奥様にじいやと呼ばれるのが目標です」と返されたことがあります。
会話として噛み合ってない気がしますが、セサルさんの心意気はとても伝わりました。ちなみに「じいや」なんて呼べたことはありません。セサルさんです。
邸についてほとんどのことは、家令のセサルさんとメイド長がしていました。
決定権を履き違えることなくちゃんと旦那様に伺うべきことは報告されていたようですしその記録もきちんと残っていますが、旦那様がちょっと特殊であれなので、お二人を筆頭に使用人たちで回していたようです。
家の中のことは仕方ない部分もあります。でも領地全体のこととなれば別です。
イングレイス領は国の最南端。旦那様は辺境伯です。
国同士の大きな争いは今のところありませんが、だからといって平穏無事な日々ともいきません。
隣国の領地でありながら捨てられた大地と言われる荒野に面したイングレイス領は、常に魔物の脅威と隣り合わせです。
イングレイス辺境軍は、地元近隣では大地の守護者とか国境の鉄壁とか言われて慕われています。けれども王都など国の中心近くでは蛮族だとか吸血鬼だとか散々です。
ちなみに吸血鬼って何ですか? とセサルさんに聞いたら「人の血を吸って生きる魔者のことだそうです。物語の話ですが」と説明してもらいました。実在しないのですね。
瘴気に取り込まれて凶暴化した動物が、魔物。
おそらく自己防衛のための攻撃性や狩りの衝動が強化されて、他に被害を出すのだろうと言われています。
瘴気に取り込まれて理性が壊れた人が、魔者。
感情に大変素直になるので怒りや悲しみに左右されて周囲を害します。瘴気が体内にあること自体で特別な力は得られませんが、もし腕のいい兵士や魔力の強い術師が取り込まれたら大変です。
魔物を退治することはできますが、瘴気を祓うことはできません。
できるのは伝説の聖女さまくらいです。
瘴気がどうやって発生するのか未だ解明されておらず、ただイングレイス領が面している荒野で多く発生します。
なのでこの辺境では食用の家畜の他に、瘴気に取り憑かせるための動物を育てています。
あまり獰猛な動物だと討伐が厄介になるのでは、と思ったのですが鼠のような小さな個体だと瘴気を吸う量が少なくて減らないのだとか。
理由はわかります。人が取り憑かれたらいけません、そのための家畜です。
でも、ここへ来てから初めて生贄用の犬を見た時に、どうしてもたまらなくなって。お願いして私は二匹の仔犬をもらいました。
魔物にするのが可哀相とか、やめてとは言いません、これは救う行為でなく我儘だと理解してます。
でも旦那様が許可して下さったらでいいんですお願いしますと。頭を下げてお願いしたら、セサルさんは顔を覆って空を仰ぎメイド長は視線を逸らして俯きながら「し、仕方ありませんね……」と許してくれました。
なんと我儘な奥様が来たことだと落胆させたかもしれませんが、後悔はしていません。
黒毛のロペは男の子、栗毛のルナは女の子で、大きくなった二匹は立派な私の護衛になりました。
「改めて見直すと、滞ってはいないけど閉鎖的ですよね」
「荒野に面した土地は今やすべてイングレイス領として統合されてしまいましたから、広さだけはあるのです。領内で自給自足ができてしまうので他領との交流がほとんどありません、蛮族の住む地に近づきたい者も少ないでしょうし」
セサルさんが自虐的な言い方をしましたが、交流がないのは事実なので何も言えません。
それに。
「旦那様が辺境伯になられてから、社交どころか交易もぱったりさっぱりですからね……」
人嫌い。野蛮人。陽の光を浴びると溶ける。魔物を飼う変人。
旦那様の評判は王都ではひどいもので、彼自身が魔者ではないかと言われてました。あ、だから吸血鬼なんですね。
「領民の暮らしは第一ですが、ここでは辺境軍も同じだけ大事です。維持費はまかなえても突発的な事態にも備えられるよう、商流は開けましょう」
ただ私には頼れる縁故があまりなく、ましてやイングレイス領を行き来してくれる商会などおりません。
どうしましょう。
お相手さえ決まれば、どんな人柄なのかどんな物流をされているかそれらの計算や扱い方を考え担うのはできますけれど。人脈大事ですね。
困ってしまった私に、セサルさんは大丈夫ですよと笑ってくれました。
「多少ではありますが、私めにも知り合いはおります。まだ生きていればですが」
お年寄りジョークは心臓に悪いのでやめてください。
「アーロンも若い頃は勝手に放浪もしてましたから、どこかに顔つなぎはできると思います。あの頃は馬鹿息子を恥に思いましたが、どうなるかわかりませんね」
ほくほくと嬉しそうな顔をするセサルさんに、私も嬉しくなって「そうですねお願いします」と言いました。
アーロンさんは、セサルさんの息子さんです。養子です。
仕事があるので結婚はせず、でもヴァレンティン家に仕える子は育てなければと迎えたそうです。
旦那様が小さい頃、遊び相手にもなればと同年代の男の子を迎えて、執事見習いにしようとしたらアーロンさんは剣の方が性に合っているとこれを拒否。親子破綻の危機です。厳しいけれど温和なセサルさんが大変な大喧嘩をしたらしいです。想像がつきません。
そんなアーロンさんは、今では辺境軍を束ねる旦那様の副官として働いていらっしゃいます。
明朗快活な気さくな方で、初めてお会いした時になんと握手を求められてびっくりしました。
驚きましたが嫌な感じがまったくしなかったので私が手を出そうとしたら、セサルさんにべしっと手を叩き落とされてました。
アーロンさんの紹介ならきっと大丈夫でしょう。
でも今年の冬の備蓄分は領内で確保しなければなりません。毎年不足はないけれど慎ましい様子のようなので、ちょっとゆとりができたらいいなと思います。
「では、午後はトッロ区の畑に様子見に行きますね。そのままトッロ砦でアーロンさんにお願いして」
「呼びつけますから、奥様は、邸にいてください」
「でもお願いするのは私ですから。それに、いい天気で、麦畑で食事をしたらきっと美味しいと思います」
「昼食は庭に用意させましょう」
いいですか奥様、とセサルさんは礼儀作法の先生のように声を張ったので、私は思わず背筋を伸ばしました。
身が引き締まる思い、というよりお説教される気分です。
「あなたがイングレイス領に来て下さったのは僥倖です、停滞していた時間が動き出すのです。それだけで得難いことですが、あなたは何より、ライムンド・ヴァレンティン様の妻であることを優先ください」
やっぱりお説教でした。
首を右へ倒して、左へ倒して、それからセサルさんを見つめたらちょっと怒った顔をしてました。
「でも、離縁される前に、流通経路の確保と領地をお任せできる親類の方を探さないといけません。そちらの方が時間がないので」
「離縁などと言わず、旦那様を懐柔する方が早いです」
懐柔と言われました。色仕掛けでもなく。
……できませんけど。
「今夜に実行されるのでしょう? でしたら日中に体を休めておきませんと」
「実行はしますし、旦那様と仲良くしたいと思いますけど。領地のことは別といいますか、私たぶんそのためにこちらに参りましたので……」
「違います」
きっぱりばっさり、否定されてしまいました。
「あなたは、ヴァレンティン家に明かりを灯すためにいらしたのです」
イングレイス辺境伯、ライムンド・ヴァレンティン様。29歳。
私が彼の妻になったのは半年ほど前です。
王都でちょっとありまして、こちらに輿入れすることになりました。
冬の名残で馬車が進まず到着が遅れた私を、旦那様は不機嫌ではないけれど興味もなさそうに迎えてくださいました。
とても眠そうで、時々あくびを噛み殺してらしたのをセサルさんが諌めてました。
ご令嬢が憧れるような白い肌に、夜に溶けてしまいそうな艶やかな黒髪。
整ったお顔に埋め込まれた猫のような金目が印象的でした。
「イングレイス辺境伯、初めてお目にかかります。エレナ・モンテスにございます」
挨拶をした私を、彼は椅子から立ち上がりもせずに眺めていらっしゃいました。
後に聞いたら、セサルさんもその時にいた使用人さんたちにも褒められた礼だったので、失礼ではなかったと思います。
けれど彼は視線を伏せたままの私を許すことなく、セサルさんに促されてもそのままでお話になりました。
「カルデイロ侯爵令嬢。確かに知らせは来たし、こうして王妃殿下の手紙と王都教会発行の婚姻届を持って君が来たということは、私に拒否権はない。だが、私に妻はいらない」
あらまあと思いましたが、淡々と仰る声は他の何を含んだ声色でもなかったので、王都で聞く噂よりもずっと落ち着いてらっしゃるなあと感じました。
「三年だ。それを待てば解放してやるから、それまでは好きにしていい」
設けられた期間は、嫁いだ女性が子をつくれなかった時に適用される離縁の理由。
辺境伯は白い結婚でもって私を離縁すると仰ったのです。
「旦那様の仰るとおりに」
礼を深くした私は、彼がこちらを見たかどうかもわかりませんでした。
ただ、立ち上がって応接室を出ていかれる足元は見えて、その後で「ごん」と鈍い音がしていました。
今ならわかります。
あれは、旦那様が部屋の扉に頭を打ちつけた音です。
「奥様どうぞ、どうぞおかけください」
彼が出て行った後でセサルさんが椅子を勧めてくれました。
優しい声と言葉をかけてもらうなんてとっても久しぶりで、私は嬉しくなって満面の笑みで「ありがとうございます」と言ったと思います。すごく驚かれてました。
「かような辺境の地にいらした奥様に何という……旦那様には私めがきつく言いつけておきますので」
「いいえ、どうぞお気になさらず。むしろお優しい方だなあと思いました。妻は不要、興味ないと仰ってもここに住まわせてくださるのですから」
「……奥様は、この地に住まうのを恐ろしくは思いませんか?」
「まったく。それより、私のような者が邸に来てごめんなさい。私の方こそ気味が悪いでしょう? それでも何かお手伝いができればと思いますので、どうぞよろしくお願いします」
立ち上がってペコリと頭を下げると、使用人さんたちみんなが慌てていました。
ここの方々はみんな優しいです。
旦那様の、王都での評判が「人嫌いの変人」なら。
私を表すのは「不気味な亡霊」です。
亡霊を妻にと押し付けられた旦那様は、むしろ被害者ですから。
白い結婚の証明。離縁、というか結婚無効の申し立てですね。
「妻」がご不要なら、せめて他でお役に立てないかと探して手をつけたのが領地運営についてです。好きにしていいと仰っていましたし。
女性の教養は歌や詩や手芸ですが、私は政治経済や外国語も学んでいますので少しはわかります。
セサルさんにお仕事できますと訴えて、最初は簡単な書類の整理や計算をさせてもらいました。
社交をされない旦那様が客人をお招きすることはありませんでしたが、それでもたくさんの人が働いている邸と、何より各区にある辺境軍の砦にはたくさんの兵士さんがいます。
これの食糧事情だけでも大変な額ねと概算を出したら、ある日アーロンさんが飛び込んできました。とっても大きな音で扉を開けて大声で呼ばれたので驚きました。印象深い初対面でした。
外からやってきた私にみなさん優しくて、大事なことなのに信頼して任せてくれて。
だから私もそれに応えたいです。
離縁までにはヴァレンティン家に所縁ある方に領地の運営代行をお任せして、旦那様には辺境軍のことに専念していただいて。
「そうしたらようやく、修道女になれますね」
よしと気合を入れた私の背中で、ひゃああああと悲鳴をあげたのはメイドのリサです。
私の専任だと紹介された時に、申し訳ないと同時にそんな方は初めてです嬉しいですと抱きしめてしまったのは恥ずかしい思い出です。
「嫌です! 嫌です奥様! ずっとここにいてください!」
「旦那様が離縁されると仰るのだから……それに私、修道女になるのは幼い頃からの希望で」
「でもでも旦那様に離縁なんかしないずっと傍にいて欲しい! って言わせるために悩殺するために! 今夜出掛けられるんですよね?!」
のうさつ……
亡霊じゃ無理ですね。きっと。
私は改めて正面にある鏡を見つめます。映っているのはぼんやりとした私。
暖炉の灰をかぶったような灰色の髪。
青みがかっているけれどやっぱり灰色の目。
二人いたお姉様方はお母様に似て華やかでとっても綺麗だったけれど、私はどこから見てもぼんやりとしたはっきりしない顔立ちで本当に亡霊みたいです。
そして、私が不気味な亡霊と言われるのは、この灰色の髪。
昼間はほとんどわからないけれど、夜の暗闇でぼうっと浮き上がるように光っています。
そう、光ってるんです。
消えかけた蝋燭の明かりみたいに。
幼い頃は、夜の廊下で私を見かけた使用人が悲鳴をあげるという事態が頻発していました。申し訳ないです。
ぼやぼやしたこの光はどうやら魔力らしいのですが、私自身にたいした魔力はなく、ただ光っているだけで何の役にも立ちません。
お父様もお母様も私を外に出さず隠そうとしていたのですが、亡霊の目撃情報が使用人の口から広まってしまい噂になってしまいました。
モンテス家の亡霊。それが私です。
髪が光るなんて事例は他にはなかったようで、もしや何か特殊なことがあるかも、と王城に召されたのは8歳の頃。この時私は初めて家の外に出ました。
しばらくは城の偉い術師の方が色々調べていましたが、髪から魔力を感じるだけで本当に役立たずだと太鼓判を押されました。この時はちょっと悲しかったです。
ですが稀有な現象であるには違いないので、城で様子をみようとなったらしく、私は王城の一室に住むことになりました。
そんなこんなの王城生活を経てイングレイス領にやってきた私ですが、旦那様と仲良くしたいのは本当です。
旦那様は、見事な昼夜逆転生活をなさっています。
面倒臭そうですが嫌われてはいないようですので、一緒にお食事ですとかせめてご挨拶をと思ったら、日中は寝ていらっしゃるとのこと。
朝が遅い貴族は多いですが、旦那様は夜明けごろにお帰りになって昼に眠り、晩餐が終わるような時間に起き出して仕事へ向かいます。
それはそれはとびっくりしました。
魔物退治が辺境軍の一番のお仕事。夜に活動するものなのかと納得しかけましたが、そんなものは普通交代でするものだとアーロンさんが教えてくれました。
夜に活動するのは旦那様の体質というか魔力の特性らしいです。
旦那様はそれは優秀な術師でいらっしゃいます。
彼一人で魔物の群れなど一掃されてしまうそうです。お強いんですね。それに各区にある砦にもご自身で足を運び、人員配置や装備の確認、自然発生した魔物の様子から次の作戦の検討などすべて的確にこなします。
夜間に、ですが。
邸のことも完全に放り投げているわけではないのですが、旦那様の活動時間が夜中なので他領の貴族との交流はもとより商人との交渉もされません。
なのでセサルさんはじめ使用人の方々が家の中のことをこなし、旦那様に決裁を求めるという形になっていました。
辺境軍での旦那様とアーロンさんのように、昼夜分かれてもお二人で担えるような体制を邸でもできれば理想的です。
家のことと領地のこと、昼のその部分を采配するのは女主人の役目で、けれど旦那様は妻はいらないと仰いました。
まあ亡霊では務まりませんし。
いつか旦那様が傍においてもよいと思える奥様が、邸にいらっしゃる日がくるといいです。それまで、いえ離縁される日まではお役に立たないと。
と、いうわけで。私がんばりますよ。
「こんばんは、旦那様」
挨拶をすると、彼は金色の目玉を落っことしそうなほど見開いて私を見下ろしました。旦那様は背が高いのです。
「……おはよう。…………どうした?」
朝の挨拶とは逆ですね。初めてでちょっと嬉しくなってしまいます。
「アーロンさんに聞きました。今夜のご予定は遠出はせずに近隣の見回りだけだと。近日の警戒区域に向かうこともないので、夜のデートにはぴったりだよと」
「デート」
「はい。お仕事なのは重々承知しております。ですが辺境軍の、旦那様のお仕事を拝見したいのです。ご一緒させてくださいませんか?」
「乗馬服ということは、君一人で馬に乗る気か?」
「早駆けもできますよ。万が一の際は邪魔にならぬよう単騎で逃げられます。ですのでどうかお願いします」
あと、護衛に私の頼もしい黒毛のロペと栗毛のルナもいます。
深々と頭を下げたので旦那様の表情はわかりません。ですがしばらくの沈黙の後で、重い重い溜息が床に落ちました。
「わかった。……わかったから、セサルもリサもそう私を睨むな。威嚇するな。連れて行けばいいんだろう」
了承の言葉にパッと顔を上げてから、ん? と振り返ると、エントランスの階段下からリサが顔を出して「がんばってください!」と手を振ってくれました。
セサルさんに至ってはいつの間にいたのか、いつも通りぱりっとした姿勢で旦那様に外套を渡してました。
それを見たリサが、迷ったけれど、と着丈の短い外套を私に羽織らせてくれます。
「秋の始まりとはいえ、夜に馬で駆けるのは冷えますので。わ、わたしが作ったので不恰好かもしれませんが」
「リサの? 本当に? 嬉しいです!」
きゃーっとリサに抱きついたら、顔の横で「ふふん」と得意げに鼻を鳴らしていたのはなぜでしょう。
あ、作ったものを喜んでくれたら嬉しいですよね、ここは素直に喜んでよかったです。
「羨ましいならそう仰っていいんですよ、坊っちゃま」
「坊っちゃま言うな。そして羨ましくなんてない」
「ほっほう。左様ですか」
旦那様とセサルさんが何か話していたけれどよく聞こえなくて。
お仕事ですからね、もうお時間ですよね、ごめんなさいとリサから離れて振り返ると。
夜に浮かぶ金色が。旦那様の目が。
私を見ていました。
「では行くぞ。——エレナ」
驚愕です。息をするのを忘れました。
旦那様、……私の名前ご存知だったんですね。