第12話:夜の始まり
久々にぐっすり眠ることができた。非常にすっきりした気分で朝を迎えている。
朝7時、こんなにすっきりした目覚めはいつぶりだろう。
きっと、調査レポート作成のプレッシャーから解放されて、眠りの質がぐんっと上がったのだろう。
人間やっぱりこうでなくては。
いつもの日課であるホットコーヒーも、特に美味しく感じる。
朝の落ち着きタイムを30分ほどゆったりとってから、
約束の9時よりも早めの7時半頃に
Maliceへのログインを始める。
ログインしますか?の問にYesと目線を合わせる。
いつも通りリンクが始まり、一瞬の視界のブラックアウトののち、
Maliceの世界を踏みしめる……はずだった。
「な、あれ、ブラックアウトのまま……。」
いつもであれば、ほんの0.1秒程度だが、
もうすでに10秒以上続いている。
すると、雑音とともにかすかな声が聞こえる。
「……イヒツの…リで…ア…ましょう……」
な、なんだ?かすかな声が……。
静謐の森で会いましょう……って言ったのか?
返事をする直前、正常にログインされはじまりの町に降り立った。
なんだったんだ今のは。
なんだか、嫌な予感がする。
ひとまず、ヨシカワとシバサキ、アイリに報告しておこう。
はじまりの街に降り立ってすぐ、
3人のグループに同時にチャットを送信する。
するとヨシカワからすぐに返事が返ってくる。
『ジュンさん、バックアップとモニタリングは強化しておきますので、当初の予定通り、ひとまず静謐の森へ向かってもらえますか。仮にMalice関連だったとしてもアイリさんがいるので大丈夫だと思います。』
まぁ、そう言うだろうとはおもったが…。
ジュンはすぐに、了解しました、とチャットで返答し、
いったん今後のプランについて整理する。
今日はまずは、9時に馬車に乗り、夜の国へと向かう。
静謐の森はそこから約徒歩10分ほどだ。
今日は本格的に狩りができるだろう。
10時から夕方までがっつりとレベル上げだ。今日で30レベルは固いだろう。
あと1日ほど滞在して夜の国で40レベル程度になったら、
次の適正エリアは心の湖かな。
そこでさらに2日ほど滞在して50レベル、
そしてコロッセウムを迎えるといったところか。
50レベルでコロッセウム決勝か。勝てば伝説だな。
ジュンは、ネット上でコロッセウムでの決勝戦について検索する。
そこには、大鎌使い「ジュン」の名前と、ソードマスターの”アイツ”。
「ユウジ」の名が記載されている。
「ユウジ」とは、このゲームが始まって何度も衝突してきた相手だ。
このゲーム、ギルド同士で戦闘を行うギルド戦も実装されていて、
そこで俺のギルドとユウジのギルドは何度も争い、
勝った負けたを繰り返している。
このコロッセウムの決勝も、ある意味そういった戦いの延長線上にある。
個人同士の戦いではないのだ。
さて、昨日ヨシカワに確認を取ったし、ギルド員にも連絡するか。
今、大鎌使い「ジュン」はコロッセウムに向けて
ROMって集中しているとでも思ってるんだろう。
急にコロッセウムでレベル50の状態で表れてしまっては、
びっくりさせ過ぎてしまうだろうし、一言連絡しておきたい。
チャットアプリ「WIRE」からギルド員グループに連絡する。
『おはようございます。ジュンです。どうもご無沙汰です。コロッセウムを4日後に控えて、少しお話したいことがあります。もしよかったら今日の夜20時ころにはじまりの街の北側で少し話せる人、集まりませんか。』
すぐに1通チャットが返ってくる。
『おお、いきとる。全然返事せんから、死んでおるんかと思ったで。俺はいくで。』
彼は炎を操るジョブ『フレイム・マジシャン』の「フレイム」だ。
なぜか火とか炎が好きでジョブだけではなく
自分の名前にもフレイムとつけたようだ。
昔、火が好きならなんでファイヤーはだめだったのかと聞いたところ、
「ファイヤーじゃ火が少ないやろ。フレイムは炎で火が2つや。強そうやないか」、
と返された記憶がある。
うん、まぁ、そういうことなんだろう。
名前だけでなく、情にも非常に厚いやつで、
休みの日には対魔法職相手のPvPの練習にも
朝から晩まで付き合ってくれた。
魔法職相手の対策が深まったのは彼のおかげだろう。
そしてさらにもう1通返事が返ってくる
『おはよう~。私も行きます。仕事だり~。』
彼女は、リエ。
回復や支援系魔法を得意とする『クレリック』でプレイしている。
ボスダンジョンやギルド戦ではなくてはならない存在だ。
仕事だり~、が口癖である。
とりあえず、告知はしておいた。
できれば、集まりにはソードマスターの「斬る郎」にも来てほしい。
ソードマスター対策は彼にずいぶん世話になった。
「斬る郎」も、ソードマスターのトッププレイヤーとして
活躍しているプレイヤーだ。
彼もコロッセウムにはでていたが、
同じソードマスターで今度の決勝戦の相手である「ユウジ」に敗退している。
自分も何度も戦っているからわかるが、
ユウジはトップ・オブ・トップのソードマスターだ。
敗退は仕方がない。
そんな斬る郎は、同じソードマスターとしてユウジのプレイスタイルを研究し、
多分に取り入れているため、対ユウジ対策として非常に大きな助けになった。
おそらく一番長い間練習に付き合ってくれただろう。
今日の夜の集まりでは、レベルダウンの本当の理由は伏せるとしても、
ダウンしたという事実は伝えておきたい。
さて、とりあえず今日の夜の予定は決まった。
それまでレベル上げだ。そして、今は8時50分か。
なかなかいい時間だ。そろそろ西の馬車乗り場まで向かおう。
乗り場まで向かうと、すでにアイリが馬車を手配して待っていた。
「おはようございます!ジュンさん!」
こんなに愛らしくて、気が利くなんて、反則じゃないか。
心を込めて、おはようございます。




