第11話:決意
アイリにとっては、大切な友人であるユウコが
Maliceで深刻な被害にあったということになる。
しかも、自分の目の前で。
「たぶんなんですけど……ユウコはまだMaliceの中にいるんじゃないかって、そう思うんです。」
「……。」
「私はたまたまログアウトできたけど、ユウコはそのまま意識がゲームの中に囚われたままなんじゃないかって。意識不明なのは、意識だけがログアウトできてない状態なんじゃないかって。」
これがアイリがこのゲームをプレイしている理由か、と悟る。
突然のMaliceとの遭遇で、同じ場にいた自分ではなく友人が被害者となってしまった。
もし私がもっと早く洞窟探索ができていたら、あの時無理に押し切ってでも
一緒に探索をすべきだった、と後悔しているのかもしれない。
アイリのせいではないにもかかわらずここまで自責の念に駆られているアイリを気の毒に思った。
「とても……残念に思います。僕たちが助かっているのは、ただ幸運であっただけですね。」
「はい、本当にそう思います。」
アイリの話を聞いて非常に不思議なのは、1人目が死亡者だった一方で、
2人目の被害者であるユウコが意識不明であるということだ。
ヨシカワの説明では、Maliceに接触されると脳に過大な負荷がかかることに伴って、
身体機能も麻痺してしまう、とのことだったが、二人の違いはなんだったのだろうか。
「意識不明ではありますが、ユウコさんは生きているのは不幸中の幸いでした。ヨシカワさんによれば、1人目の被害者はなくなってしまったんですもんね。」
「ユウコは、運よくご両親に助けられたみたいです。3か月前に脳の機能が麻痺してからずっと、病院で生命維持のための処置を受けています。」
なるほど。外部から適切に処置すれば、生命は維持できるということか。
少しは救いがあるようだ。1人目の被害者には同情をせざるを得ないが。
一方、アイリの話からは能力を目覚めさせる方法について
特段のヒントは得られなかった。
アイリには元から備わっていたようだが、
自分がレベル1となってログイン2日目が経過しても変わったことは何もない。
やっぱり、レベル上げをしながらもう少し様子を見てみる必要があるか、
と心の中でつぶやく。
現在のレベルは20。まずは6日後のコロッセウムまでにレベルを上げられるだけあげるのだ。
なんていったって、次の相手は、”アイツ”だからな。
アイツの動きは徹底的に研究したが、レベルが下がった状態ではどうなるか…。
レベルが同じでも五分五分の戦いになるだろうに。
考えて居ても仕方がない。
さらなる被害者を増やさないためにも、コロッセウムで勝利を得るためにも、
時間を無駄にせず次のエリアに移動するのみだ。
「事情はよくわかりました。まず僕たちにできることは、ユウコさんを救い、これ以上被害者を増やさないためにも、レベルを上げることですね。……まぁ、まずは私がアイリさんに追いつかなければなりませんが。」
「はい。」
改めて決心したような声で一間おいてアイリはつぶやく。
「ユウコ、待っててね。必ず助けるから。」
ひとしきり「のっそりマッシュ」を刈り、おそらくゲーム史上最速で20レベルを達成しただろうという確信を持ちながら、ギルド『レイブン』―――別名KoKoRo Entertainment調査部に立ち寄った。
そこで20レベル用の一般的な防具を調達しがてら、
現状を部長のヨシカワとメンバーのシバサキに報告した。
シバサキはあまりのレベル上げの高速さに驚き声を失っている一方、
ヨシカワは「さすがジュンさんですわ!」と
いつものなれなれしい一言でジュンを褒めたたえた。
特に能力が目覚める前兆がないこと、このままレベル上げを継続し、
6日後のコロッセウムに出ようと思っていること。そして、
その時には現在のアイリと同じ50レベルになることができるだろうと報告した。
部長のヨシカワからは、
「特段問題ありませんな!このままよろしくお願いしますよ!!」との返答だった。
能力が目覚めについて、そこまでせかすつもりもないようだ。
シバサキからは、「レベルが上がるのが早すぎませんか?」ともっともな質問を受けたが、それについてはアイリが、「信じられないかもしれませんが、2時間で300体近くののっそりマッシュを倒してました。全てクリティカルヒットで。」と答え、シバサキは愕然としていた。
ふふ。これがトッププレイヤーのプレイヤースキルですよ。
あとは、転籍の手続きも済ませた。これが大変に楽だった。
シバサキが用意した退職願にサインをしただけ。
あとはKoKoRo Entertainmentがよしなにやってくれるようだ。
これで、晴れてKoKoRo Entertainmentの一員として
<Malice>の世界を一日中楽しめるわけだ。
もちろん、重大な使命を帯びていることは忘れていない。
そうそう、もう一つ。ヨシカワからは、Maliceのことについては一切触れなければ、
過去のゲームの友人とのコンタクトも可能との了解を得た。
明日ログインしたら、ギルドの連中にコンタクトしよう。
レベルがダウンしたことは……縛りプレイとでも説明しておくか。
夕方5時ころに狩りを終えて、レイブンにもどったのが6時頃。
報告や手続きなどもおこなっていつの間にか夜の9時になってしまった。
今日はとりあえず休み、明日の夜の国での狩りに備えよう。
狩りの後も夜遅くまでKoKoRo Entertainment内での行動を
共にしてくれたアイリに別れを告げに、調査部のアイリのデスクに向かう。
「アイリさん。」
「あ、ジュンさん。本日はお疲れ様でした。」
こちらに気づいて椅子から立ち上がり、ぺこりと可愛くお辞儀をするアイリ。愛らしい。
これからこの子と行動を共にするのか。ああ、たまらん。
早く能力を目覚めさせて、アイリを助けたり助けられたりして、
そのうちに恋愛感情なんかも目覚めちゃったりして、
リアルの場でもデートしましょうとか、
そういう話になったりなんかして…。
「ジュンさん?」
「はっ。」
「時折、突然ぼーっとしますよね。ジュンさん。」
くすくすと笑いながら自分の恥ずかしい癖を指摘するアイリ。
あなたのせいです、と心の中でつぶやきながらその場に居直る。
「えーっと……すみません。そして今日はありがとうございました。すみませんが、明日もお付き合いいただければありがたいです。」
「もちろん!明日はどうしますか?」
「明日は、はじまりの町から夜の国まで、30分ほど馬車で移動して夜の国に行きたいと思います。9時ころに西門の馬車乗り場でお会いしましょう。」
「了解です!……なんだか、ユウコと一緒に楽しく冒険していた時のことを思い出します。とても楽しみです。」
ワクワクした気持ちがその表情からあふれ出す。
そんなアイリの愛らしく、美しい一面を見てうれしく思う反面、
この子の悲しい表情はみたくはない。
早く、Malice事件の真相を突き止める、と強く決心を固めた。
「僕も楽しみです。早く、Malice事件の真相を突き止めましょう。」
「はい。」
では、と一言断りログアウトする。
元の体に戻り、軽くのびとストレッチした後、お弁当を買いコンビニへ向く。
その道中、明日から調査レポートの作成に追われなくていいことに心底安堵し、
帰宅後、風呂に入り枕を高くして眠った。
明日もいい一日になりますように。




