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ケモノ道(オリジナル落語)

作者: nora
掲載日:2020/06/13

落語の脚本調で書かせていただきます。


登場人物:()内はセリフ時表示

男(男)

茶屋の婆(婆)

娘1(娘1)

娘2(娘2)


 ―――――――――――――――――――――

 日も落ちかかる刻限に、寂しい山道をゆく男が一人。この男、歳は若いがちょっと髪の方は薄く、ひどく怖がりでその様子から小動物のようにも見えた。今も何もない草むらの、風に揺れるに身をこわばらせ、そろりそろりと歩いていました。今日のうちに山を越え、人里に着けるかと心配をしていると、ちょうど峠に茶店が見えた。これ幸いと駆け込んで縁台にどっかと座り奥に声をかける。


男「おい、客だ。すまないが茶をくれないか?おい、おーい」


 呼んでも返事がない。気味悪く思っていると


婆「…へ~い」

男「お!なんだばあさんいたのか?!驚いたじゃねえか、急に後ろに立つなよ!」

婆「これはどうもすいません」

男「日が傾いてきて寒くなった。茶を一杯もらいてえ」

婆「へ~い、少々待ってくれ…」


 そう言って奥に上がっていったが一向にばあさん出てこない。


男「おい、茶はまだか?おい、日が暮れる、暮れちまうよ。いやだなぁ、怖えなぁ。茶店なんかよらなきゃよかったか」

婆「はいはい、お待たせしました。どうぞおあがりを」

男「茶ぁくれえは早く出してもらわなきゃ困るよ。ほらもう日が暮れる。なあばあさん、今日んところはここに泊めちゃあくれないか?」

婆「馬鹿言っちゃいけませんよ、あんた、女の一人住まいに」

男「女じゃなくてばばあだろ。じゃあ、どうだ、ここらに泊まれそうなところはないか?」

婆「泊まれそうなところかい?急げば麓の宿場まで行けそうだけどね」

男「俺は怖がりなんだよ、もうここで泊まっていきてえくらいなんだ。な、頼むよなにかねえか?」

婆「あぁ、そうするとね、これ、この宿場までの下り道。途中に『マンボ寺』っちゅう大きな寺がある」

男「なんだい『マンボ寺』?えらく陽気そうな寺だね?そこで泊めてくれそうなのか?」

婆「いやあ名は体を表すってね、万の墓の寺と書いてマンボ寺だ。もう坊主が一人もいねえボロ寺だが、屋根くらいはあるで」

男「嫌な名前だね!万の墓でマンボ寺!聞かなきゃよかった!そんなところにゃ泊まれねえや、これはもうさっさと出るしかねえな。ばあさん、提灯とろうそくを貸してくれ」


 男が立ち上がり、提灯ろうそくを茶屋のばあさんからひったくると、駆け出していこうとする


婆「いや、お前さんちょっと待たれ」

男「おい、ばあさん止めるな急ぎたいんだ。それとも泊めてくれる気になったか?」

婆「それはできねえが、お前さんにひとつ教えねばならねえことがある」

男「なんだい」

婆「ここらにはな、最近悪いタヌキが出るようになってな、よく旅人を惑わす」

男「あんたがタヌキじゃないかと思えてきたよ」

婆「でな、そのタヌキを追い払うまじないがあるんだよ。旅の行者様から聞いたありがたいおまじないだ。いいか、よく聞くんだぞ?『オーレーハ・ケモナーダー』こう言うんだ。これを聞くとタヌキは怖がって逃げていく、ってはなしだよ。どうもその言葉に身の危険を感じるのだとかねぇ」

男「俺はケモナー?唐土の言葉か?どんな意味かは分からんが、それがタヌキを追っ払うんだな?」

婆「へぇ、そういいます。それではくれぐれもお気をつけて」


 男が茶店を発ってしばらく行きますと、身をかがめた人影が一つ


男「う?おう!びっくりしたぁ、なんだ人か。女人だな。おい、娘さん娘さんどうした?」

娘1「はい…旅のお方。さっきから持病の癪が…」

男「あぁよしよし、さすってやろう。ここか」


 男が腰のあたりをさすってやると、なにか柔らかなふくらみがあるが尻ではない。よく見ると娘の頭の上にもちょこんと出っ張るものがある。よくよく見れば目元は黒く、鼻先はこう、ツンと出ていた。


男「これは、尻尾と耳か?するとさしずめ着物は八畳敷きの、胸の二つは金じゃねえのか?ははぁ、これがくだんのタヌキのやつで、娘の姿で俺を化かそうっていうんだな?下手な化け方しやがって」

娘1「あぁ、旦那様おかげさまで楽になりました。このお礼は…」

男「いやいや礼などいらぬ」

娘1「そうはいきません、せめてお名前だけ、お名前だけでも」

男「おう、そうか?俺か?『オーレーハ・ケモナーダー』!」


 娘はギャーっ!と叫ぶとくるりとタヌキの姿に転じてやぶの中に消えていった。


男「はははは!タヌキ!もう出て来るなよ!いやあ愉快愉快、こんなに効くまじないとはなぁ。タヌキの奴慌てて逃げていきやがった」


 こんなことがありまして、首尾よくタヌキを追い払い、男は少し気を大きくしてまた道を進みます。すっかり日が暮れて、提灯に明かりをともして歩いておりますと、その明かりの先にぼうっと浮かび上がるものが。


男「うおっ!あっ!人かあ。女人だ」


 うずくまっていたのはふくよかないい女。見たところ尻尾も耳もありません。


男「この野郎、またタヌキか?今度はよーく化けたね。尻尾は出さねえってか?でも二度も姿を見せるなんざ獣の浅ましいところだな、すぐに追っ払ってやらあ」

娘2「旦那さん、よく通りかかってくれました。実は足をくじいて…」

男「『オーレーハ・ケモナーダー』!」

娘2「はい?」

男「『オーレーハ・ケモナーダー』!ってんだ!さあどうだ?!」

娘2「ケモナさま、でいらっしゃいますか?どんな字を書くか見当もつきませんが」

男「え?まじないが効かないってーと、タヌキじゃねえのか?」

娘2「なにかおっしゃいました?」

男「いや、なんでも。足をくじいたんですって?それは難儀だ。背負って差し上げましょう」

娘2「まあご親切に」


 男は提灯をこの女に持たせ、女をおぶります。自然、両の手は女の尻を抱える形になり…


男「尻尾は…ねぇな、背中に当たるのが金じゃねえと信じてえ」

娘2「なにか?」

男「いやいやなんでもねえ」

娘2「あ、旦那様、そこ、そこにお家がありますよ。そこで泊めてもらいませんか?」

男「おう、そうか、これはありがてえ。すみません、夜分すみません!どなたかいらっしゃいますか?いらっしゃらないんでしたら勝手にお邪魔しますよ!」


 返事がないから戸を開けてみると、家人の姿はない。しばらく人の住んでいたような気配もないが、部屋にはちょっときれいな布団が一組。ちょうど一組だけ敷いてありました。


男「ありがてえな、布団も使わせてもらいましょう。ほら、娘さん、そこへ。降ろしますよ。よっと。え?俺ですか?いや、布団は娘さんあんたが使いなさい。お前さまも入ってきなさいって?いやいや、俺はそこの板の上で結構」

娘2「そんなことおっしゃらずに、恩人ですから」

男「いや、あ、いけません、いけません」

娘2「そんなことおっしゃらずに…」


 女が妙な色気を発します。


男「…待てよ、なんかどうにも話がうますぎないか?俺ぁこの髪の薄くなってから女にもてたおぼえなんざねえんだ。…そうだ、もう一度言ってみるか…『オーレーハ・ケモナーダー』!」

娘2「それはもう聞きました」

男「『オーレーハ・ケモナーダー』!」

娘2「…うれしい」

男「今なんて?」

娘2「いえ、なにも」


 そのまま一つの布団を二人で使って夜が更けます。朝方に男が小用を足そうと目を覚ましました


男「う、おおお、なんか寒いな。隙間っ風か?そんなにボロ屋だったか?いやそれにしてもだ。布団もどこに行った…あっ!」


 横で寝ていた女はメスダヌキ、家は粗末なお寺のお堂になって、外を見やれば幾千ともいう墓石がずらり。おう、なんだこのタヌキは!ってーと、眠りこけてたタヌキもあわてて逃げていった。


男「これが…茶店のばばあの言ってたマンボ寺か!?」


 振り返り、枕をみればしゃれこうべ。そんなところで一晩と考えると背筋にぞぞぞっと冷たいものが走って、体がガタガタと震えてきます。その恐怖から髪の色は抜けて真っ白になり、端からはらりはらりと抜け落ちて、ついには一本も無くなった。


男「あの女…ちょっと、いやだいぶ毛深いとは思ったがタヌキだったのか…いや、ぽっちゃりとしたいい女ではあったが…あぁ、いい女だった…愛嬌のある顔したいい女だった…」


 先刻はひどく驚かされたが、昨夜のことを思い出し、何もひどい目にあわされたわけじゃあないと思いなおす。息をついた後、禿げあがった頭を抱えて、一思案。


男「しかたねぇ、毛もなぁなっちまったんだ、ここの坊主にでもなるか」


 一方タヌキの方は一晩の契りでお腹がポンポコリン。たびたびこのお寺に子供の顔を見せに来るそうです。


 ケモノ道というおはなしでございました。

登場人物などは前書きで書けばいいんだな、と気づきました。


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