紫陽花(秘書編)
観月さんが連載中の『習作・短編の部屋』45話(花言葉ものがたりより「紫陽花」)において、ボクがリクエストした“紫陽花”で一話書いてくださいました。そのお返しに書いたコラボ作品になります。
いつかこうなるのではないかと覚悟はしていた。
私と一緒に居ても彼女は周りに居る他の男にばかり注意を払っていた。まるで、掘り出し物を物色しているかのように。それでも私にとって彼女は他のどんな女性よりも愛おしかった。
突然だった。
「私、彼と結婚することにしたわ」
彼女の言う“彼”とは私が秘書として仕える会社の社長。同時に親友でもある男だった。
彼女とは彼女がまだメイドカフェなどと言うところで働いている頃に知り合った。私は一目で彼女を気に入り毎日その店に通った。彼女が欲するものは何でも買い与えた。彼女はたちまち私のものになった。
いつものように私は彼女と二人で飲んでいた。たまたま居合わせた“彼”は彼女の目を引くには十分な存在だった。
私が席を立った隙に彼女は彼と連絡先を交換していた。それから私に内緒で二人は密会を重ねた。そして、彼女は彼と結婚することを決めたのだ。
「彼の地位と金に目がくらんだか」
私の言葉に悪びれることなく彼女は笑った。
「悪い?」
私は苦笑し席を立った。
昔の男がいつも彼の傍に居る。そんなことなど意に介さず彼女は演技を続けた。そんな彼女が今日は紫陽花のネイルをしている。
「素敵なネイルですね」
「紫陽花よ。きれいでしょう。私の大好きな花なの」
突き出された手に私は唇を寄せた。彼女を愛おしく思う気持ちは今でも変わらない。
「たしかにあなたにぴったりですね。移り気、浮気…そして毒がある」
彼女はにっこり微笑んでその場を後にする。一度毒に侵された人間が決して彼女を手放しはしないことを彼女は知っている。