4.海パンの中の密室
実験用ガラス器具の多くは、ホウケイ酸ガラスでできている。
ハワイの深夜、俺は彼を自室に呼び出した…彼こそが包茎。ズル剥けの皮をかぶった包茎野郎なのである。
「お前は包茎だな?」
「……こんな夜更けに、何を言うかと思えば」
「誤魔化しは無駄だ」
「しかし鷺海さん。もう昼の海水浴を忘却したんですか?
僕の海パンを脱がして『あそこ』をはっきり見たでしょう?そのとき、僕の『あそこ』は剥けてませんでしたか?」
「剥けてたよ」
「じゃあなんで…」
彼は迷惑そうに眉を八の字にゆがめた。まだしらばっくれる気か?
「俺は全員のちんぽを見た」
「鷺海さんは『ちんこ』じゃなくて『ちんぽ』派なんですか?」
『あそこ』と呼ぶより男らしいだろうが。
「俺が脱がした四人全員、ちんぽは剥けていた」
「だったら」
「しかしその中で一人だけ、ちんぽを剥くことができた人間がいる。包茎でありながら、それを隠すために皮を剥くことが出来た人物。それがお前だ」
右の人差し指で彼を指す。
「神立大河。包茎はお前だ」
「呆れました。僕が包茎なんて。なんなら今見せても構いませんよ」
馬鹿馬鹿しい。鍛えられた包茎野郎ならパンツを脱ぎつつちんぽの皮を剥くことも可能だ。それを見せられても意味がない。
俺は神立の反論を無視して話を進めた。なぜ彼が包茎と言えるのか。
「俺の奇襲に対し、誰一人としてちんぽを剥くことができなかったはずだ。
竜末さんは時間的余裕がなかった。
獅子蘭は両手を拘束されていた。
神立は両手でジェスチャーをしていたので、両手がふさがっていた。
鮫嵐は両手もふさがっていたし、剥く時間もなかった。
誰もが不可能だった。人差し指と親指を使ってつるんと皮を剥く。その程度の動作ができなかった」
「だから、僕にも無理だったんでしょ?」
俺は大げさにかぶりを振った。
「違う。お前だけが、ちんぽを剥くことができた」
「どうやって」
「いいか。これは一種の不可能状況だ。俺の奇襲に対応できた奴は誰か?全員がまったくの不意打ちか両手を使えなかった状況で、誰がちんぽを剥くことができたのか?」
いわば密室だ。海パンの中の密室。俺が海パンを脱がしにかかりそれが完了するまで、誰一人として、その中に手を突っ込めた奴はいなかった。
「今さらだが、俺は包茎だ。
だからこそ、誤認させられていた。
誰が海パンの中に手を入れられたか?そう考えたからいけなかったのだ」
「…それのどこが誤認なんです?」
「いいか。問題の本質は海パンの中にどうやって手を入れたかではない。
皮をどう剥いたか、それが一番重要だったんだ」
俺は包茎ちんぽが誰かを求めた。だからこの問題の本質は『誰が包茎ちんぽを剥くことができたのか?』だった。
しかし俺は問題文を知らず知らずの内に変えてしまった。
『誰が剥くことができたのか?』
から。
『誰が手を使って剥いたのか?』
に。つまり、密室の条件が違ったのだ。
本当に考えるべきは『どうやって手で剥いたか?』ではなかった。『どうやって剥いたか?』を考えるべきだったのだ。
「繰り返すが、俺は包茎だ。包茎は様々な場所で皮を剥く。見栄を張るために。行為の前、温泉の前、至る所で皮を剥く必要がある」
「大変ですね」
「だからつい勘違いしてしまった。
皮を剥くのなら、当然、手を使って剥いたに決まっていると考えてしまったんだ」
人差し指と親指。それでつるんと皮を剥く。何度も繰り返してきた、何度も経験した、包茎の習慣。それが邪魔したのだ。
「皮を剥くのに手を使う必要はない。
勃起させればいいんだよ。
勃起すれば、皮に包まれた亀頭が顔を出す」
真性包茎やかんとん包茎の場合は勃起しても難しいらしいが、仮性包茎ならば、勃起すれば皮が剥ける人もいる。
「後は簡単だ。分かるだろう?」
「……何がですか。勃起させれば良いなら、誰でもできたでしょう」
「いや、ただ勃起するだけでは駄目だ。
前提として…もし海水浴の前に皮を剥いていたとしても、海に入った時点でまた皮を被ったはずだ。寒いとちんぽが縮むからな。
また、海に入ってから俺に海パンを脱がされるまで、皮を剥く積極的な理由はないのだから…つまり、俺に海パンを脱がされると分かってから、実際パンツを脱がされ、ちんぽを目撃されるまでに、勃起する必要がある」
「一瞬ですね」
「そう、一瞬だ。しかし射精するわけではなく勃起するだけならばなんとかなる。
そして、そんな素早く勃起できたのはお前だけだ」
「……なぜですか?」
「お前も男ならよく考えてみろ。
意志の力だけで勃起するのは難しい。しかし、あるモノがあれば勃起を助けられる。
おかずだよ。
ここで、パンツを脱がされた際の、四人の状況を思い出してほしい。
竜末さんは、『周囲に二人以外誰もいない場所』で脱がされた。おかずはない。
根田は『遠く水平線をぼんやり見つめて』いた。一瞬でおかずを探すのは不可能。
鮫嵐は『目線を上に青空を眺めていた』。おかずを探すのはやはり不可能。
しかし神立だけは違った。
お前は女性をナンパしていた。おかずはその女性。お前は咄嗟にナンパ中の女性を凝視することで、すぐさま勃起できたんだ」
手を使えないなら勃起させればいい。そして一瞬で勃起できたのは神立だけ。
我ながら筋が通っている。これで、包茎野郎の正体、俺の仲間が誰かを、当てられた。
俺が幸福感に浸っていると、目の前の神立は、突然ズボンとパンツを脱いだ。
彼はズル剥けちんぽだった。
しかしそれだけではズル剥けの証明にはならない。今パンツを脱いだと同時に皮を剥いたのかもしれない。俺がそう指摘すると…
手を自らの股間の前に持っていき。
そしてさすりはじめた。
おいおい。確かに俺たちは包茎仲間だが俺にそっちの趣味はないぞ…
俺はあせりはじめたが…数秒後、そのあせりは、別物へと変わった。
「どうですか、これが僕の勃起です」
彼のちんぽは勃起していた。
それは、巨大だった。太さはそれほどでもないが、長い。二十センチぐらいか?俺の通常時の七倍弱。勃起時の三倍以上ある。
「これが証明です。分かりましたか?」
…彼の勃起ちんぽは巨大。とても巨大。
俺は、彼の海パンを脱がせた時を思い出す。
彼の海パンは、『スムーズに』脱がせた。しかし、もし勃起していたとしたら…その長さに、海パンは引っ掛かる。もし勃起していて、それを脱がそうとしたのなら、確実にちんぽに海パンがひっかかり、脱がせるのも難しいだろう。
つまりあの時、神立のちんぽは勃起しておらず、通常時のままだった。よって、勃起させて皮を剥いた可能性はゼロ…
海パンを完全に脱がされてから勃起した?いや、俺は海パンを脱がせてからすぐ前に回って彼のちんぽを見たのだ。いくら目の前に女性がいたからといって、それほど急激に勃起させるのは無理だろう。最低でも、俺が海パンに手をかけた瞬間から勃起を始めなければ皮を剥くのに間に合わない…そして、もしそのタイミングで勃起を始めたのだとしたら、このちんぽのサイズだ。海パンを『スムーズに』脱がせるのは、やはり不可能…
こんなに巨根なんて…最大の実証。不可能の証明。
こいつは包茎じゃなかったのか?
疑問を持ったとき…
もう一つの可能性を思いついた。




