七行詩 591.~600.
『七行詩』
591.
音楽は 貴方に向かって手を伸ばし
一瞬の輝きを持っては
失われゆく 言葉です
それは果てしのないもので
形はなくとも ある日は頼らざるを得ない
私はその音楽と 貴方のために祈ります
形のないものを掴むために 私はこの身を捧げます
592.
もしも 沈みゆく船に 乗り合わせ
全ての人が 眠っていたなら
私は 貴方のことだけでも
連れて海へと 身を投げるでしょう
守られなければならない未来が
腕の中で 呼吸を続ける限り
その寝顔を 私に預けてくれる限り
593.
約束なんて したことはない
ただ当然のように 同じ輪の中で
幸福に守られながら生き
守るために生きてくれて
ありがとう 私の声が聞こえますか
私は 今までもらった 幸福を守るために生き
誰かの手のひらへ 優しさを伝えてゆくでしょう
594.
この夜空に届かぬ 光であったり
木星に吹き荒れる 嵐であったり
光の差さぬ 海の深くであったりと
本当の孤独は 果てしのないものですが
心を持ち 記憶を持って生まれた私は
いつでも貴方を 想い描くことができる
これを幸福と 呼ばずには居られないのです
595.
食卓は キャンドルの灯りだけ
ベンチは 外灯の明かりだけ
そこに貴方は来なくても
待つ喜びとともに待ち
祈る喜びとともに 祈るでしょう
誰にも知られることのない
表情を一人 浮かべながら
596.
記憶の砂浜に流れ着く
瓶に詰められた 地図を開けば
それは一体いつの地図で その頃見えた風景は
今もどこかで見られますか
それとも変わってしまったのですか
誰かが誰かと 歩く筈だった道のりを
私は一人 順に辿ることにしましょう
597.
いいことがあった日にも
悪いことがあった日にも
すぐに報告したくなる
心の窓の すぐ傍に居る 貴方のもとへ
私は駆け寄り 声になるままに 話すのです
言葉を分かって欲しいとは思わない
伝えたいという 気持ちだけ 伝われば良いのです
598.
どうして貴方は優しいのでしょう
私には 気づけぬほどに 深くまで
私の知らぬ道を歩いて
貴方が得たものを見せてくれた
いつか貴方にも 返せるように
卒業写真の中だけでも
片時も 離れることはありませんように
599.
私には何ができるのか
長く 私の傍で待ってください
必ず 貴方には見せましょう
私が生きて 何を残すのか
貴方から得たものが 何だったのか
他の誰もが 知らないままでも
この町で起きた奇跡を 私の目から描くのです
600.
一番遠い星こそが 貴方だと もしいうならば
私のもとまで届く光は
どれほど強いものなのでしょうか
塵は 河になろうとしている
鳥は 私に背を差し出し その河を渡そうとしている
私はもう 無限に迫る その距離に
踏み出すことを ためらわないでしょう