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よろしくお願いします

吹雪の日から一夜。

打って変わって天気は快晴。

押しかけた勢いで一泊させてもらい、現在リビングダイニングの役割をしている一室で師匠と朝食をとっている。

2人で使うのにちょうど良い長さの長方形の机は椅子と同色のダークブラウン。

使い込まれたそれらはよく磨かれていて持ち主が物を長く大切に扱う性格であることがわかる。

足元には座布団より一回り程小さいシルバーグレーのタイルが敷き詰めてあり、ともすれば冷たく感じるハズが魔法がかけられているのかじんわり暖かく居心地が良い。

向かい合わせで座れば真横にある白亜の壁にはめ込まれた木枠のガラス窓から差し込む朝日が朝食を照らす。

元の世界とあまり変わらない食材が多く存在するので料理も馴染みのあるものが多い。

クリーム色のランチョンマットに焼きごてで白丁花に似た小さな花が焼き付けられていてる木の器には、フランスパンもどきとコンソメ野菜スープもどき。

味も香りもフランスパンとコンソメ野菜スープでとても美味しい。

最後にパンに添えてあった見た目、プラムっぽい果実を手に取る。


「師匠、確かこれめちゃくちゃ酸っぱいやつですよね?」

「ええ、そうよ。疲労回復効果のある、騎士達がよく食べるのでおなじみのやつよ」

「‥‥いただきます」

「なによーう、その苦手ですーって顔。あんた好きじゃなかった?2年前しょっちゅう皮剥いてたじゃない」


頬杖付いてむくれる師匠は今日もマキシ丈の黒いローブを着ている。

対する私は白いボウタイブラウスにカーキ色のフレアスカート、ミモレ丈。

女性もののそれらは私が着こなせるサイズ。


なんだか秋みたいな格好、とゆーかなんでこんな服を師匠が持ってるの‥‥?着るんですか!?女装ですか!?ご趣味ですか!?


思わず師匠の女装姿を想像してしまい慌てて手元の果実に視線を戻す。


べつに好物で剥いていたわけじゃない。

ウォルターさんがよく食べてたから、ただそれだけ。

きっとあの人は私が魔法の練習の為に剥いてるって思ってただろう。

なんの役にも立たない魔法だったけど少しでも私の魔法でウォルターさんに何かしてあげたかったんだ‥‥当時の!私は!ですけど!


「‥心境のが変化がありまして。それと師匠、あとで外套貸してください。久々に色々と見て回りたいです」

「変化、ねぇ‥‥。外套なら後で買ってきてあげるから少し待ってなさい。」

「え、なんか悪いです」


昨日から身の回りの世話もしてもらいさすがに気が引ける。


「いーのよ、あんたのお陰で結構儲かってるし」


私のおかげ?

確か師匠は魔法の講師をしてたはず。


「お仕事解雇されて、新しい商売でも始めたんですか?」

「身もふたもないわね‥‥。でも半分当たり、半分外れ。講師は続けてるけど新しい商売も始めたのよ」


そういえば入り口入ってすぐの部屋が雑貨屋っぽくなってたよーな気が‥‥、後でのぞいて見よう。


「例えばこれ、監視ドラゴンちゃん」


考え事をしていると話が先に進んでいて慌てて説明をする師匠の指差した先を見る。

真横にある窓台に2頭身の白いドラゴンのぬいぐるみが鎮座していた。瞳のビー玉大の石も白い。

テニスボール2個程の高さ幅のそれは大きい頭で重心がブレないようにか、ぽっちゃりとしたお腹をしており何とも愛らしい。


「これはあんたの世界にあるボウハンカメラからイスンピレーションを受けて作ったものよ」


防犯カメラ?水晶にドラゴンが見た映像でも再生できるのだろうか?


「留守宅に不審者が侵入した場合‥‥」


ふむふむ。


「目玉の石が赤く発光。全身が黒く染まるわ」


ふむふむ。


「そしてお腹に内蔵されているナイフが四肢から飛び出して‥‥」


ふむふ‥‥ん?


「不審者まで突進、襲撃。」


まてまて‥


「賊が手練れの場合は頭部に内蔵した強力な催涙効果のある煙玉が破裂して自爆‥「ちょっとまてぇぇい!!」


ダァン!と机に両手をつき立ち上がる。

どうか全て聞き間違いであってほしい。


「な、何ですかそれ‥‥魔物討伐にでも使うんですか?」

「もーう!聞いてなかったの?家庭用防犯グッツよ!」

「どこの世界にそんな物騒な防犯グッツがあるかぁぁ!とゆーかこの世界にありますけど!インスピレーションってかすりもしてないじゃないですかぁぁ!!」

「あくまでもインスピレーションよ」


しらっと答える師匠に慣れないツッコミに疲れて椅子に座りなおす。


「これが売れてるのよねぇ、まだ他の商品もあるけど見る?」

「‥‥後にします」


ワクワクし始めた様子の師匠に力なく答えながら朝食を再開した。


「じぁあ、久々のこの世界のことを復習しましょうか」


何もなかったかのように話題を変える師匠に、動く狂気のぬいぐるみから気持ち身体をずらして頷き、2年ぶりの世界とこの国について話し出した。



ここはセルニア王国、王都カロン。

日本とそう変わりない気候で今は冬。

魔法が存在し使える人、そうじゃない人が存在する、魔力があれば使える。

言葉は通じるし話せるけど文字は分からず、学習中。


指折り数えて覚えていることを話す。


「あとはー‥‥あ、魔導師は嘘あんまりつかない方がいい」

「そうね、極力避けた方が賢明よ」


魔術師は呪文で魔法を扱う。

言葉に力が宿っていると考えられ、虚言は巡り巡って己に災いをもたらすものと長い歴史の中で学ばれている。


「花音も魔力持ちである以上、言葉には気をつけなさい」


はい。と短く返事をし、他にいくつかこの世界について確認したあと一番大切なことを切り出した。


「私、いつ戻れますか?」

「正確には答えられないけど2年程かしら」

「結構長いんですね」

「これに魔力が貯まるまでの辛抱よ」


これ、と取り出されたのは多方面にカットが入った卓球ボール程の大きさの透明な球体。

見た目完全にサンキャッチャーなそれは魔力を貯めておくことが出来る優れもの。

大掛かりな魔法を使うときによく使われる。

そういえば2年前強制送還された時も魔法陣の周りにゴロゴロとたくさん転がってたなぁ。


「‥‥師匠の魔力があればもっと早く魔力貯めれるんじゃないですか?」

「仕事で魔法も使うし、こっちにも都合ってものがあるのよ」


じとっと睨め付けるがパンをかじりながらしれっと返される。


「前回と同様、召喚された当時の姿と日時に帰れるはずだし我慢してちょうだい」


こっちは突然押しかけてお願いしてる身なのでこれ以上強くは出れない。


またこちらの世界で2年過ごすことになるのかとさっさと諦め、私もパンに齧りついた。

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