超二流、野球選手
男は、夢や野心があって、生きている存在であろう。
「……はぁ~……」
ここは四国独立リーグ。プロ野球選手を諦めぬ者達が集った、二流野球選手共が戦う野球の戦場。
その1チーム。徳島インディーズは新監督を迎え、この独立リーグを制覇し、我がチームからプロ野球選手を輩出し、そして、プロ野球界にその名を刻もうという。まさに夢を掴むため、夢を現実にし、その現実からさらに大きな夢へ向かう野球が、そこにはあった。
生活の一つをとっても、自分達のレベルアップへの生活。そんな状況の中、少し自信を無くしている選手がいた。
「俺、プロ野球選手になれるのか」
ネタバレを言おう。お前はできません。
だが、それはお前自身も理解しているだろう。
「どーした、伊倉鱈勝。元気がないぞ」
「野際……監督」
選手である伊倉とそんなに年齢に差がない新監督、野際は彼に声をかけた。
貴重な野球の練習中だというのに、ボーっとしていては良くないことだ。とはいえ、若くても野際には伊倉の考えている事が分かった。
「自分の長所が分からないって顔だな」
「………独立リーグの時点で、俺より野球ができる選手。多いっすから。しかも、自チーム内で」
伊倉の気持ちはよく分かる。
プロ野球ではなくても、何かを争う上で。まず自チーム内の競争に勝てなければ、相手とは戦えない。独立リーグから見れば、プロなんてとんでもない高い壁。
大学野球を終えても、諦め切れずに飛び込んでは見たが、色々と自分の未熟さを知れた。
監督である以上、一選手のケアも仕事である。野際は落ち込んだ伊倉の心を立て直そうと、話を聞いてあげた。
「大学で一番自信のあった足も、大隣や熊本、福山とかと比べたら劣るし」
「そうだな」
「守備にも自信があったけれど、最近加入したバナザードの守備を見たら、俺の外野守備じゃ一生超えられないと気付くし、名神みたいに良いキャッチャーってわけでないし、ジョンソンのようなど派手な内野守備もあるわけじゃないし、鹿埜さんのようなユーティリティじゃないし」
「あー、経験はしょうがねぇが。才能と生まれの差があるな」
「巧打に関しては、巧打と長打を兼ね備えた菊田さんに、最近、大隣も右打者の専念の成果、率が良くなってるし。肩はそこそこでも、強肩じゃないし」
「強肩は多いが、送球難の奴が多いだけなんだが」
「一番自信のない長打力を意識すると、プロにはなれないと自覚できて」
「元々、スラッガータイプじゃねぇから。勝負するな。荒野や奥山、西村とか、向いている奴がやりゃあいい事だ」
年齢を考えたら、伊倉の全盛期と呼べる時代はあと数年がピークだろう。
独立リーグで生き抜くことはとんでもない競争であり、夢の手前どころの話ではないところからやる競争。
伊倉が不安に押し潰されるのも無理はない。
しかし、野際は伊倉の実力を評価していた。
「1番に成れないなんて良くある事だ。んで、人には向き不向きがある」
独立リーグに来る連中の大半は、なんかしらの問題なり、欠点を抱えた連中ばかり。安定している大学、社会人、というルートもある中で来る選手や、自由契約された元プロや外国の選手だって来る
「プロに通用する武器ってのを磨く。これは当然だ。だが、プロで活躍するための武器も必要だ」
「活躍っすか……」
「当たり前だろ!活躍できなかったら、俺達の独立リーグの評価、沽券に関わる!」
野際にとっては、大事な事である。入団する選手の育成ではなく、活躍する選手の育成なのだ。
「伊倉の評価を、短所で率直に言えばだ。超二流!!」
「向かい合って言われると傷つく」
「だが、長所を見れば、超二流の中では穴のない超二流だ」
どんな長所?
「プロ野球で言えば、1.5軍ってとこか?武器ってのはないが、ダメってのがない。走塁は速いし、安定してるし、小技もいける。外野ならどこでもそつなくこなせて、守備範囲と判断は十分過ぎる。送球は安定してる。スタメンでもベンチでも決まった役割をこなしてくれる選手の証拠だ」
確かに。先ほど伊倉が言っていたが、1番に成れる武器は何もないが、全てがダメというわけじゃない。総合的に見れば、伊倉の実力はスタメンに選ばれる選手だろう。
「打撃についてなら、長打力なんか要らん。それより出塁率を貪欲に増やせ。伊倉の場合、インコースをカットできるか、できないかで大分違ってくる」
選手を分析し、長所を伸ばしたり、短所を消したりするべきなのだ。選手には色々なタイプがある。
「俺がチーム方針の大半を守備にしてるのは、チーム全体の荒さが目立つからだ。守備ができないと試合で使えない。打撃はあっても4回。守備は9回もあるしな。伊倉の外野守備はチームの中でも安定してるから、レフトもライトも、センターだって任せられる」
「!お、俺が、ですか」
「当然。だから、やれることだけはやれ。自分のやれることが少ないんだからよ」
超二流、野球選手。
走塁、守備、打撃、いずれもチームで誇れるものではないが、その3つの安定感ならチーム随一かもしれない。伊倉が比べていた選手達の大半は、とんでもなく尖った野球選手達。
プロに通じる武器があっても、他がプロで通じないから、変わった練習なり変わった起用法をとらざるおれない野際監督。伊倉のバランスの良さは、本当に貴重であった。
だから
「長所も短所もないなら、地道にやれ。続けられることも、それが長所って言われるだろ?」
その正解は、結果で分かるものだが