嘘を教える番組
『BS時代劇 立花 登 青春手控え』という番組を見て、感じたことを述べてみたい。
BS時代劇は、最近では珍しい時代劇ドラマを平易に届けてくれていて、毎回楽しい思いをしている。
劇中の所作や小道具、台詞回しなどで首を傾げることは数々あるが、先週放送分は内容が酷かったと思う。
さて、先週放映分の問題部分を整理すると、
舞台は江戸の町、時は江戸時代。
飯屋で働く娘が夜道を急いでいた。
道の片側は掘割、反対側は蔵の壁が続き、人気のない場所だ。
一陣の風が娘の面を打ち、娘は持っていた提燈を落としてしまった。
慌てて家へ急ごうとした娘は、何者かに暗がりへ引き摺り込まれた。
十八歳の娘にふりかかった災難だった。
という設定だった。
この状況では、なにがおきたか容易に想像できる。貧しい想像力に自信をもったのは、次の台詞からも理解いただけるだろう。
「怪我はたいしたことなかった。手足の掠り傷程度だ。だがな……」
娘を診察した医師はそこで気の毒そうに言葉を切り、残酷な出来事を告げた。
「女の一番大切なものを……。嫁にもいけまい」
藤沢周平原作のドラマだが、きっとドラマ化する段階で脚色していることだろう。
そこで、どこに違和感を感じたかだが……
江戸時代の十八歳といえば、早い者なら嫁にいっていた。ということではない。
当時は性におおらかで、性文化ともいうべきものであった。
江戸の町に限ったことではなく、ほぼ全国で行われた習俗だ。
男子は元服を迎える頃、女子は初潮を迎えた頃に洗礼を受け、それからは地域の若衆が管理するのが一般的だった。ましてや舞台は江戸の町だ。
江戸の町は、圧倒的に男が多い社会だった。とてもではないが妻を娶って安穏に暮らすことはできかった。そのために吉原という巨大歓楽街が機能していたのだ。
そして、江戸の町では“夜這い”の風習があった。
夜這いというのは、誰でも勝手に女性の寝所を襲うことではなく、事前了承を取り付けていたそうだ。
そのあたりのことは各自で調べてもらいたいのだが、そのように現代感覚では理解できない習俗があったのだ。
それをドラマに当てはめてみると、十八歳の娘なら、洗礼を受けているだろうこと。そして、武家と違って処女性など重視されていなかったこと。つまり、嫁げないということなどないのだ。
そこから導く結論は、今回放送分は、話として成立しないということだ。
食事のしかたや所作、目明しが十手を所持しているなど、時代考証はどうなっているのだと首をかしげることが多いのだが、そんな瑣末なことには目をつむれても、今回は黙っていられなかった。
外国文化を受け入れる代償として、自国の歴史を捻じ曲げてゆくことはいけないと思う。
自国を最優先にせよということではなく、先祖の生きた記憶を間違えないように伝えてもらいたい。
そして、製作者が手抜きできないように、視聴者が賢くならねばならないと感じた。
番組を見ながらそう思った。