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第1話 勇者の決意

魔王が世界の半分を支配する世界『ル・クトラス』。

数十年前、この世界は人間と魔王軍が互いの領土を求め争っていた。人々は疲弊し、魔王軍が有利かと思われたが、魔王軍の魔物達は、魔物同士での小競り合いから内戦にまで発展し、人間と魔王軍が争うことは少なくなっていた。

そんな中、魔王軍にほど近い場所に位置する、ルベルト王国、ナハト村で、魔王討伐を目指す勇者一行の姿があった。

勇者の名は『アルク・ファティス』。

彼はまだ17歳の青年で、ルベルト王国で初めて、正式に認められた勇者だ。

アルクは休憩中の戦士『デュクス・ローウェン』の元を訪ねていた。

「デュクス、武器の手入れは終わっているか?」

「あぁ、問題ない。それより、お前の方はどうなんだ?ずっとヒュウガと例のあれをやっていただろう?」

デュクスは手入れ済みの武器をアルクに見せながら質問を返した。

「はあぁ・・・、俺の30連敗だ・・・。」

アルクは落ち込んだように返事をしたが、それを見たデュクスは呆れて再び質問を繰り返した。

「いや、俺が聞きたいのは旅の準備が出来ているかってことだ…。まったく、ヒュウガと出会ってからのお前ときたら王に認められた勇者とは思えんな。まぁ、それでもってちゃんと仕事をするからあまり文句は言えんが、この先心配だ…。」

「すまない、だが俺が魔王を倒すためには必要なことなんだ。」

そこに一人の少女が割って入る。彼女の名前は『ミラン・エスタール』。母親は宮廷魔術師、父親はルベルト王国の三大貴族の一人という肩書を持つ。

「やぁやぁ、勇者様、勇者様。ようやくですねぇ、わたしと勇者様の愛の共同作業…。頑張りましょうね!」

「あぁ、そうだな…。頑張ろう。」

アルクは目線をデュクスの方に向けながら返事をした。

「それにしても、わたし、感動しちゃいました。父にあんなことを言うなんて…。わたしって愛されちゃってますか?」

――回想

「魔王を倒すためには、彼女の力が必要なんです!是非、彼女を私に下さい!」

ミランの父ロランは涙をこぼしながら、

「よく言った、勇者殿。そこまで言うなら我が娘、そなたに任せよう。頼むぞ、勇者殿。」と肩に手を添えて去って行く。

――

ミランはデレデレの様子だ。

それを見たデュクスはアルクに耳元で、

「(お前…、彼女の父親に何て言ったんだ…?)」

アルクは小声で、

「いや、普通に勧誘しようとしたんだが、言葉のあやで、その…」

そこへ、辺りの地面を氷結させながら近寄ってくる女性がいた。

彼女の名は『カミラ・ファティス』。王国には『白き魔女』の名前で知れ渡っている。銀髪の魔法使いでアルクの姉である。

勇者一行の中ではこう呼ばれている、『歩く災難(アルクワザワイ)』と。

彼女は一呼吸おいて、

「アル、何があったか知りませんが、この()は何か勘違いしていらっしゃるのかしら?」

「ね、姉さん、姉さんこそ、な、何か勘違いしていませんか!?」

アルクはフリーズしかかっている。そして、ミランは相変わらずお花畑のようだ。


「アル、わたくしの目はごまかせないわよ。わたくしが認めた女性しかお付き合いは許しません。」

ミランを横目にアルクに怒っているカミラ。

ミランはようやく状況に気が付いたのか、

「あら、お姉様、ご機嫌麗しゅう存じます。」


「貴方にまだ、(あね)と呼ばれる筋合いはありませんが、公爵様にお願いされたから、こうして仲間にしてあげてるのよ。」

カミラの足元、後ろの方から先、約10mぐらいが凍り付いている。その凍り付いた先に、もう一人の仲間『ヒロト・ヒュウガ』がいた。彼は両足が氷着いた状態でカミラに向かって叫んだ。

(あね)さーん、ちょっ、簡便してくださいよー!」

彼はルベルト王国の隣国、エフト共和国からの使者である。

「あぁ、ヒュウガさんですか…。これは酷いことをしました。」

カミラが我に返ると、足元の氷結状態が解除された。これほどの魔導士でも魔法の制御が上手く出来ないほど、アルクのことで一杯なのである。

(あね)さんも、熱くなりすぎですよ…。アルクも姉さんをあんまり怒らせるなよ。」

そう言いながら、アルクに対して目配せを送った。それに気が付いたアルクは、

「おっと、そうだ。みんな聞いて欲しい。この先にあるメネスの丘を越えると、魔物たちが棲むラーフ森林が見えるんだが、そこを通らずもっと南にある、神の道を通ろうかと思う。」

それを聞いたカミラは怪訝そうに反応する。

「アル、そこは神聖なる神々しか通れぬ道。魔物共ですらそこは使わないというのに、我ら人間が抜けることは難しいと思いますよ。」

デュクスもあとを追う。

「確かに…、あそこを抜けるのは難しいですね。お前、何か考えがあるのか?」

アルクは民家の裏にある、巨大な道具を指さした。

「あれを使うのさ。」

得意げに続けて答える。

「あれは気球といって、空を飛ぶために使うもので、ヒロトから教えてもらったんだ。あの袋の中を熱すると空を飛ぶ仕組みなんだって。神の道は魔物もいない。だから、地上から攻撃を受けずに、空を通って抜けるのさ。」

ヒロトが割って入る。

「いや、まぁそうなんだけど、それもちょっと2つ問題があって、それをクリアしてからかなぁって…」

「ほう、問題とは?」

デュクスが興味深そうに質問する。それに対して申し訳なさそうに、

「えっと…、1つは空を飛んでいる間、(あね)さんにすっごい弱めのファイヤーボルトを撃ち続けてもらうことですね…」

そういうとカミラがヒロトに対して、

「だいたい察しがついていましたが、ヒュウガさん、本気で言っているのですか?」

気まずそうなヒロトに対してアルクは、

「姉さん、頼む!この作戦は姉さんにかかってるんだ!」

「作戦って…、森をすべて焼き…、いや、まぁ分かりました。仕方ないわね。」

白き魔女もアルクの子犬のような眼には甘かった。

「で…、もう1つの問題は?」

デュクスは自分とは関係無いと思ったのか、すぐに話を切り替えた。

「えっと…、もう1つは船でいう舵が難しいってことですかね…。」

この世界にも船は存在するが、人々の航海技術が乏しいため、外海に出ることは難しく、また目的地にたどり着くことは困難であった。その為、舵が難しいという時点で普通は無理だと思ってしまうほどであった。

「ヒュウガさん、もしかしてそれは魔法が必要なことですか?」

カミラはミランの顔を見ながらヒロトに質問した。ミランも顔を横にふっている。

「えっと…、具体的にはですね、(あね)さんに、すっごい弱めのブラストを進行方向とは逆に撃ってもらえれば…、空いている手で…」

とカミラの顔色を伺いながら答える。

するとカミラは意外にも予想通りといった顔で、

「言いたいことはわかりました。ですが、2極魔法を同時にこなすのは私も疲れます。ここはミランさんに急ぎ風の魔法を習得して頂きましょう。」

ヒロトがその言葉に便乗して、

「それ、いいですね!」

と調子よく答えた。

それに対し当のミランは困惑していた。

「え‘’ーっ!?」

カミラはにっこりと笑ってミランに、

「大丈夫ですよ。自然系の魔法なので治癒の魔法とも相性はいいと思いますし。」

――

こうして神官見習いであるミランが風魔法を習得する日々が始まった。

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