頑張ろう……そう思ったんだ。
その夜は食事を作る余裕はなかった。
正確には気づけば用意されてしまったのである。
「く、シリル様のメイドとして私は、役立たずです」
「えっと、フルール、そういえば忘れているようだから一言言っておこうと思うのだけれど」
くやしがる私にシリルが困ったように笑いながら、
「今日は僕のメイドのフルールとしてではなく、恋人としてきてもらったんだ」
「……あれ?」
「そして今日のフルールは、カタリーナのお友達という意味でも泊まってもらうことになっている」
「えっと……メイドのお仕事は……」
「今日はなしかな」
シリルが告げた言葉に私は衝撃を受けた。
だって今日この日のために、
「お茶に日持ちするお菓子に、メイド服に全部持ってきたのに!」
「どうりで鞄が大きいと思ったよ。お菓子は僕達とメイドたちみんなで食べればいいよ。ここを管理してくれているメイドのケーキも、この地域ならでわで美味しいから楽しんでみたらどうかな?」
「……はい」
私はそれに渋々うなづきながら、鞄からケーキやら何やらを取り出したのだった。
こちらの別荘の管理もしているメイドさんたちにも私のケーキなどは喜ばれた。
しかもシリルの言うようにこの地方ならではの素材を使った料理やデザートは、今まで私が味わったことがないものもあった。
「“リリカルマーキノコ”“エキサイトフーキノコ”“ツブツブミドリの果実”“日陰花”なるほど、こういった食材が……これをアレと合わせて、チョコレートでコーティングして……」
食事の時にこれは何が元になっているのかを随分根掘り葉掘り聞いてしまった。
私が知らない食材で使ってみたいものがたくさんあったのだ。
特にきのこ類には、今まで感じたことのない香りがある。
「これらをお酒で抽出して、エッセンスにして……」
「フルール、真面目なのはいいけれど、今日はこれから明日の準備をしないと」
「あ、そうでした!」
つい忘れてしまいそうになったが、明日はシリルと一緒に“マレー原石”を手に入れる予定なのだ。
そのための準備というか打ち合わせがあるのだ。
そこでシリルが、
「早く相談しよう。アーサーが来る前に」
「アーサー様ですか?」
「今は眠っているから静かでいいが、アルベルク以上に面倒くさい相手なんだ」
「そうだったのですか……分かりましした。シリル様の負担が少しでも減るよう、私は頑張りますね!」
笑顔で告げた私だが、何故かシリルは苦笑いしている。
どうしてだろうと私が思いつつシリルに連れられてカタリーナのいる場所に向かうと、
「あら、来たわね。これがその原石が採れる鉱山よ」
「ここですか?」
紙にはおおまかな場所しか書かれていないが、一応は登山道が有るらしい。
何でも地元の人がキノコなどを取りに行くのに使う道だそうだ。
また上の方には微弱だが治癒の効果のある湧き水もでているそうで、それを求めてそこそこ大勢の人がやってくるらしい。
「今は観光シーズンではないから人が少ないけれど、普段はもっとこの村は賑わうのよね」
「そうだったんですか。でもそんなに観光の人が多いと、“マレー原石”はなくなってしまうのでは?」
「ああ、フルールはあの山が魔力の強い山だって知らないのね」
「? そうなのですか?」
「ええ、だから日々どんな大きさかは違いはあるけれど、作られているの。だから特に今みたいに人が少ない時期は狙いめなのよ」
「そうなのですか」
「というわけで、これが石を見つける特殊な灯りを放つランタン。これで探すのよ」
「お借りします」
「ええ。そして私はアルベルクと二人で、シリルとフルールは別に行くことになっているから時間を少しずらしてね」
「え、ええ!」
そこでカタリーナが更に面白そうに笑って、
「二人っきりのデートもこれは兼ねているの。少しくらいは、甘い出来事も有るんじゃない?」
「そ、そうでしょうか……そうですね、私、頑張ります!」
「ええ、頑張ってね」
そんな会話をしてその日は部屋に戻り就寝した私。
シリルとの二人きりなのが楽しみだった。
けれどそんな甘い予感は次の日、ぶち壊されることになる。




